安体落死

 于禁という男が曹操の元に加わったのは、黄巾党の残党狩りの最中に鮑信が死んだ後であった。それは両陣営の兵士たちの死体がよく見える戦場であり、よく積み上がっていた。この辺りには鉄と死の匂いで充満している。上を見れば、広い空があるというのに。
 そして于禁という男はとても大きく、自身でも見上げてしまうくらいであった。夏侯淵も同様である。なので視界には、于禁の後ろに死体の山が見える。絶望するかのような背景であるが、どうしてなのか戦場を見事に駆け抜けた武人にも思えてくるのだ。実際にそうなのだが、とにかくこの男は強いと思った。
 驚きながら見上げていれば、目が合う。主を失ったので悲しみが見えるのだが、曹操を信頼している節がある。拱手を素早くしており、こちらの言葉を真摯に聞いているからだ。真面目な男だと思った。今までの主が戦死したというのに、新しい主に忠誠を誓う。切り替えも早い。合理的だがそれには冷たさが感じられない。
「曹操殿、それに夏侯惇殿と夏侯淵殿、よろしくお願いいたす」
 拱手を止めない于禁がそう言えば、曹操が満足そうに頷いていく。この于禁という男を信用し、そして良く使おうと思っているらしい。自身もまた信用という言葉を過らせたので、喜んで迎え入れた。
 得物は三尖刀で、かなりの大きさがある。于禁の身長を越していた。これを振り回しているというのは、相当な身体能力があるのだろう。驚異の一言である。
「私は曹操殿の元では若輩者ですが……」
「心配ない。すぐに皆に追いつくだろう」
 曹操が笑いながらそう言うが、その通りになるのではないのかと思えた。鮑信から于禁のことは前から聞いていた。曰く、よくできる男だと。しかし不器用な面もあるが、そこは大目に見て欲しいらしい。意外と可愛らしい面があると思いながら、そのまま軍事会議の為に戦場から離れることにした。
 軍事会議には曹操と自身と夏侯淵を中心に、数人の軍師と兵が居た。そして末席には于禁が。ここではまだ黄巾の残党がまだ終わっていないということ、それに新しい脅威である董卓や呂布が現れたこと。それらを話し合っていく。
 幾ら頭の回る軍師達でも、やはりそれらの問題を解決する糸口を見つけられないようだ。頭を抱えるが、曹操も同様だ。
「董卓は恐ろしい男です。それは、殿もご存知かと思いますが……」
 郭嘉が溜め息をつきながら地図を見る。今や董卓がこの地を支配しているような空気さえある。民がどのような恐慌を強いられているのか、不安になっているらしい。ぶつぶつと呟いてから、地図をまた見ていた。
 それに董卓は鬼だ。行方不明の張角を草の根を掻き分けてまで探し、そして首を晒せと言うのだから。これは張角を討つ前から知っていた恐ろしさだ。
 その董卓に今や抗っている状態であるが、敗北をしてしまえば首を晒されるどころではないだろう。だが、今は負けることを考えてはいけない。そう考えを振り切っていれば、曹操が「どうした?」と話し掛けてくる。
「いや、何でもない……」
「顔色が悪いな。まぁ、疲れるのは仕方ないことだ。夏侯惇よ、今日はもう休め。陽が沈んでから昇るまでは儂のことはいい。そうだ、良い侍女を寄越してやろう」
 にやりと笑った曹操だが、自身にはそのようなことはあまり関心がない。それは曹操でも知っている筈なのだが、断るべきなのだろうか。そう考えていれば、肩をぽんぽんと軽く叩く。
「お前も男だろう。それで発散するのも悪くないぞ」
「……分かった、分かったから」
 曹操が寄越してくる侍女には、申し訳ないが少し茶を淹れてもらってから帰そうと思った。侍女と夜を明かすよりも、一人で月でも見ながら茶を飲みたいのだ。それだけで、心が休まるのだ。
 それは話しておかないでおきながら頷けば、典韋が「楽しんでくだせぇ! 旦那ぁ!」と言ってくる。これは本人にとってはただの励ましの一種なのかもしれない。なので適当に頷いていれば軍事会議は一旦解散となった。なので城に戻り、自室に入る。
 遠くからは兵の訓練の声が聞こえる中で、鎧を脱いでから着物のみの姿で寝台に座る。そして溜め息をつきながら、まずは侍女を帰す理由を考えた。窓から空をみれば大分暗い。そういえば灯りを点けなければと、火の元を探した。火打石があるので、慣れた手つきで火を起こせば燭台に移していく。部屋が明るくなった。
 そしてまずは今日は体調が悪いというものだが、これは曹操にまで行き渡り心配されるだろう。なので却下をしてから次の理由を考える。
 ならば正直に言うのはどうだろうか。考えてみれば、そのような理由で断ったことはない。いつでも性欲に従順で居られるからだ。しかし今は不思議とそれに従うことはできないが、単に疲れているだけなのだろうか。
 伸びた顎髭を撫でながらそう考えていれば、扉からノック音が聞こえる。丁寧なものだが侍女に違いない。
 二度目の溜め息をつきながら、腰を上げてから対応をしようとした。そこでふと、やはり正直に言うべきだと思いながら扉を開く。
「……すまんが、今宵は」
「夏侯惇殿、私は貴方と何か約束をしていましたか?」
「ん?」
 見れば目の前には于禁が居り、軽装姿であった。まさか曹操が寄越したのは侍女ではなく、この男ではあるまい。内心で笑う。
「個人的に、挨拶をしておこうと思って参りました。途中で侍女に会いましたが、代わりに私が茶を渡すことにしました。新参故、何かあれば申し訳ない。随分と、お疲れのようで……」
 眉間に皺を寄せている于禁が、小さな陶器の壺を持っていた。これには茶が入っていると言ったが、嘘なのだろう。それに曹操が侍女を寄越すことを于禁も聞いていた筈だが、聞いていなかったのだろうか。或いはあまりの真面目さ故に、分からなかったのか。
「聞いていなかったのか?」
「侍女からですか? 確か、貴方に用があるとしか聞いていませんでしたが、私が伝えていくと言っておきました。そして、茶を私に渡した次第です」
 駄目だ。于禁は完全に勘違いをしている。それに侍女は直接でも言わなかったのか。
 しかし于禁相手となれば茶を受け取るだけで良い。そう思っていたのだが、そこで于禁が顔を赤らめた。どうしたのだろうか。
「……っ!? そ、そういうこと、でしたか! わ、私はてっきり……!」
「ど、どういうことだ?」
「侍女と、その……わ、私が、責任を取ります……その……」
 何を言っているのかと思っていれば、こちらもようやく気付いた。
 于禁はようやく侍女がここへ来る目的、それに曹操と話していたことを理解できたらしい。しかしあまりにも、それに対して鈍感過ぎるのではないのかと思えた。もしかして、于禁はこのようなことの経験があまりないのだろうか。邪推してしまう。
「于禁……お前、もしかして、女と寝たことがないのか?」
「い、いえ! 私だって、あります! 数回ですが、あります!」
 嘘はついていないらしい。于禁は嘘をつけない性格だということが丸わかりであるのだが、心に芯がしっかりとあったのだ。顔の赤らみはまだある。
 なので軽く「ほう」と返事してから笑った。
「分かった。すまなかったな、からかって。詫びに俺とで悪いが、茶に一杯付き合ってくれ」
「は、はい……」
 少しは顔の赤らみが薄くなった。思えば自身よりも于禁の方が若いのだろうか。そうであれば、まだ青さが残っているのは無理もない。立ち上がってから茶壺を受け取り、湯を準備する。
 下女に湯を準備させてから茶を淹れた。量は僅かで、茶器も小さいものである。しかし茶を淹れるということは、心を整えることに繋がるのだ。茶を椀に注げば、于禁の顔の赤らみはすっかりと引いていた。
 寝台に並んで座った。ぎしりと、いつもよりも軋む音が大きい。
「ありがとうございます」
「気にするな……しかし、今宵の空も綺麗だな」
「えぇ、そうですな。雲が一つもありませぬ」
 窓から空を見れば、于禁の言う通りに雲一つない、澄んだ空であった。このような日はこの時期では稀にある。なので自然と笑みを浮かべながら茶を啜った。程よい苦みがあり、そしてその中に甘みがある。良い味の茶だと思った。
 続けて于禁も茶を啜れば、想像もできないような緩やかな笑みを浮かべていた。それを凝視していれば「何か?」と、咳払いをしながら聞いてくる。表情が緩まっていたことは、自覚していたのだろうか。
「お前も、そのような顔をするのだな」
「そのような、顔とは……?」
 自覚をしていないらしい。もしやこれは無自覚に晒した表情だというのか。てっきり、普段のような鉄壁の表情はずっとしていないかと思った。つまり先程の表情はかなり貴重で、自身はそれを見ることができたのだ。
 思わず椀を持ちながら于禁の顔を凝視している。しかし表情はいつもの険しいものになっていた。やはり自身は普通の人間であるので、于禁の先程の笑みをもう一度見たい。そうならばどうすればいいのだろうか。いや、どうして自身は于禁のそのような顔を見たいと思えるのだろうか。まだ、会って間もないというのに。
「なぁ……于禁」
「いかがなさいましたか」
 茶を啜り終えたらしい于禁が、椀を手に持つ。空の椀に少し残る液体が、月によく反射していて綺麗であった。それが眩しいと思いながら、于禁に疑問を投げかける。それは先程の自身の感情である。どうしても、腑に落ちないのだ。
 どうして、于禁の先程の表情にこだわるのか。もしや、もう一度見たいというのか。それを口にしてみる。
「……先程の顔を、もう一度できるか?」
「先程の顔、とは? 私はいつも、周りの者から敬遠されるくらいに、険しい顔をしていますが……」
 つまりは無意識らしい。于禁が怪訝そうな顔でこちらを見るが、構いはしない。やはり先程の顔が見たいのだ。どうすれば良いのか考えるのだが、何も案が思いつかない。于禁の感情を動かすことは、果たして容易いのか。
 そう考えていれば、于禁が不思議そうに訊ねてくる。
「どうして、私の顔をそこまで?」
「それは……分からない……」
 理由など無いのだ。単に于禁の表情に惹かれた故。
 なので答えに悩んでいれば、またしても于禁が先程の緩やかな顔をする。消えないように顔を近付けてしまえば、于禁が驚く。手に持ってる椀を床に落としそうになり、慌てて持ち直していた。
 先程の表情にするきっかけになり得る事柄は、どこにでも転がっているように思えた。于禁が愛想を使わない男などいうことはすぐに分かったし、鮑信から少しでも聞いたことがある。
 そうとなれば、賭けるしかないのだ。于禁の表情を崩す為に、とある提案をした。
「……俺と、同衾するか?」
「え……」
 于禁の表情は次は、驚きのあまりに口をあんぐと開けている。
 しかし同衾とはいえ、普通は共に夜を過ごすだけだ。ただそれだけだ。そうだというのに、頬を赤く染めながら俯いている。同衾など、誰でもしたことがあるだろう。
「どうした?」
「いえ、その……同衾は、断っても、よろしいでしょうか?」
「何故だ?」
 断る理由などない筈だ。ただ、同衾をするだけだ。于禁の肩を掴めば、びくりと大きく跳ねた。どうしてなのだろうか。
「……いや、無理はさせられん。ならば、今宵の同衾は必要ない」
「い、いえ、貴方と、同衾させて、頂きます……」
「無理には……うお!?」
 すると于禁が着物を脱ぎ始めるのだが、何かを勘違いしているのでは。そう思い、手を止めた。
「おい于禁、同衾の意味、間違えてるぞ」
「え……いや、その……同衾といえば、こうかと……」
 どうやら于禁は、今までの同衾の意味をはき違えていたらしい。本当に共に寝ることを同衾と捉えているらしい。
 いや、本来ならばそのような意味だ。だが今や同性同士で、ただ寝ることだけを同衾と呼ぶのだ。自身は間違えていないだろう。なので于禁に着物を整えさせた後に問うた。
「お前……」
 鮑信のことは疑いもしない。ただ、于禁が純粋過ぎたのだろう。そう思い、于禁に説明をしようとした。まずは自身と行う同衾についてだ。
「ただ、同じ寝台で横になるだけだ。それだけでも、分からないか?」
「分かりますが、そうだけでいいのでしょうか。私は、鮑信殿に誘われて、それなりの数の女性と夜を共にしました。なので、同衾といえば、そうなのです……」
 訂正する。これは鮑信の教えが悪い。しかしこれは、少しでも于禁に男性性を生ませる為だと思った。于禁はここまで来ても、やはり性に淡白だと思ったからだ。
「ほう、だったら……」
 そこで冗談が思いついた。これは悪い冗談なのだが、きっと于禁は相手にしないだろう。それでも、冗談を吐いてみる。
「俺を、抱いてみるか?」
「え、え……?」
 于禁には動揺が見られた。しかしそれと同時に、顔をどうしてなのかまた赤らめたのだ。まさか本当に上官を抱くとは思ってもいなかったなどと。
 様子を窺ってみれば、于禁が肩を掴む。
「それは……貴方とのまぐわいは、もしや曹操殿とも……!?」
 勝手に曹操と寝る妄想をされていた。だが違う。曹操は自身のような男ではなく女が好きなのだ。それに、曹操とはやはり幼なじみとしか思っていない。ずっと、何があっても変わらないことだ。
 大きく否定をするが、やはり信じてはくれない。なので于禁を勢いよく押し倒せば、持っている椀が床に落ちた。割れはしなかったが、嫌な音がしたような気がする。しかしどうでもいい。今は、何の情熱が燃えたのかは分からないのだが、于禁を押し倒したのだ。
「夏侯惇、殿……?」
「もういい。俺は男とするのは初めてなんだが、お前相手ならば良いだろう」
 そう言いながら着物を少し脱いでいけば、于禁が困惑する。そしてこの手を止めようとしたので、強く振り払った。
 何が原因で自身がこうしたのかは分からない。とにかく、頭に血が上ったのだ。それも全く冷静になる気がしない。寧ろ、興奮さえしてくる。分からないのだが、于禁相手に欲情しているのだ。止まらない。この于禁の清廉を、無茶苦茶にしたい。
 筋肉に包まれた体を于禁に見せる。反応は薄かったが、じきに興奮してくれると思った。特に胸筋は鍛えており、女の小さな胸くらいはある。それにでも興奮してくれないかと考えてしまう。
「なぁ于禁、どうだ?」
 見れば于禁はひたすらに驚き始めた。自身のこの反応が意味が分からないのか。なので証拠として膨らんできた股間を押しつければ、于禁が顔を赤らめる。処女のような反応をして、可愛らしいなどと思ってしまった。相手は、自身よりも体格の良い男だというのに。
「い、いえ……私は、男ですし、それに、つまらないと、思いますが……」
「いや、つまらんことはないと思うな」
 事象でも言葉でも伝えても、于禁はこちらを向いてくれない。ならばと心が燃え、顔を近付けた。中性的な顔とはほど遠く、自身同様に精悍な顔をしているが悪くない顔だと思えた。事象がそう示しているのだが。
 そっと唇を合わせてみれば、茶の香りがした。心地よい。なのでそれをもっと堪能すべく、更に口を吸い始めた。于禁からは、息を上げる音が聞こえる。更に下半身を弄れば、完全に反応をしていた。その気になってくれたらしい。唇を離した後に、にやりと笑う。
「なぁ、于禁……」
 両目で于禁を見つめれば、熟れた果物のように顔を真っ赤にしている。美味そうだと頬を舐めれば、于禁がもう一度息を上げた。
 それに見れば拒否感は無いらしく、そのまま自身が着物を脱いでいく。次は、止められることなどなかった。
「で、ですが夏侯惇殿……貴方は、私にとっては上官です。その……」
「別に良い。お前ならば、すぐに俺に近い存在になるだろう。ほら……」
 着物を脱いでから裸を晒せば、やはり女の妖艶な身体でもないのに于禁の興奮は鎮まらない。寧ろ魔羅が、ばきばきと肥大化していた。同時に自身の心も止まらない。
「于禁」
「は、はい……」
 于禁は目を合わせなかった。しかし身体の反応は相変わらずであるので、唇をもう一度合わせる。湿っており、やはり茶の味が美味い。更に舌で味わいたくなり、ぬるりと舌を挿入した。
 まずはざらりとした、于禁の分厚い舌が迎え入れる。この感覚は女とも共有したことがあるが、堪らないものだ。一時的とはいえ、于禁は興奮しているので、それに乗せて舌を絡みつけた。熱い感覚が全身に走る。于禁のような者とこれから淫行をするとなれば、やはり優越感が勝った。次に本能が来る。
 互いに裸になったところで、下半身を擦りつけ合った。于禁の顔を見つめていれば、恥ずかしそうに息を上げる。
「っは……はぁ、はぁ、夏侯惇殿……」
「気持ち良いか?」
 直球的にそう訊ねれば、于禁の目が見開く。しかし首を横に振るのだが、目は大きく泳いでいた。これは、大きな嘘なのだ。
「嘘をつくな。気持ち良いと言え」
「……ぅ、あ……!」
「素直ではないな。だが、俺の身体で素直にしてやろう」
 そう言ってから、于禁の魔羅に触れた。先走りが垂れており、それを指で掬えば青臭い匂いがする。自身のものと匂いは変わらないものの、どうしてなのか心が擽られるのだ。
「于禁」
 名を呼ぶが、于禁はただ息に混じって音を出すのみ。次第に燻ってきた、本能に煽られたせいなのだろうか。
「お、おやめを……! 私、は……!」
 すると抵抗を見せた。こうも否定をされれば、やはり普通の人間故に抗いたくなる。于禁の魔羅に先走りを塗っていく。指で触れられることすら、やはり良いのか。顔が歪んでいくのが分かれば、笑いながら魔羅を手のひらに包んでいく。止まらないのだ。
「ぁ、あ……! やめ、ぅ、うぁ……! はっ、は、はっ、あぅ、う……!」
「気持ち良いか?」
 訊ねるのだが、于禁はそれも否定をする。しかし身体はきちんと正反対のことを示しているので、大きな魔羅をしこしこと扱き続ける。
 順調に膨らんでいくのだが、予想外に大きい。これが、本当に同じ人間の性器だというのか。それにこれが自身の体に入ることになる。どれほどの威力があるのかは分からないのだが、男でも快感を得られるのは知っている。なのでこの大きな魔羅で、どれほど気持ち良くなれるのか楽しみで仕方なくなった。
「これで、何人の女を堕としたのだ?」
「おとす……? そ、そのようなことなど……」
 無自覚だというのか。これで女の股を貫けば、快楽で堕落してしまうと決まっているのに。下劣なことを考えていく。
「そのようなこと、ただ、私は……」
 何か言い訳のようなものを口にするのだが、どうしたのだろうか。それに何か劣等感でもあるというのか。そう思いながら于禁の魔羅が膨らんでいけば、そこで手の動きを止めた。故意にである。
「か、夏侯惇殿……!」
「残りは俺の中で果てろ」
 言いながら于禁の腰の上に跨がれば、尻の割れ目で魔羅を擦る。厭らしく尻を振る。ぬるぬるとした感覚が、とても心地が良い。
「ほら、どうだ?」
「っぐ……! ふ、ふぅ、ふう……! うっ、う……!」
 苦しげに于禁が耐えているが、果てたくて堪らないのだろう。口角を上げながら于禁のその様を見た後に、尻を先走りに塗れさせる。どこを触れてもぬるぬるとしており、卑猥な感覚が脳を更に食っていくような感覚が走った。
 足を開いてから尻の入り口に先走りを塗っていく。それを于禁に見せつけるのだが、目が離せないのだろう。何度も瞬きをしながらも凝視をしていた。
「見ろ于禁、俺のここに、お前の大きな魔羅が入るのだぞ」
 声が低くなった。それに掠れたのだが、于禁にとってはそれが聞き心地が良かったらしい。目を細めた後に緩やかに開き、そして「はい……」と言いながらこちらを見る。于禁の思考を支配できたらしい。
 短い声で返せば腰を掴んでくるのだが、その力はかなり強い。思わず腰を折られてしまうのかと思った。そのまま、于禁の体の上に落ちてしまいそうになった。
「くっ……于禁、お前……!」
 出した声は苦しげなものであるのだが、本当は悦びを現したかった。于禁がようやくやる気になり、嬉しいのだ。だが今の自身は腰を振るか媚びるしかできないので、それらに専念する。尻の割れ目で、于禁の魔羅を擦っていく。
 柔らかいとは思わない尻の肉で扱いていけば、于禁がくぐもった声を出す。ようやくかと思っていれば、于禁の魔羅から熱い粘液が吐き出された。手を後ろに回して触れてみれば、それはかなりの粘度があった。相当に溜まっていたことが分かる。
「ぁ、あ……!」
 于禁が軽く喘ぐのだが、やはり若い故にまだ足りないようだ。まだ射精をしていない自身だって同じではあるものの。
「まだ、やれるか?」
「えぇ……勿論、です……!」
 そう言いながら于禁が手を伸ばし、精液を指で掬い取った。それを尻に持っていけば、まだ誰にも犯されていない入り口に近付いていく。興奮が高まった。自身は、言うなれば処女なのだから。
「于禁……んっ! ん……はぁ、はぁ」
 すると于禁の太い指が入り口に入っていく。まずは指先だけが尻の中に食い込んでいった。ここを触れられるのは、そういえば初めてである。誰と交わろうと、ここは触れられたことはない。
 まずは驚きの感情が湧くが、それは一瞬だけだ。すぐに興奮へと変換されていった。こちらの方が向いているのかもしれないと思える。
「ぁ、は……はぁ、は……于禁、んっ……」
 指先が体内に入れば、全身が強張った。そして背中を反らせた後に、顎を仰け反らせる。于禁の指が入っているだけでも、やはり気持ちが良いのだ。ここは元は排泄器官だというのに。性器にでもなったというのか。
「夏侯惇殿、口吸いを……」
「ん、んんっ」
 体を折って于禁の顔に近付けば、熱い吐息が掛かる。肌に吹き付けられる度に、体に更なる熱が帯びていた。汗が噴き出す。それが于禁の顔に落ちるが、それを舌で拾った。甘い。
 そして于禁と唇を合わせれば、更に指が入っていく。不快感までも押し寄せたのだが、やはり待ち受けているであろう快楽には勝てない。
 口を半開きにしていれば、于禁の分厚い舌が入っていく。それに吐息が強くなるのを感じ、必死に吸っていった。何も味はしないのだが、蜜を吸うように強く。
 そうしていれば、于禁の喉が鳴ったのが分かる。唾液を大量に分泌してしまうというのか。なので舌を于禁の口腔内に捻じ込めば、唾液に触れることができた。やはりまだ茶の味がする。なので舌を動かしながら、じゅるじゅると味わった。
「ぅ、ふ……ん! んんっ、ん……ぅ」
 于禁が息を漏らすのだが、隙間を塞ぐように顔を動かして唇を何度も合わせる。そうすれば吸い尽くせなかった于禁の唾液が小さな隙間から垂れていく。唇の周りをぬるぬるとさせていれば、体内に入っている指が動いた。粘膜をぐいぐいと押されてしまえば、どうにも気持ちがいいのだ。分からない。
 まるで変な言い方なのだが、体を物で貫かれるとはこのようなことを言うのかと考えてしまう。
 なので唇を少しでも離してしまえば、于禁が主導権を奪うように指をどんどん入れていく。ここは排泄器官なのだが、体が否定をしないのだろうか。そう思いながらも、指がどんどん入っていく感覚を受けていった。気持ちが良い。ここをこうされるだけで、これほど気持ちが良いのか。知らなかった。
「ん! ぅ、うぅ……っう、ぅあ、はぁ、ぁ……」
「ん、ん……夏侯惇殿、気持ち良いですか?」
「ぁ、は……はぁ、はぁ、気持ちいい……早く、于禁の魔羅が欲しい……」
 まさか、このような言葉までも出るとは思わなかった。しかし口は止まらない。つまりは于禁の魔羅を、ここまで渇望をしているというのだ。
 なのでもっと、異様とも捉えられる言葉が出てくる。
「俺を、壊して、くれ……」
 分からない。分からないのだが、そう言ってしまったのだ。しかし体は止まらない。それに中にある于禁の指も止まらない。
「ぁ、あ……ぁん、ん、っん、ん! ん、ぅ……あ、あ!? 于禁、そこ、やめろ!」
「ここ、ですか……何だかここだけ、硬いような……」
 于禁が首を傾げながらとある箇所を指で押してくるのだが、そこがとてつもなく気持ちがいい。本当に、特に脳が壊れそうになってしまっていた。頭をぐるぐると小さく回した後に、于禁と目が合う。茶色の円を見て、そこで体がぞくりとした。目の前の男に、この体を支配されているような気分になる。なのに脳が拒否を示さなかった。
 その瞬間に射精感がこみ上げれば、すぐに射精をしてしまった。全身を震わせながら、下半身から精液を吐く。
「は……あ、あ……はぁ、ん、んぅ、うぅ……あ……!」
 最後には呻き声を上げれば、腹が熱くなっているのが分かった。自身の腹に向けて射精したのだ。それくらいに、元気だったのだ。女を抱いている時は、そのようなことなど無かったというのに。このままでは、盛っている子供のように思えてしまう。
「か、夏侯惇殿! 早く貴方を、壊してしまいたい……!」
 于禁が睨むように自身を見るのだが、それは狙いを定めている雄のようだった。自身も同じような雄だというのに、心臓が高鳴る。狙われて、嬉しくなっているのだろう。なので悦びながら腰を振れば、于禁の指がずるずると入っていく。このまま、奥に入っていくのだと思えば入る指の本数が増えた。
 驚きながら于禁を見る。しかしまたしても好い箇所を指先で触れられ、がくがくと頭を大きく揺らす。頭の中が次は真っ白になっていった。
「ぁ! ぁ、う……ぁあ! あ!」
「夏侯惇殿、貴方が乱れているお姿が、何とも美しい……このまま、私のものにしてしまいたいのですか」
 自身にとっては嬉しいほかないので頷けば、于禁が空いた手で体に触れる。見れば自身の体には僅かな矢傷があるのだが、于禁がそれを優しく触れてくれる。これごと、愛してくれるというのか。

