青い月 - 10/16

青い月『新月』

ある新月の夜で、日付が変わる前の時間帯だろうか。風呂上がりらしく二人ともバスローブを着て、天井からの明るい照明が点いているベッドルームの、ベッドに向かい合わせで正座している。部屋の照明のせいなのか夏侯惇の対の瞳は一切の濁りが無く、于禁は今にもその中に囚われてしまうかのように思えた。
「本当に……いいのですか?」
「いいと言っただろう。まったく、何回このやりとりをすれば気が済むんだ」
相変わらず眉間に皺を刻んでいる表情の于禁に、夏侯惇は少し呆れ気味になりながら頭を掻く。
「……分かりました」
緊張している于禁は深呼吸をすると夏侯惇をベッドにゆっくりと組み敷いた。だがそれがロボットのようにぎこちない動作だったので、夏侯惇はフフッと若干笑う。
「そういえば言うタイミング逃したから今言うが、俺はこの時代のこの体では男は初めてだぞ?お前は?」
「私も初めてです」
「やはりそうなのか」
于禁の返事に頷いた夏侯惇はバスローブの前を開く。夏侯惇は何も穿いておらず、既に雄は芯を持ち上反りになっている。于禁は顔を赤くした。
それを見かねた夏侯惇は右手で于禁の左手を引き、手のひらをへその辺りへと導いて口角を上げながら誘惑する。于禁の理性の糸が切れないため、内心舌打ちしながら。
「だからほら、お前の形を久しぶりに味わわせろ。早く」
「な、なっ……!?」
于禁は言葉を出せずにいると、焦れた夏侯惇は于禁のバスローブを開く。だが于禁が下着を穿いていたので、それを夏侯惇は位置的に少し手こずりながら降ろす。すると于禁の下着が降りたことにより、夏侯惇と同様に既に芯を持っている雄がぶるんと顔を出した。
于禁は「何を……!」と動揺した。だが今から行う行為のことを考え、于禁は首を横に振った。
「あ、あの、電気を消しても宜しいですか?」
「それはこっちが言うべき台詞だろ」
「申し訳ありません。……電気は消しますが、念の為にサイドランプは点けていて宜しいでしょうか?」
「別に構わん」
そして未だに緊張している于禁はようやく決意を固めたらしく、夏侯惇のバスローブを脱がせて自分のも脱ぐ。部屋の照明を落としてベッドサイドランプを点けた。準備していたローションのボトルと、コンドームのパッケージを取り出して開封する。その動作を見た夏侯惇は少し恥ずかしそうに両膝を開く。
于禁は右手の指にローションを垂らして少し暖めると、夏侯惇の股にまずは人差し指の第一関節まで差し込む。
「ん、ぁ……」
やはり一度も男を受け入れておらず、入り口はとても狭く外からの侵入は固い。それに本来ここは排泄器官であって性器ではないので、入り口は指を拒絶するかのように押し出した。
「痛いですか?」
「痛くはないが、圧迫感があってな……。いいから続けろ」
「分かりました」
于禁は少し強引に第一関節まで差し込むと、夏侯惇は辛そうな表情と呻き声を出す。于禁は慌てて指を抜こうとしたが、夏侯惇はそれを止めた。
「やめろ……。続けろと言っただはずだ。それにお前に抱かれたいから、絶対に指を抜くな」
「はい」
于禁は夏侯惇の辛そうな表情を見ると中断しそうになるので、自分の右手首と夏侯惇の股だけ視界に入れることにする。気持ちは于禁も同じであるし、ここで止めたらもうこれ以上、夏侯惇と身体的に繋がりが持てなくなる気がして、とても怖くなっていた。そして、来た道が分からなくなってしまうように、愛し方も分からなくなりそうで恐ろしかった。
ようやく人差し指が根元まで入った。先程の夏侯惇の呻き声は軽くなった気がする、と于禁は内心安堵しながらこの調子で中指も差し込む。入り口は少し柔らかくなっており、二本目の指はすんなりと侵入できた。ぐぽ、と粘性の高い音が鳴り于禁は喉を鳴らす。すると夏侯惇の声は上擦る。
