身だけではなく

二人はよく晴れた昼間のビーチを歩いているが、目的は特にない。ただ、人混みを避けながらぶらついているだけなのだ。本当は春日のパスポートや財布を取り戻さなければならないのだが、手掛かりが全くない。
そしてビーチに行こうと提案したのは春日であり、その理由はハワイといえばビーチだからだ。とても単純なものである。桐生は呆れたが、春日がどうしてもと言うので着いて行った次第。
「……綺麗ですねぇ」
「……そうだな」
一面に広がる白い砂浜と青い海を見て、春日がそう呟く。しかし桐生はビーチには特に興味がないようだった。素っ気無い返事をすると、春日に有り得ないと言うような表情をされている。桐生にとってはおかしなことは言っていない筈なのだが。
日光がよく差し込む為に、二人は目を細めている。太陽は真上にあるのでさすがに暑く、日陰に行った方がいいと思えた。なのでそろそろ春日に日陰に行くように促そうとする。その瞬間に強い日差しによりできていた、ありとあらゆる物の濃い影が一気に薄くなっていく。これはスコールがくる前兆である。
桐生が春日にそれを知らせようとしたが、一足遅かったようだ。一気に辺りが薄暗くなり、雨が降り始める。近くにいた水着の人々は空を見て驚くが、殆どが二人のように服を着ている訳ではない。なので中には雨を浴びながらも海中に留まる者も居れば、パラソルの下にのんびり避難していく者も居る。
砂浜が濡れ、水着ではない二人は濡れていく。咄嗟に、雨宿りができる場所を探した。
「うわ!? 雨!?」
「春日! どこかで雨宿りするぞ!」
「はい!」
二人は軒下がある建物を探すと、そこに避難した。辺りに人が居ないうえに、この建物は店ではあるがビーチ側に窓は無いらしい。ビーチに面しているというのに、珍しい造りをしていた。なので壁にすがる。
その頃にはびしょ濡れになっており、桐生は不快に思っている。だが春日は少し楽しそうだ。日本では似たようなものだと、夏しか遭遇しない気候だからなのか。
「……雨が止んだら、一旦ホテルに戻るぞ」
「は、はい」
暗い空を見上げながら、二人がそう会話していく。今回のスコールは長めだ。桐生は「長え雨だな」と呟いた。
「ハワイではよくあるんですか?」
「ん? あぁ、そうだな」
春日がそう訊ねてくると、桐生は視線をそちらへ向けた。
見れば羽織っていたアロハシャツを脱ぎ、絞って水気を取り除いている。シャツも濡れているが、アロハシャツよりかは水気で重たそうではない。それも脱いで絞るか迷っていた。一方の桐生は黒のワイシャツが濡れており、肌に張り付いている。春日のように下に何か着ていないので、一刻も早く着替えたかった。
「傘を持ってくるべきでしたね」
「あぁ、そうだなぁ。そういえば、普段から持ち歩いていなかったな」
思い返せば、桐生は傘を持っていなかった。車で移動しているうえに、ビーチには特に用が無い。なので殆ど訪れておらず、対策を怠っていた。
「そうなんですか?」
春日が驚いているが、桐生はうんうんと頷く。
しかしこのスコールは長い。そう思っていると、春日が桐生の手をそっと握る。
「そういえば、桐生さん。雨が降っている間は、二人きりじゃないですか」
突然にふわりと笑いながら春日がそう言い、指を絡めていった。春日にしては珍しいスキンシップだ。桐生はその手を握り返すと、指を広げて春日のスキンシップを受け入れていく。
「そうだな」
するとどんどん二人の顔が近づいていき、そっと唇を重ねた。ほんの、一瞬だけである。
春日の熱い視線が、桐生の至る肌に突き刺さっていく。これは、自身を誘っているのだろうか。だが今の状況では、その誘いを受けることができない。スコールはいずれかは止み、周りはいつものように人だらけのビーチに戻るからだ。
なので指をそっと離すと、春日の眉が大きく下がった。罪悪感が込み上げてくるが、桐生は「スコール止まねぇな」と誤魔化すように呟く。視線を、海の方へと向けながら。
「桐生さんのホテルまでは遠いですよね? 近くに、安いホテルはないですか?」