 まずは出るのが、やはり生暖かい吐息であった。何度も吐いていれば、于禁が優しく笑う。
「夏侯惇殿……」
「ん、んんっ……っ」
 名を呼んでくれるのだが、息を吐くことしかできない。そしてその度に于禁が中の硬い箇所を、指で捏ねてくる。頭がおかしくなりそうであった。いや、壊してくれと頼んだのは、こちらではあるのだが。
「貴方の字は、何ですか。私は知りませぬ。教えて下され」
 囁くように于禁が体の中をいじくり回す。粘膜を太い指で押される度に、射精感がこみ上げた。しかし我慢をしながら答える。于禁に字を呼ばれながら、抱かれたいのだ。
 なので唇をゆっくりと動かしながら、于禁を見ながら答える。
「元譲、だ……」
「元譲ですか、綺麗な響きですな。私は、文則です。元譲」
 字を呼ばれただけで、頭が本当におかしくなりかけた。そして一気に混乱をしてしまっていながら、于禁の字を聞き取っていた。微かに「文則……」と呟くのだが、于禁がそれを聞き取っていたらしい。指をぐいと曲げ、中の硬い箇所を強く押す。
「ゃ、ぁあ!」
「簡単に、呼ばないで頂けますか……ただでさえ、私は我慢がならないというのに……分かっていらっしゃいますか?」
 注意をするように于禁が言うのだが、中をかき回す指の動きが大きくなっていた。そして于禁の魔羅を見れば、破裂しそうなくらいに膨らんでいる。
 早くこれで体を貫いて欲しい。于禁に体を預けてから、自身の精液を胸を動かして塗りたくった。ぬるぬるとしていて気持ちいい。雄臭さがあるが、今はそれが更に興奮を引き寄せる。
「ほら……俺の中に、早く入れたらどうだ?」
 于禁の顔が大きく歪んだ。同時に顔を近付けて、鼻先同士がぶつかるまで接近させた。于禁の瞳がよく見え、それらは自身を写し出している。まるで、于禁の視界を占領している気分になった。そうとなれば、次は体を早く占領したい。
 唇を重ねれば、そこで于禁の指が増えたような気がした。質量が増している。体がびくりと跳ね、寝台からは軋む音がした。
「っ……!?」
「元譲、貴方を早く……」
 言葉を最後まで言い切る余裕までは無かったらしい。言葉を消していきながら、于禁の複数の指が入っていく。三本くらいは、一気に入ったような気がする。
 自身の尻からはぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴り、そして粘膜を相変わらず圧迫されていた。このまま、またしても果ててしまいそうだ。ただ、指を突っ込まれているだけだというのに。
「あ、あぁ、あ……俺も、早く……」
 そう言っていれば、指がずるりと引き抜かれた。まだ、悦に浸っている途中だったのに。
「もう、私は……!」
 呻くように言葉を吐きながら、于禁が魔羅を構えたような気がした。なので振り向こうとすれば、そこで入り口で魔羅の先端の感覚を拾う。やはり感覚だけでも、于禁の魔羅は相当に大きいのが分かった。唇が弧を描く。
「文則、早く、きてくれ……」
 腰を前後に動かし、魔羅と皮膚をぬるぬると擦りつけた。于禁の喉から出る呻き声は止まない。
 その中で、魔羅の先端が少しずつ入り口に入っていくような気がした。なので笑みを浮かべたまま于禁と再び何度も唇を重ねていけば、魔羅がそこで入り口にようやく入った。まず感じるのが質量だ。ただ入り口の縁が拡がっただけだというのに、凄まじい質量を感じた。于禁の魔羅が入るのかそこで不安になるのだが、ここはやはり性器としての役割を果たすのも知っている。先人の知恵を信じるしかないと思った。
「っう、う……! 元譲、狭いのですか……!」
「仕方、なかろう……しかし、お前は、このような狭いものを経験したことがないのか?」
「勿論です。この器官でさえ……ぐ、ぅ! う……!」
 于禁も共に苦しいと感じているのだろう。だがここはとてつもない快感だと聞いている。同時に、于禁と体を繋げたらどうなってしまうのだろう。このまま、夜は于禁に体を支配される日々が続いていくのか。しかし良いと思った。于禁に対して。下半身が反応したのだから。
 そう思っていれば、次第に入り口が緩まっていくのが分かる。少しは慣れたのか、指が入った通りに埋まっていく。先端が入ったのだが、指よりも異物感がある。排泄器官としての役割を果たすべく、追い出そうとしていた。そこで、于禁の魔羅を締め付けてしまったのだろう。于禁の顔に大粒の汗が浮いた。同時に目が鋭くなっていくのが分かる。これは本能をぶつけたいような目だ。
「ぅ! う……う、元譲……! そこまで、締めるのは……!」
「仕方なかろう! は、はぁ、はぁ……くそ! 俺は何もできぬ!」
 最早もがいてしまっていれば、体が自然と揺れる。唇は離れてしまい、口吸いをしている場合ではなくなったのだ。
 于禁の上に覆い被さってしまえば、体重が掛かる。狭かった筈の入り口がずるりと開き、その瞬間に全身に衝撃が走った。体が、上から勢いよく落ちたような気がしたのだ。同時に粘膜に魔羅が当たり、頭が一瞬だけおかしくなったような気分になる。このようなことを、体験したことなどない。
「ぁ!? あ……!?」
 思考の全てが逆方向へと向かっていく気がする。思考の全てが、どこかへ行ってしまう気がする。そのようなことを感じていれば、快楽が思考を完全に止めてしまう。もう、何もかもが制御できないのだ。
 まずは口を大きく開けば、唾液を垂らしてしまう。口など、閉じられる訳がない。于禁の顎や頬を唾液で濡らしてしまうのだが、当の本人は気にしていないようだ。寧ろそれよりも、魔羅を締め付ける感覚が何とも良いらしい。言うなれば、経験などしたことがない感覚なのだろう。于禁の眉間の皺が、あり得ないくらいに深くなっていく。このまま、跡でもついてしまいそうだ。
「ぅ……! はぁ、はぁ……! 元譲……! 貴方の身体は、私の魔羅を食うくらいに、かなり狭いです。これは……卑しい穴だ」
「ぁ、あ、はぁ、あ……ぁ……文則、文則、もっと、奥に、欲しい」
 于禁の言葉を賛辞だと受け止め、そして自身でも分かるくらいにだらしない笑みを浮かべながら媚びた。すぐに于禁の魔羅が膨れ、体内での面積を増やしていく。このままでは、寧ろ自身が于禁の魔羅に食われそうである。いや、互いに食われると思っているのだ。
「で、女よりも、どうだ? うぁ、あ……ん、んんっ、いいか……?」
 自信はある。于禁の魔羅をとてつもなく膨れさせているのだから、このまま満足させられる自信はある。
「勿論ですが、このまま、子種を出してしまいそうです……! まだ、奥には……!」
 于禁の言う通りである。まだ、魔羅の先端が縁を越えただけなのだ。臓器すらを突いていない。この先には、直腸という器官がある。ここを鋭い魔羅で突かれれば、自身の体はどのような反応を示すのだろうか。或いは、于禁の魔羅から子種が反射的に吐き出されるのだろうか。
 互いに汗が止まらなくなりながら、手のひら同士を濡れさせる。汗の匂いや既に出した子種の独特な臭さが、それが官能を刺激させられるのだ。言わばこれが鼻孔をくすぐり、興奮を増大してくれていた。
 そう感じていれば、于禁が筋肉に覆われた自身の太い腰を掴んだ。容易に指がめり込めば、それほどに力が籠もっているのが分かる。
「う、う……!」
 重く低い呻き声を喉から発した于禁が、腰を緩やかに振る。粘膜の中で擦れる魔羅が硬く、気持ちが良かった。同時にここが既に排泄器官ではなく、性器と化しているのが分かる。嬉しいほかない。
 これから性交が始まるのだ。そう思えば心臓の高鳴りが止まらない。于禁から吐き出される生暖かい吐息を受ける度に、劇毒かと認識するくらいに頭がくらくらする。
「動き、ますよ……!」
「早く、動け……!」
 指示をすれば、于禁が腰の動きが早まってきた。魔羅が出ては入る動作を繰り返していけば、次第に粘膜がそれを覆うような蠢きをしていく気がする。気持ちが良くて堪らない故に。
「ぁ、あ! はぁ、あ……ぁ、ん、んっ! ん、んんっ! ぁん、あ……!」
「可愛らしいお声ですね……これは、私しか聞いたことがないのでしょうか?」
 于禁が恍惚の目で聞いてくる。答える為に頷いたのだが、頭がまだくらくらしているのでまともに動かせているのか分からない。
「……そうですか、それは、よかった」
 安堵と共に、于禁の腰の動きが強まっていく。このままでは奥まで魔羅が達してしまう。本当に、体を貫かれてしまうと思った。体が、裂けてしまうかと思った。
「ぁ、もう、来るな……ぁ、あ!? ぁあ! ゃ、ぁあ、あ! 文則!」
 反射的に体がじたばたと動く。これは、本能が逃げろと警告しているのだろうか。本当は、この快楽に頭頂部からつま先まで浸かりたいというのに。
「なりませぬ元譲……私から、逃げてはなりませぬ」
 喉から発せられるのは、普段よりも重く低い声である。それが頭の中で響けば、体の動きが少しは鎮まった。しかし未だに、脳の中に「逃げる」という選択肢の根は残っている。于禁はそれを早く根絶やしにしたいのだろう。
「ぁ、あ! 文則、文則!」
 もうどうしたら良いのか分からない。なので字を呼び続けていれば、于禁が一度魔羅を引き抜いた。
 体中が一気に虚脱感に襲われてしまえば、ここで終わりかと絶望してしまう。頭が正気に戻りかけたところで、そこで于禁が勢いよく魔羅を打ち付ける。最初は何が起きているのか、分からなかった。
「……っ!?」
 ようやく感覚が戻ってくるが、まずは来るのが快楽。腹の中の粘膜が一斉に悲鳴を上げたような気がしたのだ。とてつもない質量が、腹の中に収まっている。
「あ……ぁ……!」
「元譲……!」
 ただ声を上げていれば、于禁が汗を大量に流しながら話し掛けてくる。見れば于禁の整えられた髪は乱れており、結んでいる紐がぐちゃぐちゃになっていた。頬に張り付いており、相当に余裕が無いのが分かる。
 返事をしたい。だが一方でこちらに余裕などない。
「っう、あ、あ……! は、はぁっ」
「気持ち良い、ですか?」
 答えたい。答えたいのだが、快楽がそれを邪魔する。
 魔羅がようやく止まれば、そこは腹の奥とも呼べる箇所であった。ここに、人間の性器が入ったというのか。恐ろしいのだが、やはりそれも快楽がかき消してしまう。
「う……ぅ、は、はぁ」
「元譲……申し訳ありませぬ。私は、もう我慢が……!」
 何度それを聞いたのか分からない。それくらいに、于禁が耐えてくれていたのが分かる。必死に、理性を繋ぎ止めてくれたのだ。
 頭を動かすことならできる。気付けば自身まで髪を垂らしながら、頭を微かに動かす。于禁の額に軽くぶつけてしまえば、そこで意思が通じたらしい。一つ息を吐いてから、腰を掴み直す。きっと手を離せば、自身の腰には于禁の手で掴んだ痕があることだろう。
「動き、ますよ……」
 先程から腰を揺らして刺激を与えているというのに、于禁がそう宣言してから先程の律動を再開させる。次は少し激しい。
「ん!? んっ! ん! んん、んっ、ん……!」
「はぁはぁ……元譲、元譲……!」
 興奮が抑えきれなくなったのか、于禁が舌を伸ばして顔を舐めていく。垂れる髪や汗までも舐めていけば、頬へと辿り着く。皮膚を舐められる、それだけで気持ちが良かった。
 互いに、全身が汗や汁や吐息でどろどろである。清潔とはいえない状態なのだが、不快感など全くない。
「ぁ、あっん、うご、いて……」
 辛うじて言葉を出せたのだが、それは律動を早めるように促すものであった。于禁の吐息の間隔が少し早くなれば、腰の動きも早くなる。まるで打ち付けるように腰、いや魔羅を振る。
 粘膜を突かれ続けているので、当然のように頭の中で雷が鳴ったかのようにばちばちとする。このまま果ててしまえば、狭い中で于禁の魔羅を締め付けたようだ。
「っぐ……は、はぁ……私も、そろそろ……!」
 大きく息を吸い込む音が聞こえれば、そのまま腹の中に熱いものが注がれる。これは子種だ。本来は女の膣に向かうべきの子種が、自身の腹の奥に向かっているのだ。
「ぁ、あつい! ぁ、あ……あっ!」
 中で射精され、連続で果ててしまった。そこで体をぐったりとさせるが、若い故に于禁はまだ元気なのだろう。魔羅にはしっかりと硬度が保たれていた。
「もう一回……!」
 吠えるように于禁が言った後に、腰を激しく振った。もはやこれは人間同士のまぐわいではない。獣の交尾かのように思えた。
 肌と肌がぶつかり、ぱんぱんと破裂するような音が室内に響く。
 今、于禁に犯されている。その事実だけで快感であった。他に考えられない。曹操のこと、この世の太平のこと、黄巾党を全滅させた後のこと。全てを投げ出したくなった。于禁も同じ気持ちなのだろうか。
 そう考えながら、于禁に腰を打ち付けられた後に中に子種を再び注がれる。腹の中は子種で満ちていた。
「あ、あぁ……」
 これ以上の悦びなどない。なのでまたしても口角を上げていれば、于禁が口吸いをしてくる。何回も呼吸をしたくなるくらいに、長いものだ。その間に舌を何度も何度も動かしては于禁の分厚い舌に、ねっとりと絡まれていく。脳が吸われるかと思った。
「ん、ん……ん! ん、んん……」
 目を細めていれば、そこで于禁が唇を離す。今、于禁と体を一つにしたのだ。このまま一つになっていたいと笑みを浮かべていれば、于禁が腰を引かせた。魔羅が、どんどん引き抜かれていくのだ。まだ、于禁の魔羅は膨らんでいるというのに。
 一方で自身のものは萎んでいた。悔しさに目を開けていれば、于禁の魔羅が完全に引き抜かれる。寝台の上に敷かれている綺麗な布団の上に、于禁の子種がだらだらと流れ落ちていく。とてもゆるやかにだが、それほどに子種が濃いことが窺える。
「ふ、ふぅ、ふぅ、ふ……元譲……やはり、お綺麗ですな……」
 少しは本能が引いてきたらしい。自身の頬までも汗にまみれ、張り付いた髪をそっと撫でていく。その手つきがとても柔らかく、武人の手ではないのかと思えてしまう。触覚だけはそうなのだが、見ればやはりごつごつとしていた。
 そして綺麗だと褒められたことがとても嬉しく思える。笑みを維持していれば、体の輪郭をなぞるように触れてきた。
「元譲、貴方が女性ではなくとも、私は、好いております」
 自身を抱き、惚れられてしまったらしい。こちらも同様であり、于禁に惚れてしまっている。魔羅が体の中から引き抜かれてもなお、熱は冷めない。なので一つ頷いた。
「ん、んぅ……う……ぶんそく、おれも……」
 言葉が見当たらないが、于禁のことが好きなのだ。もう一つ頷けば、心臓のあたりが疼く。これが、恋というものらしいことが今になってようやく分かる。
「お疲れになられたでしょう、元譲。湯浴みをしましょう。お体が汚れたことですし……侍女は呼んだ方がいいですか?」
「……いや、おまえが、ゆあみを、手伝ってくれ」
 上官としての誇りはない。今はただの、人間同士としてそう頼んでいる。体を交じらせた直後なので、脳はその思考に走っている。しかし理性を取り戻してでも、そう思うだろう。于禁には、体だけではなく心までも全て開いたのだから。于禁だって、同じことだろう。
「はい」
 顔色一つ変えず、かと言って位のことを言及したりしない。筋力で凄まじい太い腕が全身を優しく包み込んでいけば、ゆっくりと起こしてくれた。見れば于禁の眉間の皺が僅かに薄い気がする。
「さぁ、行きましょうか」
 抱えてくれれば、寝台から体が離れて行った。まるで子供を抱くように抱えれば、まずは部屋から出る。すぐそこに大きな姿見があった。自身の姿が映し出されるのだが、全身が火照っている。やはり感覚通りなのだが、于禁や自身に見えていても恥はない。于禁を見上げた。
「元譲……いや、その……」
「それで、いい……お前といるときは、それでいい……」
 字を呼ばれることも、拒否感などない。なので首を横に振れば、いつの間にか浴室に辿り着いていた。大きな桶に綺麗な水が貯めてあり、于禁がそれを確認してから木の椅子に座らせてくれる。数々の石でできた床に足の裏が着地すれば、すぐに于禁が小さな桶で水を掬った。それを体にゆっくりと流してくれるのだが、当然のように冷たい。体をびくりと跳ねさせる。
 寒い。寒いのだが息を何度も吐いて耐えていれば于禁が体を抱き締めてくれる。少しは、人間の温度が触れるので温かい。しかしそれは僅かなものであるので、于禁は「申し訳ありませぬ……」と謝りながら水を体に流し続けた。
 体を清め終えれば清潔な布で拭いてもらい、そして于禁も体を綺麗にして水気を取ってから寝台に戻る。いつの間にか整えられているのだが、侍女がしてくれたのだろう。二人ですぐに、布団の中に入る。
「お寒い、ですか?」
「あぁ……」
 嘘など言う訳がないので、正直に答えていれば于禁が再び体を抱き締めてくれる。体温が案外に高いのか、先程の水に濡れた時よりも遙かに温かい。于禁の広い背中に手を回し、今は解かれている長い髪を撫でた。嬉しいのか、抱き締める力が強くなる。
「人を好きになるということは、このようなことなのですな……」
 ぽつりとそう呟いてくれれば、小さく頷いた。そして長い髪を次は指先で絡めていく。さらりとしており、よく手入れされているのが分かった。触り心地が良い。
 そういえば髪を乾かさなくても良いのか。いや、今は于禁はそれどころではないのだろう。自身を愛でるのに一杯一杯で、忘れているのだろう。
 だが曹操の前にしてみれば失礼にあたる。なので「髪は?」と聞けば、于禁はやはり忘れていたようだ。気の抜けた声を出す。
「あっ……」
「俺も、手伝うから……」
 少しはだるさが抜けたような気がする。なのでそう言いながら立ち上がろうとすれば、于禁が慌てて体を支えてくれた。
「っ、すまんな……」
「いえ……お体は? 私が、随分と無理をさせたようで……げんじょ……いえ、夏侯惇殿」
 もう字では呼んでくれないらしく、理性を完全に取り戻したのが分かる。それは寂しい。二人きりのときは、字で呼んで欲しい。なので于禁の体に抱きつく。寝台が、ぎしりと鳴った。
「元譲でいい……なぁ、文則。二人で居る時くらいは……」
「分かりました。かこ……元譲……その、何だが、照れると言いますか……」
 見れば于禁の顔がほんのりと赤らんでいた。本当に、言う通りに照れているらしい。可愛らしいと思い、于禁の長い髪を持ち上げる。水気を含んでいるので、若干だが重たい。しかし普段からよく手入れをしているのか、上質な布のようにさらりとしていた。ずっと、触れていたくなる。
「文則、まだ、乱世は続く……お前とは、ずっとこうしていられんのかもしれん。だが、ずっと、ずっと……」
 そうこうしているうちに、疲労がのし掛かってきた。なので言葉を最後まで吐き出せられずにいれば、于禁がこくりと少し頷いてくれる。言葉を、理解してくれているのか。
「……分かっています、元譲。まだ、乱世は続くかもしれませぬ。ですが、貴方とはまだ出会ったばかりです。それでも、貴方とは、離れたくなく……」
 そこで于禁の顔が歪むのが見えた。次に「鮑信殿……」と呟けば、鮑信を余程慕っていたことが窺える。これは曹操やかつての自身には見せなかった顔であり、それを見せてくれている。
 嬉しいのだが、于禁に寄り添うように手のひらに乗せていた髪を落とした。はらりと落ちる。
「鮑信のことについては、残念に思う」
 続きの言葉はまだある。あれほどの将を失ったのは残念だ、そう言おうとしたのだが喉が詰まる。于禁が心配してくれていれば、水差しと椀を取り出してくれた。椀に水を注いでから水を飲ませてくれる。
「……っ、あれほどの将を、失ったのは残念だ。それくらいに、俺たちにとっては信頼できる者だった。だが……今悔やんでいても仕方あるまい。残された俺たちは、次に進むしかない。それが、鮑信にとっての弔いになるだろう」
「そう、ですな……」
 納得してくれたらしい。空になった椀をそっと下ろせば、こちらを悲しげに見る。まだ、鮑信の死に対する思いは晴れていないらしい。だが、何度か頷いてくれる。
 そして二人で窓の外の空を見た。雲はあるが、月が出ているのに気付く。何と、綺麗だと思った。黒色にぽっかりと浮かぶ黄色の円が美しい。これは、人間がどれほど美の感性を磨いても辿り着けないと思った。いや、辿り着ける訳が無い。
 絶対的な美を于禁と共に見ていれば、椀を床に置いてから覆い被さってきた。どうしたのだろうか。
「私は、全ての戦に勝利したいのです」
「お前ならできる」
 生き残る為に、鮑信への弔いの為に于禁はそう誓う。直後に振り向いていた。それは、月や自身に向けているとしか思えない。于禁と視線が合えば、体を抱き締めてから一度唇を重ねる。
 すぐに離れていけば、同時に于禁の体も離れていった。
「今宵は、貴方と……これは何と言えば良いのでしょうか……」
「何と言えばいいか? そうだな……縁とでも言っておこう」
「縁、ですか……」
 腑に落ちたらしく、体を起こしてから寝台に座った。そして窓から見える月を見ながら「縁……」と再び呟く。これが気に入ったのかは分からないのだが、于禁は嬉しそうにしている。
「分かりました。貴方との縁、大切に致す。そしてやはり、全ての戦に勝ちたいことは変わりませぬ。貴方と、またこうしてお会いする為に」
 すうと肩を上げてかた下げるが、深く呼吸をしたのだろう。
「全ての戦……お前なら、できる」
「はい」
 自信があるのだろうか。はっきりと頷いてから振り向けば、寝台にいつの間にか置いてある畳んだ着物があった。二人のもので、侍女が用意してくれたのだろう。
 それを于禁がまずは取り出し、広げてから寝台の上に乗る。ぎしりと音が鳴った後に、着せてくれた。そういえば水を浴びたうえに、今は太陽が昇っていないので寒い。着物を着せてくれて少しは温まれば「すまんな」と言う。于禁は「いえ」と平然と言ってから、自分自身も着物を羽織る。そして二人で寝台の上で横になる。
「……そろそろ、休んだ方がいいのでは?」
「あぁ、そうだな。陽が昇れば、お前には朝の世話をしてもらおうか」
「承知しております」
 于禁がくすりと笑ってから燭台の火を消す。部屋が暗くなれば、二人で体を探り合いながら密着する。温かい。
 するといつの間にか、二人は眠っていたのであった。疲れていたのかもしれない。

 太陽が昇った頃に、于禁が先に目を覚ましていたらしい。しかし自身を起こさないようにそっと寝台から出たところであった。振動で、目を覚ましたのだ。
「于禁……?」
「二人の時は、文則と呼ぶと仰ったのでは? 元譲、朝です。起きて下さい」
「あぁ……」
 寝台から出ようとすれば、体がかなり怠いこととが分かった。やはり、行為の翌朝は倦怠感があるのだ。激しい運動をしたからなのかもしれない。
「……髪、結ってもいいか?」
「髪ですか? はい、私は構いませんが……」
 髪を結ぶ紐を渡してくれた。それにはかなりの使用感があるが、前から大切にしているものなのだろう。
「鮑信殿に、前に頂いたものでして……」
「そうか……これを、ずっと大切にしているのだな。より大事に扱わなければな」
 そう言って櫛で髪を結った後に、紐で縛る。簡単なことなのではあるのだが、于禁は几帳面な男だ。かなり正確に結わなければならない。緊張をして、喉をごくりと鳴らしてしまう。
「元譲、大丈夫です。私は、貴方に結って頂くだけで、光栄ですので」
「だが……」
 口を動かすよりも手を動かした方がいいのかもしれない。
 ようやく髪をまとめ終えられたところで慎重に紐で縛り、ようやく事が済む。こちらが言い出したことを反省をしながら。
「ありがとうございます。また、機会があれば貴方に結って……」
「い、いや! ま、まぁ……、あた今度、な……!」
「左様ですか」
 于禁はこの後は鍛錬があり、鎧類は自室にあるのだろう。つまりはここで一旦別れることになる。少し寂しいが、致し方ない。
「また、今宵でも、次の宵の口でも、会ってくれるか?」
「貴方が望まれるなら、当然です」
 胸を張って于禁がそう言ってくれた。嬉しい。あまりの嬉しさに、于禁を抱き締めた。昨夜感じた体が、今ここにある。心臓が高鳴って仕方ない。
「私とは、いつでも会えます」
「だが、会えない時が辛くてな」
「貴方らしくない……ご心配なく。またすぐに、貴方に会いに行きます。私は鍛錬がありますので、ではまた」
「あぁ……またな」
 于禁が口角を上げてくれてから、部屋を出た。途端に寂しい思いが募り、堪らなかった。それは一日中続いたのだが于禁と再び会えた時には、正に念願と言うような感覚であった。于禁のことを好きで好きで堪らないのだった。

 幾つか夜をこえた。黄巾党の残党は目立たなくなったのだが、討たれた張角の遺体はどこにも見つからない。草の根を分けてでも探せと董卓が言っていたのだが、それでも見つからない。いつか起こしていた、いわゆる幻術で死ぬ前に隠れたのだろうか。どこかで生き延びて世捨て人として生きているか、或いは既に葬られているか。どちらにせよ、数で責めても見つからないのでもう打ち切っても良いだろうと思った。
 それなのに、董卓は張角の遺体を探し続けている。そこまで首が欲しいのだろうか。いや、こちらとしても欲しいのだが、墓を掘ってでも骨や首を取る訳にはいかない。人道から外れたくはないのだ。対して董卓は人道を外し始めており、もう修正など効かないだろう。曹操は董卓を警戒したし、軍師たちや自身も同様である。
 そこて次なる脅威が浮かび上がってきた。やはり予想通りに董卓やそれに呂布の存在である。両者共にこの世を脅かす者でありまずは董卓は民を、呂布は兵に恐怖を持たせていた。手放すことは即ち死である。
 そのような中で、曹操は孫権や劉備とまたしても協力していく。だが曹操がぽろりと出した言葉なのだが、いつかはこの三人でも争うことになるのかもしれない。この言葉を胸にしながら、董卓や呂布と戦う。
 董卓の恐ろしさは黄巾党の制圧で目にしていたが、呂布の恐ろしさは目でよく見えた。赤兎馬という赤く大きな馬に乗り、大きな体と甲冑と得物で戦場の士気が下がる。自身も戦場で呂布をこの目で見ていたのだが、一人で居てはすぐに殺されるだろう。それくらいに、強者であった。
 結局は董卓の命で呂布が撤退したものの、初めて見た日の夜は恐ろしくて堪らなかった。情けないかもしれないが、ほとんどの将もそう感じていたに違いない。ただ、曹操は寧ろ好戦的であり、できれば配下に置きたいとも考えていることだろう。これは幼馴染みとしての勘だ。
 この日は于禁を酒の席に誘った。二人きりになるのは、体を交えてから初めてのことである。于禁は、何だか落ち着きがなかった。余程に上官を抱いたことが気になるらしい。しかしこちらも同意を得てのうえのことだし、于禁のことを好いてしまっているのだ。于禁の体を好くしたこともあるので、文句など言わせない。
 互いに平服姿であるが、わざと着崩したら于禁はどのような反応を取るのだろうかとも考えてしまう。
「……か、かこ……おほん! 元、譲……!」
「どうした文則」
 そう返事をしながら椀に酒を注いでやる。すると兵の前ではいつも見せる鉄面皮が、すぐに剥がれてしまっていた。眉を下げて顔色を赤くした痕に、言葉を詰まらせるからだ。全く以て、面白い反応である。もっとからかいたいと思えてしまう。
「その……あぁ、そうだ、董卓に加えて、呂布が……呂布が脅威になりますな。殿は、どのような意見をお持ちなのでしょうか」
 于禁はというと、少しは恐れているようだった。しかし対して于禁も董卓側からと脅威の存在として認知されている筈だ。まだ少しの付き合いしかないし、体を交えただけになるのだが得物を扱う力も指揮能力も相当だ。これは自身の下で、立派に働いてくれるかと思った。期待ができる。
「孟徳は、戦う気に溢れていたな。だが、その考えをお前などに強いるつもりはないだろう。だが、そのような気を見せれば、俺が止める」
「……そう、でしたな……殿と貴方は、幼い頃から、でしたな……」
「文則、その考えは捨てろ。俺がどうしてお前に体を授けたか分かるか?」
 少しの怒りを混じらせる。これは体を交える前にも言った筈だと、そう于禁に問い掛ければすぐに頷いてくれた。
「申し訳ありませぬ……いやしかし、殿はやはり好戦的でしたか……いえ、私は殿に仕える武人です。必ず、董卓と呂布を討ちましょうぞ」
「その心意気だ」
 とても頼もしい。なので自身の椀にも酒を注いでいけば、それを一気にあおる。酔いは来る訳はないのだが、于禁が近くに居れば、いつでも酔える気がした。肉体的にも屈することができるからだ。次に体を交わるのはいつだろうか。少し、ご無沙汰な気がする。早く、于禁からの刺激によって精を放ちたい。不真面目なことを考えてしまう。
「夜が明ければ、軍師達から策を募る。お前はまだ末席かもしれぬが、参加してもよいのだぞ?」
「いえ、私は軍師殿のように、知恵が回る訳ではありませぬ」
「謙遜をするな」
 于禁は戦闘の面でも指揮の面でも良い働きをすると、鮑信から聞いたことがある。鮑信がそうと言ったのであれば、お墨付きなのであれば良い戦をしてくれると思った。
「なぁ……次の戦に勝ったら、俺を抱かせてやる」
「……っ!? 元譲……その誘い方はあまりにも狡いですぞ」
 酒のせいで赤くなっていないのは分かる。この酒は、本当は薄いものなのだ。宴として飲むものではないので、水で薄めてある。それを飲むのは少し情けないが、それくらいに非常事態なのだ。朝まで酔っていては、呂布を討てないと。
 また陽が昇れば、まずは配備されている董卓軍を攻める。多くの兵や全員の軍師を用いてなのだが、それくらいに曹操が重要な戦だと見据えているのが分かった。勿論、自身や于禁もそれに加わる。
 酒は程々にして戦に備えなければならない。于禁を呼び出したのは、先程の誘いが本件である。それ以外は用はないので、于禁も酒を飲んだら別れようと思った。しかしまだ于禁が酒を飲み干さないと願うばかりであった。本当に、董卓や呂布軍にいつ殺されるのか互いに分からないからだ。これが、最後の会話にもなるのかもしれない。これが、最後の酒になるのかもしれない。
「……何か?」
「いや、何でもない。お前は、戦は恐ろしくはないか?」
 于禁が一口酒を飲んだ。
 僅かに椀から酒が減っているが、いつ無くなるのだろうかと気が気ではなくなる。まだ、于禁と話していたい。一晩、体を交えた仲というだけなのだが、やはり于禁に対しての感情は異常だ。ここまで依存するとは思わなかった。女を抱いているときの味を覚えているままであったら、どうしていたのだろうか。
「……私は、おかしいのでしょうか」
 ぽつりと于禁が呟いてから椀を下げる。顔を見れば、顔の赤みは引いているのだが、少し青白い。これは于禁の元の肌の色だ。その顔が、美しいと思えた。いつかは、それを舐めたいという変態性が少し現れてしまう。
 やはり異常に感情を寄せているせいなのだろうか。対して于禁は現在、自身にどのような思いを持っているのだろうか。
「戦により、恩を返すことができるのです。亡くなった鮑信殿や、それに殿にも。恐ろしいことなど、一つもありませぬ」
 成る程、と思った。于禁らしいと言えば于禁らしい。曹操などに媚びることはせずに、ただ結果や武勲で示す。武人らしい心構えだ。
 一方で自身が情けないとも思ってしまう。恐ろしいのだろうかと考えてしまい、聞いてしまったからだ。恥じてしまい、大きく俯いてしまう。
「……何も恥じることはありませぬ。これは私の役目故に……貴方には、貴方の役目がおありでしょう?」
 自身の役目、それは曹操と曹操の下の者を繋ぐ役目があるような気がした。いや実際に、曹操の意見を聞き、皆に促したり言葉を噛み砕いたりしているのだ。そうだ、これが自身の役目だ。恥じることなど一つもない。
 すると、胸を張るべきですと于禁がつけ加えてくれる。
「あぁ……そうだったな……」
 顔を上げれば、そこで于禁が唇を重ねてきた。仄かに酒の味がして、美味い。
「元譲……今宵は貴方を抱けないのが残念ですが、また次にでも……! 私は生き残ります故に」
 これではまるで、全ての戦に勝つつもりで居るようだった。董卓や呂布らの脅威だけではなく、未知の脅威にも必ず勝つつもりでいるようだ。何と心強いのだろうか。
「文則……お前は、本当に、俺が惚れた者でもあるな」
 お返しとしてこちらからも唇を重ねれば、于禁の舌が弱く歯を突いてきた。体がつい反応しかけたところで、于禁から唇を離してから酒を一気に飲む。これではまるで、戦の前の儀式のようではないか。そう思えてしまう。
 そこで于禁がまだ去って欲しくはない気持ちは消える。きちんと、同じ戦に参加するのであっても見送らなければならないのだ。于禁から、空の椀を受け取る。
「……では、元譲、ここで失礼致す」
「あぁ、また今度、必ずな」
 二人はここで別れた。于禁が寝室から出れば、一人きりになる。
 すると一人の夜が落ち着かないと、体の様々な部位の動きが止まらない。これは一種の寂しさから来るのだろうか。
 空の椀を放置してから、寝台に横たわる。いつもは横になるだけで寝られるのに、一向に眠ることができない。そして于禁に抱かれた夜を思い出してしまえば、体が熱くなっていった。体の奥底が、于禁を求めているのだ。
「……っ! この乱世さえ、無ければ……!」
 呟くが、そうしたら于禁の存在意義を否定することになる。最悪過ぎる思考に冷や水を掛けるように「于禁の感覚」を思い出す。戦で存在意義を見い出し、そして糧にしているのだ。
 もしも乱世など無い時代に互いに生まれていたら、共に人生を歩めるのだろうか。
 そう悩んでいれば、いつの間にか眠ってしまっていた。

