君との季節 - 2/4

君に滴り アイスクリームが 美味かな

 

暑さが本格化してきた頃、夏侯惇は帰路についていた。道路には陽炎の面影がまだあり、陽が沈んできた時間帯でも暑い。汗を垂らしながら、通勤鞄を持って歩いていく。
夏侯惇が勤務している高校は、明日から夏期休暇に入る。しかし三年生は受験勉強漬けであり、その指導をしなければならない。当然、明日からも夏期休暇など関係なく出勤しなければならないが、夕方の五時には帰られるので嬉しい場面もある。
だが本日は金曜日であり、于禁が泊まりに来る日だ。夏侯惇の心は内側でかなり浮かれていた。数日振りでありそれに毎週来るとは言え、今朝から楽しみで仕方がないのだ。
すると駅を出て人で溢れる帰り道に、一軒のコンビニがあった。最近できたのだが、ここから家まで近い。それに冷蔵庫に何かあったのかと思い出すが、酒や冷凍食品くらいしか無い。ふと、道行く人がコーンのアイスを食べているのを見かけたが、この時期といえばアイスを食べるのも良いだろう。そう考えた夏侯惇はコンビニに立ち寄る。
内装はできたばかりで埃が一つもなく、そして床が輝いている。夏侯惇はそれ見て眩しいなどと思いながら、アイスのコーナーに直行した。客はまばらに居るので、すんなりと到着する。見れば開店記念のキャンペーンで、ちょうど割引をしているというポップを見かけた。僅か一割引だが、それでも夏侯惇の購買欲を刺激されてしまう。王道のカップのバニラアイスを二つ手に取ると、レジに向かった。
会計を済ませると店員がスプーンを二つ付けてくれたが、その二つを見るととても幸せに思った。誰かと食べる為に付けてくれるからだ。レジ袋に入れてから渡される。
無意識にスキップをしそうになりながらコンビニを出ると、家へと急いで帰った。アイスが溶けないようにという理由も加わった故に。
「ただいま」
マンションに到着し、そして帰ってみればやはり于禁が既に来ていた。出迎えてくれると小さな声で「お帰りなさいませ」と言ってくれる。未だに照れているようだが、その様子もまた夏侯惇の心が満たされていく。
「そうだ、アイスを食おう。溶けてしまうから、早く」
于禁と共に急いで部屋に入ると、冷房がよく効いていた。あまりの涼しさに夏侯惇はアイスの存在を忘れかける。しかし手にあるレジ袋の存在がそれを引き留めてくれるので、キッチンで手を洗ってから椅子に座る。
「しかし、今日も暑かったな」
「ええ、そうですな。今週も、お疲れ様でした」
袋からカップのアイスを取り出すと、既に柔らかくなっている。なので急いで取り出してから開封をするとかなり溶けていた。これはまずいと思った夏侯惇は椅子に座ってからスプーンを持って来てから急いで食べていく。
口の中に冷たく甘い味が広がり、頬が緩んでしまう。一方の于禁は遅れてから向かいの椅子に座ってアイスを開けたものの、カップを凝視していた。このままでは液体になってしまうので夏侯惇は「どうした?」と訊ねる。すると于禁は微かな笑みを浮かべると、躊躇を見せながら「いえ、何でも」と返してきた。そしてスプーンでアイスを小さく掬うと、口に運ぶ。
その様子を見て夏侯惇は思った。もしかしたら、于禁は甘味が苦手なのではないのかと。なのでアイスがどろどろに小さくなったところで、スプーンを止めてから言う。
「お前、もしかして苦手……」
「そうではありませぬ。いえ、そうです。いや、私はアイスなど……」
これは苦手だということだろう。証拠として于禁の声は上擦り、そして目がかなり泳いでいる。夏侯惇はそうだと確信すると、于禁のアイスを持とうとした。そこで于禁に必死に止められる。
「貴方から頂いたものですので……!」
「いや、たかが子供の小遣いでも買える物だ。気にするな。苦手であれば、俺が食う」
于禁が頑なにとアイスを引っ込められたので、夏侯惇は眉を下げた。
「なので全ていただ……く……」
もう一度口に入れると、于禁は顔を歪めた。まるでとても苦いものを口にしているようで、次第に笑えてくる。その感情がすぐに表に出ると、于禁は顔を赤くしながら降参したようだ。食べかけの殆ど溶けているアイスをこちらに寄越してきた。
頭をかなり低く下げており、鼻先が机に触れてしまいそうである。
「申し訳ありませぬ」
「気にするな。しかし……そういえばお前の苦手なものなど、聞いたことが無かったな。いや、今まで甘味を食っているところを見たことがあるが、あれはもしや、好きな振りをしていたのか?」
今までのことを夏侯惇は思い出す。例えば喫茶店で頼んだプリン、パフェ、ケーキが于禁の前に置かれたことがある。それを食べながら自身と話していたが、嫌そうな素振りを見せていなかった。
だが、少しだけ于禁の様子に違和感があったと、夏侯惇は気付く。先程のようにやけに表情が緩やかだったからだ。なるほどと夏侯惇は頷くと、于禁の分のアイスを食べ始める。
「今まで嘘をついてしまい……」
「だから、気にするな。全く……そうだ、今度お前の好きなものを食べに行こう。好きなものを、そういえば聞いたことないが、あるのか? あるのならば、今度のお前の引っ越し祝いにでもどこかに食いに行こう。もうすぐ、一人暮らしをするのだろう?」
もう少しで于禁は一人暮らしを始める。バイト代がかなり貯まったらしく、親からの負担など無くとも引っ越すことができるらしい。于禁本人から、少し前にそう聞いていた。
そして気付けば于禁と毎週末は共に過ごすことが当たり前になっていたが、好きな食べ物などは分からないこともある。常に会話が弾んでいたりするので、聞くということを忘れていた。二人の元々の関係が高校教師と元教え子という、特殊過ぎることもあるのだろう。
今更ながら振り返っていると于禁が遠慮がちに答えるが、その答えに夏侯惇は驚いてしまう。
「私は特には好きなものはありませぬが……」
「何だと!?」
