夜長にて 君に教える 秘め事を
于禁が一人暮らしをし始めたが、まだ日にちすら経過していない。だが遂に一人暮らしをすることになり、于禁はとても嬉しいらしい。早速、土曜日に荷ほどきなどを手伝って欲しいと言ってくるので、夏侯惇は胸を躍らせながら家に向かう。
夏が終わったばかりだが、まだ暑さは続いている。家から出るとすぐに汗をかきながら、スマートフォンで于禁の家の住所を凝視していく。日が照っており、スマートフォンがかなり熱い。
聞けば最寄り駅は夏侯惇と同じなので、それなりに近いということになる。わざわざ、于禁が最寄り駅を同じ所にいしていたのだ。夏侯惇としては、近い場所にあるというのはありがたい。それに于禁の通う大学からも近いからだが、すぐに会うことができる。何と嬉しいのだろうか。
夏侯惇の家からは徒歩でおおよそ十分だ。便利だと思えた夏侯惇は、日差しのまだ強い外を歩いていく。
スマートフォンで地図を確認していると、順調に進んでいることが分かった。裏路地などに入る必要が無く、かなり分かりやすい道順だ。それに分かりやすいランドマークもあり、すぐに覚えることができる。実際に、一度通っただけでほぼ完璧に道を覚えてきていた。
迷うことはないので安堵をしていると、人混みの中の遠くからかなり見覚えのある大きな人影が見える。それも、こちらを見ているようにしか見えない。夏侯惇は目を細めながらそれを見ると、すぐに正体が分かった。あれは于禁だ。身長がかなり高いので分かりやすい。
早歩きでそこまで向かうと、于禁が自身の名を呼んでくれる。こちらを見ており、無意識に愛しいなどと思えた。
「于禁、どうした?」
于禁の元に向かうことができると、夏侯惇はそう話しかけた。第一声がそれで良いのかと思ったのだが、疑問に思ったことなので仕方が無い。
対して于禁はかなり嬉しそうな顔をしているが、荷ほどきのことを忘れているかのように見える。心配になった夏侯惇はそう指摘をすると、于禁は表情を維持したまま答える。
「遂に、貴方を自宅に招待できる日を楽しみにしておりました。勿論、荷ほどきはしますし、手伝って頂きたく思います」
なるほどと、そう腑に落ちていると于禁が「こちらです」と案内をしてくれる。なので夏侯惇は着いて行くと、やはり表通りをひたすらに歩いていく。
少し歩くと于禁が「ここです」と指差す。見れば新しめの学生向けの二階建てのアパートで、于禁の部屋は幸運と言っていいのか一階の角部屋だ。于禁がすぐに部屋の扉の前に立ってから解錠をすると、招き入れてくれる。
入ってみるとワンルーム部屋であり、部屋の隅には段ボールが数個置いてあるのみ。持って来た荷物は少ないのだろうか。或いは、元から私物が少ないのか。
家具は稼働している最中のエアコンとベッドとパソコンが置いてある机と椅子、それに空の本棚だけだ。カーテンは既に于禁がつけていたらしい。カーテンの空のパッケージの袋が畳んであった。
「狭い部屋ですが……」
「いや、お前は学生だから、これくらいで充分だろう。それよりも、いい部屋を選んだな」
見た通りの感想を述べると、于禁は照れたように「ありがとうございます……」と返す。だが夏侯惇は于禁とこうしてのんびり話に来た訳ではない。荷ほどきの手伝いをしに来たのだ。なので「荷ほどきをするぞ」と言うと、于禁はしっかりと返事をしてくれる。
「そうでした。では、厚かましいお願いではありますが……」
「そこまで畏まらなくてもいい。やるぞ」
「……はい。では、本棚に本を入れて頂けますか。本はこの段ボールのもの全てになります」
于禁が指差した段ボール箱を見る。よく見ると段ボールの中でも一番大きなサイズであり、もしかしたら私物の殆どは本なのではないのかと思えてしまう。だが本棚にしまうのは本とは限らないと、ぐっと堪えると段ボール箱の元に向かう。
入れて欲しいと言うので夏侯惇はその段ボール箱を開けた。すると予想は外れてしまう。最初に思った通りに、本しか入っていなかった。それも分厚い本が多く、夏侯惇はあんぐりと口を開けてしまう。
「いかがなさいましたか?」
「いや、何でもない……」
思えば一度も于禁の家に来たことが無い。いや、立場上は家に行くなど于禁の親に不審に思われるだろう。なので于禁の私物を見る機会があまりなく、新鮮に思えた。予想はしていたが、やはり生活感がなく見えるのだが。
「……任せろ」
専門外なこともあるが難しそうな本を見てそう言うと、まずは重たそうな本を床に置いて選別をしてから下の棚から本で埋めていく。数はそれなりにあるが、夏侯惇の身長よりも低い本棚一つだけだ。どうということはないだろう。
本を丁寧に本棚に収納していく間、于禁は机の上に物を置いているようだった。来たときから置いてあったパソコンの周りに、ファイルやペン立てを置いていく。そして引き出しには貴重品らしきものを入れるが、鍵付きということが分かる。すぐに施錠をされると、こちらに来る。
「夏侯惇殿、後は本棚だけです」
「ん!? 終わりか!?」
あまりの驚きにそう聞いてしまうが、于禁は頷くのみ。部屋を見渡してみれば、あまりにも殺風景である。今までも、そしてこれからもこのような雰囲気の部屋で過ごすことを考えると、夏侯惇は自身のことではないのに悲しみが湧いてくる。
だが于禁とは恋人の関係である。その特権を利用してこの殺風景に私物を入れたら良いのだ。それは、半同棲のように夏侯惇の生活用品を置けば良いのだ。
「これから、お前の家に俺の私物を置かせてもらうぞ。まずは歯ブラシと、コップと……」
提案すると于禁は途端に頬を赤くしながらも、良いと言ってくれた。夏侯惇は心の中でガッツポーズをする。
「……あの、夏侯惇殿」
すると于禁が更に赤色を顔全体に広げていきながら話しかけてきた。まだ言い慣れていないので、目や顔は伏せている。対して夏侯惇は「どうした?」と返すと、于禁は何回か口ごもらせてからどうにかはっきりと言葉を出していく。
「今夜、私の家に、泊まっていきませぬか……」
