十八歳と三十一歳
しばらくして、雨がよく降る季節に入った。
大学に入学したばかりの于禁は、相変わらず真面目で成績はかなり優秀であった。しかし大きく変わったことが一つある。それは髭を顎に蓄え始めたのだ。于禁曰く『夏侯惇に憧れて』と。夏侯惇本人は最初は違和感しかない風貌に驚いたものの、見慣れていくと似合っていると言った。憧れてと言われて、照れもあったのだが。
課題は余裕を持って終わらせたうえに予習まで完璧にしている。それに入学してしばらく経ってから実施された定期試験では、ほとんど満点を取っていた。サークルに入っていないし、講義が終わるとすぐに帰宅して机に向かっているからか。
平日はそうであるが夏侯惇の新聞の切り抜きの手伝いを毎週土曜日や日曜日にしており、それを欠かすことはなかった。しかしその際に夏侯惇との進展はないというより、于禁がまだ恋人への動作をどのようにすれば良いのか分からなかった。今まで恋愛経験が皆無だった故に。だが辛うじて、手を一瞬だけ繋ぐことができる程度。抱き合うことは、あの日以来一度もできていない。
夏侯惇は「焦らなくてもいい」と言うが、于禁は自身が情けないと思った。心の中で、自身に対して大きく呆れながら。
そして雨が降りしきるある土曜日の朝、于禁はいつものように夏侯惇の家へと向かって行った。しかし傘を差して行っても肩や髪が少し濡れてしまっていたらしい。到着してから夏侯惇に指摘されて、ようやく気が付く。
「この程度でしたら、放っておけば乾くでしょう」
「だが、体が冷えて風邪を引いてしまうぞ? そうなればお前に申し訳ない。シャワーを貸してやるから、シャワーを浴びてこい。着替えも貸す」
「ですが……」
この程度ならば大丈夫だろう、そう思った于禁だが夏侯惇は頑なに首を横に振る。なので于禁はそれに従うと、シャワーを借りたのであった。
シャワーを浴び終えると、夏侯惇から借りたスウェットを着ていく。夏侯惇の匂いがよくしており、于禁は思わず何度も嗅いでしまう。ハッとした于禁は一人で先程の行動を恥じながら、ドライヤーを借りて乾かす。そしてリビングへと向かって行く。
椅子に座っでいてた夏侯惇に近付くと、立ち上がった。
「シャワーをお借り致しました。ありがとうございました」
「そんなものはいい。それよりほら、コーヒーだ。飲め」
于禁がシャワーを浴びている間に夏侯惇がコーヒーを淹れてくれていたらしい。マグカップには、黒く熱いコーヒーから白い湯気が微かに揺らめいている。于禁はありがたく受け取るが、夏侯惇がシャワー直後の于禁を見てから「可愛らしいな」と呟いた。
今の于禁はぴしりと整えられている髪が降りており、それに年相応に見える。いつもは見ることのできないその恋人の姿に、夏侯惇は微笑んでいった。
「わ、私が、そのようなことは……!」
于禁はそう言われるとは思わなかったらしい。マグカップを持つ手を、わなわなと震わせる。
まだ熱いコーヒーが零れそうであったので、夏侯惇は慌てながら于禁の手を支えた。そのおかげで零れることは無くなる。しかし于禁のまだ暖かい手に触れる夏侯惇の手の感覚が、あまりにも優しかった。
久しぶりに触れた夏侯惇の手に、于禁は急激に頬を赤く染める。
「大丈夫か!?」
「はい……」
夏侯惇の手が離れ、于禁の顔へと向かっていく。そして頬に手の平が添えると「熱か……?」と、眉を寄せながら首を傾げる。しかしシャワーを浴びた後であるので、気のせいだろうと夏侯惇は手を離した。
だが于禁はそこで気付いた。互いの顔が、とても近いのだ。
今なら勇気を出すことができるかもしれない、そう考えた于禁はマグカップをテーブルに静かに置く。その動作に気付いた夏侯惇は「どうした?」と聞くが、于禁はそれを聞く余裕が無くなってきたらしい。
少しだけ自身よりも低い位置にある、夏侯惇の首の後ろに両手を回した。夏侯惇は于禁からの行動に一瞬だけ驚いたが、何をしようとしているのかすぐに理解したらしい。それを受け止めるように、于禁の背中に手を回す。
「夏侯惇殿……」
より顔を近付けると、于禁の決心がついた。互いの唇の距離をゆっくりと狭めていく。
