ワイシャツにスラックス姿の男は部屋のパソコンの前で悩んでいた。画面には株取引の画面が写し出されており、真剣に買い時などを考えている。右手でトラックボールマウスを添えており、クリックの準備をしていた。
現在の時刻は昼の十二時を回ろうとしている。デスクにあるデジタル時計の数字が正午に回った、その瞬間に男はパソコンの画面を悔しげに閉じた。
体を伸ばした後に再度時計を見た後に立ち上がる。ずっと座っていたらしく、体が凝っていたようだ。
「……そろそろ昼にするか」
そう言って男は、パソコンの電源をシャットアウトした。
男の名は峯義孝。職業は専業主夫で株の取引を傍らにしており、家賃や光熱費は充分に稼げている。だが峯本人は専業主夫と人に名乗っていた。周りに言えば、金の匂いを嗅ぎ付けた人間が寄ってきて色々と面倒だからなのだろう。そして妻は会社員で、峯と同じくらいに稼いでおり、住まいは団地だ。家賃などは折半にしている。
峯は五年前に結婚はしたものの、子どもは居ない。理由は妻が不妊だと分かったからだ。それからは夫婦仲は冷め切っていて、最近はまともな会話をしていない。顔も合わせていない。そろそろ顔を忘れられてそうだ。
峯に両親は居ないが、二人の関係について義理の実家は何も言わない。最初は孫はまだか等と頻繁に問われたものの、妻の不妊が発覚してからはぴたりと孫の催促が止んだ。すると妻は不妊治療を諦め、子どもを諦めている。遂には仕事が忙しくなり、二人はどんどんすれ違っていった。
最後にまともな会話をしたのはいつだっただろうか。このままでは離婚した方がいいと思うが、妻はやはり仕事が忙しいので話し合う暇がない。峯は離婚しても構わないのだが、義理の実家がうるさそうだ。なのでこのまま、惰性の日々を送っている。
キッチンに向かうが、今日は何だか昼食を作る気にはならない。インスタントで済ませるべきなのかと考える。
峯は専業主夫歴は約五年だ。結婚してから勤務していた会社を辞めたが、理由は単純だ。妻が家事をできないから、峯が主夫になろうと思ったのだ。それに峯の経歴からすれば再就職の機会は幾らでもある。しかしこの生活に慣れると、どうにも億劫なのだ。会社に勤務していれば通勤退勤、社内の人間関係が嫌になる。しかし今はそのようなものが無いのだが、代わりに人と話す機会がかなり減った。少し、寂しいと思っている。やはり普通の人間故に。
昼食は結局はインスタントで済ませた。本当は生の野菜も欲しいのだが今は値段が高騰している為に、気軽に買うことは躊躇してしまう。だが夕食は野菜を摂ればいいだろう。そう思いながら昼食の片付けをする。
午後からは夕方までは、家事や雑用の時間だ。峯は昼食後に少し休憩してから、立ち上がった。
しばらく時間が経過し、家事が一区切り終えた頃である。峯は休憩をしようとリビングのソファに座った。するとインターフォンが鳴る。宅配便だろうかと思ったが、スマートフォンにそのような通知は来ていない。首を傾げながら玄関に向かう。
「……はい」
チェーンはつけたままで、扉を少し開ける。見れば目の前には見知らぬ男が居る。服装はとてもカジュアルで、白いジャンパーに黒いスラックス、それにシルバーのアクセサリーがちらりと見えた。髪は黒で短く切ってある。峯の知り合いではないが、妻の知り合いなのだろうか。
「おい、この前の仕返しをしてやる。俺は吐き捨てていったことを覚えているからな」
男が口を開くが、言葉の内容からして峯にそのような覚えはない。誰かと喧嘩など、してはいないからだ。
男は声をより一層低くするが、こちらの顔は見えているのだろうか。扉の隙間から顔を覗かせたくなるが、何かされそうだと思い止めておいた。
「聞いてるのか?」