 ※

 徐州に曹操が行って帰った頃である。最近はよく曇ってはいるが、暗いことはない。しかし人間とは太陽を欲する生き物だ。太陽が、欲しかった。これは人間の精神だけではなく、自然にも通ずるものだ。
 しばらくは呂布の勢いが強まっており、心配や恐怖に襲われる兵が多かった。曹操がなだめたものの、それは一時的にである。兵が一人も死なない戦などい存在しない。必ず、誰かが戦死するのだ。この世の残酷さを、改めて思い知る。曹操の部屋に入れば、悲しげな顔をしていた。あまり、見たことがない。
「……本当に、この世を」
「あぁ、平定することができる。俺は信じているぞ、孟徳」
 部屋がいつもよりも暗い気がする。燭台に火でも点けようと思ったのだが、やり過ぎだと思った。曹操には、太陽だけを見ていて欲しいからだ。
 そこで気付く。太陽を与えたい人物が曹操となれば、于禁は何なのだろうか。そういえば、于禁に対してはここまで思ったことはなかった。
「っ……!?」
「どうした、夏侯惇」
「いや、何でもない」
 曹操に対しての忠誠は決して影を落とすことはない。しかし于禁に対しての想いはどうだろうか。単に、好きだとしか言ったことがない。この差は何だろうか。頭を抱えたくなったが、今は曹操の部屋だ。一人で悩もうと思い、ここから出ようとする。
「どうした、夏侯惇よ。悩みなら聞くが」
「……いや、いい。すまんな孟徳」
 言いながら去ろうとすれば、曹操に腕を掴まれる。
「遠慮などするな……しかしお前でも、悩みなどあるのだな」
「俺だって悩みくらいはある。例えばだが、お前の女癖をどうにかして欲しい。それに董卓や呂布のことだって……」
「なんだ、俺への悩みだけか? お前自身の悩みは?」
 目を見開いた。思えば、口に出すのは自身のこと以外のことである。指摘をされ、反射的に掴まれた手を振り払う。
「お前にとっては下らないことだ」
 言い切ってから部屋を去るが、于禁との関係を曹操にとっては下らないことだと言ってしまった。後悔をするがもう遅い。
 肩を落としながら自室に戻るのだが、何もする気が起きない。なので雲ばかりの空を見上げていれば気付く。
 于禁には、太陽を見て欲しいなどとは思えなかった。
 愕然とした後に、于禁に背信でもしたのだろうかと思える。寝台にどかりと座ってから、項垂れる。何も考えられなくなったが、まだ董卓と呂布は討てていない。今はそれどころではないと首を横に振るのだが、于禁のことがどうしても頭から離れなかった。次に会うとき、どのような顔をすれば良いのか。
 次の日に曹操と共に呂布討伐に向かった。軍が動き出しているから、こちらも動いた。どちらも戦力が拮抗しており、矢の雨が降る中を駆けたりもする。途中で于禁のことを考えていく度に、気を抜くなと自身を叱った。刀を持ち、矢を潜っていく。
 だがそこで悲劇が起きた。左目に、矢が刺さったのだ。油断をしていたようだ。すぐさま矢を抜くのだが、完全に左目が失明をしていた。右目のみで見える敵を切れば、怒りが湧く。
「油断していたわ!」
 怒声が辺りを響かせる中で、敵を次々に切る。そして抜いた矢の先にある自らの目を食った。味は鉄の味しかせず、不味いとも思える。しかしこれが人間なのだ。
 そして呂布は討てないまま、この戦を終えた。城に帰るのだが、最中に何度も何度も後悔をした。戦場に私情を持ち込むなど恥だ。誰にも言えぬまま侍医に診てもらったところ、完全に失明をしているようだった。絶望をし、二度と戦場に立てないのかと思った。
 曹操はそれを知っているのか、見舞いに来てくれる。ただ一言「次は討つぞ」と言って立ち去った。太陽だけを見て欲しい。その支えになる筈が、寧ろ足手まといになってしまう。このまま隠居すべきか、そう思っていれば侍医が清潔な布で患部を巻いてくれる。
「しばらくは、大人しくしていて下さい」
「あぁ……」
 自室まで付き添ってくれた侍医が、最後にと軟膏の入った小さな壺を渡してくれた。
「寝る前に、これを塗って下さい」
「あぁ……」
 先程と同じ返事をしてから自室に一人きりになる。寝台に座ってから、壺を見る。思わず叩き割りそうになるほどに、怒りが甦る。
「俺は、孟徳の……!」
 壺を握りしめた後に、床に置いてから寝台に寝転ぶ。しかし心は晴れない。
「これから。俺は……」
 どうすれば良いのだろうか。このまま、戦場には二度と立たせてくれないのだろうか。自身には、片目を失ったという負の条件を背負ってしまっているからだ。
 歯をぎりぎりと食いしばっていれば、そこで姿見が目に入る。そこには片目を失っている自身の姿があった。何とも憎たらしい。
 姿見までは距離がある。しかし立ち上がってから掴み上げれば、床に叩き付けようとした。そこで于禁の声がした。どうやらいつの間にか、訪ねて来ていたらしい。
「かこ……元譲! 何をなさるおつもりですか!」
「やかましい! 俺は……俺が、醜い……!」
「そ、そのようなことは、ありませぬ! 貴方は、貴方でしょう!」
 于禁が寄って来てから姿見を掴もうとした。だが今は怒りによって力が勝っているらしい。完全に取り上げてから、床に叩き付けた。凄まじい、耳をつんざく音がした。見事に粉々に割れた鏡を見れば、何だか心地が良い。
 一方の于禁は、口をあんぐりと開けながらこちらを見ていた。相当に、自身に何か思うことがあるのだろうか。それを受けるつもりだが、聞き止めるとは言っていない。流すつもりだ。反論するつもりだ。自身は今、怒りや憎しみに燃えているのだから。
「どうした、于禁! 姿見など、無くとも良かろう!」
 笑いながら靴で鏡の破片を踏みにじるが、その度にじゃりじゃりと音がする。当然のように足に込める力が強いので、靴の底が破けるかと思った。だがもう自身は戦には出られないのだ。足などどうでもいい。
「いえ、夏侯惇殿……!」
 体を掴んできた于禁の顔を見れば、恐ろしいような顔をしていた。まるで、怒りの稲妻を落とすかのような、そのような顔をしていた。
 一瞬だけ怯むものの、どうでも良いのだ。戦も、自身も、于禁も。
「なりませぬ。貴方はそれでも、ご自身のお体を大事にすべきです」
「そんなもの知らん。離せ于禁。俺に対して刃向かうのか?」
 冷たくそう言うが、言い直した。
「あぁ、そうだったな。俺はもう、戦に出られない男だったな。お前には、関係がないか」
 大人げないと言われてもいい。不貞腐れていると思われてもいい。とにかく、于禁を突き放したくなった。残った片目が、途端に熱くなっていくのを感じたからだ。
「っ……! 于禁、ここから去れ」
「……はい」
 消沈でもしたかのように、于禁の表情が無くなっていく。ここで互いの関係は終わったかと思った。後は、墓の中で于禁との思い出を振り返ろうと思った。
 まだ、于禁のことを嫌いになっていないというのに。
 そこで于禁は、何も言わずに部屋を去った。だがここから出て行く背中など、決して見送る筈など無い。何となく、気まずい思いがしたからだ。少しは冷静さを覚え、罪悪感を感じてきているのかもしれない。
「……聞こえていたぞ」
 曹操の声が聞こえた。振り向けば、腕を組みながらこちらを見ている。平服姿であるので、最初から聞いていた訳ではないだろう。
「夏侯惇よ、お前を戦に出さない訳にはいかない。片目を失おうとも、お前は必要だ。先程は、お前抜きで軍師たちを話をしていたが、次は参加してもらう」
「孟徳……! だが……!」
「話はそれだけだ。于禁とはよく酒を飲んでいると聞いたが、将同士が不和というのは士気が下がる可能性がある。不和などあってはならぬ」
 それだけ言った曹操が立ち去った。一人きりになれば、そこで寝台の上に座って于禁に言ったことを思い出す。
 散々に酷いことを吐いていた。自身が兵ならば、或いは普通の将ならば首を切り捨てられていたのかもしれない。しかし于禁にとって上官だ。それに互いに特別な想いもある。いや、特別とはいえど想い合っている期間はまだ短い。それにきっかけは、かなり不純な動機からであった。
 頭を抱えてしまったのだが、陽が昇ってから于禁に謝ろうと考える。しかしどう謝ればいいのか分からない。単純に、言葉を述べるべきか。それか酒を携えてでも行くべきか。
 幾つか案はあったものの、于禁に通じるかどうか不安になる。于禁は怒っていたのだが、理由は自身の情けなさから来るものかもしれない。
 寝台に転がしていた軟膏の壺を取り出せば、蓋を開ける。薬の匂いがしたのだが、これと一生付き合っていかねばならないのかもしれない。匂いからして、消毒を目的としているのだろう。
 一旦、巻かれた布を外せば分泌液でかなり濡れていた。気持ちが悪い。手鏡ならあるので、それで辛うじて確認すればやはり片目は無い。見た目は最悪であった。
「……仕方あるまい」
 この傷同様に、于禁と向き合っていくしかない。手鏡を割ることなく伏せれば、先程たたき割った姿見の破片を見る。物や一部の身体は修復できないのだが、人間関係はいつか修復できるのだ。それがいつになるのかは分からない。だが、于禁からの想いを信じようと思った。
 傷口に軟膏を塗ってから、寝台の上に横になる。傷口が少し沁みるのが分かるが、それも仕方あるまい。傷は傷であり、眼以外はじきに治るだろう。とにかく待つしかない。
 眼を閉じれば、そこで瞼の裏に于禁の顔が甦る。辛そうな顔をしていた。怒った顔をしていた。それくらいに、自身のことを好いていることが分かるのだ。
 未だ暗くしていない部屋の中で、本日は疲れたと思いながら眼を閉じた。

 翌朝は軍議があった。いつものように曹操と共に最後に軍議の場に入る。その時には片目にまた新しい清潔な布を巻いていた。分泌液は出ていないし、血の気配もない。昨夜の軟膏が効いたのだろうか。
 片目を失い、平衡感覚が掴めない。時折に足を崩しかけては、曹操に支えられる。やはり情けない。軍議に居た者皆がざわついていた。于禁はこちらを見ており、いつにも増して険しい顔をしている。今は、どのような感情があるのか知りたくなる。しかし于禁に何かを話す資格などあるのだろうか。散々なことを言ってしまった故に。
 末席を見ればやはり于禁が居り、頭を下げて拱手しているのが見えた。これは、曹操に対してなのか。少し怒りが湧いていれば、筍彧が心配げにこちらを見た。
「夏侯惇殿……」
「筍彧、大丈夫だ。これは、そういう体として見れば良い」
 思い出せば、失明した瞬間に筍彧が立ち会っていた。矢が突き刺さった瞬間に美しい顔を歪めていて、少し申し訳ない気持ちになる。しかし痛みでそれどころではなくなり、最終的にはすぐに矢を引き抜いたのだが。
 これは、自身の不注意だとも思った。眉間に皺を寄せていれば、典韋も心配する。だが今は心配されに来ているのではない。董卓や呂布を討つ為にこの場に立っているのだ。口を開こうとすれば、曹操が咳払いをする。
「軍議を始める」
 曹操が冷静な性格で良かったと思える。この場でどのような顔をすれば良いのか分からないからだ。
 動物の皮をなめした大きなものに、筆で地図が書いてある。あれが皆に見えるように張られているのだが、曹操が地図のとある箇所を指差す。何も書いていないのだが、ここに進軍するのだろう。自身は何も聞いていないが、そういえば昨夜は軍師と話し合ったと聞いていた。何か作戦があるのだろうか。
 そこで筍彧や筍攸などが立ち上がれば説明をしていく。何も話を聞いていない状態で軍議に参加するのは久しぶりである。
 だが昨日怪我したばかりだ。傷口が時折に脈討たせながら、話を聞いていく。作戦は分かったのだが、馬に乗れるのだろうか。刀は振れるのだろうか。不安が過る。
「夏侯惇殿、貴方には指揮のみで出陣して頂きます。まだ、片目では無理があるでしょう」
 筍攸が目を伏せながらそう言うのだが、本人は失礼とでも思っているのだろう。悔しいが、筍攸の言っていることは至極真っ当なことである。眉間の皺が更に深くなった。
「……皆、早く董卓と呂布を討ち、脅威をくじかせるぞ」
 于禁がこちらを見ていたような気がした。何か言いたいことでもあるのだろうか。まだ、怒っているのだろうか。そこで曹操も于禁を見た気がしたが、気のせいだろうか。
「これにて解散だ。皆、それぞれの配置につけ」
 そこで軍議が終われば、末席の于禁は最初に軍議の場から離れた。背中を視線で追いかけるのだが、何も伝わる訳がない。言葉にしなければ、伝わる訳がない。
 控えめに肩を落としていれば、曹操が案じたらしい。
「今回は指揮だけしてくれたら、こちらに勝機があるのやもしれぬ」
「あぁ……」
 地図を見れば、新しい線を見つけた。やはりこのままでは足手まといになる。もう一度曹操に返事をしてしまっていれば、軍師たちが駆け寄っていた。皆、心配の言葉をかけてくれて嬉しい。少しは、于禁への不安などが和らいだ気がした。
 だが、戦場に立つ不安はまだ抜けない。地図に書かれた新しい線に、全く気付かなかったのだから。
「ふむ、少し手合わせでもしようではないか、夏侯惇。行くぞ」
「あ、あぁ」
 曹操なりに、優しくしてくれているのだろう。先に行ってしまう背中に着いて行けば、曹操の自室に共に入る。
「確か……潰した刀があった筈だ」
「孟徳、そこまで……」
「これはお前の為だ」
 きっぱりと言いながら、刃を潰した刀を差し出してくれた。これで、少しは練習をしようと言うのだ。
「行くそ、夏侯惇」
 曹操も刃が潰れた刀を持てば、単純な動きで振る。以前の自身であれば躱す、或いは受け流すことくらいは容易かった。しかし今は刀を持って正確な場所を把握するのに苦労し、曹操の刀の刃先が自身の心臓を突くような動作をする。
「……少しずつ、慣れていけばいい。時間は無いもやもしれぬが」
「孟徳……」
 そう言って曹操が刀を回収すれば、肩をぽんと叩いてくれた。安心が広がる。
「皆には事情を伝えてあるが、慣れぬ内は頼れ。それも将の務めだ」
「分かった」
 涙が出かけたのだが、代わりに出るのは失明した箇所から出る分泌液。だらしない自身に溜め息をつきかけるのだが、曹操は「頼りにしている。昔からそうだっただろう」と告げてくれた。心が楽になった気がした。
 そして少しでも戦意が戻って来た気がしたのだが、そこで于禁のことを思い出す。どう言えばいいのか分からない。頼りにしたら、于禁はどのような反応を示すのだろうか。
 これからの日々が、少し怖くなっていた。

 董卓が死んだらしく、討ったのは呂布だ。まずは驚いた。まさか内部でそのようなことが起きていたとは。呂布が討ってくれたことにより、こちらの負担は減った。しかし世はまだ呂布を恐れている。
 その頃に、漸く片目で生きていくことに慣れていった。眼帯を身に着けるが、案外しっくりときた。これは武人としては情けないが、誰もが仕方ないと言ってくれる。何が仕方がないのか、と常々思う。これは誰もが口にするが、本音はどうなのだろうか。もしや陰口などを言われているのではないか。そう思えた。
 そしてそれまでに、数々の兵やそして将が死んでいた。手を合わせる暇などないくらいに。正直、董卓が死ぬまで多くの犠牲を生み出してきている。その屍の上で生きて戦う自身らは、死んだ者たちにどのような言葉を向ければいいのか分からなくなっていた。兵一人の死すら、必ず誰かが悲しむというのに。
 于禁はまだ死んでおらず、安心した。だが未だに不和は解決しておらず、軍議の場でも戦場でもぎこちないと自覚はしていた。曹操は呆れているのか、もはや于禁との仲を言ってこない。このまま、自然に回復するか現状維持するかのどちらかだ。今の自身ならば、後者を選ぶ。これ以上、于禁に嫌われたくはない。一度体を開いたということもあるが、やはり好きになってしまったのだ。
 次の脅威は呂布だ。董卓は個人での力は兵何十人も集めれば、討つことはできるだろう。しかし呂布は単騎でも恐ろしいくらいに兵を寧ろ蹂躙する。どう戦えばいいのか、誰もが悩んだ。時折に孫権や劉備とも顔を合わせるが、肩をすくめるばかり。もしも呂布が天下を得たらと思うと、暗い未来しか見えなくなっていた。
「残りは呂布か、或いは……」
「……夏侯惇よ、呂布が討たれた後のことを考えているのか? 何も分からないではないか」
 机に向かって少し酒を飲んでいる曹操が、自室に来ていた。窓から夜空を見、そう呟いている次第。
 しかし曹操の言っていることがいみが分からなかった。呂布の他にも、脅威が存在するというのか。
「陳宮は呂布についておるし、張遼という手強い将も居る」
「そうだが……」
 やはりその二人も、量で制圧できると思った。
 返事をしてから、自身も酒を喉に通していく。考え事をしながら飲む酒は、あまり美味くはない。曹操も同じだろうと思っていれば、残りの酒を全て飲んだらしい。椀を机の上に置く。なので酒を注ごうとすれば、首を横に振るので酒壺を机に戻す。
「……乱世が終わるのは、いつだろうか」
「分からん。俺たちが生きている限りは、続くやもしれんが、どうだろうな」
 この乱世が辛いのは分かる。何かの脅威を意識して生きるということは、あまりにも苦痛過ぎる。それも、自身らは直接的に抗っている立場だ。反撃を受けてただでは済まない時は毎回である。いつ死ぬかは分からない。もう、この城に帰ってこられないのかもしれない。戦場で死ぬのかもしれない。
「董卓が討たれ、少しは兵の士気が上がった。呂布と衝突していたらしくてな、それでだが、呂布は……」
 曹操はあまり弱いところを見せない。それは人々を纏める者の務めでもあるからだ。
 しかし一方で自身はどうだろうか。片目を失明したときは、于禁に弱いところを見せていた。それも、情けなく怒っていたのだ。あの時は頭に血が上り、恐怖を顔に出してしまった。今思っても恥ずかしいし、言ったことを撤回することなどできない。
 するとあれがきっかけで、まだ于禁とは話せなくなったことも頭に浮かんでしまう。どうして、思考の傍らに于禁のことが出てくるのか。これはもう好きなのではないか、そう思うのだがやはりまだ何を話していいのか分からなくなる。勇気もない。
「于禁のことか?」
 くすっと笑いながら曹操が言った。言い当てられてしまい顔が熱くなっていくが、関係はどう思われているのだろうか。もしや、肉体関係まであるとは思うまい。
「于禁とは、よく酒を飲む仲なのだろう? どうした? お主たちは、どうしたのだ?」
「……いや、その」
 あまりにも情けないので、理由を言える訳がない。嘘でも言ってしまおうかと考えるが、曹操は嘘を見抜くのが上手い男だ。それに舌戦にも長けている。無理だと思い、本当のことを述べていく。ただし、肉体関係を持っていることは避けることにした。
「俺がこんなことになったから、それで、八つ当たりをしてしまって……」
 今や慣れた眼帯を指差す。
「確かに、あの時のお主はよく怒っていたな。だが、于禁はそのような理不尽には怒らない男だと思うが? 他に理由がある筈だ」
 返す言葉がない。あの時、二人きりのときは字で呼び合っていたというのに、八つ当たりしているときは字では呼ばなかった。それに于禁は不服に思ったのだろう。
 それは言えないと思っていれば、曹操が溜め息をつく。
「于禁は誰とも仲を持っていなかった。しかしお前とよく酒を飲んでいることに気付いて、このままで居て欲しいと思ったのだ。あわよくば、他の者ともな。于禁には、戦ばかりして欲しくない。この乱世故に」
 何と下官思いの男なのだろうか。于禁の顔を思い出し、そして数々の戦場を思い出す。曹操の言う通りに、戦ばかりはして欲しくないのは確かだ。だが、于禁自ら言っていたが、自分には戦しかないと言っていた。しかし自身と肉体関係を持ち、そして想い合ってからは戦と自身の為に生きてくれている筈だ。曹操には、やはりまだこのことは言えないのだが。
「まだ言えぬことがあるのだろう。言えないなら言わなくとも良い。だが、これは聞いてくれ。于禁との最後の対話を、怒りにしたくはないだろう?」
 まるで于禁が次の戦で死ぬかのような言葉だ。いや、それが正しいのかもしれない。曹操の言う通りに、乱世故にいつ死ぬか分からないのだ。
 もしも次の戦で于禁が討たれたのなら、確かに絶望と後悔しか残らない。于禁とはそうなりたくない。
 目頭が熱くなっていけば、曹操が立ち上がった。そろそろ自室に戻るらしいが、これは涙が出そうな自身を気遣ってくれているのか。
「またな」
「あぁ」
 短いやりとりをすれば、すぐに一人きりになる。残っているのは、自身と二人分の椀だ。それを捉えてから一呼吸置き、涙がぼろぼろと流れてくる。
 于禁に謝ろう。上官といえど、悪いのは自身だ。それに恋仲の関係を続けたいのもあった。証拠として、于禁のことを想い、戦死することを想像して泣いているからだ。これは好きで好きで堪らないのだろう。
 そこで、行動を起こすなら今しかないと思った。まずは涙を拭こうとするのだが、布で拭いても拭いても流れてくる。顔がびしょ濡れで、于禁に見せられない状態だ。
 ならば翌朝にでも、そう思ったのだが于禁は鍛錬をしているのだろうか。邪魔をするのは良くない。
「まだ、起きていると良いのだが」
 涙はまだ引かないが、これでも構わない。とにかく、于禁に伝えなければならないのだ。
 立ち上がってから部屋を出るのだが、見回りをしている兵に話しかけられることもあった。しかし「何でもない」と突き通すと、遂に于禁の部屋の前に到着する。扉越しからは音も何も聞こえず、まるで気配がない。眠っているのだろうか。ならば引き返すしか、そう思いながら踵を返せば声がした。
「誰だ」
 于禁の声だった。振り向いてみれば、平服を纏い髪を軽く結っている。何か作業でもしているのだろうか。
 だが自身の顔を見るなり、于禁は顔を青ざめさせる。
「いえ、その、申し訳……」
 謝る言葉を出しかけた、そのところで于禁の体を掴んでから部屋に入り込む。燭台に火が点いており、やはり何か作業をしているようだった。
「……于禁、その、すまない……俺が目を負傷したときに……あまりにも情けなくて……悪い言葉を向けてしまって、すまない……」
「夏侯惇殿……」
 涙は止まらない。視界か霞んでいくのだが、于禁の逞しい輪郭はぼんやりと分かった。それを追っていけば顔がはっきりと見えた。どうやら怒ってはいないのだが、動揺しているように見える。突然に来て、突然に謝って来たからか。
「于禁……いや、文則……都合の良いように振り回してすまなかった……あの時は、すまなかった……頭に血が上っていたのだ……お前を罵り、鏡を叩き割り……」
 あの時のことは後悔となっている。于禁にとってはどのような時であったのだろうか、このまま頭でも下げたい気持ちだ。上官としての威厳はない。ひたすらに、于禁を取り戻したいのだ。
 見上げれば、于禁の顔が歪んでいくのが見える。これはどういう反応なのか。許してくれるのか、或いは許してくれないのか。
 于禁の審判はどちらなのか、次第に結果が知りたく知りたくもなくなる。このまま、この時が永遠に続いて欲しいとも思える。自身の中では、許してくれない方に軍配が上がっているのだから。
「あの……」
「いや、やはり、だめだ! お前とは……」
 視線を下げ、そして冷や汗をだらだらとかく。これから先、どのように生きれば良いのか分からない。于禁とこのまま、永遠に仲違いしたまま死んでしまう可能性もある。そのようなことは嫌に決まっている。
「あの、貴方のことは、一時的な衝突だと思っていまして……」
 ふと、視線を上げた。そして声を上げれば于禁がそっと抱き締めてくれた。つまりは許さないも何も、自身ことを既に許していたというのだ。次に気の抜けた声を出していれば、于禁までも謝ってくる。
「まだ、貴方が怒っておられると思いまして……」
「いや、俺もだ……」
「貴方も……? 私は、あの時は怒ってはおりませぬ」
 怒っていない、どういうことなのだろうか。確かに于禁はあの時険しい顔をしていた。怒っていたと誰もが思うだろう。
「……私の顔が元から、そのような顔なので」
「すまんな」
 于禁の自虐のようなものについ笑ってしまえば、背伸びをして口付けをした。そういえば先程酒を飲んでいたのだが、大丈夫なのだろうか。唇を離せば、于禁がすぐに「酒……」と呟く。
「お一人で飲んでおられたのですか?」
「いや、孟徳とだ」
「殿と……いえ、殿に嫉妬しては……」
 曹操の名を出した瞬間に、于禁の顔がかっと赤くなった。やはり言う通りに瞬間的に嫉妬してしまったのだろう。曹操とはそのような仲ではないと否定し続けているのだが、于禁の反応が可愛らしい。そして于禁を弄ぶのが少し楽しいと思えてしまった。
「私で遊んでいるのでは?」
「違う違う」
 僅かに心を読まれているような気がしながら、于禁と何度も何度も唇を重ねていく。次第に互いの舌を絡めていけば、それは熱い口付けになっていった。下半身が興奮していくので、それを于禁に押し付けた。瞬時に舌の動きが止まる。
「っ……元譲……貴方……」
「仕方ないだろう? お前と居るとこうなるのだ」
 どんどん膨らんでいく下半身をもっと着物越しに擦っていけば、于禁のものも反応しているのが分かった。
「文則、寝台に連れて行け」
「はい」
 自身の体を容易く抱き抱えれば、そのまま寝台に素早く移動させる。まずは寝かせてくれてから、その上に于禁が覆い被さった。そういえば、体を交えるのはまだこれで二回目なのだろうか。回数が少ない気はしない。
「脱がせろ」
「はい」
 于禁をこうして命令すると、体がぞくぞくとした。抱かれるのは自身だというのに、于禁を言いなりにさせてるのがとてつもなく興奮する。これは、最中でもそうなのかもしれない。
 自身の着物を于禁が次々と脱がせていく。すぐに裸になれば、勃起している下半身を于禁に見せつけた。ごくりと、生唾を飲む音が聞こえてくる。
「……貴方の魔羅を、舐めてもいいですか」
「好きにしろ」
 足を開けば、于禁がすぐに頭を下げてから唇を下半身に近づける。我慢汁を垂らしているが、それを嗅いでいた。さすがにそれは想定していなかったので、于禁の頭を掴む。しかし遅かったようで、于禁の鼻と下半身が至近距離にまで来た。少し、恥ずかしい。
 やがては舌が伸び、下半身を言う通りに舐めていった。最初は我慢汁を掬うように動いていったのだが、動きは大胆になっていく。先端の括れを舌で撫で、そして頬張った。ぬるりとした温かいものに包まれて、気持ちが良い。しかし于禁に貫かれることと比べれば、それほどでもなかった。やはり于禁の魔羅で気持ちよくなりたいのだ。
「文則……魔羅が、欲しい……」
「ん、んっ……なりませぬ、まだ、貴方を味わっておりませぬ」
 これだけは断られた。悔しくなり両足で于禁の頭を挟むのだが、動じることはない。寧ろ少し目が垂れていた。もしや、自身の肌に挟まれて嬉しいのだろうか。
「変態め」
 顔をしかめながらそう言うのだが、于禁には効いていない。太腿に頬ずりをしながら魔羅を咥えれば、蜜を吸う幼子のようにちゅぱちゅぱと舐めていく。于禁ほどの男が、これほど口淫が上手いのだろうか。
「練習でもしたのか?」
「ん、んぅ……んっ、んぶ、ん……ちがい、ます……」
 舌までも使い、下半身を責めてくる。動きがまたしても巧みになっていけば、于禁の口腔内が狭まる。頬が細まっていけば精を吸い出す動きに入ったようだ。
 そこは狭く熱い。故に気持ちいいのは男の性ではあるのだが、これよりも強い快楽を知っている。やはり于禁の魔羅で果てなければ、満足しないのだ。
 頑なにそう思うのだが、体は目の前の快感に正直である。于禁の口腔内で達したのだが、吐いた精を水のように飲み込んでいく。ごくごくと、何度も音が鳴っていた。それくらいに美味いのか。
「ん、んぐ……っはぁ、は……元譲の精、美味しゅうございます」
「っ……! 変態め……!」
 于禁がここまでとは思わなかった。少し話さない間に何があったのだろうか。好いてくれていた思いがあったとは言っていたのだが、拗らせてしまったのだろうか。
 自身の下半身が射精後にびくびくと震えており、勃起はまだ続いている。思えば最近はご無沙汰であった。今宵は于禁に相当に善くされることを覚悟しながら、太腿の内側で于禁の頬を擦る。今更ながらに、髭で少しちくちくした。
「変態で結構」
 言い切った後の唇は、再び下半身に向かっていく。そしてまたしても下半身を頬張れば、次は唾液を絡めながらじゅぶじゅぶと頬の内側で責めていく。ぬるぬるとした箇所で責められていくのだが、女を抱いているときの感覚を思い出す。
 しかしそれでも変わらない。やはり体の中に于禁の魔羅を収めたいのだ。
「文則、文則! 早く……ぅあ!? ぁ、あ……や、ぁ!」
 何か言えば、黙れと言わんばかりに于禁が音を出しながら下半身を吸う。快楽には勿論負け、言葉の途中で喘いでしまっていた。
「ぁ、あ……ん、ん!」
 于禁の口腔内で二度目の射精をした。自身の腰は惨めにも震えており、于禁がそれを目で捉えていた。だが容赦なく下半身を何度も何度も吸っていく。これではもはや、快楽拷問である。それも厳しい性格の于禁である為に、これは長く続くだろう。
 顔を挟んでいた足は、だらりと落ちてしまう。
「ゃ、や! 文則……! も、いい! 文則!」
 言葉を無視される。捻り出される精を于禁が全て飲み干すのだが、これでは枯れた後に抱かれる羽目になると予想してしまう。
 無言で于禁が夢中かのように下半身を吸っていれば、とうとう三度目の射精を迎える。于禁はそれも調子よく飲んでいった。ここまで吸われたのは初めてだ。このままでは、両方の玉が軽くなってしまうだろう。少しの恐怖を覚えた。
「やめ、文則! 文則!」
 于禁の頭を掴むのだが、びくともしない。これは于禁の力が強いのか、或いは自身の力が抜けてしまっているのか。
 射精後の倦怠感を迎えてしまえば、腰ががくがくとまたしても震える。これ以上は、これ以上はどうにかなりそうだ。四度目もなお于禁の口腔内で射精してしまい、そして抱かれてしまえばどうにかなりそうだ。
「ぁ、あ……! んんっ、ん……ぁ、ゃ、やめ……文則……!」
 しかしここまで自身の精を好んでいる于禁が異常に思えた。それくらいに好いていてくれているのは分かるが、これは予想を遥かに超えている。二度目くらいで、そろそろ抱いてくれると思ったのだ。
「文則、もう、文則……ぁ、あっ!? っう、あ、あ……」
 五度目の射精を迎えれば、于禁は飽きもせずに飲む。だが玉がやはり軽くなったところで萎えてしまうので、ようやく于禁が解放してくれた。もう性欲も何も無い。疲れてしまったのだ。
 自身の下半身を見れば、于禁を前にしているのにへにゃりと頭を下げている。
「ここから、ですよ元譲……」
 ゆらりと于禁が覆い被さるのだが、抵抗する力もない。ぐったりとしながら首元に生暖かい感覚がぬるりと滑るような気がした。次はそこを舐めているらしい。
「あ……ぁ、はぁ……あ……」
 首の皮膚も吸われる。音はじゅうじゅうと鳴っており、頭の中が溶けていくような気がした。吸う音が、頭の中でかなり響いているからだ。
 口をだらしなく開ければ、唾液をだらだらと垂らしてしまう。
「ん、ん……」
 そこで于禁が結っている髪の紐が緩んでいるような気がした。それを引けば、はらりと長い髪が散らばる。綺麗だ。
「元譲、私も、脱いでもよろしいですか?」
「脱ぐなら、早く魔羅をくれ」
「それはまだです」
 頑なに、于禁は魔羅を出したがらない。何かあるのだろうか。疑いをかけていれば、次にはすんなりと于禁が告げる。
「まだ、貴方の全身を味わっておりませぬ。申しましたが」
 言いながら于禁が着物を脱げば、そこには立派な魔羅があった。どくどくと脈打っており、これは人間のものではないように見えた。色からして、馬のようなものだと捉えてしまう。
 しかしこれが欲してやまない魔羅だ。見とれていたが、于禁の断りを聞いて反論をしたくなる。
「だが……」
 すると于禁が片方の胸を掴んだ。そこは女のようには膨らんでいないのだが、まるでそうであるように揉んでくる。擽ったい。
「元譲、ここは気持ちよくないのですか?」
「何も感じんな……」
「そうですか」
 最後にと下を向いている乳首をぎゅっと摘んだのだが、そこで脳が痺れたような気がした。つい「そこ、文則……!」と呼んでしまう。
「ん? ここが、どうされたのですか? 気持ちが良いのですか?」
「っ……分からん……! だが、どうにも頭が変になる……!」
「ほう」
 少し考えた様子の于禁は、もう一度同じ乳首を摘んだ。声が出る。
「ぁ、あっ!」
「成程」
 何が成程なのかは分からないのだが、于禁はこちらのことが分かったらしい。自身はただひたすらに脳が痺れることしか分からないというのに。
 弱く睨んでいれば、何度も乳首を摘んできた。それに比例して、声を何度も上げる。
「ぁ、あっ、あ、あ! あ! あ、っあ!」
 于禁の太い指が時折に乳首を潰すように摘んでくる。それが、次第に快楽へと変わっていった。気持ちが良くて仕方がないのだが、下半身は何も反応を示さない。雄の体としては、どうなってしまうのだろうか。
「ここも可愛らしい反応をして頂けるとは。では……」
 指を離したのだが、寂しさが押し寄せる。まだ、于禁に構って貰いたかったのだ。なので「文則……」と呟いていれば、于禁が唇を乳首に寄せてから吸う。
「ん、んぅ!?」
「ん、ん、ん……はぁ……はぁ……元譲の乳……」
 まるで子に乳をやる乳母にでもなった気持ちになる。こりこりと張った乳首を于禁がちゅうちゅうと吸っているからだ。ここもまた音を大層に立てており、聴覚までも犯されていっていた。
「ぁ! あん……ん……文則、そこ、好き……ぁ、は……はぁ……」
 先程垂らしていた唾液の量が多くなった気がする。そう思いながら乳首を吸われていけば、下半身が込み上げるよう感覚が流れてくる。勃起など、していないというのに。
「ぁ、あ!? ま、待て、文則……! ぅ、う……!」
 無様に腰を痙攣させれば、射精した後のような倦怠感が起きる。これは、何なのだろうか。
「あ……文則、俺、今……」
「……厭らしいですな」
 唇を離した于禁の目が笑っている。そしてこちらを見ているのだが、見せつけるかのように、乳首を舌先で転がしていた。厭らしいのはどちらだというのか。
「ぁん……ん……ぶんそく、おれ、もう……」
「まだなりませぬ……」
 がちがちに硬い魔羅をへその下に押し付けてくる。それは我慢汁をよく垂らしており、まるでここに挿入してやると誘われているように思えてしまった。于禁はまだ、挿入する気はないというのに。
 そしてここに、精を放たれたらどんなに嬉しいことか。考えただけで鼻息が荒くなっていけば、于禁がつまらなさそうな目をしながら乳首を噛んだ。痛いのだが気持ちが良い。
「ん、んっ……! はぁ、は……やらぁ、ぶんそく……」
 次第に呂律が回らなくなっていくのを感じた。これは、思考回路や神経の全てを于禁に捧げているからなのかもしれない。
 ようやく乳首から唇を離してくれるのだが、于禁に可愛がられたので赤く腫れていた。今すぐにでも、乳を出すかのような乳首の大きさだ。
「それで、貴方はいつ乳を出されるのですか?」
 真面目に于禁がそう聞くのだが、出るなど有り得ない。自身は男だ。女ではあるまいし、そう思っていればまだ慣れていない方の乳首を吸っていく。
「ぁ、あ、はぁ、ぁ……ぁん、ん! ん、ん! もう、いいから、もう……!」
「そう仰るのであれば、どうして喘ぐのですか?」
 直球な質問が来た。確かに喘いでいるのが悦んでいる証拠になる。もう止めて欲しいのだが、身体は止めて欲しくはないのだ。白痴になりそうであった。
「ん、ぁ……はぁ、は、あたまが、おかしく、なるから……!」
「なってしまえば良いのでは? 私の前ではなって下され」
 それは残酷な答えであった。まるで、自身を全て于禁が手に入れると言わんばかりの言葉だ。しかし正気に戻ることなどない。脳内で先程から得ている快楽が、正気をどんどん食っていくからだ。
 なので于禁の言葉を脳内で反芻していくうちに、これは正常な答えだと判断した。ゆっくりと、口角を上げる。
「ん……ぁ……あ、そうだな……ぶんそく……」
「ええ、そうです元譲」
 舌を出した于禁がまだ小さい乳首を舐めていけば、背中をしならせる。気持ちが良くて仕方ないのだ。そしてこのまま頭がおかしくなるとすれば、どうやっておかしくなってしまおうか。于禁に子種を乞うか、乳首と尻だけで射精できるように仕込んでもらうべきか。
 どちらも良いと考えていれば、乳首を強く吸われた。気持ちが良いうえに、先程の感覚が弱くだが走る。やはり絶頂を迎えたような気分になっていた。
 箍が外れたのか、自然と笑ってしまう。
「ぁ、あ……ぶんそく……」
 湧いてくるのは于禁への感情。好いているということと、頭をおかしくして欲しいということ、そしてこの体をもっと可愛がって欲しいということ。
 ぶつける為に視線を注いでいれば、目が合った。またしても乳首を見せつけるかのように舐めているのだが、とても美味そうに食ってくれている。嬉しい。
 雌のような感情が出たところで于禁が乳首を吸い、遂には両方の乳首が腫れてしまった。厭らしい体にどんどん改良されてしまう。
「ぁ、あぁ! ぶんそく、ぶんそく! くちすいを!」
 狂ったように求めるのだが、于禁が一瞬だけ躊躇していたのが分かる。さすがに、自身の下半身を舐めた口では口吸いをするかどうか迷っていたらしい。
 しかし理性などもうなく、どうでもよいのだ。なので于禁の脇を抱えてから同じ視線に上げれば、唇を吸った。青臭い味がしたが、次第に甘さが広がってくる。于禁の甘さだ。
「ん、んぅ……ん、んん、っ……」
 夢中でむしゃぶる。于禁の唇、口腔内、舌、歯を。
 次第に唾液が立つ音が聞こえてくれば、互いの鼻息がかかり髭がぶつかる。
 不快などない。なのでそのまま口吸いを続けていれば、于禁が舌を出した。舌を絡めろということらしい。なので舌を出せば、絡みついてきた。そこで脳を吸われる感覚が過ぎるが、于禁を前にしてみればもう溶けているも同然。吸って欲しいと言うように、于禁の厚くざらざらとした舌を舐めていく。
「ん、んぅ! ん、んんっ、はぁはぁ……は……元譲……」
 互いにじゅるじゅると分泌する唾液まで吸っていけば、どうしてか呼吸が持たなくなったらしい。于禁から唇を離してから呼びかけてきた。
「ん……はぁ……ぶんそく、まらは、まだか……」
「はい……只今……」
 于禁の唇からは、唾液がだらだらと垂れていた。どちらのものかは分からないが、拭う気は無いらしい。それくらいに、于禁の余裕が無いことが分かる。
 舐め取ってしまいたい、そう思いながら于禁を抱き締めた。