そして外からの雨音がする中で、于禁は人生で初めてのキスをした。ほんの一瞬でしかなかったが、于禁にとっては長く濃密に感じられたらしい。これが、想い人と行うことなのだと感動していた。
しかし唇を離した後に力が抜けてしまう。夏侯惇にどっしりと抱き着いてしまっていた。夏侯惇の肩に顔を埋めながら。
「も、申し訳ありませぬ……力が……」
于禁は泣きそうな声をしている。あまりにも、情けないところを見せてしまっているからか。しかし夏侯惇は于禁の背中を軽くポンポンと叩いた後に、柔らかく撫でていく。
「気にするな、俺は嬉しかったからいい。ちょうど今日が、俺の誕生日だからな。プレゼントをありがとう于禁」
そういえば今更になるが、誕生日など聞いていなかった。何かとまずいと思った于禁は、無言で素早く顔を上げる。だが夏侯惇は特に機嫌が悪いという様子は無い。寧ろかなり嬉しそうである。実際に、夏侯惇は上機嫌な声音で礼を言っていたからだ。
「おめでとうございます」
「ありがとう。ところで、お前の誕生日はいつだ?」
于禁は夏侯惇に誕生日を伝えると、夏侯惇はしっかりと頷いた。きちんと覚えておくと言うが勿論、于禁も夏侯惇の誕生日をすぐに記憶する。
そして于禁は抱き着くのを止める。しかし体が離れていくと、夏侯惇の表情がどんよりとしたものになっていった。自身から離れて欲しくないと言いたげに。
すると夏侯惇は于禁の腕をがしりと掴んだ。離れて行くのなら、于禁を捕まえてやるという魂胆なのだろう。かなり不機嫌そうな顔を、于禁にぐいと近付ける。
「よく覚えておけ。本物のキスとは、こういうものだ」
夏侯惇は于禁と唇を合わせた。しかしすぐに口付けを終わらせる気は無く、何度も何度も唇を開閉させて于禁の唇を堪能した。まるで肉を食らうように。その後舌を出すと、于禁の半開きになっている口腔内に捩じ込んだ。
まずは未知の感覚、それに興奮に于禁は驚いた。だが夏侯惇はそのようなものを知る由もなく、舌で于禁の舌を捕まえた。しっかりと絡ませて蹂躙していくと、于禁からはくぐもった声が上がる。
目を見開き、顔の至る場所を雨とは無縁である真紅色へと変えていきながら。
「んっ……ふ、んぅ……!」
二人の唾液が混じり合い、ぬめりとした水音が聞こえていく。それは外の雨音に溶けていくが、于禁の口から漏れる声だけは強調されるばかり。
なので于禁はようやく恥ずかしいという感情を思い出し、夏侯惇の胸を弱々しい力で叩く。渋々と夏侯惇は舌を引かせ唇を離すと、二人の間には唾液の細い糸が作られた。糸はすぐに儚く切れていったが。
「ッは……どうだ?」
二人は息を切らせていた。それでも夏侯惇はそう問い掛けるが、于禁は目を合わせずにただ酸素を求めて呼吸をする。何かを言おうにも、余裕が無いのだろう。実際に腰が砕けかけているのか、膝が大きく震えているからだ。
そこで夏侯惇はやりすぎたと思ったのか、于禁の背中を再び優しく擦る。于禁の背中の上下運動が、小さくなっていった。
ようやく呼吸が正常なものに戻ってきた于禁は、やはり視線を夏侯惇に向けようとはしない。嫌いになったという意味ではなく、あまりにも感情が昂ぶってしまっていたのだ。証拠として呼吸はほぼ落ちいているが、心臓の高鳴りが激しくなっている。
「……貴方には、勝てませぬ」
先程の口付けを思い出して愛しさが氾濫した于禁は、夏侯惇をただ抱き締めた。一時的に、精神的な戒めの枷が外れてしまっているからか。
夏侯惇は于禁の頭を撫でると、于禁は口角を上げる。
「好きです……」
于禁は心の底で思っていることを吐いた。同意見であり、同じくらいに想っている夏侯惇は温かな返事をする。
「俺もだ、俺も好きだ」
全身の至るところまでが、于禁はとても熱く感じた。肌だけではなく、粘膜や臓器までも。夏侯惇の熱が侵入し、混ざり合ったおかげなのか。
そうして二人はしばらくの間何も話さず、一日中は聞こえるであろう雨音が聞こえる室内で抱き合っていたのであった。互いの表情で、何が言いたいのか分かるらしく。
それからは于禁は夏侯惇と抱き合い、そして口付けをすることをできるようにはなっていた。それも、于禁から行うことを。