「……あの、人違いじゃありませんか?」
「あ!? そんな訳……」
やはり誤解を解く為には顔を見せた方がいいのだろう。なので扉の隙間から顔を覗かせると、男は驚いた顔をして見せた。誤解は解けたらしい。
「いや、すまねぇ……! その、間違えた。じゃ、じゃあ……」
慌てた様子で踵を返した男だが、途端に腹の音が鳴り響く。どうやら男は腹が減っているようだ。峯はぽかんとしてから、チェーンを外した。
「あの、狭いところですが、菓子でも食べて行きませんか? せっかくですし」
扉を大きく開くと、男の顔がよく見える。同性からはあまりよく分からないのだが、異性から見れば整っている筈だ。峯はそう思いながら、男に手招きをした。男の顔が真っ赤になれば、可愛らしいと思えた。そうしていると、男が「仕方ねぇな……」と言いながら玄関に入る。
「……邪魔するぞ」
そう言った男は靴を脱ぐが、きちんと揃えているところを見た。峯は案外行儀が良いと思いながら「こちらです」とリビングのソファに通した。男がソファに座るが、座る際も所作が美しかった。どかりと座るのではなく、ゆっくりと音を立てずに腰掛けている。峯はそれらを見て、この男はどこかの金持ちの家の者かと推測できた。そうでなくても、親の教育が行き届いていると思える。
峯がそう考えた後に、キッチンに行き出す飲み物を考えた。茶はスーパーで売っているものしか無いのだが、確かコーヒーは貰い物だが高いらしいものがあったような気がする。それも粉末なので、挽く手間が省ける。棚を探していくと、コーヒーの粉末があった。賞味期限は来月までだが、勿体ないと思い未開封なので大丈夫だろう。峯は電気ケトルで湯を沸かす間に、コーヒーを淹れる準備をする。
菓子などはどうすべきか考えているが、これは来客があった時に備えてのものがあった。煎餅と甘い菓子だ。男は腹を空かせているが一応どちらも出すと、盆に入れる。すると湯が沸いた。コーヒーを丁寧に淹れながら、一応だが冷蔵庫の中身を見る。食材は生憎にもあまりない。今日は買い物に行く予定のせいでもある。ため息をついてしまった。
コーヒーを淹れ終えると、すぐに盆を持ちリビングに戻った。
「これくらいしかありませんが」
「いや、悪いな……」
男は申し訳なさそうに頭を下げてくれる。律儀だと思いながら、峯は甘い菓子を手に取ってから食べる。すると男は「いただきます」と言ってから、煎餅を手に取って食べ始めた。
「美味いな!」
「えぇ、そうですね」
思えば誰かとこうして食事をするのは久しぶりであった。何年ぶりといったところか。それくらいに、妻との関係は冷え切っているうえに、人との関わりがない。峯ほどの顔が整っている男が独身であれば、共に食事をしてくれる異性など幾らでも居ると思うのだが。
「……俺の名前は堂島大吾だ。先程はすまなかった」
「いえ、大丈夫ですよ。あぁ、私の名前は峯義孝です。堂島さん、その……何かあったのですか?」
煎餅を食べ終えた大吾がぎくりとするが、コーヒーを啜る。
「堂島さんじゃなくて大吾でいい……それで、先程のは……昨夜酒に酔った奴と喧嘩をしたんだ。俺が勝ったから相手は俺に暴言を吐いて逃げたものの、こんなものを落としてな……」
大吾がジャンパーのポケットから出したのは、住所の書いてあるカードだった。そこには確かに峯の家の住所や部屋番号が記載されていたものの、名前は違う。これは前の住民のものなのだろうか、或いは単なる住所の記載ミスなのか。
「確かに、これでは私に間違えられては仕方ないですね……」
確認した峯が肩をすくめると、再度大吾が頭を下げる。
「だから、申し訳ない。それにここまでもてなしてくれて」
「いいですよ。私は気にしていませんから」
