クスィーガンダムに搭乗していたハサウェイは、連邦の仕掛けたビーム・バリアーにより全身に火傷を負った。そして打撲さえしていた。しかしメッサーに搭乗していたガウマンがどうにか助け、ペーネロペーを退けて遠くに不時着した。オーストラリアの、僻地である。
見ているだけで苦しそうなパイロットスーツは脱ぎ捨て、二人とも軽装で居た。その中で、ガウマンはハサウェイを肩に担いで走っている。
ハサウェイ程度の人間であれば、抱えて長距離を走ることができた。ハサウェイの体の軽さで、クスィーガンダムを操縦していたことを改めて関連付ける。だが外部の者であれば、信じられないと思うのだろう。このような温厚で戦いとは無縁そうな青年が搭乗していたのだから。
両者が搭乗していたモビルスーツは、適当なところで投棄して連邦の捜索から逃れられた。奇跡である。今頃は、連邦がクスィーガンダムを興味深げに見、どこで製造されたのか調べているところなのだろう。パイロットは、どこにも居ないのだから。
そしてどこなのか分からない山の奥深くに逃げ込む。ここは環境汚染を免れており、美しい自然が広がっていた。木々は生い茂り、どこからか水が流れる音がする。ここは少し深い山なのだろうか。
「……は、はっ……ハサウェイ……どうにか、撒けたみたいだ」
自然を見ながらハサウェイの体に目をやるが、喋ることができないようだ。そういえば、モビルスーツから脱出してから喉に水を通させていない。体を火傷したならば、粘膜は酷い状態の筈だ。今できることといえば、水を飲ませることなのだろう。それに気付いたので、川を探し始めた。ここの水ならば、綺麗だと思い。
周囲を探していれば容易に見つかる。どこからか吹く風が導いてくれたのだ。
「ハサウェイ、水、飲めるか?」
草の上にハサウェイの体をゆっくりと下ろした。地面に接したところでハサウェイが呻き声を上げるが、痛そうにしている。火傷した皮膚に圧迫感が生じたせいなのだろう。だが治療する術など持っていない。川の水で汚れた手を洗った後に、手のひらに掬った。水は透明である。
ハサウェイの口元に差し出すが、やはり火傷は酷い。しかしハサウェイは飲むことを拒むので、閉じている唇に近付けた。それでも拒んだ結果、火傷した皮膚に水が掛かった。ハサウェイが痛みに絶句する音を、喉から鳴らす。
「ハサウェイ……」
謝るということが思いつかなかった。とにかく、今はハサウェイに水を飲ませることに必死なのだ。そして考えついたのが、口移しである。自身のような人間で悪いと少し思いながら、水を口に含む。ハサウェイの唇と近付けた後に重ねた、その瞬間にハサウェイの口腔内に水を流していく。喉が、ごくりと音が鳴った。水を飲むことができたらしい。
そこで抵抗されたものの、力が出ないようだ。なのでしっかりと水を移してから唇を離した。ハサウェイが小さく何度か咳き込むと「ガウマン……!」と名を呼ぶ。ハサウェイはようやく、喋ることができたのだ。
「ハサウェイ、もう大丈夫かもしれねぇが……医療キットはない。ここで、体を少しでも清潔にしよう」
「うん……」
水を飲ませてからハサウェイの様子は急激に落ち着いた。やはり、喉が乾いていることがあったのだろう。安心をしながらハサウェイが着ているものを脱がせていく。Tシャツに、簡単なスラックスと下着だ。パイロットスーツのおかげで少しはまともな見た目をしている。
全ての肌を見れば、やはり全身に酷い火傷を負っていた。通常の皮膚にはない赤色や黒色がある。
「ッ……!」
「痛いか? 我慢してくれ……」
自身の無力さに少しの絶望をしながら、ハサウェイが着ていたTシャツを濡らす。硬く絞った後に、ハサウェイの黒くなった皮膚を優しく拭き始める。まずは顔だ。
やはり痛みがあるらしく、顔を歪めているかのように見えた。悪いことなど何もしてないのに、罪悪感に襲われる。しかし仕方ないと言い聞かせながら、顔を拭いていく。どうやらハサウェイの顔にある黒色は、すすのようだ。拭き取ることができ、ハサウェイのアジア人特有の薄い顔がよく見える。
同時に黒色が移ったTシャツを川の水に漬ければ、濃い黒色が滲み出てくる。綺麗にした後に、もう一度ハサウェイの顔を拭いた。痛みに慣れたのかは分からないが、先程よりかは反応が薄い。
「……ぅ、はぁ、は……ガウマン、ありがとう」
ハサウェイの顔には、悲しみだけが見える。それに反射的に謝ってしまった。そこで自身がモビルスーツ戦にて、サポートをしっかりとしていればと後悔が滲んだ。先程の黒色のように。
「ハサウェイ……すまねぇな……」
そう言いながらハサウェイの細い体を抱き締める。火傷で痛みがあることは承知の上で、空を見る。広く青い空が、広がっていた。
「だが、ハサウェイ……あんたが生きてくれて、俺は、それだけでいい……俺は、あんたの下でしか、もう生きられねぇんだ……」
本心である。嘘ではない。嘘ではないのだ。
「……やめてよ、ガウマン。僕は、もう、作戦に失敗した組織の情けないリーダーだよ……そんなことは……」
ハサウェイがそのような言葉を述べるのだが、相変わらず体を抱き締めていた。もう、離れないように力強く。