しかしそれ以上のことはまだ踏み込めないでいる。言い出そうにもそのようなことは未経験であるが故に、やり方が全く分からないのだ。確実に経験豊富であろう夏侯惇を失望させてしまうのが怖い、ということもあって。
一方で夏侯惇も于禁と同様の悩みを抱え始めていく。于禁と、それ以上のことをすべきなのかと。付き合ってからまだ日が浅いというのに、突然に深いところまで行くのはまだ早いと思っていた。確かに、互いに想い合ってはいるのだが。
二人は互いにそれを言い出せないまま、毎週土曜日に会っては夏侯惇の家で新聞の切り抜き作業をしていた。時折だが日曜日にも会い、二人でどこかへと外出をしている。
その行いを繰り返していくうちに、冷えが増していく季節へと入っていった。二人は少しの焦りを感じながらも、新聞の切り抜き作業をする土曜日の朝を迎える。
ただ、この日の数日前のことである。于禁は大学の講義時間の数分前に、後ろの席に着いていた同性の同級生たちの、とある会話を聞いてしまっていた。内容は男女の恋愛関係についてだが、于禁は特に会話を盗み聞きする気も無く講義を待つ。
しかし内容はどんどん深いものになっていくと、遂には于禁が悩んでいる問題についての話題になっていた。思わず于禁は後方にただ聴覚を集中する。同級生には悪いと思っているが、それについて打ち明ける相手など皆無だからか。
会話の内容は『彼女との性行為について』や『それがどうだったかの感想』等である。このような場では全く相応しくない話題ではあるが、于禁は会話を聞き続けた。
そうしていくうちに、教授が講義室に入ると後方の席から聞こえる会話はピタリと止まる。盗み聞きした結果はあまり参考にはならなかったのだが、于禁の中で一つの答えを得た。やはり男ならば、恋人に対して積極的にならなければと。なので講義が始まる直前に于禁は頭の片隅に、それを焼き付けるように記憶していて。
「大学はどうだ?」
二人は昼前から新聞の切り抜きに集中しているのだが、夏侯惇は唐突に気まずいと思ったらしい。なので于禁が大学入学してから、半年が経過してからの感想を聞く。
「現在の成績は、単位を一つも落としていませぬ。とても順調ではありますが、気を緩めるつもりは……」
「わ、分かった。そこまでなら大丈夫だな」
予想はしていたものの、やはり成績が完璧という答えが返ってきた。なので夏侯惇は自身から聞いておいて悪いとは思いながらも、于禁の答えを途中で無理矢理に終わらせてしまう。
于禁は特に機嫌を損ねてしまった訳ではない。だが夏侯惇の様子からして不審に思ったらしい。于禁からも夏侯惇に質問を突きつける。
「体調が優れないのでしょうか? 冷えてきているので、気を付けて頂かなければ」
「そうだな……」
そこで区切りの良いところまで終わっていた。夏侯惇は誤魔化す為に、少しの休憩を挟もうと提案する。勿論、于禁は了承をしたのだが、その前にと夏侯惇と共にソファに座った。
切り抜きの最中は疲れなど感じなかったものの、いざ休憩をすると疲労がどっと現れてきていた。そのようなことは時折あるので、夏侯惇はやはり疲れていたのかと思うのみである。ソファに座り寛ぎ始めた。「どれくらい休憩するか」などと于禁に尋ねていく。
しかし于禁はそれを無視してから、夏侯惇に手を伸ばす。その時の于禁は、腕がいつもより重く思えた。踏み出す一歩が、あまりにも大きいからか。
「貴方と、もっと恋人らしい時間を過ごしたい」
休んでいる夏侯惇の手を取ると、于禁は目を見てそう伝えた。于禁なりの、大きな覚悟を抱えながら。
それが伝わった夏侯惇は、姿勢を改めるとこくりと頷いた。
「……いいのか?」
夏侯惇の出す声は、とても重く静かであった。いつかは通ることではあるが、今で良いのかと于禁に伺っている。
踏み込んでから着地する直前の于禁は「はい」とシンプルに答えた。着地が、終わった。
「楽しみに、している」
覚悟を受け止めた夏侯惇は、于禁と体を寄せる。そして于禁に覆い被さろうとした。だが人間の雄の本能に抗えなくなってきている于禁は、先に夏侯惇の上に伸し掛かって唇で唇を塞ぐ。
自身がしようとしていることを、于禁に先を越されてしまって夏侯惇は一瞬だけ怒りを見せた。しかし前よりかは少しだけ上手くなった口付けにより、その感情など容易く溶かされてしまう。