勿体なくて飲めなかったコーヒーをそこで初めて啜ってみるが、会社勤めの頃に何度か飲んだ高級なコーヒーのような味がする気がした。それしか分からないでいると、大吾が何やら聞きたいことがあるようだ。ずっとソワソワとしている。
「如何なさいましたか?」
「あぁ……いや、その……峯、お前とまた話しに来てもいいか? 何か、次からは手土産を持って来るから」
大吾が畏まってそう言ってくれると、峯はその言葉を何度も反芻したくなった。今は人恋しい故に、また来てくれるとは思わなかったからだ。自然と目を輝かせてから、頷いた。
「えぇ、勿論です。手土産は気を遣わなくとも大丈夫ですので」
改めて大吾の育ちの良さを知ると、峯は感心してしまう。だが堂島に何か聞き覚えがあると、心の中で何か引っ掛かるような気がした。峯は様々な記憶をたぐり寄せてみるが、思い当たるものがない。なので思い出すことを諦めた後に、盆に歩菓子を食べるように大吾に促す。
大吾は「いいのか?」と言うが、警戒心など全く無い様子だ。先程名前を知った者だというのに、大吾は次々と菓子を食っていく。相当に腹が減っていたのだろう。その様子を見ていると、何だか大きな子どもを持ったような気分になった。大吾本人には失礼過ぎるので口には出さないのだが。
殆どが大吾が完食をすると、きちんと「ごちそうさまでした」と言っている。峯は偉いと頭を撫でたくなる衝動に駆られたが、ぐっと抑えた。あまりにも、大吾のことが可愛いと思ってしまう故に。
「……じゃあ、俺はこれで」
「分かりました。それではまた今度……この時間帯であればいつでもいいので来て下さい」
立ち上がった大吾に続いて峯も立つと、そう述べた。しかし大吾は首を横に振る。
「いや、アポ無しでは来られない。そうだな……明日でもいいか? 必ず、手土産を持って来る」
「分かりました。それでは、お待ちしています」
口角を上げた峯だが、大吾の顔が急激に赤くなっていた。どうしたのだろうかと思っていると、大吾はすぐに背中を向けてから「またな」と言って玄関に向かう。そして解錠をしてから扉を開けるので、峯は見送る為に小走りで玄関に向かった。その頃には既に大吾は居ない。もう出てしまったのかと落胆をしながら、玄関の鍵を閉めた。
そこで峯は堂島という名前にどうにも引っ掛かると思い、急いで書斎に入りパソコンに向かった。様々なデータを閲覧していった後に、ようやく思い出した。堂島とは、峯が結婚前までに勤務していた株式会社東城という大企業の社長の名字であり、大吾はその息子である。たまたまデータに残していた社内誌を見て気が付くと、峯はしばらく頭が回らなかった。まさか、そうだとは思わなかったからだ。
「大吾さんが……?」
その後何度も社内誌を読み返した峯は、しばらくその場を動けなかったのであった。
※
次の日に、言った通りに大吾が訪ねてきた。インターフォンが鳴ったので、扉の覗き穴を見れば大吾の姿がある。昨日と同じ格好をしていたのですぐに分かった。だが紙袋を持っている点だけは違う。
扉を開けてまずは玄関に迎え入れる。大吾は緩やかな笑みを浮かべてくれていた。
「だ、大吾さん……」
しかし大吾は勤務していた会社の御曹司なので、峯は動揺を隠せなかった。一方でどうしたのかと大吾が首を傾げる。なので峯は本当のことを述べていった。
「……昨日、大吾さんが帰った後に、私は気付きました。貴方、あの大企業の、東城の社長のご子息と」
「分かったのか? ならば……お前はそれで、俺にどういう態度を取る? へつらうのか?」
そこで大吾の表情が一変し、怒っているような顔をしている。峯は思わず体を強張らせてしまうが、本当のことを伝えなければならない。まずはかつて勤務していた会社だということだ。
