青い月『寝待月』
それから何日か経ち、于禁の体はようやく完治した。傷口は全て塞ぎ、体を動かしても開くような心配はない。そう待医から判断されたからである。
だが右肩に微かに一箇所矢傷が残っていて、左の脇腹には数センチ程の傷跡がそれぞれ残っている。
なので今まで何度も戦に出ようが、体に大きな傷を受けたことが無い于禁に、初めて体に傷跡がついたのであった。
それまでのところで、夏侯惇は陽が沈むと見舞いに来ては、医者が診察に来る頃には帰るという繰り返しだった。その中で毎日、二人きりの間に夏侯惇は于禁に軽く口吸いをして寝室を出ているが。
そうして何回か口吸いをするうちに、于禁は夏侯惇に口吸いをされるということに慣れてきたようだ。さすがに、自分から酔っていない状態で夏侯惇に口吸いをするというのはまだできなかったようだが。
だがそれに対し夏侯惇は、于禁のその様子を愛おしげに見ていた。口吸いをしようにも恥ずかしげにしていて、結局は口吸いを受ける形になっている。それも恥ずかしがっていて、普段では絶対に見られないであろう様子を。
傷が完治してから、于禁は戦に備えての鍛練を再開させた。
武器を握るということ自体は数日ぶりであったが、単純に剣を持って振ることはできる。だが落ちてしまった体力の問題により、振り続けることはまだ難しいらしく、于禁は苛ついた。更に以前は縦に割れていた腹の線は少し薄まっており、余計に。
なので兵はそれに怯えていて、士気が落ちてしまっていた。それに于禁は薄々と気付いていたが、どうにもできる筈ではなく。
今は戦況が落ち着いているとはいえ、いつ敵が攻めてくるか分からないくらいに不安定な状況だ。それに備えておかなければならないと、于禁はひたすら自分の体を追い詰めた。気が緩んでいる、と自分に言い聞かせながら。
その様子は周囲からもよく分かったし、曹操や夏侯惇の耳にもそれが届いていた。なので夏侯惇は曹操から頼まれ、鍛練終わりで身を清めた直後で、平服姿の于禁の元を訪ねた。ちょうど、城内の書庫へと向かう途中であるところで。
その時はちょうど、日が暮れる前のことだった。
「于禁!」
同じく平服姿である夏侯惇は不安そうな顔で、于禁の近くまで追いつくと名を呼ぶ。
「夏侯惇殿、いかがなさいましたか?」
疲れた顔をしている于禁は、片手で余裕で持てる数の竹簡を持っていた状態で振り返る。だがそれを見て怒った表情に変えた夏侯惇は腕を伸ばし、于禁の右頬を一瞬だけ軽くつねると手を離した。
「お前にはそこまで急いでいるものを回していないはずだ。なぜ竹簡を持っている?」
于禁は軽くでも頬をつねられ、痛そうな表情をした。
「先日の療養中では他の者に私の分までさせてしまったと聞いたので、せめて……」
夏侯惇は溜息をつくと「着いてこい」と言い、于禁が向かう筈であった、書庫へと二人で入って行った。
今は日が暮れる直前なのか、書庫には誰も居ない。だがそれでも夏侯惇は出入口から、見えない棚へと于禁を連れ出し、近くの壁に于禁を追い込んだ。怒りの表情を引き摺ったまま、強い口調で于禁に詰め寄る。
「お前はまだ治ったばかりであるのに、なぜ無理をする?」
「私は無理など……」
「前の戦で、何かあってもどうにか兵を守ることや、状況を打破できるのは己しか居ない、と自惚れているのか? 確かに、あの時は俺のせいでそうだったがな……」
図星をつかれた于禁は視線を逸らし、何も言えなくなったのか黙る。
その頃には外は既に暗くなっており、夏侯惇の顔はあまり見えなくなっていた。なので互いの表情を伺えないでいるので、声音で互いの感情を読むしかない。
「……すまん言い過ぎた。だが、お前だけで何もかも背負うな。他の者のことを信じろ。それも、お前の立派な役目だろう? 前のように、兵を大切にしていただろう?」
黙りこくった于禁の様子を何となく察知した夏侯惇は、次第に声音が弱くなっていた。于禁に自惚れているなどと言い過ぎたからなのか。
なので夏侯惇は慈しむように、于禁を抱き寄せる。だが夏侯惇の方が少しばかり身長が低いのか、抱き寄せるというより抱き着く形になり、于禁の方を見る。相変わらず書庫は暗く、それほどの至近距離でも互いの顔は見えなかったが。
「夏侯惇殿……」
于禁はあまり出さない弱々しい声を出しながら、夏侯惇の肩を右手で触り、そこから顎を辿るとそれを掬った。
于禁から、ほんの一瞬だけ夏侯惇と唇を合わせる。その時には、左手を腰に回していた。するとそれを返すよう、夏侯惇は背中に両手を回した。
「申し訳ありませぬ……。以後、気を付けます」
「そうしてくれ……」
生憎にも、今夜は雲で隠れているせいで月が見えない。
だがそれでも、視界は頼りなくとも、二人は不安など感じず、于禁は夏侯惇と再び唇を触れ合わせて満足していた。
※
于禁は自分の様子が落ち着くと、城内の隅にある小さな庭園で、夏侯惇と酌み交わす約束をようやく取り付けられた。それも僅か三日後に。
夏侯惇と酌み交わすのは久しぶりだ。それも夏侯惇と恋仲の関係になって以来、初めての酌み交わす約束である。
楽しみであるのは確かだが、今は夏侯惇とは抱き合って口吸いをする行為までしか進展していない。
于禁はそれ以上の行為である性行為をどのタイミングで、どちらが誘うのか分からないでいた。だが于禁が誘っても、夏侯惇に気を使わせてしまう可能性があり得る。なので、夏侯惇からの言葉を待つことにしたのであった。
しかしよく考えなくとも、恐らく三日後の夜にそれのお誘いが来るだろう。夏侯惇へ想いを伝える前にも思っていたが、恐らく自分は抱かれる側なのを覚悟したうえで。
