君との季節 - 4/4

凍る夜 布団の中で 懇ろ話

 

ある夜に、二人は体を重ねていた。いつものように于禁の家でだが、事を済ませると二人はすぐにシャワーを浴びてから布団に潜る。
季節は冬になり、寒さが厳しい日が続く。中には雪が降る日もあり、会えない日は互いに「風邪を引いていないか」などを案じていた。
そして布団に入った夏侯惇は、于禁にくっつきながら口を開く。
「……家庭教師のアルバイトは、まだ続けているのか?」
事後だというのに、夏侯惇は疲れた顔をしながら少し苛立っていた。理由は明白で、于禁のアルバイトである家庭教師の相手が女子学生だからだ。于禁曰く、その女子学生は于禁を見て怯えているらしい。これは前から知っていたが、何度も本人の口から確認してしまう。
それでも、于禁を取られないか心配になっていた。あまりにも于禁のことが好き過ぎる故に。いや、于禁も同じく自身のことが好きだということは自覚している。
「はい、勿論です。家賃を払わなければならないので」
対して于禁がきっぱりと言うと、夏侯惇はつい頬を膨らませてしまう。十二も年が離れており、大人げないのは分かっているのだが。
「あぁ、そうだよな……あぁ……」
自身に言い聞かせて納得をしようとするが、やはり本心はそうもいかない。于禁を疑っている訳では無い。なので頭を抱えようとしていると、于禁が小さく笑った。どうやら、自身のこの悩んでいる様がおかしいらしい。
「ふふっ、私は、貴方のものです」
軽く唇が合わさると、于禁の言葉が心に染み渡る。そうだ、于禁は自身のものであると。
「ありがとう」
キスを返すが、あまりにも弱いものであったので于禁が擽ったそうにしていた。更に何かの表情を見ようと、次は顎髭を頬に擦りつける。于禁の口からは「痛いです」と、笑いながら出た。
顔を近付けると、見慣れた顔の輪郭を目で拾っていく。何度見ても愛しいとしか思えない。この威厳のある顔、大きな体、ざらりとした皮膚。
夏侯惇が目を細めると、于禁がまたしてもキスをしてきた。
「……もうじき受験シーズンですが、また、仕事が忙しくなるのでは? 寧ろ私の方が、浮気を心配してしまいますが」
「ん……? あぁ、そういえばもうそろそろだな。受験シーズンが終わるまでは、また忙しくなる。昨年もだったが、今年も、来年もその先も、この時期はあまり会えなくなりそうだ。すまん」
内心で焦りが広がる。職業柄、仕方のないことなのだがその時期になると、何かと于禁に謝る場面がかなり多い気がした。于禁本人はそれを、承知しているのだが。
「いえ、貴方が謝ることではありませぬ」
于禁が腰を抱き寄せてきた。肌の暖かさが伝わると、何度も何度もキスをしていく。于禁の熱に溺れてしまいそうだが、それでも良いと思った。溺れられるのならば、永遠に抜け出すことができないのだから。
最後にと深いキスをすると、夏侯惇が気の抜けたあくびを漏らす。もう、体力的に限界なので、睡魔が襲ってきていたのだ。
「おやすみなさいませ」
于禁が微笑みながらそう言うと、部屋の照明を落としてから二人は同時に眠っていったのであった。

数日後の平日、夏侯惇はもうじき受験シーズンに入るので生徒への指導の準備をしていた。授業のものだけだが、上手く生徒に分かりやすく教えることができるのだろうか。分からないところがあれば、きちんと質問をしてくれるだろうか。
担当をしている社会科準備室の机に向かい、一人で悩んでいた。時刻は夕暮れで、一年生と二年生のみが部活している声などが聞こえる。特にここから見えるグラウンドには、野球部やサッカー部などが走ったり練習をしていた。そして吹奏楽部の演奏の音が聞こえ、それを聞きながら明日の授業の準備をする。
すると机の上に置いていたスマートフォンが震えた。見れば弓道部の顧問をしている夏侯淵からメッセージが来ている。内容を確認すれば、どこか空いている日は無いのかというものであった。
気付けば何ヶ月以上も、夏侯淵と長い会話をしていない。それは于禁と付き合ってからになるが、時折に夏侯淵に「惇兄に彼女できたの?」などと聞かれる。しかし言葉の意味では違うので、ただ否定をすると、定期的にこのようなメッセージが送られてきていた。
夏侯淵のことが嫌いではない。寧ろ従兄弟同士であるので、定期的に何らかの交流をしていたいと思えた。
少し考えた後に、今まで聞こえていた音が聞こえなくなっていく。于禁と会うことを優先すべきが悩む。どちらも大事なのだが、どちらを選べば良いのか分からない。授業の準備そっちのけで悩むが、こうしている間にも于禁と話す時間は失われていく。
そこで周囲の音が戻っていくと、自身の職業は教師だということを認識させられる。なので首を横に振った後に、仕事の方を取った。于禁は勿論、夏侯淵も忙しいということは分かってくれているのだろう。受験シーズンが終えたら、まずは于禁との時間を作ろうと思った。夏侯淵とは親族同士で、簡単なことでは疎遠にならないだろうと。
授業に使う資料は、この部屋にある。この部屋のほとんどが棚なので、一度立ち上がってからそれらを見る。分厚い本や古い本があり、紙の匂いに包まれていく。
その中で幾つかの本などを取ってから机に戻ると、一つを手に取ってからまずは目次を見る。目的のページはどこかと探していると、再びスマートフォンが振動した。集中しようとしていた為に驚いたので、スマートフォンを凝視した後に我に返る。
何なのだろうかと手に取ってみれば、于禁からのメッセージが来ていた。内容はシンプルで「今アルバイトが終わったところです」と。このようなことは、于禁からほぼ毎日来ていた。一種の業務連絡みたいだと内心で笑った夏侯惇は、口角を上げながら返事をする。
しかし返事は決まっており、いつも「お疲れ」だ。そこでたまには普段とは違う返事を送ろうと、スマートフォンの画面上のキーボードを打つ動きを変えた。
「今は、明日の、授業の、準備を、してる、と……」