「……ッう……みず……がう、まん……」
流暢に喋っていた筈のハサウェイの口からは、水を求める声がした。急激に喉が乾いたのだろう。急いで水を口に含んでから、ハサウェイと唇を合わせる。水を流し込めば、ハサウェイが飲んでくれた。自身にしては細い喉が、こくりと鳴る。
「ん、んぐ……は……はぁ……ガウマン、ありがとう……」
そういえば他のメンバーが、この国でどうにか暮らせるようにと口座はあるのだろうか。今は撤退をしてどれかの『木』に居ることは分かるのだが、口座が分からない。
このまま、ハサウェイと共にここで死ぬのかと思えた。しかし自身の人生は、ハサウェイに捧げたようなものだ。忠誠を誓った者と共に死ぬのであれば、悪くはない。そしてハサウェイを見るのだが、やはり火傷の痛みで苦しそうだ。
着ていた衣類は清潔にして、乾かしてから着せて移動しようか。そう思いハサウェイが身につけていた衣類を川に漬ける。黒色の滲みは出ていないことに安心しながら、次はじゃばじゃばと洗っていった。何度か水しぶきを上げた後に取り出してから、硬く絞って広げた。綺麗な岩の上に置いたあとに、自身が着ているTシャツを脱いでハサウェイに着せる。上半身だけではなく、下半身まで布に覆われていく。体格差がよく分かった。
「それで、少しは我慢してくれ」
「うん……」
空を見れば雲など一つない。それに気温は高めなのだが、陽が暮れたら冷えることだろう。ハサウェイの服を乾かしてから、どこで眠るのか考えた。自身は良いのだが、ハサウェイは眠らせなければならない。
何か持ち物が無いか調べたところ、ポケットに紙片があった。よく見れば、それは誰かが入れたらしいメモだ。そこには、オーストラリアの有名な銀行の名前と数字だけ。下にはサインがあり「イラム」と書いてある。イラムが、非常時にこっそり入れてくれたのだろう。
今頃、他の者たちは何をしているのだろうか。そう考えた後に安心をし、ハサウェイを見る。
「ハサウェイ、しばらく潜伏をしよう。仲間と合うのは、少し先になりそうだが……」
「ガウマン、僕は……僕は……もう死んだことにして欲しい……もう、僕には……マフティとして居る自信が無いよ……もう、今の僕には、何もできないんだから……水だって、一人で飲めないんだから……」
ハサウェイは明らかに絶望をしていた。だがそのような顔など、見たくはない。首を横に振り、ハサウェイの体を抱き締める。刺激に痛みがあると思うが、今はそれどころではない。
「ハサウェイ……! 俺たちは、生きている。だから、やり直せるんだ……! なぁ、ハサウェイ……! やり直そうぜ!」
諭すがハサウェイは沈黙をしていた。考えは変わらないらしいが、自死という選択肢は今のところは見られない。ならばそれで良い。
これから小さな町に二人で生き、しばらくしたらもう一度説得しようと思った。ハサウェイの怪我が、少しでも回復すれば。
上を見れば、まだ太陽は出ている。一晩は野宿することになるのだが、ここの天候をあまり把握していない。もう一度冷えるのだろうかと思えば、連邦軍に居た頃のサバイバルの知識を思い出す。火を焚く準備をする為には、木が無ければならない。幸いにも周囲には小枝や葉が落ちており、ハサウェイから離れずに済む。だが視界に大きく入る範囲で離れながら小枝などを拾い集めた。自身の大きな腕に、抱える程に。
火は確保した。次に食料なのだが、目の前には水がある。人間、水さえあれば何日か生き延びることができるだろう。充分に、凌げると考えたところでハサウェイと体を離す。焦げた眉が、少し下がっていた。
「僕のことは、もういいよ……もう、僕のことはいいよ……」
「よくねぇよ。何でだよ」
自身一人であれば下山しているが、今は大怪我をしたハサウェイが居る。見放すことなど、できない。やはり自身の人生を導く存在だからだ。いや、寧ろ見放す考えなどない。
また水を飲ませてやれば、ハサウェイの心は落ち着くのだろうか。水を口に含んでから、ハサウェイの口に流していった。ハサウェイが息を吐く音が聞こえるのだが、やはり落ち着いたらしい。
そこで思い出したのだが、ハサウェイに口座の存在を知らせなければならない。仲間の一人であるイラムからと言えば、希望を見出してくれるだろう。ズボンのポケットから、紙片を取り出した。
「ハサウェイ、近くの町で、一旦立て直そう。イラムが、俺に口座を教えてくれていたらしい」
「もう、僕には分からないよ……」
すると体力が尽きたらしく、上半身をふらふらと揺らす。これは倒れる余地なのではないのかと思い、急いでハサウェイの体を抱き留めた。案の定、予想が当たっていた。ハサウェイの細い体を抱き締める。
「ハサウェイ……」
そう呟きながら、ハサウェイが眠っている様子を見ていた。
夜になったので火を起こすのだが目を覚まさない。濡らして洗った服は乾いていたので、ハサウェイにそっと着せる。ようやく人らしい姿になれば、何故だか眠気が襲ってきた。いけない。ハサウェイを守らなければならないのに。律しようとしたのだが、本能には抗えなかった。せめてもの抵抗としてハサウェイの体を抱き締めれば、そのまま意識を落としていく。何も、起こらないと願いながら。
