十九歳と三十一歳
年が明ける前の頃。今年度の夏侯惇は一年生の副担任なので、昨年程に忙しくはない。それでも三年生の受験勉強の為に、夜遅くまで仕事していることが多かった。なので土曜日も受験勉強対策として学校に居たので、新聞の切り抜きは日曜日になってしまうことがある。
その中で夏侯惇は于禁の誕生日プレゼントを、合間を縫って密かに探していた。主にインターネットを駆使して探した結果、腕時計にすることに決める。デザインはどの場面でも浮かないような、シンプルな物を。
一安心した夏侯惇は、仕事により一層集中したのであった。だが土曜日や日曜日には主に家で于禁と会い、恋人同士としての時間をゆっくりと過ごす。時折、二人で外にデートにも行っていた。その頃には于禁は恋人としての動作のぎこちなさが、全くではないが無くなってきていて。
年が明けてしばらく経過した。今日は待ちに待った、于禁の誕生日の日である。
この日は平日であり、夏侯惇はいつものように遅くまで学校に居た。あと数日で一段落するのだが、夏侯惇は帰り際に于禁に『家に来て欲しい』と連絡する。すぐに了承の返事が来ると、夏侯惇は急いで帰宅していった。
帰宅して数分後、インターフォンが鳴った。直後に于禁から『到着した』というメッセージを受信したので、夏侯惇はすぐに玄関の鍵を開ける。
「こんばんは」
「すまんな、急に。外は寒いから、早く上がれ」
「はい、お邪魔致します」
律儀に靴を揃えて家に入った于禁を見て、夏侯惇には緊張が走ってきた。プレゼントを渡すのだが、これで喜んで貰えるかどうかだ。渡す物を確実に決めた時は不安は無かったものの。
急激に夏侯惇には不安が過り、それが表情に出ていたらしい。于禁はいつもの冷静な態度で、夏侯惇にぐっと近寄った。
「いかがなされましたか? 体調が悪いのであれば、休んだ方がよろしいかと……」
「い、いや、そうではない!」
時期からして夏侯惇が多忙なのは知っている。なので于禁は夏侯惇を抱き寄せてから、背中をポンポンと優しく打った。
「ご無理は、なさらず」
「……っ!」
于禁の優しさ、そして深い暖かさに夏侯惇は一気に思考が眩む。不安になってしまった自分が、とても情けないと。
「……お前に、用事がある」
意を決して夏侯惇がそう言うと、于禁から体を剥がした。
背を向けてずかずかとリビングにある棚に向かい、奥にしまっていた手の平よりも一回り大きな段ボール箱を取り出す。それを開くと段ボール箱よりも小さく、ラッピングがしてある箱が入っていた。それが、于禁へのプレゼントの腕時計なのだ。
夏侯惇は呆然としている于禁にプレゼントを渡した。
「誕生日、おめでとう」
「……あ、ありがとうございます!」
于禁はかなり嬉しげな表情へと変わっていった。早速中を開けてもいいか、于禁が恐る恐る聞く。夏侯惇は「開けてもいい」と即答をすると、于禁はラッピングを丁寧に解いてから箱を開けた。
「腕時計……!? もうじき必要になるので嬉しいのですが、私のような学生に、これほど高価なものをよろしいのでしょうか!?」
問い詰めるように于禁はプレゼントの中身を見る。だが夏侯惇はそのような于禁がおかしくなったのか、くすくすと笑う。
「気にするな。全く……渡す前は不安であったが、お前の反応を見て馬鹿らしくなったわ。だが、喜んでくれて俺まで嬉しくなった。ありがとう」
背伸びをしてから于禁の頬に触れる程度に唇を付けた。思わず于禁はプレゼントを落としそうになったが、慌ててそれを阻止するともう一度礼を言いながら笑っていた。
于禁の誕生日を迎えてしばらく日数が経過した土曜日。受験シーズンは概ね終わったので、夏侯惇の仕事は前よりかは忙しさが無くなる。
なので昼過ぎにに夏侯惇の家で、新聞の切り抜きを二人でし終えていた。その頃には時刻は夕方であるが。
「今週も助かった。ありがとう」
「いえ、お構いなく」
椅子に座っている二人は体を伸ばしてから、深い息をつく。夏侯惇はこの後は于禁と何をして過ごそうか考えていると、先に于禁が口を開いた。
「……あの、夏侯惇殿、少しよろしいでしょうか」
「ん? 何だ?」
