満月に秘密を抱える二人
夏侯惇は、路地裏にて目の前の同じ会社に勤務している男の姿に驚愕していた。
今は会社から出たばかりだった。駅に向かっているところであり、夜の真っ暗な時間帯だ。空には満月が浮かんでおり、街中ではとても綺麗な夜景が楽しめる。表の通りは道行く人や光で溢れていた。だがここからだと、最寄りの駅までは遠い。
一方で駅までの近道である路地裏はほとんど人が歩いておらず、街灯はあまり無い。光っている範囲が少なかった。人通りが多くなく、そして治安が悪いことが原因である。しかし外見からして、屈強な外見の夏侯惇からしたら防犯上の理由から特に問題はない。
話を戻すが、夏侯惇が驚愕しているのには理由がある。言葉にするならば簡単で、目の前に居る男である于禁の頭から犬のような黒い耳が生えているからだ。同時に人間の耳も残っているが、犬のような耳があるせいでとても不自然な姿に思える。
于禁はいわゆる、半獣の存在であった。同時に、犬のように様々な感覚が鋭くなっている。
半獣の存在とは今も昔も貴重な存在であり、満月の夜になるとそのような姿になるのだ。他にも変異が起きてしまう人々が居る。
人間の外見を完全に取り戻す方法はないが、世間からの理解は多少ならある。物珍しさに周囲が凝視、あるいは悪戯をすることがあるのだ。半獣の者たちはそれを恐れていた。
夏侯惇は口をあんぐりと開けながら、于禁をただ見ている。まさか于禁がそのような存在だとは思わなかったし、初めて見たらしい。一方で于禁は見られてしまったと、慌てながら頭を隠す。着ていたスーツのジャケットを脱ぎ、咄嗟に頭に被ったのだ。このような方法しか思い付かなかったらしく、相当な混乱がうかがえる。そのジャケットによって于禁の顔も隠れ、表情が全く見えないのだが。
しかしもう時は遅く、夏侯惇は暗がりの中でも于禁の『その姿』を見てしまった。今更に訂正などできない。于禁はその行為が無駄だと多少は自覚しながらも、それでもジャケットを取り払おうとはしなかった。
するとまともな思考が行うことができる状態に、夏侯惇は次第に戻ってくる。なのでできる限り大きな深呼吸をしてから、重いと思える口を開く。このときは何故か、人生で一番緊張したと夏侯惇は思っていた。しかし何を言うべきか分からず、脳内で考えの糸を絡ませながら言葉を吐き出す。
「お……落ち着け……俺はそれを、気にしていない」
于禁が頭を隠しているのだから、本人はこのことを人に見せるべきではないものだと夏侯惇は分かっていた。それに、多少なりとも本来の人間の姿ではないことも。
「貴方は私の上司にあたる方ですが、申し訳ありませぬが信用はできない故に……」
そう言って于禁が夏侯惇に背中を向けると、どこかへと立ち去ろうとした。この治安の悪い路地裏を、ずっと歩いていくのだろうか。幾ら于禁と言えども夏侯惇は心配だった。更に今の于禁の状態からして、更に不安の種が蒔かれてしまう。
なので夏侯惇は于禁の手を力強く掴んだ。
「今は危ないから、お前の家まで送ってやる。お前のそれのことは、誰にも言わん。絶対に約束する」
夏侯惇は必死の目で訴えた。于禁はその意思を犬の思考で汲み取ると、信用が芽生えたらしい。于禁にとって夏侯惇は、別の部署ではあるが上司だ。それに周りからの信頼が厚いのは分かっていた。なので于禁の頭の部分が、上下に小さく揺れる。了承の為にと頷いているのだろうか。
そして于禁が夏侯惇に近寄ると、普段のものとは言えない小さな声で「では……」と呟く。周囲には二人以外は誰も居ないので、その声は夏侯惇によく聞こえる。
安堵の吐息を漏らした夏侯惇は、まだ掴んでいる手を引いてから于禁と近付いた。こっそりと囁く。
「それをずっと被っているのは不自然だが、どうすれば……」