思わず大きな声がでてしまった夏侯惇は、直後に口を抑える。しかしもう出してしまった声なので、後戻りはできない。後悔の波が押し寄せていると、于禁がアイスを指差した。まだ于禁の分を完食しておらず、そして全てとけてしまう寸前である。
なので慌ててアイスを口に運んでいると、于禁がクスクスと笑いながら手を伸ばしてきた。「唇に、アイスが垂れておりますが」
「ん? あ、あぁ……」
近くにあったティッシュを取ろうとしたところで、于禁が指で口元を拭ってくれる。そしてそれをペロっと舐めると、于禁が一言「甘い……」と呟いた。
「お前にとっては、この甘さも、たまには良いだろう?」
すると何かを思いついた夏侯惇は溶けたアイスをスプーンで掬うと、口に運んだ。喉を通す前に立ち上がってから、于禁の方へと歩み寄る。
どうしたのかと于禁が見上げているが、その顔にぐいと近付くとそのまま唇を合わせた。そして口腔内にあるアイスを于禁の方へと流し込むと、喉からごくりと小さな音が鳴る。どうやら、于禁は口移しをしたアイスを飲み込んでくれたらしい。しかし先程の夏侯惇同様に唇の端にアイスが垂れているので、舌で舐め取る。
「甘いだろ?」
于禁の目がこちらへ向いているが、それも若干血走っていた。若さ故に、このような些細なことで興奮したのだろう。愉悦の笑みを浮かべた夏侯惇は溶けたアイスを飲み干してから、于禁ともう一度キスをする。
すぐに離そうと思ったが、于禁の舌が妨げるように入ってくる。甘さを舐め取りたいらしく、必死に動いていた。なので夏侯惇はされるがままになっていると、歯列や上顎を撫でられて声が微かに漏れた。
だがこれは擽ったいからではない。一種の快楽により出た声なのだ。頭の中が妙な浮遊感に襲われると、于禁の舌に翻弄され続けた。
「……ふ、ぅん……ッ、ん」
何度か声を出しているとようやく于禁の唇が離れる。そして舌なめずりをすると、丁寧に「とても美味でした」と礼を述べた。
しばらく呼吸を整えている夏侯惇は于禁の顔を見るのみ。そうしていると、首の後ろにに手を回してきた。これは体を重ねたいという合図だとすぐに分かると、目尻が垂れていく。
「今回は、どちらが上で下になりますか?」
于禁がゆっくりとそう訊ねてくると、夏侯惇は迷いなく答えた。
「俺が下がいい」
声には興奮と期待が入り交じっており、夏侯惇の熱を精一杯伝えたつもりである。しかし于禁は一瞬だけ目を伏せて返事に困ってから頷いた。もしかしたら、于禁は下になる方を求めていたのかもしれない。しかし夏侯惇の興奮がそろそろ抑えきれなくなっていると、于禁とそっと唇を合わせる。
目線を浴室の方へと向けると、于禁が微かに「はい」と言って首の後ろに回していた腕を下ろす。そして夏侯惇が立ち上がると共に、于禁が腰を上げた。
「夕餉はいかがなさいますか?」
「終わってからでいい」
少し腹が減っているので夕食にするのもいいが、今の夏侯惇は食欲よりも性欲が勝っていた。なので于禁の腰にそっと手を回すと、肩甲骨へと撫でるように上っていきうなじを触る。于禁の肩がびくりと跳ねた後に、こちらを見る。見ればいつもよりも眉間の皺が深く、少し不満げにしていた。
「……途中で、代わって頂きたい」
「その時に考えてやろう」
于禁も下になりたいのだと思うと、愛しさが込み上げてくる。だが夏侯惇は年上という権力を于禁に振りかざし、言う通りにさせていく。
「年功序列、ですか……」
すると于禁は眉間の皺は変わらないものの、渋々と言ったような様子で夏侯惇の言うことを聞いてくれた。なので足早に脱衣所に入ると、まるで通じ合っているかのように二人は抱き合う。
唇が合わさるが、その瞬間に夏侯惇は舌を伸ばした。そして于禁の口腔内に入ると、先程の仕返しでもするかのように甘い蹂躙を始めていく。于禁の唇の隙間から。気持ち良さげな吐息が漏れてくる。
「う、ん……かこうと……んんっ、んッ……んぅ……」
于禁の舌をこちらに引っ張ってから吸い上げると、吐息が急激に増えてきた。そしてへその下に膨らんだ股間を押しつけられると、夏侯惇はそれに触れる。どくどくと脈打っており、今にも射精をしそうな勢いだ。なので夏侯惇はそれを弱く握ってからやわやわと揉んでいく。
于禁が切羽詰まった声を吐くが、その様子を夏侯惇はおかしそうに笑う。射精を耐えているのか、それとも気持ちよさにただ喘いでいるのか。どちらでもいいと思いながら、指先で膨らんでいる部分を押す。すると遂に于禁が射精をしたらしく、ズボンの膨らみ部分に小さな染みができていた。
未だに二人は口付けを続けながら、于禁が夏侯惇の服に手を伸ばした。スラックスを下ろす為にベルトを外そうとしたが、上手くベルトを外すことができない様子だ。なので夏侯惇が舌を引かせてから唇を離すと、二人の間に唾液の線が引かれていく。しかしすぐに切れてしまうと、小さく笑った。
「早く、脱がせてくれ」
「はい」
実は夏侯惇も勃起をしており、于禁がそれを凝視し始める。この視線を浴びるのが堪らないと思いながら、于禁が再び手を伸ばしてきた。次はベルトを順調に外していくが、興奮により吐息や鼻息が荒い。于禁はベルトを外すのに夢中で、夏侯惇はその様子をただ見るだけである。なので金属音と布が擦れる音、そして于禁の呼吸音や鼻息のみが聞こえる。それにもう一つ、夏侯惇自身の心臓音も。
ようやくベルトを外すことができると、すぐにチャックが下りる。そしてスラックスが床に落ちると、下半身は股間部分が膨らんでいる下着のみになった。特に膨らんでいる部分を凝視した于禁は、自身のズボンにも手を掛ける。
汚れた下着ごと下りると、血管が浮き若干黒ずんでいる逸物が出てきた。先端は天井を向いており、いつでも夏侯惇を抱くことができるようだ。それを見て、夏侯惇は固唾を飲む。
「俺の下着も、取ってくれるか?」
「勿論」
すぐに返事をした于禁は夏侯惇の下着をすぐにずり下ろす。我慢汁をだらだらと流している雄が出てくるなり、于禁はそれをそっと握る。
「まだ、ワイシャツがありますが……」
「これもだ」
「はい」
ワイシャツのボタンも外していくが、于禁は限界を迎えそうである。ワイシャツを引きちぎられるかと思うくらいに、外し方が激しいからだ。
