③
数日が経った日の夜。この日は、朝からずっと曇っていた。
軍服のジャケットを脱いだだけの于禁は、借りていた夏侯惇のワイシャツを洗濯して畳んだもの、それに新しく買った同じサイズの下着を持って夏侯惇の部屋を訊ねる。
確か、夏侯惇は任務から帰還したばかりだ。そのタイミングを于禁は狙っていた。疲れている状態ならば、于禁とは短い会話程度しかできないと思ってだ。夏侯惇と、もう一度寝たいという気持ちが起こらない証拠である。
やはり同性同士で寝るのは間違っているのだと、于禁の堅い頭で考えていた。悔しくも抱かれている最中では経験したことのない多幸感に、存分に包まれてたのだが。
だがその前に、于禁が今居る建物の廊下が騒がしかった。名前や顔と階級は知っているが、まともに会話をしたことのない上官の数人がどこかへと足早で向かって行く。全員がかなり緊迫とした表情をしているが、于禁以外でもすれ違う部下たちに話し掛ける様子はない。なので于禁やすれ違う部下たちは、上官たちに立ち止まって敬礼した後にそれぞれの方向を歩いていく。上官たちの様子に首を傾げながら。
夏侯惇の私室の前に辿り着くと、軽くノックをした。しかし返事が無いので、再び軽くノックをする。それでも返事が無いので、日を改めようとした。今と同じようなタイミングを狙って。
すると室内から、何かガタと物音が鳴った。夏侯惇は今私室に居る、そう確信した于禁は三度目のノックをした後に自身の名を名乗る。
「夏侯惇少佐、私です。于禁です。少し、お時間を頂けないでしょうか? 先日お借りした物を返却したいのですが」
はっきりと言うが、夏侯惇から声の返事が無い。そして、先程の物音がもう一度聞こえては来なかった。
どうすべきかと数秒考えた于禁だが、借りている物は早く返さなければならないとまずは考えた。返そうと今持っている同じサイズの新品の下着はともかく、軍服の下に着るワイシャツは夏侯惇にとっては必要だろう。
ドアノブに手を掛けてみると、施錠はされていない。なので于禁は「失礼致します」と丁寧に言うと、夏侯惇の私室へと入っていった。
室内は真っ暗。照明など何も点いていないのに眉をひそめながら、夏侯惇の気配を探った。部屋は扉を開けてから短い廊下があり、その途中にシャワールームがある。そして廊下の先にドアがあり、その先はベッドルーム。
于禁は短い廊下をまっすぐと歩いていき、閉まっているドアを開いた。ベッドルームも暗いが何か人の気配があるので、それに向かって話し掛ける。
「夏侯惇殿?」
「……于禁」
夏侯惇はやはり私室に居る。だが返事の声音は酷く震えており、于禁は何だか嫌な予感を遠く覚えていた。恐らく夏侯惇はベッドの縁に座っているのだろうと思い、そこに于禁は近付くと嫌な予感が近くなる。
「お疲れのところ、申し訳ありません。先日お借りした、ワイシャツとそれに新品の下着を返却しに参りました。ですが室内が暗く、少佐が確認できないと思われますので、照明を点けてご確認して頂けないでしょうか」
于禁は事務的な口調でそう話す。
「確認は、いい。お前のことだから、律儀に返してくれるだろう。その辺に置いておいてくれ……それより、今から時間はあるか?」
「いえ、私はこれから用事がありますので」
于禁はそう断ってから、踵を返そうとした。だが夏侯惇に腕を掴まれたので、相手が上官にも関わらず振り払おうとした。しかし夏侯惇のその力が予想よりもとても弱かったので、振り払うことを反射的に止める。
「……夏侯惇殿?」
「いかないで、くれ……」
顔は見えないが、夏侯惇の声は今にも泣きそうなものへと変化していた。なので寧ろ于禁が夏侯惇の腕を掴むと、引き寄せるように顔を近付ける。それでも夏侯惇の顔も何も、暗闇のせいで見えないでいて。
微かな嗚咽が、夏侯惇から聞こえた。
暗闇に向け、于禁は沈んだ表情を向ける。そして夏侯惇の隣にゆっくり座ると、そっと抱き締めた。自身より少しばかり身長は低いが、同じように体格の良い体が小さく震えている。夏侯惇はまだ軍服を着ているようなので、皺にならないように。