だが抱かれる側と想定すると、于禁は自分のような全体的に無骨でガタイのよく、それに先日の傷跡だってある。対して荀彧や郭嘉のように、綺麗な体の線をしており、そして中性的な顔をしていない。例えたその二人のように、少し目を瞑れば女に見える程度とは于禁は程遠かった。
直球の言葉で表現するならば、自分相手で夏侯惇は勃つのだろうかと。
「……抱かれる予行練習でもしておいた方が良いのだろうか」
真面目な性格の于禁は就寝前に体を清め、夜着姿で寝室に一人で居るとそう呟いた。
だが于禁でもそれなりの恐ろしさがある。狭い肛門に、男の勃起した性器が全て入ってくるという現象に。そして抱く側は女を抱くよう、それを激しく出し入れするのを。想像の中の夏侯惇には、それを存分にしているが。
本当にそんなのが全て入るのだろうか、そう思った于禁は試しに香油の入った瓶を手に取ると、自分の尻をさらけ出した。そして香油の瓶を開けて指に掬うと、閉じきっている肛門へとつけた。だが当たり前のように、そこは男の勃起した性器が入るくらいにぱっくりと開く訳がなく。
「……入る訳がない」
于禁は顔を真っ青にすると手ぬぐいで香油の付着した指を拭き、水で流す。
「夏侯惇殿に、どう言えば良いのか……」
いつにも増して難しげな顔をするが、眠りにつく前に自分の雄を前と変わらずに慰め、それが終わるとようやく眠りについたのであった。
やはりせめて一人のときは、想像の中だけでも夏侯惇を抱きたいと思いながら。
※
それから三日後、夏侯惇とあの小さな庭園で酌み交わす時刻がすぐ近くに迫っていた。
于禁はそれまで、何回も肛門にせめて指だけでも入れようと思っていた。だがかなり狭いので入らないうえ、やはり怖かった。今まで体験したことのなく、縁がない行為だと思っていたので余計に。
その心配事についてはどうにもならなかったらしい。指の第一関節まですら、肛門に入れられずに。それからは、深く入れるのが怖かった。
于禁は朝から沈んだ表情のまま執務やら鍛練をこなし、そのまま夜を迎えた。
酒壺を一つ持ち、城内の隅の小さな庭園へと向かう。庭園には、黄色の水仙が咲いているのを見る余裕が少しあった。
それほど夏侯惇との性行為について考えているうえ、自分に気が緩んでいると喝を入れられる余裕がなかった。そして更に、足取りをかなり重くしながら。
「どうした?体調が優れないのか?」
小さな庭園へと向かうと、夏侯惇は既に居た。二人掛けの椅子に、一人分よスペースを空け、ボーッと夜空を見ていたようだ。
それを見た于禁は重い足を必死に動かし、急いで夏侯惇の元へ向かうと「遅れてしまい、申し訳ありませぬ」と詫びる。対して夏侯惇は笑って返した。
「別に遅れてはいない。お前と酌み交わすのが楽しみだから、早く来てしまっただけだ。それも日暮れ前にな」
于禁にとって、その言葉はプレッシャーに感じた。今夜は建前上、ただ酌み交わすだけの予定であるのに。
一瞬だけ大量の冷や汗を流すが、すぐに引いた。こんなことは初めてだった。緊迫している戦の最中や、重要な軍務でもそこまでに至らないのに。
「どうした?隣に座ってくれないのか?」
見上げてくる夏侯惇のただ一つの生きている目に見られていることでさえ、于禁はそれを見て心臓をドキドキさせると、それに頷いて隣に座った。
だがやはり性行為で夏侯惇に抱かれ、満足させられないという気持ちが強かった。満足させられなければ、失望されるとも思った。そんなことを起こしてはならない。せっかく、恋仲の関係になれたのに。そう思うと、于禁は無意識のうちに嫌そうな表情へと変えていた。
すると夏侯惇肩をぐいと掴まれる。椅子に座っているその時、様子がおかしいからと。
「于禁、何か隠していないか? ……本当は、俺のことを好いていなかったのか?」
夏侯惇の一つしかない瞳には月が映っていた。今宵は寝待月だろう。于禁は一瞬そう思ってしまっていたが、現実に引き戻されると首を横に振って答える。それも焦った様子で否定の返事の後、また座った直後の表情に戻っていった。
「違います」
だが夏侯惇は眉間に皺を寄せる。于禁の答えが何だかとても、気に食わないらしい。肩を掴む力を強くする。指、というより爪が肩に食い込むが、于禁は痛そうな表情を示さない。寧ろ表情を変えないでいるので、夏侯惇は鼻を鳴らす。
「ならばなぜ、そこまで嫌そうな顔をしている?」
「……私は、嫌そうな顔をしているのですか?」
于禁は震えた声でそう聞く。
「あぁ、かなりな」
夏侯惇の声は、次第に重くなり始めた。
だがそういう自覚はないし、夏侯惇がつまらない嘘をつくとは思えない。なので嫌そうな顔をしているらしい自分自身に、嫌悪感を抱いた。敬愛している夏侯惇に対して、どうしてなのかと。
「私は、あなたを好いています」
「口では、そう言っているがな」
于禁も同じよう、眉間の皺を深くすると肩を掴んでいた夏侯惇の腕を振り払うと立ちあがった。夏侯惇自身は相当な力を入れていたらしく、座ったままの状態で振り払われてかなり驚いていたが。
「……あなたは私のことを何も分かっておられない。私は、三日前からあなたに抱かれる為に尻に指を……あっ……!?」
険しい表情になり于禁がそう言うと自然と出た、続きの言葉に気付いたのか、口元を手で押さえた。それも顔を真っ赤にして。
だが夏侯惇は沈黙していた。それを見て于禁は引いているのと判断したのか「やはり、元の関係に戻りましょう……」と消えるような小さな声で呟く。だが、その瞬間に夏侯惇は静かに笑いながら立ち上がる。
