ハワイで春日と再会してから、桐生は共に行動をする。目的が同じだからということもあるが、桐生はどうにも春日のことが引っかかっていた。ビーチのど真ん中で服を剥かれて全裸になって警察に捕まっても、どうして落ち込んだり怒らないのか。春日の自然な笑顔を見る度にそう思う。そしてその顔を見るのが好きになっていた。これは何なのだろうか。
桐生が脱獄した春日を助けた後に車に乗せた。春日が助手席に座る。自身ならば、同じ状況になったときにどこに座っていたのだろうか。後部座席にでも座っていたのだろう。春日は自然と助手席に座ることができているというのに。桐生は自身のことを暗いと責めながら運転をしていった。
そして春日本人に様々なことを聞いてみたいものの、聞いてどうするのかと桐生は下らない好奇心を押さえつけていた。そして運転に集中するために前を見るが、右から聞こえる春日の声に酷く反応をしてしまう。
だが途中で桐生は具合が悪くなってしまった。自身の病のせいでだ。春日にそれを告白する気はない。単純に、関係がないからだ。それを話してどうするのかと。
適当なところで車を停めると、春日にただ体調が悪いとだけ伝えた。その後に春日に水を買って来て貰った。水を喉に通すと、具合が良くなる。やはり、自身の体は限界が近いのだろうと桐生は不安になる。
「桐生さん、大丈夫ですか?」
あと何回、春日の言葉が聞けるのだろうか。桐生は自身のリミットのことを考えていたが、首を横に振ってその思考を捨て去る。そして体調が完全に治ったと誤魔化しながら返すと、春日からは大きな安堵の声が漏れていた。
そこでまだ体調が悪いと返せば、まだ春日に甘えられるのに。正直に言える身分であれば、と桐生は心の中で無駄足掻きをしたくなっていた。
「少し歩きながら、外の空気を吸いましょうや。まだ、桐生さんは完全には良くなっていないかもしれませんし」
「あぁ、そうだな」
春日の提案で、ハワイの街中で春日と歩き回ることにした。理由は目的は共通しているものの、時間帯や準備等の影響で現在地から動けない状態だ。まずは現在時刻は夕方で茜の家に向かうには遅いこと、それに春日は荷物やパスポートが無い。パスポートは無理でも、せめて最低限の物を調達すべきだろう。次に桐生がそう提案すると、春日は律儀に礼を述べてから頷いてくれた。
「それから……俺の行きつけのバーに行かねぇか? 客足は少ねぇが、いいところだ。ここから少し離れているが、今はゆっくり行こう」
「おっ! そうしましょうか! いやー、外国のバーなんて初めて行くなぁ。楽しみです!」
二人はそのような会話を交わしてから、歩き出す。桐生としては歩き慣れたハワイの道だが、春日にとっては全て見慣れぬ土地の筈だ。見える場所に案内をしては雑談をしたいが、自身の「首輪」のせいでそうもいかない。
「ん? どうしましたか?」
「いや、なんでもねぇ。じゃあ、行くか」
桐生の行きつけのバーとは、リトルジャパンエリアにあるリボルバーだ。大通りに近い場所にあるのだが、バーのマスターの愛想の無い接客等により客はあまり居着かない。儲かってはいるのだろうかと思ってしまうが、桐生はそれをマスターの前であまり口にはしない。出す言葉は全て酒の感想や軽い世間話だ。
春日にそこについて話しながら歩いていくと、リボルバーへと到着した。入ればマスターがいつものように「いらっしゃい」と言いながらグラスを磨いていたが、春日の「どうも……」という声を聞いてから反応を変える。連れと共に初めて入店したので、マスターはグラスを磨く手を一旦止める。
「何か適当に頼む」
マスターにそう注文してから、カウンター席に春日と共に座る。春日は店内を物珍しそうにキョロキョロと見回していて、落ち着きがない。
そこで春日にこのバーやマスターのことを知っている範囲で話した後に、二人で乾杯をしてからゆっくりと飲み始める。
「いやぁ、こうして誰かと飲む酒は美味いすねぇ。あっ……そういえば、桐生さんと飲んだのは初めてでしたね! 今日は嬉しい日だ!」
春日の嬉しそうな顔を見て、桐生は硬くしていた表情を緩めてしまいそうになった。しかしこのまま緩めてしまえば、春日に抱き始めていた感情が分かってしまうのかもしれない。
