約束の痕 - 2/4

作戦や任務、それに月日を経ていくうちに二人の階級が上がった。夏侯惇は少佐に、于禁は大尉へと。なのでか、夏侯惇は私室に滞在する時間が以前よりも減ってしまっている。
それに戦況が少しずつ悪くなっていて、大まかな理由は周辺の小国たちが揉めだしたからである。同盟を組んでいる小国での戦闘以来、何かに取り憑かれたように、その国々はそれぞれの隣の国に戦火を浴びせたがっていた。同盟を組んでいる小国も例外なく。
国々は『この状況を我が国が率先して、戦力によって何としても抑止させる』などと訴えていた。国の大きさなど、そのようなものは関係ないらしい。小国が足掻いても、無駄だというのに。

二人は空き時間をどうにか作ると夏侯惇の私室にて、軍服姿のままで互いの昇進を酒でささやかに祝った。時刻は今にも陽が沈みそうな頃。
階級が大尉のときと比べ、私室は更に広くなっている。机に向かう為の椅子だけではなく、寛ぐ為の広いソファとテーブルがあった。于禁は最初は目を丸くしていたが、慣れると次第に部屋の広さについては何も思わなくなっていたが。
そしてベッドの縁ではなく、二人は大きなソファの上に座った。男二人では、多少狭いと思いながら。
昇進してから幾らか月が過ぎていたので、夏侯惇は酒を喉に流しながら先日の小規模な任務について于禁に質問をする。その小規模な作戦とは、夏侯惇の階級が少佐に上がったので初めて全体に対しての指揮をしていた。于禁もその小規模な任務に参加している。
その指揮に従う側の于禁としてはかなり曖昧だが、どうだったのかと夏侯惇は恐る恐る質問した。
「こちらとしては、敵地へ突撃する指揮の言葉がぎこちないと思えました。しかし、少佐へと昇進したばかりで、しかも全体への指揮となれば、まだ完璧にできないのは当然のように思えます。ですが今回は重要な任務や戦闘ではないので良かったものの、大規模な作戦や戦闘となれば、こちらとしては命を落とすのではないかと思う程に危ないので、場数を踏んで慣れて頂くしか無いでしょう……私も、いつかその立場に立てば、それを肝に銘じておかなければなりませぬが」
于禁のとても正直な意見に、夏侯惇はまずは笑う。
その小規模な作戦に念のために上官が同行しており、指揮する側としてのアドバイスを前後に受けていた。しかしアドバイスと言っても「戦況をよく見ろ」としか言われていなかったので、于禁の具体的な意見を聞いて上官に対して呆れの感情が湧く。なので逆に、于禁に対しては安堵の感情が湧いていて。
「……申し訳ありませぬ」
「いや、いい。お前ならば正直に言ってくれると思っていた。とても助かった、感謝する」
二人とも翌日の午前遅くまでは何も無いので、今回はワインボトルを二本用意している。だがすぐに一本目の半分までワインを飲んでいく。いつものようにただのグラスに上品にではなく、ただの水を注ぐように。
二人のグラスが空になったので、互いにワインを注ぎ合って一本目を空にした。そこで夏侯惇はいつもより気分が高揚してきたのか、いつもとは違う毛色の話題を出す。堅物である于禁と話すには、とても相応しくない話題を。
「……そういえばお前は、下の方は、抜くときはどうしているのだ? どう見ても、それに対して淡泊なイメージしか無くてな」
于禁は空になったグラスを見つめていたので、途端に顔を赤く染めた。そして驚き、持っていたグラスを床に落としかける。それ程に、于禁は慌てていた。
「な……!? 突然、貴方は何を!?」
「別に男同士でするには普通の会話だろう? 寧ろ今までが異常だったがな。真面目に、任務についての話や読んだ本についての話ばかりだったからな」