「もしや、先程までそのことしか考えていなかったのか? お前は、そういうのに淡白な方かと思っていたのだがな」
笑いが止まらない夏侯惇は、腹のあたりや口元に手を当てる。
「なっ……! 悪いですか!?」
するとようやく落ち着いた夏侯惇は、再び椅子に座るよう于禁に促し、自分も椅子に再び座った。そして若干の思い出し笑いをした後、于禁に話し掛ける。
「……もしや俺たちでヤるとしたら、俺がお前を抱くと思い込んでいたのか?」
「はい」
于禁は即答をすると、夏侯惇は口角を上げた。
「抱かれる側なのは、俺の方かと思っていたのだがな」
「はい、そうで……はい!?」
聞き返すように于禁は驚きの声を出すと、夏侯惇は椅子に座り、話を続けた。
「覚えていないのか? 少し前に既に酔っているお前の寝室に俺が突然来て、酌み交わしたことを」
「……ある程度までは」
軽く溜息をついた夏侯惇は、起きた出来事を話した方がいいのか聞くと、于禁は躊躇はあったものの頷いた。そして夏侯惇の隣へとゆっくりと座る。なので夏侯惇は、当時のことについて結末だけ話した。
「酔いすぎて俺を寝台の上に組み敷いてから激しく口吸いをしていたな」
「なっ……何ですと!?」
「それはもう、凄まじい口吸いだった。おかげであの時は腰を砕かされたぞ。それにお前の顔が凶暴な獣のようで、食われるかと思ってしまったが」
于禁は顔を赤くしながら震えた。一方の夏侯惇は、今は笑える話らしいのか顔を赤く染めてはいない。寧ろ楽しそうである。
「私は覚えていませんが、あのときは酔っていて……」
「それはそうだろうな。……で、お前は上か下、どちらが良いのか? ちなみに俺は、お前相手では下ではないと、何だか駄目な気がするが」
夏侯惇は堂々とそう言ったが、完全に于禁の本心と一致していた。于禁は刹那的に若干目を見開くと、目を伏せて恥ずかしながら答える。
「……あなたには失礼かもしれませぬが、私は本当は上の方が良いと考えていました」
「それは本当か?」
夏侯惇は驚いた顔で、于禁にぐっと近付く。睫毛がよく見える程に。
そうしていると、夏侯惇は言葉を付け加えた。
「俺なんかで、勃つのか?」
「当たり前です!」
于禁は反射的に即答してしまい、失言でもしたかのように、次は顔を青ざめさせた。それを見て夏侯惇はくすくすと笑う。
「もしや、慰み事で俺を想像していたのではないか?」
夏侯惇は冗談半分に、口角を上げながらそう問い掛けた。すると顔を青ざめさせていた于禁は、再び真っ赤に染める。
それは問い掛けに対しての、肯定の意だろうか。そう察した夏侯惇も顔を真っ赤に染め、何も言葉が出なくなったらしい。口を開き何か言葉を出そうにも、声の出し方を忘れたかのように口をただ開閉させた。咳払いを数回する。
ようやく于禁が口を開くことができたが夏侯惇がそれを聞くなり、先手を打った。
「夏侯惇殿……その……」
「……こ、ここで、酌み交わす約束はやめだ」
「えっ……?」
夏侯惇は俯き、酒がなみなみと入っている酒壺を手に持ち始めた。そして何とか声を絞り出す。
「……お前の寝室へ行くぞ。今すぐにだ」
「夏侯惇殿、私の寝室で呑んでも、退屈では?」
「違うだろ」
一気に気の抜けた夏侯惇は立ち上がり、見上げ始めた于禁に手を差し出した。
「まだ、言葉の意味が分からないのか?」
視線は合わさっていたが夏侯惇の言葉の意味を考えるために、于禁は視線を逸らす。そこで于禁はようやく、夏侯惇の言葉の意味が分かったらしい。
遠慮気味に夏侯惇の手を取ると、于禁は立ち上がる。二人は既に、熱っぽい視線を向け合っていた。
※
于禁の寝室へと、たったの数分くらいでたどり着く。
その途中でたまたま誰ともすれ違わなかったが、その時間がたまらなく長く感じた。互いに今からする行為を元から渇望していて、待ち切れなかったのか。
扉に固い施錠をすると酒壺を椅子に置いた。室内は念の為に小さな明かりが点いているので、微かに二人の影ができていた。だがその明かりは弱いのか、もうすぐ消えようとしているが。
二人は急いでに寝台へと乗り上げたが、于禁は夏侯惇を組み敷いて良いのか分からなかったらしい。それに少し苛立った夏侯惇は、早く早くと急かすように于禁を組み敷いて煽ることにした。于禁の股間は既に膨らんでいるのを、しっかりと確認しながら。
「……まずは、お前にこの前酔っていたときの仕返しを倍にしてやらないとな」
夏侯惇は舌舐めずりをすると于禁の顔へと近付き、唇を合わせた。そして舌を出すと于禁の唇を割り、無理矢理に舌を絡ませる。その舌は、とても熱かったが心地よかった。そして互いの唾液が絡んでいる舌同士でぬらぬらと擦り合わせると、于禁は声を漏らす。相当気持ちがいいのか。
それを見た夏侯惇は、熱い舌を引いてようやく唇を離す。すると于禁の顔は茹で上がったように赤く、夏侯惇は自分が抱かれる側ではないのかと問うように笑った。
「まだ、俺を組み敷いてくれないのか?」
そう言う夏侯惇は、まだ于禁を組み敷いている状態だ。だが于禁は直前のところで緊張しているようで、戸惑いの目をしている。
なので舌打ちをした夏侯惇は仕方なく形勢を逆転させ、于禁に組み敷かせる形になった。だがそのとき于禁はバランスを崩したのか、于禁は腕を上手く立てられなかったらしく、思わず夏侯惇の首元へと顔を埋める。
「俺を、抱きたくはないのか?」
夏侯惇は手を伸ばし、于禁の後頭部を撫でながら冠と簪を外してゆっくりと床に落とした。床からカラリと落ちる音がすると同時に、于禁の長い髪がサラリと下りてくる。その後に夏侯惇は眼帯を外し、痛々しい片眼を晒した。于禁はそれを間近で初めて見る。夏侯惇が人前で、安易にそれを晒したがらないので。
