青い月 - 16/16

青い月『満月』

小望月が浮かんでいた昨夜、二人はあれから月をしばらく見た後に寒さに限界がきたのか車に乗ってから帰宅していた。だが助手席に座った直後に夏侯惇はすぐに寝てしまう。そのときの時刻は既に日付が変わっていたのだから。
隣の席ですやすやと穏やかに眠る夏侯惇を見ると、目元は赤く腫れている。あれほど涙を溢したのだから当然だと于禁は思ったが、ルームミラーから見える自身の目元も赤く腫れていた。それを見て于禁は一人でくすりと笑った後に、夏侯惇の目元に唇を寄せる。夏侯惇と自身にもシートベルトを静かに装着させてから、車のエンジンを掛けて発進させた。
海の周辺、静かな場所を走るが、ここまで一人で運転するのが寂しいと思うのは初めてであった。なので時折、眠り続けている夏侯惇を愛しげに見る。だが今起こす訳にはいかないので、于禁は溜息を漏らすと運転に集中した。
しばらく車を走らせると、次第に慣れ親しんでしまった喧騒が少しずつ目や耳に入る。しかしそれでも、于禁の中にある寂寥感など消える訳が無く。
ようやく二人が住んでいる地域へと入り、そしてマンションの駐車場に着く。決められた場所に駐車してから車のエンジンを止め、一息ついてから隣を見るが夏侯惇は未だに眠っている。
「着いたので、起きて頂けますか?」
于禁は夏侯惇の肩を小さく揺らし、起こしたくはないが仕方なく起こした。
「ぅ、ん……ねていたのか……すまんな……」
「いえ、お構いなく」
瞼を開けた夏侯惇を確認した于禁は、静かにシートベルトを外す。するとシートベルトから解放された夏侯惇だが、眠気はまだあるらしい。いつもの鋭い目つきは、今はどこにもない。夏侯惇は体を怠そうにしながら精一杯両腕を伸ばした後に脱力させるように膝に下ろした。
「このような時間まで、あなたを連れ回してしまい申し訳ありません」
その手を于禁は優しく握ると、夏侯惇は弱々しく握り返してへらりと笑う。
「かまわん……」
「帰るぞ」と言葉を付け足した夏侯惇は、握り返していた手を離した。なので于禁も離し、車から降りて二人の住む部屋へと吸い込まれて行った。玄関を開けるなり、夏侯惇は再び眠りについてしまっていたが。

翌朝、今日も平日なのか于禁はいつもの時間帯に目を覚ます。とても晴れた表情で。しかし一方で夏侯惇は寝坊寸前であったようだ。二人で何か話す間もなく、急いでシャワーを浴びて身支度を整えると身に着けた腕時計を約四秒に一回というとてつもない頻度で時間を確認した。
ちなみにいつもは車で通勤をしているが、今日は間に合わないと判断したのか急遽地下鉄を利用して出社することにしていた。それに于禁は、反対しづらいのか黙って頷くことしかできなかったが。
「くそ! こんな時間か! 行って来る!」
腕時計を見ては苛ついている様子の夏侯惇は、駆け足で玄関へと向かった。だが于禁は慌ててそれを追いかける。
「夏侯惇殿! お待ちを!」
「なんだ!」
夏侯惇は苛立ちを維持したまま返事をしている腕を、于禁はぐいと引っ張る。力を抜いていた夏侯惇はバランスを崩すが、于禁は腰に手を回して優しく支えた。二人は向かい合い、夏侯惇が于禁に縋りつく体勢になる。
「……忘れ物ですよ」
腰に回していた手を背中へと移動させると、于禁は夏侯惇にゆっくりと口付けをした。それはわずか数秒だが、夏侯惇は腕時計で頻繁に時間を確認することを忘れてしまったようだ。呆けたような表情で于禁を見上げる。于禁の方が朝の口付けが、自ら久しぶりに口付けを行ったことにより恥ずかしいのか、頬を赤く染めていた。