全てのボタンを外し終えるとすぐに脱がされ、夏侯惇は全裸になる。なので于禁も自ら全裸になると、共に浴室に入っていった。シャワーコックを捻るなり、夏侯惇は壁の方へと詰め寄られる。そして湯になる途中の水を浴びながら、二人は二度目のキスをしていった。唇同士が近付くタイミングは、ほぼ同時だった。
「ん、んッ……ふ、ぅん、ん……!」
夏侯惇が于禁の舌をむしゃぶりつくように舐めていく。先程のように吸ってやれば、やはり先程のように吐息を漏らしていた。それを聞きながら、夏侯惇は舌を強く吸う。于禁の腰が震えたのでもうじき射精をすると思った。しかしここで果ててしまっても夏侯惇が困るので、于禁の逸物を強く握る。射精を阻止できたが、于禁が不服そうにこちらを見ている気がした。
于禁が無理矢理に唇を離すと、かなり苦しげにしていることが分かった。早く射精をしたいとしか思えないが、夏侯惇だって考えは同じようなものである。自身の腹の中で于禁の逸物を気持ちよくさせたいのだ。
「そろそろ、私は……!」
声はとても強いものになっているが、夏侯惇はそれを聞いて焦らしたくなってしまう。焦らされている于禁を見るのもまた、好きだからだ。
「まだだ」
笑みを浮かべながら言うと、于禁はそれに従うしかないらしい。理性を必死に繋ぎ止めている。夏侯惇に反抗する気など無いからか。
下を見れば于禁の少し赤黒い逸物の先端がこちらを見ている。唾液を垂らしそうになりながらシャワーの湯を止めると、于禁に抱きついた。生暖かい吐息が顔によくかかった。
「夏侯惇殿……! 私は、そろそろ限界でして……!」
「まだだ。お前なら待てるな?」
期待を向けるように言うと、于禁の頭が縦にゆっくりと動く。なのでそのまま于禁との口付けを再開したが、湯の熱気が周辺に漂っており酸素が薄いと感じる。数秒毎に酸素を求めるが吸っても吸っても薄い。なので二人の口付けや息継ぎが激しくなると、自然とリップ音が激しくなっていく。
「ッ! ふう……は、はぁ、ん……」
そこで于禁が限界が来たのか、夏侯惇の体にもたれながら顎を肩に乗せてきた。相当に酸素が足りなかったのが分かる。
濡れてしまった頭を撫でてから、それに優しくキスをすると「もう出るか?」と聞く。すると于禁が小さな声で返事をしたので、于禁の体を一旦剥がしてから腕を引いて浴室から出た。
項垂れている于禁の体をタオルで拭いてやると、次は自身の体を拭く。それが終わると再び腕を引いて次は寝室へと連れて行く。ベッドに仰向けに寝かせてやると、于禁の腰の辺りに跨がった。尻に勃起している逸物が当たると、夏侯惇はつい声を漏らしてしまう。それだけで、反応をしてしまうのだ。
于禁の顔はぼんやりとしており、若干のぼせているのだろうか。なので水を持って来ようとすると、腕を弱く掴まれた。思ったよりも大丈夫らしい。
「少しは、まだ拡がっている筈だ。だから……」
なのでそのまま夏侯惇が腰を浮かせると、于禁の逸物の先端を天井に向ける。入り口をそれに目掛けて近付かせると、ゆっくりと密着させていった。そして少しでも触れてしまうと、逸物の熱さがすぐに伝わる。夏侯惇は思わず、大きな息を吐いてしまう。
「はっ……ぅ、ん……あ、ぁあ、ん……」
「これだけでも、良いですか?」
于禁の顔を見ればあまり余裕は無さそうである。挑発のつもりで言ったのだろうが、主導権を握っているのは夏侯惇だ。なので仕返しをするように、先端をぬるぬると入り口の周りで弧を描いていった。すぐに于禁は挑発を止めてしまう。
「先程の余裕はどうした? ほら、腰を動かさないのか?」
夏侯惇は勃起している自身の下半身を見せつけると、于禁の眉間に皺が深く寄った。そして夏侯惇の腰を掴むと、負けないと言わんばかりに逸物を挿入していく。
「ぁ、はぁ、あ……于禁、早く、来い」
夏侯惇の体がどんどん沈んでいくと、その度に于禁の眉間の皺が濃くなる。
そして夏侯惇の入り口は思ったよりも柔らかい。逸物の侵入をどんどん受け入れていくと、夏侯惇の言葉に嬌声が混ざっていった。
「あっ、はぁ、ッう……いいぞ! もっと、来い」
「分かっております、っぐ、う……! はぁ、はぁ……」
遂には先端が埋まっていくと、一番太い部分が入っていく。粘膜がそれを飲み込むように蠢くと、于禁は呻き声を上げた。その声を楽しみながら夏侯惇は体を沈めていく。順調に降りていくと、竿が通ったらしい。途端に于禁の肌に到達した。夏侯惇が短い嬌声を上げると、于禁は腰を小刻みに揺らし始める。
「っあ、ぁ、ア、あ、あっ、あっ!」
ピストンが始まると、夏侯惇はもう于禁を従えることなどできなくなる。于禁の逸物にかなり弱いからだ。于禁に馬乗りになっているが、上半身が崩れていく瞬間に于禁が起き上がって受け止めてくれた。なので于禁の体に密着しながら、腹の中をゆっくりと犯されていく。
「はぁ、はぁ! はっ、夏侯惇殿……」
顎を掬われると于禁がキスをしてくるが、どうやら腰を動かすことに集中してしまっているのが分かる。舌が伸びて来ず、ひたすらに唇を合わせてくるからだ。とはいえ夏侯惇もまた、舌を動かす余裕など無いのだが。
ピストンが強くなっていくと、肌を叩きつける音が響いてくる。それくらいに、二人の体がぶつかりあっているのだ。
やがては二人は呼吸音、それに喘ぎ声しか出せなくなっていた。そのような中で于禁が何か込み上げたらしく、腰の動きが止まる。もうじき射精をするのだと夏侯惇は察すると、ようやく舌が動き于禁の口腔内をぬるりと這わせていく。そして舌を捕らえたと同時に腹の中に熱い粘液が注ぎ込まれる。その感覚を体が求めていたらしく、夏侯惇は于禁の体にしがみつき必死に受け止めていた。
「っう!? ぁ、あぁッ!」
口付けなどできなくなったので唇を離してから短い悲鳴を放つと、唾液をだらりと垂らしながら浅い呼吸を出し始めた。だが于禁のものはもう芯が無くなっている。対して夏侯惇の下半身は未だに元気だ。