「私は……結婚する前にそこに勤めていました」
「そうなのか」
どうでもいいような様子をする大吾を見て、峯は続ける。
「ですが、貴方のことを特別な人間だとは思っていません。大吾さんは大吾さんです。今の私からしたら、同じく一般人です」
大吾の眉が上がった。御曹司の身分の人間に一般人など失礼かもしれないが、本当にそうなのだ。傍から見れば、大吾は普通の人間なのだ。
すると大吾の眉が下がっていき、そして靴を脱ぎ散らして峯に近寄る。峯は驚きながら見ていると、大吾が体を抱き締めてきた。あまりにも予想外の行動に、峯は言葉が出ない。
「なっ……! 大吾さん……!?」
「峯……俺は、どの人間も、俺の親のことを知ると目の色が変わるんだ。だが峯、お前は違う……ありがとう……」
気付けば大吾は僅かに泣いているようだった。それを見て、大吾の今までの人間関係を察する。どの人間も、金のことしか考えていなかったのだろう。
かつての峯もそうだった。金を持っていると、金のことしか考えていない人間ばかりが集まっていく。妻はそうではなかったのが救いであったが、今や妻という関係はもはや薄い。
「大吾さん……」
抱き締め返すと同時に、大吾の腹から音が鳴った。またしても、腹を空かせて来たのだろう。峯はおかしくなり、くすくすと笑う。
「み、峯!」
「茶菓子がありますから、それを食べましょう」
「いや、俺は……土産を持って来てるから……」
大吾が紙袋を差し出してきたが、見れば高級和菓子店のものであった。峯は二度見した後に、大吾の顔をながら体を離していく。
「そ、それは……!?」
「どうした? これは、いつも食ってるものだが……」
不思議そうな顔をしている大吾を見て、峯は慌てて首を横に振った。相手は真の金持ちなのだ。自身とは違う。それを肝に銘じた峯は、頷いてからようやくリビングに通す。リビングのソファに座らせた。
「緑茶はないか?」
「緑茶ですか? あの……スーパーの安いものしかありませんが……」
大吾が来ることを分かっていれば、スーパーで一番高い茶を買っておくべきであった。峯は失念したことを後悔するが、今から買いに行くという手段は自ら断ってしまった。頭を抱えそうになりながら、キッチンに向かう。
電気ケトルで湯を沸かしてから、食器棚から湯飲みを二つ出そうとした。そこで大吾の気配がした。
そこまで腹が減っているのかと振り向こうとしたとき、背後からだが再び抱き締められた。
「大吾さん……?」
「なぁ、峯」
二人の身長はほぼ同じせいか、互いの顔が近付いていく。大吾の顔が間近に来るが、やはり顔が美しいと思えた。凝視してしまう。
「峯……俺と、キスをしてくれないか?」
「どうして……?」
純粋な疑問であった。大吾は自身は既婚者であることを知っている筈だというのに、そもそも男同士であるというのにどうしてなのか。それに峯は大吾のことを特別には思っていない。この世に、過去に特別な人間が居たという存在である。それなのに。
「お前のことが、好きになっちまったからだよ……」
囁くように告白をされるが、峯はやはり大吾のことを都合のいい話し相手だとしか思っていない。首を横に振ろうとすると、顎を掴まれた。
「な、何を……ん、んっ!?」
すると大吾に突然にキスをされた。どこか煙草の味がして、峯は不快から顔を歪ませる。しかし大吾はそれに気付いていないのか、或いは無視をしているのかは分からない。
とにかく不快を示そうと、大吾の腹を軽くパンチした。大吾はびくともしない。
「ッは、はぁ、大吾さん……!」
精一杯睨むが、大吾の様子は変わらない。寧ろ笑うと、峯は混乱をしてきた。この状況が分からなくなってきたのだ。