「于禁……」
夏侯惇は于禁の名を呼ぶと、頬だけではなく耳まで赤の範囲を広くさせた。
「その……遅刻を、してしまいますので……」
玄関にもある時計に、于禁は視線を逸らすように向ける。
だが今から玄関を出た場合、かなりギリギリの時間だろう。なので回していた手を離そうとしていたが、夏侯惇は于禁に離れまいと抱き着く。
「嫌に決まっているだろう。だから、もう少し……このままで居させてくれ……」
于禁の体に、すっぽりと収まった夏侯惇はそう駄々をこねた。于禁はいつも釣り上げている眉を急激に下げると「仕方なのない御方だ……」と言い、夏侯惇の体を包み込む。
「そうだな……」
包まれた夏侯惇は、于禁からは見えないが微笑むとそう呟いたのであった。
そして結局、この日の朝は夏侯惇は遅刻をしてしまっていた。その際に曹操や秘書の蔡文姫に「珍しい」などと言われたが、曹操の幼馴染としてという私情絡みではなく、普段の勤務態度が良いのか今朝の遅刻は免除される。夏侯惇は内心の半分はそれでいいのかという気持ちで、もう半分は安堵の気持ちがあったのだが。

夜空には既に、円い満月が浮かんでいた。
本日は金曜日でありなおかつ、定時で退社できた夏侯惇は上機嫌で会社の近くの駅前へと着く。だが普段はあまりこの時間帯、この場所を歩かない珍しさから、踵を返して少しだけ寄り道して帰ることにした。昨夜の疲れに加え、今日の疲れも重なっているからか。
すぐ目の前に見える駅前の商業エリアへと足を踏み入れた。どこか目的地がある訳ではない夏侯惇はフラフラとした足取りで歩道を歩く。だがやはり歩道は人だらけで、車道もひっきりなしに車が走っている。それを見て寄り道は止めておこうと思ったが、とある店が視界に入ると足を止めた。
「花屋か……」
夏侯惇は客足が完全に途絶えている花屋を見つけた。そして迷いなく自然とそこに向かって行く。
そこの店主は老いぼれた女性であり、接客などする気がないのか夏侯惇が店に入っても知らん顔という態度。だがそれに対して夏侯惇は何も思わないのか、店内を見て回る。
すると水仙の花を見掛けたが、色は黄色しか無かったようだ。そこで夏侯惇は前の様々なことを思い出す。
関係を持つ前の于禁と初めて二人で酒を酌み交わしたのは、見頃を迎えていた様々な色の水仙の花のみが植えられている小さな庭園である。二人でそこで月が隠れながらも水仙が綺麗だという話をしていて、また酌み交わそうと約束をしていた。
そして関係を持ってから于禁から贈られたのは、見頃であった白色の水仙。夏侯惇が早速寝室に飾って鑑賞をしていると、自分が贈ったものだというのに于禁が嫉妬した挙句にそれを無理矢理中断させていた。
苦しくも帰国した于禁から酷い拒絶受けながらも城内で見つけて追いかけ、そして見失ってしまったのが最初の小さな庭園であり、そのときも見頃を迎えている様々な色の水仙が植えられていた。それをとても悔しい思いで見つめ、翌朝に于禁の部屋の扉の前で「待っている」という思いを伝えた。見頃を迎えている間は、毎日その小さな庭園で水仙を見ては于禁に思いを馳せていたが。
すると夏侯惇にとっても、于禁にとっても水仙には特別な思い入れがあることに気付く。それに于禁から贈られた花のお返しをしていないことをすっかり忘れていたので、黄色の水仙を一〇本買った。