于禁からのその言葉は、待望していたかのように夏侯惇の脳内で喜びが湧く。すぐに「そうしたい」と言うと、于禁の顔や視線がこちらに向いて上がっていった。しかし別の方向に体を向けたかと思うと、カーテンを閉め切る。突然どうしたのかと思っていると、肩に腕を回してからそっとキスをしてきたのだ。だがそれに驚きはなく、寧ろ夏侯惇は喜んで受け入れていた。
キスは優しいもので、唇同士が軽く合わさるだけだ。それでも夏侯惇は充分に興奮してしまう。かなり元気になった下半身を于禁の太もも部分に押しつけると、唇が同時に離れていった。
「抱いても……いいか?」
言葉はそれしか浮かばないが、于禁はしっかりと頷いてくれた。しかしこのまま真新しいベッドの上で致すのかと思ってしまい、躊躇が生まれてくる。綺麗なベッドと于禁を交互に見ていると、于禁が「ベッドに貴方の匂いを……」と目を細めながらそう誘ってくれた。
これには、興奮を抑えられる筈など無い。夏侯惇の中にあった躊躇など、すぐに切れてしまうと于禁をベッドに引き連れていく。手に力がかなり込もりながら。
「ですが私の家は、壁が薄いので……」
押し倒すと于禁が恥ずかしそうに言うが、今から抱かれるのは于禁である。寧ろ音や声に気を付けるのは于禁の方だろうと思いながら、服を脱がせていった。薄着なのですぐに于禁の肌が露出すると、まずは見慣れている鎖骨に唇を這わせる。肌が熱い。焼けるようだ。
皮膚からは于禁の微かな汗の匂いと、それに勝る制汗剤の香りがする。混じり合い、夏侯惇としては興奮の抑制ができなくなるきっかけとなってしまう。鼻を鳴らして嗅いでいると、于禁が躊躇いがちな視線を寄越してきた。
「ん……! っ、ぅ、ん……」
「そのような声量であれば、隣に聞こえてしまうぞ?」
「分かって、おります……」
于禁の顔を見れば遂には耳まで赤くなっている。自分の掠れた声が隣の部屋に聞こえてしまうことを考え、想像して恥ずかしくなったのだろう。あまりにも反応が可愛らしいので小さく笑っていると、いつの間にか于禁が頬を軽く膨らませていた。
「……夏侯惇殿は、意地悪」
「そう思うのならば、声を抑えてみろ」
「ええ、そうします」
意地を張り始めた于禁に挑発をするように、ギロリとこちらを睨みつける。しかし顔は真っ赤に染まっており、やはり可愛らしい様子にしか見えない。小さな声で「好きだ……」と呟くと、鎖骨の上の皮膚に噛みついた。頭上から短い悲鳴が聞こえるが、それを無視して噛んだ箇所をべろりと舐める。皮膚には歯の形に沿った浅い凹凸がついていた。目立った痕はない。
見上げれば于禁はやはり凝視しているが、吊り上がっている目尻が少し垂れている気がした。口角を上げた夏侯惇は、手を伸ばして硬い胸をやんわりと揉む。柔らかい膨らみなど無いが、夏侯惇はこれくらいの触り心地が好きだ。何と言っても、弾力があるからだ。手を弾き返すような胸を指先で押す。
「ッは……ぁ、夏侯惇、殿……!」
「どうした? 声が出ているぞ?」
まるで虐めているかのようにそう言うと、于禁の股間が膨らんでいることに気付く。これくらいの挑発で、興奮してくれたことが一目で分かった。
揉む力を強くしてやると、于禁の胸が震えた。相当に、ここが敏感らしい。なのでより強く、そして谷間を作るように揉む。于禁が熱い息を吐き、こちらを見る。
「これしきでは……!」
于禁が我慢強く耐えようとしているが、ここで片方の胸の尖りに指を這わせた。すると于禁は大きく驚きながら「そ、そこは……!」と拒絶をしようとする。だがここも感じやすいのは知っていた。なのでわざと摘まんでやると、于禁の肩が揺れる。そして歯ぎしりをしながら快楽を外に出さないようにしているが、どこまで耐えられるのだろうか。
加虐心に火が点いた夏侯惇は、摘まんだまま小さく捻る。すると于禁が大きな声で「ひゃ!?」と叫んでしまうが咄嗟に口を手で塞ぐ。そのようなことをしても無駄だというのに。そう思いながらもう一度同じことをした。それでもやはり、于禁の可愛らしいリアクションは変わらない。
「気持ちいいか?」
訊ねてみるが、于禁は首を横にぶんぶんと振った。喋る気は無いようだ。
そうなのであればこの口を塞いでいる手をどかしてやりたくなる。そう思った夏侯惇は、もう片方の胸の尖りに顔を近付けた。ぴんと平行を向いて張っており、仄かに桃色をしている。その尖りを口に含むと、于禁が苦しげな声を漏らす。
形をしっかりと拾うことができるので、丹念に舌を這わせた。于禁の体が震え、そして目が細くなっていった。とても気持ち良さそうだ。
次に、まるで乳飲み子のようにちゅうちゅうと尖りを吸う。そうすると于禁の体がビクビクと弱い痙攣をした後に、股間の膨らみの部分のスラックスが染みを作る。どうやら先程ので達したらしい。そこを指差した後に、軽く押す。再び鋭く睨んでくるが、やはり夏侯惇には怯える等の効果はない。
「ふ、ふぅ……ん、ん……!」
于禁は未だに口を手で塞いでいるが、離すつもりはないことが分かる。だがその手をどうにか離したい。そう思った夏侯惇は、于禁が履いているスラックスをずり下ろす。見えた下着もまた、同じ箇所に新しい染みができていた。
「……ん!? んんぅ! ん! 夏侯惇殿!」
ようやく手が離れたが、于禁はそこでハッとしたようだ。どうやら手を離してしまったことに気付いてしまったらしい。動揺の為に口をパクパクと開けているが、その間にも于禁の胸を吸う。于禁の手が上下にぱたぱたと動くが、どのように動かせばいいのか分からなくなっているのだろう。
一度吸うことを止めてから、次は軽く吸う。その際に舌でぺろぺろと舐めてやれば、于禁の体が強張る。
当然、于禁は感じていたが、快楽を我慢する為に咄嗟に下唇を噛んだ。ガリッと小さな音が聞こえた。噛む力が強かったのだろう。
そこで吸うことを止めた夏侯惇は唇を離す。尖りは微かに腫れており、それを凝視した後に于禁の方を見る。唇からはか細い血の線が垂れていた。
「血が出ているではないか」
確実に自身のせいではあるが、その線を消すように舌で舐め取る。鉄の味がするが、どこか甘い味がした。その味を口の中に広げた後にもう一回舐める。やはり味は先程と同じだ。美味いと思えたので、何度も舌で味わいたくなっていた。