打ち込んだ内容をつい声に出してしまった。自身としては滅多にないことだが、今は于禁に会えずに寂しいのだろうか。自覚をすると途端に、返事の続きを考えようとしていた。
そこで授業の準備をしている物が目に入り、冷静になる。浮かれるのは後にしようとしたのだ。なので打ち込んでいた文章を全て削除した後に、いつものように「お疲れ」と返していた。
スマートフォンを机の上に置いてから溜め息をつくと、作業の続きをした。そして後で于禁に電話をしようと考える。電話も、毎日しているのだが。

日が暮れた頃に、夏侯惇は社会科準備室を出た。外からは未だに運動部の声などが聞こえるが、もうじきここは警備員が巡回するようになる。
廊下は暗いが、慣れている。なので部屋の鍵を閉めようとすると、その腕を掴まれた。驚きながら手の主を恐る恐る見れば、目の前には于禁が居た。
「ッ……夏侯惇、殿……!」
于禁はどうやら息切れをしているようだが、もしかして走って来てくれたのだろうか。アルバイト先までは聞いてはいないので、遠かったのか或いは近かったのかは分からない。
そして律儀に首に入校許可証をぶら下げていた。勝手に学校に入っていないのが分かる。
「于禁……! どうして、ここに……!?」
疑問を持つべきではないが、どうしても持ってしまう。なのでそれをぶつけてみれば、于禁は何も躊躇も無く答えた。
「貴方が、またいらっしゃると思って……間に合ってよかった……!」
安心をした于禁が手を離すと、中腰になり両手で膝を掴む。相当に疲れたのだろうか。大きな背中を数回軽く叩いた後に後に、于禁の頭が起き上がる。
「……懐かしいですな」
呼吸を落ち着かせた後に、于禁がそう言ってから暗い校内を見回す。
すると于禁の制服姿を思い出したので、一つ頷いた。思えば、于禁が卒業してから、高校生の時の于禁の姿を思い出すことはなかった。不思議に思えたがよく考えてみれば、今の于禁と過ごしている時間がかなり楽しいからなのかもしれない。それは、良いことなのではあるのだが。
「いかがなさいましたか?」
先程まで于禁とのことを考えていたが、思ったよりも夢中であったらしい。于禁の声に気付いてから思考を流すことを止めると、首を横に振った。
「いや……お前がここを卒業する前のことを思い出してな」
「なるほど、貴方と話すようになったのは、三年の今頃でしょうか……」
「あぁ、そうだな」
于禁の言う通りに、教師と学生以外での用事で関わるようになったのは、今頃の話である。どうして于禁とこれまで話さなかったのかと後悔する時があったのだが、今が幸せであれば良いと思った。
なのできちんと于禁の方を見ると、小さく「帰ろう」と促した。
「はい、貴方の自宅まで、送ります」
「おいおい、それは逆だろう。お前はもう二十歳を過ぎたとはいえ、社会人でもなく学生だ。だから俺が家まで送ろう」
首に提げている入校許可証を弱く引くと、于禁が素直に応じてくれたようだ。「ではお言葉に甘えて……」と頭を軽く下げた。それを見た後に、社会科準備室を施錠する。
二人はそうしてまずは職員室に向かうと、他の教師の姿はない。皆、部活の顧問などで不在なのだろう。一角にある小さな棚に向かった。そこには様々は部屋の鍵が保管してあり、使用した後は返すことを原則としている。教師であっても、例外は許されないらしい。
夏侯惇は鍵を返却した後に、自身の机に向かう。于禁も着いて来ると「貴方の机に初めて来ました」と笑っていた。確かに、于禁をここに呼んだことはなかった。校則をきちんと守る、優等生だったからだ。恐らくは、今でも変わらないと思うのだが。
「さて、ここにはもう用事が無いことだし、帰るか」
「はい」
荷物を持つと、職員室を出た。そして次は于禁が首に提げている入校許可証を返却しなければならない。隣の事務室に行って返却をすればいい話である。于禁のみが事務室に入ると、すぐに出てきた。首にあった許可証は無くなっている。
帰る支度ができた二人は校舎から出るが、空の殆どが黒に覆われていた。校門までは多少の距離がある。なのでそれを目指しながら、のんびりと歩いていった。
「まだ、忙しくなるから会えない。すまんな……」
ふと出てきたのは、謝罪の言葉であった。どうしてそれが出てきたのだろうと悔やんでしまっていると、于禁が立ち止まる。
「貴方からは、謝罪を聞きたくはありませぬ。それに、職業柄仕方のないことですので、私は気にしておりませぬ」
于禁から返ってくる言葉は、変わらないものである。夏侯惇の後悔が更に深くなっていくと、于禁に指を触れられた。
「……もう、そのようなことを仰るのは、止めて下され」
見れば于禁の表情が怒りに満ちていた。このような顔を見たのは夏侯惇でも初めてであり、若干の怯えが走ってしまう。嫌なことを言ってしまった、夏侯惇の心がショックで包まれていく。
それが外から見ても分かったのだろう。途端に于禁が慌てながら「い、行きましょう!」と言う。気を遣わせてしまい、酷く情けない。
再び歩いていくが、校門から出ると、于禁が手をそっと握ってくれた。その手は温かく、寒さや先程の感情で冷えた心が温かくなっていく。すると凍っていた心が柔らかくなると、于禁にそっと話しかけた。
「二度と、言わない。約束をする」
誓うように述べると、于禁が握っている手に力が籠もった。了承の合図なのだろうか。
互いの家までは歩く程度の距離である。しかしものの二十分以内しか要さないので、二人は並んで歩く。
「他の話をしよう。俺は、お前と話せなくて寂しい。だが、今日、こうして会いに来てくれて嬉しかった」
「ありがとうございます。私は、どうしても貴方に会いたくなって、我慢ができなくなって、職場に突然押しかけて来てしまいました。申し訳ありませぬ……」
「気にするな。勤務時間外だったし、授業の準備をしていたから、支障などは全くない」
于禁をそう宥めながら、横断歩道の信号が赤であることを確認した。なので立ち止まり青になることを待つと、頭上から于禁の安心した声が降ってくる。