頭を覆っているジャケットを見やる夏侯惇だが、于禁は隙間から顔を覗かせてしばらく考えた。しかし何も思い付かないでいると、遠くから一組の男女のカップルが歩いて来た。このような場所を歩くなど不用心だが、そのようなことばかりを考えている暇などない。于禁のことを怪しまれない為には、と夏侯惇は案を模索する。
そして考えた結果、夏侯惇は于禁の肩をがっしりと掴んだ。「下手でもいいから、酔っ払いの振りでもするぞ」と冷静に言いながら。
驚いた于禁に、夏侯惇が先程よりもぐっと近付いてくる。夏侯惇が手を伸ばし、覆っているジャケットの隙間に入れた。思わず身構えてしまうが、夏侯惇はそれに構わず犬のような耳の部分を探り当てると手の平で包めることを確認する。
ジャケットを取り払うと、夏侯惇の腕にしっかりと掛けた。次に建物の壁に追いやると、二人の顔がとても近い。鼻先が触れてしまいそうだ。夏侯惇は「仕方ないだろう」と言いたげな顔で、両手で犬のような耳を隠した。于禁はもうそれでいいと、こくこくと頷く。これで、二人も外で密着しているが酔っ払いのように見えてしまう。
すると男女のカップルが近くを通ったが、男同士で酔っ払っている場面にしか見えなかったらしい。それを見て視線をすぐに逸したようだ。絡まれないようにと、素早く立ち去って行った。
難をあっさりと乗り越えたので、夏侯惇は安心の意での溜息をつく。だがそこで于禁はとあることに気付いたらしい。一瞬だけ夏侯惇を見てから何かを言おうとしたが、躊躇が押し入ったのか口をつぐむ。
対して至近距離なので于禁の様子など分かっていた。なので夏侯惇はこのままの体勢で問う。
「何か言いたいことでもあるのか? 先程のクレームは受け付けんぞ」
「あの……今の私が、お分かりでしょうか?」
内容の全てを省き、とても気まずそうに于禁が返事を吐く。それがとても悶々とした夏侯惇は「分かる訳が無いだろう」と、怒りを含ませた声音で言った。于禁を睨みつけながら。
すると多少の怯えを覚えたのか于禁の犬のような耳が垂れていくと、様子を伺いながら思ったことを話していった。だがその途中で夏侯惇が打ち切る。
「私は嗅覚が一時的に鋭くなっているので分かってしまいましたが、夏侯惇、貴方は私のように、満月の夜になると、女性器があら……」
「そうだ」
次第に于禁の顔が赤くなり、夏侯惇から顔を離していく。しかし夏侯惇は于禁の顎を捉えると、はっきりと肯定した。
于禁は予想外のリアクションに驚き、何を言って良いのか分からなくなる。「そうですか」と言えば良いのか、あるいは「大変ですね」と言えば良いのか。頭の中で返事を探し続けていると、夏侯惇がジャケットを于禁に返した。
そこで数々の言葉と共に、夏侯惇の熱気が溢れてくる。体中の血管の活動が活発になり、心臓が大きく鳴っていた。この満月のせいなのだろう。于禁はそれを微かに、良くなってしまっている耳で聞き取る。
「俺はこのことを誰にも話してはいなかった。だが初めてお前に知られた以上、責任を取って貰うぞ」
唇をぐいと近付けると、触れる直前まできた。しかし夏侯惇はわざと寸止めしてから離すと、膝を上げて于禁の足の付け根辺りを探る。脹らんでしまっていると予測していたが、当たっていたようだ。
思ったよりも大きな膨らみを膝で突きながら、ニヤリと笑う。于禁は否定の為に恥ずかしそうに首を大きく横に振るが、明らかな証拠がすぐそこにある。言い逃れなどできない。頭にある、犬のような耳を見られた時と同じように。
「家が近い方に行くぞ」
夏侯惇がその後に最寄り駅を告げた。于禁も続けて言うが、于禁の方が現在地から近いようだ。歩いてすぐそこで、二〇分程度。夏侯惇は上げていた膝を下ろしてから、早く行くぞと于禁を促す。
