峯が死んで、春になった。今年もあらゆる場所で桜が咲き誇り、そして今年も淡い桃色が人を魅了する。桜の花びらとは、儚い故に美しい。
大吾は車窓から桜を眺めながら、本日も仕事に追われていた。まずは幹部会と、それに峯を失った穴を埋めなければならない。金が、今は心許ないのだ。
移動中は少しは休憩ができるので、目を閉じる。しかし最近瞼の裏にあるのは、峯が病院の屋上から飛び降りた瞬間だ。最悪過ぎる。
もう峯のことを忘れたかった。盃を交わし兄弟になり、その上で体までも重ねた関係だ。もはや兄弟以上の関係と呼んでもいいだろう。それくらいに、峯とは深い関係になっていた。
それなのに死んでしまった。たまに自身は悪くないと言ってくれる者が居るが、その言葉は気休め程度に安心するだけであった。そうだ、自身は悪くないのだ。しかし峯はもう居ない。どこに手を伸ばしても、この世界に峯は居ないのだ。
桜の景色の合間に、ビルが建ち並ぶ。この景色は何回見たことか、もう呆れるくらいに見た筈だ。それなのに峯とはあの景色を見ていないと考えてしまう。正直、未練はかなりある。
そう考えていれば目的地に近付いてきた。次の予定である、会食する店にだ。
今日の相手は少し厄介だと思いながらも、ふと車窓から景色を見た。すると、一人の浮浪者を見かける。深くぼろぼろのフードを被っている、格好は汚らしい。上下に茶色い布が巻いており、もはや服としての機能を成していない。右足に障害があるらしく、引きずっている様子だ。他にも浮浪者は居るのだが、その一人にやけに注目してしまう。どうしてなのだろうか、雰囲気が峯に似ていた。
そこでフードの下の目を見れば、そこで思った。あれは峯だ。急遽停車をさせ、車から降りて峯らしき浮浪者の元に駆け寄る。周囲の交通人が、何だと自身に注目した。しかしすぐに人々は興味を無くす。視線はあらゆる場所に散っていった。
「峯……?」
話しかけてみるが、まず出たのが峯という名前である。しかし浮浪者は首を横に振った。
「しりません」
無機質な声だが、思い出してみればやはり峯であった。峯の声など、呆れるくらいに聞いている。なので耳が、脳が知っていた。
それでも確証を持てないので、相手は浮浪者であるが、フードを無理矢理に剥がす。そこには峯の顔があった。しかし顔面は激しく損傷しており、まともな治療を受けていないので傷口が膿んでいた。肌が剥がれていた。見えている肌には黄色い粘液に覆われているうえに、悪臭がする。だが顔を歪ませることなく、峯に話しかける。
「峯、だよな……?」
「しりません」
思えば、峯の舌はあまり動いていないように見える。これは落下した衝撃で、顎や舌が機能しなくなったからなのだろうか。言葉が、少し聞きづらい。
「峯……?」
「しりません」
同じ言葉を繰り返すだけだった。そして自身の手を振り払う動作をするのだが、力が足りないらしい。ただ触れるのみである。
「峯……お前は、峯だ。俺の家に来い。大丈夫だから、誰にも近付けさせないから」
このまま峯を家にでも閉じ込めてしまいたくなった。なので峯の手を引くのだが、手はかなり細いうえに、骨がまっすぐに通っていない。ところどころが折れており、腕特有の真っ直ぐさがないように思える。病院から飛び降り、やはり負傷したのだろうか。
だがあのような高所から飛び降りたのであれば、生還していることが奇跡的である。峯が生きていることを今になって不思議に思いながら、峯の体を引き寄せる。布がめくれたのだが、体はぼろぼろだ。そういえば背中のあの綺麗な麒麟は、どうなっているのだろうか。
見てみたい。その気持ちがあり、峯の体を持ち上げてみた。軽いので持ち上がれば、車に乗せる。誰もが浮浪者が黒塗りの高級車に連れ去られても、見ないふりをしていた。
運転手が顔をしかめるのだが、自身がすぐに「会食は今日は欠席する。家まで」と言えば文句の一つもなく目的地を変える。運転手の顔色はもう変わらない。