「ですが、今後は、貴方にアポイントを取ってからにします」
「構わん。だが……次会う時は、二人きりがいい。お前と二人の時間を過ごしたい。もう何日も……」
体が疼いてきた気がする。今までは仕事だからと抑えていたのだが、遂に限界がきたらしい。途端に心臓がばくばくと鳴り、そして于禁の方を凝視してしまう。于禁に抱かれたくて堪らないのだ。
「夏侯惇殿……?」
何も分からないであろう于禁は、首を傾げながらそう聞いてくる。このまま、求めているということを伝えるべきか。いや、これは伝えるべきだろう。
決心をした夏侯惇は、拳を作りながら于禁に今の思いを告げる。
「于禁、抱いてくれ」
なかなかにシンプルなものではあるが、于禁への効果はてきめんであった。一度目を見開いた後に、唇を歪める。于禁にも、同じような思いがあったのだろうか。
「で、ですが……」
于禁が躊躇を見せ始める。自身の仕事のことを、心配でもしてくれるのだろうか。
しかし性欲とは抑えようにも抗えないもの、と同じ性別の于禁ならば分かってくれるだろう。そのような期待を乗せながら、于禁にぐっと近付いてから更に言う。
「もう、我慢が、できないのだろう?」
「ッ……!?」
みるみるうちに顔に血が集まっていた。分かりやすい反応に、夏侯惇は笑みしかこぼすことができない。なので弱い笑いを繰り返していると、于禁は一つ息を吐いた後にこう告げる。
「どこかで、休憩をしましょう」
それは于禁なりの、遠回しにした誘い方であった。夏侯惇は勿論と頷くが、どちらかの家まで我慢できる筈がない。なので辺りを見回した後にスマートフォンを取り出した。現在位置のマップを開くと、近くの裏路地にラブホテルがあることが分かる。すぐに于禁の手を引くと、まずは裏路地を目指した。
一方の于禁はまだこの状況を理解すていないらしい。誘いには成功したものの、今からどこに行くのかは分からない。なので間抜けな声が出ていると、裏路地に入った。そこでスマートフォンの画面を見せ、今から向かうラブホテルを指差す。于禁はそこで目的地を把握していた。
于禁は無言で了承をすると、すぐにラブホテルが見える。外観は綺麗で、かなり階層がある。最近できたのだろうか。
二人で足早に歩いて行くと、到着した。ここは人の気配があまりないが、于禁はあまり入ったことが無いらしい。唐突に辺りをキョロキョロと見回した後に、走るように建物に入る。夏侯惇は慌ててそれに着いて行くように入ると、無人の精算機があった。フロントも無人だ。
機械を操作してから夏侯惇が利用料を支払うと、カードキーが出てくる。それを取ってから、機械の画面を再び確認した。部屋番号のみが表示された後に、画面が切り替わってしまう。だが部屋番号は覚えている。
エレベーターがあるのでそれに乗ると、カードキーをかざす。すると自動で扉が閉まり、今から向かう階数が表示された。エレベーターが動くが、そこで于禁の呼吸がかなり荒いことが分かった。今から自身と交わる為に、ここまで興奮してくれているのだろう。ならばその期待に大いに応えようと思った。自信があるのだ。
そう考えているうちに、エレベーターが止まった。目的の階に到着したからだ。扉が開くなり、夏侯惇が部屋番号を伝えると于禁はしっかりと頷く。
廊下に出てから部屋に向かい、そして入ってからドアを閉めるなりすぐに于禁が抱きついてきた。見事に膨らんだ股間を押しつけて、早く体を重ねたいとアピールをしていたのだ。
前を見れば大きなベッドがあるが、そこに行く余裕など無くなったらしい。ドアを開けたすぐそこで、于禁に囚われてしまったのだ。
「はぁ、はぁ……夏侯惇殿……」
すぐに唇が合わさると、夏侯惇は于禁の体にしがみついてく。体を預けていく。
「于禁、好きだ……」
できた唇の隙間からそう言うと、于禁が夏侯惇の体をごそごそとまさぐった。そうされていくうちに、ゆるゆると勃起をしてきた。体が興奮に包まれたからだろう。なのでそれをアピールするために押しつけると、于禁がキスをしながら服を脱ぎ始めた。早く、始めたいのだろう。
夏侯惇も服を脱いでいくが、厚着をしている為になかなか肌に辿り着かない。内心で焦っているが、服を脱がなければ行為をすることができず、そしてここは家ではない。着替えなど、無いのだ。なので渋々と我慢をしながら肌を徐々に露出させていくと、于禁の喉が鳴る音が聞こえた。あまりの興奮、そして我慢に耐えられなくなっているのだろう。
「ほら、俺の体だぞ」
ようやくまずは夏侯惇の肌が見えるなり、于禁はすぐに体に鼻を近付けていく。匂いを嗅がれているが、少し恥ずかしいと思えた。なので止めて欲しいと伝えようとすると、于禁が鎖骨に弱く噛みついてくる。久しぶりに走る甘く痺れた感覚に、夏侯惇は思わず体を震わせた。これは歓喜によるものである。
対して于禁はようやく半裸になったところだが、スラックスを履いていてもなお股間の膨らみがよく分かる。
「ッ、うぁ!?」
「はぁ、はぁ、夏侯惇殿の、体……」
そして次は舌で味わうように撫でられると、夏侯惇はそれだけで達してしまいそうになった。だが今から達してしまえば、この後が勿体無いと思う。ここから先は、これ以上の快楽が待っていることを知っているからだ。
「うきん、ベッドに……」
しかしこのまま立って致すことは、夏侯惇にとっては辛いと思えた。于禁よりも体力は無く、そして仕事の後である。疲れているが、于禁の性欲を受け止めることができるのかと不安になってしまった。
そうしていると、壁際に詰められたので逃げ場など一切無くなってしまう。このまま食われてしまうと諦めの顔を見せれば、于禁が珍しく笑っていた。これは心から笑っているものであり、目の前の自身を抱くことができるからであると確信していた。
「もう、待つことなどできませぬ」