于禁はどうしてこうなったのかと、眉間に深く皺を寄せた。だが夏侯惇の背中が見え始めると、着いて行かなければと思ってしまったらしい。犬の習性を一時的に持ったせいだろう。于禁はそれに困惑しながら、夏侯惇と共に暗い道ばかりを歩き続けたのであった。特に何も話さないまま。
于禁の家であるマンションに辿り着くと、幾つかの階層をエレベーターで昇る。于禁は今の自身の様子を見られることが、気が気でなかったらしい。しかし夏侯惇はそのことについて気に留めなかった。幸いにも、マンションの住民を一人も見かけなかったからだ。
そして于禁の部屋の玄関の扉がばたりと閉まるなり、夏侯惇はあまりの興奮にすぐさま于禁に抱き着いた。無防備であったので、廊下に背中から倒れると、夏侯惇はその上に我慢がならないと馬乗りになる。どちらが『犬』なのか分からなくなったらしい。薄く笑うと夏侯惇が「何を笑っている?」と指摘した。
「いえ、何でもありませぬ。それより、シャワーを浴びなければ……」
「別にいいだ……うわ!」
夏侯惇がいやいやと首を振ってから、于禁の体に手を巻き付かせようとする。しかし于禁がそれを振り払い、夏侯惇の腕を掴んでから共に体を起こしていった。
不満げな顔を見せた夏侯惇だが、于禁は膝立ちになってから夏侯惇をゆっくりと立ち上がらせる。于禁にも、同じ限界がきているがそれに耐えた。
頭上から小さな舌打ちが聞こえたが、于禁は夏侯惇を支える。だが夏侯惇もほぼ同じ体格であるので、まともに歩けない。ふらついてしまっていた。なので壁をつたい、浴室へとのろのろと歩いて行く。
途中で夏侯惇が于禁の首に顔を近付けると、歯を弱く立てながら唇で触れる。擽ったく更にまともに歩けなくなると思った于禁は、夏侯惇に止めるように注意をしようとした。しかし時折見える夏侯惇の発情している瞳を見て、後頭部をやんわりと撫でてしまう。
「ん……うきん……」
甘えるような声で、首に頬擦りをした。夏侯惇の髭が当たるので少しの痛みがあるが、于禁は足を止めてから夏侯惇と触れるだけのキスをする。唇が離れると、夏侯惇が「もっと」とせがむ。犬のような耳に触れようとしたが、届かないらしい。そこで于禁はもう少し待って欲しいと言って、歩みを再開させた。
玄関から浴室までの距離がとても短いというのに、于禁はやけに長く感じた。夏侯惇を支えているせいなのか、まだこの間が続いて欲しいという無意識な願望が叶ったおかげなのか。どちらの理由もあると思いながら、于禁は到着したばかりの脱衣所で夏侯惇のジャケットを乱暴に脱がせる。特にワイシャツは、ボタンを外すということが手間らしい。引き裂こうなどと、于禁は僅かに思ってしまう。
余裕などもう無い。次々と夏侯惇の服を取り払うと、最後はスラックスと下着が残っていた。その最中にも軽い口付けを何度もしていく。そして于禁は、自身の犬のような耳に触れさせた。黒色ではあるが、思ったよりも毛がふわふわとしていて柔らかい。夏侯惇はふわりと笑った。
「……ッ!?」
夏侯惇からの視線はとても柔らかい。だが于禁は硬いもので殴られたような衝撃を頭部に感じ、しばらく目眩がしてきていた。于禁は犬の習性として夏侯惇を捉えているのではなく、人間の習性として夏侯惇を捉えてしまったのだ。つまりは、一瞬にして夏侯惇に惚れたらしい。ついさっきまで、強い犬の習性に従っていたというのに。
なので于禁の服を脱がせる手付きが突然に穏やかなものに変わっていき、夏侯惇の表情が動揺に染まっていく。
どうしたと聞こうとしたが、于禁は犬のように夏侯惇の頬や首に舌を這わせる。両者共に髭がどこかに当たるので、顔の形が留まる程度に歪めた。于禁はその感覚に少しの不快感を覚えながら、夏侯惇のスラックスに手を伸ばす。この下にある、満月の夜だけに現れる女性器を晒す為に。
まずは膝を開いてからベルトをスムーズに外していくと、スラックスのチャックを降ろす。内側が既に体液に塗れている黒い下着が見えてきた。