桐生は思わず春日の質問に答えそうになった。春日の言う「安いホテル」は、日本でいう「ラブホテル」のような施設のことなのだろう。それに安いホテルは幾つか知っているし、この近くにある。
答えたい。しかしこのような春日の誘いにほいほいと乗っては、パスポートの問題など解決しない。なので桐生は腹に力を入れて「知らん」と、素っ気なく答えた。
「本当ですか? 桐生さん、ハワイには詳しいんじゃないんですか? でしたら、服が濡れちまったし、歩き疲れたので少し休みましょうよ」
春日の手が腕に回り、肌が接近すると唇が耳元に向かっていく。囁くように「桐生さん」と呼んだ。
すると体中に流れている血が、中心部に集まっていくような気がした。明らかに、春日の誘惑に負けてきている。心臓が高鳴り、酸素を求める為に息が荒くなる。
「ねぇ……桐生さん。そろそろ疲れたでしょ?」
ゆっくりと春日の方を見てしまうと、目の前には情欲に支配されている瞳があった。すると瞬く間に、それが乗り移ってしまったように感じる。目が見開き、春日の様子を凝視してまっているからだ。ただの同性同士ではなく性的に。
呼吸の間隔が短くなっていき、遂には桐生は春日の手を振りほどく。しかしその手を惜しむように、先程のように指を掴む。春日の誘惑に、勝てる筈が無いからだ。
さすがに最初は春日は驚いていた。直後に桐生が指を絡めてやると、春日がニヤリと笑っている。これは、己の誘惑が成功したという顔にしか見えない。心が酷く疼いた。
だがそれに上手く嵌ってしまったからには、桐生は引き戻すことはできなかった。下半身が、異常に反応したからだ。スラックスの股間を部分が膨らんでいる。見るからに、勃起をしていた。
「……やっぱり、心当たりがあった。行くぞ」
そう言って、桐生はスマートフォンを取り出すとGPSを躊躇なく切った。そして人気のあまりないルートを脳内の、あまり細かくはない地図で検索する。観光客で賑わう大通りではく、治安の悪い裏道になってしまう。仕方ないと思った桐生は、春日にただ「着いてこい」と言った。
春日はそれに素直に従うと、桐生はホテルではなく知っている近くの安いホテルへと向かう。
道中では幸いにも、人とすれ違わなかった。それに春日にアロハシャツを借り、腰に巻いて勃起を誤魔化している。その状態でホテルにしては高さがあまりない建物に到着するが、フロントの従業員に不自然には見られなかった。安堵の吐息を漏らしながら、従業員からルームキーを受け取る。今からチェックインは可能らしい。
二人はルームキーに書いてある番号の部屋へと辿り着く。ここは一階までしかなく、各部屋のテラスに小さなプールがあった。三方を囲む高い壁があり、プライベート性はかなり高い。
春日が驚きながら「高いんじゃ……?」と訊ねてきたが、桐生としては安いホテルである。なので首を横に振ると、すぐに狭い部屋に入った。扉が閉まるとすぐに春日の手を引き、ツインベッドを通り過ぎてテラスに出る。
「ちょ、桐生さん……!?」
何か言いたげな春日を無視しながら、桐生はそのまま共にプールに飛び込んだ。水しぶきが高く上がったが、水深は二人の太ももよりも上程度。それでも二人は更に、スコールに遭った時よりもびしょ濡れになる。
再び肌に黒のワイシャツが張り付いて不快に思ったが、それが何だか楽しく思えた。そういえばこのように馬鹿らしいことをしていないとふと考えたが、前髪から垂れる水がその思考の邪魔をする。髪をかき上げた。
一方の春日は水に濡れても、相変わらずの髪型である。おかしくなり笑うと、先にプールサイドに座った。スラックスのチャックをゆっくりと開ける。
「ほら、春日」
勃起している雄を取り出すと、春日にそれを見せつける。見た春日は、穴が空くと思うくらいに見つめていた。口をぽかんと半開きにしており、かなり欲しがっている。
春日が手を伸ばしかけたが、ぶるぶると首を振った。髪についている水気が飛んできたので、桐生は目を細めて笑った。
「しゃぶらねぇのか?」
「いえ……た、ただいま……!」