なのでか于禁が萎えたものを引き抜くと、夏侯惇のそれをぱくりと咥えた。すぐに口淫を始めるが、未だに舌遣いが覚束ない。だがそれが寧ろ夏侯惇を興奮させている。膨らんでいったのが分かると、于禁の口の中に精液が噴出した。
于禁の喉がすぐに動き精液を飲み込むが、それでも夏侯惇のものは立派に勃起している。すると于禁が裏筋や先端をじっくりと舌で舐め回すが、その光景がとてもいやらしかった。真面目な顔つきをしている男が、このような卑猥なものを喜んで舐め回しているからだ。胸から何かが込み上げるような気がして、夏侯惇は体を震わせる。
「ッはぁ、は……いいぞ、いいぞ……」
うわごとのように于禁を褒めてやると、その礼なのか先端を強く吸ってくれた。夏侯惇は短い呻き声を上げると共にもう一度射精をすると、ようやく下半身の芯が失われる。于禁の口が離れていくが、唇の端に精液が垂れていた。それを舐め取ろうとすると、于禁がそれに気付き舌の上に乗せてから喉に通らせていく。
「于禁……」
ただ名を呼ぶと于禁が反応し、抱き締めてくれた。もうこれ以上は体を重ねることはできないが、こうして肌同士を合わせることができる。この時が最も幸せだと思った。
「少ししたら、シャワーを浴びましょう」
「ん……? あぁ、もう少ししたらな」
射精後の独特の倦怠感があるせいもあるが、まだこうしていたい。夏侯惇は于禁の肩甲骨や背中、そして腰にまで手のひらを動かす。最早触れ慣れた体のラインを拾っていくと、どうやら于禁は擽ったいのかくすくすと笑いながら唇を一瞬だけ合わせてきた。苦い味がするものの、どこかアイスクリームのように甘いとも感じてしまう。
于禁の顔が離れると、いつもある眉間の皺がかなり薄くなっていた。
「穏やかな顔をしているな」
眉間を指先で軽く押すと、于禁の眉間が瞬く間に元に戻っていく。どうやら無意識にらしいが、緩んだ顔もまた良いと思った。なのでもう一度と促してみると、于禁が先程の眉間の緩んだ表情をしようとしてする。しかし意識してではできないのか、眉間に更に皺を刻んだ後にがっくりと項垂れた。
そのような于禁の後頭部に手で触れると、やんわりと撫でていくと顔が上がっていく。見れば于禁本人としては相当にショックだったらしい。目が合うなり、口を開く。
「私は、どうやってあの顔を……? 貴方と居れば、良い気分になれるというのに……貴方と居るのに……」
「気にするな。いや、すまんと言うべきか……あぁ、もうそろそろシャワーを浴びよう」
「はい……」
未だに于禁が引きずっているようだが、夏侯惇は胸をぺちぺちと叩いて立たせる。そして于禁が汚れたシーツを取り払うと簡単に丸めてから、共に歩き出した。夏侯惇は既に腰が怠いので歩き辛いが、対して于禁は何とも無いらしい。体力があるというのもあるが、やはり二十代という若さがあるからなのだろう。夏侯惇は三十代半ばなのだから。
脱衣所に着くと于禁が丸めたシーツを洗濯機に放り込み、浴室に先に入る。そこで鏡で自身の姿を見るが、何かが足りないと思った。その正体がすぐに分かると、先に浴室に入った于禁の元へすぐに歩き出す。
「つけてくれ」
「えっ?」
夏侯惇が要求しているものとは、キスマークである。愛されている証拠を于禁から貰いたいのだ。
普段ならば夏侯惇が拒否をしているが職業柄、あまり生徒に見えてはいけないと思ったからだ。勿論、首元など言語道断であるのだが。
「ですが、どこに……」
于禁が自身の裸体をじっくりと見るが、痕をどこにつけていいのか分からない様子だ。だが夏侯惇はどこにつけて欲しいか決めているので、浴室の冷たい床に座ってから脚を開いた。
「ここなら見えない」
指差したのは、太ももの内側である。ここであれば、不意に肌を晒す部位ではないからだ。
于禁はまずは夏侯惇の大胆なポーズに今更ながら恥ずかしいと思ったらしい。視線を外すが、もう最中特有の雰囲気を持っていないのだろう。
ギャップにクスクスと笑っていると、于禁が頬を僅かに桃色に染めながらその場に座り込んだ。そして夏侯惇の膝裏を掴むが、見渡す限りは自身の肌である。于禁は動揺しており、それを翻弄しながらキスマークを施すのを求めていく。
「つけてくれないのか?」
そう聞くと、于禁は必死に首を横に振る。なので膝を動かしてから于禁の肩に乗せて煽ると、次第に頬が膨れていくのが分かった。
「貴方は、ずるい」
「どうしてだ?」
わざとそう聞いてやると、于禁の頬がもっと膨らんでいく。夏侯惇はそれを見て小さく笑っていると、于禁がようやく動き出した。意を決したような顔で太ももに近付いていくと、まずは右の太ももに唇が寄っていく。唇が柔らかく肌に触れて擽ったいと思っていると、弱い痛みが一瞬だけ走る。
微かに声を上げてしまうと、于禁が心配そうに顔を上げてこちらを見てきた。だが大丈夫だと言うように頷くと、すぐに反対の太ももに唇が寄っていく。
すぐに痕をつけてくれるのかと思ったが、どうやら于禁が頬ずりを始めていた。時折に髭ちくちくと当たって痛い。太ももの皮膚は薄い故に。
「……ッ! 于禁……!」
「仕返しです。私のことをからかっていたので」
「ふん、随分と可愛い仕返しだな」
挑発に乗ると、于禁が舌を出した。舌先が肌をぬるりと這っていくが、擽ったいとしか思えない。なので足を勝手にばたばたと動かしていると、于禁がその足を掴んだ。予想外の行動に、夏侯惇の表情が固まった。
「動かないで頂きたい」
そう言うが、于禁は痕をつけようとはせず、ひたすらに夏侯惇の皮膚を唾液で濡らし続ける。
「おい、于禁! っは、はぁ……」
湿った声を吐いていると、于禁に何か変化が起きていた。下半身を見れば再び勃起をしており、夏侯惇は悲鳴を出しかけた。しかし時は既に遅く、于禁の手は夏侯惇の足をしっかりと離れないように掴んでいる。
「貴方が悪い」
于禁の目つきに再び鋭さが戻ってきていた。気付けば于禁の手が夏侯惇の胸に手が伸びており、二つの平らな膨らみをやわやわと揉む。女のように大きく、そして柔らかくはないものの于禁がこれが好きらしい。次第に鼻息を荒くなり始めると、それに顔を近付けてから片方を口に含んだ。