前は渡す暇が無かったとは言えないが、いつの間にか忘れていたらしい。それを思い出し、夏侯惇は申し訳ない気分に深く陥っていたが。
それを簡素なラッピングで包んでもらうと、夏侯惇は店を出てからすぐに地下鉄に乗り込んだ。いち早く、于禁へと渡したいからか。
夏侯惇は買った水仙の花を駄目にしないようにしながら、目的の駅に着くと家まで走って向かった。すると部屋の照明が点いているのを、外から確認すると更に足を速めた。マンションの建物に入ると急いでエレベーターに乗り、目的の階まで今か今かと待ち侘びて数秒後、体感的には数分待ったかのような気がしながら廊下へと出る。
玄関のドアの前まで走っている間に鍵を取り出すと、ちょうどドアの前に到着した。なので素早く解錠をして玄関に入って靴を脱いでいると、同じく定時で退社して帰宅直後なのかスーツジャケットのみを脱いでいる于禁がどうしたのか、という様子で迎え出てくる。
「お帰りなさいませ。急いでいらっしゃるようですが、何かあったのですか?」
ドアを閉めて施錠していた夏侯惇は于禁の声が聞こえてくるなり、持っていた黄色の水仙の束を渡した。先程までは走っていたので、息を切らしながら。
「于禁、これを受け取ってくれ!」
「ありがとうございます。……どうして私に?」
于禁は嬉し気な顔で受け取ってから疑問を投げ掛けると、呼吸を整えている最中であった夏侯惇はすぐに答えを出す。
「……今が、見頃だろう?」
ようやく夏侯惇の意図に気付いた于禁は、目を見開く。喜びとそれに驚きを混じらせると、受け取った水仙の花束を思わず落としかけたがそれをなんとか阻止をした。そして花束を持ってリビングに入ったと思うと、すぐに手ぶらで玄関に突っ立って首を傾げている夏侯惇の元へと戻って来る。
その直後に、無言で靴を脱ぎかけている夏侯惇の腕を強く引いた。あまりの力強さに夏侯惇は履いていた靴を廊下に散らして動揺しながら、于禁に必死な様子で問い掛ける。
「おい、どうした!? ……あっ! 靴が、廊下に!」
于禁の手を振りほどこうにも、やはり力が強くそれができなかった。そうしているうちに脱衣所へと連れられる。だが于禁は、相変わらず何も言わない。
「于禁、どうし……」
どう考えても、于禁は何かを我慢している様子だったらしい。于禁が体を密着させると、下半身の硬い箇所が夏侯惇の骨盤あたりの高さの部分に当たっていた。それを感じた夏侯惇は言葉を中断させ、顔を赤くする。
だがそれを無視した于禁は夏侯惇を脱衣所の壁に詰め寄らせると、突然に顎を掴んでから唇を奪う。今朝以来の口付けを行うが、それよりも遥かに激しかった。舌を出して夏侯惇の口腔内に侵入してから、舌同士で触れ合う。
既に夏侯惇の口腔内は熱い。溶けそうな程に熱い。なのでその熱さに溶けてしまっても構わないと思いながら、于禁は舌を絡めた。夏侯惇はその時点で目をふやけさせ、上目遣いで于禁を見ていたが。
しばらくの間、二人分の大きなリップ音と大量に出てくる唾液が絡まる音が部屋中に響き渡る。その音を聞いて夏侯惇の下半身も硬い箇所を作り上げ、それをアピールでもするように腰を振って于禁の太腿をスーツ越しに擦り付ける。
互いの舌にぬるぬると絡む唾液が、どちらのものなのか判断できなくなったところで于禁は舌を引かせて唇を離す。それの反動なのか夏侯惇は腰を砕いて、立っていられなくなった。于禁はそれを察すると夏侯惇の腰に手を回して支えるが、その際に耳元でとあることを熱っぽく囁いた。夏侯惇はそれにこくりと頷く。
「……早く、シャワーを浴びましょうか」