「まぁ、俺のせいだがな。痛くはないか? 強い力で噛んでいた気がするが」
「……いた、く……いえ、痛いです」
「すぐに見える嘘をつくな」
于禁の返事が嘘だということは、最初に躊躇のような顔色をしていたので分かった。目を泳がせ、そして唇の動きが遅かったからだ。
なので嘘だということを指摘すると、于禁は悔しげに「見抜かれてしまったか……」と悔しげに呟く。嘘をついて、宥めてもらいたかったのだろうか。案外、子供らしい顔があるのだと、夏侯惇は珍しげに見る。
「ですが続きをして下され。その……私を、早く抱いて欲しいのです」
「ほう? 言ったな」
誘っている于禁に確認をするように頷くと、下着までも下ろしていく。勿論、勃起をしており我慢汁だって垂れている。色の具合や様子をまじまじと見ていくと、于禁はそれが恥ずかしいと思ったらしい。
股間に手を伸ばして隠そうとしたが、すぐに股間を握ってから動きを封じる。当然のように、于禁の動きはぴたりと止まった。
「あッ!」
「抱いて欲しい、そう言っただろう?」
この矛盾ささえ、愛しい。夏侯惇は空いた手で于禁のスラックスや下着を足から抜いてやると、我慢汁を潤滑油にして股間をしこしこと扱き始めた。もはや形さえ覚えているそこは、何度弄っても飽きない。一方で于禁はこのような微弱な刺激でさえ、体を震わせてしまっている。
そこで于禁が何度も息を吐いた。達したいのだろう。だがそこで手をわざと離すと、于禁は目尻に涙を溜めた後にこちらを睨む。達することができなかったからに違いないが、夏侯惇の思惑通りである。唇を歪めた。
「ど、どうして……!?」
「ふふ」
ただ笑うだけでいると、動揺した于禁は我慢ならなかったらしい。于禁自身の手で股間に伸ばしてから、自慰をするように擦っていく。それも、手の動きは早い。
細かい動きを観察していると、于禁が目を逸らした。まだ芯に恥が残っていたらしい。しかしその芯をへし折るように、思った言葉を放つ。勿論、于禁の恥の芯を折るだけではない。粉々に砕くことができた。
「ほう、お前は普段はそうしているのか。知らなかったな」
関心をするように言うと、一瞬だけ于禁が見てから射精感が込み上げたらしい。短い唸り声を上げてから、股間から精液を放つ。自身の腹に精液を飛び散らせながら、于禁は軽く息を上げる。夏侯惇を見ながら絶頂を迎えることができて、少し満足そうだ。
息を途切れさせながら、于禁が重たそうに口を開く。
「はい……普段は、こうしております」
「なるほどな」
先程の動きをある程度は覚えている。なので射精したばかりの于禁の股間を握ると、真似をするように上下に擦っていく。直後で敏感になっているので、于禁は何度か苦しげに息を上げてから達した。先程のように、勢いが良い。
「ぅ……あ、あ!」
またしても腹に精液が掛かると、そこで夏侯惇が手を離した。于禁の股間は未だに元気で、若さに感心をしてしまう。だからこそ、まだ可愛がれると思った。何度も何度も、快楽に導くことができると思った。
腹に垂れている精液を指で掬うと、それを于禁の尻に持っていく。今からすることなど于禁は分かっているのか、足を必死に広げている。
「ァ、あ、夏侯惇、どの……」
「偉いな、きちんと足を広げて。いいぞ」
そう褒めると、于禁の腰がゆらゆらと揺れた。最早、何かの言葉を掛けてやるだけでも、于禁は脳内で達してしまっているらしい。夏侯惇はつい、下品に笑ってしまう。
嬉しくなったのですぐに尻に指を入れた。少し狭いものの、縁は受け入れるようにどんどん柔らかくなっていく。まるで、温かいゴムのようだ。
「ッん、ぅ、う……! はぁ、ぁ……ん……」
指を動かすと、面白いようにどんどん沈んでいく。その様子が堪らなくなり、夏侯惇はつい指に力を入れる。そうすると穴が拡がっていき、あっさりと指一本が根元まで入ってしまう。于禁はまたしても射精をした。夏侯惇の指でさえ、深く求めていたのだろうか。
表情はとても気持ちよさそうであり、目を細めている。その頬に軽くキスをすると、既に尻に入っている指を締め付けてきた。あまりの官能的な反応に思わず唾液が垂れてしまいそうになると、それを飲み込んでから入れている指を大きく動かした。
「ひあッ! ぁ、あ!」
肉壁を指でなぞるだけでも、于禁は体を面白いように跳ねさせる。なので次に前立腺を押してやると、すぐに于禁は果ててしまう。こちらに精液が飛び散るくらいに射精をしたのだ。
「お前は本当に可愛らしいな……」
褒めると共に、夏侯惇はもう一度もう一度と前立腺を軽く押す。勿論、于禁は反応しない訳がなかった。膝下に力が籠もっているらしく、筋肉の線がより強調されている。そして太ももの内側には骨が張っており、相当なものだということが分かって見えた。
「ぁん、ん、夏侯惇どの、すき……」
すると于禁がそう口にした瞬間に、夏侯惇の中で巨大な火が点いた。その勢いはとても強く、何でも燃やしてしまいそうなくらいだ。于禁の短い言葉が、大きな燃料となったのだ。
「あぁ、俺も……于禁が好きだ」
はっきりと答えると共に、中をかき混ぜるように指を動かしていく。当然、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が聞こえた。于禁はびくびくと体を震わせた後に達した。精液が夏侯惇の着ている服までに掛かれば、于禁が恥ずかしげにこちらを見る。砕けた恥が、少しずつ復活してきているらしい。
そういえば服を脱ぐことを忘れていた。夏侯惇は今更ながらに気付くと、指を引き抜いてから服を脱ぎ始める。下着が見えると自身のものの形が分かるくらいに膨らんでいた。于禁を虐めることに夢中になりすぎて、自身のそこのことなどすっかり忘れていたのだ。
なのでそれを于禁に見せつけると、欲しそうな目を向けてくれる。下着に手を掛けたところで于禁に聞く。
「欲しいか?」
「はい……あなたの、ペニスが、欲しいです……」