これがもしかしたら、いや、自身はもう先が短い人間だ。春日のように未来も何もかもが明るい人間の足を引っ張ることは許されない。例え春日が許していてもだ。
「あぁ、ありがとう。だが、明日に備えて、これを飲み終えたら出よう」
グラスを持ってから揺らすと、マスターが「もう少し飲んで行け」と言う。本当は自身に厳しくありたいのだが、このまま春日と飲んでいたいと思えた。なので言われたから仕方がないと言い聞かせながら「あぁ……」と頷く。春日は大層嬉しかったのか、とても喜んでいた。
するとマスターは気を遣ってくれたのか、二人の傍からそっと離れていく。初めて人を連れて来たからなのだろうか。
春日の顔を見れば、何か話したそうにしている。なのでグラスを置いた桐生は、春日との会話を弾ませていった。「首輪」を付けられて以来。初めてのことである。
春日と何杯飲んだのかは、覚えていない。それくらいに、桐生はいつもより酒を飲んでいた。だが春日が先に潰れてしまい、マスターが「上の階を使うといい」と言ってくれたのでその言葉に甘える。
二階に上がるのは初めてだ。そう思いながら潰れた春日を無理矢理に立たせてから肩を貸す。体が重く、衰えている自身にとっては大変なものであった。するとマスターも手伝ってくれたので、ようやく春日を二階に上げることができる。
使い古したソファと段ボールだけがあり、正に物置という状態である。春日をソファに寝かせると、すぐに眠ってしまった。とても心地よさそうに寝ている。桐生はその寝顔を見ていたい言い訳として、ここで寝泊まりをするとマスターに告げた。頷いたマスターは「あと少しで店を閉める」と言ってから一階に降りる。
外からは小さな喧噪が聞こえるが、心地の良い音にしか聞こえない。桐生は相変わらず深く眠っている春日の顔を見ながらソファの近くに腰を下ろす。思えば春日の寝顔を見るのは初めてだ。ここまで凝視できるチャンスは無いので、桐生がじっと見る。
日本人離れした顔立ち、長い睫毛、地毛なのか分からないチリチリの頭。全てが愛しいと思えた、その瞬間に桐生がハッとする。自身は「首輪」に繋がれているというのに、ここまで春日に溺れてはいけない。首を大きく横に振るが、春日のことを見てしまう。春日のことを考えてしまう。
「俺は……」
考えたところで、もう後戻りができないことを知る。そして春日のことが好きなのだと自覚した。もう「首輪」のことなどどうでもよくなってくるが、「首輪」を持っている者たちの顔を思い出してしまい、そして邪魔をしてくる。溜め息をついた桐生だが、この恋心は外に一度も出してはならないと思った。それは春日に危険が被る可能性だってあるからだ。自身のことはどうでもいい。
なので春日の寝顔をもう一度見てから、改めて「首輪」に繋がれていることを自覚してから、目を閉じた。このまま、眠れるように。春日のことを見ずに、考えられなくできるように。
※
目を覚ませば、太陽が昇っていた。時計を確認してみれば、朝になったばかりである。
春日の方を見れば未だに眠っているが、起こさない方がいいのだろう。上辺では春日は疲れているからという一方で、このまま寝顔を見ていたい。「首輪」というしがらみを一時的に忘れたいという一心で。しかしまずはこの建物の主であるマスターと顔を合わせなければならないと、一階に降りた。
マスターはまだ居たが、営業時間は少し前に終わっている。店の掃除や片付けをしていた。挨拶の後に少しマスターと話した後に、マスターは一旦帰ると言う。だがありがたいことに、二人を追い出すことはない。このまま居てくれても構わないのだと。その際に、施錠を忘れないようにと忠告を受けた。
直後に片付け等が終わったらしく、マスターを見送ってから二階に上がる。未だに眠っている春日を見て、つい表情が緩む。するとこのまま、時間が止まってくれたら良いと思える。春日の寝ている姿だけでも、ずっと見ていたいからだ。春日と繋がることが叶わないのであれば。
気付けば何時間も春日のことを見ていた。顔や体のラインを脳裏に刻むかのように観察していたからだ。少し体を伸ばしてから何度か呼吸をしたところで、春日の声がした。目が覚めたようだ。
「ん……? あっ、桐生さん! おはようございます!」