「峯、俺はお前のことが、好きになっちまったんだ。お前が結婚してるのは、どうでもいい。俺にとっては、どうでもいいんだ……!」
大吾が熱っぽい声でそう述べるが、峯は冷静である。やはりどこが好きなのか分からないうえに、自身は既婚者の男だ。感情を向けるだけ無駄だろう。
「……そしてお前は、奥さんといい仲じゃなさそうだな。俺に惚気の一言くらい、してもいいだろうし、それをする気配もない」
確かに言われてみればそうだ。大吾に対して妻との惚気など一切口にしていない。夫婦仲が冷え切っている証拠を、大吾に自然と見せていたらしい。
愕然としていると、電気ケトルの電源が自動で切れる。湯が沸いたサインだ。
「なぁ、峯……」
目を見つめられるが、視線を逸らす。そして誤魔化すように「俺と妻はそんなんじゃ……!」と言ったところで、手を掴まれた。
「だったら、キスをされたところで、俺を本気で殴っても良かったんじゃないのか?」
先程から大吾に痛いところを突かれてしまう。峯はもはや何も言えないでいると、大吾が止めを刺すように言う。
「それに俺を追い出そうともしない。なぁ、俺で一回試してみてくれよ。だが俺たちは若くはないんだ。セックスしてみれば分かる」
「な、何を……!」
大吾の口を塞ごうとしたところで、大吾が言葉を続けていった。
「奥さんとはあまり話せないところだろう。それに近所付き合いは薄いとして、人が恋しいんじゃないのか? 俺が相手になってやるよ。ほら、もう一回キスをすれば分かる」
目が真剣になっていく。大吾の言う通りなのではあるのだが、これでは不倫になってしまう。仲が冷め切っているとはいえ、妻を裏切ることになってしまう。峯は頑なに断ろうとするが、大吾の一言で吹っ切れてしまった。
「最近はご無沙汰なんだろ? 男の俺でも、相手になってやるさ。一回、抱かれる側を体験してみたいんだ」
「ッ……! 妻が、不妊のせいで……!」
峯は大吾の手を掴む。そして壁に体を押しつけると、強引に唇を奪った。案外柔らかい唇に、峯は驚きながらも舌を出す。大吾の唇は簡単に割れた。
「ん、んぅ……ん、んんっ……!」
大吾の息が漏れる。これがセックスの前のキスだと思えると、峯は燃えてきた。こうするのは久しぶりなのだ。妻とは何年も夜を共にしていない。なので大吾をまずは、キスのみで腰を砕かせようと必死に舌を捕まえる。
舌が絡み合うと、しばらくは手放していた男としての本能が蘇っていく。顔の角度を何度も何度も変え、唇を濃密に密着し合う。
唇の隙間から大吾の熱い息が掛かると、そこで自身の股間が反応したことに気付いた。なのでそこを大吾の体に押しつければ、大吾が背中に手を回してくる。
「っは、はぁ、は……ベッドに、行きましょう」
「あ、ぁあ……」
大吾の目がとろりと垂れているのが分かった。どうやらキスだけで、こんなに脳を蕩けさせることができたらしい。峯は口角を上げながら、大吾を自身の寝室に連れて行く。そしてベッドに大吾の体を投げると、乱暴にその上に覆い被さった。
「峯、峯、好きだ……」
「俺は、まだですからね……!」
意地を張りながら大吾の服を脱がせていく。肌が晒されると、まずは首に吸い付いた。大吾の匂いは甘い匂いがすると思いながら、喉仏をぺろりと舐める。大吾が短い息を吐いた。気持ちが良いからなのか。
「あ、はぁ、はぁ、峯……」
そこで大吾は自らスラックスのベルトを外し、そしてチャックを開ける。下着には染みができており、勃起しているのが分かる。峯はそこをやわやわと揉んだ後に、下着をずらしてから視線をそこに向ける。
「……男は、尻でしたっけ」