于禁は夏侯惇から贈られた腕時計を巻いている左手を膝に置き、右手をテーブルの上に置いている。その右手までも膝に置くと、眉間をかなり深く刻んだ。
「我儘なことではありますが、私の誕生日プレゼントとして、もう一つ欲しい物がありまして……」
個人的な欲をあまり出さない于禁なので、夏侯惇は何かあったのかと思った。夏侯惇は詳細を話して欲しいと返す。
「その……嫌であれば断って頂きたいのですが……私を、抱いて下され!」
夏侯惇は激しくむせた。突然に于禁が突拍子も無い発言をしたからだ。
「ど、どうしてだ……!?」
今まで、于禁が夏侯惇を抱いている。しかしそれを逆にしたいなど、夏侯惇は考えたことがなかった。心も体も、それが当たり前と思ってしまっているからだ。
「……貴方が、あまりにも気持ち良さそうですし、私も……気持ちが良くて……」
最中のことを思い出し、于禁は顔を真っ赤にした。同じく、夏侯惇も顔を于禁と同じ色に染めていくが。
「ですから、お願い致します!」
于禁は机にぶつけそうなくらいに深く頭を下げた。それ程に本気なのだろう。夏侯惇は于禁のつむじを見ながら考える。その結果、夏侯惇はそれに頷いた。理由は于禁との性行為ならばどちらでもいいという、ごく単純なものである。
椅子から立ち上がった夏侯惇は、深呼吸をして一旦落ち着かせる。
「シャワーを浴びよう」
「はい……!」
夏侯惇が顎で浴室の方を示すと、二人は浴室へと向かう。そして衣服を全て脱いでから時間をかけてシャワーを浴びた。その時には、既に二人の下半身は反り勃っている。
普段とは役割が違うとはいえ、互いに興奮していることが分かった。夏侯惇は積極的に于禁とキスをしながら、体に湯を浴び続ける。
シャワーを終えると寝室へと入る。しかし髪を乾かすこともなく、夏侯惇は于禁をベッドに押し倒した。荒い呼吸を吐き合いながら、二人は唇を合わせる。
「後悔しても、今更知らんぞ」
「後悔など、貴方が相手ならばしませぬ」
返事の代わりに今度は深い口付けをしていく。于禁はされるがままに、舌を絡め取られた。やはりこれだけでも気持ちが良いと思いながら、夏侯惇は甘く深いキスをする。
「ん、んんっ、ふぅ、ん……!」
于禁の鋭い目が垂れてきた。夏侯惇はこの表情を見ただけで、とても可愛らしいと思った。自身を抱いている際にも、于禁はこのような気持ちだったのだろうかと思いながら。
すると于禁はキスだけで達したようだ。上を向いている怒張が腹に向けて、精液を吐き出す。
「かこうとん、どの……」
夏侯惇の腰に、于禁は両足を絡め、自身の腹に夏侯惇の逸物を擦り付ける。ぬるぬると夏侯惇の逸物に精液が塗られていき、夏侯惇は思わず射精しかけた。しかしまだ早いと何とか耐えると、于禁の鎖骨に唇を寄せた。
「好きだ」
「わたしも……」
歯を立てて鎖骨に跡をつけると、続けて胸へと降りていった。夏侯惇は次第に胸も性感帯になってきているので、于禁も同様の状態にしたいと思い始める。なので胸の肉を舌で撫でていくが、夏侯惇と同じような反応を于禁はしていた。
于禁のそのような反応を見ながらも、粒なども舌で弄っていく。それでも擽ったそうにしているので、胸を可愛がることは止めておくことにした。
次に唇を下に降ろしていくと足の付け根に行き、怒張へと辿り着いた。それを口一杯に頬張ると、口腔内の粘膜や舌で于禁の怒張を撫でていく。もはや口淫など慣れているので、于禁はまたもやすぐに射精した。夏侯惇は濃い精液をほぼ全て飲み込むと、ようやく怒張を空気にさらす。
于禁は激しく息切れをしている。
コンドームとローションボトルを取り出す。于禁の尻を慣らさないといけないのだが、やり方は自身が慣らされる立場に何度もなっていた。スムーズにできる自信がある。なので太腿の内側に唇を触れた後に、膝を開きローションボトルを手に持った。
手の平に馴染ませた後に、于禁の尻に指一本を向かわせる。
「ぁ、あ……かこうとんどの……」
于禁は既に夏侯惇を欲して止まないようだ。しかしまだ繋がることはできないので、夏侯惇は短く「待て」と言った。それでも、于禁は首をぶんぶんと横に振るが。