「あぁ、おはよう。だが……もう昼だぞ」
時計を確認してみれば、いつの間にか昼を迎えていた。それを告げると、春日は焦りながら起き上がる。
「す、すんません!」
「いや、いい。それよりも、ゆっくりと……どうした?」
言葉の最後に至るまでに、春日がこちらを見ていることが分かった。なのでどうしたのかと訊ねると、予想外の答えが返って来る。
「いや……桐生さんて、そういう穏やかな顔をできるんだなって……いや、決して悪口じゃないです! 俺、桐生さんのことを落ち着いた大人だと思っていたので……! 本当なんです!」
「分かったから、俺は怒っていない」
春日を宥めると、まずは今日の行動を話し合った。この後にホテル前に着けている車で茜の家に向かうことになるが、その前に春日の失った荷物などの代わりを買わなければならない。勿論、桐生持ちになるので春日が改めて謝罪をしてくる。律儀過ぎる男だと桐生は思った。
「じゃあ、行きましょうか。あっ……! 俺、荷物持ちでも何でもしますんで!」
「あぁ、よろしくな」
そうして二人は、二階から降りるといつの間にかマスターが居た。何やら準備をしているようだ。邪魔をしたらいけないと、一言マスターに「邪魔したな」と言ってからバーを出た。
今日もいい天気であり、青い空に白い太陽がさんさんと輝いている。気温は高めであるものの、心地よい風が吹いているので不快ではない。
そのような中を春日と歩いていくが、適当な通りにも店がある。なので視界にある店に歩いていくが、春日にとっては何もかもが物珍しいらしい。一歩進める度に辺りをキョロキョロしては、物を指差して「桐生さん!」と楽しげに話しかけてくる。落ち着きがないが、何と可愛らしいとも思えた。このまま、手を繋いでやりたい気持ちで溢れる。
「店は動かないから大丈夫だぞ」
クスクスと笑いながらそう言うと、春日は赤面した後に「……はしゃいでしまってすいません」と、表情が沈む。
「夕方になる前にここを出発すればいい話だ。まだ時間はある。ついでに観光すればいいじゃねぇか」
フォローすると、春日の表情が落ち着いた。
「そうですね、桐生さん、ありがとうございます」
頷いた春日だがすぐにまた珍しいものがあったらしく、またもや指差してから桐生の名を呼んだ。キリがないと桐生は肩をすくめると、春日が指差したものについての説明を始めた。ある程度でも、ここのことを把握しているからだ。
春日は嬉しそうに説明を聞いてくれるが、途中で桐生は目眩がした。少し足をもつれさせると、春日が咄嗟に支えてくれる。
「桐生さん、どこかで休みましょう」
「あぁ……すまねぇな……」
謝る桐生だが、そこで春日の言葉に反応をしてしまう。休むとは、つまり春日に更に近付くことができるチャンスだということなのだろう。そこからあらぬ想像をしようとしたが、目眩がそれを邪魔する。
内心で舌打ちをしながら、春日に体を支えられる。
「座ったら良くなりますか? もしも駄目でしたら、どこか適当なホテルで……」
春日の後半の言葉で、桐生は反応した。どこかのホテルに入れば、春日と二人きりになることができる。これは滅多にない機会だ。内心でガッツポーズをした後に微かな声で「横になりたいな……」と呟くと、春日は了承してくれた。すぐに辺りを見回してホテルを探し出す。
肩を借りながら入ったホテルは、安いホテルである。休むのであれば、ここで充分だという春日の考えでだ。フロントで春日が「連れが体調が悪い」ということを伝えようとしたが、英語が分からないようだ。なのであたふたとしていると、少しは意識がある桐生が英語で「体調が悪いのでサービスは必要になったら連絡する」と伝えた。すぐに従業員が理解をすると、宿泊料を払ってからルームキーを渡された。二人はすぐに取った部屋に向かう。
シンプルな間取りの部屋に入るなり、春日にベッドに連れられてから横になる。その間に春日が鍵が自動で閉まったことを確認すると、すぐに傍に駆け寄った。
「桐生さん、少しは楽になりましたか?」
「あぁ……」
「今日は、茜さんの家に行くのを止めましょう。桐生さんの体調が心配ですし」
春日がそう言うが、良くないと反論をしようとした。そこで春日に手を固く握られる。
「無理したら駄目ですよ、桐生さん」