「ひぁっ! あ……んぅ……」
二本目の指も根元まで入ると、于禁の息遣いが荒くなってきた。そろそろ自分の雄が耐えられなくなってきているが、我慢をして薬指を差し込んだ。すると侵入してきた指を入り口は食うように受け入れ始め、それを根元まで差し込むと何回か抜き差しする。
「ん……ひっ!? んっ、ひっ、あ、ぁあっ、あっ!」
そうしていると指先が前立腺を掠めたらしく、夏侯惇は体を仰け反らせながら喘ぐ。于禁はその声が聞こえると興奮し始め、前立腺を更に指先でグッと押したり突いたりした。
「ぁあ、んっ……! も、もう、もういいからッ……! はやく、ぁあ! あっ、ぁっ……」
前立腺を刺激されながら喘ぐ夏侯惇は何とか声を搾り出す。すると于禁の中で堅牢な理性の糸が勢いよく切れた。目の前の夏侯惇を見て抑えられなくなったようだ。
于禁は何も言わず指を引き抜き素早くコンドームの封を切り、自身の雄にぴっちりと纏わせた。そして夏侯惇の両脚を持ち上げ、自身の腰に絡ませてから股に宛がう。
雄を挿入する前に于禁は口を開いた。
「私の形を覚えるまで、しっかりここで咥えて下さい。あなたに何回も教え込ませますので」
もはや快楽に溺れた夏侯惇はコクコクと首を縦に小さく振ると、于禁は雄を股にゆっくりと埋め始めた。
「ぐっ、きつい……」
于禁は眉間の皺を更に深くさせると雄の侵入を止める。そして数秒呼吸を整えると再び雄を埋めた。
「ん、あ、あぁ……熱くてでかい……」
体内に于禁の雄が少しでも入ったことにより、嬉しげな表情を浮かべた夏侯惇は腰をくねらせる。
「うっ……! 力を、抜いて下さい……!」
「あ、んっ、や、むり……んんっ!?」
于禁は無茶かと察し、夏侯惇と唇を重ねて舌をぬらぬらと絡ませる。夏侯惇のくぐもった声とともに唾液が出た。互いに舌を絡ませたり吸い合ったりしていると、粘度の高く卑猥な水音が鳴り始める。
「きちんと奥まで咥えて下さいよ」
数一〇秒間そうしてから唇を離し、于禁は一気に雄を突き刺すと根元まで入った。
「んぅ……ひっ! ア、ア、あァっ! あぁああぁッ!」
「ぐ、うっ……!」
于禁はあまりの快感にくぐもった声を出しながら雄が根元まで入れるとそれと同時に体を密着させる。すると夏侯惇は絶頂を迎え、雄から濃い白濁液を勢いよく出て于禁の腹にまでかかっていた。そして腹の奥がきつく締まったので、于禁の雄もコンドームの内側で白濁液を吐いた。
そして于禁は繋がったままの状態で、自身の腹にかかった白濁液を夏侯惇の雄に絡ませて上下に擦った。
「ぁあっ! ひぁっ、……ふ、やぁ……っ! イく、アっ、ぁあっ!」
夏侯惇の雄からまた濃い白濁液が出ると、于禁は雄を引き抜いた。そして纏わせていたコンドームを外して結ぶ。
「アっ、え、なんで……」
快楽に狂っていた夏侯惇は突然のことに戸惑う。だが于禁はそれを気にすることなく、夏侯惇の体を四つん這いにさせた。そして膝立ちになり新しくコンドームの封を切ると、再び纏わせて夏侯惇の腰を掴み股に宛がう。
于禁の雄はすんなりと侵入し、夏侯惇の体内にぐいぐいと入っていく。
「んぅ……んっ、ア……っ、んやっ……ぁあっ、やっ、あ、あぁッ!」
そして一気に根元まで入ると、夏侯惇は腰を振っていた。
「動きますよ」
目をギラギラさせている于禁はそう聞くと、まともな言葉を出す余裕の無い夏侯惇は息を切らせながら、先程よりも腰を大きく振って肯定の意思表示をした。なので于禁も激しく腰を振った。
「気持ちいいですか?」
「ぅあぁっ! きもちい、あ、あっ、あ、ぁ! やめ、ひっ! はげし、ぁあ、あっ! イく、イく! ひ、あッ、ぁああ!」
「う……っ!」
肌と肌が激しくぶつかり合う音の中、夏侯惇はシーツを強く握りしめながらまた絶頂を迎えた。それとほぼ同時に于禁も白濁液をコンドームの内側に出す。夏侯惇は雄から先程よりも少し薄い白濁液を出すと、体をぐったりとさせた。