「まだか?」
ようやく頭を上げた于禁だが、夏侯惇は再びそう煽る。そのときの于禁の目は変わり、色欲のみを見出せていた。なのでそれに大いに期待して、そして想像の中だけで抱けると思っていた夏侯惇を、こうして現実で抱けるからか。
「……できるだけ優しく、しますので……」
于禁は大きな喉仏を同様に大きく揺らした。それに応じるよう、夏侯惇は于禁の下りてきている長い髪をゆっくりと撫でる。
「別に、無理に優しくしなくともいいのだぞ?」
高い熱を帯びた声で夏侯惇はそう言うが、于禁は首を横に振ってそれをきっぱりと否定した。それも真剣な顔で。
「私は、あなたの体ごと、全て愛しておりますので」
「ん……そうか……。だが、全てお前に委ねる」
「……お任せを」
于禁は夏侯惇へと軽く口付けをすると、そこから首へと唇を動かした。滑らかな肌に微かに唇を寄せると、于禁は夏侯惇の手に触れてから指を絡ませる。全ての指を、離れないように。
「んっ……くすぐったい……」
舌を出して首を舐めると、夏侯惇は少し笑う。それを見て、于禁は釣られたのか微かに笑った。
「委ねると仰ったはずでは?」
「そうだけどな……んっ、ん……」
舐められる度の夏侯惇の反応が、可愛らしいと思った。それにいじらしく、初々しく。
「気持ちいいですか、夏侯惇殿」
「ぅ……あっ、あぁ……」
そう聞くと夏侯惇は次第に、性感帯を舌で擦られているような反応を示してくる。
于禁は今すぐにでも抱き潰し、啼かせてやりたい欲がとめどなく溢れてきた。だが自分に委ねると言っても、初めての性行為をしようとしているところである。夏侯惇本人にとっては、抱かれる側というのは初めてであるので、未知の体験であるゆえのとてつもない怖さがあるだろう。怯えられながら、自分だけ快楽を得る訳にはいかない。
なのでそのようなことをする訳にはいかないと思い、それをしっかりと抑え込んだ。幾つもの理性の糸を紡ぎ、縄にしたもので頑丈に縛り付けて。
「少しずつ、脱がせても?」
興奮を抑え、更に抑えて于禁は優しくそう問う。首から舌を離しながら。すると息を荒くしており、顔を赤く染めている夏侯惇はゆっくりと頷いて肯定した。脱がせてもいいと。
于禁は膝を立てて覆い被さるような体勢になり、丁寧に夏侯惇の服を脱がせていった。まるでとても高価で手の届かない衣服を、破らないように扱うかのように。
上半身の肌の色が見えてきたところで夏侯惇は「恥ずかしいな……」と小さく口にする。本人は聞こえないと思っているらしいが、于禁の耳にははっきりと聞こえていた。
それを聞いた于禁は、自分がまず脱げばよいのではないかと思い、平服を乱暴に全て取り払う。だが部屋の暗さにより、胸から上しかほぼ見えないらしい。夏侯惇は、手を延ばして于禁の体をそっと撫でるように触った。肩と脇腹にある薄い傷跡には、微かに触れる程度に。
「お前に先に脱がされてはな……」
相変わらず顔を赤く染めている中、于禁同様に下半身までも曝そうと夏侯惇が服に手にかける。そこで于禁がその手を止めた。
「私に委ねる、と仰ったはずでは?」
「……あぁ、そうだったな」
夏侯惇は手を止めると于禁の手がかかるのを、恥ずかしながらも待つ。
「あなたは、とても綺麗な肌をしていらっしゃる」
少しずつ下も脱がせている最中、于禁は腹のあたりを見てそう言った。室内の柔らかい火による光が、夏侯惇の肌をほんのりと優しく照らしているのを見てうっとりとしたのか。
「いいから、早く……脱がせ……」
夏侯惇はそう言われて更に恥ずかしがったのか、両手で顔を完全に覆った。于禁はその間にも、夏侯惇を少しずつ纏わせる物を無くしているので、発言と行動に釣り合がない光景であったが。
ようやく互いが身に付けていた服が全て無くなったところで、肌と肌を密着させるように于禁は組み敷いた。
すると夏侯惇はあの時の、獣のように捕食するかのような目に変わった瞬間を視界に捉える。それに夏侯惇は一気に興奮したらしく、于禁の大きな背中に腕をゆるりと回す。
「于禁……」
そして欲情しているとしか思えないほど、燃え盛るような熱い声で名を呼んだ。一つしかない瞳であっても、それで射抜くように于禁の目を見て。
「夏侯惇殿……」
于禁は夏侯惇と唇を合わせて舌を出し合うと、しばらく互いの舌を絡ませたり、舌で口腔内を巡らせたりしていた。形や大きさを覚えるかのように、とても入念に。
二人の唇からはじゅっじゅっと、多量の水が鳴るような水音のみが静かな部屋に響き渡る。周囲のあまりの静寂さと、二人の唇から鳴る水音により、世界に二人きりしか居ないような感覚に陥っていた。それもあってか、水音が寧ろ大きくなっていく。そこが互いの唾液により発生する水音で満たされるように。
舌を動かす度に唾液が唇の端からダラダラと流れてきたところで、于禁は唇を離した。名残惜しげな表情である。
「ん、はッ……んぅ……」
だが眉をハの字にしていて、若干の息切れをしている夏侯惇を見ると名残惜しげな表情は消えた。入れ代わりに再び、獣のような目で夏侯惇を見る。するとそのような視線を向けられた夏侯惇の思考は、情欲に支配されて満たされていた。もはや先程の恥じらいは枯れてしまっている。
夏侯惇は膨らんだ股間を于禁の腹の辺りに擦り付ける。先走りがぬらぬらと付着したが、そこで于禁は更に目を血走らせた。自分も膨らんでいる股間を、夏侯惇の左の太腿の柔らかい部分へと擦り付ける。夏侯惇と同じく、自身の先走りをぬらぬらと付着させながら。