そう言った于禁は、すぐに夏侯惇の着ているスーツを次々と脱がせていく。だが、その手つきはとても荒い。夏侯惇の纏っている布を一枚剥ぎ取る毎に、近くにある洗濯機ではなく足元の床に向かって次々と乱暴に投げていた。同じく于禁自身が来ているスーツも床へ乱暴に投げる。
全ての衣服を床へ乱雑に散らしたところで、浴室に入ると二人はすぐに再び口付けを交わした。ただし、次は夏侯惇から口付けをしていて。
夏侯惇の舌は于禁の上顎を柔らかく擦り上げた。于禁はくぐもった声を微かに漏らす。
「ぶんそく……」
唇を離してから誘うようにそう呼ぶと、于禁の下半身の硬い箇所へと手を伸ばす。まだシャワーから湯を出していないのに、そこは熱いぬめりでぬらぬらと濡れていた。先走りが、既に于禁の雄から垂れているのだ。
「はやく……」
夏侯惇はそう言いながら于禁の雄を手の平で包んで揉み、そして上下に扱き始めた。于禁は重い呻き声を漏らす。
「うっ……は、ぁ……」
だが于禁も仕返しにと夏侯惇の雄に手を伸ばし、それを掴むと同じく上下に扱いた。浴室中に二人分の荒い息と、卑猥な水音を響かせながら。
二人は互いにどこに刺激を与えてやると、そしてどれくらいの摩擦を与えられるのが好いのか把握していた。なのでその通りに互いの雄に刺激を与えていると、先に于禁の方に限界が来たようだ。夏侯惇はどこか勝ち誇ったような表情を浮かべながら、手を離すと浴室の硬く冷たい床に両膝を着かせる。そして于禁の限界が来ている太く長い雄を、夏侯惇は全てまでとはいかないものの口に含んだ。
「ッは、ぐあ……ぁ!」
久しぶりに夏侯惇の狭く熱い粘膜に包まれたのか、于禁はあまりの気持ちよさに体を大きく震わせた。だがまだ射精する訳にはいかないのか、ぐっと堪えて震わせている両手を差し伸べると、夏侯惇はそれぞれの手を掴んでから指を絡ませた。
「んぅ……」
見下ろしている于禁に対して上目遣いになった夏侯惇は、唾液を目一杯舌に絡ませてから雄に這わせていく。喉の奥に、于禁の濃い精液を欲してやまないからか。
これもまた、浴室内に響き渡る程に音を立てながら夏侯惇は口淫をしていた。くびれに近い部位を舌で虐めてから、頬の内側をわざと狭くさせながら于禁の雄を吸う。しかしちゅぱ、ちゅぱという音が聞こえてきたところで、于禁は射精したようだ。獣のように野生的な呼吸を数回した後に夏侯惇の口腔内と、望んでいた喉の奥に大量の濃い精液を撒き散らす。
「んっ!? んんぅ……!」
一瞬だけ夏侯惇が驚きにより目を見開かせたと思うと、すぐに性欲に満ちた目へと変わっていった。そして口腔内に出された精液を、未だに于禁の雄を咥えて離さないまま喉を大きく鳴らして美味そうに飲み込んでいく。あまりの喉の渇きから、そこにある全ての清らかで透明な水を勢いよく飲むように。
多少のえずきを見せたものの、精液を全て胃に流したところで夏侯惇は于禁の雄から唇を離す。だが于禁の雄は萎える気配が無いのか、全体的に血管を浮き上がらせながらそそり立っていた。夏侯惇はそれに愛し気に唇を這わせながら、小さく短い懇願をする。
「ぶんそく……ベッド……」
発情した声音でそう言うと、于禁は夏侯惇の頭を撫でる。そして数秒だけ湯をかけた後、夏侯惇を抱えると浴室から出た。そして灯りの点いていない寝室へとまっすぐ向かい、白いシーツが張られているベッドから大きく軋む音が聞こえる程に、夏侯惇を仰向けに乱雑に降ろした。湯で髪や体が濡れているのもお構いなしに。
