側室ごっこ
ある夕暮れ時、使用人が贈り物が届いたと言って鍛錬を終えてから身を清めたばかりの于禁に渡す。それの送り主は夏侯惇でその使用人曰く、于禁以外は開封してはならないとのこと。勿論、使用人は中身は何かは分からない。
布で厳重に包まれたうえに、手の平に収まるか収まらないかくらいの大きさをしており、そこまで厚くない薄さの白い陶器製の容器に入れられている。受け取った于禁は眉間により深い皺を刻み、それを何だろうと思いながら寝室に持って入った。
「何だろうか……」
特に警戒はしていないが、突然の贈り物に驚いた于禁は布を広げていく。だが贈り物の内容を見た于禁は声が出せない程に呆然としてしまった。
贈り物の内容というのは青い花の飾りのついた女性物の簪と、ごく薄く面積のとても小さな白い布の褌である。簪はともかく、褌を取り出す。手の平に乗せると、于禁自身の肌の色や手の皺が分かる程のものであった。
そこで于禁は夏侯惇がそれらを贈った意図を予測してしまった。身に着けてから、その姿を目の前で見せろということだろうか。自意識過剰になっているという訳ではないが、そうとしか思えない。
顔を盛大に赤くさせながら于禁は「無理だ」と言わんばかりに、一人で首を横に振った。すると兵が寝室の扉をノックしてきたので、于禁はそれに声で応じる。とても短い内容であったし、機密情報でもないと伝言主が言っていたとのことで、兵は扉越しに伝言を述べた。
「夏侯惇将軍がお呼びです。今は、寝室に居られるようです」
「……あ、あぁ。分かった」
名前を聞いた途端に肩を跳ねさせながらも、その伝言を于禁は平静さを何とか握り締めてから確かに聞いたという返事を返す。兵が扉の前から離れると、于禁は夏侯惇から贈られた物をじっと見る。
つまり、今からこれらを身に着けて来いということだろう。于禁は恥ずかしさとそれに、自意識過剰気味な予想など当たっているに違いないだろうと溜息をつく。
だが夏侯惇からのその命令を、無視するという訳にはいかない。なので一旦着ている着物を解き、空気に肌を晒すとまずは贈られた褌を締める。だが手の平に乗せていたので分かる通り、性器が透けて見えてしまっていた。特に毛の黒い色が目立つ。そして尻の部分は細い紐が割れ目に沿って通っているのみ。
それに褌自体が小さいので、于禁の性器がどうしても収まらなかった。だが仕方なく収まらないまま褌を締めると、その様子が酷く恥ずかしくなったらしい。すぐに解いていた着物を着直す。気持ち程でも、普段よりもきっちりと締めていて。しかしこんな状態で今から寝室の外の人前に出るのが、とても嫌で恥ずかしいと思いながら。
夏侯惇や自身以外で着物の下は、このような姿とは誰も知らないのに。着物の下を、夏侯惇以外に見られることなど無いと言うのに。
次に簪である。これは褌とは違って外から誰でも見える物なので、于禁は包まれていた布に柔らかく包んでから寝室から出た。懐に入れようとしたが、折れるとまずいと思って手に持つ。
行き先は勿論、夏侯惇の寝室である。
歩く度に褌と性器が擦れて擽ったいが、何とか何事も無かったかのように歩くことはできた。しかしやはり恥ずかしさが居座っている。なので必死にいつもより厳しい表情を貼り付けて、夏侯惇の寝室へと歩いて向かったのであった。すれ違う兵は恐ろしい存在を見るかのように、体を震わせていたが。
「夏侯惇殿、私です。于禁です」
夏侯惇の寝室の扉の前に立つと、于禁はノックしてからそう言った。すると夏侯惇の「入れ」という声がしたので寝室に入る。その頃には陽が沈んでいた。夏侯惇の寝室には微かな灯りが点いている。