突起を舌でぶるぶると動かされると、夏侯惇は気持ちいい他に言いようがなかった。なのでそれを口にすると、于禁は礼を述べるように甘噛みをしてくる。
「ぅあ! はっ、は、ん……あ、あぁ」
「好いですか?」
わざとらしく口に含みながらそう話しかけてくるが、夏侯惇はあまりの気持ち良さにまともな返事をすることができない。代わりに首を動かそうとするが、快楽を受け入れることに意識が行ってしまう。なのでどうにもできないでいると、于禁の歯がやんわりと立った。突起を歯で挟み、弱い力を入れているのだ。ただ母音を吐いてから体を震わせることしかできない。
何度も噛まれていくうちに突起が腫れてくるように思えた。女のように、膨らんでいくように思えた。そう考えながら夏侯惇は胸から与えられる刺激により、腹の中で何かが込み上げる。だが正体を知っていて、これはいわゆる「空イキ」だろう。
夏侯惇自身ではそれを何度か経験をしたことがあるが、凄まじいものである。一言で言うなれば何も考えられなくなる、だ。
もうじきそうなると思えば、夏侯惇は何と幸福なことかと思えた。同時に于禁にも同じような状態にさせたいが、生憎にも自身の下半身はもう今日は反応をしないことが明らかである。
「今度は、貴方に抱かれたい」
上目遣いで于禁がそう言うと、夏侯惇は嬉しくて堪らなくなる。すると腹から込み上げてるものが大きくなり、途端に弾けてしまった。まるで、膨らみ過ぎた風船のように。
背中を大きく反らせた後に、于禁にしがみつく。心臓の音が響いてきていて、心地の良い喧しさがある。それを感じながら于禁の肌に指を這わせていると、硬くなったものを押しつけてきた。早く自身の腹の中、いや腹の奥で擦りたくて堪らないというアピールにしか思えない。
唇の端をつり上げながら、于禁に良いというアイコンタクトをする。そうすると于禁が太ももを持ち上げ、先程の穴に先端をずぶりと挿し込んでいった。勿論、排泄器官ではなくもはや性器となっている。なのでスムーズに挿入することができると、一気に貫かれた。夏侯惇はあまりの気持ちよさに、気絶をしてしまいそうになる。だが耐えた。
「夏侯惇殿、ここも、やはりお好きでしょう?」
「……ッは、はぁ、すき、うきんそこ、すき!」
へその辺りまで入り、律動が始まっていく。先程も通った場所なのだが、夏侯惇は于禁の肌から手を離してしまいそうになる。そこで于禁が浴室の壁に、夏侯惇の背中を軽くぶつける。
壁は冷たいが、今はそれどころではない。それよりも再び性器と呼べる場所に于禁のものが入り、自身の体が喜んでいるのだ。
「は、はぁ、うきん……」
于禁のものをよく締め付けてやると、低い唸り声が聞こえる。相当に、感じてくれているのだろう。嬉しくなった夏侯惇は自らの手を胸へと着けると、そのまま揉み始めた。そして突起を摘まむと、体に電流が走ってしまったかのような衝撃が走る。性器を突かれているうえに胸を刺激してはもう、体が崩れ落ちそうであった。
こちらに鋭く睨む二つの瞳が顔から首へと方向を変えた後に、胸へと辿り着く。見れば小さく腫れているので、于禁がそれを口に含んだ。するとじゅうじゅうと乳を吸う赤子のように吸い上げてくる。夏侯惇は再び空イキをしてしまいながら、于禁の体が揺れていく。大きな律動が始まったのだ。
夏侯惇は嬌声ではなく、悲鳴しか上げることができない。このような状態のせい、いやおかげで。
なので悲鳴を何度も何度も上げていくうちに、ここは浴室だということを微かに思い出す。自身の悲鳴が大きく響いてしまっているからだ。
ここまで高い声が出せるとは思わず、恥ずかしさが生まれていく。しかしすぐに于禁によって快感に塗り潰されると、皮膚同士がぶつかりあった。
「あぁ、あっ、ア! あ! あ、ん……ぁ、や、ぁ、ああ!」
すぐに于禁のものから精液が吐き出されるが、それはかなり量が少ない。若さの力があってもここまでかと思っていると、腹の奥で于禁のものが萎えていく。
于禁が一つ息を吐いてから抜くが、夏侯惇はまだ足りないと思っていた。まだ、特に胸が疼いて仕方が無いのだ。充分に胸を可愛がられた故に。
「まだ、足りませぬか?」
「んん……ぅ、ん……たりない……」
なるほど、という反応を示した于禁は、胸に唇を寄せた。そして突起を弄ってくれるのかと思ったが、違ったらしい。胸の皮膚を軽く噛んでは他の場所も噛んでいく。痛みが生じたが、大したことはない。
何をしているのかと思っていると、すぐに分かった。小さな痕を何度もつけているのだ。すると胸だけの刺激で腹の奥で込み上げてくると、すぐに再び弾けた。胸を弄られただけでまたしても空イキをしたのだ。
体を震わせていると、于禁が突起を舌でべろりと舐めた。
「ここも、お好きなのでしょう?」
「ッふ! ぅ……ぁ、あ、はぁ……あ……」
自覚はできているが何も考えられなくなり、そして意識までもがぼやけていく。もうじきあまりの快楽や疲労により、意識を失ってしまうのだろう。だが于禁の腕の中で失神するのであれば、何も心配はいらない。何よりも、于禁の傍に居られるのだから。
そう思いながら、夏侯惇は視界をゆっくりと薄くさせていく。于禁は気付いているのだろうかと、目を合わせた。
「おやすみなさいませ……」
そう聞こえたと思いながら、夏侯惇は意識を手放した。

意識を取り戻してみれば、まずは寝室の白いの天井が見えた。そして次に腰の痛みが襲いかかってきたので、夏侯惇はもがきながら現在の状況を確認する。于禁が運んでくれたのは確かで、裸の状態だがタオルケットが掛けられている。冷房がついており、空気が吐き出される音が微かに聞こえた。
だが于禁の気配は無いので今の時間を確認する為に、ぐったりとしながら起き上がった。カーテンの隙間から日差しが差し込んできているので、日中だということは分かる。部屋にある時計はちょうど朝の六時を指していた。そろそろ起きて、出勤の為に支度をしなければならない。