ただ、何かしてあげたいという思いが生まれてきた。しかし今の于禁にはどうしたらいいのか分からないので、夏侯惇の言葉を待つ。どんな言葉でも、聞き入れようと思いながら。
「于禁……今日は俺を、酷く抱いてくれ……約束を、しただろう?」
于禁の腰に夏侯惇の両手が回る。約束をしたのは確実に覚えているが、私室に入り夏侯惇と話すまではそれを破ろうとしていた。ただの一晩の過ち、と言う言い訳を添えて。
だが今の于禁には、その夏侯惇との約束を破る気が起きなくなっていた。その夏侯惇の声が、とても熱かったのだ。体は震えているのにも関わらず、その声を聞いて于禁の声にも熱さが伝わってきたらしい。前と同じような、于禁を誘う熱さが于禁に纏っていく。
于禁はただ『はい』と答えると、私室の鍵を素早く閉めてから夏侯惇をベッドに押し倒す。
熱い声とは対称的に、夏侯惇の体は凍えているように震えている。于禁はその中でも夏侯惇の凍えを溶かしてしまうように、ゆっくりと話し掛けた。
「宜しいのですか? あなたの何もかもを、壊してしまう可能性がありますが」
つまり、夏侯惇の言う通りにすると于禁は言っている。確認を、している。夏侯惇は小さく頷くが、于禁にはそれが見えない。しかし衣服が擦れる音が聞こえたので、于禁は「仕方のない御方だ……」と呟いた。嬉しさ半分、そして呆れ半分で。
「今だけでいいから、忘れさせて欲しい。夜が明けるまでで……いいから。明日からは……淵が死んだことを、ただ覚えておくことに、留めておく……」
夏侯惇の言葉により上官たちが何やら騒がしかったのは、夏侯淵が戦死したからだと于禁は察した。夏侯淵は先日から他の地域での作戦に参加していたのだが、そこは報告によると途中から激戦区へと成り果てていたらしい。于禁は静かに夏侯惇から出てくる、夏侯淵に対しての数々の悲哀の言葉をただ静かに聞き続けた。その後に心の中で夏侯淵に対して哀悼の意をすぐに捧げる。
このような、暗い場所からでとても申し訳ないと思っていながらも。
短く簡素な祈りを捧げ終えた于禁は顔を近付けて口付けをしようとしたが、夏侯惇が涙を流していることに気付いた。于禁はその涙を舌で掬っていく。その涙は不思議と甘いので、于禁は犬のようにぺろぺろと舐めた。
「うぁっ……ん、んっ、淵……!」
夏侯惇の涙が更に溢れ出てくる。だが夏侯淵の名を呼ぶ声に、于禁は眉を吊り上げた。今だけでも、何もかもを忘れさせるつもりであるのに。
「今、貴方の目の前に居るのは私でしょう」
于禁は夏侯惇の軍服を全て脱がせていく。抵抗などせず、体の動きだけはただされるがままだ。しかし口はまだ夏侯淵の名を呼び続けている。于禁はもう戻って来る筈がない、と諭すと露わになった夏侯惇の鎖骨に唇を寄せた。
「はっ、ん、ぅあ……」
舌を出して這わせていくと、夏侯惇からは吐息のみを漏らすことしかできなくなっていく。
それを聴覚で感じ取った于禁は、次に胸へと舌を這わせた。筋肉に覆われているものの。そこは意外と豊かな柔らかさがあることに気付く。于禁はその柔らかさが癖になっていき、夢中で舌で胸を大きく揺らした。
「ぁ、はっ、あぁ……うきん……」
ようやく夏侯惇からは于禁の名を呼ぶ声が聞こえ始めた。于禁は次に胸の粒へと舌を寄せてみると、面白い程に尖っている。なのでそれを幼子のように口に含むと、夏侯惇の体が凍えるようなものではなく、快感の甘い痺れによって震えていく。
「んんッ!? や、あ! あぁ、ん、ぁっ、そこ、だめぇ……!」
「それは、どの口で仰っているのでしょうか」
于禁は夏侯惇の下半身に手を伸ばすと、膨らみを握った。夏侯惇の腰が一瞬だけ大きく震える。その際に精悍な声ではなく、誘うような甘えた声を出すので于禁の脳はゾクゾクと震えた。なので目の前にあるこの体を、支配してしまいたいと于禁は思っていた。
じゅるじゅると音を立て、夏侯惇の胸を吸い続ける。先端が赤く腫れてしまっているのではないかと思う程に。相変わらず于禁を刺激するような甘い嬌声を、夏侯惇が上げ続ける。
「ここ、気持ちが良いですか?」
「ん、んぅ……」
柔らかな物をずっとしゃぶり、そして吸い続けたいと思っていた。しかし『酷く』という両者の意見は一致しているので、于禁は胸からようやく唇を離す。