「簪はどうした?」
于禁が入室してからの第一声はそれだった。夏侯惇は既に夜着姿で、寝台の上で寛いでいて。
「……持っております」
手に持っている布に包んでいた簪を出して見せると、夏侯惇は立ち上がって于禁に近付く。
「付けてやる」
そう言って簪を取ると、于禁が今刺している簪を素早く引き抜いて贈った簪を差し込む。その際に青い花の飾りが、静かに揺れた。寝室の僅かな明るさを、少しでも反射させている。
「よく似合ってるな」
「御冗談を……」
夏侯惇は元々刺していた簪を近くの机に置く。褒め言葉は本心である、と返しながら。于禁はそれを頑なに拒否していたが。
「俺が、何のつもりでお前に贈ったか分かるか?」
「私に……着けて欲しいからでしょうか……」
于禁は夏侯惇からの質問に対し、言葉を詰まらせたうえに自信無さげに答えた。まるで自惚れているように少しだけ思いながら。
だが答えた後に恥ずかしくなったのか、顔を逸らす。
「ほう。半分は、合っているな」
于禁の顎を掬った夏侯惇は、そのまま顔を近付けた。互いの鼻先が、紙一枚の程の距離になるまで。
「半分……?」
「そうだ。正しい答えは、俺はお前に、側室の真似事をさせたいからだ」
口角が、夏侯惇はとても上がっており、于禁はとても下がっていた。互いにその正反対の口角の向きを見ると、于禁は首を横に大きく振る。夏侯惇の先程の発言に対し、異論を唱えたいのか。
だがそれを察した夏侯惇は、于禁の出しかけていた言葉と、それに唇を厳重に封じた。夏侯惇の、啄むような口付けにより。
すぐに舌を侵入されると、すぐに腰を砕いてしまった于禁は夏侯惇に縋る。本人にはそのつもりがまだ無いのだが、とても甘えてそしてせがんでいるようにしか、夏侯惇からは見えなかった。なので夏侯惇は舌を引かせて唇を離すと、すぐに近くの寝台へと連れて行って于禁を押し倒す。
「やればできるではないか、側室の真似事を」
まるで幼子を褒めるように于禁の頭をとても柔らかく撫でた。その際に刺した簪が抜けないようにと避ける。
寝台へと押し倒したからには于禁が身に着けている着物を、脱がせるというより早く剥いでしまいたい衝動に駆られている。それならば簪を抜かなければ危ないが、綺麗な簪を刺している于禁の姿を、孤立してしまっている瞳にもう少し焼き付けたいと思って躊躇していた。
綺麗なもの、あるいは情欲を満たすもの、どちらを天秤にかけてもどちらかに傾いてはくれないからか。
すると悩みながらも于禁の頬に手を添えた瞬間、夏侯惇はようやく思考に決着をつけられたらしい。突然に于禁が夏侯惇の方へと覆い被さる形にさせた。夏侯惇は困惑している麗しい姿の于禁をニヤリとしながら見上げる。
「こうすれば、お前の側室の真似事を断念することはないだろう……ほら、早くもう一つも見せろ」
意見も聞かないままにそう急かすが、于禁は躊躇していた。やはり夏侯惇から贈られたばかりのかなり薄く小さい、確実に通常では用を成せない褌を締めている姿を見られるのは恥ずかしいからか。
着物の下に、それを普通の褌のようには締めているのだが。
「いえ……その……」
于禁は目を泳がせながら着物を頑なに脱がない様子だ。綺麗に合わせてある襟を掴むが、手を震わせて自ら開こうとしない。それを見て焦れったいと思ったのか、夏侯惇は于禁の手をどかしてから着物の帯を素早く取り、そして勢いよく開いた。あまりの早さに何が起きたのか分からない于禁は、見下ろしている夏侯惇の顔がとても欲望に支配されているのを見てから気付く。
今、自身の恥ずかしい格好が、夏侯惇に晒されてしまったことを。
「……似合うな」