 董卓が死んだらしく、討ったのは呂布だ。まずは驚いた。まさか内部でそのようなことが起きていたとは。呂布が討ってくれたことにより、こちらの負担は減った。しかし世はまだ呂布を恐れている。
 その頃に、漸く片目で生きていくことに慣れていった。眼帯を身に着けるが、案外しっくりときた。これは武人としては情けないが、誰もが仕方ないと言ってくれる。何が仕方がないのか、と常々思う。これは誰もが口にするが、本音はどうなのだろうか。もしや陰口などを言われているのではないか。そう思えた。
 そしてそれまでに、数々の兵やそして将が死んでいた。手を合わせる暇などないくらいに。正直、董卓が死ぬまで多くの犠牲を生み出してきている。その屍の上で生きて戦う自身らは、死んだ者たちにどのような言葉を向ければいいのか分からなくなっていた。兵一人の死すら、必ず誰かが悲しむというのに。
 于禁はまだ死んでおらず、安心した。だが未だに不和は解決しておらず、軍議の場でも戦場でもぎこちないと自覚はしていた。曹操は呆れているのか、もはや于禁との仲を言ってこない。このまま、自然に回復するか現状維持するかのどちらかだ。今の自身ならば、後者を選ぶ。これ以上、于禁に嫌われたくはない。一度体を開いたということもあるが、やはり好きになってしまったのだ。
 次の脅威は呂布だ。董卓は個人での力は兵何十人も集めれば、討つことはできるだろう。しかし呂布は単騎でも恐ろしいくらいに兵を寧ろ蹂躙する。どう戦えばいいのか、誰もが悩んだ。時折に孫権や劉備とも顔を合わせるが、肩をすくめるばかり。もしも呂布が天下を得たらと思うと、暗い未来しか見えなくなっていた。
「残りは呂布か、或いは……」
「……夏侯惇よ、呂布が討たれた後のことを考えているのか? 何も分からないではないか」
 机に向かって少し酒を飲んでいる曹操が、自室に来ていた。窓から夜空を見、そう呟いている次第。
 しかし曹操の言っていることがいみが分からなかった。呂布の他にも、脅威が存在するというのか。
「陳宮は呂布についておるし、張遼という手強い将も居る」
「そうだが……」
 やはりその二人も、量で制圧できると思った。
 返事をしてから、自身も酒を喉に通していく。考え事をしながら飲む酒は、あまり美味くはない。曹操も同じだろうと思っていれば、残りの酒を全て飲んだらしい。椀を机の上に置く。なので酒を注ごうとすれば、首を横に振るので酒壺を机に戻す。
「……乱世が終わるのは、いつだろうか」
「分からん。俺たちが生きている限りは、続くやもしれんが、どうだろうな」
 この乱世が辛いのは分かる。何かの脅威を意識して生きるということは、あまりにも苦痛過ぎる。それも、自身らは直接的に抗っている立場だ。反撃を受けてただでは済まない時は毎回である。いつ死ぬかは分からない。もう、この城に帰ってこられないのかもしれない。戦場で死ぬのかもしれない。
「董卓が討たれ、少しは兵の士気が上がった。呂布と衝突していたらしくてな、それでだが、呂布は……」
 曹操はあまり弱いところを見せない。それは人々を纏める者の務めでもあるからだ。
 しかし一方で自身はどうだろうか。片目を失明したときは、于禁に弱いところを見せていた。それも、情けなく怒っていたのだ。あの時は頭に血が上り、恐怖を顔に出してしまった。今思っても恥ずかしいし、言ったことを撤回することなどできない。
 するとあれがきっかけで、まだ于禁とは話せなくなったことも頭に浮かんでしまう。どうして、思考の傍らに于禁のことが出てくるのか。これはもう好きなのではないか、そう思うのだがやはりまだ何を話していいのか分からなくなる。勇気もない。
「于禁のことか?」
 くすっと笑いながら曹操が言った。言い当てられてしまい顔が熱くなっていくが、関係はどう思われているのだろうか。もしや、肉体関係まであるとは思うまい。
「于禁とは、よく酒を飲む仲なのだろう? どうした? お主たちは、どうしたのだ?」
「……いや、その」
 あまりにも情けないので、理由を言える訳がない。嘘でも言ってしまおうかと考えるが、曹操は嘘を見抜くのが上手い男だ。それに舌戦にも長けている。無理だと思い、本当のことを述べていく。ただし、肉体関係を持っていることは避けることにした。
「俺がこんなことになったから、それで、八つ当たりをしてしまって……」
 今や慣れた眼帯を指差す。
「確かに、あの時のお主はよく怒っていたな。だが、于禁はそのような理不尽には怒らない男だと思うが? 他に理由がある筈だ」
 返す言葉がない。あの時、二人きりのときは字で呼び合っていたというのに、八つ当たりしているときは字では呼ばなかった。それに于禁は不服に思ったのだろう。
 それは言えないと思っていれば、曹操が溜め息をつく。
「于禁は誰とも仲を持っていなかった。しかしお前とよく酒を飲んでいることに気付いて、このままで居て欲しいと思ったのだ。あわよくば、他の者ともな。于禁には、戦ばかりして欲しくない。この乱世故に」
 何と下官思いの男なのだろうか。于禁の顔を思い出し、そして数々の戦場を思い出す。曹操の言う通りに、戦ばかりはして欲しくないのは確かだ。だが、于禁自ら言っていたが、自分には戦しかないと言っていた。しかし自身と肉体関係を持ち、そして想い合ってからは戦と自身の為に生きてくれている筈だ。曹操には、やはりまだこのことは言えないのだが。
「まだ言えぬことがあるのだろう。言えないなら言わなくとも良い。だが、これは聞いてくれ。于禁との最後の対話を、怒りにしたくはないだろう?」
 まるで于禁が次の戦で死ぬかのような言葉だ。いや、それが正しいのかもしれない。曹操の言う通りに、乱世故にいつ死ぬか分からないのだ。
 もしも次の戦で于禁が討たれたのなら、確かに絶望と後悔しか残らない。于禁とはそうなりたくない。
 目頭が熱くなっていけば、曹操が立ち上がった。そろそろ自室に戻るらしいが、これは涙が出そうな自身を気遣ってくれているのか。
「またな」
「あぁ」
 短いやりとりをすれば、すぐに一人きりになる。残っているのは、自身と二人分の椀だ。それを捉えてから一呼吸置き、涙がぼろぼろと流れてくる。
 于禁に謝ろう。上官といえど、悪いのは自身だ。それに恋仲の関係を続けたいのもあった。証拠として、于禁のことを想い、戦死することを想像して泣いているからだ。これは好きで好きで堪らないのだろう。
 そこで、行動を起こすなら今しかないと思った。まずは涙を拭こうとするのだが、布で拭いても拭いても流れてくる。顔がびしょ濡れで、于禁に見せられない状態だ。
 ならば翌朝にでも、そう思ったのだが于禁は鍛錬をしているのだろうか。邪魔をするのは良くない。
「まだ、起きていると良いのだが」
 涙はまだ引かないが、これでも構わない。とにかく、于禁に伝えなければならないのだ。
 立ち上がってから部屋を出るのだが、見回りをしている兵に話しかけられることもあった。しかし「何でもない」と突き通すと、遂に于禁の部屋の前に到着する。扉越しからは音も何も聞こえず、まるで気配がない。眠っているのだろうか。ならば引き返すしか、そう思いながら踵を返せば声がした。
「誰だ」
 于禁の声だった。振り向いてみれば、平服を纏い髪を軽く結っている。何か作業でもしているのだろうか。
 だが自身の顔を見るなり、于禁は顔を青ざめさせる。
「いえ、その、申し訳……」
 謝る言葉を出しかけた、そのところで于禁の体を掴んでから部屋に入り込む。燭台に火が点いており、やはり何か作業をしているようだった。
「……于禁、その、すまない……俺が目を負傷したときに……あまりにも情けなくて……悪い言葉を向けてしまって、すまない……」
「夏侯惇殿……」
 涙は止まらない。視界か霞んでいくのだが、于禁の逞しい輪郭はぼんやりと分かった。それを追っていけば顔がはっきりと見えた。どうやら怒ってはいないのだが、動揺しているように見える。突然に来て、突然に謝って来たからか。
「于禁……いや、文則……都合の良いように振り回してすまなかった……あの時は、すまなかった……頭に血が上っていたのだ……お前を罵り、鏡を叩き割り……」
 あの時のことは後悔となっている。于禁にとってはどのような時であったのだろうか、このまま頭でも下げたい気持ちだ。上官としての威厳はない。ひたすらに、于禁を取り戻したいのだ。
 見上げれば、于禁の顔が歪んでいくのが見える。これはどういう反応なのか。許してくれるのか、或いは許してくれないのか。
 于禁の審判はどちらなのか、次第に結果が知りたく知りたくもなくなる。このまま、この時が永遠に続いて欲しいとも思える。自身の中では、許してくれない方に軍配が上がっているのだから。
「あの……」
「いや、やはり、だめだ! お前とは……」
 視線を下げ、そして冷や汗をだらだらとかく。これから先、どのように生きれば良いのか分からない。于禁とこのまま、永遠に仲違いしたまま死んでしまう可能性もある。そのようなことは嫌に決まっている。
「あの、貴方のことは、一時的な衝突だと思っていまして……」
 ふと、視線を上げた。そして声を上げれば于禁がそっと抱き締めてくれた。つまりは許さないも何も、自身ことを既に許していたというのだ。次に気の抜けた声を出していれば、于禁までも謝ってくる。
「まだ、貴方が怒っておられると思いまして……」
「いや、俺もだ……」
「貴方も……? 私は、あの時は怒ってはおりませぬ」
 怒っていない、どういうことなのだろうか。確かに于禁はあの時険しい顔をしていた。怒っていたと誰もが思うだろう。
「……私の顔が元から、そのような顔なので」
「すまんな」
 于禁の自虐のようなものについ笑ってしまえば、背伸びをして口付けをした。そういえば先程酒を飲んでいたのだが、大丈夫なのだろうか。唇を離せば、于禁がすぐに「酒……」と呟く。
「お一人で飲んでおられたのですか?」
「いや、孟徳とだ」
「殿と……いえ、殿に嫉妬しては……」
 曹操の名を出した瞬間に、于禁の顔がかっと赤くなった。やはり言う通りに瞬間的に嫉妬してしまったのだろう。曹操とはそのような仲ではないと否定し続けているのだが、于禁の反応が可愛らしい。そして于禁を弄ぶのが少し楽しいと思えてしまった。
「私で遊んでいるのでは?」
「違う違う」
 僅かに心を読まれているような気がしながら、于禁と何度も何度も唇を重ねていく。次第に互いの舌を絡めていけば、それは熱い口付けになっていった。下半身が興奮していくので、それを于禁に押し付けた。瞬時に舌の動きが止まる。
「っ……元譲……貴方……」
「仕方ないだろう? お前と居るとこうなるのだ」
 どんどん膨らんでいく下半身をもっと着物越しに擦っていけば、于禁のものも反応しているのが分かった。
「文則、寝台に連れて行け」
「はい」
 自身の体を容易く抱き抱えれば、そのまま寝台に素早く移動させる。まずは寝かせてくれてから、その上に于禁が覆い被さった。そういえば、体を交えるのはまだこれで二回目なのだろうか。回数が少ない気はしない。
「脱がせろ」
「はい」
 于禁をこうして命令すると、体がぞくぞくとした。抱かれるのは自身だというのに、于禁を言いなりにさせてるのがとてつもなく興奮する。これは、最中でもそうなのかもしれない。
 自身の着物を于禁が次々と脱がせていく。すぐに裸になれば、勃起している下半身を于禁に見せつけた。ごくりと、生唾を飲む音が聞こえてくる。
「……貴方の魔羅を、舐めてもいいですか」
「好きにしろ」
 足を開けば、于禁がすぐに頭を下げてから唇を下半身に近づける。我慢汁を垂らしているが、それを嗅いでいた。さすがにそれは想定していなかったので、于禁の頭を掴む。しかし遅かったようで、于禁の鼻と下半身が至近距離にまで来た。少し、恥ずかしい。
 やがては舌が伸び、下半身を言う通りに舐めていった。最初は我慢汁を掬うように動いていったのだが、動きは大胆になっていく。先端の括れを舌で撫で、そして頬張った。ぬるりとした温かいものに包まれて、気持ちが良い。しかし于禁に貫かれることと比べれば、それほどでもなかった。やはり于禁の魔羅で気持ちよくなりたいのだ。
「文則……魔羅が、欲しい……」
「ん、んっ……なりませぬ、まだ、貴方を味わっておりませぬ」
 これだけは断られた。悔しくなり両足で于禁の頭を挟むのだが、動じることはない。寧ろ少し目が垂れていた。もしや、自身の肌に挟まれて嬉しいのだろうか。
「変態め」
 顔をしかめながらそう言うのだが、于禁には効いていない。太腿に頬ずりをしながら魔羅を咥えれば、蜜を吸う幼子のようにちゅぱちゅぱと舐めていく。于禁ほどの男が、これほど口淫が上手いのだろうか。
「練習でもしたのか?」
「ん、んぅ……んっ、んぶ、ん……ちがい、ます……」
 舌までも使い、下半身を責めてくる。動きがまたしても巧みになっていけば、于禁の口腔内が狭まる。頬が細まっていけば精を吸い出す動きに入ったようだ。
 そこは狭く熱い。故に気持ちいいのは男の性ではあるのだが、これよりも強い快楽を知っている。やはり于禁の魔羅で果てなければ、満足しないのだ。
 頑なにそう思うのだが、体は目の前の快感に正直である。于禁の口腔内で達したのだが、吐いた精を水のように飲み込んでいく。ごくごくと、何度も音が鳴っていた。それくらいに美味いのか。
「ん、んぐ……っはぁ、は……元譲の精、美味しゅうございます」
「っ……! 変態め……!」
 于禁がここまでとは思わなかった。少し話さない間に何があったのだろうか。好いてくれていた思いがあったとは言っていたのだが、拗らせてしまったのだろうか。
 自身の下半身が射精後にびくびくと震えており、勃起はまだ続いている。思えば最近はご無沙汰であった。今宵は于禁に相当に善くされることを覚悟しながら、太腿の内側で于禁の頬を擦る。今更ながらに、髭で少しちくちくした。
「変態で結構」
 言い切った後の唇は、再び下半身に向かっていく。そしてまたしても下半身を頬張れば、次は唾液を絡めながらじゅぶじゅぶと頬の内側で責めていく。ぬるぬるとした箇所で責められていくのだが、女を抱いているときの感覚を思い出す。
 しかしそれでも変わらない。やはり体の中に于禁の魔羅を収めたいのだ。
「文則、文則! 早く……ぅあ!? ぁ、あ……や、ぁ!」
 何か言えば、黙れと言わんばかりに于禁が音を出しながら下半身を吸う。快楽には勿論負け、言葉の途中で喘いでしまっていた。
「ぁ、あ……ん、ん!」
 于禁の口腔内で二度目の射精をした。自身の腰は惨めにも震えており、于禁がそれを目で捉えていた。だが容赦なく下半身を何度も何度も吸っていく。これではもはや、快楽拷問である。それも厳しい性格の于禁である為に、これは長く続くだろう。
 顔を挟んでいた足は、だらりと落ちてしまう。
「ゃ、や! 文則……! も、いい! 文則!」
 言葉を無視される。捻り出される精を于禁が全て飲み干すのだが、これでは枯れた後に抱かれる羽目になると予想してしまう。
 無言で于禁が夢中かのように下半身を吸っていれば、とうとう三度目の射精を迎える。于禁はそれも調子よく飲んでいった。ここまで吸われたのは初めてだ。このままでは、両方の玉が軽くなってしまうだろう。少しの恐怖を覚えた。
「やめ、文則! 文則!」
 于禁の頭を掴むのだが、びくともしない。これは于禁の力が強いのか、或いは自身の力が抜けてしまっているのか。
 射精後の倦怠感を迎えてしまえば、腰ががくがくとまたしても震える。これ以上は、これ以上はどうにかなりそうだ。四度目もなお于禁の口腔内で射精してしまい、そして抱かれてしまえばどうにかなりそうだ。
「ぁ、あ……! んんっ、ん……ぁ、ゃ、やめ……文則……!」
 しかしここまで自身の精を好んでいる于禁が異常に思えた。それくらいに好いていてくれているのは分かるが、これは予想を遥かに超えている。二度目くらいで、そろそろ抱いてくれると思ったのだ。
「文則、もう、文則……ぁ、あっ!? っう、あ、あ……」
 五度目の射精を迎えれば、于禁は飽きもせずに飲む。だが玉がやはり軽くなったところで萎えてしまうので、ようやく于禁が解放してくれた。もう性欲も何も無い。疲れてしまったのだ。
 自身の下半身を見れば、于禁を前にしているのにへにゃりと頭を下げている。
「ここから、ですよ元譲……」
 ゆらりと于禁が覆い被さるのだが、抵抗する力もない。ぐったりとしながら首元に生暖かい感覚がぬるりと滑るような気がした。次はそこを舐めているらしい。
「あ……ぁ、はぁ……あ……」
 首の皮膚も吸われる。音はじゅうじゅうと鳴っており、頭の中が溶けていくような気がした。吸う音が、頭の中でかなり響いているからだ。
 口をだらしなく開ければ、唾液をだらだらと垂らしてしまう。
「ん、ん……」
 そこで于禁が結っている髪の紐が緩んでいるような気がした。それを引けば、はらりと長い髪が散らばる。綺麗だ。
「元譲、私も、脱いでもよろしいですか?」
「脱ぐなら、早く魔羅をくれ」
「それはまだです」
 頑なに、于禁は魔羅を出したがらない。何かあるのだろうか。疑いをかけていれば、次にはすんなりと于禁が告げる。
「まだ、貴方の全身を味わっておりませぬ。申しましたが」
 言いながら于禁が着物を脱げば、そこには立派な魔羅があった。どくどくと脈打っており、これは人間のものではないように見えた。色からして、馬のようなものだと捉えてしまう。
 しかしこれが欲してやまない魔羅だ。見とれていたが、于禁の断りを聞いて反論をしたくなる。
「だが……」
 すると于禁が片方の胸を掴んだ。そこは女のようには膨らんでいないのだが、まるでそうであるように揉んでくる。擽ったい。
「元譲、ここは気持ちよくないのですか?」
「何も感じんな……」
「そうですか」
 最後にと下を向いている乳首をぎゅっと摘んだのだが、そこで脳が痺れたような気がした。つい「そこ、文則……!」と呼んでしまう。
「ん? ここが、どうされたのですか? 気持ちが良いのですか?」
「っ……分からん……! だが、どうにも頭が変になる……!」
「ほう」
 少し考えた様子の于禁は、もう一度同じ乳首を摘んだ。声が出る。
「ぁ、あっ!」
「成程」
 何が成程なのかは分からないのだが、于禁はこちらのことが分かったらしい。自身はただひたすらに脳が痺れることしか分からないというのに。
 弱く睨んでいれば、何度も乳首を摘んできた。それに比例して、声を何度も上げる。
「ぁ、あっ、あ、あ! あ! あ、っあ!」
 于禁の太い指が時折に乳首を潰すように摘んでくる。それが、次第に快楽へと変わっていった。気持ちが良くて仕方がないのだが、下半身は何も反応を示さない。雄の体としては、どうなってしまうのだろうか。
「ここも可愛らしい反応をして頂けるとは。では……」
 指を離したのだが、寂しさが押し寄せる。まだ、于禁に構って貰いたかったのだ。なので「文則……」と呟いていれば、于禁が唇を乳首に寄せてから吸う。
「ん、んぅ!?」
「ん、ん、ん……はぁ……はぁ……元譲の乳……」
 まるで子に乳をやる乳母にでもなった気持ちになる。こりこりと張った乳首を于禁がちゅうちゅうと吸っているからだ。ここもまた音を大層に立てており、聴覚までも犯されていっていた。
「ぁ! あん……ん……文則、そこ、好き……ぁ、は……はぁ……」
 先程垂らしていた唾液の量が多くなった気がする。そう思いながら乳首を吸われていけば、下半身が込み上げるよう感覚が流れてくる。勃起など、していないというのに。
「ぁ、あ!? ま、待て、文則……! ぅ、う……!」
 無様に腰を痙攣させれば、射精した後のような倦怠感が起きる。これは、何なのだろうか。
「あ……文則、俺、今……」
「……厭らしいですな」
 唇を離した于禁の目が笑っている。そしてこちらを見ているのだが、見せつけるかのように、乳首を舌先で転がしていた。厭らしいのはどちらだというのか。
「ぁん……ん……ぶんそく、おれ、もう……」
「まだなりませぬ……」
 がちがちに硬い魔羅をへその下に押し付けてくる。それは我慢汁をよく垂らしており、まるでここに挿入してやると誘われているように思えてしまった。于禁はまだ、挿入する気はないというのに。
 そしてここに、精を放たれたらどんなに嬉しいことか。考えただけで鼻息が荒くなっていけば、于禁がつまらなさそうな目をしながら乳首を噛んだ。痛いのだが気持ちが良い。
「ん、んっ……! はぁ、は……やらぁ、ぶんそく……」
 次第に呂律が回らなくなっていくのを感じた。これは、思考回路や神経の全てを于禁に捧げているからなのかもしれない。
 ようやく乳首から唇を離してくれるのだが、于禁に可愛がられたので赤く腫れていた。今すぐにでも、乳を出すかのような乳首の大きさだ。
「それで、貴方はいつ乳を出されるのですか?」
 真面目に于禁がそう聞くのだが、出るなど有り得ない。自身は男だ。女ではあるまいし、そう思っていればまだ慣れていない方の乳首を吸っていく。
「ぁ、あ、はぁ、ぁ……ぁん、ん! ん、ん! もう、いいから、もう……!」
「そう仰るのであれば、どうして喘ぐのですか?」
 直球な質問が来た。確かに喘いでいるのが悦んでいる証拠になる。もう止めて欲しいのだが、身体は止めて欲しくはないのだ。白痴になりそうであった。
「ん、ぁ……はぁ、は、あたまが、おかしく、なるから……!」
「なってしまえば良いのでは? 私の前ではなって下され」
 それは残酷な答えであった。まるで、自身を全て于禁が手に入れると言わんばかりの言葉だ。しかし正気に戻ることなどない。脳内で先程から得ている快楽が、正気をどんどん食っていくからだ。
 なので于禁の言葉を脳内で反芻していくうちに、これは正常な答えだと判断した。ゆっくりと、口角を上げる。
「ん……ぁ……あ、そうだな……ぶんそく……」
「ええ、そうです元譲」
 舌を出した于禁がまだ小さい乳首を舐めていけば、背中をしならせる。気持ちが良くて仕方ないのだ。そしてこのまま頭がおかしくなるとすれば、どうやっておかしくなってしまおうか。于禁に子種を乞うか、乳首と尻だけで射精できるように仕込んでもらうべきか。
 どちらも良いと考えていれば、乳首を強く吸われた。気持ちが良いうえに、先程の感覚が弱くだが走る。やはり絶頂を迎えたような気分になっていた。
 箍が外れたのか、自然と笑ってしまう。
「ぁ、あ……ぶんそく……」
 湧いてくるのは于禁への感情。好いているということと、頭をおかしくして欲しいということ、そしてこの体をもっと可愛がって欲しいということ。
 ぶつける為に視線を注いでいれば、目が合った。またしても乳首を見せつけるかのように舐めているのだが、とても美味そうに食ってくれている。嬉しい。
 雌のような感情が出たところで于禁が乳首を吸い、遂には両方の乳首が腫れてしまった。厭らしい体にどんどん改良されてしまう。
「ぁ、あぁ! ぶんそく、ぶんそく! くちすいを!」
 狂ったように求めるのだが、于禁が一瞬だけ躊躇していたのが分かる。さすがに、自身の下半身を舐めた口では口吸いをするかどうか迷っていたらしい。
 しかし理性などもうなく、どうでもよいのだ。なので于禁の脇を抱えてから同じ視線に上げれば、唇を吸った。青臭い味がしたが、次第に甘さが広がってくる。于禁の甘さだ。
「ん、んぅ……ん、んん、っ……」
 夢中でむしゃぶる。于禁の唇、口腔内、舌、歯を。
 次第に唾液が立つ音が聞こえてくれば、互いの鼻息がかかり髭がぶつかる。
 不快などない。なのでそのまま口吸いを続けていれば、于禁が舌を出した。舌を絡めろということらしい。なので舌を出せば、絡みついてきた。そこで脳を吸われる感覚が過ぎるが、于禁を前にしてみればもう溶けているも同然。吸って欲しいと言うように、于禁の厚くざらざらとした舌を舐めていく。
「ん、んぅ! ん、んんっ、はぁはぁ……は……元譲……」
 互いにじゅるじゅると分泌する唾液まで吸っていけば、どうしてか呼吸が持たなくなったらしい。于禁から唇を離してから呼びかけてきた。
「ん……はぁ……ぶんそく、まらは、まだか……」
「はい……只今……」
 于禁の唇からは、唾液がだらだらと垂れていた。どちらのものかは分からないが、拭う気は無いらしい。それくらいに、于禁の余裕が無いことが分かる。
 舐め取ってしまいたい、そう思いながら于禁を抱き締めた。