于禁はサイドランプを微かに点けると、夏侯惇の肌が厭らしく照らされる。肌はまだ水気を拭いきれていないのか、水滴が反射して弱く光っていた。その様子を見て于禁は種付けをしたくて堪らない、という目を向ける。
だが夏侯惇はそのような扱いをされて、更に興奮したようだ。荒い息を吐きながら覆い被さってきた于禁の体に、手脚を巻き付かせた。そしてまだ射精させていない自身の雄を于禁の腹に擦り付けて腰を淫らに振る。于禁がまだ何もしていないのに、息を切らせながら。
しかし于禁はそれに首を横に振った。
「では、あなたが解して頂けますか。私は、目の前できちんと見ておきますので」
そう言った于禁は、ベッドの近くのサイドチェストからローションボトルを取り出して夏侯惇に見せた。未開封であるものの、しばらくの間使っていなかったので夏侯惇は少しだけ視線を逸らす。久しぶりに見た物であるのか。于禁はその後に、自身の体に巻き付かせていた夏侯惇の手脚を引き剝がして膝立ちをした。
「早くして頂けますか?」
見下ろす体勢となった于禁はそう促すと、夏侯惇は嫌そうな表情を浮かべながらローションボトルを手に取って起き上がる。相変わらず、于禁の方が視線の高さが高いままではあるが。
しかし夏侯惇に恥じらいが生じてしまったのか、両膝を立てるもそれを閉じた。なのでそれを見た于禁は意地悪をしたくなったのか、それを強引に大きく開かせていて。
「目の前で、見ていると言ったでしょう」
「やだ、久しぶりで、見られると上手くできないからぁ……!」
夏侯惇は顔を酷く赤く染めて言葉ではそう拒否するものの、曝け出された受け入れるための桃色の入口は既に小さな伸縮を繰り返していた。そこは排泄器官に戻っているというのに、于禁に酷く虐めて欲しいと主張しているようで。
そこで意地悪に満足した于禁はローションボトルを夏侯惇から取り上げると開封し、手の平に多量のローションを垂らした。その際于禁は冷たさに顔をしかめたが、それをもう片手の平で温めていく。ローションの冷たさを一通り逃すと、于禁は右手の人差し指の腹で夏侯惇の受け入れる入口を触れてからそこをやわやわと動かした。受け入れる準備がなどできていないというのに、夏侯惇は快感を得たらしく体がびくりと僅かに跳ねさせながら背をベッドの上にぼすんと倒れる。
「や……ぁ、ん、あ、や、あぁ……!」
「力を、抜いて下さい」
于禁がそう言うが、夏侯惇は「無理」だと言うように、ふるふると首を小さく横に振った。なので于禁は少し考えた後に、夏侯惇の体の上に再び覆い被さる。夏侯惇の胸元に、顔を接近させて。
「ここを弄られるのが、あなたはお好きでしょう?」
口角を上げた于禁は、夏侯惇の胸の片方の粒を出した舌先で突っつく。すると夏侯惇は電流でも流れてきたかのように体を大きく痙攣させ、背でシーツを擦る程に腰をうねらせた。そこも久しぶりに弄られようとも、体が何もかもを記憶してしまっているようで。
「んぁ、あ! ぁあ……! なんでぇ……!」
そして夏侯惇が本日初めての射精をしようとしたが、于禁はそれを素早く阻止した。夏侯惇の雄を空いた手で強く握り、鈴口から出てくる寸前であった精液の射出を妨害したのだ。なので射精をできない夏侯惇は体を震えさせながら、涙を数滴落とす。
「私のでなければ……!」
雄を握る力を弱めることなく于禁がそう言うと、胸の片方の粒を口に含んでから再び入口を解し始めた。夏侯惇はシーツに密着させていた背を逸らせ、後頭部をシーツにぐりぐりと押し付ける。