鎖骨から次は胸に下りると、豊かではない胸の膨らみの形に沿うように舌が這っていく。そしてベルトを器用に外されてからスラックスが床に落ちた。無機質な音が鳴る。
皮膚を舐められることですら夏侯惇は耐えられない。なので軽く達してしまえば、床に自身の精液がぼたりと一つの雫が降った。気持ちが良かった証拠が、足元に生まれた。
「あぁ……何と、可愛らしい……」
于禁の声には愛しさの全てが籠もっていた。それにかなりの熱が含まれており、夏侯惇はその声を聞いただけでもう一度達してしまいそうになる。だがどうにか耐えて見せた。少し誇らしげな表情をしてみれば、于禁の笑みが更に大きくなる。
「夏侯惇殿……夏侯惇殿……」
次はうわごとのように自身の名を口にした後に、皮膚に弱く噛みついてきた。咄嗟に夏侯惇は体を丸め、無意識の防衛反応を見せてしまう。しかし本人はそれを気にしていないのか、或いは無視しているのかは分からないが、その体を広げるように両肩を掴まれた。
そして強く壁に押しつけられると「もう、我慢など……」と低い言葉が吐き出される。我慢の限界を迎えているのだろうか。だが入り口はまだ解しておらず、このまま挿入をされるのはどうにか阻止をしたい。そこで考えたのは、于禁の逸物を口淫することだ。これならば、一時的なある意味では時間稼ぎにはなるだろう。なので于禁の手を払った後に、腰を屈ませた。
正面を見れば、視界は于禁の股間部分を見ている。ベルトを外してからスラックスを下ろせば、大きな染みができている下着が現れた。それをずらしてから逸物を取り出す。大きく血管が浮いており、血がよく集まっているのかどくどくと脈打っている。
「ん……」
甘く痺れた声を漏らした後に口に含めば、雄臭い匂いが鼻を通り抜ける。だがそれに不快感など示す訳など無く、寧ろ心が喜びに満ちていた。思わず目を細目てしまうと、于禁の逸物が若干だが膨らんでいくのを感じる。自身が口淫する様を見下ろし、興奮してくれているのだろう。
すると于禁の手が伸びてきて、後頭部をゆっくりと擦ってくれる。整髪料で整えていた髪が手の動きに連動して乱れていき、遂には撫で上げていた髪が全て下りてしまう。
「あぁ……貴方のそのお姿が、とても可愛らしい……」
悦に浸る声を吐いた于禁は、そのまま射精しようとしていた。更に逸物が膨らんでいくと、そのまま熱いものが口腔内に吐き出される。夏侯惇は舌で受け止めた。
まずは味を確認するがやはり苦く、そして粘ついていた。かなりの期間を我慢していたのだろう。特に于禁くらいの年齢の者が禁欲生活をするとなると、相当に限界が来ていたのだろう。なので夏侯惇はそれを褒めようと思った。吐き出された精液を一気に飲み干した後に、逸物をちゅうちゅうとわざと下品な音を立てながら吸い上げる。于禁は一瞬唸った。かなり敏感になっているのか。
「ぅ! ア……! あ!」
頭を撫でている手の動きが止まると、無理矢理に顔を引き剥がされた。もう充分なのかと思ったが違うようだ。手が下りていき口に指を突っ込まれ、指先が口腔内の様々な粘膜に触れてきた。そっと上顎を擦られるが擽ったいので、喉を震わせる。
そうしていると指が抜けていった。指先には自身の唾液がしっかりと絡みついており、それだけでも卑猥に見える。
次にその指が向かう先だが、夏侯惇でも分かっていた。自身の尻の入り口なのだろう。片足を自ら上げれば、その膝裏を于禁が持ち上げる。挿入をしやすくしているのだ。
下半身に冷たい空気が触れると共に、于禁の指が入り口を緩やかになぞる。夏侯惇は慣れていてもなお、排泄器官に戻っているそこを触れられて小さな拒絶反応を無意識に出してしまう。床に着いている膝が内側へと向けてしまったのだ。しかし于禁はただ顔をしかめるだけで、持ち上げている手を固定していることは変わらない。
「はぁ、は……うきん……」
すると片足だけで体を支えられなくなっていた。足を震わせながら于禁の首の後ろに両腕を回すと、于禁の胴体が傾く。そして互いの顔同士の距離が近付けば、自然と唇を合わせていた。
舌が出してから于禁の唇を割る。ぬるぬるといやらしく絡みつくと、于禁はそれに応えるように舌を翻弄されていた。そして次第にどちらのものか分からない唾液が垂れては顎を伝うと、ぼたぼたと床に雨のように落ちていく。それは幾つもあるが同じ場所に降ると、大きな水たまりのようになっていった。
「ん、んんっ、ぅん……!」
互いの鼻息が掛かりながら、于禁が指を押し進めていった。まずは第一関節を入れようとするが、なかなか入らないらしい。自身の入り口がまだ狭いこともあるが、于禁の指が太いせいもある。
もしも女のように自然に入り口が濡れたら、と夏侯惇は無いものねだり心の中でをした。だがそう思っても意味などない。なのでキスに集中していると、于禁の指がうねうねと動いていった。そろそろ、第一関節よりも先を挿入したいらしく。
すると夏侯惇が舌を吸い上げてみれば、于禁が顔をしかめた。翻弄されてたまるかとでも言いたいのだろうか。だが夏侯惇はそのような理由で舌を吸い上げた訳ではない。入り口から意識を逸らす為にそうしたのだ。
結果は成功したようだ。自身の意識が一時的にでも口腔内に向かえば、于禁の指がすぐにずるりと奥に進む。根元まで、入ったのだ。
途端に夏侯惇は腰を震わせて絶頂を迎えてしまいそうになる。しかしまだ入り口にたった一本の指が入っただけだ。このまま果ててしまうのは情けない。
そう思った夏侯惇は射精感をぐっと堪えるが、代わりに舌の動きが弱まってしまう。于禁の目を見れば自身の考えを感づかれている様子は無いが、今の状態では舌を再び吸うことはできなかった。そうしていると、次は于禁が舌を吸い始める。
じゅるじゅると大きな音をわざと鳴らしているが、聴覚までも煽りたいのだろう。そして見事に乗ってしまった夏侯惇は、目を閉じて聴覚を研ぎ澄ませる。
于禁が立てる音は、なんと下品なのだろうか。そう思っていると、指がずりずりと動く。その行き先は知っていた。中にある、夏侯惇にとって好い場所なのだ。小さなしこりをくいと軽く押されると、夏侯惇は目を見開いてしまう。あまりの快楽に、目を閉じてはいられないのだ。