 『太陽とは何か』を聞かれて数日が経過した。あの時は何でもないと言って切り抜けたのだが、またしても于禁とは気まずくなってしまう。そうしている間に新たな脅威がやはり出てきた。袁紹だ。
 軍議の場で、袁紹の陣や勢力を軍師達と見ながら曹操が呟く。まだ、太陽が高い頃である。
「あやつとは、昔馴染みでな」
「……あぁ、そうだろうな」
 ちらりと于禁の方を見るのだが、末席ではなくなっていた。呂布を捕らえたと聞き、曹操が位を与えたらしい。前よりも少しだけ、自身の席と近い。それでも、自身は相変わらず曹操の隣に居るのだが。
 そして于禁の目線は曹操、時折に自身であった。やはり質問の答えを述べていないので、睨まれているような感覚がある。怒っているのだろうか、呆れているのだろうか。于禁を振り回しているのは、気付けば自身なのだから。
 この場には、曹操の軍しか居ない。後日改めて孫権や劉備の軍と合流し、袁紹の軍をどう崩すか考えていく。その前に、まずは袁紹の癖などを知り尽くしている曹操が草案を出している次第。
 幾つか弱点はあるらしいが、そのようなものは袁紹の力で補強するに違いない。袁紹には、力があるのだから。
「昔馴染みとはいえ、敵ですなぁ」
 賈詡が袁紹軍の配置等を見ながらそう言う。その通りなのだが、自身としても今の袁紹は危ういと思った。何故なら呂布も居なくなったこの世で統べられる者は自分しか居ない、その器は自分だと豪語するからだ。それは曹操と自身の前で発言していたが、これは危ない。このままでは、董卓のような独裁的な支配がまた始まるかと思った。
「あぁ、そうだ。敵だ。方向性が違うのであれば、袁紹を討たなければならない」
 この世を統べる者は、帝だけで良いのだ。曹操も自身も、そう考え始めていたところである。
「兵も将も、増えては減っていく、それを繰り返しながらも新たな道を作りたい。皆、協力してくれ」
 曹操が珍しく周囲に協力を促していた。珍しい。そう思いながら見ていれば、軍師達も将達も皆頷いてくれている。曹操は人に恵まれていると思った。だからこそ、袁紹を討てると思った。後は孫権と劉備の協力も必要であるのだが。
「皆、助かる……袁紹には、前に何度も振り回されてきた。その恨みを晴らしてやらねばな」
 そこで心臓が鳴った。曹操のその発言で、于禁を振り回してしまっていることが脳内を支配し始めたからだ。
 于禁はどう思っているのだろうか。見たところでは、やはり表情からはでは怒っているようにしか見えない。そしていつかは、先程の曹操のような感情へと膨らんでいくのだろうか。
「さて、今回の軍議は終わりだ。所定の位置に就くように」
 若干、上の空になってしまっていたようだ。しかし曹操は何も言ってこないので、特に気付かれていないのだろう。軍議が終了すると各々が散っていくのだが、曹操は微動だにしない。
「孟徳?」
「夏侯惇よ、またおかしくなり始めたぞ」
「あぁ、袁紹のことか……それなら……」
「お前だ」
 指摘され、目を見開いてしまう。曹操と目が合うのだが、やはり先程のは気付かれていたようだ。何とも、自身は不器用なのかと思える。
「どうした。話があるなら聞くぞ。不満ではないのは分かるからな」
「いや、大丈夫だ。最近、鍛錬用の刀について考えていただけだ」
「まだ隻眼では不便か?」
 誤魔化すことはできたのだろうか。曹操の様子を見るのだが、表情でも分からない。質問には首を振った後に「何でもない」と言えば、曹操はすぐに会話を打ち切った。執務室に戻るらしく、着いて行く。
 軍議の場を出る際に、于禁と張遼が話しているのが見えた。珍しい。于禁が他の者と話すとは。
 会話の内容は分からないのだが、真面目なものなのだろう。二人とも、真剣な顔をしていた。それを横切った後に廊下に出た。空を見れば、太陽の位置は低い。もうじき沈むことが分かれば、今宵は鍛錬の刀の手入れをしようと思った。気を逸らす為だ。
「夏侯惇、今宵は一緒に飲まぬか?」
「ん? あぁ、いいぞ」
 手入れは止めた。曹操の誘いを受けた後に共に、執務室に入った。墨の匂いがよくしており、机を見れば執務の間に曹操が詩を作っていたのが分かる。何作もあった。
「ほんの休憩にしていただけだ」
「本当か?」
 余程、退屈な書でも回ってきたのだろうか。
 気持ちは分かるが、何千人、何万人以上もの人間を束ねている者だ。他の者から見れば、遊んでいると疑われるしかないだろう。溜め息をついていれば、そこて曹操が作った詩に『太陽』という単語があるのを目にする。自身の『太陽』を余程引きずっていたらしい。理由とどのような意味で引きずっているのかは分からないのだが。
「どうだ? 于禁とは」
「は……? どうして于禁の名が?」
 曹操から于禁の名が出るとは思わなかった。それにあまり接点など無いというのに、どうして訊ねてかるのか。
「知っているぞ。お前たちは、恋仲だと」
「え……?」
 暫く、何も理解することができなかった。どうして曹操が于禁との関係を知っているのかは分からないし、どのような方向から知ったのかも分からない。とにかく、何も分からなかった。
「少し、耳にしてな」
 于禁との関係は特には秘密にはしていないのだが、突然に曹操に于禁との関係を知られているのがどうしても恥ずかしくなる。あの時、片目を失明したときの動揺と于禁との関係性も知っているのだろうか。自身が、理不尽に一方的に于禁を否定したことだ。結局は仲直りしたのだが。
「……う、上手くいっているが」
「そうか? お前は嘘が下手なように見えるがな」
「うっ……」
 嘘をつけないことはない。しかし曹操を前にしては、やはり嘘はつけないのだ。どうしても、曹操にだけは見抜かれてしまう故に。
「……呂布を討った後に、俺の幕舎に于禁が来たんだ」
「ほう、それで」
 どうやら興味津々のようだが、曹操は恋の話が好きだったのだろうか。いや、曹操も自身も互いのそのような話には淡白であった筈だ。それなのにどうして曹操は話を更に掘り起こそうと思うのか。
「それで……小さい口論をした後に、話してない」
「それはいかんな」
 髭の無い顎に手を添えた曹操が呟く。真剣に聞いてくれるのは嬉しいが、やはりこの手の話をするのは珍しい。少し、舌が回らなくなりかけた。
「そうだが……孟徳には……」
「関係ないと言いたいのか? 士気にも影響するからな、特に于禁は、機嫌が良い時があってな、時折にだが、その方が兵は安心する。いや、于禁のあの雰囲気が悪いとは言っていないが」
 士気に関係する、それは分かる。だが兵の前で機嫌を良くする于禁。それがどうにも想像できなかった。あの于禁が、兵を前に弛んでしまっているとは。
 そう思っていれば、于禁と小さくとも口論をしたことが馬鹿馬鹿しくなる。どうして、あんな些細なことで口を聞かなくなっているのか。まるで子供のようだと。
「……分かった。于禁に謝ってくる」
「そうしてくれ。今すぐにな」
「今……? 今は于禁は、鍛錬でもしてるのだろう」
 生真面目な于禁のことだ。どうせ鍛錬をしていると考えた。しかし曹操が首を横に振る。
「今は珍しく書物に集中している。呂布を討った後だから、兵を休ませたいと言ってな。あやつは、休んではいないのだが……」
 生真面目の権化のような存在である。そのような于禁だが、常に真剣で居てくれるところが好きだと思った。
 だが曹操がそれを知っているということは、言っても聞かなかったのだろう。そういえばかなり頑固な一面もあったと思い出す。少し笑いかけていれば、曹操に頼まれた。それはたった一言である。
「休めと言って来い」
「俺が……?」
「良い機会だろう。言って来い」
 曹操が強調するように言えば、執務室から追い出される。そしてもう一度同じ事を吐いた後に扉が閉ざされた。扉の前でぽかんとしてしまったが、今から于禁の元に行かなければならない。正直、気まずい他ない。
「于禁とは……」
 誰も居ないというのに言い訳を述べようとした。そこで巡回の兵が歩いて来るので口をすぐに閉じてから、ぎこちなく歩み始める。やはり、于禁の元へと向かわなければならないのか。
 『太陽』のことで口論になったが、悪いのは自身だ。盗み聞きした于禁も悪いのだが、曹操との会話は密談という訳ではない。誰に聞かれても良いものなので、于禁が聞いてしまっても悪くはない筈だ。
 『太陽』のことを言うべきか。しかし曹操にとっての『太陽』になりたいなど、まるで親密な関係にあるようだ。もしかして、于禁は曹操と自身が親密な関係にあると勘違いしているのだろうか。いや、直接『太陽』になりたいとは曹操には口にしていない。
 そう思いながらも少しずつ于禁の部屋へと歩いてしまう。これは逆らえない曹操からの命令なのだ。決して無視してはいけないことだ。
 于禁とはどうなりたいのか、やはり仲違いを解消したい。であれば、気まずいと思ってしまうなど失礼だ。例え于禁は下官だとしても、気まずいなどあってはならない。
 そこで外からの風がさらりと吹くのを感じれば、そこで背中を押されているように思えた。そうだ、于禁と仲を悪くするのは不満なのだ。これは自身が招いてしまったことなのだが。
 風に押されるままぐいぐいと于禁の部屋に近付いていけば、すぐに到着した。途中で巡回の兵と何人もすれ違うのだが、時折に「于禁殿が怖い」と言う。機嫌が悪いのだろうか。その于禁の機嫌を直せるのは自身しか居ない、自負しながらも扉を軽く叩いた。しかし返事がない。
「于禁、俺だ。夏侯惇だ。話がある」
 扉に向かって言うのだが、返ってくるのはやはり沈黙。余程書物に集中しているのだろうと溜め息をつけば、扉を勝手に開ける。部屋に入れば、墨の匂いが充満していた。
「……文則」
 呼ぶのだがそれでも返事がない。なので部屋を見渡していれば、姿を見つけた。夜着姿で寝台の上で姿勢よく寝ているのだ。室内にまだ灯りがあるので分かった。
「寝ているのか……出直すか」
 呟き踵を返した。そこで聞き慣れた声がする。風に乗って、聞こえた。
「元譲」
 振り返れば、ゆっくりと上体を起した于禁が居た。どうやら起してしまったらしい。いや、于禁程の武人であれば、気配で起きることも容易いだろう。
「……すまない、文則。話がある」
「私はいつでも聞きますが……こちらへお座り下さい」
 寝台の縁に座った于禁が隣を軽く叩く。思えば、于禁のこのような案内の仕方は初めて見る。于禁といえば、堅苦しく椅子に案内すると思ったからだ。
 だが言う通りに座ったところで、于禁が気付いたらしい。このような案内の仕方は無いだろうと。
「い、いえ……元譲、椅子へ……」
 大きく焦りながら立ち上がり、椅子のある方向へ向かおうとした。
「いい。それより、話を聞いて欲しい」
「はい」
 于禁の動きを止めてから一旦立ち上がり、手を引っ張ってから寝台に座らせた。隣に座ったところで、于禁に縋る。しかし謝ろうとするのだが、どうしても甘えるような動きをしてしまう。心地が良いからだ。
 見れば于禁の背筋がぴんと伸び、小刻みに震えていることが分かる。緊張でもしているのだろうか。見上げれば、天井だけを見ていた。くすりと笑う。
「この前の『太陽』の話だが……」
「はい」
 相変わらず天井を見ているが、時折にこちらを見ては天井へと帰るばかりである。頬は若干赤いが怒っていないようだ。許してくれるのか。
「それですが……」
「どうした?」
 于禁が話の途中で口を挟むのは珍しい。思わず体を起こすのだが、于禁の手によって引き戻された。予想外の行動に慌てる。足をばたばたと動かしてしまった。
「……私が、幼稚過ぎたようです。その……やはり殿と貴方は、特別なご関係なので。私には、入りようのない関係です」
「違う! 孟徳とはただの幼馴染だ、右腕だ、それだけだ!」
 否定をするのだが、次第に于禁の顔に諦めが出始めた。幼馴染と聞けば、何年も積み重ねてきた関係だ。まだ出会ったばかりの自分とは釣り合わないということなのだろうか。違う。関係とは年数ではない。互いの思う気持ちの量なのだ。
 嫉妬をするつまりは、自身をまだ好いてくれている。ならばどうにかして説明をするしかない。于禁の体をまずは抱き締めるが、抵抗はない。安心した。
 体は暖かい。これが于禁の心なのだ。そう思いながら見上げれば、于禁が抱き返そうとしているのが分かった。見るなり、于禁が顔を真っ赤にしながら目を逸らすのだが。
「分かってくれ……お前とは、いつまでも、特別な関係でありたい」
「私もです……元譲」
 ようやく抱き返してくれるのだが、そこで肝心の『太陽』の話をしていない。なので抱き締められながら、口を開いた。
「『太陽』は、俺が孟徳にとっての『太陽』になりたかっただけだ。『太陽』とは、孟徳の未来を照らす助けをしたいからだ。それだけだ」
 于禁は黙る。
「確かに、『太陽』も特別な存在なのかもしれない……孟徳には断られたのだがな」
 断るところまでは聞いてしまったのかもしれない。なので薄く笑っていれば、于禁が顎を持ち上げてきた。驚きのあまり、于禁と目を合わせてしまうが目は真剣だ。
「……殿にとっての『太陽』ならば、私にとっては『月』で居て下され……私を優しく照らす存在として、居て欲しいのです」
 そこで腑に落ちた。それならば、納得してしまうからだ。
「ふ、『月』か……あぁ、いいぞ。お前が求めるならば、なろうではないか」
 言いながら舌を伸ばせば、于禁がそれを唇で拾う。軽い口付けを何度もした後に顔が離れる。
「だが『月』では、一生手に入らんぞ」
 少し意地悪をしてみるのだが、于禁の顔は変わらない。
「月は手に入ります。空に手を伸ばせば、必ず……」
 言いながら于禁が寝台に背中から倒れた。自身が押し倒すような体勢になるのだが、ただ于禁の心音を聞くのみ。どくどくと鳴っているからだ。
「貴方も、必死に手を伸ばせば届きます。ですから……どうか離れないで下され」
「あぁ」
 短い返事をした後に、于禁の隣に横になる。外からの風が心地よい。そして窓から月が見えた。手を伸ばしてみれば、確かに言う通りに届いたのだ。小さく笑う。
「今宵はここで寝てもいいか? 軍議があるから、襲うなよ?」
「それは分かりませぬ。綺麗な月を得たならば、暴きたい心は誰しもあるので」
「言ってくれる」
 于禁にしてはかなり効かせた言葉である。思わず心臓を鳴らしてしまいながら、抱き着いた。体までも暖かい。
 そして目を閉じれば、そのまま眠ってしまった。

 ※

 翌朝、起きてから急いで自室に戻った。その際に于禁は熟睡していたので、なるべく起こさないように于禁の部屋を出たのだ。自室に戻りすぐに夜着を脱ぎ捨てれば、戦場に出る為の格好をしていく。着物、羽織、靴と。
 まずは曹操の部屋に向かえば、既に机に向かっていた。珍しく朝が早いと思った。
「于禁と会ってきたか。顔を見れば分かる」
「……っ!?」
 何故分かったのかと、問い掛けようとした。だがその前に、曹操が答えを述べる。
「お主の顔が明るいからだ」
「もういいから、分かったから……それで、今日はどうする孟徳」
 照れはあった。それを隠しきれない中で曹操に聞く。昼からはまたもや軍議があるのだが、その前に何をするのかと。
「うむ、まずは劉備と会う。その後に関羽と……」
「あいつの話は止めろ」
 関羽とは、劉備に仕える巨漢の武人のことだ。どのような兵や軍よりも強く、呂布とは対等に渡り合っていた。その関羽が、曹操はとても欲しがっているらしい。是非、自軍に迎えたいと。
 しかしどんな物を贈っても、どんな言葉を掛けても関羽はなびかない。劉備への忠誠を固く誓っているらしく、曹操の手には乗らないようだ。それでいいと思った。関羽など、必要ないのだ。
「どうしてだ。関羽が居れば、袁紹など容易く討てる筈だ」
「関羽が必要なら、劉備軍と協力すればいい話だろう」
 どうしても関羽が嫌いに思える。なので冷たくそう返事するのだが、曹操は子供のように頬を膨らませる。
「嫌だ」
 昔からだが、曹操は我儘だ。今までで何度目か分からない溜め息をつけば、曹操が鬱陶しそうに筆を手に取る。
「こちらの陣営では、于禁か張遼が、関羽と並ぶ武人だろう。あとは……徐晃もか……その者達に、鍛錬に励むように言っておいてくれ」
「お前が言っておいてくれ。お前が言うなら、その者達は喜ぶだろう」
「……于禁にはお主が言うのだぞ?」
 もういい。曹操は自身を弄りたいのだろうか。呆れながら頷けば、劉備とどのように会うのか訊ねた。
「軍議前だ。劉備が良ければ、軍議に加わって貰いたい。どうせ孫権と劉備と協力して袁紹を討つのだから、良いだろう」
「あぁ、良い考えだが……あまりあいつらを信用し過ぎるな。事を起こす事もあるやもしれん」
「分かっている。もしもの時があれば、関羽以外を殺してしまう」
「関羽から頭を離れろとな……」
 呆れた。関羽のことしか考えていないらしい。顔をしかめながら曹操を見た。反省はしていないようだ。
 孫権と劉備が袁紹側に寝返ることだってある。袁紹のことだから、そのようなことは無いと思う。それに孫権と劉備も、袁紹の行く末や思想には反対をしている。また、董卓や呂布のような存在を生み出さないように。しかし念の為に。
 曹操が向かっている机の上には、様々な地図が置いてある。全て、袁紹の領地のものだ。
 しかしこの世の平定には、常に血が付き物だと思った。人々は血を流さなければ平定を得られないのだろうか。いや、自身も曹操も、幾らでも血を見てきたし人の首を見てきたのだが。
「劉備のところに行ってくる。お主は于禁に伝えて来い」
「分かった……」
 不服はあった。それでも無理矢理に頷けば、曹操が立ち上がる。
「まだ死ぬ訳にはいかぬ。劉備には殺されることも無かろう」
「ああ、また俺をからかうといい」
 自虐を交えて返せば、笑いながら曹操が部屋を去った。墨の匂いが少し消える。
「于禁……あいつは鍛錬でもしていることだろう」
 居場所など容易く想像がつく。なので于禁の陣営の鍛錬場に向かった。ここから、少し歩いたところだ。于禁の待遇は良くなっているらしく、設備が整っていた。入れば多くの木人形が出迎えてくれた。
 大人数の兵が居る中で、于禁の存在はすぐに分かった。特注の鎧、そして得物でだ。だが鍛錬場は広いので、于禁の元へは走らなければならない。
 そこで遠くの于禁と目が合った。まずは鋭い視線を向けられた後に、近くの兵に何か言った後に得物をしまいこちらに走って向かってくる。凄まじい勢いがあった。
「夏侯惇殿、いかがなさいましたか」
 すぐに頭を下げて拱手をしてくれるのだが、思わず于禁の頭を撫でそうになった。駄目だ。あまり于禁とは接触してはならない。しかし手を出しそうになるが、兵の前であるし鍛錬中だ。あまり刺激を与えたくはない。
「いや、その……」
 今や「夏侯惇殿」と呼ばれることに違和感を覚えながら、返事をした。
「……孟徳からの伝言だ。鍛錬に励め」
「はい」
 頭を上げる様子はない。それを見てから用が済んだと思い、踵を返そうとする。
「それだけだ。では……」
「お待ちを」
「何だ?」
 于禁が顔を上げるが、拱手はまだ止めない。しかし呼び止めるとはどうしたのだろうか。珍しい。
「我が陣営の武器庫に、見慣れぬ武器がありまして……少し、確認をして頂けますか」
「見慣れぬ武器……? 分かった」
 武器のことについて、自身に言う必要などあるのだろうか。見慣れぬ武器であれば兵達に聞くなどすればいいし、他の将に聞くのも良いだろう。首を傾げながら、于禁と共に武器庫に入る。少し埃っぽい匂いを嗅ぎながら入れば、そこで于禁が武器庫の扉を閉める。驚きながら于禁を見た。
「どうして、朝は私を置いて行ったのですか?」
「根に持っているのか……」
 まさかこの為だけに、鍛錬の最中を使ってでも呼び出したのか。生真面目な于禁にしては、奇特な行動である。私情を鍛錬に挟み込むとは。しかし、それほどに重要なのか。
「勿論です。それで、どうして私を?」
「起こすのが憚ってしまっただけだ。気にするな。それより鍛錬を……」
 今は鍛錬をすべきだろう。特に曹操からの伝言もあるので余計にと思っていれば、于禁が手を掴む。その力は強く、離さない気だ。
「私は、貴方と離れる目には遭いたくありませぬ。ご不満があれば何なりと」
 つまりはどのような些細なことでも、于禁は聞いて正そうと言うのだ。面倒な性格だと思う反面、于禁がそこまで気にしてくれるのが嬉しい。
 口を開けば、于禁の手は自然に離れた。
「まだ、お前とはいつでも会える。だから、そこまで生き急ぐな。ゆっくり、お前と付き合わせてくれ」
「……はい。お時間を取らせてしまい、申し訳ありませぬ。話は以上になりますが……その……」
「于禁、見慣れぬ武器など、嘘なのだろう? もっと上手い嘘をつけ」
 これは自身にも通ずる言葉なのだが、それよりも于禁に言い聞かせるべきだと思った。しかし于禁は嘘があまりにも下手だ。故にきちんと学習してくれるのだろうか。
 そこで于禁の手が離れていけば、少し惜しそうにこちらを見る。まだ、離れたくはないらしい。あの堅物の于禁が、鍛錬よりも自身を優先するとは。相当なのだと思った。しかし今は鍛錬をしてもらわなければ困る。袁紹という脅威を討たなければならないからだ。もしかしたら、孫権と劉備も敵に回るのかもしれない。
「今宵、また会ってやる」
 于禁の顔が晴れた。
「本当ですか……!? では、その、お伺いします故に、その……待っていて下され」
「あぁ、分かった」
 顔が期待に満ちれば、そのような于禁が可愛らしいと思った。いつもは睨んでいる目が輝き、口は呆けたように開いている。
「兵にその顔を、見せるなよ」
「……っ!? は、はい!」
 心を引き締めたのか、于禁の顔がまた険しくなる。しかし于禁はまだ若く年齢相応の顔を初めて見たと思った。それならば、今宵はたくさん甘やかしてやろうと考え、何が必要か頭の中で巡らせていく。そうしていれば、于禁がまずは武器庫から出て行く。
「兵が待っているので……これで、失礼致す」
「ん? あぁ」
 武器庫に一人きりになれば、そこで溜め息をつく。まさか于禁がこのような行動に出るとは。しかし今宵会うとして、どうやってもてなすべきか考えた。また茶でも用意するか、小さな菓子でも用意するか。いや、于禁は美味い味を求めているのか。それではなく、自惚れでしかないのだが自身の『味』を求めているのではないか。
 悩んだ末に後者へと決めれば、まずはもてなす準備をしなければならない。もてなす方法は、良い香を炊けばいいのではないのかと考える。そうとなれば荀彧にでも聞くかと考えが過るが、于禁がまた嫉妬してしまうのかもしれない。なのでそれを止めた後に、もてなす方法は後回しにすることにした。
 曹操は今頃、劉備と会っている筈だろう。そうとなれば、溜まっている竹簡を始末しようかと武器庫を出た。于禁を見るが、こちらを一切見ることなく鍛錬を兵と共にしている。少し寂しいと思いながら、鍛錬場を後にした。

 自身の執務室で竹簡を広げていれば、荀彧が来た。今度の袁紹軍との戦の件で話があるらしい。聞いていくのだが、半分は曹操にも話を通さなければならない案件であった。保留にするしかなくなり、荀彧はそのまま退室しかけた。そこで、呼び止めて訊ねてみる。ちょうどいい機会だと思った。
「……良い香を知らないか?」
「香ですか? そうですね……あぁ、私の部屋にあります。持って来ましょうか」
「頼む」
 話が早い。それに目的までを聞いてくれなくて助かる。なので胸を撫で下ろしていたところで、荀彧がとんでもないことを言う。
「于禁殿のこと、気になさっていらしたので」
「……お前もか」
「え? どういう意味でしょうか?」
 これはわざとなのか。いや、相手は軍師だ。何か裏があるに違いない。そして、やはり于禁との関係を知っているのだろうか。曹操のように、勘付かれてしまったのか。
「……この前の軍議で、やけに于禁殿のことを見ていらしたが、丸わかりでしたよ」
「そうか……」
 あの時は気付かれないように見ていたが、やはり分かる者は分かるらしい。荀彧が勘付いているならば、他の軍師達も勘付いているのかもしれない。これは、次に何を言いたいのか分からなくなりそうだ。
「では持って来ますね」
「あぁ、頼む」
 一旦荀彧が出て行き、少し経過してから戻って来た。小さな袋を持っている。
「これです。これ、相手を魅了する効果がありまして」
「いや、そこまでは……」
「はい、では私はこれで。ご武運を」
 言ってから荀彧は去った。一人きりになったので、荀彧から貰った香を少し嗅いでみる。甘い匂いがしたが、本当に于禁を魅了できるのだろうか。思いながら、今宵の準備を始めていった。