「お前の、前から思っていたのだが、やはり俺のより大きいのだな」
太腿に当たる感触で、おおよその大きさを想像した後に夏侯惇は下を向く。そしてそのおおよその大きさが予想通りだったのか、随分と興奮している様子でいて。
「大きいのがお好きなのですか?」
二人は起き上がると、于禁は夏侯惇に見えるように上を向いている雄を取り出した。それはグロテスクに思える程、血管が浮いていてそして大きかった。
「さぞかし、気持ちいいかもしれないだろう?」
だが夏侯惇は男同士のまぐわいというものの体験はないものの、実際に行った者の体験談は何回か聞いたことがあった。皆が揃って、気持よかったと。なので夏侯惇は于禁の大きすぎる雄を見て、尻に入れられたらどれだけ気持ちいいのか、という妄想が止まらなくなっていた。実際に、そそり勃つものが目の前にあるので余計に。
すると夏侯惇はその前に、と于禁の雄に顔を近付ける。
「咥えてもいいか?」
「それは、ちょっと……」
「別に減るものではないだろう」
戸惑いを見せた于禁の意見を無視して、夏侯惇は雄を口に含んだ。だが少し含んだところで、舌は感覚と味覚と嗅覚のそれぞれ拾ったことのないものだったらしい。夏侯惇はえずくが、それでも于禁の雄の先端を口腔内へと収め始めた。
于禁は顔を歪める。股のあたりで顔を埋めている夏侯惇のそこは心地が良いとしか思えない程に生暖かく狭く、そしてぬるついているからだ。
「はっ、は、はぁ……夏侯惇殿……」
そこで于禁はさらなる快楽に負けかけていた。夏侯惇の口腔内に先端が入っただけで、凄まじい快楽に支配されてしまう。自然と夏侯惇の頭頂部に手のひらを置き、もっとやれと言わんばかりに。そして、夏侯惇の口腔内を自身の精液で塗れさせたいとも思っていた。
于禁は夏侯惇からの口淫を拒む気が無くなったようだ。夏侯惇の頭に置いているだけだった手のひらは次第に、撫でる手付きへと変わっていった。すると夏侯惇は頭を撫でられていて、対して于禁は口淫をされている。なので二人は心地よさそうな表情で、それぞれ与える感覚を受け入れていた。
「んっ、は、はっ……ん……」
男同士であるため、まずは夏侯惇は雄の弱い部分を責めた。だが于禁のものはかなり大きいらしい。舌だけではなく、頬の内側の肉も使って于禁の雄を悦ばせる。
まずはくびれの部分を舌でぐるりと入念になぞる。既に夏侯惇の唾液により、じゅるじゅると音が鳴った。
その間に夏侯惇は于禁の雄を咥える側なのにも関わらず、一種の支配欲に囚われたらしい。一つしか残っていない瞳で、上目遣いになりながら軽く于禁の方を見る。すると視線が合ったのを確認した夏侯惇は、次は獲物を捕らえるように于禁を見た。捕食する側なのは、于禁であるはずなのに。
すると口腔内に含んでいた于禁の雄が更に質量が増し、夏侯惇は少し苦しげな声を出して視線を雄に向ける。その後視線を于禁の方へと戻したが、じろりと見ていた。
「っは、夏侯惇殿、少し待っ……ぐ、うっ!」
于禁は上目遣いで更にじろりと夏侯惇に見られたことにより、雄は限界を迎えようとしていた。なので口淫を止めさせようと撫でていた夏侯惇の頭を無理矢理にでも引き剥がそうとする。于禁はさすがに口腔内で射精することは躊躇したからだ。さっきまでは、そのようなことは全く思っていなかったが。
しかしそれに対して夏侯惇はそれを拒み、口淫を激しくした。舌でくびれを撫でるのと同時に、口腔内により奥に雄を侵入させたからだ。その瞬間には夏侯惇の頭を引き剥がそうとする手に力が入らなくなり、夏侯惇の口腔内に恐らく濃く粘度の高い精液を、于禁自身でも分かる程に勢いよく吐き出した。そのときの于禁はあまりの快感に、何も考えられなっていたが。
「んんっ!? ……ん、んぶ、んっ……ん……!」
夏侯惇は眉間に深い皺を寄せるが未だに雄を口に含んだまま、それと精液を味わうように喉に通していく。それを見て于禁はようやく僅かな正気を取り戻した。なので口からそれらを吐き出させようと、再び夏侯惇の頭を引き剥がそうとした。しかし次は喉に精液を通すのを一時中断した様子の夏侯惇に鋭く睨まれてしまう。なのでそれにより、于禁は引き剥がそうとしていた手を完全に引いてしまっていた。
数回喉を鳴らす音が聞こえると、そこで夏侯惇はようやく口を離す。精液の味が美味くはないが、それでも好いている于禁のものなので喜んでいる様子で。
「こういうことには、慣れていないのか?」
すると夏侯惇は軽く息切れをしながらも、唇の両端をゆっくりと舌で舐めた。精液の漏れが全くないようにと。
だが于禁の顔を見た後に再び咥えていた雄を見ると、やはり上を向いていた。相変わらずグロテスクに思える程の大きさである外見で、しかも血管はバキバキと浮いていて。
「慣れてはいます。しかしあなたとはやはり……」
于禁は答えるのをためらうと、自分の雄を見つつもちらりと夏侯惇を見る。于禁はやはり、性行為にあたっての立場を変えた方がいいのではないか。そのように考えた。するとその言葉の端からでも、于禁の言いたいことを理解した夏侯惇は腕を引き寄せた。そのときの夏侯惇の一つだけの瞳は、限りなく澄んでいた。少しの淀みの無い、透明な水のように。
「俺はお前に抱かれる方が良いと言ったのだ。お前だって、俺を抱きたいのだろう? お前の本能のまま、俺を抱いたらどうだ? ……それか、お前に全てを委ねると言ったが、お前に抱かれる俺が先導した方がいいか?」
「……いえ。私に、全てを委ねて下され」