太陽が昇ると共に目を覚ました。起こしていた火は消えており、周囲を睨むが何の気配もない。あるとしたら、小動物くらいだろうか。人の気配は無さそうだ。腕の中で未だに眠っているハサウェイをちらりと見てから、警戒を解く。そしてハサウェイの顔を覗けば、眉をしかめながら眠っていた。眠ってもなお痛むのだろう。
ハサウェイが起きればこの山を出ようと思った。川を伝えば出れると思った。なので水の心配はない。
空を見上げた後に、過去に得ていたサバイバルの知識の引き出しを数個開ける。そうしていれば、ハサウェイが目を覚ました。第一声は「痛い……」だった。
「痛むか……少しの辛抱だ」
まずは水を飲ませようと、口に含んだ。もはやハサウェイとの行為は慣れてしまった。最初から嫌悪感などは無かったので、何も問題はない。ハサウェイの喉に水を流す作業をした後に、話し掛ける。
「この山から少しでも出るぞ」
ハサウェイは何も言わなかった。否定すらもしない。痛みで、それ以外のことを考えられないのだろうか。皮膚になお残る火傷の痕がそれを物語る。
次は背中にハサウェイを背負う。そして立ち上がれば、すぐに歩き始めた。再生への路も、長くなると思いながら。
小さな町に着いたのは、月を二度見た頃である。上には、太陽があった。
自身は勿論疲弊をしているのだが、それよりもハサウェイの様子が心配であった。途中に時折でも自身の背中から下ろし、地面の上に寝かせてから口移しで川の水を飲ませる。作業となりつつあるそれに、ハサウェイは拒むことはない。喉を潤した後に自身も喉を濡らすのだが、気持ちがよかった。染み渡るようだ。
小さな町に来たのだが、連邦の攻撃の流れ弾から逃れに来た者も居るらしい。道行く人々の身なりで分かった。きちんとした服を身に着けた者も居るのだが、自身たちのように服がぼろぼろの者も居る。落ちている新聞があったのだが、マフティーを名乗る者が次々と現れて連邦に攻撃を仕掛けているらしい。溜め息をついてしまう。
道にATMがあるのだが、壊れてはいない。治安が悪くないことが分かれば、早速に金を引き出した。おおよそ、30オーストラリア・ドルを引き出せば、そこで口座は空になる。最低限に生き、そして再生への路を歩くには充分の額だ。金を握りしめてからポケットに突っ込むのだが、ハサウェイの治療が先だ。適当なホテルを探してから部屋を取れば、ようやく室内で落ち着くことができる。早速にハサウェイを清潔なベッドに寝かせ、話し掛けた。
「少しは楽になったか?」
「うん……」
返事は来た。だが不服そうにしているので、また口移しでも水を飲ませた方がいいか。そう思ってハサウェイが横になっているベッドから離れて部屋を確認した。まずはここはごく普通のホテルであるが、アメニティは充実している。コップが二つに、飲料水の入ったペットボトルが数本。それに歯ブラシなどがあり、コップと飲料水を取ってからハサウェイの元に戻った。
サイドチェストがあるのでその上にコトリと置いてから、ペットボトルを一旦開封してから少しだけ緩める。それにポケットから札束を出してから置いた。
「……これでいつでも好きな時に飲めるだろ」
「うん……」
やはり心が弱っているのは変わらないのだろうか。それならばその心を戻さなければならないし、体の火傷を治さなければならない。宿泊費で少し消えてしまったが、残りの金はまだある。しかし継続的に治す金はないのだ。
少し考えた後に、ハサウェイを一人にしてしまうがどこかで金を稼ぐしかなかった。しかし肝心のどこで雇ってもらうか考えていれば、ハサウェイが思考を読んだかのように口を挟む。
「僕の治療費はいらないよ。このままでいい」
「駄目だ」
やはり元軍人というステータスや人生を捧げても、ハサウェイの土台になりたいのだ。言葉に否定をした後に、まずは手持ちの金で薬を買おうと思った。買うとしたら軟膏と鎮痛剤か。そう考えながら、そういえば体を清潔にしていないことを思い出した。まずは顔を見るのに必死だったからかもしれない。
急いでハサウェイの体を起こすと、シャワールームに連れて行った。手慣れた様子でハサウェイの服を脱がせてから、自身の服も脱いだ。ハサウェイの裸体を見れば、やはり酷い火傷を負っている。赤い箇所や黒くなっている箇所が多数。だがまずは清潔にするには流水で流すしかないので、仕方なく冷水をシャワーヘッドから出す。それを、ハサウェイのまずは腕に掛けていった。
「痛いが、我慢してくれ」
「うん……」
見れば顔を歪めていた。やはり痛いのだろうかと思いながら、心を鬼にして全身に水を流していく。黒い部分が少しは剥げていく同時に、ハサウェイが呻き声を上げた。激痛らしい。
「痛いだろうが、我慢してくれ……! お願いだ、ハサウェイ……!」
勿論、自身の心は傷ついていた。やはりハサウェイのこのような姿は見たくはないのだ。痛みに苦しむ姿など。