 夜になった。于禁が来る前に夜着に着替え、そして荀彧から分けて貰った香を見る。袋を開けて見れば白い粉末があり、それを指で掬えば甘い匂いがした。頭を通り抜けるような、甘い匂いだ。
「……つけてみるか」
 于禁が好むかは分からない。好まなければ、これ以上は使わないだけだ。そう思いながら、首元のみに粉をはたく。良い匂いが、自身からしてきて不思議に思う。
「……これでいいのか」
 首を傾げながら茶の準備をしていれば、扉から叩く音が聞こえた。直後に「于禁です」と言うので、迎え入れた。于禁も夜着姿であった。
「元譲、参りました」
「あぁ、ご苦労だな……その……」
 どこか違うところが無いか、聞きたくなった。しかし我慢をしながら茶の席に案内をしようとする。そこで于禁が抱きついてきた。
「甘い匂いが、しますが」
「気が付いたか」
「これは、貴方がつけた香りですか。それとも……」
 半分は疑われているらしい。なので于禁の手を払ってから寧ろ抱きつけば、返事をする。
「俺がつけたんだ」
「そうですか……ですが、あまり私以外の前ではつけないように。男を誘惑する、危険な香りです。なので……」
「なんだ、興奮してるのか?」
 于禁の言葉の途中でそう茶化してみれば、顔が真っ赤になった。分かりやすい。
「あ、貴方が、そのような香りを纏っていれば、それは……」
 言葉を濁す。それくらいに動揺しているのが分かれば、茶化すように背伸びをして首を于禁にもっと近付ける。
「なぁ、どうだ? 茶を飲む前に、俺を食わないか?」
「っ……!」
 于禁の顔が更に渋くなったところで、夜着の帯がしゅるりと外されていった。茶より、自身を楽しみたいらしい。
「少しだけ、ですが……」
「少しなど言うな。全部味わえ」
 顔を近付ければ、于禁の鼻息が荒いことが分かる。あまりの興奮に、于禁の瞳の視点は様々な方向に動いていた。それに一つ笑えば、自身が全裸になる。夜着が床に落ちた。
 唇を合わせれば、即座に抱き締められた。于禁が体を曲げるので背伸びを止めれば、どんどん強く抱き締められる。少し痛いが、これが于禁の愛だと思った。嬉しさに、于禁にわざと舌を捕らえさせた。舌が絡まり、唾液のぴちゃぴちゃという音が立つ。
「ん、んんっ、ん、ふ……ぅ……ふ、ん……」
 くぐもった声を出しながら于禁の下半身を弄れば、やはり反応をしていた。魔羅が膨らみ、勃起しているのだ。それを指でなぞれば、于禁の体が震えた。可愛らしい。
「っふ、はぁ……文則、寝台に行くぞ」
「はい」
 于禁を寝台に連れて行き、そして押し倒した。于禁の大きな体の上に、自身の体が馬乗りになっているのだ。
「さて、文則……こういう時は、どう言えばいいのか、分かるか?」
「……抱かせて、下さい」
「偉いな」
 頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、冠や簪を抜いていく。長い髪が、ふわりと浮かんだ。
「じゃあ、動くなよ?」
「動くな、とは……?」
 言葉が分からない于禁だが、それを無視しながら夜着を脱がせていく。平服でも鎧でもないので、脱がせるのは簡単だ。一枚だけ布を取り払うだけで、于禁の逞しい体が現れた。
「まずは、ここか?」
 聞きながら于禁の下半身を指差す。立派な魔羅は天井を向いており、すぐに于禁が頷いた。
「はい……」
 大きな魔羅からは、我慢汁が垂れている。それに舌を伸ばしてから掬えば、ごくりと飲み込む。苦い味がした。
「あ、元譲……!」
「気にするな。それより、お前のは相変わらずでかいな……食い応えのある、魔羅だ」
 褒めてから于禁の太く長い魔羅を咥えた。雄臭い匂いがするが、唾液を纏わせていけば味など気にならなくなる。わざと音を立ててやれば、于禁は顔を赤くしながら「お戯れを……」と呟く。
「ん、んぶ、ん、んっ、ん……んぐ……んん、ん……」
 声も上げれば、于禁の魔羅からはだらだらと我慢汁が分泌していく。口腔内に魔羅が納まって、それほど嬉しいのかと。気持ち良いのかと。
「っう……元譲、もう、出ますので……! っう、う……元譲……!」
 魔羅が膨らんできたのが分かる。しかし于禁の言葉など無視をして、咥え続けていけば熱いものが注がれた。自身の口腔内に、精を放ったのだ。
 目の前でごくりと飲み込めば、喉に熱いものが通る。
「ん、ん……はぁ……うまかったぞ」
「なりませぬ……! 吐き出して下され!」
 于禁が起き上がったのだが、その瞬間に体を押し倒した。再び寝台に寝かせたのだ。
「うっ……! 元譲……!?」
「俺がいつ起き上がれと言った?」
「そ、それは……」
 舌なめずりをしながら、于禁の髭を舐める。ちくちくとして痛みを感じていれば、于禁の体が震えるのが見えた。
「動くな」
「は、はい……」
 再び長い髪が散らばれば、掬い取って微かに口付けをする。そして于禁の腰の上に跨り直せば、二度目の口淫をするために魔羅を咥えた。やはり美味く、目を垂らしながら于禁の魔羅を味わう。
「ん、んん……んっ……ん」
「ぐ……! はぁ、はぁ……元譲、そこは……うっ……! はぁはぁ……!」
 やはり大きな魔羅だ。これを忘れられる者など居ないだろう。そう思いながら、魔羅の至る部分に舌を這わせる。膨らんでいる袋を舐めるのも忘れない。魔羅全体が唾液でしっとりとしたところで、ようやく舌を引かせた。
「はぁはぁ……お前の魔羅、やはりでかいな……早く、これで……」
 于禁の前で足を開くが、入り口はそこまで緩くない。なので近くの棚から香油を持って来れば、少し手のひらに垂らしてから入り口に塗りたくった。ぬるぬるとしていて気持ちがいい。
「ぁ、あ……はぁ、はぁ……お前のせいで、ここも気持ちが良いのだぞ?」
「それは……」
「どうした……ぁ、あ! はぁ、はぁ……指、入るぞ……ん、んんっ、ぁ、あ……入った……」
 一本の指が入れば、それをより于禁に見せつける為に腰を浮かせた。指は滑らかに入っていき、時折にじゅぽじゅぽという卑猥な音が聞こえる。指と入り口の結合部を于禁に見せれば、止まらない息を上げる。
「はぁはぁ……いやらしい体の、御方ですな……」
「これも、お前のせいだぞ?」
 笑みを浮かべながら返事をすれば、于禁の魔羅が膨らんだ。
「分かっております……ですが、私も、そろそろ我慢がなりませんが……」
「我慢しろ」
「はい……」
 少しここは硬い。なので指を断念に動かしていけば、浅い場所に好いところがあった。たまにそれに触れながら、于禁の前で自らの入り口を解していく。
「ぁ、あ、はぁ……はぁ……文則、分かるか? ここも、気持ちいいのだぞ?」
「はい……」
 于禁の鼻息が荒くなってきた。我慢ならないと言っているような雰囲気だが、まだ自由にさせる訳にはいかない。言葉のみで、于禁を制する。
「ふぅ、ふぅ……貴方のそこは、あまり触れたことがありませぬな……」
「そうか? じゃあ俺が触ってみる」
 言いながら、挑発でもするかのように浅い箇所を何度も押していった。当然のように、下半身は膨らみ射精を繰り返す。だが、本当は早く于禁の魔羅が欲しかった。指よりも遥かに長く太い魔羅で、奥を突いてめちゃくちゃにして欲しいのだ。
 しかし今は耐えて解さなければならない。今そのまま于禁を自由にしてしまったら、尻が裂けそうな気がした。猛獣を相手にしているかのように思えるからだ。
「ん、んぁ、あ、あ……ここも、俺が好きなところだ、っく、う、う、ぁ、あぁ、あ!」
 また達してしまいそうになったが、ここは于禁との交わりまで耐える。
「う、ふぅ……ふぅ……まだ、指が一本しか入っておらぬ……ふぅ……ふぅ……」
 何度も息を吐きながら、指を動かしていく。まだ、入り口は柔らかくなっていない。このままでは、于禁を受け入れることなどできない。なので指をぐちぐちと動かしていけば、痛みよりも快楽が訪れた。またしても、達してしまいそうになる。
 指を動かし、隙間を作ろうとした。二本目の指を入れる為だ。指先で縁をぐいぐいと引っ張れば、どうにか二本目が入る。だが苦しい。自身の指が太いことは自覚していたので、やはり息が詰まる。これは毎度のことだが、これだけは嫌いであった。
「ぁ、ぐ……! はぁはぁ……文則……」
 こちらを凝視している于禁を見て、名前を呼ぶ。一瞬だけまともな視線をよこしてくれるのだが、すぐに血走った目に戻っていった。理性を必死に抑えているのは分かるのだが。
「っは、はぁ……ぐぅ……! はぁ、は……」
 全身に脂汗が垂れていく。それくらいに、入り口を解すという作業に緊張感が走っていった。何故だろうか。どうして、緊張しているのだろうか。このまま、于禁を弄んでいられるというのに。
「元譲……もっと、貴方の恥じらいのある姿が見たいです」
「は、はぁ……あぁ……っぐ、あぁ……! っはぁ、はぁ……」
 何度も息を上げていけば、二本の指がどうにか動くようになった。それでも苦しさは変わらず、普段から尻を弄っておけばと後悔する。
 指で様々な方向の粘膜に触れていくうちに、とある好い箇所に触れてしまった。尻餅をつき、背中を反らせながら達する。勢いよく、精液を噴き出した。
「はぁ、は……文則……」
「堪りませぬな……その御姿……」
 于禁の視線が更に鋭くなったような気がした。更に喉が鳴る音が聞こえ、魔羅は血管がばきばきと浮いていた。性器というより、凶器のようなものに近い。
「そうか、この姿も、好いておるというのか」
 もはや笑いしか浮かべられなくなっていけば、指を増やしていく。三本まで増やしていけば、異物感が凄まじい。体内の圧迫感もあり、体が破裂でもしてしまいそうであった。しかし于禁の魔羅よりかは、遥かに細いものが入っているのだが。
「ぅ、う……! は、はぁ……文則の魔羅が欲しくなってきたが……」
「ですが貴方は、動くなと仰ったでしょう?」
 そうだった。自身は于禁に動くなと命令をしていた。仕方ないと思いながら、指をぐちゃぐちゃに動かしていく。于禁からの視線は相変わらずだ。
「あぁ、あ、はぁ……ぁん、ん……」
 そろそろ息ができなくなってきた。なので一旦指を引き抜けば、穴が開いている感覚が強くなった。つい、何かを突っ込んでいたくなる。
「っは、はぁ……文則……乗るぞ……」
 未だに動くなという指示は聞いてくれているらしい。于禁が苦しそうな表情で我慢をしているので、その上に跨る。だが于禁の表情は変わらない。流石だ。
「ぅ……! 元譲、私は、まだ……」
「まだ我慢していろ、動くな」
 言ってから、于禁の大きな魔羅を掴む。やはり大きいが、その際に于禁が呻き声を上げていた。触れられただけで、大きく感じてしまっているらしい。これは自身の腹に埋めた時が楽しみだ。
 そして腰を下ろすのだが、入り口に魔羅をあてがった。大きい。于禁のものは大きすぎる。そう思いながら、ゆっくりと入り口に刺していった。
「っう……! はぁ……はぁ……大きい……! はぁ、はぁ……」
 ぬちゅりと于禁の魔羅の先端に密着していけば、尻に収めていく。だが先端が大きいので、どうにも入らない。それに掴み直してみれば、女や子どもの腕くらいの太さはありそうな気がする。今まで、これを腹に収めていたのだが。
「ぁ……! ぁ、あ……! はぁ、はぁ……文則、でかいな……!」
 腰をゆらゆらと揺らしていく度に、于禁が低い唸り声を吐く。早く抱き潰してしまいたい心と従わなければならない心で、板挟みになっていることだろう。少し愉快に思いながら、腰を動かしていく。やはり先端がなかなか入らない。
「はぁ、はぁ……!」
 自身も何度も息を上げていきながら、必死に魔羅を納めようとする。そうしていくうちに、于禁が口を開いたそれは呻き声でも唸り声でもない。
「あの、もう少し、楽にされては……」
 助言であった。反射的に言う通りにしようとするのだが、なかなか楽にできない。自身が愚かに思えれば、于禁が手を握ってくれる。
「文則……」
 于禁の手はごつごつとしている。自身のものよりも大きい。それに包み込まれて、何故だが安心していく。すると于禁の言う力を抜くことができていった。入り口が拡がり、魔羅を受け入れていく。
「は、はぁ……ぁ、はいる……! ぁ、あ……!」
 信じられないくらいの圧迫感が襲いかかる。今まで経験したことがないくらいなので、息が上手くできなかった。そこで于禁が握っている手を優しく揉んでくれた。
 本当はこちらが先導するつもりであったのに、情けないと思いながらも手を握り返した。
「元譲、無理はなさらず」
「……ぅ、ぁ……分かっている……!」
 気遣いが嬉しい、そう思いながらも恥が込み上げる。先導に失敗してしまえば、そのまま于禁に手を握られ続ける。于禁の皮膚は、とても熱かった。まるで今の興奮を表しているようだった。
 そこで入り口が緩まることを感じれば、体重を掛けていく。ずるずると入っていき、大きな括れさえも飲み込んだ。凄まじい異物感だ。
「っは……! はぁ、はぁ……」
 呼吸することが少し難しく思える。その中でも必死に肺を動かしていけば、呼吸が整う。
 于禁の魔羅はやはり大きい。そう思いながら体重を更に掛けていき、どうにか于禁の肌と密着した。何度か受け入れたことはあるが、やはり凄まじい感覚が体内にある。本当に、これが人間の器官の一部同士を結合した状態であるのか分からなくなっていた。
 于禁を見下ろせば、渋い顔をしていた。もうじき、限界が来るのだろう。
「文則、もう少し我慢してくれ」
「はい……」
 声は掠れている。相当に、腰を早く振りたいのが分かる。于禁からしたら、拷問に近い状態なのだろう。だがそれを言葉で制しながら、体を小さく揺らす。魔羅が体内で動くような気がして、粘膜に度々に密着してくる。気持ちが良い他ない。
「ん、ん……ぁ! はぁ……はっ、は、は……」
 次第に汗が垂れてくるのが分かる。頭部から流れてきた汗が顔の輪郭を伝い、顎髭のあたりで止まっていく。それを何度か繰り返しながら、体を揺さぶった。声を漏らしていきながら于禁の様子を見れば、自らの腕を噛んでいることが分かる。相当に我慢ができなくなっているらしい。
 自身に置き換えてみれば、それは辛いことだ。分かってはいるのだが、まだこの小さな快楽に浸りたいと思ってしまう。
「文則、もう少しだ、もう少しだ……!」
「ぅ、う……! ぐ、ぅ……!」
 人の言葉を喋ることさえできなくなっている。鉄の匂いが微かにすることから、于禁は腕の皮膚を歯で裂いてしまっているらしい。早くしなければと、魔羅の感覚に慣れていく。それでも、声はやはり漏れていた。
 魔羅が体内に刺さってから体を動かし続けたことにより、どうにか慣れることができた。これは于禁の魔羅が大きすぎる故にだ。平均的な大きさであったら、ここまでしないだろう。ふと思ってしまう。
「っは……文則、動いて、いいぞ……」
 言った瞬間に、于禁の腰ががくがくと動いた。それは髪が揺れるくらいの勢いで、肌に毛が叩きつけられて痛い。それくらいに、于禁の腰の動きは激しかった。
 それに魔羅で奥を何度も殴られていく。痛みではなく快楽が勿論、波のように押し寄せる。抗えない。
「ぁ、あ! いきなりは、っあ、あ、ぁ! ぶんそく、ぶんそく! もう、でるから! でる……! っぐ……ぅ……!」
 射精をする際に手を震わせていれば、于禁がしっかりと握ってくれた。その力は強く、まるで離さないと言わんばかりである。
 自身の胸を白く染めれば、于禁が惚れ惚れとしながら見てくれる。それが嬉しくて腰を揺らせば、于禁の魔羅が膨らんでいくのが分かった。もうじき達するしい。于禁の表情が険しくなっていく。
「うぅ……う……! っぐ……元譲、出しますぞ……!」
「はやく、だせ……」
 挑発するように返せば、于禁が即座に腹の中に精液を送り込んでくる。
 やはり熱く、中が火傷でもするかのようだった。腹が灼熱で満たされる中で、于禁の顔を再度見た。余裕が無いのか、いつもの厳しい顔をしている。体を少し折ってから唇を合わせれば、于禁が「元譲……」と呟く。
「っは、はぁ……あ……ぶんそく……もっと……」
「貴方という御方は……動きますぞ」
 折った体はどんどん于禁の方に傾いていく。そしてあっという間に于禁の体の上に覆い被さってしまえば、体を強く抱き締められた。まるで待っていたと言わんばかりの勢いだ。
 腰や背中に手を添えられるのだが、その指がいちいち皮膚を押してくる。肌の感覚を確かめているようで、どうにも意識がそちらに向かってしまう。
「ぅ、う……! は、はっ、はぁ、ぁ、あ……! うごくな、ぁ……はあ!」
 次第に体を揺さぶられていけば、体の痺れが止まらなくなる。しかしこの痺れが良いのだ。辛い感覚さえも打ち消し、脳に多幸感を生み出す痺れ。これが堪らなくなり、つい舌が唇の間からはみ出た。だらしないと思うが、制御ができないのだ。仕方がない。
「何と可愛らしい……」
 呟いた于禁が舌を吸っていく。髭同士がぶつかり痛いのだが、それよりも舌を吸われたことにより思考ができなくなっていく。先程あった多幸感や痺れが消えていき「これ」のことしか、考えられなくなっていた。
「ん、んぅ……ふ、元譲、好いて、おります……んぅ……う、ん……」
 巧みに舌を何度も絡めさせていけば、体の揺さぶりが止まる。于禁は今はこれに集中したいらしい。なのでされるがままにしていれば、舌を強く吸われた。あまりの気持ち良さに精を放ってしまえば、于禁の胸までも白くなっていく。
「ん、んんっ……! ん、ん……」
 頭の中が全て溶けてしまいそうだ。脳がどうにかなってしまいそうだ。そう思っていれば于禁の厚い舌が外に出ていく。いつの間にか互いの唾液が絡み合っていたらしい。唇から、唾液がだらだらと垂れていった。
「っは、はぁ……元譲……私から、離れないで下され」
「わかって、いる……お前からは、離れないつもりだ……お前とは、っあ、あ! うごくな、ぁ、あ!」
 突然にどうしたと思っていれば、于禁がまたしても体を揺さぶってくる。返事の続きができずに喘ぐ。本当は離れたくないと言いたかったというのに。
「ぁ、あ……ん、ん、っはぁ、は、はぁ、ぁ、あっ、あ! 出る……! またでるから、ぶんそく……!」
「貴方からのものなど、全て受け止めます」
 未だに握られている手の力が強くなった。それに腹の中で魔羅が膨らんでいけば、于禁は限界を越えていることが分かる。早く、再度腹の中に精を放ちたいらしい。眉間には凄まじい皺が寄っていた。
 互いに息を吐き合いながら、同時に達した。体の内側と外側が熱さに包まれるような気がする。
「ん、ん……は……はぁ……はぁ……ぶんそく……」
 視界が朧気だが、掴んでくれている手の感覚は痛いほどにある。幸せだ、そう思いながら于禁と顔を近付ける。互いに息を吐きながら、見つめ合った。于禁の熱を感じる。
 そこで于禁がもぞもぞと動いて魔羅を引き抜こうとするが、頑なに断る。まだ繋がっていたいのだ。于禁とこうして繋がっていることが、何よりの幸福なのだから。なので「動くな」といえば、于禁の腰がぴたりと止まる。
「なぁ、まだ香の匂いはするか?」
「もう、分かりませぬ……貴方の匂いで……」
「そうか」
 香など打ち消すくらいの匂いを放ってしまったのか。少し残念に思いながら、于禁の舌を唇でついばんだ。于禁は嬉しそうだ。
「ん、んぅ……ふ、はぁ……元譲……茶は、私が淹れます故」
「いいのか? ではそうさせてもらおう。だが、もう少しこうさせてくれ……」
 甘えるように互いの顎をくっつければ、やはり髭が痛い。それでもじょりじょりと擦っていけば、于禁が「痛いです」と笑う。
「茶は何ですか?」
 銘柄を聞かれたので答えた後に、于禁が先程の髭でじょりと擦り付ける行動をやり返してきた。痛い。
「これは、露店で買ったものでな」
「貴方が露店ですか?」
「前から世話になってるところだ」
 なるほど、と頷いた于禁が顎を離す。痛みは無くなったのだが、少し寂しい。
「ぶんそく……ん……」
「何です?」
 どうも口が寂しいので口付けの催促をした。唇を弱く尖らせるのだが、分かっていないらしい。くすくすと笑った後に、于禁の首を捕まえて唇を合わせた。何度こうしても、気持ちが良い。
「ん、ふぅ、ふ……んん、んっ……ん……はぁ……はぁ、だめだ、ずっと、こうしていたい……」
「私もですが、折角の茶が勿体無いのですが。特に貴方と飲む茶が」
 于禁は自身と茶を飲みたいらしい。なのでようやく「分かった分かった」と二つ返事した後に起き上がろうとした。しかし先程の快楽は身体中に染み込んでおり、少しでも動かしただけで甘い痺れが起きる。後遺症のようなものが、どうやら出てきてしまったらしい。
「ぁ……あ、はぁ……は……」
「元譲……貴方は……茶は日を改めましょう」
 言いながら上に于禁が再び覆い被さって来る。魔羅を見れば再び元気になっており、于禁の若さがよく分かった。それに于禁は性に関してはあまり執着しないものだと今まで思っていたのだが、今の景色を見て覆ってしまう。相当な性欲の持ち主だったらしい。
 だがまた体が燻ってきた自身としては、嬉しい限りだ。空気を熱くしながら于禁を迎え入れる。
「ぁ、あっ、ぶんそく……」
 于禁の目が鋭い。それくらいに、自身の体を求めていることが分かり嬉しい。なので足を開いてから、自身の魔羅を見るが萎えたままだ。
 しかし于禁のものをまた腹に納めたい。その一心で、自身の萎えたものを扱いていくが何もなかった。溜め息をつく。
「貴方はそのままで……」
 膝裏を持ち上げられてから、再び尻の穴が露わになる。恥はないし、寧ろ興奮しかしなかった。その中で、于禁が太い魔羅をあてがってから先端を挿し込む。すぐに入れば、来るのは快楽のみ。燃えるような吐息を出しながら、体をうねらせる。
「っは、はぁ……ぁ、あ……! くる、くる……! ぁ、あ……!」
 ぬるりと魔羅が腹の中に入れば、のたうち回るように手足を動かす。そうしていれば于禁に手を掴まれた代わりに、足が布団の上に落ちた。挿入してしまえば、後は強制的に姿勢が抱かれる方向にきてくれるからなのか。
 まるで得物の柄のような太さの魔羅が、出ては入っていく動作を繰り返していく。腹の中の粘膜を擦り、そして打ち付けられていく。
「は、っあ、はぁ……ぅあ! あ……きもちい……!」
「ぐ、くぅ……う……! は、はぁ……私も、気持ちが良いです」
 于禁の目に囚われながら喘いでいく。堪らなかった。気持ちが良いうえに、好いている者とこうしていられるなど。先程よりも幸福感が増してから、腹のあたりがぞわぞわとした。達したような感覚はあるが、ものはもう萎えている。
 それを知っているのかは分からないのだが、于禁がにやりと笑う。
「いかがなさいましたか?」
「っう、ぁ、あ……さっき、きたような、きがしたんだ……!」
「ここはもう、勃起していないのに?」
 わざとらしく目線を向けてくれぱ恥ずかしくなるのだが、それよりも快楽が意識を奪おうとしている。この快楽には一度、いや何度も飲み込まれてしまっていた。なのにまたしても奪おうというのか。抗うのだが、そうすればする程に腹の中が疼いた。止まらない。
「あ、あ……! ぶんそく、もっと、はげしく……!」
「分かりました」
 苦しげな息を漏らしながらも返事をした于禁が、腰の動きを早める。
 もはや、痛いと思えるくらいに皮膚を叩きつけられていけば、そこで于禁が達する。少量の精を吐き出してから引き抜く。再び、萎えてしまっていた。
「ぁ……あ……っぐ、う……ぶんそく……」
 名を呼べばすぐに唇が合わせれば、この夜は茶を淹れぬまま朝を迎えていた。寝台から起き上がるのだが、少し体が痛い。
「大丈夫ですか」
「多分な……」
 これではまともに着物を着ることができないし、眼帯もつけることができない。なので于禁に手伝って欲しいと言えば、すぐさま着物などを持ってきた。そしててきぱきと着せられてから眼帯を装着してもらえれば、また唇が合わさる。
「まだ、朝を迎えたくはありませんでした」
「仕方なかろう……俺もだが」
 舌を出してから絡めていけば、昨夜の熱が残っているような気がした。しかし今から曹操の元に向かわなければならないし、于禁は兵や自分の鍛錬があるのだろう。ここで一旦別れるしかないと思った。残念に思いながら、于禁の大きな体を抱き締める。
「また、お会いしましょうぞ」
「あぁ、次は……次は、お前が戦に勝った時だ。前に約束しただろう?」
「ええ、覚えておりますが……」
 そういえば約束ではないのに共に夜を迎えていた時もあった。だがそれはそれと言い切ってから、付け加える。
「次からだ。次からは、あの約束を適用させるぞ」
「分かりました」
 またしても于禁の笑みが見ることができれば、そこで名残惜しいが部屋を出て行った。振り返れば欲が生まれてしまうので、于禁に背中をずっと向けながら。

 袁紹を討つ為の軍議は続く。日によっては朝から夜まで続くこともあった。その中で、于禁もたまに参加していた。自身は毎回であるが、于禁も参加するとどうにも心が落ち着かない。軍議に集中できないのではないのかと思えてしまう。
 そして今日も軍議が行われた。皮に描かれた地図を中心に、どこをどう攻めるか軍師たちと話し合いをする。その中で何度か于禁と目が合う。于禁は今は何を思っているのか、それが知りたくなったが耐える。そうしながら、曹操や軍師たちと話し合いを重ねていく。途中で慣れてしまった視線を感じたが、今は無視をするしかない。
 荀彧と曹操が気付いているということは、他の軍師たちも気付いている筈だ。自身と于禁の関係を。しかし知られたところでどうということはない。なので于禁の視線を受けながら、陽が沈むまで軍議を行っていた。
 夜になり、時間が空いたので鍛錬をする。実戦用の鎧や刀を装備し、空に向かって刀を振り続けた。頭の中で架空の相手を作り出し、様々な太刀筋で斬っていく。だが所詮は頭の中であるので、経験値など上がる訳がない。そう思いながらも、筋肉は維持しなければならない。そうしなければ、刀が握れないのだ。なので振り続けていると、于禁の声がした。
「夏侯惇殿、このような時間まで鍛錬を……」
「あぁ、最近は口を動かしてばかりだったからな。鈍っていたんだ……そうだ、鍛錬の相手をしろ。お前ならば、適当な刀で良いだろう」
「喜んで」
 兵に刀を持って来てもらうと、早速二人で刀の打ち合いをした。単純な太刀筋で、まずは刀身を弾き合う。
「しかし……袁紹を討つ為の策が、なかなかできませぬな」
「あぁ、それ程に、袁紹が手強いからな……何人もの軍師たちが居ても、兵が揃っていても、なかなかだな」
 二人で他愛もない会話をしながら刀を振る。
「そうだ、お前ももっと軍議に参加してみないか?」
「……いえ、私は軍師ではありませぬ。それに、策と言えども簡単なもののみ考えられる頭しか持っていないゆえ……」
 于禁の頭脳も低くはない。それを自身は知っている。贔屓ではない。そうだというのに、于禁はやけに謙遜をしていた。
「お前は、戦は頭より体を使いたい性分か?」
「そうかもしれませぬな……」
 小さく笑った于禁が、刀の動きを止める。同時に自身も止めてしまえば、どうしたのかと訊ねた。
「どうした?」
「……殿に忠誠を誓う思いは、貴方の方が上です」
「それは……」
 どういうことか、そう問おうと思ったのだが于禁が刀を再び動かす。油断をしていたので、首元に刃先を突き付けられてしまった。冷や汗をかきながら、于禁を見る。刀のように目が鋭かったが、それは一瞬だけである。すぐに、いつもの厳しい目付きへと戻していく。
「……あぁ、そうだ。だが」
「袁紹殿との戦いは、凄まじくなると予想されます。私は殿の側には居られませぬが、貴方でしたら、きっと」
 于禁が言っている意味は何となく分かる。だが、これまで不敗を貫いている于禁という存在があるので、袁紹との戦で勝利すると思っていた。于禁という存在を、信じているのだ。
「だが、俺はお前を信じている」
「私を、あまり過信しないで頂きたい」
 首を横に振った于禁が、そこで刀を下ろす。冷や汗は引いたが、少し首元が少しべたついているような気がした。
 近くに居た兵に刀や鎧を回収するように命令すると、自身のもの含めて回収された。そして一つ息を吐いてから于禁に言う。
「それでも、俺はお前を信じている。それだけだ」
 言い切った後に、城に戻る。于禁も着いて来るのだが、途中で書庫に入ってから扉を厳重に閉めた。そして于禁の着物の襟を掴んでから引き寄せ、唇を合わせる。だが于禁は驚いたような顔はしない。自身からの接吻に慣れているからか。
「……なぁ、文則」
 しかしそう呼んだ瞬間に、于禁の目が見開く。この呼び方をするのは、まぐわい中だけなのだから。
「お待ちを、夏侯惇殿、まだ……」
「お前を信頼していることを、分からせなければならぬ」
 もう一度接吻をするのだが、于禁は大きく動揺していた。ここで二人きりとはいえ、誰かに見られる可能性があるからか。別に見られても良い。誰かに、于禁を取られることなどないのだから。
 ようやく着物の襟から手を離すと、于禁の服装が乱れた。なので于禁は、着物を正してから口を開く。それは嘆きであった。
「分かっております。ですが……私は一度、主である鮑信殿を亡くした故、二度とあってはならないと願っておりまして……それで、私は貴方ならば殿を守れると思いました」
「お前の悲しみも分かる。だが、今は今だ」
 そう言って再び襟を掴んでから強引に接吻をする。だがただ唇を合わせるだけでは足りなくなり、舌を突き出してから于禁の唇を舐めた。少し、砂の味がした。
 長めの接吻を終わらせると、そこで于禁の唇から唾液が垂れる。それくらいに、自身との口付けが良かったのだろうか。くすりと笑うと、襟を開いて胸に唇を這わせる。挑発をしているのだ。
「お止めを……そのようなことをされたら、私は、耐えられなくなります……」
「良いではないか。俺の体に、溺れたいのだろう?」
 にやりと笑うと、そこで于禁の目が変わった。途端に肩を掴まれるのだが、その力がかなり強い。骨が軋む音がした。
「本当に、よろしいのですか。私は、知りませぬぞ」
 肯定の意で胸に唇を押し当てる。故意に音を鳴らすと、于禁がこちらに舐めるように視線を送っているような気がした。それに昂りを覚えると、襟を大きく開いて挑発を繰り返す。
「元譲……貴方という方は……知りませぬぞ……」
 重く低く于禁がそう呟くと、大きな手が肩から手首へと移った。そして手首を掴まれると、挑発をやめざるおえなくなる。なので于禁の方を見ると、目をぎらぎらと輝かせていた。やはり、于禁からの視線の想像は正しかった。それが嬉しくて、上目遣いで于禁を見つめる。
 于禁の顔が近付くと、まずは頬に分厚い舌が滑っていく。ぬるりとしているが、気持ち悪い筈がない。寧ろ快感への一歩を踏み出すことができると思うと、興奮をするしか無いのだ。
「文則……俺を、滅茶苦茶にしてくれ」
「喜んで」
 すると于禁の舌が、自身の唇へ向かう。そして合わさってから、何度も何度も互いに顔の角度を変える。丹念に、唇を密着し合っているのだ。まるで、隙間を許さないかのように。
「ん、ふっ……ん、んん、ん……」
 息を漏らすと、于禁の舌が唇を割ろうとしてくる。更に自身の熱を求めているのだ。それに応じるかのように、唇を開けるとすぐに侵入してきた。もはや慣れた分厚い舌を口腔内で包み込み、唾液を纏わせていく。じゅるじゅると音が鳴ると、聴覚がそれをよく拾うので脳が痺れていった。
 そして舌同士を絡め合うと、幾度も息を漏らしてしまう。あまりの心地の良さに目を閉じると、于禁の責めが一層激しくなる。今度は舌を吸い上げられるが、痺れが脳から全身に行き渡ったような気がする。体が言うことを聞かなくなった。
 なのでそのまま膝を崩してしまうが、咄嗟に于禁が手首から手を離してから腰や尻を支えてくれる。床に崩れ落ちることはなかったが、その際に尻をいやらしく揉まれた。そのせいで、下半身がびくびくと反応してしまう。
「んっ……!? ん、んん、んぅ……!」
 互いの唇の間から隙間ができると、ようやく唾液が漏れてきた。顎の髭に染み、そして濡れすぎたせいで床にぽとりぽとりと落ちてしまう。
「っは、はぁ……はぁ、はぁ……文則……!」
 やがては酸素を取り込めなくなり、頭が回らなくなる。なので無意識に睨んでしまうが、于禁は物怖じせずに自身の尻を強く揉み続けていた。そのせいで、自然と腰を揺らす。于禁からしたら、更に誘う原因にしかならない行動なのだろう。
「あ、はぁ、は……ん、んんっ、ぁ、ん……」
「貴方が、そのようないやらしい声をするから悪いのであって」
 言い訳をしながら、着物の上から尻の割れ目をなぞる。ここは于禁にしか触れられたことがない箇所だ。それも性的な接触ばかりなので、下半身がまたしてもじわじわと反応していく。体が、期待をしているのだ。
「ん、んっ……犯すのなら、早く犯してくれ……俺は、もう耐えられなさそうだ……」
「いえ、なりませぬ。まずは、順番を踏まなければ」
 これは故意に自身を焦らしているのかもしれない。そう思うと、余計に体が于禁を求めていく。遂には下半身が勃起したので、于禁の体に押し付ける。膨らみがよく当たって気持ちが良いので、息を漏らした。すると夢中で腰を振ってしまうと、尻をつねられる。痛みが走った。
「っ!? 文則……!」
「なりませぬ」
 そうとしか言わなくなった于禁が、自身がしたように片手で起用に着物の襟を開いた。筋肉でよく膨らんだ胸が露出すると、やわやわと揉まれる。そこも気持ちが良くなってしまっていた。
「ん、ぁ、あ、ぁ……ぁ、はぁ、や……ぁ……っあ、あ……」
「可愛らしいお声だ」
 惚れ惚れとしたような様子で笑みを浮かべた于禁が、次は大きくなってしまっている胸の尖りを揉んではつねっていく。そうしていくうちに、尖りがぷっくりと膨らんだ。ここも、于禁の舌で丁寧に弄ばれていくことだろう。
 そう期待していれば、于禁の背が丸まっていく。そして顔が胸に近付くと、膨らんだ尖りを唇で咥えた。その瞬間に背を反らせてしまうのだが、于禁はきっちりと咥え込んでいる。なのでむしろ尖りが伸びてしまい、刺激を自ら与える羽目になった。
「あぁっ! ぅあ、あ……!」
 喘ぐと于禁がやわやわと唇を動かす。唇の皺の一つ一つが敏感な尖りに触れ、多数の凹凸に挟まれる。それが気持ちが良くて堪らなかった。このまま、乳でも出すかのような勢いである。
「ぁ、あ……! やめ……!」
 そう言ってしまうのだが、于禁は止める気配がない。寧ろ舌が出迎えてくると、より敏感な尖りの先端をぺろぺろと舐められる。体中が痺れた。
「あ! ぁ、はぁ、あっ、やぁ、あ!」
 頭が無意識に反抗をする。体が勝手に動き、于禁の逞しい体を押し込むのだが力が弱かったらしい。寧ろ于禁にとっては触れてきた程度の力のようで、尻の次はその手を掴まれた。
 体の動きが止まるものの、于禁に体を押された。後ろには壁があり、背中にぶつかるとそのまま体の身動きを取れなくなるようになってしまう。于禁の独占欲が、これほどに強いのがよく分かる。そしてそのまま胸の尖りを弱く噛まれた。甘い痺れが起き、体の震えが止まらない。喉からは嬌声しか出ず、もはやそれ以外は何もできなかった。快感の坩堝にはまる。
「ぅ、あ、あ……! ぶんそく、もう……!」
「まだ、始まってもいませぬが」
 言いながら于禁が何度も尖りを噛んでいく。それを繰り返すと、下半身が濡れる。我慢汁を吐き、そして射精までしてしまった。着物の内側を汚してしまうと、気持ち悪さに足をもじもじと動かす。それに気付いた于禁がようやく胸を噛むことを止めたのだが、次は帯を緩めてから着物を全て開いた。下半身まで露出してしまうと、無様に射精した箇所を見られてしまう。恥があった。
「ほう……胸だけでここまでとは……」
「っ……! ちがう、これは……!」
「おや、嘘を仰っても無駄ですぞ」
 濡れた箇所を触れられ、そして手に付着した粘液を于禁が見せつけるように舐めた。それがとてもいやらしい光景で、思わず目を閉じたくなってしまう。
「ぶんそく、もう、いいから……!」
 実は下半身が疼いて仕方がないのだ。勃起をまだしており、物足りないと言わんばかりに脈打っている。するとそれを于禁が凝視するが、無視をするかのようにまたしても胸にかぶりつく。
 次はもう片方の胸の尖りを口に咥えてから、舌でべろりと舐めた後に吸い付く。そこで先程噛まれていた尖りを見ると、見事に腫れていた。これでは、人前で脱げないと思った。上半身すら脱げなくなるとは、まるで女のようだ。
 絞るように、真剣に于禁が吸い付く。その姿を見て次は心臓が疼いたのだが、これは何なのだろうか。この于禁の姿が愛らしいと思えるが、母性でも湧いたと言うのか。自身は、男であるというのに。
 小さく喘ぎながら控えめに天井を仰ぐと、手がつい伸びてしまう。そして整えられた于禁の頭を撫でるのだが、どうにも簪と冠が邪魔だ。なので簪を勝手に引き抜いてから床に投げ、そして冠も投げる。于禁の長い髪が散らばると、ようやくまともに撫でることができた。なので髪を乱していく。だが于禁の責めは弱まらない。
「んっ、ぐ、ぅ……! はぁ、は……ぶんそく、そこ、もう……!」
 言うのだが、于禁は全く聞いてくれなかった。寧ろ吸い付く力が強くなるばかりで、もはや胸の尖りが剥がれてしまうかと思ってしまう。そのようなことはあり得ないのだが想像してしまい、興奮は一層強まっていった。
 そこで胸に痺れる感覚が走った瞬間に、于禁の喉が何度か鳴った。唾液でも飲んでいるのかと思っていれば、于禁が唇を離す。
「んっ、はぁ、はぁ……元譲、貴方という御方は……」
 于禁が胸を見ながら言うので、何か起きたのだと思った。なので胸を見ると、尖りから白い液体が垂れているのが見える。これは、何なのだろうか。もしや、乳なのだろうか。
「何だ……これは……?」
「母乳を出したのですよ、貴方は。ん、んんっ、甘い……」
 分厚い舌が尖りを撫でると、またしてもびりびりと痺れた。そしてまたしても白い液体が流れるので、于禁がそれを舐めてから吸う。
「ぁ、あっ……! ぶんそく……!」
「貴方のお体は、とてもいやらしい」
 そう言いながらも、出てくる乳を一滴も逃さないかのように吸い上げていった。またしても体が痺れると、乳を出したらしい。このままでは、本当に雌になってしまいそうだった。
「っあ、ぁ……ぅ、う……! っは、はぁ、ぁ……! 文則……!」
 喘ぎながら于禁の髪を梳く。さらりとしており、綺麗だと思った。すると于禁の目がこちらを向くので目が合う。下半身が再び反応した。
「あ、っひぁ、あ……! また、出る……!」
 下半身が疼き、そして震える。脈打ってから血管がどくどくと浮いていくと、そこでまたしても射精をした。熱い粘液を自らの腹に撒き散らすのだが、そこで于禁が胸から唇を離す。まだ満足していないのにと、位置を戻そうとしたところで于禁の唇が腹に向かう。放った精までもぺろぺろと舐めていった。
「ん、んっ! ぅ、うぁ、あ……!」
 もはや腹を舐められるだけでも感じてしまう。ここさえも、性感帯になってしまったのかもしれない。于禁のせいだと思いながら、腹を綺麗にされていった。唾液でよく濡れる。
「貴方のお体は、とてもいやらしいですな。これは、厳罰を与えなければ……」
 于禁が跪く。胸を舌で弄ぶのは止めたらしい。まだ胸が疼くものの、下半身も同じだ。なのでか、于禁が下半身にそっと手を触れてから舌を伸ばす。
 すぐに舌が触れると、びくりと反応してしまった。まずは先端を舐められ、精を放ったばかりの鈴口に舌先を捩じ込まれる。
「っう、あ、ぁ……! っあ、はぁ、は……!」
「おや、このようなことでですか?」
 挑発をされた気がした。しかし何も言い返すことができず、ただ喘ぐことしかできない。
 そのような中で、于禁が更に舌を伸ばしてから括れの部分を舐めていく。だが下半身が綺麗になるとそこで唇を離すので、全く性欲が満たされなかった。腹に着きかけている下半身が、垂れる訳がない。
「文則……もっと、してくれ……!」
「お断りします……元譲、それより、ここは良いのですか?」
 立ち上がった于禁が、胸を指で柔らかく突く。それがとても良く、またしても精を吐いてしまった。せっかく于禁に綺麗にしてくれたというのに、またしても白濁液で汚れてしまう。
「元譲、せっかく私が綺麗にしたというのに……」
 そう言いながらも于禁が再び屈むと、自身の下半身を咥えて口淫をしていく。たまにじゅぷじゅぷと音が鳴ると、興奮が抑えきれなくなる。また、精を吐くかと思ってしまった。
「うっ……! ぁ、あ……! や、文則……!」
 頭頂部を押していくのだが、力が入らない。なので撫でるような仕草をしてしまうと、于禁の口淫が強くなった。唾液までも啜るかのような音に変わっていくと、精を吸い込まれる。そして飲み込んだ音が聞こえると、于禁が顔を上げた。しかし白濁塗れの腹を見ると、そこに舌が伸びていく。先程のように綺麗にしていくと、次はまたしても胸に辿り着いた。
 そこはよく腫れていた。于禁に散々に虐められたせいだ。よく見ると、乳が出ているのが分かる。口淫をされた興奮で出たのだろう。なので于禁に吸われていくと、そのまま胃の中に流されていった。
「……甘いですな」
「感想まで言うな……!」
「しかし……貴方のいやらしい御姿を見ては、私も我慢ができなくなりまして」
 言いながら、于禁が股間部分を押し付けていく。大きな魔羅が、よく膨らんでいるのが分かる。
「っ……! やるなら、やったらいいだろう」
「勿論です」
 自身の着物を完全に剥がし、床に投げられた。全裸になると、体の向きを変えられてしまう。壁に手を着ける格好になると、于禁がその背中に抱き着く。荒い息が、首によく掛かった。
「はぁ、はぁ……元譲……!」
「ぁ、あ……早く、入れてくれ……!」
 そう言うと于禁の魔羅が露出し、尻にぺたりとくっつけられる。それはとても熱く、どくどくと脈打っていた。そしてかなりの大きさがあり、何度体を貫かれても慣れないものである。それが今から体の中に入るのだ。昂りが抑えられなくなり、腰をへこへこと振る。
「文則、文則、早く!」
「えぇ」
 尻に液体が付着するが、それは我慢汁であった。何度交わっても、こうして欲情してくれるのが嬉しい。なので尻を何度も振ると、ぴしゃりと叩かれた。嬌声が漏れる。
「ぁあ! やだ、そこ、だめぇ……!」
「貴方には、厳罰を与えると言ったでしょう」
 叩かれた箇所を強く揉まれる。だが痛みは快楽に変換されるので、媚びるように喘いだ。
「あっ、あ……! もっと、そこ……!」
「厳罰と言っているでしょう」
 すると尻の間に魔羅をぬるりと挿し込まれ、秘部に向かっていく。熱さがよく伝わると、それだけで達してしまいそうになった。だが我慢をしながら、于禁の魔羅の挿入を待つ。腰を掴まれた。
「元譲……」
 字を耳元で呼ばれると、かなりどきりとした。心臓が高鳴らせながら、体を貫かれるのを待つ。そうしていると、秘部と魔羅の先端が密着した。
 たしかここは緩い筈だ。何度も何度も、それも頻繁に于禁の魔羅が通っているからだ。故に解す必要などない。
「んっ……ぁ、あ……」
 熱いものがぴとりと密着すると、声が出てしまう。これが、于禁をより誘うものになったのかもしれない。耳元で唸る声が聞こえるので、相当に性欲を刺激させてしまったのだろう。だがそれで良い。于禁に激しく求められたいからだ。
 振り返ろうとした。そこで魔羅が挿し込まれていく。秘部はひくひくと収縮を繰り返しているからか、ぱくぱくと開閉しながら魔羅を飲み込んでいった。我慢汁により滑るように魔羅が挿入されていくと、熱い感覚が体中に走る。これは于禁特有の熱の他に、自身の昂りによって発生した熱もあるのだろう。とにかく、熱かった。
 喉から音が鳴り、そして口が開く。
「ん、んっ……! ぁ、あ……! くる……!」
 自然と舌が伸びてしまうと、そこで于禁の唇が恋しくなった。舌をいやらしく絡み合いたいのだ。なので魔羅の先端が入ったところで振り返り、そして于禁を誘う。
「は、はぁ、文則、口吸いを……!」
 視界の端の于禁が、どのような反応をしたのかは分からない。
 だがすぐに唇が近付いていくと、于禁に唇を吸われていく。じゅるじゅると音が鳴り、気持ちが良かった。その上に魔羅が吸い込まれていくように入っていくので、更なる快感が襲う。背中をぐねぐねと反らせてしまうと、それを于禁が指で触れる。びくりと体が跳ねた。
「ん、んんっ……! んぅ、ん」
 脳が幸せと言っていた。証拠として、脳内が麻痺していくのが分かったからだ。こうして、もう動けなくなりたいと思える。なので舌を伸ばすと、于禁の厚い舌と絡まっていく。
 するとちゅくちゅくと唾液の音を鳴らしながら、魔羅が全て入った。腹の中が異様に熱い。魔羅の熱とそれに自身の熱が合わさったせいだ。火傷しそうだったが、このまま粘膜に永遠にその火傷を施して欲しいと思える。一生、火傷と共に生涯を過ごしたいのだ。
 そう思っていると、于禁が腰を振り始める。ぱんぱんと肌同士が激しくぶつかり合う音が鳴り始めると同時に、口付けの最中の呼吸の仕方が分からなくなった。なので唇を離し、女のように喘いでいく。突かれるだけで、中の粘膜が魔羅を包み込む。
「あ、ぁん、ん! あ! あ! ぁ!」
 夢中で啼いていると、暇になった于禁の唇が首に這っていく。そしてうなじを蜜のようにべろべろと舐められる。全身がぞくぞくとした。
「っひ、ぁ! あ……! ぁ、あ! ぶんそく、ぶんそく!」
 名を呼ぶことが止まらない。その中で下半身に血が集まっていく。もうじき果てるのだ。なので「でる! でる!」と叫ぶと、うなじを弱く噛まれた。そこで果ててしまい、壁に向けて精を散らせた。
「っう、ぁ、あ……!」
「もう出されたのですか……私は、まだなのに」
 于禁の腰の動きが止まる。まだ、腹の中を充分に突かれていないというのに。なので媚びるように腰を振ると、よく中が締まる中で魔羅が抉れていく。于禁の腰が止まっている今は、こうするしかないのだ。
「淫らだ……」
 そう呟きながら、必死に腰を振る自身を見つめる。そうされていくと恥ずかしくなり、腰の動きを止めたくなった。しかし欲に勝てず、へこへこと情けなく腰を振っていく。
「っあ、あ、またでる……! ぁ、ぅあ、あ! でる!」
 またしても果ててしまうと、床に精の小さな池を作り出してしまう。だがそれを気にしている場合ではなく、出し切るまで脚をがくがくと震わせていた。そうしていると、途端に于禁が律動を始める。今は出した直後だ。かなり敏感になっているので、甲高い声を上げてしまう。
「あぁ!? あ、あ……!」
「元譲、私は厳罰がしたいのですが」
 もう于禁が何を言っているのか分からなくなる。それくらいに、快楽に溺れていた。そのような中で于禁が何度も腰を激しく振り、遂には達してしまうと腹の中に熱い白濁液を放たれた。中に注ぎ込まれる感覚でまたしても達してしまう。なので喉から声を振り絞っていると、于禁からの激しい律動を与えられた。
 気持ちが良すぎて、このまま溶けてしまいそうである。するとまたしても射精感が込み上げ、すぐに精を出してしまう。気持ちが良かった。腹から息を吸い込み、吐いていくと中で于禁の魔羅を感じる。するとそこで力が抜けてしまう。体が動かないと思っている間に意識を失った。目の前が、白色から黒色に変わる。