ふうと息を吐いた夏侯惇は再び横になろうとした。そこで自身の胸に目立つ赤色がある。何なのだろうかと凝視すると、それは于禁が施してくれた一つの痕であった。夏侯惇はそれを気に入ったような顔で見ると、指でそっと触れる。
僅かに凹凸のあるそれは、永遠に残るものではない。すぐに跡形もなく消えてしまうものだ。そうなのであれば、また于禁につけてくれた良い。逆もまた然りである。
そう思っていると、寝室の扉が開いた。見れば難しい顔をしている于禁が居るが、夏侯惇の姿を見るなり顔を緩めた。
「おはようございます。お体の具合は?」
「腰が痛いな」
「次回は加減を……」
于禁は改めるように姿勢を正すが、夏侯惇は冗談のつもりで言ってみただけだ。予想はしていたが于禁がここまで堅物であることをすっかり忘れていた。即座に発言を取り消した後に、腹から音が鳴った。空腹を知らせるものである。
「朝餉の準備をします」
急いで背を向けた于禁だが、そこで夏侯惇は今食べたいものがふと脳裏に過った。なので于禁の動きを声で止める。
「于禁、夜はデザートにアイスが食べたい」
「買って来ます」
「おい、今ではな……」
言い終える前に、フリスビーを投げられた犬のように足早に于禁が駆けていく。凄まじい速さである。夏侯惇はそれを見送ってから、ゆっくりとベッドから起き上がる。やはり腰が痛いが、耐えられないということはない。
何度も呼吸を繰り返しながら足の裏を床に着けると、膝に力を込めて腰を上げた。難なく上げることができると、次は真っ直ぐ立ち上がる。その際に掛かっていたタオルケットを拾い上げると、それを持ってからまずは洗面所に向かう。近くにある洗濯機にタオルケットを放り込むと、顔を洗った。
寝室で服に着替えるが、やはり腰が痛い。今日一日、耐えられるのだろうかと心配になる。そこで湿布を貼ろうとするために、棚から湿布を取り出した。痛いのは主に腰なのですぐに貼れるだろうと、着たばかりのワイシャツを脱ぐ。
腰を手で押さえて主に痛い部分はどこか触ってみた結果、どうやら一人で貼れるような場所ではない。于禁が戻って来たら頼もう、そう思いながら待つとすぐに戻って来た。手には袋が提げてあり、本当にアイスを買ってきたのだろう。
「買って参りました……どうしてその格好を?」
「ありがとう。いや、湿布を貼ろうとしているのだが、俺一人では貼れない。だから代わりに貼ってくれないか?」
くるりと後ろを向いてから、貼りたい場所を指差す。すると背後から于禁の「お任せあれ」という言葉が聞こえ、そっと持っていた湿布を取り上げられた。
「頼む」
再度礼を述べるように返すと、早速に于禁がおおよその場所に貼ってくれた。腰にひんやりとした感覚が伝わって来た後に、痛みがすぐに和らいできた気がする。そう思いながら夏侯惇は再びワイシャツを着ようとした。そこで于禁の視線を感じたのでぴたりと手を止める。
視線の先は自身の胸の痕だ。これがどうしたのかと訊ねると、于禁が少し考えた後に答えた。
「その……夜になったら、私にも、その……」
「あぁ、分かってる」
ワイシャツを羽織ると、于禁の肩をぽんぽんと叩く。そしてこくこくと頷くと、ボタンを留めてから于禁の硬い胸の辺りを指で一回突いた。于禁が一瞬だけきょとんとするが、意味が分かったらしい。
「それより、飯にしよう。用意してくれたのだろう?」
「はい」
二人で小さな約束を交わすと、朝食を取る為に寝室を出る。そして朝食を終えた頃には、もう出勤しなければならない時間になっていた。
于禁が見送りに玄関まで出てくれるが、やはりここは冷房が効いていないのでとにかく暑い。すぐに汗を垂らしながら「行って来る」と言って靴を履くと、于禁が腕を引いてきた。
「すぐに、夜になってしまえばいいのに……」
「それは俺も同じだ。だが、我慢しろ」
目を見てにっこりと笑うと、于禁が顔を伏せた。だがこれは照れによるものに違いない。夏侯惇は心の中でも同様の表情を作る。
「では、行って来る」
そう言って玄関の扉を開くと、外の熱気が体を包む。今日も暑くなりそうだ。そう思いながら、玄関の扉を閉じた。

夕方になり退勤をするが通り道には当たり前のように、コンビニがある。昨日のようにアイスでも買って帰ろうとした。しかし于禁が朝に買ってくれていたのを忘れるところだ。コンビニから無理矢理に目を逸らすと、帰ることに集中する。
しばらく人混みの中を歩いていると、スマートフォンが振動した。何か通知が来たようなので通勤鞄のポケットから取り出すと、于禁からメッセージが入っていたようだ。すぐに開いて確認をすると、そこには「アイスがあるのでお待ちしております」とあった。思わずニヤニヤしそうになったが、それを耐えると顔に無表情を貼り付けて帰宅する。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
キスをしようとしたが、今の自身は汗に塗れている。あまり近付かないでいると、于禁の表情が沈んでいく。だがどうにも憚られるので正直に「汗をかいてるからシャワーを浴びてからでいいか?」と聞くと、于禁は渋々と頷いた。
すると于禁が手を差し出してくる。どうしたのかとその手を凝視していると、これは通勤鞄を出して欲しいということに数秒遅れて気付いた。なので慌てながら于禁に通勤鞄を渡すと、夏侯惇はそのまま脱衣所に向かう。着替えの準備をしようとしたが、于禁が先程支度をすると言った。なのでその言葉に甘えて、着ている服を脱いで洗濯機に放り投げていく。
帰る途中で随分と汗をかいていた。肌にくっついていく感覚、それに気付けば重い服を細目で見ながら全ての皮膚を空気に触れさせる。一種の解放感を味わってから、浴室に入った。
ぬるま湯を浴びれば、暑さや汗のことを一時的に忘れることができた。夏侯惇はそれが気持ちが良いと思いながら、頭を洗っていく。髪を洗い体も洗おうとしたところで、胸にある于禁がつけた痕を見た。これは明日になれば薄くなっていき、明後日には更に薄くなっていくことだろう。指でその痕をそっとなぞりながら考える。