じゅるじゅると、液体を啜るように胸の粒を吸い上げる。そこが敏感である夏侯惇は、嬌声を上げながらシーツを強く握り締めた。指先をシーツと同じように、白く変色させていきながら。
「あ、ぁ! はあ……あっ、ぁ……」
夏侯惇の入口を指でぐいぐいと押し込んでいくと、ようやく半分まで入っていった。逆に入口は指を追い出そうと、ぐいぐいと押し出して行く。胸の粒を吸い上げて気を逸らしているおかげで、その力は弱いものの。
だが夏侯惇の雄はもう限界であった。于禁のものと同様に血管を浮き上がらせ、凶暴な外見へと変わっているからだ。そして久しぶりに入口を使われようとしても、そこは本来の性別としての機能を必死に果たそうとしているようで。しかしそれとは正反対に夏侯惇の顔は蕩けていき眉をハの字に下げ、相変わらず胸は女のように敏感ではあるが。
「もう少しで、一本入りますよ」
人差し指の根元まであと少しである頃にはぐちゅぐちゅ、と立てる音が変わっていた。入れる前までは温かったローションは、夏侯惇の粘膜により熱くなっている。夏侯惇は射精できない苦しみと、執拗に片側の胸を吸われているからか善がり狂っていた。
「ぁん、あ、や、もう、イかせて! イきたい、はやくイきたい!」
だが于禁は口腔内で夏侯惇の胸が腫れてきているのを感じたのか、笑みを浮かべる。
「まだ、一本も……入りましたね。それでは、二本目、も!」
人差し指が根元まで入ると、中指を入口に宛がった。だが縁からぬちゅりと音が鳴ったと同時に、一気に中指を挿し込むと前立腺を一回突いた。夏侯惇は腰までも浮かせながら更に背中を逸らせて仰け反る。
「っひあァ! あ、ゃあぁ!」
夏侯惇は嬌声ではなく、一種の叫び声を上げる。しかしそれは今は半永久的に抜けられない快楽による、喜びからきていた。浮かせた腰をガクガクと揺らしながら、口をだらしなく開ける。そしてもう片側の胸の粒へと唇を移動させたが案の定、吸い上げ続けていた方の胸の粒は赤く腫れていた。もはや男のものとは思えなくなっている。
前立腺を指の腹で数回コリコリと撫でると、遂には喘ぎながら唾液を垂らし始めた。すると夏侯惇の雄が、グロテスクと言える程に色が変わっていて。
「もう、慣らすのは充分ですか?」
その様を見た于禁は焦れてきたからか、たかが指二本で善がっている夏侯惇にそう訊ねた。快楽を得ながらも射精できないからか、夏侯惇は何も考えられないままコクコクと頷くので于禁は指を引き抜く。
「ぁ、あん……」
夏侯惇の雄を握っていた手も離すと、先走りをダラダラと流していく。すると夏侯惇の雄が先走りにより卑猥に鈍く光っていった。
入口は、くぱくぱと伸縮している。夏侯惇の左右の膝裏を持ち上げるとより鮮明に見えた。コンドームを取り出すと、それを開封する。それに誘われるように、于禁はかなり肥大させている雄にコンドームを纏わせた。まだ、入口の穴はそれが入る程に解れてはいないが。
「入り……ますよ……!」
獲物を前にした獣のような目つきで、夏侯惇を見る。于禁のものと比べて僅かに小さい雄を天井に向けているのにも関わらず、入口はローションにより女の膣のように濡れていた。それを蹂躙するように睨んだ後、少しずつ入口に侵入していく。
「あっ、あぁ、はぁ……はいってくる……ぶんそくのが、はいってくる……」
歓喜の笑みを作った夏侯惇は雄を全て受け入れる為、震えた両手で尻たぶを自らぐいと広げた。だがまだ縁が狭いのか、先端がぴとりとくっついて止まってしまう。