二人でしていた他愛もない会話とは、夏侯惇の言う通りでその内容のみであった。
なので夏侯惇はそればかりではつまらないと思い、聞いた次第である。しかし于禁は喉に流したワインよりも鮮やかな赤色を顔に残したまま、曖昧にその話題を終わらせようとした。
「貴方にそのような話しても、特にメリットが無いでしょう……! それに、私のようなこんな大男の、そのようなことを聞いてもただ気持ち悪いだけで……! 今日は、もうお開きにしましょう! 貴方は酔い過ぎです!」
于禁は慌ててグラスをテーブルの上に置き、立ち上がろうとする。しかし夏侯惇に腕をがしりと掴まれた。
「別に、他の者とそんな話くらいはする。一種のふざけでだがな。それに……」
「私はそのような話を、誰にも一度も、したことがありませぬ!」
掴まれた腕をブンブンと振り、夏侯惇から離れようとする。夏侯惇が、何か一言加えようとしていたところで。
于禁により遮られていた言葉を、夏侯惇が言い直した一言によりその動きが止まった。その言葉とは脅しではなく、ただ前に見たことをそのまま話していく。
「実は言うと、俺は今かなり溜まっていてな。たまたま使っていた共用のシャワールームで何度か見てしまったのだが、部下が抜き合っていた。まぁ、見て見ぬ振りをしたのだがな。だから、限界が来ているから、それを真似て、付き合ってはくれないか?」
「何故!? 私ではなく、娼婦の類の女性にでも……!」
「今からか? 今の俺の階級では、任務外でのこの時間の出歩きは禁止されているがな。分かるだろう?」
夏侯惇の声が、どんどん熱を帯びていく。それが、于禁に分かる程に伝わってくる。
しかし于禁はそれを振り払うのに必死になるほど、熱が纏わりついてきていた。しかし禁止されている、という単語により熱が振り払えなくなったらしい。夏侯惇からの熱を、直に受けてしまった。
「でしたら、貴方お一人で……」
目を合わせないように、于禁はそう言う。だが于禁の振り払おうとしていた腕の力さえ、緩んでいた。なので夏侯惇はその瞬間を狙って、ぐいと自身の方へと引かせる。
「うぁ!?」
引く力により、于禁は夏侯惇の方へと倒れていった。そして夏侯惇と顔が近付くと、更に夏侯惇自身の熱が強くなるのを感じる。そして、スラックス越しでも分かる膨らみも。于禁は訳が分からなくなってしまい、呆けていた。
「今は、耐えられない……! ずっと、任務続きで、疲労もあって、しばらくご無沙汰だったが……部下のそれを思い出すと、お前とならいいと思ってな!」
小さなソファの上で、夏侯惇は形勢を逆転させた。床ではなく天井が視界に入ったことにより、于禁はハッとしたがもう遅い。その直後に、素早く于禁のスラックスのベルトが外されていく。
「な、何を……!? 夏侯惇殿!」
抵抗の言葉を出した瞬間には、通してあったベルトは抜かれていた。すぐにスラックスと下着を降ろされると、于禁は恥ずかしさに顔を真っ赤にする。そして頭の中は真っ白になり、何も考えられなくなってしまっていた。于禁のものは、萎えている状態であっても。
夏侯惇はそれを見ながら、ベルトをカチャカチャと緩めた。そして自身のスラックスと下着を降ろす。出てきたものからは既に先走りが垂れており、于禁の顔は赤いものから青いものへと瞬時に変えていった。
「私に、何か恨みでも……!?」
「別に、無い。お前も相当溜まっているではないのか?」
そう言いながら夏侯惇は、于禁と怒張を合わせていく。それはとても張りつめており、上を向くことしかできていない。限界ということは本当であった。
