嘘から

二人はとある夜にホテルの一室に入るなり、春日が服を脱ぎだした。アロハシャツやその下に着ている白いシャツ、それに七分丈のジーンズを取り払う。そこで足立はトランクス一枚になるのかと思いきや、予想外の光景が目の前にあった。
「足立さんが……そろそろマ、マンネリなんじゃねぇかって思ってよ!」
春日の姿とは男性のサイズではあるが、どう見ても女性用の下着にしか見えないものを履いていたのだ。色は白色でレースが綺麗にに縫い付けられており、真ん中に小さなリボンがついていた。いわゆる、清楚なデザインのものである。
しかし女性用の下着のデザインとは言えど、男性器の存在により膨らんでいた。春日はそれを見るなり、少し恥ずかしそうにしている。手で隠そうかと、そわそわしながら。
肌ではなく下着をじろりと見た足立だが、そのような姿の春日を見て興奮しない訳がない。口角を一気に上げると、春日に近づいた。
「そうだな、そろそろマンネリだと思っていたところだ」
足立がそう述べると春日はやはり、というようなリアクションを返す。
だがこれは足立の本心ではなく、嘘なのだ。本当は特に春日の言う「マンネリ」を感じておらず、春日とのセックスに飽きる気配などない。寧ろ自身の体を、どんどん覚えていてくれているようで嬉しかったりもする。
そう思っていても、足立は嘘をついた。破廉恥な格好をした春日が、今宵はどのように楽しませてくれるのかと。
「これを……日本から持って来た訳がねぇよな?」
「あぁ。ハワイのあの店で、買ったんだ」
春日の言う「あの店」で、足立の中で思い当たった。なのでなるほどと頷くと、春日の手首を掴む。行き先である、ベッドへと連れ出す為に。
しかし春日の足が動こうとはしなかった。思わず足立は体のバランスを崩しかける。
「じゃあ、早速やるぞ」
「足立さん、待ってくれその前にシャワーを……」
「あ? 分かった」
控え目に止めた春日だが、足立はすんなりと言うことを聞いた。理由は春日がそうしたいなら、なるべく我儘を聞きたいからだ。春日のことを愛しているから故に。
体の向きをベッドからシャワールームへと変えると、春日の足が動いてくれた。すぐに脱衣所に入ると、春日を壁に押し寄せてからキスをした。
そこで足立は嘘をもう一つ思いつく。
「そうだった。すまんが、腰が張っててな……だから、お前がリードできるか?」
「は、はぁ……ああ、分かった」
またしても春日に嘘をついたが、バレてはいない。春日は既に興奮により、頭が回っていないようだからだ。普段の春日であれば、すぐに見抜かれてしまうだろう。
言う通りに、春日がリードをするために腰に手を回してきた。手付きは慣れており、腰を労るように撫でてくる。足立は心がチクリと痛み、嘘をついたことによる罪悪感が湧いてきた。つい視線を逸らしてしまうが、春日は特に気付いていないらしい。
「それにしても順番が違うんじゃねぇのか? シャワー浴びてから、そのパンツを履くべきだろ」
すると足立は疑問に思ったことを口にした。春日は自身を誘う為にジーンズの下にそれを履いていた筈だ。それならば、シャワー後の方が何かと都合が良いだろうと。
聞いた春日は足立の指摘に気付いた。なのでその下着を見てから、口を開く。
「……だったらちょっと待っていてくれ。同じのをもう一枚買ってくる!」
「なんでだよ!」
足立の体から離れてから、脱衣所を出ようとした。それを止めながら「また今度でいい!」と言うと、春日の動きが止まる。
「でもな……」
「今度だ! また今度見せてくれ!」
必死に説得をすると、ようやく春日が納得した。なので後日、日本に帰ってから、その格好をしながらのセックスをする約束をする。