合わせていた唇を離してしまえば、于禁が本日何度目か分からない笑みを浮かべた。とにかく、夏侯惇をこうしていじめるのが楽しいのだろう。
「ほら、貴方の、お好きな場所ですよ」
煽るようにそう言われると、夏侯惇の中で何かが弾けた。まずは喉から何度か空気を吐き出し、そして震わせてから声を絞り出す。
「ッや、はぁ……ぁ、そこ、すきぃ……」
そう返せば、于禁が前立腺を何度も押してくれる。夏侯惇は喘ぐことしかできず、何度も何度も体を捻らせては壁にぶつけていく。痛みはあるが、それよりも快楽が勝っていた。もう、痛覚などどうでもよいのだ。
于禁の顔が動いた。その先は鎖骨により出っ張っている皮膚である。そこを舌でちろちろと舐められると、夏侯惇は体を震わせるしかなかった。そして前立腺をより一層押されると、遂に夏侯惇の足ががくがくと震えた後に射精をする。
「ぁ、あ……きもち、いい……!」
直後に于禁の指が動いた。一時的に緩んだ入り口に目掛けて、もう一本の指を押し込んだのだ。それは見事に縁をめり込み、第一関節を通り、根元まで挿入される。
腹の中の粘膜が于禁の指に反応した。これは快楽をもたらしてくれるものだと理解しているのだろう。自身でも分かるくらいにきつく締め上げる。そして背中を反らせるも、後ろは堅い壁だ。またもや壁に背中を打ち付ける形にしかならなかった。
「おれ……もう……」
あまりの快楽に声を震わせていると、言葉の途中で于禁が口を開く。それは夏侯惇にとっては、煽動の言葉であった。
「ほう、この程度でですか? こちらに、貴方がお好きなものがありますが?」
于禁がそう言いながら勃起した逸物を押しつけてくる。先端は我慢汁に塗れており、押しつけられた自身の腹を濡らす。そして室内の弱い照明でてらてらと光ると、夏侯惇は「ほしい……」とねだった。
「どうして、欲しいのですか?」
余裕など無いのだが、于禁がそう訊ねてきた。殆ど溶けている理性を掬い、働かせたのだろう。
「うきんの、まらででつかれて、いっぱい、イきたい……!」
夏侯惇にもはや語彙力などない。さらけ出しているのは本能だけだ。于禁はそれをしっかりと受け止めてくれたのだろう。
すぐに指を引き抜かれると、ベッドへと連れて行かれた。乱暴にベッドの上に転がされると、荒い呼吸をしている于禁が覆い被さってくる。その雄々しい様子に、夏侯惇は無意識に腹の中の粘膜をきつく締めた。
「仰せのままに」
一言そう告げた于禁は、ぱんぱんに膨らんでいる逸物を取り出す。それをもっと口淫して、自身の唾液に塗れさせたいと思っていたが、そうしたら自身の腹の中に于禁の逸物を収めることなどできなくなってしまうだろう。その欲を抑えながら、足を限界まで開いた。
「それに、貴方は、ここもお好きでしたよね?」
鎖骨に唇を近付けてから下に行った。その先は緩やかな起伏のある胸だ。于禁はその控えめな膨らみに沿って、円を描く。
最初は擽ったさに弱い笑い声を出していたものの、途中でそれは快楽に変換されていく。なので夏侯惇の笑い声は、喘ぎ声になっていったのだ。
「はぁ、……ぁ、ん……あっ、あ、そこ、いい!」
「左様ですか」
于禁が軽く返事をすると、逸物が入り口の縁に触れる。今から挿入するという合図なのだろう。しかしまだ入り口は充分に解していない。このまま太く長い于禁の逸物が入るのだろうか。そう考えていると、于禁の舌が片方の胸の飾りに触れた。夏侯惇は驚いた声を出してしまう。
「ひゃ、ぁ、あ!? そこなめないでぇ!」
反射的にそう言い放ってしまうが、于禁は無視をしたようだ。そのまま、胸の尖りを口に含んだ。そして赤子のように、ちゅうちゅうと強く吸い上げる。敏感になっているそこを吸われては、絶頂を迎えない訳などなかった。于禁の腹に見事に精液を掛けていく。
「あぁ、ァ……そこ、もっとぉ……」
夏侯惇は恍惚の声でそう促すと、于禁がもう一度吸い上げてくれた。やはり同様に感じてしまう。そして先程のように射精をした、その瞬間に于禁の逸物がぐいと押しつけられる。今から挿入をしようと言うのだ。
入り口は緩くはないが、夏侯惇は早くその逸物で貫き存分に犯して欲しいと思えた。
「きて……于禁……」
熱い息を吐きながらねだれば、于禁は先端でぬるぬるとまずは擦ってきた。時折に先端が入り口に入るが、その度に夏侯惇は声を跳ねさせる。
「んぅ!? ぁ、あ、ッはぁ、あ!」
忘れるなと言わんばかりに、于禁が胸の突起を再び吸い上げてきた。夏侯惇はシーツに背中を擦りつけ、悶絶をする。もう、頭がおかしくなってしまいそうなのだ。入る直前の逸物があるうえに、敏感な胸をちゅうちゅうと吸われていて。
「はぁ、ァ……あっ、あ、はいる……まらが、はいる……ぅあ……! あ、ぁ!」
そこで于禁が唇を離せば、唾液の糸が引いていた、それくらいに、胸の尖りを可愛がってくれたのだろう。見れば胸の尖りは仄かに腫れ上がっていた。
「もうすぐ、入りますよ……」
于禁が逸物を固定してから、ゆるゆると腰を振る。ぬちゅぬちゅと卑猥な水音が聞こえ、夏侯惇の中で興奮が限界まで大きくなる。もうすぐ、于禁の体と繋がることができると。
「うきん、すき……」
舌が回らなくなってきた。それでも、夏侯惇は于禁への想いを伝える。
「私も、貴方のことが、好きです」
于禁ははっきりと述べてくれると、直後に逸物の先端が入り口にぐちぐちと入ろうとする。そこで夏侯惇は足を于禁の腰に巻き付けると、より挿入がしやすいようにした。
「ぁ……! はいる、うきんのまらが、はい……ぅわ! は、ぁ、ァあ、ん……! はいる! はいる!」
大きな声を上げると、于禁の逸物の先端が膨らんでいくのが分かった。このままでは、望んでいる腹の中ではなく外で射精をしてしまう。于禁はそれに焦ったようで、入り口にぐいと逸物を押し込んだ。しかしあまりの大きさにより、入るわけなどない。