そう呟けば、大吾はこくこくと頷く。なのでスラックスを脱がせた後に、下着を取り払う。確かここは慣らさないといけないが、生憎にもローションの類がないし、そもそもコンドームもない。ずっと、ご無沙汰だったせいだ。そのようなものとは一生無縁だと思えた。
「峯……俺は、生でいいから……」
妻とはコンドーム無しでのセックスを何度もしたことがある。故にかなりの快感を受けられるは知っていた。なので喉を慣らすと、潤滑油を得る為に大吾の股間を握った。女遊びには慣れているのことが窺える。ぱんぱんに張り詰めており、グロテスクな外見をしていた。
「ですが……はい、分かりました」
正気に戻りかけた峯だが、自身の勃起している魔羅を見てすぐに手放した。そして大吾の股間を手の平でしっかりと包むと、上下に擦り始める。
「あッ、あ、峯! きもちいい! 峯! 峯!」
名を呼ばれる、そのせいで峯は大吾のことを次第に好きになってしまう。よくないことだが止められない。股間を弄られて気持ち良さそうにしている大吾の顔を見ると、どんどん興奮が大きくなっていく。膨れ始めれば後は破裂するのを待つだけの状態である。
すると何度か扱いた後に、大吾は射精をした。手の平で精液を受け止めると、少し薄いのが分かる。最近まで、女遊びを繰り返していたのだろうか。
峯はそれを指先に念入りに絡ませてから、大吾を四つん這いにさせる。後ろから見たときの大吾の姿が綺麗で、どこも筋肉がついている。その背中に乗ってから、まずはうなじにキスをした。そして吐いた言葉は、本心である。
「はぁ、はぁ、大吾さん、俺、好きかもしれません……!」
すると大吾の耳が真っ赤になっていくのが分かった。そう告白されて、嬉しいのだろうか。可愛いと思え、ついうなじをべろべろと舐めていく。もう、欲は止まらない。
「ッは、あぁ、峯、俺、嬉しい!」
大吾の体が崩れた。へたりとうつ伏せになるが、そこでさらけ出されている尻の割れ目を見た。思いを通じ合えた者同士でのセックスは何年ぶりだろうか。少し前までは妻とただ子作りの為にしていただけだ。もはや作業のようになっていたが、今は違う。純粋な愛を確かめる為に、大吾とセックスをするのだ。
うなじから耳に到着すると、耳たぶを柔らかく噛む。大吾が「ひゃ……!?」と可愛らしい反応をした後に、仕返しでもするかのように顎を掴んでからキスをした。
「ぅ、ん……んぅ!」
ぴちゃぴちゃと唾液が絡む音が聞こえてくる。その中で、峯は大吾の尻を触る。すべすべとしており、案外大きい。女ならば、安産を思わせる大きさだ。その尻をいやらしく撫でた後に、割れ目にすっと指を差し込んだ後に、穴に到着する。
触ってみるが、やはり硬い。そう思いながら精液に塗れた指で突けば、大吾が目をきつく閉じた。どうやら、こうされるだけでも良いらしい。
わざと唇を離すと、大吾に問う。
「ここ、どうするんでしたっけ。俺、分からないので教えて下さいよ」
「は……はぁ、ここを、ケツの穴をよく解してから、峯の、でっかいちんこを入れるんだよ。だから、ほしい……俺が、峯の赤ちゃん孕むから……!」
乞う言葉としては完璧であった。今すぐにでも大吾のこの肉壺に自身の魔羅を挿入し、精液が空になるまで犯したいと思えた。しかしここは女の膣とは違うのだ。興奮すれば勝手に濡れる訳ではない。
峯は若干の舌打ちをしながら、穴に中指を入れた。だが穴は侵入を拒むが当たり前である。それを理解しながら、少しずつ指を進めていく。大吾は苦しげな息を漏らした。しかし峯は早くセックスがしたいと、ぐりぐりと指を回して穴をこじ開ける。
「ぁ、みね……峯の、指が、ッ、は、ぁ、ん……ん! ぁ、ア、あ……!」
大吾の声に、嬌声が混じっていく。苦しいながらも気持ちがいいらしい。なので峯は二本、三本と指を増やしていった。そこまで、順調に解すことができている。