「まだ、解し足りなかったようなので……」
雄の挿入を早まったと判断した于禁は、いつもの鋭い目つきへと戻っていきながら夏侯惇の入口から雄を離していく。だが夏侯惇はねだるように、于禁の腰を弱々しく掴んだ。于禁の動きが、ぴたりと止まる。
「はやく、ぶんそくのでイきたいから、やめないでくれ」
夏侯惇は色欲に支配された視線で于禁を貫く。なので于禁は再び雄を宛がったが、夏侯惇はその雄を見るなりイヤイヤと言わんばかりに拒否をした。何だと思っていると、夏侯惇は于禁の雄に纏っているコンドームを捲り始める。
「そ、それが無ければ……」
「こんなもの、いらないだろう。お前のを中に、出してくれ、俺に、お前の思いを刻んで、くれ……!」
そう言いながら于禁の雄を纏っていたコンドームを剥ぎ取って床へと投げ捨てる。だが于禁は夏侯惇の言葉に再び興奮したのか、コンドームを纏わせていない雄を入口に近付けた。それ無しで性行為をするのは、今では初めてとなる。于禁は思わず固唾を飲み、夏侯惇は犬のように息を荒げた。
「本当に、よろしいのですか」
于禁はそう確認するが、夏侯惇は何も言わずに一度頷くのみ。なので于禁は呼吸を整えると、自身の雄にローションをかけようとした。だがそれを見た夏侯惇は、またもやそれを拒否する。何とか起き上がった夏侯惇は于禁に向かって四つん這いになったかと思うと、雄を口に含んでしゃぶり始めた。
「んぶ、ん、んっ……んぅ……」
興奮による吐息や上がった体温により、浴室での口淫よりも夏侯惇の口腔内は更に熱くなっている。思わず、于禁は溶けてそまいそうだと思ってしまっていて。
顔を前後に動かし、まるで性器のように于禁の雄を刺激させる。すると于禁の腰が揺れ始めたが、射精する寸前で夏侯惇の顔を剥がした。
「もう、大丈夫ですので」
于禁の雄は、夏侯惇の唾液によりぬらぬらしている。その卑猥な姿になった雄を見て、夏侯惇は仰向けになってから自ら脚を広げた。性器になろうとしている尻穴を見せつけると、于禁は夏侯惇に覆いかぶさり先端を縁に向けて埋め始める。だが当然、そこはまだ狭いのかめりめりという音が聞こえていて。
「うっ……ん、ぐっ……」
夏侯惇は苦し気な声を出す。なので于禁は一旦雄を埋めることを止めようとしたが、腰が完全には引かなかった。狭い入口を貫こうと、雄をどんどん押し込んでいく。
「ん、おっきい……ぅ……あ、ぁ!」
数回、先端を動かすと少しずつ縁が柔らかくなってきたようだ。夏侯惇は腰を振り、更に入り込んで来るように促す。于禁はそれに応じるように、同様に腰を振った。
「もう少し、で……ぐぅ、あぁ!」
ようやく于禁の雄のくびれまでが、夏侯惇の入口の中に入る。口腔内よりも熱く、そして狭い中へと。それだけで夏侯惇は体中の筋肉を強張らせ、痙攣させた。だが射精を我慢しているようで腹に力を込めるが、更に尻の締め付けを強くしてしまったらしい。于禁は重く低い声を漏らす。
「ぁ、ん……んっ、あついの……もっとおくまで、ぶんそく……」
夏侯惇がそう求めると于禁は雄を全て入れるべく、腰を前へと出す。雄のくびれまでは入っているので、夏侯惇の腰を掴んでから一気に奥まで突き上げた。
「ひぁあ!? は、あ、あぁ! あぁっ!」
雄が奥まで、根元まで入ったと同時に夏侯惇はようやく射精した。背中を折れる程に反らせながら夏侯惇の縦と横に割れている腹と、胸にまで自身の精液を噴出させる。とてもうっとりとした表情を、夏侯惇は浮かべながら。