真っ直ぐな目をしてそう言ってくる。すると桐生の中で何かが動き始めた。体の部位ではなく、心のどこかではあるがこれは勇気なのだろうか。或いは、下心だろうか。
「春日……」
名を呼ぶと先程の勇気と下心、両方が大きく動く。もう、制御などできなくなっていた。するといつの間にか、春日をベッドに引きずり込んでから、乱暴に押し倒す。呼吸が荒くなっているが、今はそれどころではない。
「え……? 桐生、さん……?」
春日は何が起きたのか分からず、放心状態になっていた。それにきょとんとした顔をしており、心の中で「人たらし」と言ってから春日の頬に触れる。いつの間にか、目眩が治ったと思いながら。
「春日、俺は……」
顔をどんどん近付けると、春日は焦ったように「どうしたんですか!?」と聞いてくる。だがそれを無視して、鼻同士がくっつくまでに顔を迫らせた。
「俺は、好きだ……お前のことが……性別なんて、お前の出自なんて、関係ねぇ。お前の、存在自体が好きなんだ」
脳内に蓄積していた思いを春日にぶつけるが、やはり春日の様子は変わらない。なので唇をそっと合わせてみると、ようやく春日が反応をし始める。
「え!? ちょ、桐生さん!? どうして!?」
春日はパニックになっている。この状況が理解できないようだが、無理もない。突然に、それも同性に告白をされたからだ。しかし桐生の春日への思いは本物である。嘘偽りなど、全くない。
「これが、お前の俺の思いの全てだ」
まるで女を口説くように、次は頬にキスをする。春日の顔が真っ赤に、腫れたように染まると上に覆い被さっている桐生の体を退けようとしていた。だが桐生は動く気はない。
「俺は、お前が好きなんだ」
低く甘い声でそう言うと、春日は首を横に振る。
「お、俺を、からかっているんですか!?」
「そんな訳がない」
すると自身の下半身が勃起していることに気付き、それを春日の体に押しつけた。春日は声を震わせながら「そ、そんな……」と次は顔が青く染まっていく。だが桐生は引く気はない。寧ろ更にと追い立てた。
「お前を、その気にさせてやる」
そう言いながら、春日と再び唇を合わせる。ふと、春日はこのような経験があるのだろうかと思う。もしも経験が浅いのであれば、自身のものしか満足ができないくらいに仕立て上げてやりたい。桐生はそう考えながら、春日の舌を捕らえた。それを吸えば春日からくぐもった声が漏れるが、反応がとても初々しい。やはり経験が浅いのだろうか。
「んん!? ふ、ふぅ……!」
舌同士を丹念に絡め、そして唾液を送っていく。そうしている間に、春日の腰を掴むと、緩やかに勃起しているのが分かった。目の前の純真な人間を、情欲に墜とすことができたのだと桐生は喜ぶ。なのでその股間に触れる。
まだ人に触られた経験も浅いのか、体がびくびくと動いていて可愛らしい。このまま、自身の勃起しているもので早く汚してしまいたい。心の底からそのような欲が溢れ出すと、氾濫するかのように止まらない。
一旦唇を離すと、春日の目に涙が留まっていた。そのような目で見つめられては、自身の中の獣が言うこと聞く筈がない。シャツをめくれば、筋肉がしっかりとついた体が目に入る。女のような柔らかい胸など無いのに、細い体を持っている訳でもないのに、桐生はその体を見て興奮してしまう。膝立ちをしてから、スラックスのベルトをカチャカチャと外していった。
「春日、いいよな……」
息を荒げながらそう言うが、春日は眉を下げるだけである。未だに、この状況に追いついていないのだろうか。
スラックスを下ろすと、下着が露わになる。再度膨らんでいる股間を見せると、春日は「あ……あ……」と言うばかり。つい舌打ちを出してしまった桐生は、春日のジーンズのベルトを外してから、下着と共に下ろした。春日のものは完全に勃起しており、桐生は嬉しくなった。見れば勃起しているものの色は薄く、無意識に口角を大きく上げてしまう。
「俺も、勃ってるんだ」
下着をずらすと、春日のものとは比べものにならないくらいに黒ずんだものを見せる。春日は驚いた顔をし、そして怖いものを見ているような様子だ。それでも、桐生は自身のものを春日に見せつけた。
「わ……」
「今から、お前を抱いてやる」