固唾を呑んだ春日は、一呼吸置いてから桐生の雄を口に軽く含んだ。春日の口腔内はじめじめと暖かく、そして何よりも気持ちが良かった。
深く咥えられると、そのまま舌を巧みに利用して桐生の雄を包みこんでいく。
「ッう……! いいぞ」
やはり春日の口淫は上手かった。性行為の際に春日がこうしてくれる回数が多い。なのでどんどん弱い場所を発見され、回数を重ねていくにつれて最初から弱い場所を責められてしまう。
裏筋や先端を丹念に舐められていくと、桐生は達しそうになった。なのですかさず春日の後頭部を掴んで固定すると、喉の奥めがけて射精をする。春日の喉からは苦しげな音が鳴るが、瞳はだらりと垂れていた。かなり嬉しそうにしている。
大きな喉から音が聞こえたが、全てを飲み干しているのだろうか。まるで、与えられた餌を喜んで食べている魚のように見える。
「ふぅ……んっ、ん! んん、んぅ、っん……ぷは、う、ぁ」
後頭部を緩めて解放させると、春日の口からは唾液のみが垂れる。一滴残らず精液を飲んでいた。顎髭に唾液が絡まると、留まってしまう。
「美味かったか?」
「は、はい……」
春日は目尻を垂らすが、口角はどんどん上がっていく。その表情が、たまらなく可愛いと思った。なのでパーマで広がっている髪をわしゃわしゃと撫でると、春日もプールサイドへと上がってくる。
だが腕にあまり力が入らないらしく、かなりもたついていた。桐生はそれを助けるために、春日の腕を掴む。そして引っ張ろうとしたが、春日の体重に負けてしまった。春日と共に、再びプールに沈んでしまう。深さはあまり無いので、溺れなかったのが幸いであるが。
すかさず春日の太い体を抱きとめると、そのまま二人でどうにか立ち上がる。互いに、髪までもずぶ濡れてしまっていた。
すると、春日が龍魚のような存在に見えてくる。しかし龍魚とは架空の存在だ。何を考えているのだろうと、桐生は首を傾げる。
「ふふっ」
向かい合って春日がおかしそうに笑った。すると桐生も釣られて笑うと、顎を指で掬う。
「春日……」
名を呼ぶが、身長差が無いに等しいので春日とすぐに目が合った。瞳も唇も、ほとんど同じ高さにある。すぐそこに、愛しい存在が居る。
春日が腰に手を回してくると、ゆっくりと背中まで上っていく。そして肩甲骨を、指先でなぞってきた。
「すき……」
そう呟いた春日だが、恥ずかしくなったのか桐生の肩に顎を乗せる。もう一度だけ春日が「すきなんです……」と言ってくると、桐生は無言で頷いた。春日の体を擦ってやる。
「だが、このままでは風邪を引くぞ。一回、シャワーを浴びてから……」
「ここで、俺を抱いてください」
桐生の言葉を遮り、春日の顎が肩から離れていく。そして背中にあった手が、いつの間にかぶらりと下りていた。桐生はその手をそっと持ち上げようとしたが、春日に唇を塞がれたことによって阻止される。
春日の口腔内は雄臭い味がした。これは自身の精液の味であるか、口付けもこの味も不快には思わない。寧ろ止めて欲しくないと、春日の後頭部を抑える。
「ん、っん、ん……!」
口付けをしながら、スラックスのベルトを器用に外していった。このままでは、何かと不自由だからだ。そして下着ごと降ろすと、下半身だけ露出した。
次に春日が履いているジーンズのベルトも外す。自身のものと同様に、下着と一緒に降ろした。春日も勃起しており、プールの水で酷く濡れている。桐生はそれを握ると、しこしこと扱いていった。春日のくぐもった声が強くなる。
「ふッ、う……! ん、んんっ」
春日の腰がガクガクと震えたと同時に、勢いよく射精をした。桐生はすかさず手のひらでそれを受け止めると、にちゃにちゃと指で絡める。恥ずかしげにしている視線を春日が寄越してくるが、桐生は無視をした。
そして唇を離してからまず聞こえたのは、春日からの言葉の文句である。
「桐生さん! その、手で俺の出したのをそうするの……ちょっとやめてもらっていいすか……」
「どうしてだ? 潤滑油にもなるだろ?」