于禁は夏侯惇の顔ではなく、下半身を凝視している。最早、体も脳も夏侯惇の下半身のことしか考えていないらしい。これが本意だということは分かっているので、軽く褒めた。
「よくできたな」
そこで下着を取り払うと、勃起した性器が露わになる。于禁がそれをすぐに手に取ってから、当然のように咥え始めた。あまりの速さに夏侯惇は気の抜けた声を出してしまう。
于禁の口淫が始まったが、やはりとても巧い。夏侯惇の弱い箇所である先端の穴や裏筋を丁寧にしっかりと舐められていくと、夏侯惇は達してしまいそうになっていた。だがこのまま躊躇などはしない。于禁の口腔内に、精液を思いっきり放とうとしているのだ。自身のものが膨らんでいくのが分かった。
「于禁、出すぞ……!」
自身の声には苦しみが籠もっていたが、それ程に気持ちが良いということであった。もう我慢などできる筈がない。
そこで于禁は受け止める準備として性器を弱く吸っていく。夏侯惇は更に射精感が込み上げると、そこで精液を吐き出す。
「ッ……! は、はぁ……!」
そこで于禁の頭を掴むとしっかりと固定をした。精液が漏れ出さないようにと。夏侯惇としては多い量を吐き出すと、于禁が精液を飲んでくれたことを確認する。動いていた于禁の喉が止まったことを確認すると、そこで性器を于禁の口から抜いていく。
于禁の唇から出ている唾液の糸が、纏わり付いていた。あまりに卑猥な光景であるので、それを脳裏に焼き付けていく。何度も、思い出す為に。
「ん、んぅ……とても、美味でした」
礼を述べられると、夏侯惇はすぐにその唾液に塗れた性器を于禁の尻にあてがった。もう、これ以上は我慢ができないからだ。なので于禁の腰を掴むと、ゆっくりと性器を挿入していった。
「ッ! あ、ぁ! 夏侯惇、どの、はやく、きて……!」
于禁がそう言うが、夏侯惇は挑発をするように返した。部屋の壁の薄さについて、指摘をもう一度したのだ。
「お前の部屋は、壁が薄いのだぞ? いいのか? そこまで大きな声を出して……」
「……は!?」
またしても忘れていた于禁は口を噤もうとするが、夏侯惇はそれを妨げる為にあてがっていた性器を押し込む。于禁が息と共に小さな嬌声を吐く。
「や、ぁ! はぁ、やめ、う、ぅん……」
于禁は自身の行動を止めたいが、このまま止めてしまえば気持ちよく達することができない。板挟み状態になっているのだろう。夏侯惇はほくそ笑みながら腰を揺らした。
だがそこで于禁が一つ睨んだところで、顔が近付いてくる。何か抵抗でもしてくるのかと思ったが、それをただ見ていると于禁と唇が合わさった。まずは苦い味が口の中に拡がると、そこでようやく驚くことができる。目を見開くが、于禁にどんどん舌を捕らわれていき何も抵抗することができない。これは、もしかしたら声を最低限に出す為の手段なのかもしれない。
どんどん于禁の舌が責めていくと、次第に自身の唇の動きが鈍くなる。しかし夏侯惇が腰をぐっと更に押し込むと、性器がずぶずぶと尻に入っていく。
「ん! ん! ぅ、ん!」
舌を絡めた状態で、于禁が呻き声を上げる。快楽に耐えているのだろう。口では于禁が主導権を握っている一方で、尻を責めているのは夏侯惇だ。ある意味で優越感に浸りながら、腰を振っていく。先端がまだ入っていないが、それを尻に収める為に動きが激しくなっていった。
「ん! んん! ん!?」
そこで先端が入り込むと、于禁の塞がっている声が大きくなっていった。だがこのままでは大きな声とは言えない。内心で舌打ちをした後に、性器をより深く挿入しようとした。その際に于禁の目を見ると、既に限界の様子だ。目が虚ろになってきているからだ。追い打ちをかける為に于禁の下半身を握ると、中がぐっと締まる。
あまりの気持ちよさに射精をしようとしたが、性器を全て入れている訳ではない。なのでぐっと堪えながら、ますは性器の先端で前立腺を突く。于禁はあまりの快楽に唇が離れそうになったのだろう。しかし必死に夏侯惇の舌を必死に絡みつけていることから、そう簡単に離れることはないのだろうと思った。
そうしていると、二人の唇に時折できる隙間から、唾液がとろとろと流れてくる。二人の体に飛び散り、そしてシーツに落ちていくうちに前立腺を突いている性器の先端がずれた。根元まで入っていなかった性器が、ずるりと全て入ってしまったのだ。途端に于禁の唇が離れてしまい、大きな悲鳴を上げる。
「ひゃあ!? は、はぁ……」
「はッ! は……于禁、いいのか?」
なのでそう聞いてみると、于禁は焦りながら再び唇を合わせようとする。だがそれを阻止する為に、腰を大きく揺らしてピストンを始めた。于禁がこちらを睨みつつも、我慢できない喘ぎ声を何度も吐き出す。このままでは壁が薄いので聞こえてしまうのではないかと思えたが、今はそれどころではない。
そうして于禁の中を何度も突いていると、達したようだ。そのまま互いに萎えていくと、夏侯惇が一瞬にして冷静になってしまう。まずは耳を澄ませるが、幸いにも隣の部屋に住民は居ないようだ。ホッと安堵をしてから于禁を見る。意識が朦朧としているのか、こちらを見る焦点が合っていない様子だ。
「……立てるか?」
聞いてみるが、于禁の頭は全く動かない。だが今のままでは衛生的に良くないので、于禁をシャワーまで連れて行かなければならなかった。その前にふと、ベッドを見る。体液で汚れており、替えなければならない。だが、替えはあるのだろうか。荷物は全て出したらしいが、勝手に人の物を漁る訳にはいかない。
なのでシーツのことを頭に入れながら、于禁を無理矢理に立たせる。尻からは自身が出した精液が流れ出るが、今はそのようなことを気にしている場合ではない。まずは于禁の体を洗わなければならないからだ。
于禁を半ば抱えながら浴室に連れて行くと、シャワーコックから湯を出した。まずは于禁の体に湯を掛けていくと、全身が濡れる。髪が濡れて年相応の見た目になると、そっと頬にキスをしてやる。于禁の視線が小さく動いた。
「もう少し、我慢してくれ」
「はい……」
声にはいつもの覇気が全く無い。もうじき、体力からして限界が来ているのだろう。急いで于禁の体を洗ってから、自身の体も洗うと浴室を出た。