なので更に心に傷をつけていきながら、ようやくハサウェイの体を清潔にできた。自身の体も清潔にしてから、脱衣所に出ればハサウェイの足元は覚束ない。体を支えながら周囲を見れば、洗濯機があった。先程脱いだものを全て投げ入れてから、洗濯機を回す。乾燥まで自動でしてくれるらしい。
二人は全裸でベッドに向かい、そして共に横になった。ハサウェイの表情は、多少はましになっている。それに体を清潔にできて、心が安定してきているのか。
「服が乾いたら、薬を買ってくる。いい子にしてろよ」
「うん……」
ハサウェイから否定の言葉は無くなる。すると小さな欠伸を漏らした後に、自身の体に縋る。眠たいらしいので、頭を撫でながら「寝ろ」と言う。頷いたハサウェイは、目を閉じるとすぐに眠っていった。しかし欠伸が自身にも移ったのか、眠気が襲ってくる。洗濯が終わるまで少し眠るか、そう思いながら目を閉じた。ハサウェイにぴったりとくっつきながら。
目を覚ませば、日は暮れていた。薄暗い室内に気付いた後にハサウェイの顔を見る。すやすやと眠っており安心をする。現在の時刻を見れば、もうすぐ夜の七時であった。薬を買うには、どこの病院なども開いていないだろう。明日にすれば良いと思いながら、ベッドから出ようとした。これから冷えると思って、洗濯を終えた服を取ろうと思ったのだ。
そこで、ハサウェイに腕を掴まれる。起きているのかと思ったが、眠っているようだ。
「ハサウェイ……」
このまま振り払うことは酷いと思えた。自身のリーダーであった者が、弱っているのだが求めてくれているのだ。ぞんざいにするのは良くない。それにこの田舎であれば、適当な店はどこも閉まっているのだ。開いているところといったら、酒場しかないだろう。二人には相応しくないなので、行かない。自身だって、ハサウェイを放っておけないのだ。なので再びベッドの上に沈んでいく。
気付けばハサウェイの寝顔は初めて見る。卑怯だとも思いながら覗けば、年相応の顔をしていた。年齢は二十五だが、アジア人の血が流れているのでもっと幼く見える。自身から見れば、学生くらいだろうか。
このような青年がクスィーガンダムという兵器と同然のモビルスーツを繰り、そして連邦に敗れた。だが操縦は見事であった。新型であるし、誰も乗ったことがない。ハサウェイだって、初めて搭乗していた。それなのに上手く扱い、そして一歩手前まで来ていた。そのようなハサウェイを尊敬すると共に、やはりもう一度賭けたくなっていた。ハサウェイというニュータイプの素質がある者の下で、また反連邦の活動をすることを。
目を閉じれば、また眠気が襲ってくる。束の間と言うべきか、休息に体が馴染んでいく。今まで、ゆっくりと眠る機会がほとんど無かったからだ。ここは今、戦争とはほぼ無縁故に。
なのでそのまま、睡眠の底へと落ちていった。
目を覚ませば、外が明るかった。夜は越えたのだろうか。すぐにハサウェイの方を見れば、未だにぐっすりと眠っているようだ。不謹慎なのだが、これが永遠の眠りだと心配になる。口元に耳を寄せてみれば、寝息が聞こえた。まだ眠っているだけであった。
そういえば服を着ずに眠っていたのだが、ハサウェイは寒くなかったのだろうか。自身はそこまで寒くなかったのだが、人の肌同士が触れていたおかげなのか。仄かに温かい。そう思いながら、今度こそベッドから出る。もう、ハサウェイが手を掴むということは無かった。何だか寂しく思える。
洗濯機から服を取り出せば、きちんと綺麗になっていた。下着を身に着け、そして服を着てからハサウェイのものも出す。自身なりに丁寧に畳んだ後に、枕元に置いた。
サイドチェストから数枚の紙幣を取り出せば、そこで時計を見る。午前十時を回っており、どの店も開いているだろう。病院に行き、火傷用の軟膏と打撲用の鎮痛剤を買いたいと思った。勿論、ハサウェイは連れて行けない。自身だけで無理にでも、薬を入手するのだ。
「……ハサウェイ、行ってくる」
未だに眠っているハサウェイにそう行ってから、部屋を出た。カードキーをかざし、施錠をしっかりとしながら。
外に出れば、思ったよりも発展している町だということが分かった。連邦軍の兵士と時折にすれ違うのみであるが、まずいとは少し思う。素性は見られていないのだが、クスィーガンダムのパイロットの行方は追っていることなのだろう。それが、マフティー・ナビーユ・エリンなのだから。
見渡せば病院があった。それにドラッグストアもあり、運が良かったと思う。病院で薬を無理矢理買うわけにはいかないので、ドラッグストアに向かう。大容量の軟膏と鎮痛剤、それに約一日分の食料を買ってから出た。傍から見れば、普通の買い物客にでも見えていたのだろうか。
走ってでもホテルに戻りたい。だがそれですら怪しまれるので、ゆったりとした歩調でホテルに戻った。連邦軍の兵士一人とすれ違ったが、呑気に挨拶をされただけである。それに当然のように返しながら、ホテルに戻った。
部屋に入った。すぐにベッドが見えるのだが、ハサウェイが起きていた。体を起こし、こちらを見ている。服を畳んで置いていたのだが、まだ着られないらしい。それに胸元が濡れているのが分かり、手元には水が半分以上にまで減っているペットボトルがある。一人で飲もうとして、そしてできなかったのだろう。