「しりません」
まるでうわごとのようにそう言いながら。峯はフードを深く被った。そして俯くのだが、まるで老人かのようだ。そのような峯を見ながら「大丈夫だ」と言うが、フードを取り払うことをやめた。そして目的地まで、黙っていた。
自宅に到着すれば、峯を抱えてから自身の部屋に向かう。峯は最初こそ抵抗の意思があったものの、力の差に伏せてしまっていた。なので簡単に持ち上げた後に、エレベーターに乗る。
「しりません」
「峯、二人きりになるから、ゆっくくり話そう」
どうせ自宅に入れてしまえば、峯が脱出することなどできない。この身体的な力の差があるからだ。そのような歪んだ感情を持ちながら、エレベーターが止まるのを待った。
一分程度で最上階に到着すれば、急いで自室に入る。そして脱衣所へとまっすぐに向かい、峯を纏っている汚らしい布を剥がす。そこにある体は、かつて愛した体の面影があった。
「峯……」
「しりません」
今や痩せこけている。それに胴体はいびつな形になっており、骨が折れて突き出していたことが分かる。肌は赤色や紫色が多く、酷く打撲した箇所が治癒していないようだった。飛び降りてから、死ねずにずっとこうしていたのだろうか。死ぬ力すら、無かったのだろうか。
「しりません」
背中を見れば、そこには変わらず見事な麒麟が居た。麒麟だけは、変わらずに居てくれたのだ。峯のぼろぼろの体を抱き締めるのだが、相変わらず「しりません」ばかり言っている。だが愛する者の生還を直接知れて嬉しい。
自身も服を脱いでいけば、共に浴室に入る。シャワーからぬるま湯を出せば、それを峯の体に優しく掛けていく。
「ッ……!?」
そこで、峯に異変があった。すぐにシャワーを止めれば、峯は苦しそうな顔をしている。怪我や痣まみれでも分かるくらいに。
「どうした……!? あ、痛い、のか……?」
そういえば峯の体にあるのは負傷箇所ばかりである。かつてあった綺麗な肌など、正直ない。なのでそう聞くのだが、峯は無言であった。何度も呟いていた「しりません」すら言ってくれない。
沈黙を肯定と受け取るべきか。そう考えるが答えはイエスだろう。だが峯の体は今は不潔だ。綺麗にしなければと思ったがそこで考える。このまま、病院に連れて行けばいいのではないか。しかし、峯とは一生添い遂げると約束をいたことがある。なのでその想いを燃やした後にシャワーコックを再び捻る。ぬるま湯を出した。
峯はもう、誰にも渡さないのだから。
「峯……すまねぇ。痛いのは、我慢してくれ」
そう謝りながら、峯の体中にぬるま湯を掛けていった。峯は激痛のあまりに、何もできないでいるのだろう。実際に、見れば峯は目を見開いてから体を震わせるばかりだ。心が辛くなってきたが仕方ない。
しばらくぬるま湯を掛けていれば、峯は気を失ったようだ。目を閉じ、体をだらりとさせている。それを見てから体を見れば、煤や埃は無いように見える。あるのは負傷部分のみ。
峯の体をおおかた綺麗にしたところで、自身もシャワーを浴びれば浴室から出る。峯の体をタオルで優しく拭いていくのだが、傷が広がったりしていた。出血しており、それを必死に拭っていれば止まる。白いタオルが赤く染まった。安堵をした後に、清潔なベッドルームへ連れて行く。
「峯」
名を呼びながら、ベッドの上に寝かせた。峯は死んだように眠っており、このまま起きないように感じた。しかし口元を見れば、微かに呼吸をしているのが分かる。峯は、まだ生きているのだ。
「なぁ、峯……あの後、お前はどんな気持ちで、生きていたんだ。なぁ……俺は、お前抜きでは生きていけねぇよ……お前が死ぬなら、俺も死んでしまいてぇな……」