垂れている先走りを潤滑油にしながら、夏侯惇は二人分のものを軽く握ってぬるぬるとゆっくり擦っていく。腰を、弱く振りながら。于禁のものは芯を持っていなくても、興奮している吐息を吐いていた。こうやって擦るのが、とても気持ちが良いのだろう。
すると于禁の怒張が反応してきたのか、次第に芯を持ち始めた。夏侯惇はニヤリと笑う。
「ベッドに、行くか? それとも、俺の部屋のシャワールームでするか?」
「……ッ! 離して、下され!」
「何を言っている? お前も、気持ちが良いのは分かっているから、どちらか答えろ。好きな方で、抜いてやる」
于禁も夏侯惇と同じく、興奮の吐息を吐き始める。そして無意識のうちに腰を振っていたのに気付くと、目を見開いた。夏侯惇はそれを見て笑う。
「ちが、これは……!」
「……処理が面倒だから、シャワールームに行くぞ」
于禁のその様を見て、夏侯惇は何かを思ったらしい。于禁の言葉を待つ気が無くなってしまった。自身の欲望をあと少しと我慢しながら立ち上がり、于禁も立たせるとシャワールームへと直行した。
夏侯惇の私室には個人用のシャワールームだけではなく脱衣所まであるのだが、そこで自身がまずは残りの衣服を脱いでいく。常につけている眼帯も。次に于禁の衣服を、乱暴に脱がせるとシャワールームに入った。
シャワールームの壁へと于禁を追いやると、夏侯惇は先程の動作を再開させていく。二人の荒い呼吸や粘液が衝突する音が響き渡る。そして互いに腰を振って怒張同士を擦っていくうちに、二人は同時に果てた。しかしまだ怒張は下を向く気は無い様子である。
更なる興奮を覚えた夏侯惇は于禁の顎を掴んだ。于禁の顔をよくよく見ると、いつもの鋭い目が弱々しいものになっている。それを見ると、先程の動作以上のものをしたいという欲望が、夏侯惇の思考の中で生まれていた。自然と、唇を強引に合わせる。
「んぅ! ん、んっ!」
驚いた于禁だが、合わさった瞬間に凄まじい快楽が襲ってきたらしい。ただ唇同士が一瞬だけ密着しただけだというのに。于禁の目は、あり得ない程に垂れていく。
「……お前は、意外と可愛いのだな」
欲情しきった于禁を見て、夏侯惇は上を向き続けている二つをまたしても擦り合わせ始めた。于禁を舐めるように見ながら。
一瞬だけの口付けにより思考が蕩けてしまっている于禁は、抵抗の声も動きも見せずに快楽を受ける。無意識のうちに腰を振っているようだが、次は夏侯惇の背中に両手を回し始めた。もう、自分ではまともに立てないらしい。夏侯惇にとってはそれがとても淫らな光景と思い始めていて。
夏侯惇が見た部下同士のそれは、ほんの短く軽いものである。しかし今于禁としているそれは、部下同士での行為よりも長く激しい。最初は于禁に対してからかいや興味本位の思いでしかなかったのだが、于禁が腰を振っている姿を見て火が点いてしまっていた。その火は鎮まることはなく、どんどん燃え盛り広がっていくが。
「気持ちいいか?」
垂れる精液を潤滑油にして、夏侯惇は腰を振る速度を上げていく。聞いている夏侯惇自身は、今していることが気持ちいいと思っているのか。
対して于禁は、返事をしない。まだ抵抗の意識が根底に残っているのか、それとも何かしらの反応を示す余裕が無いのかは不明である。だが于禁は先程よりも妖艶な様子へと変わっていた。上を向いているものを擦られる度に、微かに喘ぐようになったからだ。
夏侯惇はそれを聞き、心で燃えている炎を制御できなくなってしまっていた。相手は部下であり、同じ性別の人間であり、華奢な体と中性的な顔をしていないというのに。もしも相手がそのような外見の男であれば、冷静であっても色々と腑に落ちるのだが。