 気付けば自室の寝台で寝ており、着物を着せてあった。先程の于禁との交わりは夢だと思ったのだが、腰に妙な熱を持っている。それに窓から見る空はまだ暗く、さほど時間が経っていないことが分かった。恐らくは、夢ではない。そして于禁はどこだと辺りを見回すのだが、傍には居ない。がくりと頭を下げると、そのまま寝台から出た。
 自室から出ると、扉の近くで于禁が立っていた。自身の姿を見るなり、すぐに拱手をするのだが頭を深く下げる。
「も、申し訳ありませぬ……!」
「いや、いいんだ。それより、後始末をさせてしまったか? すまなかった」
「とんでもありませぬ……」
 まぐわいの最中に、気を失わせてしまったことを深く詫びたいらしい。しかしこのままでは、于禁のことなので罰を求める気だろう。それが面倒なので、于禁を自室に引き入れてからすぐに壁に詰め寄る。自身の方が身長は小さいというのに、于禁の体が小さくなったような気がした。
 くすくすと笑いながら、于禁を抱き締めた。ほんのりと雄臭く、まだ自身の体を愉しみたかったことが窺える。
「ここでなら、良いだろう。続きをするか?」
「いえ、その……」
「するぞ」
 そう言って、次は寝台に連れてから押し倒す。襲うのは于禁だというのに、于禁は肉食獣に捕まった草食動物のように怯えていた。それが何ともおかしく、再度笑ってしまう。
 まだ、自身の体は満足していない。なのでまずは自ら服を脱ぐと、于禁の上に覆い被さる。髭をぺろりと舐めた後に唇を舐めた。そうしていると、于禁の魔羅が反応したことが分かったので、すぐに着物を脱がせる。そして再び、二人で体を交えたのであった。その後に、大きな戦が控えていることを知りながら。

 曹操の華北統一が決定したのは、まだ後漢末期の頃である。その前に袁紹との官渡での戦いに曹操陣営が大勝を収めており、その勢いで倉亭での戦いを行うところである。
 まずは戦の前に軍議を行うのだが、そこには于禁が居た。次は末席ではなく、それなりに高い位の席に居る。これまでに、何度も戦に勝ち、位を上げてきたのだ。その分、于禁に何度も抱かれていたのだが。
 大きな動物の革に倉亭の地図を墨で描き、それで軍師たちが様々な策を提案していく。勿論、曹操も参加した。
 まず倉亭の地理というのは、黄河のほとりにある。一見、黄河の存在が邪魔になる。しかし曹操の策ではこれを利用し、兵を何人か設置して袁紹軍を呼んでから背後から討つというものだ。それを、何度も繰り返すのだ。袁紹側はこちら側が進軍するとは思ってもいないと予想した結果である。
 数々の策の中でも危険が最も伴うであろう策だ。こちらの兵よりも、袁紹の兵の方が遙かに多い。
 将らの配置には于禁の名もある。これは、曹操が大いに期待しているからなのだろう。それが嬉しくなったのだが、軍議の際には于禁を贔屓にする訳にはいかなかった。なので曹操や軍師たちの話を聞きながら、公平な意見を述べていく。それを繰り返していくうちに、ようやく策が固まった。
 甲冑の緒をよく締め、そして眼帯の紐の締まり具合も確認した。その後に近くに居る曹操に話し掛ける。
「孟徳、死ぬなよ」
「お主もだ、夏侯惇」
 そう短い会話をした後に、それぞれの配置に着く。于禁は黄河に近い配配置であるが、于禁が率いる軍ならば大丈夫だと思った。これまで何度も戦に勝利している。于禁は常勝の将となりつつあるのだ。期待しかしていないし、于禁のその力で曹操を中華統一に導いてくれると思っていた。。
 それを信じ、黄河から最も離れた場所で待機する。馬に乗り軍を率いた。兵に挟まれる中で配置に着くのだが、時には不安だってあった。もしもここで敗れてしまっては、曹操の中華統一は叶わないし于禁と別れてしまうことになるだろう。手綱を力強く握り締めながら、前をひたすら見た。
 すると遠くから金属同士がぶつかり合う音がしたので、黄河に一番近い配置の将が戦闘に入ったことを知る。それを聞きながら、朴刀の刀身を見る。光り輝いており、どのようなものも切り裂くくらいに研ぎ澄まされていた。この刀一本で、戦を切り抜けてきた。曹操で例えると自身なのだ。かけがえのない、存在なのだ。それを見ながら音の先を見据えていると、次第に音が収まっていく。袁紹はこの策に引っ掛かってくれたのだろうかと、内心で心配した。
 だがすぐに少し近い箇所、それも順番的には于禁の配置で戦闘が起きたことを察知する。于禁の力を、自身は信じている。眼帯で隠れている方の瞼に皺を寄せながら、音を聞いていた。すると音がしなくなったのだが、策が成功しているのかはまだ不明だ。
 心臓をどくどくと鳴らしていると、音が聞こえなくなる。于禁の軍はどうなったのか。そう思いながら音がしていた方向を睨んでしまっていると、他の場所から戦の音がした。策はまだ成功を続けているらしい。それに、曹操はまだ生き残っているらしい。それを聴覚で把握しながら、様々な方向で鳴る戦の音を聞き続ける。
 そうしていると、甲冑が揺れる音が遠くから聞こえた。これは自軍のものではない。袁紹軍のものだ。そう感じ取ると、兵に静かな進軍の合図をした後に袁紹軍の元へと孟進撃する。この時は、とにかく必死であった。先をひたすらに睨み、そして兵を一人でも討つつもりで朴刀の柄を握り締めた。あまりの握力に、柄が折れるかと思ってしまうくらいに。
 袁紹の軍が見えると、すぐに兵たちが進んで攻撃していく。すぐに命を散らせる者も居たが、それに構っている余裕はない。自身も馬上から朴刀を振り、敵兵の甲冑を貫き続けた。泥の匂いの中に血の匂いが混ざると、いよいよ戦が激化したのを感じる。周りの兵たちが倒れる中でも朴刀を振るのだが、敵兵の数がやけに少ない。そう思っていると、袁紹が姿を現す。それも、かなりの兵を率いているのだが、危険だと思った。これでは、自身の配置で策が失敗してしまう。兵の士気が下がっていった。これはまずい。
 ここで命が尽きてしまうのか。敵兵を見ながら朴刀を振るう力を弱めてしまうと、そこで曹操の軍が加勢した。一気に攻めの体勢となり、敵兵を次々と討っていく。すると自身の軍の士気が上がり、一気に袁紹軍の敵兵が減っていった。中には、士気の上昇により敵兵の首を撥ねる者も居た。空中に敵兵の首や血が綺麗に舞う。
 良い勢いだと敵兵を斬っていくと、そこで曹操と袁紹が対峙する。血の匂いが深くなっていく中で、二人を睨みつけていた。そうしていると、二人の兵がそれぞれ衝突した。金属が耳の中で響くくらいにぶつかり合っていく。互いに力は拮抗しているようで、両者共に睨み合っている。すると曹操が大声で兵を励ますので、こちら側の兵の力が強くなっていった。おかげで敵兵の首を何個か撥ねたところで、袁紹の悲鳴が聞こえた。
 兵たちの姿でよく分からないのだが、袁紹の悲鳴の声音からして何か悪いことがあったのだろう。口角を上げながら、敵兵に朴刀を振っていく。人々の悲鳴や怒声が聞こえる中で、敵兵を減らしていると、袁紹の「引けぃ!」という声が聞こえた。これはこちらが勝利を意味する合図だ。逃げていく敵兵を見た。時折に落ちている首を見て、恐怖の声を上げる者も居た。
 すぐに曹操が居る場所に駆け寄ると、鬨の声が聞こえ始めた。その中で曹操の少し疲れたような顔を見て安心しながら話し掛ける。
「孟徳……」
「夏侯惇よ、兵を休ませてから、袁紹の攻めに備えるぞ。今回は運が良かっただけかもしれん」
「あぁ」
 まだ、この大局を完全に制した訳ではない。袁紹の兵の力が恐ろしいことは、曹操は痛いくらいに知っている。自身とて、そうだ。なので深く頷いてから、全軍を幕舎に戻らせる。兵を休ませている間に、軍師たちと話し合いをした。
 そこに、未だに眼光が鋭い于禁が居る。この戦ではまだ血が足りないと言わんばかりの雰囲気である。複数の兵たちがそれに怯えていた。
 次に軍師たちや曹操が出した策もあるが、次の袁紹の動きが読めなかった。このまま調子に乗る訳にはいくまいと、曹操が腕を組んで考える。しかし上手いこと話が進まないので、このまま幕舎で一休みすることになった。各々が幕舎に戻るが、そこで曹操と二人きりになる。静けさに包まれる中で、ふと曹操が呟いた。
「于禁の働きは相当なものよ。お主が見込んだ男なだけある」
「な、なっ……!? あ、あぁ、そうだな……」
 突然に于禁のことを話し始める曹操を見て驚く。しかしこれは褒められているのだ。曹操からの称揚の言葉をありがたく受け取った。それと共に、どこか良かったのか聞いてみることにする。小さく「そうか」と呟いた後に問うた。
「指揮から武力までの全てだ。将として、理想の姿だ」
「そうか、なるほどな……」
 まるで、自身のことを言われているような気分になり、とても嬉しかった。笑みを浮かべるものの、一方の曹操はあまり嬉しそうではない。
「このまま、儂から見た将として完璧な存在になってくれるといい。じゃが、足を踏み外させないように言っておけ。于禁ならば、そのようなことはないと思うが……」
「あぁ、分かった。言っておく」
 曹操の言うことには一理ある。于禁ならばそのようなことは無いと思うが、やはり念は押しておいた方がいいのだ。なので後で言っておこうと思った。するとどうしてだか顔が熱くなっていく。あの、まだ血の気が多い于禁に会いに行くことになるのだが、どうされるのか楽しみになってきたのだ。曹操がそれを見て小さく笑うと、幕舎から出た。
「あぁ……俺が伝えに行かなければな……」
 そう呟くと、于禁が居るであろう幕舎に向かう。その途中で兵たちが于禁の話をしていた。何だと思えば、今はいつにも増して雰囲気が恐ろしいらしい。容易く近付けば、殺されてしまうと。兵から于禁への評価は相変わらずだと思いながら、幕舎に入った。ここだけ静まり返っており、未だ甲冑姿の于禁がただ音も無く椅子に座っていた。そして自身の存在に気付くと、これまた静かに立ち上がってから素早く拱手をする。
「いかがなさいましたか」
「孟徳からの伝言を伝えに来た。これからも精進せよ、とのことだ」
 すると于禁が短く「は」と返事をした。なのでこれで用件が澄んだのかと思いきや、于禁が拱手を止めてからこちらに歩み寄る。
「夏侯惇殿……殿とは、それだけを申しておられたのですか?」
「あぁ、そうだが?」
「失礼致す」
 そう言って、于禁が唇を合わせてきた。口腔内は僅かに鉄の味がするのだが、それが何だか美味く感じる。それを味わっていくと、于禁の分厚い舌が侵入してきた。まさかここでまぐわうつもりなのかと、驚きながら于禁の甲冑を叩く。しかし振動を与えるだけで、何の効果もない。
 唇を塞がれながらも、更にどんどんと叩くのだがそれでも効果が無かった。なので諦めた瞬間に、口腔内を舌で蹂躙される。舌が何かの生き物のように蠢き、そして歯列や頬の内側をぬろぬろと舐められていった。
 まずい、このままでは誰かに見られてしまう。そう思うのだが、この状況に興奮せざるおえなかった。どんどんと体が反応してしまうその直前に、于禁の舌が引き唇が離れる。
「っあ、ぁ……于禁……」
「……やはり、また後でもよろしいでしょうか」
 そう言う于禁の目はかなり鋭い。まるで自身の得物かのように研ぎ澄まされていた。
「ぁ、はぁ、は……好きに、しろ……」
 体が于禁を求めてきた。しかし肝心の于禁に待てと言われると、待つしかなくなる。なので興奮してくる体を抑えるのだが、なかなか鎮まってはくれない。拳を強く握ってから口の中を強く噛むものの、どうにもならなかった。
 そのような中で、于禁が自身の顎髭に触れてくる。砂埃で汚れているのだが、それに構わずやわやわと指先で髭を撫でていった。
「こうして、戦の後に貴方に触れると壊してしまいたくなる……何故でしょうか」
「それならば……壊すなら、壊してくれ……!」
 切実にそう望むのだが、それでもやはり于禁はまだその気がないようだ。悔しくなるが、この状況からしても仕方がない。早く城に帰り、夜になって欲しいとひしひしと感じた。
「……ですが、今はなりませぬ」
 そう言って触れていた顎髭から手を離す。まだ、触れて欲しかった。そうだというのに、于禁はかなり残酷なことをしてくれる。睨みつけてしまいそうになった。
「貴方は……今は殿のお側に居るべきです……」
 そこで于禁が言いたいことが分かった。于禁は、嫉妬をしているのだ。未だに、曹操と自身の関係について。それが分かると一気に気分が楽になったのだが、于禁はこの嫉妬を死ぬまで背負い続けるだろうと思った。可愛らしいのだが、少し残酷である。
 だがそこが良い。于禁には悪いのだが、その嫉妬が自身との恋を余計に燃え上がらせると思った。なので次は、自らが唇を重ねる。
「ほう。では、待っていろという台詞は俺からもだ」
 そう言って、于禁の居る幕舎から離れる。そして曹操の元に戻ると、次の策について話し合っていた。