「ん……じゃあ、足立さん……」
上擦った声で名を呼びながら、春日が足立の服を脱がせていく。
白いティーシャツを捲り、引き締まった体が出てくる。見た春日は割れている腹を柔らかく撫でていった。時折に摘めない皮膚を摘もうとしている。
「いつも思うんだが、どこが太ってるっていうんだ?」
擽ったいが、足立は「俺は年なんだよ」としか言えない。春日の頬が僅かに膨らむと、腹を軽くぱしぱしと叩いてきた。痛みがあるものの、可愛いものである。しかし足立は反射的に「痛っ」と口にしてしまう。
足立は早く脱がせて欲しいと言う為に、腹を叩いてくる春日の腕を掴もうとした。そこで、春日の体の変化に気付く。
「……お前、何で今勃っているんだ?」
「へ? ……あ、これは……!」
下着姿を見せてきたときは、男性器によりただ膨らんでいるだけであった。その後の動作といえば、ティーシャツを捲っているところである。そこで、もしかしてと足立は思った。
「俺の腹を見ただけで勃っちまったのか?」
「いや、う……あ、あぁ、そうだ」
最初は否定しようとしていたが、肯定するしかなかったのだろう。目に見えている生理現象の否定をするなど、完全に不可能だからだ。
「だったら早く脱がせろ」
「分かったよ」
春日はそう言いながら、足立のティーシャツを脱がせていく。裾を捲ってから上げたので、次は足立自らが袖から腕を抜いていく。ようやく半裸になると、次はスラックスのベルトを外していった。カチャカチャと手慣れた様子で外すと、スラックスのボタンを外してチャックを下ろす。
その頃には、春日の息がとても荒くなっていた。はぁはぁと、まるで息切れしているようだ。欲望を満たすことができるまで、あと少しだからとしか思えない。
ようやくズボンが床に落ちたが、足立のモノは反応していない。確かに、春日の姿を見て興奮はしている。しかし体はそれに着いていけていないようだ。年のせいでしかないのだが。
「足立さん……」
「心配すんな。いつも勃ってるだろ?」
春日は足立のモノが反応していないことを心配していた。今の格好が悪いのではないかと思っているのだろうか。
腕を伸ばして春日の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。手を離す際に、髪が指の間に絡みついてくる。ゆっくりと手を抜いた後に、顔を近付けてからキスをした。
「早くシャワーを浴びるぞ。このままでは、いつまで経ってもセックスができねぇ」
そう促すと、春日はこくりと頷く。足を上げてからスラックスから足を抜いた。全裸になったのだが、春日は何故だか顔を赤らめる。
「お前も脱げ」
「ん……」
一瞬だけこちらを見ると、別の方向を見てから下着を取り払った。どうして、ここまで躊躇が生まれているのか分からない。
足立は内心で首を傾げてから、春日と共にシャワールームへ入る。しかしこのホテルのシャワールームは狭かった。先に足立が入ったが、手を広げることができないくらいの狭さである。続けて春日が入るなり、あまりの狭さに驚いていた。
「ちと狭いが、少しだけ我慢してくれ」
二人で狭い思いをしながら、足立はシャワーコックを捻る。最初は少しの冷水が出るも、次第に温水へと変わっていく。温水を浴びながら、春日をそっと抱き締めた。
「春日……」
そこで春日にリードを任せることを思い出した足立は、手を離そうとした。しかしそれだとバレてしまうのではないかと考え、手に緊張を走らせながら動かないようにする。
対して春日は「俺がリードするって」と言いながら、手を外してくれた。些細な言い訳を返した足立は、逆に春日に抱き締められる。筋肉同士がぶつかり、触れ合った。思わず腰を押し付けてしまう。