「ぁ、はあ、あ……んッ!」
すると于禁が射精をした。まだ上を向いているが、于禁の体はぐったりとしている。内心で舌打ちをした夏侯惇はシャワーの蛇口を捻り、湯を出す。最初は水が出ていたが、次第に温かい水へと変わっていくとそれを于禁の肩にゆっくりとかけていく。于禁の体全体が湯を被ったところで、次は髪を乱しながら少しずつ湯で濡らしていった。そこで夏侯惇は墨色に光る于禁の髪が、綺麗だと思いながら。
于禁の全身に湯をかけ終えると、次は夏侯惇自身の体にも湯をかける。だが頭頂部から一気被り、数秒湯を床に落としていくとシャワーの蛇口を閉めた。目に入りそうな髪の先を、鬱陶しくかき上げる。
「かこうとん、どの……」
「今体を拭かせるから待ってろ」
于禁の体を半ば抱え、引き摺るようにシャワールームを出る。そしてバスタオルで丁寧とは言えない手つきで于禁の体を拭いていくと、別のバスタオルを出して夏侯惇自身の体を雑に拭いていく。それが終わると再び于禁を引き摺っていくが、向かう先はベッドの上であった。
白いベッドのシーツの上に于禁を乗せると、夏侯惇は大きな息を吐く。
「ほら、ヤるぞ」
仰向けに寝かされていた于禁は体勢を変え、否定の意思の為にベッドから降りようとした。しかし夏侯惇がベッドに乗り上げ、于禁に覆い被さるとそれを妨げる。
「どうした?」
笑いながら夏侯惇は顔を近付けると、于禁は首を弱く横に振った。
「やめて、くだされ」
「断る」
于禁は夏侯惇の体を退けようとするが、力が入らないのでただ上半身に触る程度。
夏侯惇は速答してから、夏侯惇は于禁と唇を合わせた。シャワールームのように軽いものではなく、深く激しいものを。
夏侯惇の舌が于禁の口腔内に入っていくと、舌を探し出してから絡めていく。その際に于禁が舌を引かせるとリップ音が鳴り始めた。その音に刺激され、于禁の手がベッドのシーツへと沈んでいく。あまりにも、官能的な音だからなのだろう。
すると夏侯惇は于禁の濡れている頭や頬に手を添えていく。肌全体は興奮のせいなのか赤く熱い。頭の方は髪を乱すように撫で、頬はただ手の平でさらりと撫でていて。
「ん、ぅ……! んん、ん……」
于禁の舌の動きが鈍くなっていき、そして夏侯惇の舌を口腔内が受け入れていく。なので夏侯惇は于禁の舌を絡めるのではなく、弱い力で吸った。
「んんッ!? ん、んぅ、んン!」
それの刺激なのか、于禁の腰がガクガクと震えてから三度目の射精をする。そこで夏侯惇が舌を引かせて唇を離すと、濃密な口付けの証拠としてどちらのものか分からない涎が、雨のように垂れていった。
「先程からお前ばかりだな」
三度目の射精にも関わらず萎えていない于禁のものを見た夏侯惇は、そこから精液を人差し指で掬う。さすがに粘度は高くないものではあるが、それを他の指に絡めていった。
「……今から、何をするか分かるか?」
口を半開きにしてただ恍惚の目をしている于禁に、夏侯惇は顔を近付けてそう問い掛ける。しかし于禁は洪水のようにどうにもならない色欲により何も考えられないのか、夏侯惇をただ見ていた。
するとそれを見て、夏侯惇は何も言う必要は無いと判断したらしい。精液を絡めた指を、于禁の尻へと向ける。于禁は尻に向けられた指に驚くという感情は持てたが、そこから何か反応を起こすという思考回路がほぼ停止していた。
「抵抗も、何も無いとはな」
夏侯惇は軽い溜息をつきながら、まずは人差し指の先端で尻の入口を押した。于禁は苦し気な息を漏らし、小さな呻き声を自然と出すということが限界である。