ごく短い誉め言葉を放った夏侯惇は、それに手を伸ばす。下は勃起したもので既に布を押し上げており、もはや役割を果たしていない褌を。
「こ、これは……!」
相手は締めているのを分かっているが、于禁はどうにもならない見苦しい言い訳を考えていた。だが于禁の口は手を伸ばし顎を掴んで引き寄せた、夏侯惇の手と次に唇に再び塞がれる。
掴んできた手も唇も、とても力強かった。特に唇は先程の啄むようなものより遥かに強く、そして激しかった。まるで食われてしまうかのように舌で口腔内を蹂躙され、大きさも形も熱も完璧に覚えてしまうくらいに、一種の生き物のように動き回る。
口の中も体も、そして下半身も更に熱を上げると于禁の思考はそこで停止した。そして媚びるような姿で夏侯惇へ、更に熱を求め始める。何も掴んでいない手を夏侯惇の肩を掴み、脚をゆるゆると開きながら。
肩を掴まれた夏侯惇はそれに応じるように舌を吸うと、于禁の下半身から粘液が吐き出されたので唇を離す。締めている褌を見ると生地が薄く少量しか受け止められないのか、褌は吐き出した粘液でいやらしく塗れてから落ちていく。だが于禁本人はそれに気付いていないのか、濃厚な口付けによってできた恍惚の瞳や表情が落ちる気配がない。なのでそれをわざと、くちゅくちゅと音を立てて触りながら指摘をする。
「とてもよく濡れているな」
一瞬にして、于禁の恍惚の瞳と表情が崩れた。だが完全には落ちていないらしく、すぐにそれを元に戻していく。
開いていた脚を閉じようとしたが、それは夏侯惇に阻止された。膝の裏を掴まれ、ぐいと開かれる。未だに勃起している下半身と、褌に付着した興奮の証が更に夏侯惇に強調するように露わになった。そして尻の部分の細い紐をずらしてから、于禁が一番夏侯惇を欲している器官、というより性器を空気に晒す。
夏侯惇の唯一の瞳にも、抑えきれない色欲が覆っていっていた。
「っあ……ゃ、これは……」
言い訳の言葉など、同じものしか出て来ないらしい。そして続きを出せないのかその後は目を泳がせるが、やはり下半身の疼きに勝てなくなってきている。声をとても震わせながら、夏侯惇をちらりと見た。だがそれがいけなかったらしい。
確実にわざと恥ずかしながらも誘っているとしか捉えられなかった夏侯惇は、あれほど簪を刺したままでの側室の真似事などどうでもよくなっていた。于禁の髪に綺麗に刺された簪を素早く抜き取ると、形勢を逆転させる。于禁の黒く長い髪が、寝台の上に散らばった。
夏侯惇が于禁へと覆い被さり、口ではなく首に唇を触れ、舌を出して這わせる。
ゆっくりと、ゆっくりと于禁の首に弱い刺激を与えていくうちに于禁は、我慢の限界からか無意識のうちに腰を振っていたらしい。しかしその動きを止めるように、夏侯惇は大きな喉仏に軽く歯を立てた。すると于禁に突然の甘い快楽が襲いかかり、そのまま更に、ただでさえ小さく薄い褌を更に粘液塗れにさせてしまう。たった一度、喉仏に歯を立てただけだというのに。
驚いた于禁は目を見開くも、ここが好いと理解した夏侯惇はもう一度喉仏に軽く歯を立てた。次は数回歯を立てると于禁は背中を反らせ、また更に褌が粘液に塗れた。もう、どう触っても粘液の卑猥な音が立つ程に。
「あ……! ん、ぁ……」
今の于禁には夏侯惇に媚びるという思考しか最早無い。だからか、未だに夜着姿である夏侯惇の襟に手を掛けて脱がそうとする。力が入らないのか、震える手で掴むというより触っている状態であるが。
于禁は夏侯惇の体の熱を独占しながら喘ぎたいらしい。それをぼんやりと理解した夏侯惇は、あまりの愛しさに片目を細めると、于禁の手を優しく離してから夜着を脱ぎ始めた。それをすぐ目の前で見ている于禁は、肌の色が見えて来るにしたがって下半身の疼きを強める。