そうしていると、于禁が射精をしたようだ。入り口に熱いものを噴出されるが、それだけでも夏侯惇の脳は果てることで一杯だ。
「ぐっ……! お待ちを! 今……!」
于禁はそこでもう一度逸物を押し込めると、痛みが走るものの若干入ったようだ。硬さはまだ保っているので、萎える心配はない。
あまりの大きさに、息が苦しくなってきた。何度も何度も深呼吸をして鎮まろうとするが、どうにも落ち着いてくれない。夏侯惇は諦めようと息を吐き続けていると、于禁が唇を合わせてくれた。落ち着かせようとしているのだろう。
優しさに感動をしていると舌が突き出てきて、歯列をそっとなぞられた。おかげで意識がキスの方に向いていると、逸物が少しずつ動いた。先端のくびれ直前まで入り、やはり苦しい。だが今は于禁と唇を重ねており、その苦しさが全て吸い込まれていってるように感じる。ただの、気のせいなのだが。
「んん……! ん、ん……」
于禁とのキスを堪能していると、逸物の先端のくびれが迫ってきた。腰を揺らせば、すぐにくびれを迎える。ここを通り過ぎたら、後は快楽しか待っていない。夏侯惇は自身をそう鼓舞していきながら、于禁とのキスを続ける。
くびれまであと少し、のところで于禁が咄嗟にキスを止める。夏侯惇はあまりの驚きに寂しくなった口をあんぐりと開けてしまう。それを維持していると、体に大きな衝撃が襲う。くびれが、遂に入り口に入ったのだ。喉から声ではなく空気を一つ吐き出す。
「あ……ゃあ、あ……!」
「私のものを、全て、入れます、よ!」
入り口に痛みなどない。あるのは期待のみ。その感情を持ちながら、于禁の方を見る。表情はとても優しいものになっているが、どうしてなのか。そう思っていると、一気に根元まで貫かれた。高い悲鳴が飛び出す。
「やぁあ!? あ!」
「……ぐっ! 狭い……! はぁ、はぁ……これが、貴方が、欲しがっていたものですよ、どうですか」
腹の中が熱くなる。まるであまりの高熱に、自身の粘膜と于禁の逸物がくっついてしまいそうであった。腹を痙攣させていると、于禁がゆっくりと律動を始めていく。それはまるで赤子をあやすような速度であるが、次第にその速度が上がっていく。
「あぁ、あっ、あっ、あ」
体が揺れていくのが分かると、于禁が動きを止める。逸物が脈打っており、またしても射精してしまうのだろうか。そう思っているとやはり射精をした。熱い液体が注がれ、まるで種付けをされているような気分になる。
喜びに体が小刻みに震えた。
「あ、あぁ! おれのなかで、イってくれて、うれしい……!」
まずは言葉で表現した後に、次は自然と腹の中をきつく締めた。于禁が短い呻き声を上げると、夏侯惇は腕を伸ばした。その先には于禁の体があり、まずは首の後ろに手を回した。次に下に向かうと、背中に辿り着いた。そこで止まると、于禁が律動を再開した。
待っていた快楽に夏侯惇は喜ぶと、背中に爪を立ててしまう。痛くはないのだろうかなど、思うわけがなく。
「ぁ、あ、もっと、うごいて、うきん、もっと、イきたいから! は、はぁ……あ! っは、はぁ、はぁ……!」
「勿論です、貴方が、満足するまで、私はッ……!」
于禁の強い声が聞こえた後に、逸物がずるずると引かせていた。隙間から注ぎ込まれた精液が流れ出る。
だがこれは打ち付ける為の準備なのだろう。夏侯惇はそう思いながら背中に立てている爪を更に食い込ませていると、予想通りにぱぁんと弾けた音が鳴る。
一気に挿入をされ、夏侯惇は力の限り喘いだ。
「ッあぁ! うきん! それすきぃ!」
「はぁ、は……もっと、貴方の好きなものを……!」
睨みつけられるが、これは最早熱い視線にしか思えない。なので于禁の目をじっと見ていると、次は激しいピストンが始まった。乾いた音が鳴り、互いに肌を叩きつけられているようだ。
「ぅあ! は、ぁ、ぁ、アぁ、イく! イく! うきんの、まらで、はぁ、ぁ……はぁ、あッ!」
何度も腹の中を突かれ、遂に夏侯惇は達した。思わず背中を反らせてシーツに肌を擦りつけてしまう。摩擦で痛いがその感覚はすぐに消えてしまう。あまりにも、于禁の逸物が気持ち良いのだ。
放った精液は、やはり于禁の体に掛かっていた。だがそれが誇らしい。体液を、于禁の体に纏わせることができたからだ。
「はぁ……はぁ……ッう!」
その後に于禁も達すると、再び粘液が入り込む。腹の中が熱かった。灼熱という言葉が相応しいくらいに、大火傷でもするかのようだ。
低い唸り声を吐いた于禁だが、逸物は未だに芯を持っている。対して夏侯惇のものはだらりと垂れてしまい、柔らかくなっていった。しかしそれを見ても、夏侯惇はまだ性行為を続けるつもりであった。こうなれば、枯れるまで于禁の逸物を絞り出したいと思ったからだ。
伸ばしている手を于禁の首の後ろに再び回した後に、引かせてから于禁の顔を近付けさせた。
「うきん……もっと……」
恐らくは、于禁から見れば自身の顔はぐずぐずに蕩けているのだろう。それを想像していると、于禁が腰を揺らす。逸物が腹の中にまだ収まっているので、当然のように夏侯惇は喉から喘ぎ声を出した。
「……ぁ! あ、ぁ!」
「好きです、好きです、夏侯惇殿……!」
想いを伝える言葉を重ねるくらいに、于禁は燃え上がっていた。その炎は夏侯惇の腹の中にどんどん侵入していっては、粘膜に熱を当て続ける。気持ちがいい以外に言葉が見つからなくなっていた。
そして于禁が次第に獣のように腰を揺さぶっていくと、最後まで入った筈の逸物の先端がより奥に到達していく。そのような経験はあるが、やはり腹の中より先の腹の奥は、とてつもない快楽を与えてくれる。言葉など、感情など、忘れるくらいに。
夏侯惇は奥に至ることを待ちわびた。
「ッふぅ、ふう、もう少し……! もう少しで……!」
于禁もまた早く腹の奥に行きたいようだった。目は血走り、まるで別人のように見えてしまう。