そう宣言してから、春日を抱き締めた。そして胸をやわやわと揉むと、春日はまるで幼い少女のような反応を示す。
「ひぅっ! あ、あ……き、桐生さん……!」
春日は大きな動揺を見せているが、桐生はそれを無視して硬い胸を揉み続けた。時折に春日のネックレスがちゃりちゃりと揺れる。春日に官能的なイメージは湧かなかったのだが、やはり同じ人間であった。やはりとても誘うような顔や声で、桐生を煽ってくる。それは、本人としては無意識なのだろうか。
「気持ちいいか? 春日」
そう聞くと、春日は首を横に振った。しかし相変わらず見せる可愛らしい反応に、その否定は嘘なのだろうということがすぐに分かる。
なので次に胸の尖りを摘まんでやると、春日の体が魚のように跳ねた。未知の感覚に混乱した後に、どうして気持ちがいいのか分からないでいるのだろうか。未だに見せる初々しい反応に、桐生の興奮は大きくなっていく。
「ひゃ、あ、ぁ……桐生さ、俺、こんなの……望ん……うわ!?」
春日が何か言おうとしているが、それを封じる為に尖りを口に含んだ。硬度はしっかりとあるので、尖りを舌で包むことが容易い。
「ぁ、ア……桐生さん、俺……」
「何だ?」
上目遣いになって返事をすると、春日は泣いていた。その表情もまたそそられると、尖りを甘噛みする。春日の瞳から流れる雫は、頬を伝った。そして顎にまで到達すると、しっかりと生えている髭の中に吸い込まれていく。
「俺、こんなの……こんなの……」
まだ春日の理性を切らせることができないのだろう。そうとなればと、桐生は尖りを強く吸った。春日は瞬間的に顎を仰け反らせたのを見ると、相当に気持ちよかったのが窺える。なのでそれをもう一度してやると、次は射精をしてしまったようだ。こちらにも精液がかかるが、そのようなことはどうでもいい。
「んッ、はぁ、は……もう、だめ……」
春日の眉が大きく下がると共に、手が伸びてくる。その行き先は、桐生の背中であった。恐らくは、もう快楽に負けてしまったのだろう。桐生はそう思った。
尖りから口を離せば、仄かに腫れているのが分かった。とてもいやらしい姿になり果てる。このままでは、半裸で人前に出られないだろう。
「それで、春日。俺にして欲しいことは何だ?」
わざとらしくそう聞けば、春日は一瞬の躊躇を見せた。しかしすぐに今の思いを口にする。
「もっと……気持ち良くなりたいです……」
「正直で偉いぞ、春日。よく言った」
そう褒めてやると春日は体をぐねらせた。相当に、嬉しかったのだろうか。脱がせていなかった服を脱がせると、床に落とす。春日はこのような雰囲気にまだ慣れないらしく、恥ずかしげにこちらを見る。
「ローションは……無いのか。仕方ねぇな」
ベッドの周りを見るが、やはりここは普通のホテルだ。そのようなアメニティがある訳がない。それ以前に、ハワイに日本のようなラブホテルなど、無いのだが。
なので春日の勃起しているものを見ると、それを扱けばいいのではと思えた。精液を潤滑油にして尻を解せばいいのだろうと。
早速に春日の勃起しているものを握った。
「ひゃあ!?」
「ん? 何だ? 女みてぇな反応して」
「いや、その……」
春日は足をモジモジとさせているが、桐生は一旦手を離してからその足を掴んでから開く。そして自身の体を挟ませた後に、再び春日の勃起しているものを握った。
「ほら、しっかり出せよ。痛くないようにしてぇからな」
「はい……」
そしてものをしこしこと扱くと、春日が小さく喘ぐ。気持ちが良いのだろうと頬を緩ませた途端に、春日が「で、出る……!」と言った。なので直前まで手のひらで擦った後に、先端を手で覆う。
「き、桐生さん、俺、出ちゃ……うぁあ!」
春日が射精している姿は、可愛らしいとしか言いようがなかった。顔の全てを赤く染め、そして体を震わせているからだ。このような姿を、誰も見たことがないと言うのか。同時にこの姿を見たのは、自身が初めてであるのかと。
「よし……いいぞ春日」
手のひらに春日の精液が溜まると、四つん這いになって欲しいと告げた。だが春日が首を横に振るのでどうしたのかと訊ねると、これまた可愛らしい態度を取ってくる。
「お、俺……桐生さんの顔を見ながら、イきたくて……駄目、ですか……?」