「ん、ん……! ッ!」
舌が入っていき、まだ拙い動きで夏侯惇の舌を捕らえた。唾液を塗りたくるように、ぬらぬらと押し付け合う。
すると抵抗の意思さえ持たなくなった夏侯惇は、于禁の腰に両手を回す。その際に于禁の下半身が夏侯惇の腹に当たったのだが、よく興奮しているのが分かった。嬉しくなってしまった夏侯惇は、目尻や眉が垂れていく。最早、于禁に抱かれることしか考えられなくなっているのだ。
すると夏侯惇の下半身も盛り上がってきたので、それをアピールでもするかのように于禁の体に当てる。于禁はそれに気付くと、服越しではあるが互いに下半身を押し付けあった。
そうして幾度も幾度も舌や下半身同士を擦り合い、ようやく于禁はそれから解放させる。若さに拍車をかけた興奮は、止まる気配がない。
一方で酸素を求める為に、夏侯惇は息を荒げていた。目の前にはいつものように冷静な于禁などどこにも居ない。上に乗っているのは、凶暴な獣そのものだ。
「夏侯惇殿……!」
もう一度だけ軽く唇を合わせてから、于禁は夏侯惇のシャツを捲った。渇望していた滑らかな肌が露出し、于禁は鼻息を大きくする。ただ、腹が見えただけだというのに。
夏侯惇のスラックスのベルトに手を掛けると、あっという間に外していった。残りはシャツと下着のみ。だが于禁の動きがそこでビタリと止まってしまう。
「どうした? 早く、残りを脱がたらいいだろう?」
手を伸ばした夏侯惇は于禁の顎に向かい、それを掴んだ。どうやら、于禁を挑発し始めたらしい。
ムッとした表情で睨むと、于禁は先走りに塗れている下着のゴムに触れた。これを脱がせたら、夏侯惇を抱くことができるという期待を膨らませながら。
しかしそれに水を差すように、夏侯惇はとある助言を幾つかした。
「ゴムはしないのか? 無いなら俺のを貸してやる。それに、俺は女ではなく、男だから尻を慣らせよ」
「……はい」
于禁の興奮は少し落ち着いた。しかしそれでも今の于禁の感情の芯は興奮により形成されているので、潰えることはない。
「ここではなく、ベッドで抱け。そこにゴムがある」
「はい」
指示を受けた于禁は、夏侯惇を抱えてベッドルームへと向かった。初めて入る部屋なので、于禁は緊張しながら閉まっているドアを開ける。
まず見えたのはフローリングの床に、壁の白色。次にダブルベッドと棚、そして机と椅子が見えた。家具などはあまり置いていない。しかし于禁はそれよりも、ダブルベッドがあることがすぐに気になった。
于禁の睨む方向に気付いた夏侯惇は、前の恋人にまつわるほんの短い話をする。
「前の恋人とそれで寝ようと思ったのだが、それが来る前に出て行ってしまってな。だから俺が一人で、広々と快適に使っている」
今では笑い話になっている夏侯惇は、ダブルベッドを睨み続けている于禁に「早く降ろせ」と言う。
そこで于禁は、前に夏侯惇が恋人と同棲していたことを思い出す。それによりダブルベッドの存在に納得してから、夏侯惇をベッドの上にゆっくりと降ろす。
「早くしろ」
夏侯惇には限界が来ているらしい。淫らに両足を開いて下着をずらしていく。だが于禁は自身で下着を取り払いたいと、その手を止める。勿論、夏侯惇は不機嫌そうな目を向けたのだが、于禁が下着を代わりに下ろしていった。すぐに夏侯惇の機嫌は元に戻る。
ようやく下着を外すと、勃起している夏侯惇の逸物が目に入った。于禁はそれを数秒だけ、うっとりとしながら見る。
同性のそのようなものなど、本来の于禁は見たくもない。嫌悪感しか抱いていない。しかし夏侯惇のものならば、寧ろ興奮を燃え上がらせる燃料となる存在となってしまっている。
すると于禁も膝立ちになりスラックスと下着を脱ぐが、夏侯惇は于禁の怒張を見て一瞬だけ血の気が引いた。
「……は、入るのか?」
「丁寧に慣らします故」
于禁の顔はかなり本気であった。なので腹を括った夏侯惇は、内心で首を横に振ってから決意を込める。
「……分かった、お前を信じよう」
ついでにローションもあると言うと于禁は頷く。しかし、必要な物を取り出してから于禁は硬直した。頭の中では何となくは分かるものの、実際に性行為を行うとなるとどうすればいいのか分からないのだ。未経験であるが故に。