だが今目の前に居るのは于禁だ。近付け続けている顔に、唇を合わせた。何度も何度も交わり続けた唇が、もはやふやけてしまうかのように思える。互いの、大量に垂れた唾液により。
「う、んん……ふ! ゥん、ん……」
丹念に唇を合わせながら、于禁がより一層腰を激しく振る。そうしていると、腹の中のくびれた部分に一瞬だけ逸物の先端が当たる。夏侯惇は電流でも流されたかのように、体を震わせた。震えは何秒も続く。
「ぁ、ふぁ……ああっ!」
唇を離してしまうと嬌声と唾液が吐き出され、頬を伝ってはシーツに落ちていく。染みを作っていく。それはまるで粗相をしたかのように、染みの大きさが大きい。
「ほら、届きましたよ。貴方の、子宮に……はぁ……早く、子を孕ませたい……」
于禁の口からそう漏れ出るが、夏侯惇も同じ気持ちだ。自身の体に、于禁の生を宿したいのだ。だが気持ちだけではそう思えても、実際にはそのようなことになる訳がない。ただの、二人の共通した願望なのだから。
するとようやく逸物の先端が腹の奥へと辿り着くと、夏侯惇は一瞬だけ呼吸ができなかった。あまりの質量感故に。
「はぁッ……! あ……!」
ぞくぞくとした感覚が全身を走った後に、夏侯惇の腰が小刻みに揺れてしまう。下半身が萎えてしまった今、射精を伴わない絶頂を迎えたのだ。
自然と涙が垂れると、于禁が舌でそれを舐め取ってくれる。頬に伝うもの、唾液も含まれているが丁寧に。
「夏侯惇殿……入りましたぞ……」
于禁が熱い吐息をかけてくれると、夏侯惇の肌が歓喜したような気がした。吐息をかけられた皮膚が、痺れたように思えたからだ。
そのまま于禁がピストンをしていくが、自覚できるくらいに強く締め付けていた。もう、二度と離す気などないと言わんばかりに。
「貴方の子宮は、私のペニスが相当お好きのようですな……はぁ、はぁ……子種が欲しいのであれば、私に言うことがありますでしょう?」
于禁がねだる言葉を求めてくると、夏侯惇は回らなくなってっきている頭を働かせた。どう言えば、于禁をより興奮させられるのだろう。
考えるが分からなくなった夏侯惇は、思ったままに言葉を吐く。
「うきんの、ほしい……! ぜんぶ、ほしい……!」
見れば于禁の目が見開いた気がする。いや、気のせいだろうか。夏侯惇はそのような思考を巡らせていると、于禁が喉を鳴らした。笑っているようにしか聞こえないので、言葉を間違えたかと考えてしまう。
そうしていると、于禁が一度逸物を引き抜いた。大量の精液が流れ出るが、その感覚がいつものように気持ちいいとは思えなかった。夏侯惇としては相当にショックだからだ。
やはり言葉がおかしかったのかと、顔を青ざめさせてしまう。夏侯惇は何か言い訳を考えていると、于禁が両肩を掴んだ。そのちからは凄まじく、骨でも折られてしまうかのように感じてしまう。
「……夏侯惇殿、私の、全てを……」
まるでこれが本当の最後と言うように、再び逸物をあてがう。于禁の胸が大きく膨らんでは萎んでいくと、先程の言葉が于禁の心に深く突き刺さっていたのが分かる。安堵と共に、顔の赤みが戻っていった。
「うきん……」
名を呼べば、于禁がこちらを見てくれる。しかし血走った目は今や無く、ましてや普段のような鋭い目つきは見えない。優しい目をしていたが、夏侯惇でも久しぶりに見る。
「夏侯惇殿……」
そしてゆっくりと唇が近付いていくと、永遠の誓いのように合わせる。だがすぐに離れていき、口が寂しくなってしまう。
「もっと、うきん」
言葉でねだれば、于禁が一つ頷いてくれる。
なのであてがっている逸物が挿し込まれると、女の膣のようにスムーズに入っていった。だが腹の奥が疼いて疼いて仕方が無い。早く、于禁の逸物でその疼きを取り除いて欲しかった。
「はぁ、あ、ん……もっと、おく……おれのしきゅうに、きて……」
「はい、貴方の、子宮に」
復唱するように于禁が返事をすれば、逸物が更に奥へと入り込む。すぐに腹の奥に入れば、その瞬間に夏侯惇はあまりの快感に体を歓喜で震わせてしまっていた。
そして汗が流れ出るが、それは于禁の皮膚が吸い取ってしまう。于禁の皮膚が濡れてしまう。
「はぁ……すぐに、種付けを……!」
ぐぽ、と奇妙な音が聞こえた後に、于禁が腰を激しく振る。大きなベッドが軋んだ音を鳴らすくらいのものだ。
ベッドが壊れてしまうのではないのかと思えたが、そのような思考を壊すように于禁が腰の動きを止める。見れば、またしても射精をする直前であったようだ。なので精液を受け止める為に、膝を上げてから于禁の腰に絡みついた。固定をした。
「……はぁ、貴方がお望みの、子種、を……!」
于禁が苦しげな声を漏らした後に、腹の奥に精液が放たれた。相変わらず焼けてしまいそうな感覚だが、それが良いと思える。この感覚が、于禁が心から愛してくれている証拠のなるのだと。
精液を注ぎ込まれた感覚で快感に満ちた夏侯惇は、何度目か分からない腰の痙攣をしてしまう。そうしていると、射精が終わったようだ。気付けば于禁のものは萎えており、すぐに結合部に隙間ができる。注がれた精液がベッドのシーツを汚す。
「ぁ……うきん……」
膝や腕ががくりとシーツの上に落ちた。ぼとりと音が鳴った直後に、于禁が腕を拾ってくれる。そして両手の甲にそれぞれキスをした。
「ずっと、好きです……愛しております……」
于禁の声には底まである熱が籠もっていた。その熱さを感じた夏侯惇は、頷いた後に舌を出す。キスをして欲しいという意で。
それをどうにか察してくれた于禁は、そっと唇を合わせてくれた。柔らかな唇同士が触れた後に、そっと抱き締められてから、于禁に体を起こされる。
「風邪を引かれないように、湯を浴びましょう」
于禁の目に普段のような鋭さが戻る。それに気まずそうに、視線を逸らされた。自身を抱いた後に、正気に戻ってしまったのだろう。
気が抜けた夏侯惇はクスクスと笑ってから、于禁の手を取る。しかし体は疲労によって上手く動いてくれないらしい。手が震え、そして物との距離感が掴めなくなる。