わざと手に絡めた精液を見せつけると、春日は顔が真っ赤になっていく。たかがこれが恥ずかしいのか、と桐生は意外だと思った。
春日に手首を掴まれると、強引に降ろされる。
「ローションとかでいいですって!」
「俺はこれがいい」
そう言うと、春日はがっくりと項垂れた。諦めてくれたらしい。なので一旦プールサイドに座って欲しいと促すと、春日が渋々と座った。一方で桐生は座らずに立っているままだ。
このまま、桐生と密着していたかったとぼやく。その際にジーンズや下着を足から抜くと、軽く畳んでから近く置いた。
「足を開け」
「は、はい……」
シンプルに命令すると、春日はそれにすぐに応じる。膝を開いて恥部を桐生に見せた。その前で、桐生は膝立ちになる。
「俺に掴まれ」
「はい……? はい……」
春日が言う通りに、ずしりともたれかかってくる。桐生の体が大きく沈み、春日の毛が耳に触れて擽ったい。直後に春日は全体重を掛けるのを止め、遠慮をしようとしていた動作を見せる。しかし体勢からして、普段の力が入らないらしい。申し訳なさそうに「すんません……」と呟き、現状維持していた。
今の桐生にとっては春日の体の重さは、かなり負担があった。自身は癌患者で、体がとても脆くなっているが故に。それでも息を吐いて腕に力を入れると、どうにか春日と体を縦に平行にさせた。
春日が覆い被さっている状況であり、立っているときとは違って視線の高さはかなり異なっていた。今は、視線が春日の胸部にある。金色に鈍く輝くネックレスが揺れ、その下には二つの筋肉の膨らみがあった。シャツと共にネックレスを慎重に持ち上げると、桐生は片方の胸にしゃぶりつく。頭上からは、反抗ではなく悦んでいる声が降ってきていた。
胸は当然のように硬いが、どこか柔らかさもある。人間の皮膚の特徴を、舌でよく触れていく。男の体とは不思議なものだ。春日のようにここまで体を鍛えていても、胸だけは弾力があるのだから。
「あ、ぁ、桐生さん、そこ……もっと、こっちも……」
どちらの胸も弄って欲しいらしいが、桐生はそのようなことはつまらないと考えている。そこばかりでは、いつまで経っても自身が満足できないからだ。
精液に塗れた手をぬるりと伸ばすが、胸ではなく足の付け根へと辿り着く。春日は途中まで期待していたのか、予想とは違う部位に桐生の手が来て落胆していた。桐生は仕方がないと思いながら胸の尖りに歯を立てると、春日の肩がびくりと跳ねた。丸く曲げていた背中が途端に反れる。
尖りには程よい硬さがあるので、桐生はそれに歯をやわやわと立てた。更に春日の体が動くと、桐生に完全にもたれてしまう。重いと感じながらも、空いている手で春日の背中に触れる。いや、水辺ではなくまだ浅い快楽に浸っている龍魚に触れる。
「……ん、んっ!? ひ、ゃあ、ァ」
春日の腰が震えているのを確認しながら、精液塗れの手を動かした。向かう先は春日の尻にある、入口である。指先で弱く突くと「ひゃ、ぁ……」と声を漏らしながら、少量の精液を吐いていた。そこを桐生にただ触れられるだけで、凄まじい快感に襲われているのだろうか。
「ん? ここがもういいのか?」
唇を離し、尖りに息を吹きかけてそう質問する。しかし春日はこくこくと頷くばかりで、肯定の声を発しない。桐生は春日の声が聞きたいので、どうにも我慢ができなくなっていた。遂には力を振り絞って勢いよく押し倒す。春日が頭を打つ可能性など、考える暇が無いまま。
春日の足までもプールに浸かるが、そこから上はプールサイドに乗り上げたままだ。しかしその状態では桐生からしたら不便なので、膝を持ち上げてプールから避難させる。
そのまま春日の上に覆い被さると入口に指を滑り込ませていくが、かなり狭い。指先だけでもなかなか入らなかった。
「春日……」
名を呼び唇を上に持っていく。首に到着すると喉仏の形を舌先でなぞった。春日が喉を震わせ、その振動が伝わる。桐生は止めろと言うように喉仏を甘噛みすると、春日の喉が一瞬だけ大きく震えてから大人しくなった。