途中で躊躇などが生まれてしまった于禁だが、ようやくそれを捨てきると再び夏侯惇を組み敷いた。于禁は幾つもの理性の糸で紡がれていた太い縄を自ら切ったのだ。切れ味の良い刃物ですっぱりと。
だからなのか先程とは違い、于禁は夏侯惇を荒く乱暴に組み敷く。その際に寝台が激しく軋む音がしたがその音を聞き、そして優しく組み敷かれない扱いを受けた夏侯惇は「ようやく繋がれるのか……」と嬉しげに呟いた。
「えぇ、そうですね」
室内の微かな明かりが方向により見えなくなり影になろうとも、于禁の瞳はとても鈍くギラついている。于禁が普段は完全に隠している、男の本能を剥き出しにしている顔をまた見れたのかと夏侯惇は興奮した。すると于禁は夏侯惇の両手首を掴んで身動きを封じた。無論、夏侯惇はそれを受け入れていて。
「俺はお前のその目に、全てをずっと囚われてしまいたい……」
夏侯惇はそう言うが、于禁は何かしらの言葉を返さない。だがそれの代わりなのか、于禁は猛獣のような熱く荒い息を夏侯惇の頬の皮膚に吐き、そしてそこから下っていくと鎖骨へと移動する。
于禁は通じる言葉を返す余裕も、思考も失ってしまった状態らしい。
「ほら、はや……う、あっ、は、ぁ、ん……」
夏侯惇は早くと促す言葉を言い切る前に、于禁の息は胸へと来ていた。そしてぬるりと熱いものが夏侯惇の片側の胸の粒を触れる。夏侯惇が普段発している精悍な声は聴こえなくなった代わりに、上擦りそして甘ったるいものに変わってきていた。
「あ、ん……」
形がくっきりとしている状態にある右の胸の粒の上を、于禁の熱い舌が触れていて、そして這っていた。女の乳房を舌で弄ぶように。
またしても初めての感覚に襲われる感覚にある夏侯惇だが、とても擽ったい中に若干の快楽を拾うらしい。赤面しながらそれに耐えながらも上半身を震わせる、その様子が于禁の男としての本能に刺激を受けると視線を外した。
なので次は唇で粒の形ごと食むように挟むと、それを唇でやわやわと動かした。その間に上目遣いで再び夏侯惇の方を見ると、視線がはっきりと合う。すると動かす気が微塵も無かった夏侯惇の両手首が、于禁の手による拘束を解こうとガクガクと震えるように動いていた。だがいつものような力は入らないらしく、于禁の手による拘束に負けていたが。
「ぁ、やっ、あ……」
次第に夏侯惇は腰から上を厭らしくくねらせる。心では受け入れているこの刺激で、一方の体はまだ受け入れてないのかそれから逃げるように。だが于禁から見れば、それは更なる刺激が欲しいという煽りにしか見えなかった。なので于禁は歯を弱く立てて粒を甘噛みする。
「ひっ!? や、ん、あっ、ぁ!」
夏侯惇の体が跳ねた。甘噛みされたのが相当に良かったらしい。すると于禁の逞しい胸や腹に夏侯惇の雄から吐き出された濃い精液がどろりとかかる。夏侯惇ははぁはぁと息切れをしているが、夏侯惇の雄も未だに上を向いている状態。それを見た于禁はようやく手首の拘束を解き、胸の右の粒から唇を離した。
唐突に両手が自由になり夏侯惇が戸惑っていたその束の間、于禁は自分の胸や腹にかかった精液を指で少し掬う。そして夏侯惇の股へと顔と視線を移して見る。
「慣らしますので」
「ん……」
これから何をするのか察した夏侯惇は自ら両膝を広げ、そして自由になった手でそれを固定した。なので股の全てが、于禁に隅々まで見えている。恥は夏侯惇にあるものの、早く于禁の雄を受け入れたいという気持ちが強かった。精液を掬った指で夏侯惇の尻穴を突くが、そこはきつく閉じられている。そこで于禁の手が完全に止まった。
元々ここは排泄をするために存在する器官である。なので今から行うような行為、いわゆるその器官としてはイレギュラーな行為の為に存在している訳ではない。夏侯惇はそれを覚悟のうえで、ごく普通の成人男性から見れば屈辱的な役割を担うことになる。于禁は僅かな理性と思考を手繰り寄せてしまい、それを思い出すと手を止めた。
「大丈夫だ。お前も俺も、初めてだから失敗しても仕方ない。だから、また次を良くすればいい。それだけの話だろう?」
夏侯惇は于禁の頭を片手で優しく撫でるが、それは微かに震えている。その言葉と手を受け止めた于禁は指を尻穴に当てつつ、顔を夏侯惇と合わせた。
「元譲……」
于禁は夏侯惇と唇を合わせて、微かに精液の苦い味のする口腔内に舌を入れる。そして唾液を送り込むように舌を巡らせると、それと同時に尻穴に精液を塗りたくるように指先で揉んだ。于禁の意識は、舌よりも尻穴を解そうとしている指へ主に掛ける。だからなのか、口腔内に入れた舌をあまり動かせないようで。
「ぅ、ん、んっ……ん……」
指はとてもゆっくりだが、尻穴へと入っていく。だがその度に夏侯惇の表情も塞がれた口から漏れる声も表情も、苦し気なものに変わっていったが、それを見てもここで引くつもりはないらしい。于禁は躊躇なく、指を埋め続ける。
互いの唇の間から、熱い唾液と息が漏れ始めていて、特に夏侯惇の唇からは熱い息が多く漏れた。指の方に主に意識を掛けていた于禁は、一瞬だけ逃がさないと言わんばかりに舌を深く捩じ込む。
「ッう!」
夏侯惇のびくりと体が震えたその瞬間に于禁の指が第一関節までずるりと入ったと思うと、第二関節まで一気に入っていった。そこからは夏侯惇の体が于禁を受け入れ始めたのか、指がどんどん埋まっていく。先程のきつく閉ざされていたそこがまるで嘘だったかのように、解れていく。
すると于禁の一本の指が、根元まで入ったようだ。なので于禁は捩じ込んでいた舌を引かせると、唇を離す。その際に二人の唇の間から、粘性の高い唾液が糸を引いていた。
「はっ、はぁ、はぁはぁ、苦しい……」