見かねた于禁は、夏侯惇の体を優しく抱き上げてくれた。しかし浴室に向かう前に、重さに耐えられなくなったのだろう。腕を震わせながら、床に降ろされた。
「申し訳ありませぬ……」
「大丈夫だ」
呂律は少しは治ってきたらしい。それでも舌を必死に動かしながらそう返事した。
既に裸であるのですぐに浴室に入るが、やはり寒いのでよく冷えていた。体を寒さで震わせていると、于禁が抱き締めてくる。人の肌はやはり安心するかのような暖かさがあった。寒さが少しでも飛んで行ったような気がする。
「お寒いでしょう」
そう言いながら于禁がシャワーコックを控えめに捻る。出てきたのは水らしいが、徐々に湯になっていった。湯気が、立ち上っていたからだ。
「早めに、済ませますので」
于禁が湯を掛けてくれるが、やはり湯を浴びると気持ちがいい。目を細めていると、于禁が瞼にキスをしてくれた。
頭から湯を被ると、今までにあった汚れが全て剥がれ落ちていくように思える。
乱れた髪が全て下に向いた後に、次は于禁自身が湯を被る。だがその間にも、于禁は夏侯惇の体を離さないままである。夏侯惇にまたしても湯がかかるうえに、邪魔ではないのだろうか。そう思ったが今のこの時間が幸せであるので、そのまま于禁に抱きつく。
「そろそろ出ましょうか」
于禁にそう促されるので、脱衣所へと出た。浴室中を充満していた湯気は消え去り、寒い空気が夏侯惇の肌を刺す。思わず体を寒気で震わせた。
「今、拭きますので」
まるで世話係のようにアメニティのタオルを取り出した于禁は、夏侯惇の体を丁寧に拭いていく。そして于禁の体も拭いた後に、ベッドに戻っていく。
夏侯惇は縁に座らされ、そして于禁は入り口のドア付近に散らばっている二人の服を拾い上げた。そういえば、入ったすぐそこで行為に至ったことを思い出す。
「……このまま、宿泊されますか? それでしたら、私もお供します」
「ん……? 宿泊……いや、今日は平日だな」
曜日を忘れかけていた夏侯惇は首を横に振ると、少し考えた後に返事をした。明日も平日であるので、家に帰ると。
「いや、家に帰るが……お前も、来るか?」
于禁の顔を見れば、着いて行きたがっていた。こちらを、じっくりと見ているからだ。
すると于禁は弱い躊躇の言葉を出した後に、訂正をする。
「私は……いえ、では、貴方のご自宅にお邪魔致します」
どこまでも律儀な男だと、夏侯惇は溜め息をつく。
そして于禁から脱ぎ散らかした服を受け取ると、少しずつ着ていった。しかし一日着た服を着直すということなので、不快感が凄まじい。見れば、于禁も同じことを思っていたのだろう。顔をしかめていた。
服を着終えるが、やはり汚れなどが気になって仕方がなかった。こうなれば、なるべく早く家に帰るしかない。互いに目を合わせてから頷くと、共に部屋を出た。そしてチェックアウトを済ませる。
外は室内に比べて格段に寒い。今の夜の時間帯は特に冷え、シャワーで暖めた筈の体が凍えていた。
夏侯惇は体を震わせながら、于禁を見る。何も異常が無いように見えたが、吐く息は白い。
「さて、帰るか」
「はい……ですがこのまま、普通にご帰宅されるのですか? タクシーを呼びましょうか?」
タクシーまでは大袈裟だろう。夏侯惇は肩をすくめてから足を出すが、その瞬間に体が小さな悲鳴を上げる。腰や背中が、仄かに痛いのだ。
「……やっぱり、タクシーを……呼んでくれ」
夏侯惇は主に腰を擦りながらそう言うと、于禁がすぐにスマートフォンを操作してタクシーを呼んだ。ものの五分で来ると、それに乗って夏侯惇の自宅に向かう。
十数分で到着すると、二人は無言でマンションのエントランスに入る。夏侯惇の部屋に到着するなり部屋に入り、すぐに服を脱いで洗濯機に放り込んだ
ついでに体を洗おうと思ったが、何にしても腰が痛い。溜め息をつくと、于禁が「介助しましょうか?」と申し出てくれる。断ろうとしたが、このまま寝るのも嫌だ。なので控えめに頷くと、一緒に浴室に入ってから体を洗っていった。
「明日は、出勤できますか?」
灯りが輝いている部屋のベッドに共に入るが、まだ温かくはない。寒さに震えていると于禁がそう訊ねてきた。
まるで年寄り扱いのようだと軽く怒るが、確かに于禁の言う通りである。明日は、出勤できるのだろうか。いや、出勤しなければならない。なので「できるに決まっているだろう」と言い張ると、腰になるべく負担が掛からないように仰向けに寝た。照明が眩しい。目を思わず閉じてしまう。
「……思えば、二年前の今頃は、貴方を教師としか見ていませんでした」
すると突然に于禁がそう言うので目を開いてから体の向きを変えようとしたが、腰が痛くてそうもいかなかった。
「二年前……? あぁ、もうそんなに経つのか」
そうだったと夏侯惇が頷くと、于禁のことを思い出してから笑う。こちらとしては、かなり真面目な男子生徒であったと。
「早いものですな。私にとっては、今までで、最も早く感じているかもしれませぬ」
「お前はまだ、社会人にすらなっていないだろう」
夏侯惇が指摘をすると前のことを思い出す。懐かしくその当時に戻りたくなる時があるが、もしもそうしたら、もしかしたら于禁とこのような関係にならないのかもしれない。そう思うとゾッとしてしまい、そして溜め息をつく。
「……お前と出会えて、本当によかった。これからの季節を、全ての季節を、于禁と過ごせると思うと、俺は嬉しい」
言葉はそれしか思いつかないが、口にする。于禁は明るい顔で「私もです」と相づちを返してくれた。なので夏侯惇は言葉を続ける。
「だからこれからも、俺の傍に居て欲しい」
何だかプロポーズみたいだと思ったが、これがプロポーズでも良いと思えた。自身にとってプロポーズとは、自然な形でするものだと認識しているからだ。あまりにも特別にし過ぎるのは、合わないという理由もある。
「喜んで」
于禁が穏やかな笑みでそう答えてくれると、夏侯惇はゆっくりと起き上がってからそっとキスをしたのであった。