そして夜着を全て脱いでから眼帯までも取り払ったところで、夏侯惇は互いの腹が密着する程に于禁に覆い被さり、そして再び喉仏に歯を立てる。だが軽くではなく、まるで食うように少しだけ力を入れて。
「ひゃ、ぁあ! あ、ぁ!」
悲鳴のような喘ぎ声を上げながら、于禁の対の瞳はいつのまにか涙目になっていた。だがそれが溢れてくるのは早く、頬を伝うとすぐに寝台の敷布団へと吸い込まれていく。その時には夏侯惇が顔を上げていたので、于禁の片方のみの小さな涙の轍を舌でなぞる。
涙の味を舌で若干拾ったところで、夏侯惇は于禁の粘液塗れの褌を見た。于禁の下半身にただ乗っている布と化しているそれを、ゆっくりと外していく。
于禁はその様子をただ見ていたが、次第に下半身の疼きが腹へと移動してきていたのが分かった。褌を取り払われた途端に、夏侯惇の腕を触る。
「どうした?」
そのまま降りていき手を触れられたが、それと同時に于禁に下半身を擦りつけられた。夏侯惇の太腿に粘液が付着するが、嬉しそうな表情を浮かべている。止めろ、という于禁からの意思表示ではないことを確信しながら。
「わたしに、私に側室の真似事をさせているならば、はやく、はやく種付けをして下され……!」
于禁は力を振り絞って夏侯惇の手を、へそへと持っていく。腹の中の粘膜までも、夏侯惇を盛大に求めていることを言いたいのか。
「そうだな。ならば、贈った物のことなど、気にしなくても良かったな」
息が荒くなり始めた夏侯惇は、本日は一度も達していない自身の肉棒を見やる。血管がバキバキと浮いていて、グロテスクという言葉が似合う程に限界を迎えていた。
すぐに于禁の両膝を持ち上げると開いて入口を視界に入れた。まだ触れてもいないのに伸縮を繰り返しているので、夏侯惇はその動きを追うように指で軽く触れる。于禁の体が跳ね、喘ぎ声を漏らす。ただ、中ではなく縁に触れただけだというのに。
「真似事、というのが残念だ……」
夏侯惇は少しの後悔を吐き出すと、于禁の腹の入口を慣らす為に香油が入っている陶器性の容器を寝台の近くの棚から取り出した。それを開けると、香油の良い香りが広がる。手の平にそれを垂らすが特に冷たくはないので、指に念入りに絡ませてから伸縮している于禁の入口に触れる。
縁に指をめり込ませると、ぬぷりという音が立つ。それを合図に少しずつ指を押し込めていくが寧ろ追い返されているので、于禁は内心で焦っていた。心持ちが体に影響を与えていったのか、更に追い返す力が増していく。于禁の脳は、夏侯惇の肉棒を腹の中へと受け入れる気で一杯だというのに。
なので夏侯惇は、于禁の気持ちを逸らす為に再び喉仏に唇を這わせ始めた。今からもう一度、ここを噛むというアピールとして。それを汲み取った于禁は、再び甘い快楽を得られると思うと焦りは薄れていった。
だがそのまま、喉仏に歯を立てながら入口に指一本を押し込むと、一気に根元まで入ったようだ。于禁は喜びの声を上げながら、腰を振って少しの粘液を吐き出す。
入った指は蕩けるように熱く狭い粘膜に包まれたが、それを楽しむ程の夏侯惇の心の余裕はもうない。またしても喉仏に歯を立てながら、二本目の指先を縁に触れてから押し込む。一本目と同じく何も障害も無く、全て入っていった。二本の指を小さく動かすと、于禁は雌のように喘ぎ、更に求めた。夏侯惇はそれに応じるように三本目の指先を縁に触れ、次は喉仏から顔を離してから入り口に押し込んだが。
「はぁ、あ、あん……、ぁ……」