于禁の体をタオルで拭いてから自身の体も拭くが、まだベッドに寝かせることはできない。于禁を一旦床に座らせてから、ベッドのシーツを剥ぐ。それを急いで洗濯機に入れてから、新しいシーツを買いに行くべきなのかと考える。そうしていると声が聞こえた。
「あの棚に、あたらしいシーツが……」
「分かった」
于禁が震える手で指差した方向には、確かに棚がある。それを開けると確かに新品のシーツ、それもパッケージに入った状態のものがあった。それをすぐさま開封してから、ベッドに素早くセットしていく。ようやく于禁を寝かせることができる。
ベッドに寝かせると、于禁が寂しげな目でこちらを見てきた。夏侯惇はその隣に座ってから横になる。そして于禁を目一杯抱き締めた。
「まだ、傍に居て下され……」
「当たり前だろう」
軽く唇を合わせると、次第に于禁の目が細くなっていく。疲労により眠たくなってきたらしい。なので于禁の頭を柔らかく撫でると、静かに眠っていった。か細い寝息が聞こえる。
夏侯惇はその寝顔を見ていくうちに、睡魔が襲ってきていた。つられてしまったのだろうか。なので目を閉じると、そのまま夏侯惇も眠りに入る。
目を覚ますと、すっかり日が暮れていた。室内は薄暗くなり、肌寒いように思える。于禁の方を見れば、まだ眠っていた。そろそろ体を起こしたいが、いつの間にか于禁に抱きつかれていた。身動きを一つも取れない。
その状態で于禁の寝顔を見れば、やはり眉間の皺が浅い。自身と共に眠ることができて、安心をしているのだろうか。改めて于禁に好まれているのが分かった。逆もまた然りではあるのだが。
このままこうしているのも悪くない。そう思っていると、于禁が目を覚ましたようだ。瞼をゆっくりと開く。
「ぁ……かこうとんどの……」
「于禁、体は大丈夫か?」
于禁の体に触れてから、主に腰を擦る。すると于禁の体がびくりと跳ねた。まだ日中の熱が残っているのだろうか。
「は、ぁ……かこうとん、どの……!」
「ん? まだ体力はあるのか?」
夏侯惇はもう萎えているが、見れば于禁のものが再び勃起してきている。なので于禁の手を解いてから膝立ちをすると、萎えた下半身を見せる。だがそこで、夏侯惇は自身の尻に指を入れ始める。次は自身が受け入れようとしているのだ。
「待ってろ、今……ぅ、はぁ、は……」
入り口はきつく閉じているので、当然のように指が入ることを拒んでいる。それでも夏侯惇は、まずは人差し指をねじ込もうとした。異物感が込み上げてしまい、拒否感が出てしまう。呼吸がしづらくなり、息が上がる。だがそれでも指を何度も何度も様々な角度に動かし、自身の入り口を必死に拡げている様を于禁に見せる。
「ふぅ、う、う、はぁ、はぁ……」
于禁は相変わらず自身のことを凝視してくれている。その視線を感じながら、夏侯惇は指をどうにか一本入れることができた。呼吸がしづらくなるが、この先は気持ちがいいことは分かっている。なので耐えながら、徐々に指の本数を増やしていく。
途中で無様に萎えた下半身をぶらぶらと揺らしながら、どうにか于禁のものを入れる準備が整った。しかし夏侯惇の膝が笑ってしまっているようだった。なので于禁の腰に跨がると、そのまま勃起している逸物に向けて、尻を動かす。
「少し、待ってろ……もう、少し……! はぁ、あ、ん……」
于禁のものをあてがってから縁に少し当たると、すぐに快楽が襲ってくる。この時点で、夏侯惇は駄目になってしまいそうだった。だがそれに耐えて少しずつ腰を落としていくと、于禁の逸物を食っていく。先端が縁に触れた瞬間から呼吸ができなくなりかけて苦しい。
「んッ、う……は、はっ、ん……ぁ、ア」
「夏侯惇殿、もう少しですぞ……」
わざと腰を動かさない于禁がそう言ってくれると、夏侯惇は更にと腰に全体重を乗せていく。先端が少しずつ見えなくなった。夏侯惇はあまりの気持ち良さに腰の力が抜けてしまうと、一気に腰が降りていった。于禁の逸物を勢いよく食うかのように、全て入ったのだ。夏侯惇は短い悲鳴を上げる。
「ひゃ、あ!?」
「はぁ、はぁ……夏侯惇殿、動いても?」
「ぅ、う……はぁ、は、いい、ぞ……」
途切れ途切れの返事をした直後に、于禁の腰が激しく動いた。それはこちらへ体を勢いよく叩きつけるかのように、逸物が中で動く。当然、夏侯惇は止まらない嬌声を連続で上げる。すぐに達するが、下半身は萎えているので腰が痙攣するのみ。それでも、于禁に気持ちが良いことが伝わったらしい。いつもは下がっている于禁の唇の端が大きく吊り上がる。
「あ、あぁ、ア、あっ、あ!」
自身の整えていない髪が揺れるくらいに于禁が腰を揺らしてくるので、夏侯惇はまたしても達してしまいそうだった。だが我慢などできる筈がない。なのでもう一度腰を痙攣させると、中を強く締め付けたらしい。于禁の雄の声が聞こえたと共に、中に精液を吐き出された。
「ぅ、あ……! は、はぁ、夏侯惇殿……!」
そこで夏侯惇はこのままの体勢を維持することができなくなっていく。前に倒れると、そのまま于禁の胸へと落ちていく。
すると于禁が背中を抱き締めてくれたと思うと、逸物が更に奥に行くようにと腰を強く突き上げる。
「はぁ!? ア、やぁ、そこは……うぁ! あ、やめ、ァ、あ、あぁ!?」
遂に中の更に奥に、于禁の逸物が到達した。ぐぽりと音が鳴ったかと思うと、そのまま体を激しく揺さぶられる。
夏侯惇はどうにかなってしまいそうだった。于禁のそこを責めるのも好きだが、こうして自身も責められることが好きなのだ。責める気持ち良さを互いに知っている為に、好い箇所を重点的に責められる。
「ッう、やら、あ、お、ぉ! あ、イく、イく……! あ、ぁ、らめ!」
「はぁ、はッ……! でも、貴方はここが、お好きなのでしょう?」
やはり否定はできない。なのでどうにか頷くと、于禁の腰の揺れが更に激しくなった。互いの肌がぶつかり、乾いた音が部屋に鳴り響く。
「ほら……貴方も、声が隣にまで聞こえてしまいますよ?」
自身がしてきた指摘が、後になって返ってきた。だがそれにどうと思うことはない。寧ろ興奮に包まれると、またしても達する。そこで自身の萎えた場所から、無色透明の液体が噴き出す。潮を噴いたのだ。