そのようなことを呟きながら、眠っている峯を見る。顔はやはり怪我に塗れており、まともな箇所など存在しない。だがそのような峯でも、愛していけるとすぐに感じた。やはり峯は峯である。外見は負傷により変わっても、声は変わらないのである。今は発声しづらい状態であるのだが、そこは時間が解決してくれるだろう。勿論、負傷している箇所もだ。
峯からは寝息が聞こえてくれば、そこで安堵をして眠気がやって来る。思えば最近はあまり眠っていないように思えた。会長の代行をしていた柏木は死に、そして峯はもう人として機能できるかどうか分からない状態だ。会長として見れば、今は絶望的なのだ。しかし組員に絶望を見せてはいけない。それも、上に立つ者としての役割なのだから。
峯の隣に寝て目を閉じ、今は絶望から目を逸らした。
※
目を覚ませば、すっかりと朝になっていた。自身にしてはかなり眠ったらしい。気怠さを感じながら瞼を開ければ、そこには峯が居た。どうにか起き上がっている様子なのだが、こちらを見ている。やはり、峯も会いたかったのだろう。会えて、嬉しいのだろう。
起き上がってから峯を抱き締める。やはり触れた感覚も人体としてはいびつであった。だがそれでも、峯ということは変わらない。顔が酷い裂傷で崩れていようが変わらない。話しかける。
「峯……よく眠れたか?」
「……は……は……」
何かを言っている様子なのだが、どうにも聞き取れない。なので口元に耳を寄せてみれば、ようやく聞き取れた。
「おれは……おれは……」
「あぁ、生きているんだ」
「どうして……」
「どうして? どうして、とは?」
そこで耳を疑った。どうしてと言うのは何故だろうか。峯は何故、疑問を持っているのか。そう考えたのだが、答えは本人に聞くしかない。なので訊ねた。
「おれは……」
そう言いながら峯のぼろぼろの体は震えていた。まるで何もかもが分からないといった様子なのだが、パニックになっているのだろうか。飛び降りてからは灰色や芥ばかりを見、そして痛みを感じながら過ごしてきたからなのか。
そこで疑問が湧き起こる。どうして、峯は生きているのならば助けを乞わなかったのだろうか。峯がプライドが高いのは分かるが、ここまで重傷の身であれば助けを乞うのは当然なのだろう。
「おれ、は……いきて、いる……」
辛うじて出せた言葉を聞くが、生きていることに感激しているのだろう。そうとしか思えないので、いびつな峯の顔にキスをした。
「あぁ、お前は生きているんだ」
精一杯の笑みを浮かべるが、峯は表情を変えることができない。波のように返しては寄せる皮膚が殆ど無いのだから。
「どう、して……」
そこで引っ掛かる音の集まりが聞こえた気がした。幻聴だと思っていれば、峯が繰り返す。
「どうし……て……」
どうして。それは自身の脳の中を駆け巡り、そして答えを導くのだがそれはまずは肯定だ。
「俺には、峯しかいないからだ」
峯は沈黙をした。返す言葉が無いのか、或いは答えを自身が言ってしまったからなのだろう。そう思いながら再度キスをしようとすれば、峯の次の言葉によって動きが止まる。
「しに、たかった……」
「死にたかった……?」
眉をひそめるのだが、峯の酷い顔は既に崩れている。悲しいのか怒っているのか分からない。今の感情が、分からないのだ。
「何でだ? 俺には……」
「もう、あなたを、うらぎって、しまった、から」
峯が飛び降りた理由は分かる。桐生からも聞いていた。しかし自身はこうして意識を取り戻しているのだから、良いのではないのか。そう思っていたのだが、峯はそうもいかないらしい。あれは、峯なりのけじめであり、それが失敗したということなのだろうか。
「だったら、峯……俺とこのまま居よう……お前は、この世にはもう居ないことにする。これからは名前の無い人間だ。だが俺はこのまま峯と呼ぶ」
矛盾している。矛盾しているのだが、それしか思いつかなかった。峯をこのまま死んだことにして、一生独占していたいのだ。どのような姿であっても、人が見れば醜い姿をしていようが峯だ。