「夏侯惇殿」
すると于禁の声がしたが、着替えを持ってきてくれたのだろう。ぬるま湯を止めてから浴室のドアを開くと、そこには服を脱いでいる于禁が居た。思わず吹き出してしまうと、于禁は流石に怪訝そうにこちらを見てくる。
「私も湯を浴びようと思いまして」
すぐに全ての服を脱いだ于禁が浴室にずかずかと入ってくる。特に構わないのだが、どうしてなのか気になっていた。なので于禁に聞いてみる。
「どうした? 汗でもかいたのか?」
「いえ、そのような気分でしたので」
「なるほど……」
頷いていると于禁がシャワーコックを捻る。するとぬるま湯が出てくるが、夏侯惇は既に浴びている。なので于禁に浴びせようとすると、于禁が体を引き寄せてきた。驚いた夏侯惇は転びそうになったが、于禁が上手く支えてくれている。安堵をしていると、于禁がぬるま湯を止めた。
「私に、つけて下さるのでしょう?」
「おい……! まだ、早い! 気が早い!」
「ですが私は、朝から待ち遠しかった……」
于禁が眉を下げると、夏侯惇はその顔には滅法弱い。なので一瞬だけ引き下がったものの何かを言い返さなければならなかった。しかし何も思いつかない。
「何か?」
「い、いや……」
返すべき言葉を考えていると、于禁が胸にある痕を指差した。
「しっかりと残っていますな」
「ん……? あぁ、そうだな」
「私も、それが欲しいのですが」
こちらをじっと見てくる。言う通りに于禁も同じく胸の痕を欲しているようだ。
于禁がここまでわがままを言ってくるのは、かなり珍しい。なので一つ息を吐くと、于禁の胸へと首を動かした。そして左胸の皮膚に歯を立てると、頭上から痛みを耐えるような声が聞こえてくる。唇を離せば、于禁の胸に自身がつけた痕がくっきりと存在していた。
顔を上げれば、于禁が嬉しそうに見ている。
「……ッ、ありがとうございます」
「構わん」
すると于禁が再度シャワーコックを捻り、ぬるま湯を頭頂部からつま先まで浴びる。そうするとぬるま湯を止めてから、于禁が「そろそろ出ましょう」と促してくる。だが夏侯惇は体をまだ洗っていない。それを説明して于禁が引き下がるかと思った。
「まだ体を……」
「そうですか。では、私が洗いましょう」
「えっ」
聞き返そうとしたが、于禁はいつの間にか夏侯惇のボディタオルを持っていた。自身の体を洗う気満々である。
「いや、自分で……」
「いえ、私が」
于禁は引き下がろうとはしない。頑固であるために、このままでは諦めるしか無さそうだ。なので夏侯惇が先に折れると、于禁に体を洗ってもらうことにした。
ボディタオルにボディソープを垂らすと、それをしっかりと泡立てる。思えば于禁にこのようなことをされたことがない。いや、気を失っている間にそうされたことがあるのだろうか。
そう考えていると腕をしっかりと伸ばされた。そしてやはり慣れた手つきで洗っていくので、夏侯惇は恐る恐る聞いてみる。
「俺は……お前が体を洗ったことは……?」
「あります」
「えっ」
予想は当たっていた。やはりと夏侯惇は一時的に唸った後に、観念して于禁に体を洗われることにする。だがこのようなことをされるのはかなり恥ずかしい。例え、于禁相手にでもだ。
まずは肩から洗っていくが、于禁がとても真剣な表情をしている。視線は今ボディタオルを擦っている部位の皮膚を見ているが、それでもどうしてもどのような気持ちでいたら良いのか分からない。そうしていると于禁が「何か?」と聞いてくるが、夏侯惇は「何もない」と返事をするとここは素直に洗われることにした。
途中で自身が洗われている犬になっているかのように思えたが、一方の于禁は特に顔を変えずに手を動かしていく。局所などに悪戯でもするかと思ったが、そのようにはみえない。それを想像でもした自身が浅はかにでも思いながら、つま先まで泡が渡った。体が泡だらけである。
「湯で流します」
機械的にそう告げると、優しく湯を当てられていく。体中にあった湯がどんどん流れていき、次第に肌が露出するが于禁は相変わらずである。すると夏侯惇の中で苛立ちを覚える。このまま、手を出して欲しいと。何とも身勝手な考えではあるのだが。
ギロリと睨むと、流石に于禁は驚いていた。
「私に何か至らない点でも……」
「違う」
シャワーを止めた後に于禁を押し倒す。明らかに驚いた様子であり、抵抗をする暇もないようだ。
そのような于禁を見て少しだけ笑うと、軽い口付けをしていく。しかし先程から于禁は固まっていると、急激に頬を崩し始めた。何かおかしいところでもあるのだろうか。頭に血を上らせていると、のぼせてしまったようだ。つい頭が眩んでしまうと于禁に体を支えらえた。
「大事は無いですか!?」
于禁が慌てているのを見て何故か安心をしてしまうが、そうする訳にはいかない。それは人として、あってはならないことだからだ。だが謝ろうとしても、まずはのぼせをどうにかしなければならない。
すると于禁が浴室の扉を開けてくれたので、浴室内よりも冷たい空気が入り込んでくる。夏侯惇は安堵の息と共に感謝を吐き出した。
「すまん……のぼせてしまっていて……それで……」
「私は気にしておりません。それより、一旦、ここから出ましょう」
「あぁ……」
于禁に支えられながら浴室を出ると、タオルで丁寧に拭いてもらう。そして于禁も自身の体の水気を拭き取ると、持って来てくれていた下着や服を身に着けていく。
「夕餉にしましょう。作っていたので」
「ありがとう」
何だか于禁が妻のように見えてくるが、夏侯惇は首を横に振る。どう見ても長身で年は十二も離れている男だ。だが、その相手こそが夏侯惇が愛する人間なのだ。
短い廊下を歩いてリビングに辿り着くと椅子に座る。目の前のテーブルの上にはバランスの良い料理が並べられている。やはり妻にしか見えないと、椅子に座った于禁を三度見してしまう。
「な、何か……?」
「い、いや、何もない……」