夏侯惇は眉間に皺を寄せて視線を自分の下半身に向けている。于禁はそこで「どこがですか?」と悪戯混じりに聞くと、夏侯惇は恥ずかしげに答えた。
「前、と後ろ……」
限界まで張り詰めている雄を于禁に見せつけるように腰を浮かせたと思うと、次は腰を小さく振る。自分の中に根元まで入っている、于禁の指を確かめるように。すると夏侯惇はそうしながら、控え目な声を漏らした。股の中の壁に于禁の指が擦れてしまったらしい。
「あ、ぁっ……」
少しばかり快感を拾ったのか、それをより求めて腰を大きく振る。その様だけでも于禁は興奮したが、それはほんの数秒程だった。
「っあ! あ、ん、あっ……あ、あぁ、は……あ、あっ……!」
「解す程度で満足されるつもりですか? それより良いものは、欲しくないのですか?」
つまらないと感じた于禁は、わざと指を引き抜こうとしていたので、夏侯惇はそれを必死に拒んだ。玩具を取り上げられた子供のように、イヤイヤと言いながら。
「あ、やだ、于禁のが早く欲しい……!」
「ならば、そうするのは止めて頂きたい」
そう言いながら、于禁は尻穴に二本目の指を埋め始めた。だが最初の一本目とは違うのか難なく指先が埋まっていくと、そのまま第一関節からずるりと根元まで入っていった。そこで于禁はようやく入れている指を、二本の指を折り曲げたり広げたりと動かしていくととある一点へと触れる。
「あっ! ひ、あ、あ、ん、ぁ、あぁっ! あ、あ、あっ」
股を淫らに弄られている女のように夏侯惇は喘ぐ。于禁の指が、前立腺に当たったからだ。
頬を上気させ、そして悩ましげな表情で。すると夏侯惇の尻穴は、于禁の指を追い出したいのかきつく締まり始めた。だがそれに対抗心のようなものを燃やした于禁は、一気に三本目の指を突っ込みそして中をかき混ぜるように指を動かす。前立腺にも当てるのを忘れずに。
「や、ぁ! だめ、あっ、ぁ、あ、あ! んぅ、あっ、あぁ……ぁ、イく、あ、ぁ、あ、あぁっ!」
夏侯惇の雄が精液を吐き出した。それを見た于禁は指を引き抜き、そして眉間の皺を深くする。指の刺激のみで夏侯惇の雄が果てたのがつまらないようで。
「……気を緩められては、困りますな」
「はっ、はっ! ちがっ、はっ、はぁ、はぁ……」
夏侯惇は口先だけはそう否定している。だが于禁は飾りの言葉だと返すと、夏侯惇の腰の下へと座った。
「処罰せねば……」
于禁は自分の雄に手を添える。夏侯惇の淫らな姿を見て、そして淫らな喘ぎ声を聞いて限界らしい。
それはパンパンに張り詰めていて、本当にこれは同じ人間の性器なのか夏侯惇は疑わしくなっていた。更に質量が増しているうえに、浮いている血管の数も増えたような気がしたからだ。夏侯惇は視界の隅に一瞬だけそれを捉えると怖じ気づく。
しかし指で尻穴をかき混ぜられた後なのか、太いそれでかき混ぜられたらさぞかし気持ちいいだろうと考えへと瞬時に変わった。
「もう一度……お前のを、咥えてもいいか?」
夏侯惇は興奮しながらそう聞くと、于禁は頷いた。なので夏侯惇は四つん這いになり、于禁の雄へと顔を近付ける。雄の匂いにあてられながら、舌を出すと長く太い竿に這わした。舌で血管の形まで覚えるように丁寧に。そして唾液までも這わせるが、その途中で上目遣いで于禁を見る。
「煽っていらっしゃるのですか?」
それが気持ち良いのか、ところどころでびくびくと反応している于禁はそう聞く。だがそれに対して夏侯惇は目で笑うのみで、竿全体を唾液で濡らしていく。
すると舌で這わせながらくびれへと移動してから、竿と同じく唾液で濡らす。そして先端を口に含むと、于禁はそれだけで雄から精液を吐き出してしまった。夏侯惇はそれを、すぐに喉に通すが。
ぬちゅぬちゅと音が鳴ったところで、唇を離すが唾液の糸がたらりと垂れる。
于禁の雄は、夏侯惇の唾液により厭らしく濡れた。それを確認した夏侯惇は寝台の上に再び仰向けの体勢になり、両膝を開く。
それを凝視しながら夏侯惇の両膝をぐいと上げ、天井に尻穴を向ける体勢にさせた。夏侯惇はその体勢がかなり恥ずかしいらしいが、于禁はそれを止めるつもりなど無いらしい。
すると両膝が上がった状態を保持するかのよう、その上に息を荒くしながらのし掛かる。それに、夏侯惇の体を固定する意味でも。舌で雄を濡らしている最中、煽られた仕返しなのか。
入口になろうとしている夏侯惇の尻穴に于禁にの雄の先端が触れた。だが三本の指だけでは解し足りないのか、その時点で尻穴には到底入らない。すると夏侯惇が辛うじて自由の利く自分の指でそこをくぱりと広げ、尻穴へと導きやすいように雄を埋めさせようとする。
「ぅ、ぎ、は、あ……! んっ……あ、あぁ、ぁ……!」
尻穴の縁からはめりめりと音が聞こえた気がしていた。それくらいに、夏侯惇の尻穴に于禁の雄が入らないでいる。それに縁を大きな物で無理矢理に広げられているので、かなりの痛みがあるのだろうか。だがそれでも、と夏侯惇は喉から苦し気な声を出しながら、于禁の雄を必死に収めさせようとした。
ようやく雄の先端が縁に囲まれる。次はくびれを埋めてしまえば、あとは指のようにズルリと埋まっていくだろう。だが夏侯惇の顔は汗でしっとりと濡れていて、激しく息切れをしている。息切れはどうにかしてあげられないが、汗の方は敷布で時折拭ってやる。そして于禁はくびれを埋めるべく腰をゆっくりと降ろした。
「あ、あ! ぁ、ひ、ぅあ、あっ! あ!」
くびれは少しずつ、少しずつ埋まっていく。その間にも、夏侯惇は苦し気な声を出し続けた。雄が埋まっていく毎に悲鳴を一言ずつ。そうしていくうちに尻穴をくぱりと広げていた指は離れていき、その手はだらりと敷き布の上に落ちた。