体全体を赤く染め上げながら、于禁は入り口に入っている夏侯惇の指を、腹の奥までとはいかないが感じ取る。そして夏侯惇の肉棒を見ながら強請った。
「あつくて、おっきいの……」
顔ではなく夏侯惇の肉棒にしか視線を向けていないが、夏侯惇は指を引き抜いてから于禁の望んでいるそれを縁に宛てがった。
「……それでは、分からないが」
すぐにでも腹の奥まで貫き、そして存分に突いて犯し尽くしたい夏侯惇は、目を血走らせながらそう問い掛ける。声音など性欲によってコントロールできないのか、重く低い声で。
その声を聞いて興奮した于禁はとても忠実に、夏侯惇の問いに答える。本能のままに。
「かこうとんどのの、そのまらでわたしを、おかして、下され」
よくできた、と言いたいが夏侯惇はそのような時間を割くことをしなかった。于禁の言葉が終わった瞬間に、肉棒を縁に埋め始めた。だがほぐした際の香油や先走りの滑りにより、摩擦は少なかったらしい。ずるずると入り込んでいくと、于禁の粘膜はそれを歓迎するように締め付ける。
あまりの中の締め付けに顔を歪めた夏侯惇だが、腹の奥を目指す為に于禁の逞しい腰を掴み、抉るように奥に進めていく。その際に前立腺を掠めていた。于禁は呆けた表情で、静かに嬌声を漏らす。
「ん、ん……ァ、はっ……あ」
だがその静かな嬌声を漏らす時間はすぐに終わった。夏侯惇の肉棒が腹の奥に触れると于禁は狂ったように喘ぎ、薄くなった粘液を漏らす。すると夏侯惇は于禁の腹の奥で射精したかと思うと、肌と肌がぶつかり合う程に激しく腰を振り始めた。于禁に合図も何も言うこともなく。
「あァ! あ、あっ! ぁ、あっ! そこらめ、あ、こわれりゅ、ん、お、あぁ!」
「は、っは、はッ、ここが、好いの間違いでは、ないのか?」
擦れ合う粘膜による快感が堪らないのか、腰を振るのを止められない夏侯惇はそう煽る。于禁は首を振るが夏侯惇は「嘘をつくな」と言いながら、一旦ギリギリまで引かせた後に一気に奥まで突き上げる。
中に出した粘液がごぽりという音を立てながら、粘膜同士が擦れ合う音も鳴る。いやらしい音が重なり、そして奥まで肉棒を強く突かれたことにより、于禁は高い悲鳴混じりの喘ぎ声を吐き出した。
「ひゃあァ! や、あ! ぁ、あ……」
すると一層に強く夏侯惇の肉棒を締め付け、腹の中に二度目の射精をした。理性などない于禁は、手で自身のへそを弱々しく撫でる。
「こだねが……たくさん……」
嬉しげにそう言うと夏侯惇はもう一度、粘液を吐き出したくなったらしい。だが次は、散々に快楽を与えていた喉仏に舌をだしてべろりと舐める。そして歯を立てながら、腰を振ると于禁は涙を流しながら腰を痙攣させた。
「ぁ! ッア、まらきもちいい、あ、まらすき、ぁ、ひあっ、あ、ゃあぁ!」
粘液を漏らさず、于禁は絶頂を迎えた。同時に、夏侯惇は三度目の射精をする。
萎えた肉棒を抜くと、于禁の股から大量の粘液が溢れ出した。夏侯惇はそれをひと睨みした後に、于禁と唇を合わせる。舌を出しても、于禁は舌を上手く動かせないらしい。なので軽く舌を出して歯列をなぞった後、唇を離す。
その時の于禁の顔は、普段の面影も無い。眉間の皺が無く、そして赤面しながら少しの涙を流しているからだ。瞳は溶けているかのように、蕩けさせながら。
夏侯惇はその涙を舌で受け止めると、濃い涙の味を味覚で感じ取る。
「また、側室の真似事をしたいか?」
「いえ……ずっと……していたいです……」
何度も果てたことにより意識が朦朧とし始めた于禁は、そう答えながら意識を一時的に手放したのであった。夏侯惇はもう一度于禁の頬に残っている涙を、静かに舌で掬っていたが。