二人の体が濡れてしまい、そして新しく替えたばかりのシーツが汚れてしまう。
「そこまで、好かったのですか……んんッ……」
このままでは終われない夏侯惇は、仕返しにと唇を合わせる。だが全身のどこにも力が入らず、口腔内にまで于禁に責められてしまう。舌をむしゃぶりつかれ、そして上顎をそっと撫でられ、夏侯惇は脳が痺れていった。もう、何も思考が働かない。
だが尻の中だげは違った。強く于禁の逸物を締め付けると共に、熱い感覚が走る。于禁が、射精をしてくれたのだ。
「ぅ、んん! ん、んう……!」
腹の中が精液で熱くなると、于禁のものが萎えていくのを感じた。そして夏侯惇は、そろそろ限界なのかもしれない。うっすらと目を閉じていくと、于禁が萎えてしまったものを引き抜く。
尻穴からはどろどろと精液が流れ出てから、まだ白い無垢なシーツを別の白色で汚していく。そう感じていると、于禁が再びそっと唇を合わせた。
肌寒いことを感じ、二人で肌をそっと合わせる。体を重ねたことにより汗が出ていたものの、それは既に引いてしまっている。なので余計に肌寒いと思えた。
相変わらず于禁の上に乗っているが、重くはないのだろうか。それを訊ねようとした夏侯惇だが、于禁が唇を合わせてきた。まだ離れて欲しくないという意思を表しているのだろうか。
「このまま朝まで、こうして過ごすか?」
于禁の髪を撫でれば、一つ頷いた。賛成だということだ。だがこのままではとシャワーをできれば浴びたいことを伝えれば、素直に応じる。
「……だが、シーツの替えは、あるのか?」
ふと疑問に感じていたことを聞いてみれば、于禁はすんなりと答えた。
「ありませぬ」
「……えっ?」
一つ間を置いた後に、夏侯惇はがばりと起き上がった。時計を見れば、まだ午後七時になったところである。この近くにベッドのシーツを売っている店はまだ営業している時間なのかもしれない。
そう考えた夏侯惇は、ベッドから急いで出た。しかし状況が何も分からない于禁は、夏侯惇をぼんやりと見ているのみ。
説明が面倒な夏侯惇は、すぐに体をティッシュで拭いてから服を着て、財布とスマートフォンを持つ。ティッシュで体を拭くのみだというのは、致し方ない。
そして于禁にシーツを買いに行くということだけを伝えた。そこで于禁はようやく現在の状況に気付いたらしい。目を見開いてから「私も行きます!」と言ったものの、全裸である。このまま連れて行く訳にはいかない。なのでそのような于禁を放っておいてから、急いで外に出た。
事後に急にできた用事なので、走ると何だか全身が気怠い。そして急に体が火照っていく。暑い。もっと自身に体力があれば、と後悔をするがこれ以上はどうすべきなのかと考える。
ありがたいことに電車に乗らなくとも、最寄り駅の中にシーツを売っている店が営業していた。まだ閉店時間に余裕があるものの、どうしてなのか夏侯惇は急いでしまう。
すぐに目当ての品をレジに持って行ってから代金を支払うと、走って店を出る。その際に店員に不思議そうな顔をされたが、今はそれどころではない。
于禁の家までは走って約十分を要した。急いで于禁の部屋に向かうと、ドアノブに手を掛けた。その瞬間に于禁が鍵を閉めていたのだろうと思ったが、鍵が開いていた。どうやら、于禁は施錠をしていなかったらしい。
ゆっくりと扉を開けると、目の前には床に膝を着けて頭を下げている于禁が居た。それも、全裸である。
「なっ……!」
夏侯惇は買ったシーツを落としそうになった。それくらいに、衝撃の光景だったからだ。
「夏侯惇殿、申し訳……」
「今はそういう場合か! それよりも、きちんと鍵を閉めろ!」
怒りながら扉の施錠を閉めると、全裸の于禁を立たせた。だがそこで、夏侯惇は笑ってしまう。どうして于禁は、全裸なのかと。
「お、お前……どうして……」
シーツを急いで買っている約三十分の間に、着替える暇くらいあったのだろう。そう思いながら、于禁を指差して再び笑ってしまう。
「えっ……? あ、これは、その……反省の意を示そうと……」
「どういうことだ」
笑いが止まらない夏侯惇は腹を抱えるが、その際に気怠い体がついに悲鳴を上げてしまう。腰が、次第に痛くなってきたのだ。
「……は、早くシャワーを浴びるぞ……」
「夏侯惇殿、顔色が……わ、分かりました」
于禁と共に浴室に向かうと、元から汚れている服を脱ぎ捨てた。それを洗濯機に放り投げると、于禁が洗剤を入れてから洗濯機を回す準備をしていく。
「すまんが、俺はすぐに出る」
腰に手を当てながらそう言うと、于禁がそこが悪くなったことを理解したらしい。肩を貸してくれると言ってくれたが、夏侯惇は断った。
一通りシャワーを浴びるとすぐに浴室を出てから棚を見るが、バスタオルを使ったらあとは一枚しかない。そういえば、ここは自宅ではないことを改めて知る。溜め息をつきながらバスタオルを手に取った。体を拭いた後に洗濯機に入れるが、そこで着る服が無いことに気付く。またかと項垂れるが、どうせまた外には出ないのでこのままでいいと思った。全裸のままベッドのある部屋に向かう。髪は乾かすのが面倒なのでそのままだ。
浴室からはまだシャワーの音が聞こえる。それを聞きながら眠るのも悪くないと思ったが、生憎にも眠気は来ない。昼間に充分に眠っていたからだ。なのでベッドにシーツをセットしてから縁にゆっくりと座ると、ただ呆けていた。
「いかがなさいましたか?」
気付けば于禁がシャワーを終えていた。洗濯機が回る音が聞こえ始める。
于禁は下着のみを身に着けていて、髪を乾かし終えていたようだ。夏侯惇の隣に座る。ベッドが大きく沈むと、その振動で自身の濡れている髪がふわりと揺れた。
「髪を乾かさなければ、体調を悪くされますよ」
「ん……? あぁ、そうだったな。ドライヤーを借りるぞ」
立ち上がろうとしたが、于禁に止められた。どうやら、于禁が取りに来てくれるらしい。なのでそのまま座っていると于禁が立ち上がり、脱衣所の方に向かって行った。