「は、うっ……もう少し……」
すると縁がくびれをきつく締め付けるせいで、于禁の声も苦し気になっていく。それでも、夏侯惇よりかは軽めだが。
「っや、あ、やだ、やだ、大きいのがはいっ……あぁッ! ぁ、あ、や、あ……」
次第に恐怖に包まれた夏侯惇だがその束の間、于禁の雄のくびれが収まった。するとそこから根元まで、部品を差し込むように力強く押し込む。夏侯惇のへその下の皮膚には、棒状の膨らみが少しだけできている。股に『入ってくる』のが目に見えて分かった。
「っあぁ! あ、や、ぁ、あっ……ひっ、やめ、あ、あ、あっ、ぁ、あ!」
雄が根元まで入る、その感覚を夏侯惇は強い快楽と共に得た。息が苦しいものの、やはりそれが勝る。
そのときの夏侯惇の思考は本来の性別である雄ではなく、快感に従順な雌に近いものになっていた。だらしなく口を開けて涎を垂らしながら、股の中の肉は雄をしっかりと根元まで食っているその様が。
それが、于禁の本能を余計に燃やした。仰け反らせようとしていた背中を潰すように、夏侯惇の体を更に固定させる。そして両手の指は敷き布の上に縫うよう、力強く絡ませて固定させた。今の夏侯惇は全身の自由を奪われたうえ、発する言葉すらままならない。だが唯一できることと言ったら、于禁から与えられる快感をひたすら受けることくらいか。
「動きますよ」
「や、まっ……!」
于禁は獣のような息を吐きながらそう言うと、股の中の肉が雄を強く締め付ける。くぐもった声を漏らすが、そこから夏侯惇の言葉も待たずに腰を上下に振った。
股の中は生暖かくそして狭い。好いている夏侯惇の股の中であるので、余計にそう思えた。
だからなのか、于禁の腰の動きが止まらない様子だった。というより、腰の動きを止める気が無いようだ。
「ぅ、あ、ぁ、あっ、ぁ、ア、あっ、あ!」
于禁の大きな雄により夏侯惇の体が揺さぶられ、寝台がうるさいほどに軋む音が鳴る。
それと同時に指で股を弄られているときとは大違いの、快感に狂う喘ぎ声を放つ。それに多量の涙が流れ始めた。
だがそれを見た于禁は上下に振る腰を止めた。涙を流している顔を見て、抱く行為とはこういうものではないの気付いたのか。なので顔を近付けて既に涙で蕩けきっている夏侯惇の下瞼に舌を伸ばし、それを舐め取ると少し不安そうな顔に変え、確認の質問をする。
「私の、気持ち良いですか?」
「んぁ! う、ぁ、あぁ……」
視線を合わせる夏侯惇だが、舌が回らないようだ。喘ぎ声のような言葉を発するが、恐らく肯定の返事と判断した于禁は唇を合わせた。すると夏侯惇が出した舌が于禁の唇に触れ、更に求めるように弱く舐める。それに応じるように于禁も舌を出すと、それに触れた。
涙を舐め取っていたからか精液の独特の苦さではなく、甘いのか塩っぱいのか分からない曖昧な味が互いの口腔内に広がる。だが夏侯惇はそれを堪能し独占をするかのように、必死に于禁の舌をぬるぬると絡ませた。そしてその曖昧な味が薄くなると、二人は唇を離す。
「ぶん……そく……」
夏侯惇は微かに、于禁の字を呼ぶ。舌を絡ませたことにより、少しは喋られるようになったのか。
「ぶんそく……イきたい……はやく……」
たどたどしくそう言う一つの瞳には、弱くなってきた部屋の明かりが写る。それを見た于禁は、咄嗟に言葉が出た。
「綺麗だ……」
すると雄を引き抜いて絡めていた指を解き、夏侯惇の両膝を下ろした。夏侯惇はどうしてなのか分からないままでいると、そのまま于禁が再び上に覆い被さって股に雄を押し付けた。
「綺麗だ、元譲……」
手足の自由が利いた夏侯惇は、両腕を于禁の逞しい背中に弱々しく回した。
そしてその頃には、于禁の獣のような様子が無くなっていた。夏侯惇を性欲のまま、乱暴に抱くことを止めたようで。
「ぶんそく……」
部屋の明かりが、消えかけている。それを合図に于禁は股に雄を埋めると、みるみるうちに根元まで入っていった。
夏侯惇の股が再び于禁の雄により満たされる。その瞬間に夏侯惇の雄から精液を吐き出したが、勢いが弱くなっているので竿を伝って敷き布に落ちるとそこを汚していった。
「動きますよ」
夏侯惇はコクリと頷く。なので于禁は埋めていった雄で、生暖かく狭い股の中の粘膜を、擦り合わせるようにゆっくりとピストンをした。
「あ、あっ! や、ぁ、またイく、アっあ、あ、ぁ、あっ!」
そこで于禁は限界が来ていた。ゆっくりとピストンをする度に、控え目な声を漏らす。それは寝台の軋む音により、掻き消されかける程に。
「はっ、は、ん、ぅ、はっ……」
すると于禁は一瞬だけ眉間にかなり深い皺を刻むと、夏侯惇の股の中に目掛けて精液を数秒吐き出した。すると于禁の背中に回していた両腕は、敷き布の上へとぼとりと落ちる。
「っや、ぁ……あ、あぁっ!」
同時にもう一度、夏侯惇は雄から精液を吐き出すと胸を激しく上下に動かす。夏侯惇の雄は下を向いていた。もう、快楽を受けられる余裕は無いらしい。
于禁は夏侯惇の胸に手を添えて撫でると、萎えた雄を引き抜く。緩くなった股からは精液がごぽごぽと流れ落ちてくる。
「ぶんそく、すき……」
敷き布の上に落ちた両腕を、夏侯惇は上げようとしたが上がらなかった。なので于禁はそれを持ち、自分の両頬に当てる。
「元譲、私も好きです……」
するとそこで二人の視界は、明かりが消えたことにより真っ暗闇へと変わる。しかし窓の隙間から見える寝待月の光が、ごく僅かに部屋や二人の体の一部に当たった。なのでそれを頼りに、二人は溶け合うように深く深く抱き合ったのであった。