「灯りを、点けても宜しいでしょうか? 貴方の淫らな姿を、見たいので」
「ん……ぁ……」
蕩けた声を出すが、夏侯惇は肯定の返事をしているのだろう。そう考えた于禁は立ち上がりベッドから離れた。そして手探りでサイドランプを探すと、スイッチを入れて部屋を弱く照らした。
見えたのは夏侯惇の、何とも蠱惑的な肢体である。それを于禁はまじまじと見ると、夏侯惇は興奮を覚えたらしい。足を開き、于禁を誘う。
「うきん、はやく……」
片方しかない目が垂れているうえに、自ら残っている眼帯を取り外した。ありのままの姿の夏侯惇に、于禁は性欲をとても掻き立てられる。
「分かって、おります」
着ている軍服を于禁は全て脱ぎ捨てると、ベッドの上に荒々しく乗り上げる。その時の于禁は『雄』そのものの顔つきをしており、夏侯惇は荒い息を吐いた。その顔で、早く犯して欲しいと渇望するように。
夏侯惇と肌を合わせると軽く口付けをしながら、互いの下半身を擦り付け合う。二人分の先走りに塗れ、よくぬるついていた。
法悦の表情を浮かべた夏侯惇は、擦れ合う性器にただ善がる。
「あっ、はっ、ぁ、きもちいい、うきん、っや、あ、ん」
目を合わせながら、再び軽く口付けた。すると夏侯惇は射精をしたのか、于禁や自身の胸に熱いそれが撒き散らされる。
夏侯惇が、墜ち始めた。
「うきん……はじめてのおれに、ずこずこして、きもちよくさせて……きもちよさを、おぼえたい……」
腰を振って途切れ途切れにねだると、于禁は口角を上げる。そして一つ、上官の夏侯惇に命令を下しながら。
「四つん這いになって頂きたい」
すると夏侯惇はそれにすぐに応じ、体勢を変え始めた。于禁の言う通りに、四つん這いになる。
形の良い尻肉が微かな光に当たった。その光景に于禁は喉を大きく上下に動かすと、尻を両手で揉み始める。尻の肉も豊かであるので、揉み甲斐があると于禁は思った。
「ん、ゃ、あ! そこ、やめ、ぁん、あ、はっ、ぁ!」
夏侯惇の腰や肩が大きく揺れる。それに肩と位置が平行であった頭が、どんどんシーツに沈んでいく。
「どこまでも、いやらしい体をお持ちで……!」
揉みすぎたのか、夏侯惇の尻が赤らんでいく。于禁はそれを舐めるように見た後に、尻を揉むことを止めた。
そして夏侯惇が待ち望んでいる箇所であろう、桃色の入口を見る。そこは何もしていないのに、よくひくついていた。于禁はそっと息を吹き掛けると、夏侯惇は控えめに喘ぐ。
「ん、んぅ、あっ……」
「もうすぐ、貴方のここを犯し尽くします。なので、もう暫くのお待ちを」
興奮を抑えきれない于禁は、荒々しい吐息を吐きながら夏侯惇の背中に覆い被さる。そして夏侯惇の下半身を握ると、軽く上下に扱き始めた。先程垂らした精液があるので、そこはよく滑っていて。
数回扱くと、夏侯惇はすぐに達した。于禁はそれを手の平で受け止めると、その手の指に絡ませていく。にちゃ、にちゃという音がよく鳴っている。
夏侯惇の耳元に唇を寄せると、ゆっくりと囁いた。
「夏侯惇殿……」
何か言葉を掛けるのではなく、ただ夏侯惇の名前を。ぞくぞくと体を震わせた夏侯惇は、口を半開きにする。
ようやく、于禁は夏侯惇の入口に指で触れた。自身の初めてを奪われた相手に、逆に初めてを奪うということになる。そう思うと于禁の気持ちは昂ぶっていく。
夏侯惇がそうしたように、于禁も入口に一本の指先を押す。そこは初めて受け入れるので、かなりきつい。夏侯惇が苦しげな声を出しているので、于禁はうなじへと唇で触れる。
わざとリップ音を立てていくと、少しばかりか入口の狭さは緩和された。なので于禁は指をぐいぐいと押し込んでいく。
「ん、んっ……! はぁ……ぁ、ん……!」
ぐちゅ、という音が鳴りながら指先が進んでいく。中は狭く熱いことが分かると、それをより感じる為に更に指を進めていった。
次第に中の狭さも緩和されてきたので、二本目の指を入れる。そこで于禁は自身がされたように、とある箇所を指先で突いた。すると夏侯惇は高い嬌声を上げる。それと共に、腕で支えている夏侯惇の体が崩れてしまっていた。