于禁は男同士でのそれのやり方を知っていた。経験は無いが、実際にしたという上官の経験話を聞いた程度。なのでこれから夏侯惇にされることを想像していたが、あまりの興奮に初めて異物が入るという恐怖が無かった。
すると脳が快楽に侵食され始めた于禁は、度々酸素を求めながら夏侯惇に対して言葉のような声を出す。
「さぞかし、きもちが……よいのでしょう……」
「あぁ、そうしてやる」
夏侯惇がそう言うと于禁と唇を重ね、そして入口に指を入れていく。指先が無理矢理に入ると于禁はくぐもった声を上げるが、夏侯惇が舌を絡めるとそれはすぐに鎮まった。
ぬるぬると舌を絡めながらも、入口を解していく。女の膣のように容易く拡がる訳ではないので、慎重に指を進めていっていた。第二関節まで入ると、夏侯惇にとってはおかしな箇所があったので、そこを指先で突く。そこは指先二本分程の大きさであり、しこりのようになっている。
そこを指先で触れられ、突かれた瞬間に于禁は背中をしならせながら射精した。
「んんぅ!? ……んん! んっ、んぅ……!」
于禁の口が塞がれているので、二人の口腔内が于禁の唾液に塗れる。于禁のその様子と自身の口腔内の状態を把握し、夏侯惇は心の中で笑った。そして于禁の良い場所なのかと学習したので、もう一度そこを指先で押す。
唾液が二人の口から漏れると、シーツを酷く汚した。それに、于禁の精液でも。だが二人はそのようなことは気にならず、夏侯惇は入口を拡げることに専念し、于禁はひたすらくぐもった喘ぎ声を漏らし続けた。
指が四本まで入るか入らないまでのところまで、夏侯惇は入口を拡げていた。その間にも于禁は射精し続け、二度は射精している。これ以上は于禁が、いや夏侯惇の怒張が限界であるので指を引き抜いた。
合わせていた唇も離していくと、自身の怒張を于禁の入口に宛がう。しかし于禁はそこで拒む言葉を出したが、それは夏侯惇を喜ばせるものであった。
「それよりも、くわえても、よろしいでしょうか……」
于禁には恥じらいなど無く、寧ろ夏侯惇の怒張を物欲しげに眺めている。それを見た夏侯惇は入口に宛がうのを止めると「いいぞ」と言い胡坐をかいた。のろのろと起き上がった于禁は、四つん這いになって夏侯惇の怒張へと顔を近付けていく。
「わたしも、かこうとんどのを、きもちよくしなければ……」
眉を下げながら、于禁は夏侯惇の怒張を口に含んだ。張りつめているので、口を大きく開けなければならない。それでもきちんと口に含むと、上目遣いで夏侯惇を見る。喉の奥までは咥えられないので、奥歯のあたりまで怒張の先端を入れた。
「ッは、はぁ……良い、眺めだな」
人の口腔内も、やはり気持ちが良いのだろう。熱く狭い下の肉の穴のように。
なので夏侯惇はあまりの快感に、思わず射精しそうになっていた。しかしそれを何とか耐えると、自身のものをただ咥えている于禁を見下ろす。
「顔を、動かせ」
「ん、んん……」
于禁は言う通りに顔を動かしていく。しかし動作がかなりぎこちないので、夏侯惇は舌打ちをする。そしてすぐに我慢の限界が来たのか、于禁の後頭部を掴むと少しづつ動かしていった。怒張が締まる唾液塗れの粘膜の中で擦られ、夏侯惇は耐えていた射精感を抑えきれなくなる。
「ん!? んぶ、んん、ぅ、ぶ、んん!」
「はっ、は、うぁ……! はぁ、でる! は、だすぞ、はッ、はぁ、うっ……!」
口腔内で夏侯惇は射精した。于禁は喉へと流れてくる熱い精液、それに濃い雄の匂いに酷く咽る。そこで呼吸がしづらいとどうにか判断できた夏侯惇は、まだ満足していない怒張を引き抜いた。