今から髪を乾かすとなると、気怠さが増大していく。もう何もする気が起きない。そう思っていると于禁がドライヤーを持って戻ってきた。
「乾かしてくれ」
「はい」
軽くそう頼むと、于禁はてきぱきとコンセントにドライヤーのプラグを挿した。温かい風を出すと、それを夏侯惇の頭に向ける。
手で髪を梳かす動きはぎこちないものの、乾かして貰っている間がとても気持ちが良いと思えた。だが相変わらず眠気は来ず、ただドライヤーの風の音を聞いていく。
夏侯惇の髪はそこまで長くはないのですぐに乾くと、于禁がドライヤーのスイッチを切ってから再び手ぐしで髪を梳かしてくれる。
「終わりました」
「ありがとう」
礼を述べると、于禁はドライヤーのプラグをすぐに抜いてから立ち上がった。再び脱衣所に向かうと元の場所に戻してから、ベッドに戻る。
「お体の具合は?」
そう訊ねられるが、夏侯惇はただ「少し怠い」としか言いようがなかった。なのでそのままそう伝えると、于禁が手を繋いでくる。
「横になりましょう」
于禁の声はとても穏やかであった。それは愛する者を労り、そしてもっと触れ合いたいことが伝わってくる。なので夏侯惇は頷くと、二人でベッドの上に横になった。
シーツはまたしても新品なので、柔らかくはない。そのような不満があるが、夏侯惇は于禁に抱きついた。そういえば寒いような気がしたので、于禁の体の熱で暖を取る。
脱衣所からは洗濯機が動く、規則的な音が聞こえ続ける。
「今日は、貴方に沢山触れることができて、幸せでした」
「……今日だけではないだろう。また明日も、今度も、お前に触らせてやる」
唇を合わせると、于禁が笑った。すると互いの髭が擦れ合い、じょりじょりと音が鳴る。二人で「痛い」と言いながら微笑む。
「そういえば、私は、このようなことをしたかった」
顔を近付けながら于禁がそう言うが、どのような意味なのか夏侯惇は分からなかった。なので首を傾げて見せると、于禁が再び口を開く。
「ようやく一人暮らしをすることができたので……それで、貴方を自宅に招きたかったので……」
「ほう。なるほどな」
納得をした夏侯惇は確かにと返事をする。そして理由が可愛らしいなどと思うと、于禁の体に腕を巻き付かせる。
「ではこれからも、たまにでいい。邪魔をするぞ。あと、俺の荷物を、少しは置かせてもらうからな。そうだ、明日は俺の買い物に付き合って貰おう」
「ええ、勿論です」
二人でそう話し合っていると、洗濯機が止まったらしい。静まり返り、部屋には二人の呼吸音しか聞こえなくなる。
静かになった方向に目を向けると、それに気付いた于禁が口を開く。
「買った洗濯機は、乾燥もしてくれるので、もう少し待てば大丈夫です」
于禁がそう言うと、やはり再び洗濯機から音が鳴り始める。しかし乾燥は少しの時間らしく、それまでの間に、二人は唇を合わせ続ける。まるで、元々一つであったものだったかのように。
「はぁ……はぁ……そういえば、家庭教師のアルバイトはどうだ? 若い者に、うつつを抜かしてはいないだろうな?」
「そのようなことなど、ありませぬ。相手は女子学生ですが、どうにも私に怯えている様子で……何を話しても、顔を青ざめさせておりまして……」
心配は無用だったようだ。夏侯惇はくすくすと笑うが、于禁の表情は渋いものになっていく。もっと、心配をして欲しかったのだろうか。
「そう言う貴方はどうなのですか。貴方も、女子学生が沢山……」
于禁の言う通りに、女子生徒に囲まれている環境である。そしてまだ于禁には言っていないが、ごくたまに女子生徒から告白を受ける。だがそれは于禁と付き合う前からあったが、固く断っていた。女子生徒など、恋愛対象に入る筈が無いからだ。自身の倫理感がしっかりと働いている故に。
だが隠すことではないので、そのことを于禁に伝えた。
「まぁ、俺のことは心配をするな。お前とこうして付き合う前からだが、生徒に告白を受けたことが何度もある。だがな、俺は一度も生徒を恋愛対象として意識をしたことがない。そうなることが怖いからではない。単に、興味が無いからだ
「では、私は……」
「お前は、例外だ」
肩をすくめてから、于禁に抱きつく。すると二人は自然と顔が近付くと、何度も何度も小さなキスをしていった。愛を確かめ合うように、何度も何度もである。
それは、二人が眠りにつくまでずっと続いていて。
次の日の昼間に、二人は起きた。だがまだ慌てる時間ではないのでのんびりと起きると、忘れて放置していた洗濯機を見る。服は乾いているが、少し皺が寄っている。乾燥までした直後に取り出していないせいだ。しかし夏侯惇は気にせず着るが、一方の于禁は気にしてくれているようだ。
「私が気付いていれば……」
「気にするな。ただ、今から買い物に行くだけだろう」
夏侯惇はやんわりと納得をさせると、于禁の様子は落ち着いた。なので次にと、外で食事をしようと提案をする。冷蔵庫には何も無いらしく、于禁は賛成してくれた。なので二人は外に出るが、晴れており夏の名残があるので少し暑い。二人は不快な気候の中を歩き、近くの適当な喫茶店に入る。中は涼しかったので、二人は無意識に顔を緩ませた。
やはり昼間なので空席があまりない。喫茶店自体が小さいこともあるが、二人は仕方が無いと思えた。店員に席を案内されるが、窓際であった。日差しがよく差し込むが、冷房が効いているので暑くはない。
テーブルに案内されると、メニューを取り出してから見る。初めて来る喫茶店であったが、メニューが充実していた。寝起きはあまり食べる気は無いのでトーストとコーヒーだけにしようと思っていたが、于禁を見ればかなりがっつりと食べたいようだ。セットメニューを見ている。
夏侯惇は若い、などと思いながら頼むものを決めた。先程の、トーストとコーヒーにしようとしたのだ。
店員に注文をした後に、周囲の雑踏音などを聞いていると、于禁が口を開く。
「あの、そういえば昨夜のシーツ代を……」
「ん? あぁ、別にいい。気にするな。安物ですまんが……」
「ですが……!」
納得できていない于禁が続けて何か言うところで、店員が注文をしていたトーストとコーヒーを持ってくる。于禁の言葉が無理矢理に中断させられた。店員が去った後に、虫の居所が悪そうにこちらを見てくる。