誰のものを、一度も受け入れていない硬い入口に指先を立てた。夏侯惇は湧き出る強大な興奮を持ちながら、第一関節をぐにぐにと動かす。于禁は淫らな声を上げながら腰を揺らした。
「っう、あ、ぁん……あっ……!」
夏侯惇の逸物には、血管が浮いて張り巡る。于禁の入口を慣らすまで我慢しながら、夏侯惇は指をぐにぐにと入れていく。途中で、于禁の胸や腹に口付けをしていきながら。
指をどんどん入れていくが、前立腺があるらしき場所は避けた。そこは、逸物で思いっ切り鳴かせたいと思ったからだ。夏侯惇は慎重に指を増やし、縁を広げていった。
「もう、入るか……?」
指を引き抜き、ぽっかりと空いた于禁の入口を見て言う。しかし于禁は夏侯惇の方を見て「早く早く」とせがんでいた。なので試しに夏侯惇は逸物にコンドームを被せ、于禁の尻に充てがう。
逸物の先端が、入るか入らないかの程度であった。夏侯惇が腰を押し付けると、くびれの手前まで入っていく。慣らし加減は充分とは言えないが、これでいいだろうと思った。先端をどんどん埋め込んでいく。
「……ゃ、ア、ぁあ、う、はぁ、ぁ!」
于禁は体をぐねらせ、逃げるような動きをする。夏侯惇はすかさずその于禁の動きを、覆い被さって封じ込めた。逃げられなくなった于禁は、次は脚をじたばたとさせる。
「もう少しだから、大人しくしろ……!」
戒めるように腰を強く打つと、一気にくびれが全て入った。そして前立腺に当たると、于禁は口をだらしなく開けながら怒張から精液を噴き出す。
「アぁ! っひ、ゃあ! ァ、あっ!」
于禁の様子などお構いなしに、夏侯惇は雄の本能を取り戻したかのように逸物を全て収める。きつく包んでくる肉の感覚に、夏侯惇はとてつもない快感を得た。
「気持ち、いいか?」
言葉を発する余裕がない于禁は、ただこくこくと頷く。夏侯惇は幼子を扱うかのように、頭を撫でた。
「かこうとんどのが、ほしい……!」
「分かった分かった」
于禁の思考は溶け切っているのだろう。結合部をぬちゅぬちゅと鳴らしながら腰を振る。その姿を見て、夏侯惇は「動くぞ」と言い逸物を更に奥へと進めた。
「ひ、ゃあ! ぁ、ん、ア……あッ、あ!」
そこで于禁の体を揺さぶると、夏侯惇の腰は止まらなくなった。于禁の尻が、あまりにも気持ち良すぎるからだ。
「は、はっ、はぁ、ぅあ……ッ……」
何度も何度も肉を擦っていくうちに、二人は達したようだ。夏侯惇はすぐに萎えていない逸物を引き抜くと、コンドームを新しいものに変える。
その間に見えた于禁は、夏侯惇の逸物のことしか考えられないらしい。自ら膝裏を上げ、くぱくぱと卑猥に動く入口を見せつけた。
いやらしく誘う于禁の姿に、夏侯惇はすぐに逸物を突っ込んだ。
「ッぁあ! きもちい、ん、ぅ……ぁ、あっ、ア!」
ベッドが壊れてしまう程に于禁を揺さぶると、またもや二人は同時に達した。すると互いの下半身が萎えていくので、夏侯惇は逸物を引き抜こうとする。だが于禁が手を伸ばし、夏侯惇と顔を合わせた。
「すき……」
于禁自ら唇を合わせると自身の精液の味など構わず、夏侯惇の舌などを味わっていく。興奮を僅かに引きずっている夏侯惇は于禁の手を取ると、指をがしりと絡めた。互いの手の平が、杭にでも打ち付けられたように密着する。二人はベッドの上でしばらくの間、肌同士をただ合わせる。
二人の熱が落ち着くと、体を清めてからベッドの上に横になった。初めて受け入れる側としての性行為の後でも、于禁ははっきりとした意識を持って夏侯惇に抱き着いている。
于禁は頬を夏侯惇の首にすりすりと、懐いている動物のように擦る。その仕草を見て、夏侯惇は小さく呟いた。
「……たまには、良いのかもな」
聞き取れなかった于禁は顔を上げ、どうしたのかと首を傾げる。しかし夏侯惇は「何でもない」と返すと、于禁の顎を掬って唇を合わせた。
「俺との歳の差など、気にするな。ずっと傍に居ろ」
「勿論です」
夏侯惇が笑うと、于禁もつられて自然と笑う。
そして二人は互いに一生離れたくないと思いながら、何度も何度も飽きもせず床を共にしたのであった。数年後に于禁が前からの夢であった、裁判官という職に就いてもなお。