夏侯惇はそこで恥ずかしさが湧いてきたのか、足を閉じようとした。于禁が体を間に挟んで阻止をすると、夏侯惇が体をじたばたと弱く動かす。だが于禁はびくともしてくれないので、夏侯惇の足の力が弱まった。恥を捨てて観念してくれたのか。
「夏侯惇殿、早く見せて下され……」
「ん……」
膝を上げると、于禁はまずスラックスを足首の辺りにまで下ろした。夏侯惇はこれで、下着と靴下しか身に着けていない。
その格好がとてもいやらしいと考えながら、靴下を脱がせてから下着のゴムに手を掛ける。膨らんでいる箇所に、半透明色の染みがうっすらと見えた。その下のあたりからは、透明でぬるついた液体が下着の隙間から流れ出てきている。夏侯惇の下着は、精液と愛液で濡れてしまったのだ。
ごくりと喉を鳴らした于禁は、ゆっくりと下着を降ろす。まず見えてきた立派な男性器を凝視しながら、根元部分にある女性器を確認した。確かに本物の女性器で、割れ目からは愛液が未だにとろとろと流れている。床にそれが落ちると、微かに水溜りになっていった。
「俺のがもう、こんなに……」
于禁がその恥部を凝視すると、息遣いが荒くなっていく。明らかに性の対象を向けられているので、嬉しくなった夏侯惇は于禁のワイシャツに手を伸ばす。ボタンを外そうとするが指がもつれた。なのでただ、ワイシャツの生地を指の腹でやわやわと撫でることしかできないでいる。
それが焦れったいと思った于禁は、夏侯惇の指を退けてから急いでボタンを外した。
「何を遊んでいるのですか」
全てを外してから脱ぐと、スラックスのベルトも外していく。チャックを下ろしてから、下着ごと取り払った。ようやくここで二人とも肌のみが見える姿になると、于禁は夏侯惇の手を引いて浴室に入る。
しかし于禁はシャワーヘッドから湯を出さずに、夏侯惇を壁に追いやった。先程の続きのように唇を合わせると、夏侯惇の手を取ってから指を絡ませる。二人の指先に、強く力が入った。そのときに于禁の犬のような耳が、感情とリンクしているので若干揺れていて。
「ん、ん……んッ、ぅ……ん……!」
侵食をする勢いで、于禁は舌で夏侯惇の口腔内を責めていく。夏侯惇は口にあまり力を入れられないので、侵入させることは容易かった。突然に這いずってくる舌に驚いたが、上顎をぬらりと撫でられると瞳も思考も落ちてしまう。指先に込めた力が抜けていく。
その感覚をすぐに拾った于禁は唇を離し、ようやくシャワーコックを捻った。湯が出ることを確認した後に、夏侯惇の頭頂部からゆっくりと全身に掛ける。
普段はかきあげている髪が落ち、外見年齢が低くなった。しかし生えている髭により、それを抑制している。その姿を初めて見て可愛いと思った于禁は、笑みを大きく浮かべた。
「私の前では、ずっとその姿で居て下され」
「は……ぁん、ん……」
興奮により夏侯惇は言葉を上手く理解できなかったらしい。首を傾げたが、その様子も于禁からしたらとても良いものとしか思えなかった。額に静かに唇を落としてから、自身の体も濡らす。
ボディソープを適量手の平に出すと、泡立ててから夏侯惇の体を優しく撫でていく。子供の体を洗ってやるように、慎重に。だが夏侯惇は時折に擽ったいと感じるのか、身をよじらせた。当然、于禁は夏侯惇の体を手で固定していたが。
泡がどんどんと下に降りていったが、局部には手を伸ばさなかった。そこを避けて足の付け根に触れたところで、夏侯惇の表情が一変する。まるで性感帯を触れられているかのように、熱い吐息が出てきたからだ。
「んぁ、あ……ッ、ちがう……」
于禁の手を引き寄せようとしたが、力を上手く入れられない。意図に気付いた于禁だが、気付かない振りをするとそのまま膝まで泡が進んだ。そして足首にまで届くと湯を掛けて、自身の体も同じように泡を纏わせた後に洗い流す。