「ひぁ、あ! ぁ、や、あぁ、んっ、はぁ……、ア、ぁ!」
于禁は夏侯惇の、前立腺を指先で突いたのだ。
尻を突きだす体勢へと変わり、支えていた手はシーツを弱く握り始める。その何とも官能的な様に、于禁の下半身は限界が来ていた。しかし入口をもっと解しておかなければ、自身の怒張は入らないだろう。そう考えた于禁は、二本から三本へと入れる指を増やしていく。
中を掻き混ぜていき、縁や粘膜を柔らかくしていった。ある程度のところまできたところで、于禁はもういいだろうと思って夏侯惇の背中から離れて指を引き抜く。
入っていた指が無くなると、そこはぽっかりと穴が空いていた。膝立ちになった于禁は、夏侯惇の掴みやすい太さの腰をしっかりと掴んだ。そしてその穴を埋めるように、自身の怒張を宛がう。次に押し込んでいくが、先端からしてまだ入らない。なので一旦止めようともしたが、夏侯惇にそれを止められた。
「うきん、はやく……」
夏侯惇も限界なのだろう。尻を振り、早くと于禁を急かす。
于禁は再び入口に怒張を宛がうと、まずは先端を埋めることに専念した。縁にゆっくりと包まれていき、何度も小刻みに腰を振る。するとようやく先端が入った。しかし次はくびれの部分なので、先端と同様に入れていく。
「ッぁ、あ! うきんのが、はいってくる……」
悦びの声音で夏侯惇がそう言うと、シーツを握り締める力を微かに強めた。それを近くで見るように于禁は体を畳み、再び夏侯惇の背中に覆い被さる。
「もう少し、ですので……!」
中のあまりの狭さに、于禁は荒い声でそう言う。そして何度か小刻みに腰を振り続けると、ようやくくびれが埋まっていった。そこからはただ怒張を埋めていくだけである。
「ッやあぁ! ぁ、あ……あ!」
全てではないが、于禁の怒張が中にずるずると納まっていく。そこも狭く熱いが、于禁にとっては凄まじい快楽に変換されていた。まだ根元まで入っていないので、一気に根元まで入れていく。腰を、大きく揺らしながら。
すると夏侯惇の腹の奥で、ぐぽりという異音が聞こえた。于禁はすぐにそこが良いところだと、自身の経験から察する。なのでそのまま腹の奥目掛けて、怒張でまずは弱く突いていった。
「ぁ……あぁ! そこらめぇ! やだぁ!」
「……貴方は最初に仰っていたではありませぬか。酷く抱いてくれ、と。なので、ここを何度も突きますので」
シーツを握り締めている夏侯惇の手の甲に、于禁が上から重ねるように乗せた。そして指を絡ませると、それを合図に于禁は腰を振っていく。
怒張が根元まで入るように。そして埋まっている怒張で、腹の奥を揺さぶるように。
「っあ! ぁ、お、アぁ、あっ、や、ぁ、ん! そこを、いじめないで、や……ひあぁッ!」
根元まで入ると、ぐぽぐぽという音が大きく鳴る。夏侯惇は淫らに腰を振っていて、気持ちが良いということをアピールしているように見えた。
そこで于禁の興奮が脳や体の至るところまで頂点に達すると、腹の奥目掛けて怒張を強く突き始めた。于禁は腰を激しく振る。互いの肌がぶつかり合い、乾いた音が響く程に。
「ぁあ! ぁ、あっ、や、はぁ、ア、お、ぁっ、あ!」
腹の中を犯されていくうちに、夏侯惇は達してしまった。だが于禁はそれに構わず、腰を振り続ける。まるで雌に種付をしようとする、雄のような勢いで。
少ししてから于禁は射精感がこみ上げた。なので腰の動きを止めてから、夏侯惇の腹の奥に精液をたっぷり注ぐ。夏侯惇は呆けたような声を出すと、腹の奥に流し込まれた精液を受け入れていった。
「まだ、私は足りませぬので……!」
于禁はギラついた目で夏侯惇の背中に向けて言うが、そこで気付いた。やはり性行為は対面でしなければ、意味がないと。なので于禁は怒張を仕方なく引き抜き、夏侯惇の体を反転させる。
そのときの夏侯惇の顔は、下がりきった眉。そして弱々しい目つきに、口からは涎をだらだらと垂らしていた。それに、入口からは自身が注いだ精液が漏れてきている。
于禁はそれを見ると夏侯惇を支配できたことに、思わず笑みを浮かべた。
「うきん……」
「夏侯惇殿……」