急いで駆け付ければ、まずはハサウェイが持っていたペットボトルを手に取る。そして口に水を含んでからハサウェイと唇を合わせた。当然のように、口移しをしていた。
「ん、んぅ……」
喉がごくりと鳴った音がした。飲んでくれたことを確認してから唇を離せば、ハサウェイがこちらを見ている。顔や体には、相変わらず火傷や打撲の痕が残っていた。
「ハサウェイ、薬を買ってきた。まずは、鎮痛剤を飲もう」
「うん……」
ハサウェイに弱い心は、今は見えない。死にたがっている様子などはなく、水を喉に通したおかげなのだろうと思った。鎮痛剤のパッケージを開けてから、数錠をハサウェイの口に放り込む。そして先程のように水を口に含んでから、口移しで飲ませていった。そこで舌を突き出して錠剤が残っていないか確認してみるが、無いようだ。
安堵をしていたのだが、ハサウェイが苦しげな音を喉から出す。なので急いで唇を離した。ハサウェイを見れば、眉が大きく下がっていることが分かる。キスのようなことをしたのは分かる。だがこれは医療行為としてしただけなのだ。ハサウェイにそう説明しようとすれば、手を伸ばしてくる。
「ガウマン……僕……」
「どうした? 鎮痛剤が効くまでは、少し待ってくれ」
「違うんだ、ガウマン……」
ハサウェイが俯くのだが、どうしたのだろうか。そう考えながら視線を追えば、ハサウェイの股間のものが勃起しているのが分かる。生理現象だ。そう思いながら見た後に、それに手を伸ばした。今のハサウェイでは、処理などできる訳がないと。
「ハサウェイ、すまねぇが……」
「や、やだ、まって、ガウマン……僕……!」
嫌がっている。しかしそれでもハサウェイ一人でできる訳がないのだ。手のひらも負傷しており、細菌等が股間に渡れば大変なことになる。火傷や打撲どころではなくなるのだ。ハサウェイの手を掴んでから、顔を近付けた。ハサウェイは怯えている。
「一人でできるのか?」
「…………」
ハサウェイは黙りこくった。これは自身の言葉の通りだという証拠になる。なので手を離してから股間に手を伸ばし、そして握っていく。今の自身に、不快感などはない。義務感のみがある。なので自身としては小さな性器を握り、そして溢れ出る我慢汁を潤滑油にしながら上下に扱いていった。
「ッは……はぁ、ぁ……」
艶やかに喘ぐ。だがこれは性欲を鎮めるようにこなしているだけなのだ。そう思いながら手を動かせば、ハサウェイが簡単に達する。濃い白濁液を吐いた後に性器がゆるゆると垂れていく。性欲は鎮まったらしい。近くのティッシュで性器を拭き、そして自身の手を拭いた。
そこでハサウェイを見れば、泣いているのが分かる。
「僕、もう、情けないよ……」
「……許してくれ」
何と便利な言葉なのだろうか。即座にそう返してから、洗面所に向かって手を洗った。精液を洗い流すが、その途中でハサウェイの喘ぎ声を思い出す。やはり、あれは義務感であるのだと自身に言い聞かせる。しかし股間が疼くのが分かった。作戦前からご無沙汰であり、ハサウェイを性の対象として見てしまいそうになってしまう。
「耐えろ……俺……」
小さく呟きながら、手を拭いてからハサウェイの元へと戻って行った。少し、気まずいとも思いながら。
次はハサウェイの全身に火傷用の軟膏を塗っていくのだが、そこで包帯は必要なのかと思えた。しかし頻繁に塗らなければならない。ならば必要ないだろう。それに軟膏は幸いにも大容量のものであり、全身を塗っても全て無くなることはなかった。また買いに行く手間が省ける。
途中でハサウェイの熱がまた昂っていくようにも見えた。しかし先程のはやはりハサウェイとしては屈辱でしかなかったのだろう。顔の皮膚を動かすことは痛いようにしか見えないのだが、それを浴びながらハサウェイは険しい顔をする。その度に、自身の中で何かが湧く。それは性欲に似たようなもので、自身も抑えるの必死になっていった。
軟膏を塗り終えたので、手を洗うついでに手洗いで一人で性欲処理をしようとした。ハサウェイの体から離れようとしたのだが、吐く息がいつの間にか熱くなる。ハサウェイの裸体を見て、疼いてくるのだ。
「……ガウマン、僕には分かるよ」
「何がだ?」
ハサウェイの指摘が何なのかは分かる。だが知らないふりをしていれば、ハサウェイが手を伸ばす。鎮痛剤のおかげで打撲の痛みは無いらしく、動きは自然であった。その先には、自身の下半身がある。
「ガウマン、僕は、もうどうでもいいんだ。君は、僕に欲情してるんだろう? 利用すればいいじゃないか。僕を世話している対価だよ。少しでも払わないと」
先程ので感覚がすぐに狂ってしまったのだろう。少しだけ後悔をしながらも、生理現象なので仕方ないと思った。そう言い聞かせながら、ハサウェイの言葉をきっぱりと断る。
「……止めておけ」
心の中で舌打ちをしながらハサウェイの手を払う。さすがにそこまではさせたくないのだ。なのでハサウェイの意思を無視した後に手を洗いに行き、そして手洗いで一人で自慰をした。済ませた後にハサウェイの元に戻れば「どうして?」と言いながら、首を傾げている。
