本日の夕食は、于禁が作ることになっていた。だがその前に于禁はソファに座り、手の爪を切っていく。衛生的には問題が無かったが、気になったのだ。今から作るものは、素手で食材を触る頻度が高いからか。
于禁の今の爪は白い部分が多少ある程度。それでも爪切りで、形に沿って白い部分をほとんど無くすように切っていく。
するとその音に気付いた夏侯惇が、隣に座る。
「そこまで切らなくても、いいだろう」
于禁が爪を切る手を止めると、夏侯惇はそれを見て難しいものを見るように言う。
「ですが……」
「気にしているのか? 別に俺は入れられても痛くはな……」
「私は、調理の際の衛生を保つ為に切っているのですが!」
顔を真っ赤にした于禁は、自身の目的をはっきりと述べた後に爪を切ることを再開しようとした。そこで夏侯惇が「すまん」と笑うと、片手の平を差し出す。于禁は大きく首を傾げた。
「俺が切ってやる」
「あなたにそのようなことをさせる訳には……」
「そこまで爪を切ると、いつか爪の形が崩れる可能性があるが、いいのか?」
于禁は何か言おうとしていたらしい。しかし夏侯惇のその正しく聞こえる言葉に、ぐっと詰まらせると喉に押し込んで飲み込んだ。爪の形が崩れる可能性がある、という部分により。
「……それでは、お願い致します」
震える手で于禁は爪切りを渡し、両手を伏せて差し出す。夏侯惇はそれに、機嫌の良さそうに爪を切り始める。だが、そこで先程の言葉の訂正もし始めた。
「爪の形が崩れるというのは嘘だ。だがお前は、深爪に近い切り方だから良くない。きちんと矯正しおけ」
そう言いながら夏侯惇は、于禁の爪を形を綺麗に整えるように切っていく。于禁は驚いた後に小さく頷くと、それを終わるまで無言で見ていて。
指の全ての爪を切り終えると、于禁は夏侯惇に礼を言った。それを夏侯惇は「気にするな」と返した後に、ソファから立ち上がろうとする。だが何かを思い出したらしい夏侯惇は、その動きを止めて于禁に近付く。
「……俺も切っておかねばな。お前も、背中が痛いだろう?」
悪戯を含んだ言葉をそっと言った夏侯惇は、ソファから立ち上がる動作を再開させ、于禁から離れていったのであった。