于禁は出された精液の半分程を、口から吐き出していた。しかし残りの半分は飲み込んでいる。喉がごくりと鳴って動いたので、それが分かった。自ら喉に流したのだろう。
「かこうとんどの、わたしの、こちらに……」
目の前の怒張のことしか、もはや于禁は考えていないらしい。精液を口腔内から喉へと堪能させてから、夏侯惇の方によく下半身がよく見えるように向いた。一度も、尻に男の怒張を受け入れた経験など無いというのに。
于禁は四つん這いの体勢から仰向けに寝て膝を自ら開いた。入口はぱくぱくと開閉を繰り返しており、怒張を今すぐにでもそこに頬張りたいとでも言いたげな様子である。
「……あぁ」
夏侯惇は于禁のいやらしい桃色が曝け出されると、すぐに怒張を宛がった。そして吸い込まれるように、ずるずると入っていく。
「ぁ、あ! おっきい! もっと、おくに、はっ、ぁん、あっ!」
煽るように腰をぐねらせ、于禁は喘ぐ。悩まし気な表情をしながら。入口だけは緩いので、夏侯惇はそれにすぐに応じたのだが。
「中が、きついな……!」
入口以降は、とてもよく締まっていた。経験したことのない快楽に、進めることを一時的に中断してしまいそうな程に。だが夏侯惇は于禁の奥まで貫きたい気持ちで一杯であった。なので夏侯惇は腰を振りながら、于禁の奥へとひたすら怒張を進めていく。
半分以上は入ったところで、最後の力を振り絞った。根元まで全て収まる。すると于禁のへその周辺の内側からぐぽり、という奇妙な音が聞こえた。奥のどこかまで入ったのだろうかと、夏侯惇は内心で首を傾げる。何かのくびれまで来たのは分かっているのだが。
しかし于禁はその音が鳴った瞬間に、激しい雷にでも打たれたように体全体をガクガクと震わせた。目や口を、大きく開きながら。
「……ッひぁあ!? ぁあ、あっ、ああ!」
到達した場所がどういう箇所なのかは不明だが、于禁は凄まじい快楽を得られているらしい。同時に夏侯惇も今までにない肉の締め付けと熱さに、体を小刻みに震わせていた。
于禁に痛みや苦しみなどは皆無なのは明らかだ。普段とは考えられないくらいに、高い嬌声を上げているのだから。それに夏侯惇の腰や背中には、于禁の両手足ががっしりと絡まっていて。
なので夏侯惇は、そのまま腰を小さく振り始めた。自身や于禁にも快楽を更に与える為に。
「きもちいいか?」
「ぁ、ゃあ! らめ、お、あ、ぁあ! もう、ずこずこしないで、ぁあ、ひあ、あ! ごわれる!」
相当な善がり具合をさらしているのにも関わらず、于禁から出る言葉に肯定の意味のものは無かった。だが夏侯惇はそれとは逆の意見であると、于禁が悦んでいる様子を見て理解したらしい。少しずつ腰を振る速度や強さを、上げていく。そうしていくうちに、于禁の瞳が潤んでいっていた。
「は、ぁ! あ、らめ、あたまが、おかしくなる……! しりが、めくれるから、ゆるして、おねがい、んぁ、や、あぁ、あっ、ん、あぁ!」
すると于禁は射精をして、夏侯惇の怒張に肉が深く絡まっていく。それにより夏侯惇は于禁の腹の中で射精をしたので、腰の動きを止めた。低く重い呻き声を上げながら、受精をさせるように精液を送り込む。一時的なそれが鎮まると、すぐに腰の動きを再開させた。
腹の奥にある精液が怒張によって満遍なく掻き混ぜられる。卑猥な音が大きく鳴り、二人の興奮が一層高まった。
「は、はっ、ぐぅ……は、は…! きもちよすぎて、頭がおかしくなるのか?」
「やぁあ! ちがう、ぁ、あっ、お、ッあ! は、ぁん」
于禁の嬌声は強まり、そして夏侯惇の背中にギリギリと爪を立てる。夏侯惇は背中に痛みを当然のように感じたが、今は快感により痛覚をすぐに忘れることができた。なので背中のことなど忘れてしまい、腰をガツガツと于禁の腹の中に打ち込む。
