白を赤で染めて
外は赤い太陽が昇ってきた頃、二人はほぼ同じ時間に目が覚めた。
昨夜の二人はベッドの上で愛し合っていたため、衣服も何も着ていない。それでも夏侯惇は、特に何も気にせず起き上がってあぐらをかく。腰を少しだけ庇いながらも。
「おはよう……」
声を掠れさせながら朝の挨拶をすると、于禁は挨拶を返す。だがそれと同時に、目が覚めたばかりである于禁は起き上がれなかったらしい。それでも少し顔色を悪そうにしながら夏侯惇の方を見たが、その直後に一気に顔を真っ赤に染めた。
目の前には昨夜、夏侯惇の白い内股に刻んでいた幾つもの赤い痕が見えたからだ。それも夏侯惇自身の手の平で隠そうにも隠せないくらい、広い範囲に満遍なく。
「そこまで……つけてしまったのか……」
于禁はそう呟くと、夏侯惇のそれから目を逸らす。昨夜の于禁はかなり燃えていて、理性が一時的に修復できなかったのを思い出して眉間に深い皺を刻んだ。自分で消えていく痕を刻んだというのに。
だが于禁は情事の際に毎回痕を刻んでいる訳ではない。たまにという頻度で痕を夏侯惇の体の一部に刻んではいるが、ほんの数箇所だ。
理由は痕は所有の証とよく言われるが、于禁からしたら夏侯惇と心身共に深く、千切れない程に繋がっている。逆も然りであるが。なのでその所有の証など無くても、夏侯惇が何かの拍子で離れていくことは無いと確信しているからだろう。
「俺は別に構わん。だから今夜も、今度は違うところにつけてくれても良いのだがな」
夏侯惇は誘うようにそう言うが于禁はそれを、躱すように起き上がると立ち上がった。そして夏侯惇に背を向ける。
しかし于禁の次は、夏侯惇が于禁の白く逞しい背中を見て大きく動揺をして顔を真っ赤に染めた。
そこには昨夜、于禁に抱かれている夏侯惇自らがつけた爪の痕が痛々しい程にあったからだ。昨夜の激しさを現しているのか、鮮やかに赤く腫れていて今にも出血をしてしまいそうである。
「……俺に背を向けるな」
「はい?」
小さく発言をした夏侯惇だが、それが聞こえた于禁は曖昧な疑問を持ちながら振り返った。まだ顔の赤さが引かないままではあるが。
「何故、そのようなお顔を?」
于禁はそう指摘するが、夏侯惇は動揺のせいで脳内で回答すべき言葉を繋げられなかった。それでも視線を大きく泳がせながら、何とか単語のみを于禁へ伝える。
「背中……俺が……」
「背中? あなたが?」
疑問を抱いた于禁は自らの背中を触れてみると、鋭い痛みが広範囲に走った。驚きのあまりに顔の赤みを一瞬で引かせてから思い当たる節を考えるが、すぐに見当がついたようだ。
「あぁ、昨夜あなたが……私は平気ですので」
「お、俺は平気ではない!」
首から上までも真っ赤に染めた夏侯惇は、あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆った。
「ですから、私は……」
「では、お前が俺につけた太腿の痕は、俺は平気なのだがな……!」
「そ、それは……」
于禁は再び顔を赤くするとしばらくの間、互いに赤い顔を向け合った。すると二人は、かける言葉が見当たらなくなって数分間だけ静寂が訪れる。
だがその沈黙を破ったのは、ほぼ同じタイミングでの二人の「平気」から始まる言葉であった。未だに、顔を赤くしながらも。