温かい水を浴びながら、春日がこちら見ながらそっとキスをしてきた。しかし少しぎこちなさがある。セックスするにあたって、リードをすることに慣れていないのだろうか。足立はそのようなことを思いながら、ようやく勃起をした後に意識をした声を掛けてしまう。今まで、何度も口にしてきた想いを。
「好きだ……春日……」
「……ッ!」
対する春日の反応は初々しいものである。耳までも赤くなっていくと、一言「可愛いな」と本心を呟いた。春日に視線を逸らされてしまう。
「お、俺がリードするって言っただろ!」
「ん? 俺は自然な反応をしているだけだが?」
足立がそう返すが、少しわざとらしい口調になってしまった鴨しれない。反省はあるものの、春日は気付かないと思っていた。現に春日は目を見開くと、腑に落ちたらしい。瞼がどんどん降りていく。
この嘘も免れたか。足立は安堵しながら、ニヤニヤと春日を見る。すると、春日は徐々に視線を合わせてくる。セックスのリードを中断したので、再開させたいのだろうか。
「足立さん……」
「ん? どうした、春日」
口角がよく上がっていることが分かる。自覚はしながらも、嘘を突き通せるかと思った。なのでそのまま返事をするが、春日の一言で足立の表情が凍りついてしまう。
「全部、嘘だろ」
「えっ……」
足立はまずは絶句をした。それくらいに、何も頭が回らなくなったのだ。
「腰が張っていること、嘘だろ。さっきようやく気が付いたぜ。勃つ前に、俺に腰を押し付けただろ」
「くっ……! バレてしまったなら仕方がない。ほら、早くベッドに行くぞ。俺は早くヤりてぇんだ」
「雰囲気もクソもねぇな……」
舌打ちを混じりにシャワーを止めると、春日の手首を強引に掴んだ。春日は足立に引き摺られていく。どかどかと大股で歩いた。
その途中に、足立は振り返ってから確認の為にとあることを伝える。
「俺はなぁ、お前とヤる前にマンネリだとか思っちゃいねぇ。何でそう思わないといけねぇんだ。お前のことが好きな時点で、飽きるもクソもねぇんだ」
言い切ると、春日の足がピタリと止まった。どうしたのかと足立が振り返ると、春日の瞳が赤くなっている。そして潤んでおり、水滴が流れていた。これはシャワーから出ていた水ではない。涙だ。
「足立さん……」
拭うこともなく、春日はただそう言う。相当に嬉しいのだろう。足立は春日の頭をぐしゃりと撫でて「余計なこと考えなくていい」と、次は春日の手首を優しく掴む。そして歩調を緩めながら、ベッドに向かった。
共にベッドへと倒れると、春日の下半身をすぐに握った。既に我慢汁が垂れており、ぬるついている。手の平で軽く包みながら、上下にしこしこと扱いていく。当然、春日は気持ち良さそうな声を漏らしていた。今にも顔が溶けてしまいそうなくらいに、顔はとろけている。
「っあ、は、ぁ……は、ぁん、んっ、ぁ」
「あぁ……お前のその顔、好きだぜ」
春日の顔を凝視した後にそっとキスをすると、扱いている下半身から粘液が射出される。それなりの勢いがあったうえに、足立は油断していた。手の平や自身の腹が汚れる。
一度達した春日は軽い息切れをしているが、もぞもぞと体を動かした。何だと思っていると、春日の顔が自身の腹へと近付いてきた。そして汚れた腹を、ぺろぺろと舐め始める。
「お、お前……!」
「ん、んぅ、足立さんの、腹を汚しちまったから……」
眉が完全に下がりきっており、とても申し訳なさそうである。足立はその顔も好きだと思うと、思考よりも先に行動してしまっていた。
春日の後頭部を掴むと、自身の勃起している雄に近付けた。これもまた我慢汁が先端を満たしており、少しでも刺激を与えたら射精するところである。
「ほら、欲しいか?」