精液のおかげで、ぬぷぬぷと音が鳴り始める。大吾の穴はすっかりと緩くなり、このままでは自身の魔羅を挿入しても大丈夫なのだろう。何度も何度も指を出し入れしながら峯は思う。なので一気に引き抜くと、粘膜に刺激が与えられたようだ。大吾はその瞬間に射精をする。
「あぁ、あ! はぁ、はぁ、は……みね、はやく、ちょうだい……ザーメン……はやく……!」
大吾の脳内は妊娠という言葉しかないのだろう。それくらいに、尻が気持ちがいいことが窺える。それならばもっと良くしたいと、張り詰めている魔羅の先端を肉壺にあてがう。
「はぁ、は……大吾さん、好きです……」
背中にのし掛かり、そして唇を合わせながら魔羅を挿入した。中は女のものよりも格段に狭く、そして熱い。この時点で、大吾の体の虜になってしまっていた。きゅうきゅうと締め付けられる中を感じながら、峯は腰を推し進めていく。
唇を塞がれているので大吾の喘ぎ声はあまり聞けないのだが、その代わりにキスまでもとても気持ちがいいと思えた。大吾もそうなのだろう。
カリの部分で引っ掛かる。そこで大吾の胸をやんわりと揉んでいけば、肉壺の入り口が柔らかくなった。なので腰を強く打ち付ければ、カリが肉壺の中に埋まってしまう。それが過ぎれば後は押し込むだけだ。なので根元まで、一気に挿入をする。
「んんっ!?」
大吾の苦しげな息が聞こえた。なので唇を離せば、大吾の喘ぎ声が聞こえ始める。
「あ、ぁ! 峯のちんこ、おっきい! おれ、すぐ妊娠しちゃう!」
「っぐ、あ、ぁ……大吾さんの中に、しっかりと出しますから……!」
自身では出したことのないような低い声が出た。それくらいに、今まで以上に興奮しているのが分かる。峯は根元まで挿入した直後に、腰を揺らし始める。中は腸壁がうぞうぞと動き、そして締め付けてくる。これだけでも、射精をしてしまいそうであった。
「あぁ、あ! だしてぇ! おれの、まんこにぜんぶだしてぇ!」
遂には腰を掴むと、腰を激しく動かし始めた。ベッドからは聞いたことのないような軋む音が鳴り、そして互いの肌がぶつかり合う痛々しい音が鳴る。聞こえる音全てが卑猥であった。その中で、峯は凄まじい射精感に襲われる。
なので再び大吾とキスをすると、そこで腹の中に勢いよく射精をした。快感の一言である。
「ふ!? ん、っん!」
射精の瞬間に大吾も達したらしい。腸壁が絞るように峯の魔羅を包む。尻がこんなに気持ちがいいとは知らず、もう大吾以外の体を抱くことはできない。そうとしか思えなかった。
魔羅が萎えていくと、峯は残念という言葉を脳内で呟きながら引き抜く。見れば大吾の体中が痙攣しており、未だに快楽の渦の中に居るようだった。なので仰向けにしてから、大吾の顔を見る。目が垂れており、口は閉じないらしい。ぽかんと開け、顔は真っ赤だ。
一方の峯はそこでいわゆる賢者タイムに入ったので、冷静になっていた。
「……大吾さん」
「ん、ん……みね、すき……みね……」
大吾は舌が回らないらしい。拙い言葉を紡ぐと共に、手を伸ばしてきた。
「おれを……だきしめて……」
「はい」
体を精一杯抱き締めるとそこでキスをしたが、峯は幸せに思えた。同時に体の関係を繋ぐのは大吾しかもうあり得ないと思えた。なので短いキスを終えると、峯は言う。
「明日も、来て下さい……妻は、居ませんから……」
大吾が頷くと、そこで峯は何度も唇を落としていったのであった。
※
翌日、大吾が峯の家に訪れた。昼を少し過ぎたところである。
「峯……」
大吾が熱っぽい声で名を呼んでくれる。嬉しくなった峯は返事の代わりにキスをしたのであった。
それから二人は体を重ねる為に、服を脱ぎ始めたのは言うまでもない。