なのでそのまま峯の体を押し倒し、体を弄っていく。服など着ていないので、体の状態は分かる。重傷を負っているのだが、生殖器はまだ無事なのを確認した。それに触れてみるが、微塵も反応をしない。
「なぁ、峯……俺に、また、欲情してくれるか?」
いつの間にか吐く息が荒くなっていた。その吐息を峯の負傷した皮膚に吹きかければ、痛そうにしている。剥き出しになった肉が、痛みに蠢いていた。峯が生きてくれている証拠だ。凝視さえしてしまう。
「いや、です……おれは……」
「嫌、か……だったら、俺の体を、見てくれ」
そう言いながら服を脱いでいった。着込んでいるスーツを脱ぎ、下着さえ床に落とす。勃起しているものを見せた。
これが残酷とは思わないし、狂っているとも思わない。寧ろ、峯相手であれば普通だと思ったのだ。
「ほら……俺は、お前にこんなに欲情してるんだ……見えるか……?」
「い、いやです、やめて、ください、おれは、もう……!」
峯が体を捻らせた。しかし全身の怪我のおかげで身動きが取れないらしく、ベッドの上で苦しそうにもがいている。叫ぶような口の動きを見せたのだが、それも怪我により不可能であった。
それを見ていれば、更なる欲が湧く。このまま、峯を独占できるのだと。
「峯……」
股間のものを見せつけながら、峯に近付いていく。そして怪我をしているのにも関わらず衝突した後に、峯を押し倒した。触れる皮膚からは、再生を促していたらしい透明な分泌液のようなものが散る。温かい。
「なぁ、峯……キス、できるか?」
「いやです、もう、やめ……ん、ぅー!」
唇を近付ければ、キスをすることができた。しかし怪我をした皮膚は思ったよりも舌触りが悪く、そして鉄と苦さが混ざったような味がする。しかしこれが、峯の味なのだろうか。
峯からは拒否の言葉を受けるのだが、聞かなかったことにした。それよりもとキスをもう一度していく。峯の原型を成さない唇が閉ざされるような動きがあったのだが、舌でそれを無理矢理にこじ開けた。痛みに唸る音が峯の喉から聞こえる。
「ぅ……! う、ぅ……!」
「峯……痛いか?」
聞けば峯がはっきりと頷いた。
「いたい、です……でも、おれは、もう……」
「生きるんだよ。俺の為だけに。なぁ、峯」
「いや、です……おれは、もう、しにたい、です……」
生きることを拒むのだが、今の峯には死ぬ力すらない。ただ、酸素を吸っては二酸化炭素を吐くだけの存在である。しかしそれで良いのだ。それならば、峯は死ぬことはないのだから。
するとポケットから携帯端末が鳴る。大きな舌打ちをするのだが、通話に出ない訳にはいかない。なので通話に出れば、側近の者が申し訳なさそうに自身の安否を聞くのみ。それを聞いていれば萎えていき、少しの怒りを込めながら返事をした後に通話を終える。携帯端末を開いたままベッドに放り投げた。用件は、緊急の会合に欲しいということである。途中で真島の名を出されたので、行かなければならない。
「……今日は、もういい」
そう言った後に脱ぎ散らかしたスーツを拾い上げ、シャワーを浴びることにする。興奮が、思わぬところで引いてしまったのだ。再度舌打ちをした後に、怪我に塗れた峯を見る。
「……後でな」
そう言ってからベッドルームから出るが、峯からの返事は聞こえなかった。
自宅に帰り、峯の元に戻ったのは数時間ぶりであった。急いで峯が居るあろうベッドルームに向かえば、ベッドの上には峯が居ない。慌てていれば、足元で呻き声が聞こえた。床に、峯が這いつくばっているのだ。脱走を試みたのかもしれない。そのような体では、無駄でしかないというのに。だがそれが愛しいと思えた。必死になっている峯の姿が、何とも可愛らしい。前までは、あり得ない光景だからだ。
「峯……!」
「う、ぁ……にげ、たい……しに、たい……」