とにかくハサウェイには汚れて欲しくはないのだ。汚れるのならば、土台である自身で充分だ。そう思いながら、ベッドの縁に座る。
「打撲の痛みは、どうだ?」
「ん? 痛み? そういえば無いね。鎮痛剤のおかげかな。ありがとう」
打撲の痛みがない証拠として、手を上げてひらりと動かした。やはり手の動きが滑らかだ。不幸中の幸いとして骨は折れていないので、腕のラインは自然である。
「あぁ、いいんだ。水はもう一人で飲めるか?」
「それは、分からないかな……手のひらが、痛いから……」
火傷で物をあまり持つことができないということらしい。それならば幾らでも口移しで水を飲ませようと思った。或いは水差しがあればいいのだが、どこに売っているのか分からない。
溜め息をついてしまえば、他のことを考える。金のことだ。宿泊費と薬代は何とかなる。後は自身の最低限の服を買えばいいのだが、どうにも勿体無い。しかし動けるのは自身しか居ないのだ。そう言い聞かせながら立ち上がる。そしてハサウェイに偵察がてら服を買ってくると行って出た。ハサウェイは頷いていた。
ホテルから出れば、すぐに周囲を警戒した。まずは連邦軍の者が巡回していないかだ。制服を着ていない可能性もある。観光をするふりをしながら適当な服屋に入った。自身が着ている服はあまり目立たないものなので、この景色に溶け込めているのだろうか。そう考えながら適当な服を買った。ずっと同じ服では、怪しまれるからだ。
支払いを済ませて出れば、次は食料品を買う。まずは今日の分で、ハサウェイにはオートミールの類がいいのかと思った。スーパーに向かい、レトルトのものを買ってからホテルに戻る。部屋に入れば、変わらずハサウェイはベッドに寝ていた。
時刻は午後の三時を回るところであった。帰りは少し遠回りして、連邦の兵士が居ないか確認をしていたからだ。ハサウェイのことが心配であったが、仕方のない情報収集だと思える。この時間は、まだ情報の源である酒場すら開いていないので尚更だ。
「おかえり」
「あぁ、ただいま。飯は食えるか?」
「うーん、まだ食べられないかも」
短く「そうか」と返事をしてから、椅子に座って買った物を取り出して行く。自身の服と、それに食料品だ。ハサウェイの服も買いたいのだが、まだ着られる段階ではない。
火傷が治る過程として、水ぶくれがよく目立っているのが分かる。一週間程度でどうにかなりそうだが、それまでが長いと思えた。だが中には深い火傷もあり、数ヶ月は要するだろう。医師ではないが、経験則で分かる。
ハサウェイを診ている自身が倒れてはいけないと、簡単に食事をした。終えた頃合いに、ハサウェイが話し掛ける。
「ねぇ、ガウマン。言ったでしょ。僕は、もうどうでもいいんだ」
「……その話はもう終わっただろ」
今はハサウェイの全裸を見ても何も思わない。なので舌打ちをしてしまうのだが、ハサウェイは気にしていない様子だ。そこまで、対価にこだわるのはどうしてなのだろうか。
「今の僕にはなにもできないけど、それならできるんだ。だって、人間は誰しもできることを探す生き物だろ?」
言いたいことは分かるし、ハサウェイの言う通りだ。自身は生きているからこそハサウェイの世話ができるのでやっている。だがハサウェイの言うことは、あまりにも屈辱的なものなのだ。いや、自身もハサウェイにとって屈辱的な行為をしたのだが。
「俺は男の体には興味ねぇよ」
「何で? 僕に、欲情してくれたじゃないか」
「アレは溜まってただけだ。もう何もねぇよ」
そろそろ鎮痛剤を飲ませた方がいいのかもしれない。また口移しで飲ませ、口腔内に舌を入れて確認することになる。憂鬱だとは思わなかった。義務だと思えるのだ。
「ハサウェイ、鎮痛剤飲め。そろそろ痛んでくる頃だぞ」
「うん」
鎮痛剤を二錠手のひらに出し、ハサウェイの口に入れる。そして水を含んだ後に、口移しで水を飲ませた。喉からごくりという音が鳴った後に舌を差し込んで錠剤が残っていないか確認する。結果は無いようだ。このまま舌を抜こうとすれば、ハサウェイが舌を絡ませていく。
「ん、ん……!」
そのままぬるぬると舌が絡んでいけば、気持ちが良くなってきた。そのようなことなど良くないというのに、興奮は止まってくれない。すると次第に、下半身が元気になってきた。ゆるゆると勃起してくる。
しかし幸いにもハサウェイには見られていないのだが、すぐに知られてしまうことだろう。唇を無理矢理に剥がした。
「どう? 勃起した?」
そう聞いてくるのだが、嘘を述べる。だがハサウェイが下半身を凝視した後に「嘘だね」と言う。嘘などお見通しであった。
「駄目だ。お前は怪我人だ。俺はそこまで堕ちゃいねぇ」
「本当に? でも、体は正直だけど」
これには反論ができなかった。言葉を詰まらせてしまう。
「……あ、あんたは何もしなくていいんだ」
首を横に振ってからベッドの縁に再び座る。ぎしりと音が鳴った後に、ハサウェイが体を慎重に起こした。すると二人の顔が近くなる。軟膏の匂いがよくした。
「それじゃ狂っちゃうよ。暇すぎるんだもん」
「今度からは睡眠薬も飲ませるからな」