その瞬間に入口にあてがっている指を強く押すと、僅かに指が埋まってくれた。なので桐生は、その調子で入口を広げていく。目の前の龍魚をこの快楽からは、二度と抜け出せなくなるように。
「っや!? は、ぁ……まって、桐生さん、ぁん、ア、はぁっ、は……ぅ、あ……」
再び喉の震えが大きくなったので、桐生は仕方なく喉から頬へと移動した。互いの髭が当たってチクチクと小さな痛みがある中で、頬を舌でぬるりと舐めながら耳へと移動する。耳たぶをちゅぱちゅぱと、舌でおもちゃのように揺らした。
すると春日は半分の聴覚を支配され、まともな言葉を既に吐き出せなくなったようだ。悶絶の吐息を出しながら、両脚を桐生の腰に巻き付けた。これで、今犯している龍魚は水辺に戻る気は無くなるだろう。
「ん、んんっ……きりゅうさん、おれ、はやくいきたい」
「待て春日。まだ解してねぇ」
春日が腰をいやらしく振ってアピールをしてきた。どこでそのようなことを覚えたのかと、自分でも訳の分からない怒りを抱く。なので入口にある指をぐりぐりと押すと、一気に指一本が埋まってしまう。潤滑油にしていた精液のおかげである。春日は高い嬌声を上げた。
「あ、ぁ!? ひぁ……ぁ、あっ、ァん、ん! きりゅうさん、もっと、おくまで……」
「あぁ、分かってる」
雑な返事をすると、唯一入っている指をぐにぐにと動かした。前立腺を探し、龍魚の正気を全て消す為である。だが前立腺の場所など指先や触覚が全てを覚えてくれているので、それらを頼りに探っていく。結果は、すぐに見つかった。
しこりの部分を軽く押してやると、春日はまな板の上の生きている魚のように激しく動く。だが桐生はそのようなことなどおかまいなしに、耳元に息を吹きかけて「ここか?」と聞いた。返ってきた答えは、とても曖昧なものである。
「ッや、ぁ……らめ、そこは、うぁ! ん、ん! ぁあっ、あ!」
「……ったく、どっちなんだ」
言葉こそは呆れているものの、籠っている感情は「愛しい」の一言である。
「まぁいい。指を増やすぞ」
次からはまともな回答を期待しないまま、独り言のようにそう呟いた。二本目の指先が入口に触れると、すんなりと入っていく。春日の体が受け入れることしか考えられなくなっていいるのかもしれない。なので桐生は「偉いぞ」と褒めてやると、入口の中がきつく締まった。褒められて、とても嬉しいことが分かる。
可愛い奴だと思いながら、桐生は二本目の指までも全て入れた。そして二本の指で広げるように掻き回すと、春日は嬉しそうに鳴く。一方で入口も、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を出していた。
「ぁあ、ん、っはぁ、きもちい! きりゅうさん……そこ、いい、ッあ、あ、ぁ」
「そうか、気持ちいいのか」
にやにやとした桐生は、春日の耳たぶを再び舌でぶるぶると揺らす。そして春日の体が水の中に落ちてしまわないように、片方の膝を持ち上げた。
より入口が柔らかくなったのか、指の可動域が大きくなる。前立腺を二本の指で遊ぶように触れたり、摘まんだりした。すると春日は射精してしまうが、またしても少ないものである。もはや桐生の雄で突かなければ、まともな射精をできない体になぅってしまったのだろう。
この龍魚を支配したも同然である。桐生は指を引き抜いてから「辛いだろう?」と呟くと、ぽかんと小さく口を開けている入口に雄をあてがった。
自身の雄は春日の痴態を見ている時から、今か今かと待っていた。大きく張り、血管がどくどくと浮いている。春日に口淫をされた後よりも、さらにグロテスクな外見になってしまっていた。
「いくぞ、春日」
一言だけ声を掛けてから、両手で春日の腰を掴む。龍魚を、完璧に捕らえた。そして腰を小さく振って侵入を試みる。
「……っく! やはりこのままでは狭いか」
眉間に皺を寄せると、春日が「はやくきて……」と誘ってくる。春日としては、大丈夫ということなのだろうか。
雄の先端でぬるぬると我慢汁を塗りたくっていく。そして腰を前に動かし、先端を入りの縁をぐいぐいと押していった。すると微かに先端が埋まっていったので、その調子で腰をカクカクと揺らした。