峯の損傷した口からは、絶望の言葉が吐き出されていく。逃げたいらしい。死にたいらしい。
だがそれを無視してから、峯の体を抱えてベッドの上に戻した。そして締めていたネクタイを抜いてから、ベッドのフレームと峯の首を繋げた。まるで、首輪を嵌めるかのように。
「これでベッドからは落ちねぇな」
見れば峯の目からは涙が出ていた。しかしそれが痛いのか、小さな悲鳴を上げながらこちらを見る。このような状況で自身に助けを求めたいと見えた。それが嬉しくなり、清潔なハンカチを取り出してから涙を拭き取る。少しは、痛みが無くなったらしく顔が緩まった。
数秒後に峯から抵抗の意思が感じられたものの、首に絞められたネクタイの存在を思い出してそれが失われていく。峯の体中にあったらしい、僅かな力が失われていく。何もかもが割れた唇が半開きになる。
「あ……ア……」
「だから峯、俺が助けてやるからな」
自身の助ける、それは峯を死なせないことだ。死にたいと言っていたが、それは一時的にパニックになっているだけだろう。現に峯は飛び降りてから奇跡的に生還をしていた。そして見えない路上で生を求めていたことは確かである。そう思ったのだ。
なので峯の顔に手を伸ばせば、ネクタイを更に締め上げる。逃げられないように。もう一度、ベッドから落ちて床を這わせない為に。
「峯」
満面の笑みを浮かべていれば、峯の呼吸が荒くなっているのが分かる。心臓が高く鳴り響いており、喉からは空気が捻り出される。発作のようなものを起こしていたが、ネクタイを緩める気はない。そのような峯を見ながら、唇をねっとりと合わせていく。相変わらず正常な見た目をしていないが、これは峯の唇には変わりない。
舌は正常の機能を果たしているようで、ぬるりと自身のものを避けていく。しかし顎に力が入らないらしく、すんなりと捕まえれば峯の呼吸を感じる。発作は、未だに起こしているものの。
「峯……ん、ふッ……ん、ん……」
名を呼びながら舌を絡めていく。そして傷や分泌液に塗れた体を触れば、びくりと跳ねた。反応をしてくれているのだ。
「や、やめ……だいご、さん……!」
何度目かの拒絶を受けるのだが、やはり止めるつもりはない。なのでそのまま舌を伸ばして絡めていけば、唾液を送り込む。
「ッう……!」
苦しげな声が漏れた。しかしそれが興奮の材料にしかならず、自身の心が更に燃えていく。このまま、峯を快楽に突き落としたいのだ。峯を、落とし続けたいのだ。
その一心で舌を絡めていけば、峯の口腔内からも唾液が分泌されていく。少しの唾液であるがそれを吸った後に、唇を離した。峯が首を横に振る。
「もう、もう……やめて、ください」
「どうしてだ?」
峯の唾液を飲み込んだのだが、鉄の味がした。臓器も負傷しており、血液が排出しているのだろう。だが峯の血である。美味であった。残った味でさえも、しっかりと味わっていく。
「ん、んぐ……はぁはぁ、峯、好きだよ」
笑みを浮かべた後に着ていたスーツを脱いでいく。早く峯と繋がりたい。そう思いながら床に脱ぎ散らし、全裸になる。ものは勃起しており、我慢汁さえ出していた。
それを見せつけながら峯の上に乗り上げる。傷が開いたのか赤色が見えたが、すぐに塞がるだろう。そう考えながらM字開脚をして入り口を見せつける。今から、峯の目の前で入り口を解そうと言うのだ。
「峯、見ていてくれ……」
そう言いながら先程結んだネクタイを解いた。血や体液が付着しているが、これは峯の生きた証である。取っておこうと思った。
「ぁ、あ……やめて、ください……もう……」
未だに拒絶を見せているのだが、峯の下半身を見れば緩やかに勃起してるのが分かる。ようやく生殖器としての機能が回復してきたらしい。
それに対して笑いが止まらなくなれば、我慢汁を掬ってから入り口に持っていく。入り口は、すぐに濡れた。それに今から峯のものが入ると思えば、くぱくぱと蠢いていくのが分かる。これが、興奮だ。