「足立さんのちんこ、欲しい……」
上目遣いでそう返してきた。足立は咄嗟に春日の口に雄を捩じ込むと、無理矢理に口淫をさせる。腰を振った。ちゅぱちゅぱと短く小さな音が鳴った後に、じゅぼじゅぼと長く大きな水音が聞こえていく。雄が春日の唾液に塗れてきたのだ。
「ん、んぅ、ぶ! んぶ、んん、う、んぅ、んっ!」
すると春日の方から雄を必死に口いっぱいに咥えてきた。生暖かい粘膜に拘束され、足立は吐息を漏らす。やはりここも、気持ちが良いのだ。なので射精感がこみ上げると、足立は腰の動きを止める。そして無言で、春日の口腔内に精液を放った。
春日の喉が、上下に大きく動く。精液を飲み込んだのだろう。
「……っ!? ん、んぅ! ん、ぅ」
「っはァ、はっ、味はどうだ? 春日」
未だに雄を咥えさせたままそう聞くと、春日は頷いた。そして次には春日自らが、足立の雄を刺激していく。
「はぁ、あ……はッ、いいぞ、春日。フェラが上手いじゃねぇか。流石だな」
頭を撫でてそう褒めると、春日は喜んでいるらしい。目尻を垂らし、咥えている雄を吸い上げる。春日の頬が小さく萎んだ。
「うぁ……! 春日、もう一回出すぞ! っはぁ、ア……!」
もう一度射精をするが、春日の唇の端から精液が漏れていた。全て飲み込むことができないのだろうか。それでも、春日は必死に喉に通していく。ごくり、ごくりと大きな音が聞こえていた。春日の頬の膨らみが戻る。
精液を出し切ったところで、春日の口からすぽんと抜いた。やはり飲みきれていないので、春日が大量の精液を零す。
「あ、っは! ぁ、足立さん」
捨てられた犬のように、寂し気にこちらを見ている。まだ、しゃぶり足りないのだろうか。
遂には舌を伸ばすが、肝心の足立が弾切れするのはよくない。なのでふるふると首を横に振ると、春日の体を掴んで四つん這いにさせた。そして背中にどっしりと乗り掛かる。
「それよりも、ここに欲しいか?」
足立は春日のへその下辺りに手を触れ、さらりと撫でた。そこは性行為の際に自身の雄が入りきった部分である。
「……ッ!? ぁ、あぁ、ん……そこ、足立さん……」
春日の体がビクビクと震えた。皮膚を触れられただけでも、内側から大いに反応したのだろうか。
「ん? 俺はまだ挿れてねぇぞ? 何か勘違いしてねぇか?」
「ちが、そこ触ったら、気持ちよくて……」
やはり予想通りであった。しかし足立はよく分からない振りをするために、さすさすとへその下を更に撫でる。当然、春日の反応が大きくなっていった。
「や、あっ! ひゃあ、ア……だから、そこ、らめ!」
「駄目なのか、じゃあ……」
わざとらしく春日の制止の言葉を聞こうと、手を引こうとした。だが春日が首を横に大きく振り、いやいやと言うような態度を取る。
そこが性感帯のようになっているのは分かっている。それでも、足立はまたしてもとぼけたような反応をした。
「んん? どうして欲しいんだよ」
半部笑いしながら訊ねると、春日は「……っ!」と焦っている。今の状態を正直に言うのが、どうしても恥ずかしいのだろうか。足立はそれを「可愛い」と思いながら、再び腹を擦る。
「じゃあ、このままこうするか?」
「いや、おれ……足立さんの……ちんこが欲しい」
途端に足立の息が荒くなる。発作でも起きたかのように、吸っては吐く息が大きい。それを耳で受け取った春日が振り向く。
顎を奪うとそのまま口腔内に指を二本入れ、ぐちゅぐちゅと掻き回した。くぐもった声が聞こえるが、お構いなしに指を動かしていく。
「ふっ、ぅ、ん……! んん、んぅ!」
「待ってろ。今、お前のエロいまんこにちんこ挿れてやるからな」