于禁は雄を引き抜いてコンドームを外す。
「んぅ、はぁ……ぶんそく、きもちよかった……」
目をとろんとさせる夏侯惇は、たどたどしくなった口調でそう言い于禁の方へと顔だけ振り向く。そのとき夏侯惇の雄は萎えていた。
だが目の前には于禁が再び新しいコンドームを、未だに芯を持っている雄に纏わせていた。それを見て夏侯惇は短い悲鳴を上げる。だがそれに構わず于禁は夏侯惇の腰を掴み、再び四つん這いの体勢にさせると次は背中に密着するように覆い被さってくる。すると夏侯惇の耳に、獣のような于禁の荒い呼吸がうるさく思える程に聞こえてきた。それもあってか夏侯惇は興奮し、再び雄が上を向く。
「ちょ……ん、ぐっ、ぁ、またらめ、い、あっ、あぁ!アッ、ぁああっ!」
于禁は再び夏侯惇の股に雄を埋める。そして夏侯惇が逃げないように手首を強く抑え、逃げられないように完全に体を拘束した。夏侯惇に逃げられる訳でもないというのに。
「あなたを、逃しませんよ」
于禁は再び腰を激しく振る、というよりも腰を激しく夏侯惇打ち付けた。ばちゅん、ばちゅんと肌と肌がぶつかり合う大きな音が鳴る。
「や、んぁ、またクる! あっ、ぁ! アッ! あ、イく、またイく、ひっ、あ、らめ、おかしく、なる……んぁ、それらめ……ア、ぁ、あっ、ああぁぁあッ!」
「っは、う……ぐっ!」
于禁は雄を股の入口まで引き抜き、ばちゅんと腹の中の奥まで勢いよく突き刺すと夏侯惇の雄は白濁液を出して絶頂を迎えず、腰をガクガクと震わせるだけだった。
「まだ足りませんでしたか?」
于禁はコンドームを外しながらそう聞くと、夏侯惇はまともな返事ができない様子だった。だが于禁の雄はまだ芯を持っていたので、新しいコンドームの封を切って纏わせる。そして夏侯惇を仰向けの体勢にさせると、両膝を開いて雄で股の入口をなぞる。
「あッ!? もうらめ、んぅ、あっ、ひ、ぁ、あっ、ぁあ!」
夏侯惇は精一杯声を出すが、于禁は聞く気も無い様子でまた腹の奥に雄を埋めて激しく突いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、好きです元譲」
「はあっ、あぁ、文則、すき、あっ、ァ、い、ひああっ、あアあぁあっ!」
夏侯惇が薄まった白濁液を空に放ったところでがっくりと意識を失った。そこで于禁は正気を取り戻し、恐らく人生で初めてかなり取り乱した。
「か、夏侯惇殿! 申し訳ありません! 大丈夫ですか! お体は! 大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
だが夏侯惇は見ての通り大丈夫ではない、というより意識を失っているので、勿論返事などできない状態なのは明らかだ。それほど于禁は脳内がごちゃごちゃになり焦っていた。
雑な深呼吸をしてから少しは落ち着きを取り戻すと、周りに散らばる幾つかの使用済みのコンドームを見る。今までの于禁にしてはありえない数だ。そこで顔を青ざめさせると、完全に落ち着きを取り戻した。
そういえばまだ自身の萎えた雄が入ったままだと今気付き、慌てて引き抜いてからコンドームを外して結ぶ。
于禁は無言で夏侯惇の体を清めるために脱ぎ捨ててあったバスローブを着る。そして夏侯惇を丁寧に清めてから新しいシーツに取り替えて寝かせた。ベッドの近くのサイドチェストには、ウォークインクローゼットから持ってきていた、夏侯惇の部屋着と下着を畳んで置く。
最後に于禁自身も体を清めてから適当な自分の部屋着を着ると、その隣で横になった。
「駄目だ、寝られない……」
その晩、于禁は大きな罪悪感と恥ずかしさにより、眠ることができずにいる。なのでベッドから、とても名残惜しげに眠っている夏侯惇を見ていたのであった。