人差し指をずぶりと差し込めば、すぐに開いていくのが分かる。まるで柔軟な膣のようだと思いながら指を入れていく。特にきついということは無く、すんなりと根元まで入っていった。これも、峯に何度も可愛がってもらった賜物である。
「ぁ、はぁ、ん……峯、峯……見てくれ……俺のまんこに、指が入っていくところを……」
「や、やめ……あ……あ……!」
峯は叫びたいのだろう。しかし喉はまともに機能を果たさず吐息を吐くのみである。そうであるのだが、興奮は止まらない。
指を二本、三本と増やしていき、最終的には四本も入った。ぬちゅぬちゅとわざと音を立てていけば、そこはもはや性器である。そして今からここを峯に貫かれる。本能も理性も、それを求めていた。鼓動が止まらない。
そこは蠢く穴と化しており、ここに今から峯のペニスを入れるのだ。そして峯に感じさせ、生きる意味を与えるのだ。まずは自身を快楽に導く存在として。
「は、はぁ……ほら峯、お前の好きな、まんこだぞ」
「や、やめ……だ、だれか助け……あ、ア……うあぁ!」
峯の体に跨がれば、そそり勃っているペニスに向けて尻を沈めていく。先端と入り口が密着すれば、ずぶずぶと埋まっていった。峯の体は正直なようで、ペニスがどんどん膨らんでいく。笑ってしまっていた。
「峯! 峯! ほら、入るぞ! ぅぁ……は、はぁ、ん……峯のちんぽ、くる……!」
体を繋げることは、何とも素晴らしいことか。峯の唇は拒絶を示しているのに対し、体はここまで自身に反応をしてくれているのだ。ここまで嬉しいことはない。
峯の瞳があり得ないくらいに開いたのだが、皮膚が動いたことにより激痛が走ったらしい。前のめりになり、重力に従って自身に抱きつく形になる。血や肌から出る分泌液が、どんどん自身の体に塗り込まれていく。それが決して汚いとは思わなかった。寧ろ何故だか気持ちがいい。
「ァ……! はぁ、は……もう、やめ……もう、おれは、しにたい……」
峯は希死願望が強いようだ。だがそれを否定した。
「ッは……お前は死ねねぇよ、そんな体じゃ大方、息を止めても勝手に酸素を求めて死ねなかったんだろ?」
峯が黙る代わりに、首を横に振った。では何故、今まで生きていたのか。峯がここまで生きているせいで、自身は峯をここまで求めるのだ。愛しすぎている故に。
「ちがう、おれは……もう、わからない……」
「そうだ、分からなくて、いいんだ……ぅ、あぁ……お前は、俺のものだからな」
そう言いながら体を更に沈めていけば、ずるりと根元まで入った。ペニスは自身の腹の中で拘束し、そして強く包み込む。
二度と、離さないかのように。
「ッあ!? ぁ! もう、やめ! ぁ! あぁ!」
峯からは悲鳴のような声が聞こえた。だがそれでもこしを動かしていけば、峯が存分に感じてくれているのが分かる。ペニスが更に膨らんでいけば、そこで精を吐き出したのが分かる。腹の中に、粘液が注ぎ込まれていく。体が悦び、そして自身までも達した。
その際に峯の体に噴出口を向ければ、怪我や膿の痕だらけの皮膚に精液が掛かる。陳腐ではあるのだが、素敵な光景だと思えた。
腹の中が熱くなれば、そこで峯のペニスが萎えた。だが繋がったままでへそを擦る。確かに、この中に峯の精液が入っているのだ。恍惚のあまりに、笑みがこぼれた。
すると峯の人間にしては汚らしい皮膚が、桜のように綺麗に思える。これもまた、いつかはすぐに消えてしまうのだから。
「お前は、桜のようだ。春のようだ……好きだ」
告白をすれば、そこで峯が気を失った。真っ直ぐに伸びていない両腕をだらりと垂らし、そして目を閉じる。皮膚や傷口が伸びた為に、血がどんどん流れていく。中の肉や血管が見えていく。
その姿が、とても美しいと思えた。桜が桜の木のようだ。
腐敗の体に咲く春が。
数日後、峯は窒息死をしていた。自ら息を止め、命も止めたらしい。