それを察した夏侯惇は于禁に指示をした。
「まずは、愛撫をしろ」
脱いでいなかったシャツまで脱ぐと、夏侯惇は手を広げた。こちらに来い、と言いたげに。なので于禁はそれに応じながら、夏侯惇の上に覆い被さる。
肌同士が触れ合う、それだけで于禁は大きな幸福感が湧いてきた。恋人とこうして暖かい肌を合わせるだけで、ここまでの気持ちになるとは思わなかったらしい。一生離れたくなく、もっと触れ合いたい于禁は夏侯惇と指を絡ませた。変わらない想いと共に。
「……好きです」
愛撫とはどういうものか分かっていないので、于禁は胸のあたりに唇を近付けた。肥満の意味ではないが、自身のものよりも豊満で柔らかい。それが心地よく思えた于禁は、唇でその柔らかさを楽しんだ。
とりあえず、異性を扱うかのようにしていくらしい。それさえも、于禁はほとんど分かっていないのだが。
「……ッ、知ってる」
唇が胸を掠めていくので、夏侯惇は擽ったいらしい。笑みを零しながら于禁の背中に両手を回した。背中の肌に夏侯惇の手の指が触れると、于禁と擽ったそうな表情を見せる。
于禁は舌を出してから恐らくこうするのだろう、と夏侯惇の胸の尖りをペロリと甜めた。
「ぅあっ!?」
夏侯惇の体、主に上半身が勢いよくベッドの上で跳ねる。今まで経験したことのない感覚により、脳も体も驚いたらしい。胸を触れられての快楽は感じないものの。
「ここは、あまり良くないのでしょうか。申し訳ありませぬ……」
これが間違っていたのかと、于禁は眉を大きく下げて謝罪する。
その顔が酷く可愛らしいのだが、同時に悪いことをしてしまった気分に夏侯惇は陥ってしまう。なので手を背中から首、そして後頭部に移動していくとそこを優しく撫でていった。
「謝るな」
于禁が「ですが……」と何かを言おうとしたので、夏侯惇はそれを中断させるように唇を軽く塞いだ。
「ゆっくりでいい」
塞ぎ終えた後、夏侯惇は再び于禁の背中に手を回す。途中で肩甲骨のあたりを撫でていきながら。
「はい……」
ゆっくりと頷いた于禁は、シーツの上で熱を待つ為に見上げている夏侯惇を見る。いつの間にかかき上げている髪が乱れており、雄の本能が戻ってきた。
頭が興奮で満たされると、上ではなく下かと于禁は夏侯惇と下半身同士を合わせる。そしてバキバキと勃起しており、我慢汁を垂らし続けている竿やくびれの部分をくっつけた。
熱いと感じながら、我慢汁を潤滑油にしてぬるぬると擦り始める。
「ぅ、っふ、あ! ぁ……あ……」
そこはとても気持ちがいいのか、夏侯惇は急激に目をとろりとさせながら弱く喘ぐ。頬は徐々に赤色が見え始める。
ようやく夏侯惇が快楽を得たので、于禁は安堵しながらそれを続けていった。勿論、于禁もそこを刺激されて気持ちが良いのだが。
「はっ、はぁ、あ……いかがですか、夏侯惇殿……!」
「ん、あぁ、あ、気持ちいい、そこ、もっと!」
于禁が腰を大きく振ると、ベッドがギシギシと鳴り始める。それに、二人の我慢汁を互いに塗りたくる音も。
擦れ合う度に夏侯惇が弱い嬌声を上げていくうちに、于禁の本能が再び暴走し始める。自身のものと合わせて二つの逸物を手で固定すると、より感度が増していったらしい。夏侯惇の下半身には限界が来つつあるのか、腰をゆさゆさと揺らす。
「ぁ、あ! でる……!」
遂には顔を真っ赤にしながら、夏侯惇はそう叫んだ。于禁の背中には爪を立て、今にも精を放出しそうになっている。于禁はそれに構わず、腰を振るペースを維持していた。
すると夏侯惇は精液をびゅるびゅると噴出させる。それが互いの腹にかかると、その後に于禁も混ざり合うように同じ箇所に精液を飛ばした。精液特有の匂いが、いつもより濃い。しかし二人にとってはそれが不快だとは思わなかった。
そこで腰を振ることを止めた于禁だが、二人のものはまだ萎えていない。于禁はまだという気持ちがあるがしかし、夏侯惇はあと二回程で萎えてしまうだろう。既に疲労が見えてきているからだ。年齢差による障害を、ここでようやく実感した二人である。
「……尻を慣らします」