涙が垂らし、そして上目遣いになっている。桐生の下半身が、興奮で更に興奮で膨らむと限界が近くなっていく。このままでは危ないと思ったが、まだ春日の尻を解していない。
「分かった……」
シンプルな返事をした後に、溜まった精液を春日の尻にそっと掛け流す。か弱い悲鳴が聞こえたが、桐生は乾かないうちに解さなければならないと思った。すぐに入り口に指先を立てると、そのまま軽く押していく。
「いくぞ?」
優しくそう聞くと、春日はコクコクと何度も頷いた。なので桐生はゆっくりと指を入れようとしたが、やはりここは排泄器官である。出すのならまだしも、入っていくことは頑なに拒んでいた。桐生は眉間に皺を寄せながら、もう一度指を入れようとする。だが入らない。
「ぅあ……は……桐生さん……」
すると名を呼ばれるがそれは聞き慣れた声音のものではない。これは色欲に染まりきっている声だ。桐生はまたしても興奮の波に巻き込まれるが、それにじっと耐えた。まだ、春日を興奮の絶頂に到達させるまでは我慢しなければならない。
そう思っていると、春日がごそごそと動き始める。どうやら自身の股間を見ている様子だ。
「桐生さん、辛いのであれば、俺が、一回抜きましょうか……?」
「いや、だが……」
桐生は躊躇をするが、本能では早く射精したい欲に襲われている。それも、春日を前にしているので、欲を抑えることなどもうできない。なので頷くと春日の上から退いてから、膝立ちになり勃起したものをそっと差し出す。春日は四つん這いになって近付いてきた。
「片手でもいいから……っておい!」
桐生は春日が手で扱いて射精をしてくれると思っていた。しかし予想の斜め上を行き、自身のものを口で咥え始めたのだ。驚いた桐生だが、春日の口腔内の熱さにその感情は自然と消えていく。
「んッ、ん……んぅ……」
春日の真っ直ぐな瞳がこちらを向きながら口淫をしていく。その姿を見た時点で桐生は情けなくも射精をしてしまう。突然に精液が噴き出したので春日の目が丸くなるが、口腔内に入った精液をそのまま飲み込む。吐き出して欲しいと言いたかったが、春日の口の中で果てることができた喜びによりどうでもよくなる。春日の喉が数回大きく動いた後に、口から逸物を離す。
そして春日はこちらを見てから、もう一度逸物を口に含む。
「ぅ! おい、春日!」
もういいと頭を離そうとしたが、春日が咄嗟に自身のものを吸い上げる。桐生は凄まじい快楽に負けてしまい、またしても射精をしてしまう。腰が震えた後に、このままでは何もしないまま萎えてしまうと思った。なので春日に指摘を入れる。
「おい、このままでは、お前が気持ちよくなれねぇぞ……?」
効果はてきめんであった。春日はすぐに口を離すと、仰向けにゆっくりと倒れてから足を大胆に開く。
「俺……桐生さんので、イきたいです……」
「あぁ」
何とも素晴らしい光景だと思った。春日がここまで誘っている姿など、桐生にとっては何にも代えがたいものだからだ。
息を荒げながら、春日に覆い被さった。そして唇を合わせると苦い味がしたが、これは自身の精液の味である。だが吐き気などは一切無く、春日と舌をぬるりと絡めていく。その間に尻の穴に再び指を入れると、先程とは違った様子だった。指が、すんなりと入っていくのだ。
なので指を小さく動かしながら入れていくが、途中で春日は苦しげな息を漏らす。今は耐えて欲しいと思いながら、指を全て入れていく。すぐに根元まで入った。一旦、唇を離す。
「一本、お前の中に入ったぞ……」
「俺の中に、桐生さんのが……」
春日がうっとりとしながら自身の下半身を見るが、これで終わりではない。その指を動かすと、春日は呼吸をし辛そうに嬌声を上げる。
「あぁ、あっ! 桐生さん、あっ、ぁ!」
「まだ、苦しいか?」
案じていると、春日は冷や汗を垂らしながらふわりと笑った。心配などしなくても良いということなのだろうか。しかしこちらとしては、春日に無理はして欲しくない。なので必死に尻の中をまさぐっていると、不自然な箇所を見つける。そこがどうにも、小さなしこりがあるように思えるからだ。
桐生は首を傾げながらそこを軽く押すと、春日の様子が一変した。体が跳ね、甲高い嬌声を吐いたからだ。
「ひゃぁ!? き、きりゅう、さ、そこ……ぁ、あ!」
「ん? もしかして……ここがいいのか?」