笑って誤魔化そうとしたが、于禁は何かを疑っているようだ。料理が不味そうなどと思っているのだろうか。いや、そのようなことはない。なので夏侯惇は炊いた米を箸で取って口に入れるが、少し熱かった。口をぱくぱくとさせていると、于禁が静かに笑ってくれた。
普段は厳格な顔つきをしているが、年相応の表情を見せてくれている。なので何度か咀嚼してから飲み込むと、箸をゆっくりと置いた。
「美味い。このようなことをさせてすまないな」
「いえ、私が勝手にしていることですので」
大きな謙遜を于禁はしているが、夏侯惇はそのようなことはないと否定をした。そうしているとこのまま会話ばかりが進んでいくように思えた。せっかく于禁が作ってくれた料理が、冷めてしまう。なので夏侯惇が話の流れをすっぱりと切ってから、箸を手に取りながら「……食うぞ」と言った。続けて于禁が箸を手に取ると、共に完食していく。
二人での夕食が終わると、夏侯惇は一度体を伸ばす。帰ってすぐに風呂に入りそして夕食にしていた。休む暇が無かったので、椅子にだらしない姿勢で座ってしまう。しかし于禁はそれを見て不快そうにはしてない。寧ろ立ち上がってから空になった食器を下げようとしてくれるが、さすがにそれは自分でしておかなければと慌てて立ち上がった。
「美味かった。ありがとう」
そう言って空の食器をシンクに持って行こうとすると、于禁もまた立ち上がり一緒に空の食器を持って行く。
そして食後には朝于禁が買ってくれていたカップのバニラアイスを冷凍庫から取り出す。するとアイスは二つあるが、于禁も食べるのだろうか。訊ねてみれば、肯定の返事が返ってきた。
なのでの分とスプーン二本を食器棚から持って行く。席に再び着くと于禁も一旦戻ってから、アイスの蓋を開ける。既に少し柔らかいが、寧ろ食べやすくて良い。そう思いながら、スプーンで冷たいアイスを掬う。
口に運ぶと甘さが広がり、夏侯惇は目を閉じていると思うくらいに目を細めた。それくらいに、美味であったからだ。一方の于禁は恐る恐る、少量を掬ってから口に入れる。だがやはりあまり好みの味ではないらしい。
申し訳ないと思った夏侯惇は「あとは俺が食うぞ」と言うが、于禁は頑なに首を横に振る。どうやら、出された食べ物はきちんと最後まで食べなければという信念があるらしい。悪いことではないが、無理に食べても好んで食べているこちらの気分をどうすれば良いのか分からない。
「……大丈夫か?」
「は、はい……」
やはりどうやら大丈夫ではないが、夏侯惇の分のアイスはもうすぐ無くなる。あとはこちらで食べようと思っていると、于禁がようやく降伏をしてくれた。まだアイスが入っているカップを受け取ると、スプーンで掬ってから食べる。
そうしていると、于禁が立ち上がった。どうしたのかと見ながらアイスを食べていると、于禁が顔を近付けた。
「その……あと少し、私にも……」
アイスを口移しで欲しいということらしい。夏侯惇はふふっと微かに笑った後に、スプーンでアイスを掬ってから口に入れる。そして于禁と唇を重ねてから口腔内の熱でどろどろになったアイス、もはや甘い液を于禁の舌に持っていく。
于禁が必死に強く吸い上げていると、まるで深い口付けをしているかのように錯覚してしまった。すると脳が痺れていくが、于禁も同様の状態に陥ってしまったらしい。吸い上げる力が弱くなり、遂には二人の唇の端から溶けたアイスと唾液が混ざったものが垂れてきた。これではよくないと夏侯惇は口付けを止めてから、于禁の顎などに付着したアイスを綺麗に舐め取る。舌を念入りに這わせながら。
「も、申し訳ありませぬ……!」
于禁は驚いた顔をしながら謝ってくるが、舐め取ったアイスの味はいつもより美味に思えた。なので「美味かったぞ」と言うと、于禁は顔を赤く染める。それは嬉しさなのか恥なのか、或いは自身に少しでも欲情してくれたのだろうか。
そう思っていると、もう一口分のアイスを掬う。しかしカップには半分以下しか残っておらず、口移しをできる回数は残り少ない。残念だが、これは本来は于禁の苦手な部類に入る食べ物だ。ここで残念がるのはよくないと、これで口付けは最後にすることにした。
「ん、ん……ぅ、ん」
もう一度アイスを口移しをするが、于禁の眉間の皺がかなり深く刻まれている。もう限界なのが分かると顔を離すが、またしても于禁の顎にアイスなどが垂れていた。それも舐め取っていくがやはり美味である。
次は普通にアイスを食べてみるが、先程の美味には及ばない。思わず夏侯惇は顔をしかめると、于禁がこちらの様子を窺ってくるのが分かる。なので「すまんな」と一言詫びを入れるが、于禁は首を横に振ってくれた。
そうしているとアイスを完食したので席を立ち上がると、待っていたかのように于禁も立ち上がる。シンクにある空の食器はまだ洗っていないが、于禁が「後は私がします」と言ってくれた。このまま、于禁の言葉に甘えようとする。
「……すまんが、後は頼めるか?」
「勿論です」
即答をしてくれるので夏侯惇は安心してから寝室に入る。そしてベッドに横になると眠気が襲ってきた。だが歯磨きをしていないので、このまま眠る訳にはいかない。必死に睡魔を追い払った後に、無理矢理に体を起こしてから寝室を出る。食器を洗っている于禁の広い背中を見ながら洗面所に入ると、歯磨きをしていった。
終えた頃には于禁がこちらに向かってくる。そして背後から抱き締めてくるが、于禁は特に疲れた様子ではない。寧ろ元気のようで、股間の膨らみをぐいぐいと腰に押しつけてくる。
「分かったから、明日は休みだからいいぞ。相手をしてやる」
「はい……」
于禁の顔が首元に沈んでいくと、少しだけ尖らせた唇が肩までなぞるように触れていく。擽ったいがそれが愛おしいと思いながら共にベッドに向かう。
「于禁……」
覆い被さってくる重みが嬉しい。夏侯惇はその重みを歓迎しながら、ベッドの上で于禁に存分に乱されたのであった。
しかし次の日は流石に疲労が蓄積してしまっていたらしい。なので一日中、ベッドの上で横になっていて。