 報せを聞いたのは城に戻り、太陽が沈んでまた昇った頃である。それはとある文官が差し出した一つの文である。曹操の執務室に届けられ、そして二人でそれを読む。
 内容は簡単なものだった。袁紹が先の戦の後に吐血をして死亡。ただそう書かれていた。
 突然のことに驚くが、これはこちらにしては朗報でしかない。曹操が嬉しそうに頷いた後に言う。
「袁紹軍からの攻めはもう来ないだろう」
「何故、そうだと分かる?」
「あやつは、恐らくは後継者を選んでいない。内部で分裂が起きた後に自滅する筈だ。それを待とうではないか」
 曹操の意見には納得しかしなかった。なので「なるほど」と相槌を打つのだが、その後はどうするか考える。この先の曹操にとっての敵は、また出てくるのかもしれない。それが何かは分からないのだが、まだこの乱世は終わらないだろう。そう思い、溜め息をついた。
「だが……敵は、俺の予想では劉備や孫権になるだろう。袁紹が逝った今、儂と同じような戦力を持っている者はその者たちしか居らぬ」
「そうだな……だが、今は劉備や孫権が攻めてくる気配はない。今のうちに兵を休ませておこう。俺たちもな」
「あぁ」
 伝達兵に暫くの間の休暇の命令を出すと、そこで体を伸ばした。纏まった休暇があるのは、久しぶりなのかもしれない。
「お主も休んでおけ。ではな」
 そう言って曹操が執務室を出ると、一人きりになった。城全体に休暇が出された今、曹操の言う通りに休むしかない。
 私室に戻ろうとしたのだが、そこで于禁の顔が過る。于禁は、この命令に対してきちんと聞いてくれるのだろうか。于禁のことだから、きっと鍛錬を始めるに違いない。なので于禁の私室に向かっていく。そこで兵から聞いた話なのだが、やはり于禁は休暇と聞いて早速に鍛錬を始めているらしい。やはりと思い、于禁の元に急ぐ。場所は、先程の兵から聞いた。
 于禁は鍛錬場で刀を振っていた。再び溜め息をついてから、于禁に話し掛ける。
「于禁、休めと言った筈だが?」
「夏侯惇殿……!? いえ、その……どうも落ち着かなくなり、こうしている次第ですが……」
 昨晩は于禁と会っていた。夜を共に過ごしていたが、少し疲れているような様子だったのを覚えている。
「昨晩だって、お前は疲れていただろう。休め」
「いえ、しかし……」
 聞く様子のない于禁を見て、握っている刀を取り上げた。奪われた瞬間に、于禁は悲しげな顔をする。
「休め」
「はい……」
 落ち込む于禁を見ると、心が痛くなる。だがそれよりも、于禁にはやってもらわなければならないことがある。昨夜は満足をしなかった。于禁が手を抜いていたのだろう。なので体が充分に満たされず、体の中心が疼くばかりであった。
「于禁、俺の私室に来い。今後のことについて話すぞ。次の敵についてだ」
「はい」
 というのは嘘だ。自身の部屋に誘い込んで、于禁を襲うつもりであった。それが分からないらしい于禁は、そのままほいほいと自身に着いて行っていた。どこか純粋なその様子に、ほくそ笑むsかできない。
 城内の私室に向かっている最中、于禁が質問をしてきた。
「袁紹殿が吐血により死亡したというのは、その兆候はあったのでしょうか。私は袁紹殿を直接見てはいませぬが、貴方ならば」
「俺にはそう見えなかった。しかし、吐血となると、前から病を隠していたことになるな」
 病の兆候など分からなかった。しかし曹操はどうだったのだろうか。見抜けていたのだろうか。そう思いながら、自身の私室に辿り着く。
 入ってから扉を閉めた、その直後に于禁の体を抱き締めた。ほんのりと汗の匂いがして、興奮を呼び覚まされた。そのような目的で于禁を呼んだのもあるのだが、あまりにも発情が早すぎる。
「……元譲」
 ごくりと喉を鳴らしてから于禁に字を低い声で呼ばれるのだが、心臓が飛び出るかと思った。見上げてみると、そこには雄の顔をした于禁の顔がある。見るとほんもりと顔が赤らんでおり、于禁もその気だということが窺えた。
「貴方は、私のものです。それだけは、覚えて頂きたい」
「分かっている」
 于禁が首を動かし、襟元に顔を埋める。丹念に匂いを吸われていくのを感じ、恥ずかしくなった。しかしこれも于禁の愛情表現の一つなのだ。耐えるのだが、どうにも落ち着かない。
 なので于禁の頭を撫でていると、急に首の皮膚を軽く噛まれる。小さな声を上げると、于禁が頭を上げた。
「昨夜は、態と手加減をしました」
「やはりな……」
 体の疼きが止まらない。そのような中で于禁の雄の顔を見ていると、物欲しそうな顔をしていた。こちらを、深く凝視しているのだ。
「態とというのは、今日の為に備えていたのか?」
「いえ、単に、甘えてはいけないと……しかし、休めと言われた今では態と手を抜く訳にはいきませぬな」
 そう言って、自身の着物を脱がせていく。手慣れたように脱がされていくのだが、途中で首の辺りを何度も嗅がれた。匂いを、相当に気に入っているのだろうか。
 半裸になると、そこで豊かな胸をやわやわと揉まれる。また、乳を出そうと言うのか。ならばと、自らの手も使って胸を揉んでいく。気持ち良さに、息を何度も漏らした。
「っあ、あ……はぁ、はぁ……はっ、ぁ、あ……」
「今は、貴方にずっと甘えていたい……」
 于禁がそこで舌を伸ばし、胸をぺろぺろと舐めていった。これが、于禁の甘えの姿勢のつもりらしい。これでは、乳飲み子と乳母のようではないのか。自身は男であるというのに。
 その時の于禁の舌遣いは、かなり巧妙なものであった。舌先に力を込め、そして豊かな皮膚をなぞっていく。時折に乳頭に掠めると、妙に高い声が出てしまっていた。
「あっ! ひぁ、あ……! 文則、そこ、だめ……!」
 そう言うのだが、于禁はこちらを見るだけである。なので更に恥ずかしくなった、その瞬間に于禁が乳頭に齧りつく。やわやわと歯で噛まれていくと、電流が全身に走った。厚い胸板を震わせながら上半身を何度も撥ねさせる。そうしていると、于禁が乳頭を強く噛む。その瞬間に于禁の喉が鳴る音がした。また、乳を捻り出されたのだ。
 もう、自身は雄としての生殖行為をできないのかもしれない。そう思いながら、于禁の頭にある簪や冠を取り払う。長い髪が布のように広がると、于禁の広い背中に着地した。
「ぁ……! 文則、そこ、や、ぁ!」
「嫌ですか? こんなに、甘い乳を出しているのに?」
 まだ乳が出ているらしく、于禁が再度喉を鳴らしていく。それを聞く度に、腰に力が入らなくなる。なので遂には足を震わせていると、それに気付いた于禁が体を抱えながら寝台に移動した。
 寝台に寝かせられると、自身の上に于禁が覆い被さる。既に体を支配されているので、悦びしか起きない。
「とても美味です」
「っあ、はぁ、は……ぁ、ん」
 返事をしようにも、喘ぎ声しか出なかった。なので先程の悦びの続きを吐いていると、于禁が本当の赤子のように乳頭を強く吸い上げる。これには悲鳴しか出ず、仰け反りながら全身で快感を受け止めていく。
「っひゃ、あ……! あ、あ……! ぶんそく……!」
「美味しゅう、ございます」
 于禁の喉が大きく鳴ると、そこで唇が離れていく。吸われた乳頭はすっかりと腫れており、女の乳首かのように思えた。だが、これが于禁が愛してくれた証なのだ。それが嬉しく思い、于禁の頭を柔らかく撫でる。
「ん、ぁ、あ……ぶんそく、はやく、まらが、ほしい、ほしい」
 すると体中の熱が中心に集まり、腹の中を疼かせる。昨夜手を抜かれたのもあって、いつもより激しかった。早く、腹の奥を于禁の精で満たしたいのだ。
 求めるものの、于禁は無視をするかのようにもう片方の乳を吸った。母乳を求め、強く吸われると背中が反れる。腰ががくがく震える。そのような中で再び于禁を求めるものの、やはり無視をされているようだった。このままでは疼きが止まらず、せめて自らの手で腹の中を埋めたくなる。なので腰をくねらせながら帯を外そうとするものの、于禁にがしりと手首を掴まれた。目が見開くのだが、于禁はこちらの豊かな胸を凝視している。
 手の動きを止められた今、体の中心の疼きをどうすることもできない。なのでひたすらに腰をくねらせるのだが、于禁は相変わらず胸に夢中だ。このままでは、胸だけでこちらの精が出尽くすのではないとかと感じる。現に着物の下は我慢汁でずぶ濡れであるし、このままでは射精しそうであった。気持ち悪くて腰の動きを止めるのだが、于禁からの刺激でここまで感じている証拠だ。すぐに腰の動きを再開させた。
「んっ、はぁ、はぁ、ぁ、あ……! ぶんそく、ぶんそく、くちすいを!」
 于禁は今は胸を堪能している最中なのだが、そう言うと唇を離してからこちらに舌を向けてくれる。長くて厚い舌には、白い液体が微かに絡まっていた。自身の乳を、まだきちんと飲み干していないらしい。それにしても、舌に絡みついているだけで淫猥な見た目になっている。それに早く吸い付きたくなった。
 ようやく于禁の舌が近付くと、すぐにそれに吸い付く。じゅるりと音を鳴らしてから、互いにいやらしい動きで絡み合った。こうするだけでも、やはり気持ちが良い。それに今は太陽が高く昇る頃だ。このような時間帯に体をまぐわうことに、どうにも罪悪感がある。しかしそれでも、これが堪らないと脳や体が言っているのだ。
 くちゅくちゅと鳴らしながら、互いの唾液を味わう。自身の乳も混じっているので、いつもよりも甘く感じられた。それを飲み込んでから、唾液を分泌していくと于禁の舌が侵入してきた。甘い味が強くなったと思うと、そのまま舌をきつく吸われる。脳が甘く痺れ、何も考えられなくなった。そのような中で、于禁が何度も舌を吸うので次第に本当に何も考えられなくなる。
「ん、んぅ、う、んんっ、ん……!」
 着物の中は、我慢汁よりも精で汚れていることだろう。着ている筈の着物は、ただの汚れた布へと成り果てていることだろう。そう思いながら、唇の端から互いの混じった唾液が漏れていく。それが顎に伝って染み込んで濡れていくのだが、于禁からの口吸いはまだまだ続く。
 頭が麻痺したところで于禁が上顎を舐め、歯列をぬるりと舐めていく。それが気持ち良くて目を細めていると、手首の拘束が無くなった。しかし自ら着物を脱ぐ気は起きず、変わらず于禁にされるがままである。
「っん、んふぅ、ふ……! んん、ん」
「っは、はぁ、はぁ、元譲……好いております……」
「あ、あぁ……」
 于禁から愛の言葉が出るが、上手く返事ができなかった。それでも、于禁は満足げに唾液で濡れた箇所をべろべろと舐めていく。
「貴方は……殿のものでありますが、私のものでもあります。それを、覚えておいて頂きたい」
 また嫉妬を見せた。嬉しいのだが、誤解を解くのも忘れてはいけない。しかし今の自身では何も言えず、ただ誘うように淫らに腰を振ることしかできなかった。
「あっ、ぁ、あ、あっ……ぶんそく、ぶんそく……まら、まらがほしい……くれ……!」
「……っ! 仕方のないお方だ」
 ようやく于禁にその気が出たのか、まずは自身を全裸にしていく。汚れた着物を捨てるように床に落とし、そして体液で汚れたものを于禁が咥え込んだ。舌が様々な箇所に向かうと、その度に快感を拾う。
 この立派に勃起したものは、もう生殖の目的では使われることはない。それを、于禁が貪るように綺麗にしてくれている。それが嬉しくて、何度も腰を揺さぶった。于禁の喉の奥に挿しかけるのだが、上手く首を動かしてくれていたらしい。なのでそのまま、腰を揺さぶり続けた。
「っひ! ぁ、あ! また、でる! でる! ぶんそく!」
 下で拾った精は喉に流し込まれていく。その音を聞くだけでも、充分に達してしまいそうだった。
 一方で于禁の責めは強くなるばかりである。ものを吸い上げる力が強くなったのだ。自身が射精を仄めかす言葉を発したからか。なのでその勢いで射精をしてしまうと、すぐに于禁が飲み込んでしまっていた。ごくりと喉を鳴らした後に唇を離す。しかしまだ自身のものの掃除は終えた訳ではない。竿の部分に舌を伸ばして擦り付ける。ぬちゅぬちゅという音を立てながら、ものを綺麗にされていく。根元や双方の袋も汚れているので、そこにも于禁の舌が伸びていた。丹念に舐められた後に、ようやく自身のものが綺麗になった。だが于禁の唾液に塗れてしまい、卑猥なものには変わりがない。
「っあ、あ……」
「さて、脚を開いてもらいましょうか」
 于禁からそう指示を受けると、すんなりと膝を開いた。受け入れる場所の穴は、収縮を繰り返していることだろう。昨夜は、態と手を抜かれたのだから。
「ほう……相変わらずいやらしい」
 言いながら于禁が穴が空くくらいに凝視をするので、今更ながらに恥ずかしくなった。なので自然と膝が閉じようとするものの、太ももを力強く掴まれる。
「なりませぬ。そのままで。しかし……貴方のここは、本当に淫らな姿をしていらっしゃる……色はまだ綺麗な桃色で、膣のように開いており、誘うように開閉を繰り返している。卑猥だ」
 説明をされると余計に恥ずかしい。なのでものから何滴か精を吐いてしまうと、そこで于禁の顔が近付いてきた。また視界に入れられ、そして袋と穴の間に何やら湿った感触がする。于禁が股に顔を埋めているのは分かるのだが、何をしているのか分からない。そう思っていると、次第に腰が揺れてきた。
「っは!? は、はぁ、はぁ、ぶんそく、なにを……!?」
 そう聞くのだが、于禁は答えてくれない。なので足の指を動かしてみるものの、びくともしなかった。
 すると前立腺を触れられたような、奇妙な快楽が全身を襲う。何が起きたのか分からず、首を傾げながら自身のものから精が噴き出したのを見た。本当に、何が起きたのか分からない。
「ここでも感じるのですか……」
 于禁がそう言って同じ箇所を何度も舐めていった。尻は相変わらず疼くのだが、舐められている箇所は気持ちが良い。なので息を切らしながらもう一度尋ねようとした。だが、于禁が舌でそこを押すと、とてつもない痺れが起きる。目を見開きながら、体を仰け反らせてしまった。
「ぅあ……! あ、あ……!?」
「貴方は可愛らしい……このまま、時が止まってしまえばいいのに……このまま、永遠に貴方を抱いていたい」
 ようやく于禁が舌を離したところで、拘束を解放して着物を脱いでいく。ふわりと汗の匂いがするのだが、やはり性欲を増幅させるものでしかならない。そこで匂いだけで射精をしてしまうと、もう于禁には敵わないと思った。何もかもで、こうなってしまうのだから。
 于禁も全裸になったところで、勃起している凶器のような大きさや太さの赤黒い魔羅を見せつけられる。これで腹の中を突かれると、堪らないのだ。自身の理性を砕いてしまう恐ろしいものであるのだが、快感を求めずにはいられない。体を起こしてから手を伸ばし、それに触れる。どくどくと脈打っており、うっとりしてしまう。なので舌までも伸ばして触れてみると、とても熱かった。
 それを口に含み、ぬろぬろと舌を這わせていった。立派なこれを口淫できるのは、自身の特権である。雄臭さと汗の匂いが混じったそれは、興奮に引き換える為の材料でしかない。なので目を垂らしながらしゃぶり、音を立てていく。
「ん、んん、んぶ、ん、んぶ」
「っ……! ぐ、う、ぅ……! 元譲、上手いですぞ……!」
 口で可愛がるのも、慣れたものだ。陰毛が皮膚に刺さるまで喉の奥に入れると、息が塞がるのだが脳が痺れていく。それに上を見ると于禁が苦しげな表情をしているので、何だか優越感を覚えてくる。
「う、ぁ、あ……! 元譲、元譲……! もう、出る……!」
 出してくれ、そう言いたいのだが口が塞がっているので強く吸い込んでみる。すると于禁の魔羅が大きく膨らんだと思うとそのまま喉に熱いものが流れてくる。自身の口腔内で射精をしたのだ。
 必死に飲み込むのだが、途中で苦しくなって于禁の魔羅を吐き出す。同時に精も口から出てしまえば、勿体無いと追いかけた。しかし布に染みてしまい、がっくりと肩を落とす。
「はぁはぁ、元譲……貴方は……」
 于禁がそう言うので、顔ではなく魔羅を見ると血管がどくどくと浮いていた。未だに美味そうな魔羅の外観で、もう一度食いたいと思った。しかし腹の疼きが止まらないので、寝転んでから脚を開く。そして尻穴を開いて見せると、于禁がこちらを睨んだ。夢中になっている証拠である。
「はやく、おまえの、こだねをくれ……はやく、ほしいんだ……」
 そう言ってみると、すぐに于禁が覆い被さってきた。そして息を荒くしながら首を舐め、そして魔羅が穴に充てがわれる。先端ですら熱く、声を微かに出してしまった。
「あぁ、あ……ぁ……」
「元譲、元譲……!」
 見ると于禁の目が血走っていた。それが嬉しく、近付いてくる于禁の顔を舐める。するとぐちゅりと股から音がした。于禁が、魔羅を穴に押し付けてきたのだ。
「ん、ぁ、あ……! ぶんそく、きて……!」
 期待に体を揺さぶり、同時に豊かな胸を揺らしてしまう。それを于禁は見逃さなかったらしく、胸に顔を埋め始めた。荒い息が何度も掛かって擽ったいと思っていると、股に魔羅を挿し込まれた。どちゅんと音が鳴り、太い魔羅が中の粘膜を抉っていく。
「ひゃあぁ! あ、あ! まらがきたぁ!」
 喘ぐのだが、于禁はずっと自身の胸に顔を埋めていた。それが気に食わないのだが、魔羅が進んでいく度に思考をすることができなくなっていく。次第に進む魔羅は長さもある。なので奥に達するのは容易かった。ぐいぐいと進められていく魔羅の感覚にうっとりしながら、于禁の髪をくしゃくしゃにする。しかし于禁は怒る余裕が無いらしい。自身が、相当に締め付けているらしく。
 ようやく魔羅が根元まで入るのだが、その頃には唇から唾液を垂らしてしまっていた。もう何も考えられなくなっていると、于禁の体が揺れる。自身の体も揺さぶられると、律動が激しくなっていく。ぱんぱんと肌同士がぶつかる音が聞こえ、そして腹の中を魔羅に侵食されていった。幸せであった。
「ぁ、ああ、あ、っあ、ぁ、あ、あ! ぶんそく! ぶんそく!」
 呆けたように于禁の名を呼ぶと、挿入された魔羅が膨らんでいくのを感じる。少しの律動で、射精感が込み上げたらしい。
「う、ぐぅ……! もう、出てしまう……!」
 未だ胸に顔を埋めたままの于禁が苦しげに腰を振るのだが、その際に腰を掴まれた。体を固定されたので体を動かせないでいると、于禁の体の動きが止まる。どうやら射精の為の準備をしているようだった。もうじき、精が流し込まれる。そう思うと興奮が止まらなくなり、脚で于禁の体をぎゅうぎゅうと絡めていった。于禁の精を欲している証拠として。
 すると于禁の低く唸る声が聞こえると、そこで腹の中に熱い感覚が走る。ようやく、精が流し込まれたのだ。嬉しさに悲鳴を上げると、そこで于禁が顔を上げた。息を荒げながら「良い匂いだった……」と呟くので、自身の胸の匂いを吸っていたのだろう。それが嬉しくなり、またしても髪をくしゃくしゃにする。于禁の髪は、見たことがないくらいにぼさぼさになっていた。
「っあ、ぁ……ぶんそく……もっとくれ……」
「……喜んで」
 次は于禁がこちらの顔を見ながら律動を起こしていく。肌と肌が激しくぶつかり合う中で、于禁と視線が合った。于禁の目の鋭さは変わらなく、それに惹き込まれていく。このまま、于禁の視線に射抜かれていたいと思ったからだ。
 ぱんぱんと音が鳴る中で、自身は悲鳴を上げていく。これが愉しくてたまらない。すると于禁の唇が恋しくなった。なので口吸いを求めると、すぐに于禁が応じてくれる。唇が重なると、舌を出し合ってぬらぬらと絡めた。
「ん、んん、んっ……! ん、ふ、ぅん……!」
 脳が悦んでいる。体が悦んでいる。そのような中で達してしまうと、自らの胸に精を散らしてしまった。胸が熱いが幸せである。
 腹の中は相変わらずの熱さと異物感で、また少しでも動いてしまったら達してしまうところである。
 口腔内が唾液で溢れていく。飲み込むのだが、間に合わなかった。なのでまたしても唇の端から垂らしていき、そして于禁の舌の責めは止まらない。まるで、口腔内を味わっているかのようだった。
 すると于禁に唾液を吸われていく。じゅるじゅると音を鳴っていく毎に、口腔内の唾液が減っていった。唇の端からこぼすことは無くなったのだが、代わりに于禁の舌が口腔内の更に奥へと侵入してくる。上顎のより奥や奥歯を舐められ、体がびくびくと跳ねた。もう、どうにかなってしまいそうである。その中で、于禁がまたしても達した。腹の中に熱さを再び撒き散らされるのだが、その最中に于禁の唇が離れる。すると甲高い悲鳴を漏らしながら腰を痙攣させた。
「ぁ、あ……! あ、あ……!」
「元譲、貴方の体も、心も、私のものです……!」
 そう言いながら、于禁が律動を強めた。全身に響くくらいに魔羅を打ち込まれていくうちに、奥へと入っていく。やがてはぐぽぐぽと音が鳴ると、遂に存在しない子宮にまで来るのかと錯覚してしまう。
「ぁ、あ! くる! くる! しきゅうに、くる!」
 そう叫んでいると、于禁の魔羅がゆるゆると引いていく。これは奥に挿し込む為の前触れかと思うと、待ち遠しくて堪らない。息を何度も切らしながら、腹の中を締め付けた。
「っぐ、う……! 元譲、貴方という方は……!」
 歯をぎりぎりと食いしばる于禁の姿を見て、ここまで種付けに必死になってくれることが嬉しかった。なのでゆるゆると笑みを浮かべると、そこで全身に衝撃が走る。于禁が、魔羅を奥にまで突いたのだ。ぐぽ、とまたしても音が鳴ると、そのままとてつもない快楽に包まれる。甲高い悲鳴が喉から出て、そして子宮に魔羅をぶつけられた。
「っあ、あ……! ぁ、あぁ、あ……! しきゅう、だめぇ!」
「はぁはぁ、早く、貴方を孕ませたい……!」
 叶いもしないことを口にしながら、于禁が魔羅で子宮を虐めていく。何度も何度も貫かれ、自身のものが何度も射精した後に萎えてしまった。しかし快楽は止まらない。
 やがては汗などの体液に塗れていくと、于禁が腰を激しく揺さぶった。寝台からは、ぎしぎしと軋む音が鳴り壊れそうである。
「ぁ、あ! だめ、もう、しきゅう、こわれる!」
「壊れてしまえばいいのですよ」
 恐ろしいことを口にするが、そのようなものは今の自身にとっては興奮の材料にしかならない。なので「こわして」と幾度も口にしていると、子宮に精を放たれた。腹の奥がとてつもなく熱くなり、火傷するかと思ってしまう。
「ん、ぁ、あ……! ちゃくしょう、するぅ!」
 自身は腰をがくがくと震わせると、そこで于禁が再び唇を重ねる。優しい口吸いであり、思わず涙が溢れてきた。
 腹の奥では次第に萎えていく于禁の魔羅を確認し、まぐわいが終わったことを告げる。少し寂しいと思ったのだが、また于禁と体を重ねたら良い話だ。広い背中を抱き締め、肌同士を密着させる。熱い。
 互いに何度も顔の角度を変えてから、于禁の唇がまずは離れていった。
「元譲……」
 愛しげに呼ぶその声に、脳が痺れた。
「ぁ、あ……ぶんそく……」
 呼び返すのだが、体が上手く動かなかったなので脚をじたばたと動かすと、于禁が抱き締めてくれた。
「元譲、何があっても、私と居て下され……」
「あぁ、もちろん、だ……」
 短い会話を交わすと、二人でまた唇を合わせていた。肌の熱さをずっと感じていながら。

 曹操や自身の予想通リに、劉備や孫権が敵になった。赤壁での戦いにて、曹操側と劉備と孫権の二つの勢力がぶつかる。だがその際に、曹操側はとある不利を抱えていた。実は、水の利に弱いのだ。しかし大量の船や兵を用い劉備と孫権を圧倒するつもりであった。それも、兵の数は数十万の規模である。これでは負ける訳があるまい。船は、繋げば良い。圧倒的な差だ。負ける訳がない。
 一方で劉備と孫権の軍はそれよりも圧倒的に少ない。劉備には諸葛亮という軍師が付いたらしい。しかしそれにしても、数で圧倒できるだろう。この戦は、勝ちだと思った。こちら側に付いていた紫鸞も、軍師たちも確実に頷いていた。
 なので軍議にて、曹操は兵や将らに勝利を約束している。勿論、自身もそれに頷いていた。于禁は少しは心配したものの、曹操が言うならばと共に頷く。
 しっかりとした木でできた船に乗り、劉備と孫権に挑む。その際にどこか風が吹いていた。何だろうと思ったのだが、気にせず刀を抜く。人を斬る準備はできていた。隣に居る夏侯淵と共に、頷いた。準備はできている。
 すると戦が始まる。兵が動き出すと、そこで何か熱い感覚があると思ったら船から火が出ていた。焼けているのだ。見れば、遠くの高台で諸葛亮が何かの儀式をしている。これは東南の風だ。そして劉備と孫権の軍の兵たちが、火の点いた松明を船に点けて回っているのだ。それも、諸葛亮のその東南の風により火が強まって大火事になっている大事だ。なので兵たちが焼き殺され、海に落ちていく。
 それを見て、曹操が「引けい!」と叫ぶ。しかし聞こえない者や逃げ遅れそうな者が居り、それどころではなかった。
 船の上にて、大勢の兵たちが混迷を極める。馬はあるのだが、兵と共に海に落ちる光景も目にしていた。これではまずい。曹操を見ると、顔を青ざめさせながら軍師たちに指揮をしていた。
「孟徳! とにかく、逃げるぞ! まずは地上に向かえ! 淵! 孟徳を誘導するぞ!」
「分かっているぜ! 惇兄!」
 動くことのできる船はそこまで無い。自軍内で慌てふためいている間に、劉備と孫権軍が船の上に攻めて来ているのだ。出口など、塞がれてしまっている。そこまで迫ってきている。そこで敵兵を斬っていくしかない。しかし船が揺れ、上手く刀を振るうことができなかった。そこでようやく船が動くのだが、ここで引いてしまっては操舵室に辿り着かれてしまう。それに海と挟み撃ちにされてしまうだろう。なので苦しいと思いながら兵を斬っていき、夏侯淵と共に陸に辿り着くのを待つ。
 そういえば于禁の姿を見ていない。ここから遠い場所に居ると思っていれば、敵の中心に居た。ひたすらに、三尖刀で斬って回っていたのだ。鎧は血に塗れ、三尖刀の刀身には肉片や何かの断片が付着していることもあった。味方や敵から見ると、何かの怪物に見えていることだろう。自身は、それを恐ろしいとは感じないものの。
 ここで死ぬことはない、そう願いたいのだが常人ならば数に勝てないだろう。ここで心が折れて降伏することだろう。そう思いながら、兵と戦っていく。夏侯淵が弓で援護してくれるが、それでも間に合わないくらいだ。ここで、死ぬ覚悟を少し持っていた。
 刀同士が弾く中で、人々の悲鳴がよく聞こえた。このままでは、曹操による平定が実現しないのではないか。そう思いながら、兵を斬り倒していく。時折に刀を持つ手に斬りかかられることがあったのだが、無事に腕を死守できていた。脂汗が吹き出し、火により多量の汗が流れる。それに血の匂いがして、地獄の一言だった。そのような中で、曹操を守る。そうしていると、無事に領地に近い陸地に辿り着いたらしい。急いで船から脱出する中で、曹操と共に走る。于禁の姿が視界の片隅に入るのだが、優先度は曹操の方が高い。なので于禁に対し、心の中で生き延びていて欲しいと願いながら走る。于禁ならば、生き残ってくれると信じて。
 夏侯淵と共に敵兵に追われながら陸地に足を着けるのだが、そこには敵兵が待ち構えていた。最悪の展開なのだが、切り抜ける他は無い。なので向かってくる兵に必死に抗う。矢が飛んできて、振るってくる刀がやってくる。そのような中で、反撃や回避を繰り返す。互いに、命を落とす者も居た。しかし今は悔やんでいる場合ではない。心にそのような隙を作っては、ならないのだ。
 背後では燃えさかる船があり、前方には敵兵が居る。正に四面楚歌の状態に、震え上がる兵も居た。だがここを生き延びなければ、先はない。なので自身が戦陣を切って敵に向かっていく。すると兵たちが着いて来てくれるので、そのまま特攻していった。何人もの兵を斬り倒していき、どうにか活路を開けた。なのですぐ近くの領地へ向かっているが、その度に劉備軍と孫権軍が伏兵としてやってくる。毎度、戦死するつもりで戦いに挑んだ。
 連れる兵や将が減る中で、于禁の声がした。どうやら、あの死地をどうにか切り抜けることをできたらしい。安堵をするが、まだ曹操の命を保証できていない。なので于禁と一瞬だけ目線を合わせてから、敵兵をなぎ倒していく。まだ、生きていてくれと。
 互いにかなりの兵が減ったところで、ようやく領地の目前まで来た。だがそこで大きな影を見る。その正体は、関羽であった。それに睨むのだが、関羽は全く引いてくれない。今の状態では、最悪の状況だからだ。それに関羽と相手をするには兵や気力が足りない。そのような絶体絶命の状態で、刀を構えた。だが曹操は刀を構えない。どうしたのかと思っていると、関羽が口を開く。
「……ここは通す」
「何故だ? 何か策でもあるのではないのか?」
 曹操が問うのだが、関羽は首を横に振った。
「武人に偽りは言いませぬ。曹操殿。通ってくだされ。貴殿には、恩がある故」
「分かった……」
 そう言うと、曹操が関羽の前を通った。特に得物を振るう訳でもなく、ただ曹操が走り去るのを見ていた。なので曹操に続いて自身も通るのだが、関羽を一つ睨んだ。だが関羽は動じない。
「夏侯惇よ、余計に関羽が欲しくなったわ」
「……俺の前でそのようなことを言うな」
 曹操に余裕ができたのか、一つ笑う。そこで振り向いてみると、于禁の姿があった。于禁も自身のように関羽を睨んでおり、くすりと笑ってしまう。ようやく、緊張が解けた。体から力が抜けていく。
「今回は俺の油断が敗因だ。軍師たちやお主のせいではない。俺の失態だ」
「あぁ」
 これ以上は、何も言えなかった。なので静かに頷くと、ようやく曹操の領地に入る。そこで走るのを止めると、脂汗などがようやく引いた。だが震えは続いている。まだ、夢のような気がしてならないのだ。
 まずは適当な屋敷に入ると、そこで曹操を休憩させた。曹操も疲れているらしく、かなり疲弊している。
「孟徳、大丈夫か?」
「殿! 大丈夫ですか!?」
「あぁ……何とかな……劉備め、奇妙な策を使いおって……」
 言いながら、甲冑を外し、刀を床に置く。そして私室のような部屋に入ると、そこで椅子にどかりと座った。夏侯淵は立ったままだ。
「夏侯惇よ……劉備も、恐ろしくなったとは主椀か?」
「そうだな、諸葛亮という軍師を出迎えてから、すっかりと変わってしまったかもしれん。だが、俺たちは俺たちでそれを切り抜けるしかない。それだけのことだ」
 もう一つ椅子があったのに気付いた。なのでそれに座るのだが、かなりぎしりと軋んでしまったようだ。甲冑をまだ着ているせいなのか。
「……于禁は、生き延びてくれたようだな。そういえば、どうなのだ? お主は、于禁の太陽になれているか?」
「いや、俺は于禁の月になろうとしている。それでいいのだ」
 于禁との会話を思い出した。なので溜め息をつくと、曹操が一つ笑う。
「月か、それは良い。綺麗であるし、人を導くものだ」
 少し照れてしまう。それを誤魔化すように立ち上がって甲冑を脱いでから椅子に座り直した。
「于禁は、生き残ってくれたようだ。俺にとっても、良いことだ。いや、生き延びてくれて、俺は助かる」
「俺もだ」
 兵や将らが次々と到着したのか、外は騒がしい。それを聞きながら、曹操がとあることを言う。
「やはり、劉備や孫権は敵だ。しかし……味方になる時もあるやもしれん。その時は、関羽を見逃してやってくれ」
「わざわざ言うな……」
 気が抜けてしまう。なので息を一つつくと、軍師たちは今どのような状況なのか確認しに行く。
 外に出ると、軍師たちがぼろぼろになりながらもこちらに来てくれていた。しかも全員揃っていることから、被害は思ったよりも最悪ではなさそうだ。
 次に于禁の具合を見てみる。甲冑はやはり血に塗れており、兵たちがそれを見て怯えている。宥めてから話し掛けた。すぐに拱手をしてくれるので、意識はしっかりとあるようだ。
「于禁、どうだ?」
「夏侯惇殿……ご無事でしたか」
 甲冑を脱ぎかけているようだが、こちらを見ていた。顔までにも血が付着しているので、手拭いを探そうとした。そこで于禁が先に手拭いを先に見つける。そして素早く血を拭い「失礼致した」と言う。
「夏侯惇殿、殿のお加減は?」
「大丈夫そうだ。申し訳なさそうにしていたが、まだ劉備や孫権を討つ気はある。心配するな」
「そうですか。殿らしい……」
 僅かな笑みを浮かべた後に、こちらを見る。様子を窺っているのだろうか。
「俺は大丈夫だ、心配するな。死にかけもしたが、こうして無事だから心配するな」
 そう言ってから、于禁の甲冑の胸部分を叩く。とても硬かった。
「では、また後でな」
「は!」
 于禁の元から離れ、様々な軍師や将の元を訊ねた。具合を聞くのだが、皆心配は無さそうだ。海に落ちたり、焼け死んだ者を悼む者が居た。その者たちには静かに見てから曹操の元に戻る。
「皆、大丈夫そうだ」
「それはよかった。俺の代わりにすまんな」
「別にいい。それより、孟徳はそろそろ横になれ。俺もそうする」
 そう言って、自身は別の部屋に移動する。そして甲冑を脱いでから寝台に横になった。疲れがどっと押し寄せるのだが、目を閉じると先程の窮地が目に浮かぶ。あの時、どこかの動作や体勢を間違っていれば死んでいるところである。溜め息をついてから目を開けるのだが、やはり浮かぶのは先程の悪夢のような時間だった。
 汗が引いているし、少し肌寒い。なので体を丸めていると、扉を叩く音がした。誰かと思い、起き上がりながら「入れ」と言うと扉が開く。入って来たのは、着物姿の于禁であった。
「夏侯惇殿……」
 于禁の顔を見ると、とても真剣な顔をしていた。先程話したばかりだというのに。
「どうした?」
「その……やはり貴方の顔を見ていたいと思いまして……」
「だが……」
 なので思ったことを言おうとすると、于禁がそれを遮って自身に抱き着いた。
「于禁……!?」
「元譲! 貴方が、無事で本当に良かった……! 私は、本当に心配しておりまして……!」
「分かったから、分かった。落ち着け」
 大袈裟過ぎる。なので笑っていると、于禁が戒厳するかのようにこちらを見た。本当に、自身の無事を喜んでくれているらしい。だが今更にも程がある。どうしたのだろうか。
「于禁……いや、文則、どうした?」
 笑いながら言うのだが、于禁の真剣さは変わらない。なので相当だと思いながら、于禁に問う。
「文則、俺はここに居る」
「はい、ですが……貴方が亡くなったと思うと……」
「不謹慎なことを言うな」
 そう言って于禁の唇を奪う。そして舌を絡めていくのだが、それどころではないらしい。心配性にも程がある。なので唇を離し、于禁に話し掛けた。
「文則、だったら、一緒に寝るか?」
「はい……」
 本当にそのつもりらしい。驚きながら于禁と共に寝台の上に横になるのだが、そこで軋んだ音が強く聞こえた。二人の体重では、あまり耐えられないらしい。それでも二人で横になると、抱き合って互いの鼓動を確かめ合う。これは夢ではないし、幻でもない。
「文則、お前が生きていて、俺は本当によかった……」
「私もです。私にとって、貴方は月ですから……」
「そうだったな」
 于禁にとっての月、それは明るい場所へと導く存在となり得る。それになれているのだろうか。聞きたいのだが、于禁は満足げにしているので、聞かないことにした。代わりに、もう一度唇を交わせる。すると于禁が応じてくれて、舌を絡めていった。互いに鉄や死の匂いがするのだが、それでいい。これが、互いに生きている証となるのだ。なのでそのまま唾液を交換し続ける。
「ん、ふ、ふぅ……文則……」
「元譲……」
 字を呼び合うと、そのまま互いに溺れていく。着物を脱ぎ、生きている証拠の体温をぶつけあった。それは激しいものである。寝台が壊れるかと思うくらいに、于禁の所作の一つ一つが激しいのだ。だがそれで良い。
「っ、あ、あぁ、あ……! 文則……!」
 于禁から与えられる快楽に身を捩らせ、布に沈んでいく。そして体をぶつけ合うと、しばらく抱き合う。
「今回ばかりは、許して下され……私は、まだ弱い人間故に……」
「そのようなことはない。お前とて、強い人間だ。俺が言うのだから、誇れ」
 そう言って于禁を励ます。今の于禁は、悲しみと喜びの狭間に居るのだろう。ならば、月としての役目を果たさなければならない。明るい場所へ、于禁をそっと導かなければならないのだ。
「于禁、だから心配するな。俺が、傍に居る。俺は、お前にとっての月なのだろう?」
「はい……」
 于禁の甘える態度は変わらない。だがそれでいい。そのまま、自身の心にも深く溺れたらいいのだ。なので于禁の肌と熱を分け合うと、そのまま眠りにつく。

 次の日、城へ戻るべく屋敷から出た。曹操は回復したらしく、すっかりと養生できたらしい。なので夏侯淵と共に曹操を守りながら城に戻る。その最中に夏侯淵と話していたのだが、やはり戦死した兵や将は多いとのこと。どこで弔おうか、そう考えながら城を目指す。休憩の為に野営を設置してから寝ることも繰り返した。于禁と話す時機はあまり無かった。それでも、于禁とは死ぬまで繋がっていると思っている。なので心配はいらない。
 だが、肝心のその死ぬ時はいつなのだろうかと考える。できるならば、布団の上で死にたいと思えた。しかし武人とて、そのような甘えを思うことはならない。なので考えを振り切ってから、もう一度死ぬ時を考える。いつかは、于禁と離れてしまう時が必ず来る。そのような中で、于禁とあと何度会えるか分からない。明日、もしかしたら死ぬのかもしれない。誰も、明日生きていることを確信してくれる訳ではない。そのような中で、生きなければならないのだ。
 生きているとは辛い。しかし自身は、于禁としての月となると約束しているのだ。ならば、静かに暗闇で輝き、導かなければならない。自身ならばできる。そう思い、死ぬ瞬間を思考から手放した。
 いつか、自身が死ぬ時まで。