とても雑であるが体を洗い終えた于禁は、夏侯惇を再び支えながら浴室を出た。その時の夏侯惇の体は湯で暖められたので、全身がほんのりと赤みを帯びている。特に足の付け根のあたりは日焼けを全くしていないのか、真っ白な色合いが良いと思えた。
バスタオルを掛けるまでの手間は、もう作りたくなかったらしい。于禁は夏侯惇と共に脱衣所から出ると、廊下に出て寝室へと向かった。
「夏侯惇殿……好きです……」
入ってからベッドに共に倒れ込むなり、于禁は夏侯惇を抱き締めた。そして告白をしていたが、犬のような耳がゆらゆらと揺れている。夏侯惇は頷いてから、それに触れて抱き締め返す。
ベッドから軋む音を鳴らしながら、于禁は夏侯惇の首に舌を這わせた。匂いや皮膚の感覚を改めて感じ、于禁はより舌で舐めたくなったらしい。夏侯惇の体勢をわざわざ変え、うなじにまで舌を進める。
「夏侯惇殿……夏侯惇殿……」
元から低い于禁の声が、より一層に低くなっていく。それを耳元で聞いた夏侯惇は、思考を震わせる。股から粘液を更に垂らすと、シーツの上にたらたらと落ちていく。すると夏侯惇の体が小さく震えた。
「うきん、すき……」
シーツに顔を伏せていた夏侯惇は、何もかもに耐えられなくなったらしい。どこも疼く自身の下半身に手を伸ばしてから、まずは股の割れ目に指で触れた。くちゅりと音が鳴ると、そこから止まらくなったのか夏侯惇は指先を挿し込んだ。粘液に塗れているので難なく入ったが、于禁がそれを阻止してしまう。
「勝手には、いけませぬ」
「っや……ぁ、だって、だって、もう、やだ」
夏侯惇は喉から懇願の声を吐き出すと、于禁は仰向けに体勢を変える。
そこで下から于禁の顔を見ている夏侯惇は、犬ではなく狼だとしか思えなくなったらしい。なので自分が草食動物だと思えてくると、今から隅々まで食われる腹積もりで足を開いた。股のどこも誘うように丸見えになり、于禁は改めて見てから喉を鳴らす。
「うきん、きて……」
「はい」
于禁が股に手を伸ばすと、立派な竿ではなく桃色の割れ目に指先を挿れた。そこに自分以外の指が触れるのは初めてだったらしい。夏侯惇が小さな悲鳴を上げたので、于禁は「大丈夫」と言うように覆い被さってから唇を柔らかく合わせる。目を見開き、瞳が揺れた。于禁の暖かな息と舌が唇に触れると、夏侯惇はその感覚に一時的な安心感を覚えられたらしい。目が細くなっていき、体に力が抜けた。
そこが処女なのは分かっている。なので唇を離した于禁は、股を指の腹で弄り始めた。粘液の浅い沼を、掻き分けるようにだが優しく。
「うァ!? は……ん! ぁん、ア、っや……ぁ!」
男性器では感じたことのない別の善い快楽に、夏侯惇は混乱した。血管が張り巡らされている竿からは先走りが滴っており、とても淫らな光景としては相応しい。
しかし夏侯惇は若いとは言えない年齢なので、少なくとも一度くらいは自身の慰みにでも利用したことがあるのだろう。そう思った于禁は、質問をしてみる。
「ここを、ご自身だけで使ったことはあるのでは?」
「ッは……あるわけ、ないだろう……!」
多少の怒りが乗った答えが来た瞬間に、股から流れ出る粘液の量が増した。于禁はその態度がとても愛しいと思いながら眺める。
短い相槌を打った于禁は、指を第一関節まで埋めていく。中はどこも熱く、肉は侵入を拒むように閉ざされている。処女である証拠を、改めて知った于禁は関節を動かして指で粘液の至る場所に触れた。
その反動で夏侯惇は体が跳ねたが、未知の感覚にまだ興味があるので自ら落ち着かせていた。于禁は再び口付けをしながら関節を動かす。
粘液が動く音がより聞こえ、そして遂に竿からの先走りも混じっていく。
「ぁ、い、ァ……ア、っは、きもちいい……ん、ぅあ……ぁ」
