二度も三度も

二度も三度も

コンビからトリオに増え、一週間が経過した。しかし唐突に水木が配属された初日に事件が起きて以来は、特に何も出動要請がない。なので刑事課は騒がしいとは無縁の状態である。
業務開始時刻から刑事課の者たちは、全員机に向かっていた。ひたすらに雑務をこなしていたのだ。
しかし昼が過ぎると矢上は外に昼食を取りに行き、梅林と野本は署内にある食堂に行く為に刑事課を出る。残った三人も、そろそろ昼食にしようとしたらしい。だが一番先に、水木が元気よく挙手をした。
「私たちも食堂で食べましょう! まずは一緒にご飯を食べて仲良くならないと!」
水木の提案の前に立ち上がろうとして止めた架川はうんざりとしており、座ったままの蓮見は顔が引きつっていた。それらの様子を見た水木は溜息をつくと、二人に食堂に共に行くように促す。手をパンパンと拍手のように、軽く叩きながら。
「仕方がない」や「面倒」だという表情に変わった二人は、渋々と椅子から立ち上がる。
「ほら早く! 善は急げって言いますよね?」
水木が勢いよく立ち上がると、刑事課のフロアの出口に一目散に向かっていった。それから、二人を大きく手招きする。
「おい、使い方間違えてねぇか……?」
スラックスのポケットに手を突っ込み、架川は水木の方に怠そうに歩いていく。蓮見は未だに先程の感情が残ったまま立ち上がり、架川と同じ場所に歩んでいった。
一階にある食堂に着くが、ピークは既に過ぎていた。それでも利用者は居ないという訳ではなく、まばらに席が埋まっている。食堂に入ったすぐそこに券売機があるので、三人は空腹感が大きくなったのかそれぞれメニューを素早く選んでいく。しかし三人は誰が何を選んだのか分からず、購入した食券をすぐそこにあるカウンターで渡した。
少し待って提供されたのは、三人とも同じものである。それも同じグループで食べるのかと思われたのか、一つのトレイに三人分のものが乗せてあった。今日の三人の昼食は、中辛のカレーライスである。スプーンは既にルーの部分に差してあった。
「何で同じなんだよ」
架川が先頭に居たので、トレイを持って適当に空いている席に持っていく。場所は、カウンターから遠く離れた四人掛けの席。なので怪訝そうに疑問を呟いてから、席に着いた。その間に蓮見は食堂内の端にある、小さなテーブルに向かう。上には幾つかのグラスと、水と氷が入っているピッチャーがある。グラスを三つ取ると冷水を注ぎ、近くにあったトレイに乗せてから慎重に運んでいった。
「そんなの知りませんよ……」
文句を言う訳にはいかなかったのか、蓮見はトレイを置く。そして架川の隣に座り、グラスを見ながら返事をする。最後に空いた席は、二人の向かい側だ。蓮見は広い場所を水木に譲ったらしい。
水木も着席した。すると架川は水木にカレーライスをゆっくりと手渡し、蓮見にも同じく手渡していく。自身の目の前にカレーライスが乗っている皿を置いた。
次に蓮見が架川と水木にグラスを手渡すと、最後の一つをまずはトレイから出す。二つの空いたトレイができると、それらを重ねてからテーブルの端に置いた。
「まぁ、いいじゃないですか。いただきまーす!」
二人のことなど気にしていないのか、水木は早速カレーライスを食べ始めた。中辛なので程良い辛さが味覚を刺激され、どんどん口に運んでいっていく。署内の食堂のカレーの味が良いことは、蓮見は当たり前のように知っていた。内心で「分かる」と無意識に相槌を打つ。
するととても美味しそうに咀嚼しているので、それを見た二人は空腹に耐えられなくなったらしい。スプーンを手に取り、カレーライスを食べ始めたのであった。

次の日も、午前中のうちは事件が起きないのでひたすら雑務をこなしていた。だが先に梅林と野本は昼食を取っており、矢上は少し前から不在。三人は時計を見て、そろそろ昼食の時間にしようと思った。
すると昨日のように昼食を食堂で取ろうと水木が提案する。二人に何とか言うと、またしても三人で食堂に向かって行った。その際に蓮見が梅林と野本に「何かあれば連絡を下さい」と、手短に伝えていたのだが。
食堂に着くが、ピークを過ぎた直後である。空席があまりない状況なので、三人は急いで券売機でメニューを選んでいった。だがまたしても先頭に居た架川は、それらを受け取って四人掛けの空いた席を探して着いてから頭を抱える。
「お前ら、カレーが本当に好きだな。二日連続かよ……」
「架川さん、人のことを言えていませんよ」
三人が注文したのは、昨日と同じくカレーライスであった。今日は水木が冷水の入ったグラスの乗ったトレイを持って来たのか、それをテーブルの上に置く。
昨日と同じ席で各々の前にカレーライスとグラスが行き渡ると、水木は笑顔で合掌をした。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。ここのカレー、凄く美味しいですし。じゃあ私は、先にいただきまーす!」
二日連続であっても、水木は飽きないのかすぐに平らげていったのであった。二人も同様に、やはりカレーライスが美味だと思いながら、完食したのだが。

次の日の昼。まるで習慣になってしまったように、三人は食堂に居た。だが注文してカウンターで提供されたメニューを持って四人掛けの空いた席に着くなり、架川は深く項垂れる。目の前には、できたての焼き魚定食が三人分あったからだ。
すると蓮見は諦めたように静かに食べ始め、水木は「これも美味しいですね!」と次々と口に運んでいったのであった。それに対して架川は「またかよ……」と呟いていて。

2023年12月9日