冬と痕
「明日は、朝から雪が降るらしいですね」
ある夜のことだった。二人は性行為の後、寝室のベッドで眠りにつこうとしていた。既に部屋の照明は消されており、サイドランプが控えめに部屋を照らしているのみ。
于禁は寝間着姿になり、ベッドの縁に座る。充電ケーブルを挿したばかりのスマートフォンで、明日の天気予報を確認していた。一方の夏侯惇は何も着ないまま、肩までシーツをかけている。そして腹のあたりに枕を置き、うつ伏せになっているので于禁は「その格好では風邪を引きますよ」と声をかけた。
「んー……後で着る」
夏侯惇はやはり性行為の後なのか体が怠いらしい。面倒そうに返事をして于禁に背中を向けると、シーツが捲れて性行為中に于禁がつけた痕がよく見えた。何度もつけていたので、背中には赤い痕が幾つもある。それに、肩には噛んだ痕が。
「か、風邪を引きますよ!」
于禁はみるみるうちに顔を赤くしながら、毛布を夏侯惇に乱暴にかけた。背中もだが、他に胸や太腿にもついている。自分でつけた痕、いや所有の印だというのに。
「おい! 何をするんだ! ……そう言うお前が、既に風邪を引いてないか? 顔が赤いな」
夏侯惇はそう言いながらかけられた毛布に早速包まる。少し冷えてきたらしいからか。だが体勢はうつ伏せのままだ。
「違います! ほら、寝ますよ!」
夏侯惇の言葉を無視して、于禁はベッドに横になった。仰向けになり、天井を向く。
「あっ、そういえば……」
隣の夏侯惇は芋虫のようにもぞもぞとさせると、腕を出してサイドチェストに置いてある箱を手に取る。だが于禁は夏侯惇の方を見ず、溜息をつきながら「それを話したら寝て下さいよ」と強く言った。夏侯惇はそれにコクリと頷く。
「大量に入っててもすぐに無くなるから、今度まとめて何箱か買っておくか」
夏侯惇が手に取った箱というのは、コンドームの箱だった。それも数週間前に開封したばかりのを。于禁は何かと、ちらりとそれを見た瞬間に素早く奪い取る。
「今、それを仰いますか!?」
于禁は起き上がり、耳まで顔を赤くする。だが夏侯惇は「別にいいだろ」と普通の会話のように返した。
「まぁ、どうせお前が使うものだから、買う量は好きにしろ……先程は、は五つも使っていたがな」
于禁は激しくむせた。しかし夏侯惇が言っている通りで、先程の性行為でコンドームを五個開封し、そして役目を終えた訳だが。
「そういえば、今は意外と性欲が強いのだな。前はそこまででもなかったが」
「そ、そうですね。私でも理由はよく分かりませんが……」
顔の赤みが引いてきた于禁は、控えめに咳払いをした後にまたベッドに横になる。そしてちらりと夏侯惇の方を見ると、いつの間にか眠りについていた。静かに寝息を立てている。
それを見た于禁は額に唇を落とした後、サイドランプの光を落としたのであった。