訊ねながらもう一度、次は少し強く押すと春日はまたしても女のような反応を示す。
桐生はなるほどと納得した後に、春日が好いと言っていた場所を重点的に責めていく。何度も押し、春日を絶頂に導いていくのだ。
「やぁ! だから、きりゅう、さん、ぁあ! あっ、あ!」
「気持ちいいか?」
春日が頷くと、桐生は「可愛いな」と言いながら顔を近付ける。そっとキスをすると、尻の中を強く締め付けた。相当に良かったのだろう。だがこれで満足してはいけないと、桐生は入れる指の本数を増やしていった。
次は二本になると、尻の中をぐちゃぐちゃとかき混ぜていく。その際に感じる場所をわざと掠めてやると、春日の体がびくびくと震えた。
「ァ! あっ、おれ、もう、イく! イく! きりゅうさんの、指だけで、イく!」
「イくのか? それならほら、イけよ。気持ちいいんだろ?」
煽ってみれば、春日がこちらを鋭く睨む。しかし桐生にとっては寧ろ逆効果で、その表情がとても色っぽいと思えた。なので口角を上げて笑った後に、春日が絶頂を迎えた。精液を吐き出す。
「ひゃ、ッあぁ!」
「イけたのか。偉いぞ。だが指よりもっと太いものもあるからな」
次々と指を増やしていけば、春日の顔は蕩けてくる。口からは唾液を垂らし、目からはだらだらと涙が流れた。それくらいに気持ちよくなってくれていると思うと、桐生は嬉しくて堪らなかった。喉を大きく動かした後に、入れている指の抜き挿しをしていく。
すると熱い肉壁が絡みついていき、抜いたところではしがみつくように締め付ける。そろそろ良い頃合いだろうと、入れていた指をずるりと抜いた。不満に思ったらしい春日は桐生の手を掴んだが、力は弱い。容易く振り払うことができた。
「ゃあ! なんでぇ!?」
「指より、これでイきたくはないのか?」
血管がびきびきと浮き上がり、反り上がっている自身の逸物を春日に見せる。すると春日の不満はすぐに消えた。目尻を下げながら、それをじっくりと見る。
「桐生さんの、これで……」
なので春日が「早くきて……」と促してくると、桐生は逸物を尻の入り口にあてがう。縁はふやけており、どうにか入れることができるだろう。そう思いながら、桐生は腰を弱く押していく。だが春日の入り口は拒絶感を示す。きつく閉じて侵入を拒んでいるのだ。あまりにも、桐生の逸物のサイズが大きい故に。
春日は自身の体が言うことを聞かないことに動揺をしているが、落ち着かせる為にと桐生は顔を近付けてからそっとキスをした。
「春日、俺を見ろ」
「ふぇ、え……きりゅう、さん……」
涙が更に溢れている春日の顔を見た後にもう一度キスをする。次は深く、顔の角度を変えながらしていった。春日の舌が着いてくるのに気付くと、そっと絡めていく。そうしていると入り口が少し緩んだのかもしれない。意識が、口付けの方に行っていたからなのだろうか。
だがどちらにせよキスを止める気はない桐生は、舌同士をぬるぬると擦り合う。そして腰を押し進めていくと、春日の反応が変わっていく。何だか苦しそうだ。
「ん、んぅ……! ん、ぅ!」
大きなリップ音を立てながらキスを続けていくが、どうやら春日は呼吸の仕方が分からないのだろうか。そう思った桐生は、一旦唇を離す。
「春日、大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい……」
肩を上下するくらいに息が上がっており、これは後でキスの練習をしなければと桐生は思う。今は逸物で貫いている最中であるので、それに集中することにした。
見ればもう少しで逸物のくびれを飲み込むところだ。ここを過ぎれば、後は楽に入る筈。桐生は春日の腰を掴むと、強引にはなるが腰を更に押していった。
「ほら、入るぞ……痛くは、無いか?」
もはや春日に気を遣う余裕が無くなってきていた。逸物で春日の体を貫き、そして快感を得たくて必死になっているからだ。
何度も何度も息を吐くが、余裕を取り戻すことなどできない。そうしていくうちに、春日の目が苦しみに包まれていく。先程から母音を漏らすばかりだからだ。苦しいのだろうか。痛いのだろうか。そのような不安を過らせながら体の動きを止めると、春日が自身の背中に手を回した。