「んぐ、ぅ……はっ、はぁ……」
とてつもない性欲に逆らえなくなった于禁は、そのまま本能のままに腰をゆるゆると振った。肌と肌がぶつかり合う音と夏侯惇の喘ぎ声が重なったと思えば、それを大きくすべく腰の動きを激しくする。
「はっ、は、元譲……はぁ、はっ……」
「あっ……あっ! あ、あ、ぁ! あっ、ぶんそく、や、イく、またイく! ぁあ! あ、や、んっ、あぁ!」
ベッドが激しく軋んだかと思うと、二人は同時に射精をした。夏侯惇の腹の中に于禁の精液が注がれる。于禁は雄を引き抜く気は更々無いらしい。再び腰を振り、腹の中に出された精液がごぽごぽと掻き混ぜられる音が鳴る。それほどに激しく腹の中を突かれている夏侯惇だが、更に奥に于禁の雄を欲していた。脚を于禁の腰に絡ませる。
「ぁあっ! や、あっ、あ、ぁ、あ!」
「奥に、子宮に欲しいですか?」
腰を振りながらそう聞くが、夏侯惇は言葉を出す余裕が無いらしい。絡めている脚の力を、僅かながらに強める。それを感じ取った于禁は更に夏侯惇の腰を強く掴むと、雄を少しだけ引かせてからすぐに雄を打ち込んでからピストンをした。
夏侯惇は雌のように快楽を拾い、そして腹の中をより締め付ける。
「ひゃぁ、あ! ぁア……! ぁ、やだ、まって、それいじょうは、らめ、あっ、らめぇ、ぁあ、や、なんかくる、ぁ、らめ、あっ! ぁ、あっ! あぁあああっ!」
より奥である結腸へ、于禁の雄がノックをすると夏侯惇は悲鳴混じりの喘ぎ声を出しながら薄い精液を吐き出した。そこで夏侯惇の雄は萎える。同時に于禁も、夏侯惇の腹の中へ精液を流す。夏侯惇の腹の中は、于禁の精液で満たされた。だが于禁の雄はまだ萎えていないらしい。夏侯惇の腹の中を、まだ擦って精液を撒き散らしたいらしい。
「ぶんそく、もっとぉ……」
なので夏侯惇がそう誘うと于禁は腰を掴むのを止め、体を抱きしめた。夏侯惇の腹の中が嬉しさにより于禁の雄を締め付けたままのうえで、包み込むように蠢く。
そこからは、動物の交尾のような激しい性行為であった。于禁は夏侯惇の肩を寄せるように引かせながら、腹の中を凶暴さを保ち続けている雄で蹂躙する。
「あっ、あぁ、あ、イぐ、ぁ、あぁっ! あ、ァ、ごわれる、や、んぁ、あ! あぁっ!」
于禁が数回目の射精をしたところで、雄が萎える。なのでそれを引き抜くと、夏侯惇の入口から大量の精液が溢れ出してきた。その卑猥でしかない光景に、于禁は凝視してしまう。
「すき、ぶんそく……」
入口から精液をほとんど漏らすと、恍惚な表情を浮かべた夏侯惇が于禁に抱きつく。だが力が入らないのか、于禁の肌に少しだけ触れられてからシーツへと腕が落ちる。于禁はそれを、愛し気に拾った。
「私もです、元譲……」
その手を自身の首の後ろに回させた後に、軽く唇を合わせる。夏侯惇は目を細めてそれを受け入れたが、名残惜し気に離れていく于禁の顔を見た。
「ぶんそく、だから、もう、俺から離れないでくれ……」
すると夏侯惇は自然と涙を溢れさせたが于禁も、伝染したかのように涙を溢れさせる。そして夏侯惇の顔へと涙粒を落とすが、それは優しい温かさであった。なので夏侯惇はその涙を受け、顔をとても綻ばせていて。
「はい……」
于禁は顔を近付けると、夏侯惇はシーツに涙を落としながらもその頭をゆっくりと撫で始める。すると于禁は、嗚咽を吐きながら夏侯惇の鎖骨のあたりに顔を埋めた。そして二人は涙が枯れるまで、ひとしきり泣いたのである。
何度も何度も、互いの名を呼びながら。