腹の中に何度も腰を打ち付け、そして精液を注いで満たしたところである。そろそろ于禁にも、夏侯惇にも限界が来ていたらしい。なので最後にと、夏侯惇はずるずると怒張を引かせていく。突然できた腹の中の空白に困惑した于禁だが、突如素早く強く怒張を再び貫かれた。
瞬間、于禁は嬌声ではなく叫ぶような声を出した。夏侯惇は、深い息を吐きながら薄くなった精液を目一杯流していく。
于禁の両手足による甘い拘束がぼとりとシーツの上に落ちていった。潤んでいた目からは涙も。于禁の意識が、もうじき無くなるのだろう。
激しい息切れをしながらも、夏侯惇は于禁と顔を近付ける。そしてまだ意識があるうちに、唇を軽く合わせた。微かに青臭い味がしたが、それが愛しく思えてきたようだ。なので夏侯惇は口付けの瞬間に意識をいつの間にか落とした于禁と、再び触れる程度の口付けをしていて。

翌朝、于禁のさほど大きくない叫び声により夏侯惇は目を覚ました。
二人は何も着ていないのだが、于禁の体を夏侯惇が丁寧に清めていたので不潔ということはない。そして夏侯惇もシャワーで汚れを洗い流していた。
于禁は腰に倦怠感があるのか、上手く起き上がれないらしい。うつ伏せになり、枕に顔を埋めている。その枕は夏侯惇のものであり、枕は二つある訳ではないのだが。
「か、か、かこう、とん、どの……と……!?」
声は掠れていて、見えている耳は完全な赤色である。夏侯惇はそれを仰向けの状態で見て、僅かに笑いながら「俺の枕を返せ」と言う。しかし于禁はそれを頑なに断った。理由を言わないものの、于禁の態度から断る理由など容易く推測できている。
なので次は于禁の頭を軽く撫でると、于禁はがばりと顔を夏侯惇の方に向けた。その顔は、耳同様に真っ赤である。
「さ、触らないで頂きたい……!」
于禁の目は涙目である。さすがにそれを予測することができなかった夏侯惇は、撫でていた手をピタリと止めた。だが、口角が上がっていく。
「……駄目だ、お前が可愛らしくて、仕方がない」
頭を撫でていた手が、次は頬へと移動する。于禁の頬は柔らかくはないが熱い。その熱さが、不思議と滑らかで触り心地が良いと夏侯惇は思い始めていた。
「私は男ですが!」
「お前が男でも、男の俺の下であんなに良く喘いでいただろう?」
「……ッ!」
于禁は夏侯惇が上官の立場でも構わず鋭く睨む。しかし今の于禁も涙目で、しかも顔は赤色によく染まっていた。なので夏侯惇は余計に可愛らしく思えたらしい。遂には于禁に抱き着く。
「また、俺とヤるぞ。だが、次は俺が下でいい。抱かれることが相当、気持ちが良かったのだろう? 昨夜のお前を思い出したら、興味が湧いてな」
「お、お待ち下され! 話を勝手に……!」
「別にいいだろう。では、また今度はそうするぞ。俺は覚えておくからな」
機嫌良さそうにベッドから立ち上がった夏侯惇は、床に落としていた互いの軍服を拾う。自身のものは部屋のクローゼットから洗濯したものを取り出したのだが、于禁はそういう訳にはいかない。なので夏侯惇は軍服のジャケットの下に着る、洗濯済みのワイシャツと未使用の下着をせめてもと于禁に渡した。
「部屋に戻って着替えるまでは、それで我慢してくれ。だが、返す時は分かっているだろうな?」
ようやく上体を起こした于禁は、夏侯惇のその配慮をとても悔し気に受け取る。
すると夏侯惇は于禁を寵愛の対象として見ながら、軍服を纏っていったのだった。それに急かされるように、于禁も軍服を一時的に着込んでいったのだが。