それがいい。反射的に口が開いたのだが、睡眠薬を飲ませるのは良いアイデアだと思えた。頭の中でメモをしていれば、ハサウェイがそれを断る。
「嫌だね」
そう言いながらハサウェイが下半身を触ってきた。咄嗟のことであったので驚き、何もできなかった。膨らんだ股間を触れられたのだが、やはり他人からの刺激は気持ちが良いと思えてしまう。その考えは止まってくれない。
「ッは……ハサウェイ、やめろ……!」
つい息を切らしてしまっていれば、ハサウェイが僅かに微笑む。その顔は、火傷を負っているのにも関わらずとても妖艶に見えた。ただ目を細め、笑みを浮かべているだけだというのに。
下半身が更に膨らんでしまえば、そこでハサウェイの手を振り払う。火傷のことなど忘れていたので、その直後に顔を歪めた。痛かっただろう。
「ハサウェイ……!」
「……っ! いや、僕は大丈夫だよ。それより、ガウマン……ねぇ……」
振り払った手はやはり痛かったらしい。だがそれよりも、自身の下半身のことが気になる様子だ。
「お前は、ずっと寝ていろ……!」
「酷いよ、ガウマン」
「酷いのはお前だ」
男同士のそれは分かるが、今はハサウェイは怪我人だ。手を出すなど言語道断である。それくらいは分かっていた。元軍人だということもある。負傷した者の辛さなどは、分かるのだ。
「でもね、ガウマン……僕の言う事は、いつか聞けなくなると思うよ」
「どういうことだ……」
謎の発言をしたハサウェイの顔を見るが、妖艶さは失われていない。じっと見てしまっていれば、ハサウェイが足を震わせながら開いた。ものは萎えているが、怪我をしてもなお分かる体のラインが美しい。つい、見とれてしまう。
「だって、ガウマンはガウマンでしょ?」
ハサウェイの言うことが、何も分からない。自身は自身とはどういうことなのか。そう思っていれば、ハサウェイの体の表面が乾いているのに気付いた。軟膏を塗り直さなければならない。軟膏のケースを取れば、すぐに手に取ってから、ハサウェイの体の上に覆い被さる。体勢からして、これが一番楽だからだ。その時にハサウェイの体を仰向けに寝かせた。
「ガウマン……」
「今は喋るな」
まずは顔に塗っていく。ざらざらとした皮膚にぬるりとした軟膏が塗られていけば、顔がてらてらと輝いた。それを見ながら首に塗り、そして肩に向かったところでハサウェイが息を吐く。それは、治療目的に触っている時としては相応しくない吐息の色のように思える。眉間に皺を寄せながらも、軟膏を塗っていった。
平らな胸に差し掛かり、そこも塗っていくが吐息の桃色の濃度が上がっていったような気がする。なので、つい口を開いてしまった。
「あまり息をするな」
「息をしないと、死んじゃうよ?」
ハサウェイの返す言葉には、無視をした。
次は腹のあたりを塗っていく。ハサウェイでも鍛えていたのだが、それでもやなり腰などは細い。華奢であるが、アジア人の血が混ざっているせいなのかもしれない。体質のせいなのかもしれない。そう思いながら下半身に差し掛かる。
「ねぇ、また触ってくれないの? ペニス」
「触らねぇよ。勃ってねぇだろ」
足の付け根から太ももを塗っていけば、次につま先を塗る。そひめ体を起こしてから背中や尻を塗っていけば終わりである。これは作業なのだ。苦ではなかった。
「じゃあ、僕を見ながら抜けば?」
「トイレで抜くよ」
そう言いながら体から離れようとしたが、本能がハサウェイの桃色の吐息を忘れられない。そして見れば、ハサウェイのものがどんどん勃起しているのが分かった。舌打ちをする。
「抜いてよ。一緒に」
ハサウェイのその頼みには、首を横に振った。
「一緒にはしねぇよ」
「どうして? 僕の言う事を聞いてよ」
「その頼みだけは聞けねぇな。お前に背くつもりはねぇが」
そう言いながら、ハサウェイの吐息を無視した後に下半身を見た。やはり若い故に今日もこうなったのか。仕方ないと思いながら、それを握った。ハサウェイの口からは、甘い声が聞こえる。
「ん、っ……はぁ、は……」
「我慢してくれ」
同じ男なので溜まっている辛さは分かる。だが今のハサウェイでは解消することができないのだ。なので心の中で謝罪をしながらものを掴んだ。そこで、ハサウェイがとある言葉を口にする。それは衝撃的なものであった。
「僕、ガウマンのペニスが見たいな……視覚的に興奮するものが欲しい」
「……止めとけ」
「見たい」
ハサウェイの口は止まらなかった。何度も小さな歯軋りをしてしまったところで、ハサウェイの言葉に従うことにした。自身として、どうしてなのか分からないのだが。
ものから手を離すと、履いているズボンを下ろした。まず見えたのは、膨らんだ下着である。
「っ……見る、だけだぞ」
「ありがとう、ガウマン」
下着を下ろしていけば、ぶるんと完全に勃起してしまっているペニスを露出させた。見せた瞬間に、ハサウェイの喉がごくりと鳴る。そこまで、同性の勃起しているペニスが見たいのだろうか。
「抜き合いっこしようよ、ガウマン」
空気に晒してから、どうにも気分がおかしくなってきたように思える。この空間が、ハサウェイの桃色の吐息で充満したせいなのかもしれない。そうやって人のせいにしながら、頷いてしまった。