耳元でわざと直接的な、卑猥な言葉を口にした。春日はそれに興奮したのか舌が蠢き、入っている足立の指をぬめぬめと這う。生暖かい粘膜から唾液を浴びると、遂には口腔内で飽和状態になった。春日の唇の端から、精液のように唾液が漏れ出す。
そろそろかと思った足立は、指をぬるりと引かせていった。予想通りに、入っていた指は唾液に塗れている。
「ぷはぁ、あ……はぁっ、はっ、あだちさん、早く、俺のまんこにちんこが欲しい!」
春日のねだりの言葉に、躊躇など皆無である。それくらいに、春日の理性が本能に食われてしまっていた。
「くれてやるから、待ってろ」
ニヤニヤと笑みを浮かべた足立は、春日の耳の縁を舌でなぞる。春日からは女のような喘ぎ声が聞こえてきた。それを聞きながら、勃起している雄を春日の尻の谷間に擦っていく。まるで、犬のマウント行為のように。
「やらぁ! まって、足立さん、そんなことしたら……」
「ん? 俺は、何かいけないことでもしてるのか?」
「ん、んぅ……」
黙ってしまった春日は、ひたすらに体を震わせる。そこでマウント行為のようなものを止めると、尻の谷間が我慢汁で濡れていた。一つ息を吐いた春日は「俺のまんこがびしょびしょ……」と、呟く。
確かに、その通りだ。足立は耳朶を舌で揺らすと、唾液で濡れている指を谷間にそっと近付けた。今から、膣のように解す為に。
「お前のここ、何だっけな」
「っあ、ぁ……ん……そこは、まんこぉ……」
「よく言えたな、偉いぞ」
褒めるように、尻の穴に指を挿し込んだ。まだ微塵も拡がってはおらず、指先が多少は入るくらいだ。しかし春日との快楽を既に何度も知っている足立は、舌なめずりをしながら指をゆっくりと動かしていく。
指先に力を込めて尻穴を解すが、足立は早く早くと慌てていない。さすがにここで急ぐと、春日の体への負担が倍になるからだ。
「ぁ、あっ……はぁ、あ、ッう……あ、アぁ」
「……まだだ、春日」
春日は焦れてきているのか、腰を小さく揺らした。足立の指の挿入を補助するかのようだが、拡げる指はそれに抗う。意図せず無理に拡がらないように。
上手く指を動かしていると、関節がずるずると埋まっていった。少しは入ったことに足立は溜息をつくと、根元が入るまで粘る。
「よし、いいぞ……」
ぐにぐにと指を動かし指を増やしていくと、何本か入り始めた。一本の指を受け入れた途端に、尻穴が緩くなってきたらしい。春日の意思が、体によく反映されたのか。
「あ、ッう、あ、あ、ゃ! そこ、もっとぉ!」
緩くなってきたと同時に、春日の四つん這いの体勢が崩れてきた。両肘が、折れかけているのだ。
背後からそれを見ていると、龍魚がベッドの上に乗ってしまう。足立はその上に伸し掛かっていたので、春日の動きを完全に封じることになる。春日には抵抗の意志は見えないのだが、制圧できたことに喜びを覚えた。
「もう……いいか」
指を抜くと、ぬちゅりと音が鳴った。そして尻穴の縁に再度触れると、ひくひくと震えている。足立の指が、名残惜しいのだろうか。
「ほら、挿れるぞ」
合図のようにそう言うと、春日が荒い息を上げながら腰を浮かせた。そして誘うように、尻を振り始める。
「はやく、俺の……まんこに、足立さんのちんこちょうだい! ッはぁ、ん……ぁ、そこぉ……」
足立は勃起している雄を尻穴にぴたりとあてがう。春日の腰の動きが更に大きくなるので、両手で腰を掴んで動きを止めた。狙いが定まらないという訳ではないが、足立は徹底的に犯すという意で強く腰を掴む。
そして獣のように荒々しい息遣いをする中で、雄を尻穴に挿れていく。縁が押し込まれると、足立は途端に春日の背中に唇を這わせる。普通では見かけない、背中にある大きな入墨へ。
「っあ……ぐ……お前の中、狭いな」