「それは良かった」
そう言いながら、于禁は第二関節まで挿れようとした。手首から捻り、第一関節をぐにぐにと動かす。奥にいくにつれ狭くなっていので、于禁はより慎重に中を解していく。
だがそうしていると、股が雄を受け入れる気になったらしい。ただ狭い場所だけであった粘膜が、今では于禁の指を締め付けてくる。それを感じ取ったので指をゆっくりと引き抜いてから、まずはベッドサイドに置いてあるゴムを取り出した。
于禁のものも血管が浮いており、とてもグロテスクな外見へと変貌してしまっている。ゴムを開封すると、慣れた手付きで竿に被せていく。
「夏侯惇殿、貴方が守ってきた処女は、私が頂くので」
夏侯惇から無言で収縮している中で、于禁は竿を割れ目に向かわせる。そして粘膜が溢れている箇所に先端をぴとりと付けると、夏侯惇が「やるから、はやく……」と呟いた。于禁はその反応に微笑を浮かべてから、竿を割れ目の中にめり込ませていく。
やはり人並みではない大きさなので、夏侯惇は痛そうにしていた。冷や汗を流し、表情がとても険しいものに一変したからだ。しかし粘液が大量に流れているおかげで、いい潤滑油となり続けてくれる。肉は歓迎をするかのように、竿に触れられると入る隙間を生み出す。
「あッ、ぁ! ん、く! ふぅ……ンっ……ぁ、ぐ……!? あっ……ぁ……?」
苦しげに受け入れていたが、途中で于禁のものが何かにぶつかったらしい。汗が引いていく。
だが于禁はぶつかった原因を知っているので、腰をぐいと強く押した。すると何かが破れる音が聞こえ、夏侯惇は血の気が引く。
「貴方の処女膜が、破れましたよ。おめでとうございます」
腰を止めてから于禁が嬉しげにそう囁くと、夏侯惇の下半身を見た。恐らく中で血が留まっているだろうと思いながらも、腰で夏侯惇の股を小さく揺すっていく。于禁の犬のような耳が揺れ、夏侯惇はそれをぼんやりと見る。
「ぅあ、あ、あっ、ぁ……ッひ、ゃ、あ!」
すると中を擦られるだけで、とてつもない快楽に襲われた。夏侯惇は割れ目から粘液と共に血を垂らし、竿からは精液を噴き出す。恥骨のあたりを痙攣させながら、夏侯惇はひたすら喘いでいた。
「やだ! ぁ、これ、きもちいい! ひ、ゃあ、ぁ、うぁ、ァ! イく、イく!」
そして背中を緩やかに逸した後に、体を大きく震わせた。夏侯惇は股で大きな絶頂を迎えたのだ。
中では収縮を繰り返しながら締め付けていたので、于禁のものをぎゅうぎゅうに縛るくらいに狭くなっていた。なので于禁は呻き声を上げながら、ゴムの中で射精をする。
「ぐ、ぅ……!」
夏侯惇は荒い息を上げながら、于禁を目でぼんやりと捉える。それに気付いた于禁は、竿をゆっくりと抜いてから夏侯惇をそっと抱き締めた。呼吸を整えてから、口を開く。
「好きです。貴方が一晩だけこの体になることなど、関係がありませぬ。貴方という存在が、好きです」
「だ、だが……」
少しだけ落ち着いてから出た于禁からの告白に、夏侯惇は迷いが生じていた。だが于禁から向けられる瞳は、真剣そのものである。
すると夏侯惇の気持ちが于禁と同じになってしまったと気付き、心の中にあった迷いはどこかへとすんなり消えて行ってしまう。腑に落ちた夏侯惇は、心臓が高鳴っている于禁の体をそっと抱き締め返した。
「……満月に秘密を抱える俺たち同士なら、さそがし相性は良いだろうな」
次に于禁の犬のような耳を撫でた夏侯惇は、かなりの負担を受けたせいで眠たそうな表情へと変わっていく。しかし于禁は夏侯惇をそのままにしておくわけにはいかない。優しく包んでからゆっくりと立ち上がると、脱ぎ散らかしたスーツが床に放り投げてある脱衣所へと向かう。
そして軽くシャワーを浴びると寝室に戻り、于禁は夏侯惇と共にベッドの中で眠ったのであった。互いに今までで一番、幸せだと思いながら。