ハサウェイの体の上に覆い被さり、顔を近付けた。火傷してもなお、ハサウェイの顔はどうにも美しく見える。キスをしていけば、ハサウェイの口から息が漏れていく。
「ん、んぅ……」
「一回しか、ヤらねぇからな……!」
勃起させている自身が言えるべき言葉ではないのだが、そう吐いた後にハサウェイの体を撫でてしまった。軟膏に塗れており付着するのでティッシュでそれを拭いた後に、性器のみを握る。そこは雄らしく膨らんでおり、何だかハサウェイには似つかわしくないと思えてしまう。そのようなものとは無縁、つまり性には淡白なイメージがあったからだ。それにハサウェイのものは、肌色に近い。あまり経験が無いのだろうか。
意外だとも思いながら自身のものと合わせる。そして腰を揺らしていけば、互いの我慢汁でぬるぬると擦れていく。抜き合いなどしたことがないのだが、気持ちの良さに驚いた。腰の動きが止まらなくなる。
「ん、んっ、んっ、ん……」
同性でもあるのにも関わらず、ハサウェイからはやはり艶めかしい声が出る。なので肺から吸い込み吐き出す息が多くなってしまえば、腰が更に揺れるのが見えた。もう、癖になりそうだった。互いにものの裏筋同士を合わせ、そして擦り合っているからだ。
いやらしい音が鳴った後に、ハサウェイのものが膨らんでいくのが分かる。これはもう、射精をする前なのか。
「ッう……! ガウマン……!」
「おい、まだ俺は……くそ! 出しちまえ!」
手のひらで互いのものを覆えば、雄臭い匂いが広がっていく。不快ではあるのだが、これが性的な匂いである。自身もまた興奮しているのだ。
「う、ぅう……! は、はぁはぁ……はぁ……!」
すると手のひらに熱い感覚が散っていく。ハサウェイが射精したのだろう。だが自身はまだ射精をしていないので、ハサウェイの精液を潤滑油にしながら扱いていった。ハサウェイのものはまだ萎えていないので、ぬるぬるして気持ちいい。
「ぁ、ア……はぁ、ぁん……ガウマン、きもちいい……」
「くそ……! 女みてぇに鳴きやがって! くそ!」
もはや罵倒としか思えない言葉を放ちながら腰を振る。気持ち良さが止まらないうえに、もしかしたら女を抱くよりも好いのかもしれない。そんなことを思いながら、腰を振っていく。
ようやく自身のものが膨らみ、射精感が込み上げる。しかしこれだけで終わりたくはなかった。そう思いながら自身の手のひらに射精をしていくが、まだ元気である。擦り合いはまだ続いた。
「ガウマン、一回、じゃ、なかった、の……?」
「うるせぇ、黙ってろ!」
矛盾を指摘されてしまう。それを言葉でハサウェイの口を封じれば、腰を何度も何度も振っていく。まるでセックスのようだと思いながら、ぬちゅぬちゅと音を立てていった。
「ふぅ、ふ……ふぅ、ぅ……はぁ、はぁ……ハサウェイ、もう少しで……!」
もはや夢中になっていた。止まらない腰を動かしながら、次はハサウェイが達した。腰をびくびくと震わせたのだが、顔を見てしまう。火傷だらけでも分かるくらいに、顔を垂らしていた。この動作で、快感を生んでいたらしい。
「は……はぁ、ァ……」
そこでハサウェイのものが萎えたのだが、自身のはまだだ。だがハサウェイから離れられなくなり、萎えたペニスを相変わらず密着させながら擦っていく。これからは、自慰となるのだ。不様だと思いながらも、止められない。
ハサウェイの精液を変わらず潤滑油にしながら、息を吐く。時折にハサウェイの顔に当ててしまいながらも、何度かの摩擦でようやく果てることができた。精液を吐いてから、そこで体の力が抜ける。ハサウェイの体の上に覆い被さり、そして顔を見た。やはり垂れている。
「お前を見ながら、抜いちまったよ……」
「これが、対価だよガウマン……これからも僕は対価を払うよ。だから、よろしくね」
ハサウェイの体が治るまでこれがずっと続くのか。それはいつまでなのか。そう考えながら、起き上がってからティッシュでペニスを拭く。そしてハサウェイのものも拭いた後なのだが、後悔は湧かなかった。脱力感はある。なのでベッドの縁に座ってから、ハサウェイに丸めた背中を見せた。
「ガウマンが僕を世話するんだから、仕方ないよ」
「対価なんていらねぇし、他にも払い方はあるだろ……」
首をずっしりと落とすが、もう何も考えられなくなる。自身の言う通りに払い方は他にもあるはずだ。それにこの人生をハサウェイに捧げると誓ったのだ。作戦に失敗しようが、ハサウェイはハサウェイである。自身を導く、リーダーなのだ。変わらない。
ならばもうハサウェイを放棄すればいいのではないか、そのような考えも過る。外に棄て、烏に喰われていくだけの末路。そう考えたが自身が嫌だと思える。卑怯だと思える。なので首をもたげてから横に振った。
「俺は、俺を犠牲にするって決めたんだ。何でもやるさ……!」
ハサウェイは希望なのだ。今は種火へと戻っているだけで、いずれかはまた夜道を導くような根強い火となるのだ。そう考えながら、手を洗いに行った。ハサウェイ、いやマフティー・ナビーユ・エリンの再生を支える為に。