「あたりまえだろ、っあ! ……ぅ、あぁ、はぁ……」
当然、春日の腹の中へとすんなりと入る筈がない。足立はそれを分かっているので、少しずつ腰を押していく。例え春日が背中や腰をぐねらせて、煽られたとしても。
「や、ぁ……足立さん、はやく、俺、我慢できない……!」
「待て、春日……! っはぁ、は、っう……!」
またしても春日が挿入を手伝うような動きをするので、制止の為に近くにあった春日の右肩を軽く噛んだ。犬歯が皮膚に刺さったが、致し方ない。そう思っていたが、逆効果だったようだ。
春日は噛まれた瞬間に、射精してしまう。ベッドのシーツを汚す、小さな飛沫で分かった。
「ひゃ、あァ! あだちさぁんっ……」
「お前これで……もういい」
春日が悦んでいる様子を背後から見た足立は、もう諦めた。このまま焦らしても、春日が苦しいだけだろう。自身も射精をずっと我慢しており、早く解放されたいと思っている。
なので右肩の同じ箇所を舌で這わせると、次は上の歯で引っ掛けるように噛んだ。春日は小さな悲鳴を上げる。
「ッひ! ぁ、あだちさん、そこ、らめぇ!」
「あ? どこがだ……よ!」
春日の意識がどうやら右肩に向かっていたようだ。いつの間にか尻穴か緩まっており、ラッキーだと思った足立は腰をぐっと押す。春日の狭く温い腹の中にどんどん雄が収まっていく。
そこはやはり、名器と言わんばかりの凄まじい快楽があった。
「や、やぁ!? ぁ、あっ、はいったぁ! やらぁ!」
「何言ってるんだ、動くぞ!」
ここまで入ったからには、もう我慢をする必要がない。なので足立はまずは腰を小さく動かしていく。
「んっ、んぁ、は、はぁっ、ァ、あ!」
揺さぶられる毎に、春日の嬌声が大きくなっていく。すると足立に強い射精感がこみ上げたので、本能のままに春日の腹の中に精液を浴びせた。
「は、はぁ……春日……!」
「やぁ、ぁ……んんっ」
春日はシーツをぎゅっと握りしめながら、足立の精液を受け止めていた。まるで架空の生き物である、龍魚と交尾をしているような感覚に陥る。
同時に背徳感を覚えるが、足立の勃起が治まることはない。先程の状態を維持しながら、春日の腹を突いていく。
「あっ、ァ! イくぅ! イく、あだちさん、おれ……っあ、あ! イく! イく! あぁっ!」
春日の前立腺を潰し、そして腹の奥を突くと痙攣が止まらなくなっていた。しかし足立は春日と体が離れないように、腰を更に強く掴む。それも、掴んでいた手の跡がしばらく残ってしまうくらいに。
遂には暴力のように春日の腹の奥を殴ると、粘膜が一気に足立の雄を包みこんだ。もう離さないとでも言いたいのだろうか。
「うっ……! 春日! 出すぞ!」
「は、ぁ……! あだちさぁん、おれも……」
足立はその圧迫感により射精をすると、ようやく萎えていく。すると春日も射精をしていたのか、力が一気に抜けていた。ベッドの上でうつ伏せになり、ぐったりとしている。
雄を引き抜くと、春日の尻からは出した精液が流れ出た。足立はそれを満足げに見ると、春日の顎を掬ってからキスをした。
「次は、あのパンツを履きながらセックスするぞ」
「ん……」
そう言いながら春日の体を仰向けにさせてから、隣に寝る。春日は今にも眠りそうなくらいに、疲れているようだ。しかし体を綺麗にしてやらなければ、どちらにとっても良いセックスとは呼べない。
なので足立は春日の体を無理矢理に持ち上げようとした。そこで、腰から妙な音が聞こえたが、これは前に何度か聞いたことのある、嫌な音だ。春日についていた嘘が、本当になってしまった。
「……春日」
足立は今にも泣きそうな顔をしながら、眠る寸前の春日に助けを求めていたのだった。しかしその間に春日は眠ってしまったのは言うまでもない。