「俺は……大丈夫です。桐生さんと繋がれたら、それで……うぁ!? ちょ!?」
春日の言葉を聞いた途端に、悩みなど簡単に吹き飛んでしまう。なので止めていた体を動かすと、油断していたらしい春日の入り口が緩んでいた。一気に挿し込むと、春日の体が歓喜により震えていく。そして喉からは嬌声のみを吐いていく。
逸物が、根元まで入ったのだ。とてつもない快感が走り、桐生の中で鎮まっていた獣が暴れる。久しぶりに、人を心から抱きたいと思えた故に。
「ッあぁ! ぁ、きりゅう、さ……んァ!」
「くそ、狭いが……いいな……!」
思わず歯ぎしりをしてしまうと、一旦口を半開きにした。主に鼻で呼吸をすれば、仄かに春日の匂いがした。汗と何だろうか。何故だか甘い匂いがして、よく嗅ぎたくなってしまう。
なので首のあたりに顔を近付けようとすると、春日が背中に回していた手を唐突にこちらに向ける。そして顎を掴まれたと思うと、強引に唇を奪われた。初めて春日が積極的な行動をしてくれた瞬間であった。
桐生の中でまずは喜びに満ちた後に、舌を伸ばして上顎をざらりと撫でた。春日は驚きのあまりに舌を引かせたが、すぐにこちらへと向かっていく。また、絡みついてきて欲しいらしい。
「ん、んぅ、ん……」
春日の手が離れてから背中に戻ると、桐生は腰を掴み直した。腰を引いては押していく度に、春日は可愛らしい反応を示す。見れば小さく射精をしているのだ。
自身の体までに精液が掛かるが、それはすぐに春日の体の上に滴り落ちていく。そして春日の体をいやらしく濡らすと、視覚的にも色欲をそそられる姿になった。もう、桐生の衝動は止まらない。
一度限界まで腰を引かせると、逸物が抜けていく。その際に唇をわざと離すと、春日から非難の声が聞こえた。だがそれを無視した後に、思いっきり腰を打ち付ける。春日の喉からは、空気が抜ける音が鳴った。
「はッ!?」
直後に体が痙攣したかと思うと、春日は大きく達した。女のような悲鳴を出した後に、涙をぼろぼろと流しながらつたない舌を動かす。
「きりゅ、さ……おれ、うれしい……」
その言葉は、願望が叶ったからなのだろう。同じく嬉しい桐生は更に奥に挿し込むように、腰を押しつける。だがもう全て入りきっているので、もっと奥にまで入る筈がない。桐生はそれを残念に思いながらも、次は自身が達する為に、少しずつ律動を始めていく。
始めは小さく腰を動かしていくが、それでもやはり春日の中はとてつもなく気持ちいい。自身の逸物に吸い付き、離してくれないようだ。
なので次第に射精感が込み上げるが、我慢などする気はない。寧ろ春日の腹の中に目一杯射精して、種付けをしようと思っているのだ。実際には、孕むなどあり得ない話なのだが。
「はぁ、はッ……は、春日、そろそろ、出すぞ……!」
「あ、ぁ、ァあ、っあ、きりゅ、さ! おれのなかにだしてぇ!」
春日は心から望むように言ってくれるので、桐生の逸物が大きく膨らんでいった。これは射精の前触れなのだが、春日の腹の中から抜く気など全くない。なので何度もいやらしい肉の穴を擦りつけていると、射精をした。桐生は腰の動きを止めると、春日の腹の中にしっかりと精液を注いでいく。
「あ、あつい……! きりゅうさんの、あつい……!」
舌を出して喜んでいる春日を見ながら射精を終えると、同時に春日も射精をした後に萎えていく。
とてつもない達成感があった。ここまで誰かを心から抱くことは、久しぶりだったからだ。桐生のものも萎えたので引き抜くと、春日の入り口からは精液がごぽごぽと流れ出る。このまま栓をしておきたいと思えたが、やはり春日がこれで孕む訳などない。悔やみながら、精液が全て流れ切るまでそこを見ていた。
「ん……きりゅう、さん……」
そこで名を呼ばれたので春日の方を見れば、目尻を下げていた。それにいつの間にか自身の背中にあった筈の春日の手がシーツの上に落ちている。気が付かなかった。なのでその手を拾い上げると、口元に寄せてからそっとキスをする。
「春日、好きだ……」
心を込めてそう言えば、春日が小さく笑ってくれた。同様の気持ちを、持ってくれているらしい。
「おれも、きりゅうさんのことが、すきです」
そしてふんわりとした笑顔を見せた後に。春日はそのまま気を失ったようだ。穏やかに、眠るように。