于禁は夏侯惇に素早く覆い被さってから、膝の裏を持ち上げる。口付けをしながら、怒張を元の場所に戻していくように中に入れた。
「ん、んッ、んぅ、んんっ……!?」
すぐに腹の奥へと怒張を差し込むと、律動を再開させた。その際に合わせていた唇を離し、夏侯惇の甘い嬌声を存分に聞き始める。
「っはあ! あ、ぁん、あっ、ぉあ、あ……ぁ! あッ、あ!」
まだ胎内に留まっていた精液が、ごぽごぽという音と共に粘膜に塗りたくられる。夏侯惇は背中を反らせ、于禁に手を伸ばそうとした。しかし于禁はその手をシーツに沈めると、指を絡める。離れないように、と。突かれる度に、夏侯惇は握る力を強めては弱めるという仕草を繰り返していた。
腹の奥を突き、二人は何度も射精をした。そうしていくうちに、互いの精液が薄くなっていく。その時于禁は、酷く抱いてやったという達成感を得られようとしていた。
なので最後に、と怒張を引かせた後に強く腹の奥を叩く。夏侯惇は悲鳴混じりの喘ぎ声を上げ、于禁は獣のような雄々しい吐息を吐いた。
二人の下半身が萎えると、于禁は怒張を引き抜いた。夏侯惇の入口からは、濃い精液や薄い精液が混じり止めどなく溢れ出る。
「っは、ぁ……うきん……」
目は相変わらず弱々しいが、于禁に対する愛しさに溢れていた。それを見た于禁は、夏侯惇と唇を合わせる。その目に、深く応じるように。
唇を離すと、夏侯惇をそっと抱きしめた。というより、肌を密着し合う。夏侯惇の胸元に、顔を埋めていて。
「お前に、なさけないところを、みせて、すまんな……明日からは、えんが死んだことを、なげくつもりは、もうない。だがそれを、忘れるつもりも、ない……」
「はい……」
于禁は夏侯惇の言葉をただ静かに聞き、そしてシンプルな短い返事をした。そして何かを思ったのか、夏侯惇の膝裏を持ち上げる。
「……私たちも、いつ死ぬのか分からない戦況になってきております。だからと言って、以前は気を抜いていた訳ではありませぬ。ですので、すぐに消えるものではありますが、その……太腿にでも、キスマークをつけてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ……つけてくれ……だが、俺も、お前につけるからな……」
夏侯惇はゆっくりと頷くと、于禁はすぐに頷いた。
言った通りに、于禁は夏侯惇の太腿に赤く濃い痕をつけていく。次に夏侯惇がつける番ではあるが、体が上手く動かないらしい。なので夏侯惇の体を持ち上げ、于禁自身へと乗り上げるようにさせる。夏侯惇の唇が于禁の太腿の方へと向かうと、同じく赤く濃い痕をつけた。
その際に夏侯惇が息を漏らし、呼吸を整えながら于禁を見た。少し悲しげな顔をしているのに気付いたので、体をどうにか動かす。顔を近付けてから、その頭を撫でる。
「これが、最後になる訳ではない。また、生きて、痕をつけてくれればいい。俺も、お前に痕をつけてやるがな」
「……はい」
于禁は乗り上げてきた夏侯惇の背中を両手で包むと、涙を流していた。夏侯惇は于禁が泣き止むまで、ひたすら頭を撫でている。
その頃には互いの、心の安寧へと導く生身の在り処となっていた。
※
翌朝、二人は目を覚ましたが夏侯惇の目の辺りが腫れていた。
本日は非番ではあるが、夏侯淵の私室の整理をするつもりの夏侯惇は着替え始める。腰の辺りが怠いらしいので、于禁が介助をしようとしていた。しかし夏侯惇はそれを冷静に拒む。
「……お前は訓練があるのだろう? 非番の俺など放っておいて、早く行け」
時計を見ると、訓練の開始時刻まで余裕がある。だが于禁は自身の私室に戻り、着替えて支度をしなければならない。訓練に、遅刻をする訳にはいかない。
なので于禁は夏侯惇に軽く抱き着いてから、そっと呟いた。于禁はその後頭部を睨むのではなく、ただ視線を向けている。何か言いたげではあるが、それを堪えていた。
于禁は夏侯惇に言いたかったのだ。「寂しいのならば、いつでも呼んで欲しい」と。だがその一言が言えず、別の言葉を掛けていた。
「また……後日に会いましょう」
「あぁ」
着替え終えた于禁はとても名残惜しげにそう言い、夏侯惇の私室を出たのであった。