ローションボトルを持った于禁は、それを手の平に垂らす。だがどれくらいの量を出せば良いのか分からず、大量に出してしまっていた。少し困った様子を見せた于禁だが、夏侯惇は「沢山あっても困らないだろう」とフォローを入れる。
手の平の上にあるローションは冷たい。この手で尻に触れるのはどうかと思い、于禁は手の平をぎこちなく開閉させる。肌の温度で少しでも温めるつもりなのだろう。時折だが「本当に入るのだろうか」と呟きながら。
初々しいその動作などに、夏侯惇は内心で応援しながら脚を開く。同性との性行為の経験は無く、夏侯惇にも不安がある。なのでそれをそのまま于禁に話す。
「……セックス自体は経験はある。しかし男とは初めてするから、そこまで畏まらんでいい。俺だって、知らないことばかりだからな」
生温くなったローションを手の平で感じた于禁は、声を出して返事をする余裕が無いらしい。こくりと小さく頷いてから、指先にまでローションに塗れさせた。これで、後は尻を解すだけである。
深呼吸をして集中し始めた于禁は、夏侯惇の尻に指を向けた。尻の中はとても繊細な器官であり、少しでも雑な扱いをすることは厳禁。于禁はそれを肝に銘じながら、指先を尻の閉じきっている入口の皺に触れる。
まずは一本の指先で入口を突いたが、そうしても一気に開いてくれる訳でもない。分かってはいるのだが于禁は愕然とした気持ちを持ちながら、指先を少しずつ入れていく。
「ん、ぁ、は……」
「痛みは、ありませぬか?」
他人の粘膜に手で触れるのは初めてであるので、于禁は痛みの有無を確認した。しかし夏侯惇は首を横に振ると、于禁は更に指先を埋めていく。指は既に肉によりぎゅうぎゅうと挟まれた。
第一関節が入ったところで、夏侯惇は嫌そうな顔へと変えていく。なので一旦引き抜こうとした于禁だが、それを夏侯惇は口頭で止めた。
「っ……抜くな、早く慣らせ」
「はい」
言い訳など、夏侯惇に失礼でしかないだろう。于禁を精神的にも肉体的にも、受け入れる覚悟を充分にしているのだから。
決意を改めてした于禁は、第二関節まで入れていく。ローションにより、ぬちゅりという音が立ちながらも進めていった。夏侯惇は苦しげに呼吸をしている。器官にとっては『異物』が入っているのだから当然だ。
夏侯惇のその苦しさを少しでも紛らわすことができないかと、于禁は少しだけ考えた。その結果、空いている唇で夏侯惇に口付けをして意識を逸らすことに決める。
「夏侯惇殿……」
愛しい名を呼び、于禁は唇を合わせる。半開きになっている夏侯惇の口腔内に舌が容易く入った。まだ夏侯惇のようなキスはできないのだが、それでも于禁は舌を捕らえると絡ませたり吸い上げる。
夏侯惇はくぐもった声を上げると共に、于禁は指を少しずつ入れていく。恐らく『苦しい』という意識を、少しでも逸らすことができているだろうと思いながら。吐息までも漏らしている夏侯惇だが、指を丁寧に深くまで進めていく。
そのうちにいつの間にか根元まで入っていた。于禁はこの中に自身の怒張を挿し込むのかと思うと、心が昂ぶった。尻の中は狭く熱いが、それがとてつもなく気持ちが良いのだろうと。
未だに夏侯惇の口腔内の至る箇所を、拙い動きで蹂躙していく。そうしながら、于禁は続けて二本目の指先を尻に当てる。だが二本目はまだ入る気配が無いので、一本目の指先を初めて動かした。夏侯惇の体が跳ね、口からは唾液が出てくる。僅かでも、快楽を得ているのだろうか。
指をぐにぐにと曲げた、その瞬間にしこりのようなものに掠めた気がした。于禁は何だろうとそれに指で触れる。すると夏侯惇は大きな喘ぎ声を漏らし、腰をガクガクと震わせながら射精をしていた。直後に、へなりと萎えていたが。
急いで唇を離した于禁は、恐る恐る話し掛ける。
「か、夏侯惇殿……?」
「ひッ、ぁ……! そこ、だめ……!」
夏侯惇の顔は、見たことがないくらいに蕩けきっている。それに顎の髭は垂れた唾液で殆ど濡れているので、相当なものだったのだろうと于禁は悟った。しかし気持ちが良いのなら、もっと触れたら良いのだろうと考える。なので于禁は一本目の指で先程のしこりに微かに触れつつ、二本目の指先を入口に埋めていく。
すると夏侯惇の逸物が再び上を向いていった。
