昨夜はお楽しみでしたね
「疲れた……」
空の色は既に橙色と紫色が混ざっていた。
今日はせっかくの日曜日なのだが、夏侯惇は休日出勤を今日の朝にいきなり命じられていた。その理由はかなり急ぐ案件が曹操にできたらしく、右腕の夏侯惇も同様にその案件に関わらなければならず、それの拒否ができずに仕方なくというところだ。
しかし今日、休日出勤したので代休をどこかで取得させて貰えるらしいが、夏侯惇はかなり遠い日なのだろうと思いながら。
突然の仕事を終えた夏侯惇は帰宅するなり、その言葉を重そうに吐き出した。そして今日は完全に休日で、部屋着の于禁が出迎えたのにも関わらず、横を通り過ぎキッチンの冷蔵庫の前へとノロノロとした足取りで向かった。そこで于禁は夏侯惇に話しかける。
「今日はお疲れ様でした」
「んー……」
「夏侯惇殿、そこまでお疲れのようでしたら、先に入浴されてはいかかですか?」
「あぁ、そうだな。だがそれよりも酒が先だ」
そう返事した後に夏侯惇は、スーツも表情もヨレヨレの様子で冷蔵庫を開けようとした。だが真剣な顔の于禁はそれはだめだと、冷蔵庫に手を伸ばしていた夏侯惇の腕を力強く掴んで制止させる。
「おい、何を……」
「飲酒をされるのであれば入浴後でないと危険です。理由は勿論、お分かりでしょう?」
夏侯惇は腕を掴まれながらも舌打ちすると溜息をついた。于禁はじっと夏侯惇の方を見る。
「今日は俺も休日なのに突然、出勤しなければならなかったのだぞ?」
「それはそうですが」
「俺は疲れた」
「分かっています」
「……昨夜、あんなに俺に無理させたのは誰だったか」
夏侯惇はボソリと呟いたその瞬間、于禁は顔を真っ赤にして掴んでいた夏侯惇の腕を勢いよく離す。だが夏侯惇は言葉を続ける。
「昨日の夜の九時から、次の日の早朝まで続いていたからな。それで会社に出勤したのは朝の九時だったか」
「それは夏侯惇殿が……」
「俺のせいにするのか? 俺はもう日付が変わった頃に終わらせたかったのに」
于禁は言葉を詰まらせると、先程まで合わせていた目を逸らす。だが何か言わなければ、と言葉を探しているようだが見つからないようで黙り込んだ。
「非を認める気になったか?」
「……ですが、あなたも熱中してたはずですが」
すると次は夏侯惇が言葉を詰まらせる。于禁は先程より優位になったようで、顔の赤さは引いていた。
「確かに熱中しておられましたよね。人生ゲームに」
于禁の言葉に夏侯惇の眉間に皺が寄ると、額に青筋を立てた。
「俺はお前に勝ちそうなところで六回中六回負けたのだぞ!? ……もういい!明日、必ず俺と再戦しろ! いいな!」
夏侯惇は怒りが爆発しそうなのを抑えながらも「次は勝つ……!」と言い捨てると、飲酒は止めて浴室へとずかずかと向かって行ったのであった。