「あっ、あ、ぁ、んんッ……は、ぅあ、あ……!」
まだ全てが入っていないというのに、春日は気持ち良さそうにしていた。恍惚の顔で桐生を見つめており、苦し気にしている様子は微塵もない。なので桐生はどんどん腰を振っていく。
するとくびれのあたりまで差し掛かった。あと少しと、春日の腰を掴んでいる力が強まる。自身の指先が白くなっていき、春日の腰の皮膚は赤くなっていく。
「あと、少し、あと……」
更に力が籠っていると、いつの間にかくびれが縁を通っていた。桐生はその瞬間に強く腰を叩きつけると、根元までばちゅんと痛々しい音が響く。
これで春日と全てが繋がり、桐生は重い呻き声を吐いた。昇天でもするかと思うくらいに、あまりにも気持ちが良かったからだ。
「ぐっ!? は、はぁっ! 春日、はぁ……くそ、動くぞ」
合図も無しに突然に腰を激しく動かすと、春日は喘ぎ声ではなく高い悲鳴を上げていた。そしてまるで女のように乱れ、精液を次々と噴出させる。
さっきまであった恍惚の表情はどこかへと消え、だらしなく口を開いて唾液を垂らしている。理性など、とうに手放してしまったようだ。
「ひゃあ!? あぁ、ァ! あ、んはぁ、アっ、もう、イってるからぁ! あっ、きりゅうさん! もうらめ、おれ、もう、あたまがおかしくなるからぁ!」
「あ? まだそこまで喋れるじゃねぇか」
春日の言葉を脳内で噛み砕く気は無い。ひたすらに腰を振り、体の内側を食い尽くしていく。春日、いや龍魚の体だけは魚だからだ。身だけではなく臓器や骨までも、至る部位まで食べることができる。
なので桐生は、雄を何度も突いて身を柔らかくしていく。抵抗を無くしていく。そうした方が、魚を美味く食えるからだ。
「やらぁ、イくからぁ! ぁ、あ、きりゅうさん……もうだめ、ぁ、あッ!? お、ァ!」
春日の腹部に異変が起きた。桐生の雄が更に奥を突き、奇妙に膨れたからだ。へその下からは聞いたことのない音が鳴るが、桐生の興奮は最高潮である。気に留めることもなく、寧ろその音を聞く為に雄で突き刺していった。
肌がぶつかり合う乾いた音、それにプールの水が弾く音が聞こえる。
龍魚が本当に存在するならば、どのような味がするのだろうか。ふとそう考える。今抱いている春日のように、濃く甘い味がするのだろうか。それならば、是非とも味わいたいと思った。
「……お前は、美味いな!」
「んっ! ぁ、んんっ……!」
射精感がこみ上げ、春日の腹の中に精液を注いでいく。同時に、春日も射精をしたようだ。しかし精液が勃起している竿を伝うと、そのままゆるりと頭を下げていく。互いに、ここで限界が来ていた。
桐生は愛しい身が受け止めた感覚があったので、一息ついた。すると雄が萎えていくが、まだ引き抜く気にはなれない。春日の肉を、たっぷりと愛した余韻をできるならばずっと引き摺っていたいからだ。そして存分に味わいたいからだ。
絶頂の後に呆然としている春日の頬に、そっと唇を寄せた。
「きりゅうさん、俺がうまいって、どういうこと、ですか……?」
すると春日がそう質問してくるので、桐生はそのまま思っていたことを答えるべきか悩んだ。龍魚が美味そうなど、安直過ぎる妄言でしかない。それが例え、意識が朦朧としている相手であっても。
首を横に振ろうとすると、春日の手がが桐生の頭を包み込む。ただしあまり力が入らないのか、引き寄せられる感覚はとても弱かった。
「でも……いいです。桐生さんが、おれのことをうまいって言ってくれたなら。なんだかベタなんですけど、俺の、骨まで愛してくれてるんですね。あらためて、しれました」
春日の口から、スラスラとそれが出た。それは言う通りに、愛を伝える為の王道の言葉である。
確かに、無意識にだがその意味も含ませていた。想いが伝わったとまずは安堵をすると、唇を合わせる。
すると雄臭く苦い味はしなかった。代わりに甘く美味い味覚が不思議とあったのでそれを一秒でも味わう為に、春日の口腔内や舌をずっと舐め続けていたのであった。