「ぁ……んっ、あ、や、ん、そこ、もうさわらないで、ぁあ、ッう、あ」
そして背中が反っていて足のつま先が伸び始め、于禁の背中にある夏侯惇の指先が強く突き刺さる。于禁は痛みに目を鋭くしたが、目の前の夏侯惇の様子を見ると痛みなど感じなくなってしまう。あまりの淫らな顔や声、それに姿に。
「夏侯惇殿、どうか耐えて下され……!」
二本目の指を入口が受け入れ始めると、于禁は懇願しながら一気に挿入した。無事に二本の指が根元まで入ったので、一時的に安心する。しかしあと指を何本入れられたら、尻が解れたことになるのか分からないでいる。その疑問を口にしようか迷いつつ、二本の指で熱い中を掻き回していく。
中は指を押し出そうと必死であった。だが于禁はそれに抵抗するように、指を動かし続ける。とても良く反応してしまうしこりへの接触は避けつつも。
入口はまだ緩くはないのでら再び于禁は夏侯惇と唇を合せようとした。夏侯惇はそれを拒否すると、于禁の背中から首に手を上げていった。弱々しい力を入れて于禁の頭を下げると、夏侯惇から口付けをする。驚いた于禁だが唇を開けると、夏侯惇の舌が侵入してきた。
次は夏侯惇の舌が于禁の口腔内を侵略していくが、あまり力が入らないらしい。舌同士が触れたと思うと元の場所に落ちていくので、于禁はそれを救うように舌で絡め取った。夏侯惇からはただ吐息が漏れ、瞳には涙が浮かぶ。
そうしながら三本目の指を入れるが、すんなりと入っていった。入口は緩んでしまったのだろう。あくまでも、一時的なものでしかないのだが。
于禁は夏侯惇の興奮を維持するように、しこりに時折触れながら入口を広げていった。次に四本目の指を入れ、ぐちゃぐちゃと卑猥な水音を立てながら掻き混ぜる。
小さな快感を与え続けられ、夏侯惇はすぐにでも達したくなったようだ。腰を振って早くとアピールする。だが于禁はそれに気付く気配はないので、夏侯惇は我慢が効かなくなっていっていた。
しばらくして息継ぎをさせる為にと于禁が唇を離す。すると夏侯惇はすぐに回らなくなりつつある舌で、今の状態を伝えた。
「ぁ、はぁっ……はやく、うきんのが、欲しい、イきたい……!」
自身が年上だということを忘れているかのように、夏侯惇は羞恥心など捨ててそうねだる。普段とは全く違う口調になりながら。
当然のように于禁は動揺したが、同じく我慢などできなくなりつつある。なので尻に入れていた指をゆっくりと引き抜くが、ローションが糸を引いて繋いでいた。入口はぽっかりと穴が開いている。
ここまで広げることができたのかと感心した于禁だが、自身の怒張が入るかは分からない。不安がありながらも、夏侯惇が用意してくれていたコンドームの封を開けた。使用したことはないのだが、保健の授業で習ったことを思い出す。その通り怒張に纏っていくと、夏侯惇の入口に先端をあてた。
遂に夏侯惇と性行為をしていわゆる童貞を失うのかと思うと、気分がかなり高揚した。一方の夏侯惇はやはり大きな怒張を見て一瞬だけ怖気づく。しかし于禁に処女を奪われると思うと、そのようなことはどうでもよくなってきていた。
「……挿れますよ」
「ん……」
夏侯惇の膝裏を持ち上げ、ゴムに覆われた先端で入口を突く。受け入れる為に小さく収縮していたが、それを止めるように慎重に埋めていこうとした。だが指以上に太いので、先端のくびれがどうにも縁に入らない。
指のように少しずつ押し込むしかないと、于禁は腰をゆっくりと動かした。指に塗っていたローションが残っていたので、それを利用して縁を広げていく。
「ぁ、ん、んっ……ん……」
すると尻が疼くので、夏侯惇は腰を振って于禁の補助をした。そのおかげなのか、縁にくびれが僅かに入っていく。于禁は雄そのものの吐息を出していきながら、怒張との結合部を凝視する。
順調に怒張の姿が見えなくなっていくと、ようやくくびれまで埋まっていった。後は竿の部分も入れていくのみ。
しかし于禁は初めて経験する『怒張への締め付け』に頭が眩みそうになっていた。それに耐えながら、夏侯惇に気遣いの言葉を出す。
「ッぐ、はぁ……夏侯惇殿、痛みは?」
「ないから、早く、おっきなちんこで、イかせて、立てないくらいにめちゃくちゃにしてくれ……!」
