冷たいテラスにて
夜が明けるには、まだ早い時間だった。まだ空には、煌々とした星がある。
今から数分前、于禁は寝室で夏侯惇と肌を重ねた後、適当な服を着ると部屋を出ていた。
ただ、夏侯惇は肌を重ねた後に疲れてしまったのか仰向けになって眠っている。なので離れる際、夏侯惇と唇を微かに合わせると静かにベッドから降りる。そこから寝室を出てリビングダイニングキッチンの空間へと入り、寝室と繋がっているテラスへと出た。物音を極力立てず、ゆっくりと。
テラスに出ると、外は少し寒い。
そして周辺はやはり時間帯的に既に寝静まっているのか、歩く人や通る車の姿もなく、とても静かだった。確かに外は暗いが、それでも道路には等間隔で点在する街灯の明るさにより、周囲はそれなりに見えていて。
于禁はそれを見ながら、ひんやりとしたコンクリート製のテラスの柵に覆い被さるようにもたれ掛かる。
「隣に居ないから、起きてしまったではないか」
すると背後の寝室の窓が開き、于禁同様に適当な服を着た夏侯惇が出てきた。そして小さく掠れた声でそう言うと、于禁の隣へとのろのろと収まる。
「申し訳ありません。ですが、その格好ではお寒いかと。寝室へと戻りましょう」
于禁はゆっくりと夏侯惇を見ると、腰に手を回してそう促す。だが触れた夏侯惇の服は冷たいので、回していた手を背中へと移動させた。
「大丈夫だ、背中にある、お前の手が暖かいからな」
肌を重ねた後なので小さく掠れた声しか出ない夏侯惇は、代わりに穏やかな表情でそう返すと、より于禁と密着した。夏侯惇の手は、冷たいコンクリート製の柵へと自分の体を支えるように添えながら。
「ですが……」
「お前は、暖かいな……」
夏侯惇はそう言うと、静かに寝息を立てて眠りにつく。于禁はそれを見て頬を緩めると、夏侯惇を横抱きにして寝室へと慎重に入っていったのであった。