「この話はまた後にしよう。お前のも……ほら、来た」
たかがシーツ代であるが、本当に特に気にしていない夏侯惇は話を逸らそうとした。そこでタイミング良く店員が于禁が注文をしたものを運んでくる。
注文したものが出揃ったところで、二人は食べ始める。夏侯惇が注文したトーストはこんがりと焼いてあり、上にはシンプルにバターが乗せてあった。しかし提供されてから少し時間が経っていたので、バターの角が丸くなっていた。それでも美味しそうである。そしてコーヒーには湯気が出ておりまだ熱いのが分かる。
対して于禁が注文したものは、サラダとスープとベーコンエッグのセットだ。どれも量が多いが、于禁ならばそれを容易く平らげることができるだろう。現に、すぐに于禁が食べ始めているが、サラダがもう無くなりそうだ。
気付けばこうして共に起きてから外に出るのは久しぶりであった。いつもは共に寝てから起きれば、夏侯惇の家で朝食兼昼食にすることが殆どである。そう思いながら、夏侯惇は食べ進めていった。
食事を終えて休憩をしてから、喫茶店を出る。太陽は少し傾いて見え、後は沈むだけだ。夏侯惇はそのような空を見ながら、買い物の為に駅の近くに行こうと于禁に言う。于禁は頷いた。
目的地まではすぐに到着をするが、于禁の歩くスピードが次第に遅くなってくる。疲れたのだろうかと様子を窺えば、顔色は普段とは変わらない。どうしたのかと首を傾げると、于禁が口を開く。
「な、なんだか……」
「ん?」
于禁からは動揺の声が出てくるが、それが何なのかは分からない。なので質問をしようとすると、于禁が顔を赤らめながら言葉を続けた。
「私達が、まるで同居しているみたいで……」
出てきたものは、何とも可愛らしいことである。夏侯惇は思わず吹き出しそうになるが、ここは公共の場だ。それを堪えながら、返事を考える。だが何も出て来ない。なので単純に「そうだな」としか返せないでいると、于禁が立ち止まる。
「いや、これは、貴方のご自宅に通い始めた頃から、このような事を一度経験していますが……その、買い出しを……」
次第に于禁が言いたいことが見えてきた。これは、もしかして照れているのだろうか。そう思うと途端に于禁の手を握ると、二人で裏路地に入る。人の通りはほぼ無いので、立ち話をしても大丈夫だろう。
「そうだな……いつか、お前が立派な社会人になれば、一緒に住みたい」
まだ青い空を見上げれば、いつもより澄んで見えた。気分が良いからなのだろう。次に于禁の方を見れば耳まで、下手をすれば首まで赤色が浸食してしまいそうであった。そこまで夏侯惇の発言に喜び、そして考えてくれたのだろう。
顔を綻ばせると、于禁の手をそっと軽く握る。手までも熱く、火傷でもしそうなくらいだ。だが、于禁の熱で肌を焼くことができるのならば、どれほど嬉しいことか。それは半永久的に、自身の体に残るものなのだから。
「ほら、行くぞ。そして早く帰ろう。お前の家に」
「……っ! は、はい!」
于禁がそっと手を握り返してくれたが、表通りに入った瞬間に手を離す。それはほぼ同時のことだった。
「あの……!」
そこで何か言いたげにしているので于禁の方を見れば、未だに頬が熱そうだ。それに触れたくなったが今は公共の場である。ぐっと堪えながら、返事をした。于禁のような大男でも、人の波に攫われそうになっていた。
再び于禁の手を取ると、次はしっかりと握る。
「まだ……私が目指しているものまで遠く、貴方を待たせるかもしれませぬ。それでも、待って頂けますか? 必ず、貴方の元に向かいますので」
まるで遠く離れるような言い方だが、それくらいに于禁は熱心にそう語る。夏侯惇は顔を弛ませてから、人の流れを一時的に変えた。周囲では多くの人が歩いている中で、二人だけが立ち止まる。すると流れる川に突如置かれた石のように、人々が二人を避けた。
二人は浮いている存在となるが、周囲は特に気にしていない。
「あぁ、勿論、お前を待っている。置いて行く訳などない」
そして目的地は同じなので、夏侯惇が于禁を引くように歩く。すると人々の流れが均一になり、二人もそれに続く。
全て最寄りの駅の中で済ませることができる。なので駅に向かうと、外よりも人が多い。このままではキャパオーバーしてしまうのではないかと思いながら、隣の棟に移動した。ここは商業施設でもあるので、店がとにかく沢山あった。
今は見慣れているものの、店の入れ替わりが激しい。前にあった筈の店が無いこともあり、まずはドラッグストアに入る。そこで歯ブラシ一本のみを買うと、次にコップなどの食器を買わなければならない。そして他の生活用品もあるが、一気に買うのは止めておいた。
これは面倒だからではない。こうして、于禁と共に理由があって出かけることができるからだ。于禁だって、そう思っている筈だ。
目当てのコップを買うと、二人は駅を出てから于禁の家に帰る。しかし駅から出た頃には日が暮れていた。夏侯惇は、そろそろ自宅に帰らなければならない。明日は、月曜日だからだ。
いつものことであるが、溜め息をついた夏侯惇は于禁に今日はお開きにすると伝えた。その時の口はとても重たく、別れを惜しんでいるからだ。まだ、于禁とこうして話していたいと思えたからだ。
「于禁……では、また金曜日に会おう。だが、またお前の家に邪魔してもいいか?」
「はい。寧ろ来て頂かないと。私の家に、私物を置かれるのでしょう?」
当たり前のように言ってくれると、鼻の奥がつんと痺れたような気がした。これは、あまりの嬉しさに涙ぐんでしまっているのだろうか。
すると最後に、と于禁が抱き締めてきた。その力は強く、まるで親に抱き着いている子供のようだ。更に涙が溢れてしまいそうになる。永遠の別れでもないというのに。
しかしもう帰らなければならない。于禁の頭頂部を柔らかく撫でると、体が離れて行った。
「ではな」
そう言うと夏侯惇は于禁の家から出て、自身の家へと帰ったのであった。また、数日後の金曜日に会えるのだからと足を軽くしながら。