口からは唾液と淫語しか出てこない夏侯惇は、上を向いている逸物が揺れる程に腰を振る。その下品に誘う様を見て、于禁の理性はすっぱりと切れた。
腰をがしりと掴むと、竿を全て飲み込ませた。夏侯惇からは「かはっ!」と乾いた息のみを出す音が聞こえたが、直後に愉悦の表情を浮かべる。それを見た于禁はしこりに先端をぶつける為に、怒張を引かせてから目当ての場所へと向かわせた。
しこりを先端で強く突いてやると、夏侯惇は背中を痛いと思う程に反れる。そして顎をぐいと上げながら、勢いよく射精をした。甲高い嬌声を上げながら。
「ぁ、っあ!? ゃ、あぁ!」
夏侯惇の全身が痙攣し、逸物は萎える。しかし于禁はまだコンドームを使用済みの状態にしていないので、そのまま腰を小刻みに打ち付けた。夏侯惇は頭が真っ白になったらしい。体を仰け反らせながら、ただ喘いでいく。
尻の中は于禁の怒張をよく締め付けていた。そのあまりの気持ち良さに、于禁は本能を剥き出しにする。初めて夏侯惇と、肉体的に繋がることができた喜びを噛み締めながら。
「ぁ、あっ! ゃ、う、ぁあ、もう、らめ……ぁ、イったから、もう……ッあ、あ、あッ!」
夏侯惇の声も息も顔も、全て溶けてしまうかのようにどろどろである。于禁は最後にと奥まで怒張を貫くと、夏侯惇の目の焦点が定まらなくなった。
「は、っは、はぁ……ぐ、うッ……!」
そこでようやくコンドームを使用済みの状態にできたが、まだ萎える気配はない。そこで于禁の理性は戻っていく。
怒張を引き抜くと、その間際に夏侯惇の体が短く跳ねる。そして二人の呼吸を整える音のみが、数秒の間だけ聞こえていた。
組み敷かれている夏侯惇は限界である。于禁はコンドームを外して処理した後に、夏侯惇と軽く口付けをしてから優しく体を起こした。浴室の場所は分かっているので、自身の肩を貸すと意識が朦朧とし始めている夏侯惇をゆっくりと立ち上がらせる。
一歩ずつ確実に歩んでいき、浴室に辿り着くとシャワーの湯で夏侯惇の体を綺麗にしていった。向かい合って体を支えながら、一通り湯を被らせる。そこで夏侯惇がとても小さな声で于禁に呟く。
「まだ、お前はまんぞくしていないだろう……」
于禁の腰に夏侯惇の手が触れる。怒張が夏侯惇のへその下に当たっていることは自覚しているのだが、于禁は首を横に振った。
「私のことは、どうかお気になさらず。それよりも、貴方を早く休ませなければ……」
夏侯惇の体を労ろうとした于禁は、シャワーの湯を止める。浴室から出て、体を拭いて早くベッドに横にさせたいらしい。だが夏侯惇は手を于禁の怒張へと移動させると、しこしこと扱いていく。
唐突だったので于禁は驚きのあまりに体が硬直した。
「おまえだって、満足したいだろう?」
「っ、は……ですが……」
何か反論しようとした于禁だが、夏侯惇の扱く手により阻まれてしまった。そしてしばらくしないうちに、于禁の怒張からは精液が噴出する。ようやく于禁の怒張が落ち着くと、于禁は息を切らしながら夏侯惇と口付けをした。
その時の夏侯惇の目は半開きになっていて、于禁の支えがより必要になっていて。
「ベッドに、横になりましょう」
「ん……」
こくりと頷いた夏侯惇は、于禁に支えられながら浴室を出る。その前に冷水で精液を流した方がいいと夏侯惇が途切れ途切れに言うので、于禁はその通りにした。
タオルで夏侯惇の体を時間を掛けて丁寧に拭くと、自身の体は乱雑に拭いていく。見ると夏侯惇はそろそろ意識を失ってしまいそうだからだ。
寝室に戻ると、夏侯惇の後頭部にタオルを敷いてから寝かせる。すると夏侯惇はすぐに眠りについたので、于禁は額に軽く口付けをした。
少しの間だけ夏侯惇の寝顔を見て、今日はとても幸せな日だと静かに語りかける。起きている最中に言うことができなかったのが残念だ。しかし目が覚めたらそれを伝えようと思いながら、于禁は夏侯惇の隣で眠った。
于禁が目を覚ましたのは、深い夜の時間帯だ。すぐに隣を見ると、夏侯惇はまだ眠っている。静かに寝息を立てながら穏やかな表情で眠っている夏侯惇を見て、于禁は目の前の光景を独占できていることをとても嬉しく思っていたのであった。