帰路の五月
台本の修正を入れた後である。四月の下旬に、テレビ局での本格的な打ち合わせが始まった。頻度は週に一度で、曜日はバラバラだ。そして時間は前回と変わらず一時間程度。プロデューサーが多忙である為である。一度の打ち合わせで二話分の台本の大まかな修正点を挙げ、最後には専門化の監修も入るのだという。
予定では五月中までに台本のチェック等が終わり、スタッフや監督に台本を渡す。六月から七月にかけて役者を決める。そして八月という早目の時期に役者の手元に台本が届き、九月から撮影に入る。原作者である于禁が口を出せるのはキャスティングの決定まで。それ以降はテレビ局などの関係者が制作していく。予算は深夜枠なのでそこまで無いが、プロデューサーはかなり本気のようだった。
五月の終わりに差し掛かった頃である。于禁は次のページのカレンダーを覗いていた。打ち合わせが大詰めを迎えている。于禁は慎重に三人で話し合い、台本の矛盾点を打ち消していく。
やはり原作とは内容が異なるが、于禁は自身が全て作った話のように真剣に意見を述べていた。
それにメディア制作のプロとここまで関わるということは、とても貴重な体験だと思っている。毎回のように学びを得て、于禁は今後の執筆のどこかで活かせたら良いと思っていた。
ある平日に、八話までの台本のチェック等を終えた于禁はテレビ局を出る。もう夜であるのに少しの暑さにうんざりした。夜空に雲は一つも無いので、視覚的な重苦しさは無い。しかし来月、再来月は更に暑くなっていくのだが。
ふとスマートフォンのサイレントマナーを解除してから通知を見る。様々なニュースやインストールしているアプリからのお知らせ、それにたまにフィッシングメールも混ざっていた。于禁は一通り確認しつつ重要でない通知を削除していくと、夏侯惇から五分前にメッセージが来ていることに気付く。すぐにメッセージを開いた。
『今からどこかに行かないか?』
于禁がすぐに『はい』と返した直後に、夏侯惇から着信がくる。すぐに応答した。
『まだ出たばかりか?』
「はい。ですが、ここからでは離れているのでは……?」
『構わん。今からそこに向かうから、すまんが近くの駅のどこかで待っててくれ』
やや早口で言った夏侯惇は、すぐに通話を切る。直前にホームで電車が来る音が聞こえたが、言葉の途中でそれが遠ざかっているように聞こえた。メッセージを返すタイミングが少しでも遅れていれば、夏侯惇はまっすぐ家に帰っていたのだろう。
于禁は幸運に思いながら、テレビ局から一番近い駅に歩いて行く。于禁の予想では夏侯惇の現在地からここまでは、約二十分以内に到着するだろう。駅までは徒歩五分だ。于禁は駅にひとまず着くまで、どこで待っておくか考えていた。
現在は夜で、退勤ラッシュが未だに続いている。人混みを掻き分けていると、駅前の有名なモニュメントが見えた。于禁の視界の正面には駅の大きな出入口が見え、そのモニュメントの周辺にはベンチや座る場所がたくさん見えた。于禁はそこで待とうと思い、空いているベンチに腰掛けてスマートフォンで時間を確認する。于禁の予想する夏侯惇の到着まであと十分。夏侯惇に現在位置をメッセージで送ってからスマートフォンをスラックスのポケットにしまう。だが大量にただ流れていく人混みを見てもつまらないので、上を見ていた。
思えばこの駅の周辺はあまり行かない場所だ。そう思っていると、スマートフォンが震える。于禁は急いでスマートフォンを取り出すと、夏侯惇から『今、電車から降りた』とメッセージが来ていた。于禁は返信しようと思ったが、相変わらずの人混みを見て躊躇う。今から人々の波を潜り抜けるだろう夏侯惇の立場を考えれば、スマートフォンに触れる暇が無いだろう。于禁は視線を上から前に移動させた。駅の出入口を見る。
すると夏侯惇の姿が見えたので、立ち上がり無意識に走って向かう。
「于禁、別に走らなくとも良いのだが……」
夏侯惇の元に着くと、笑いながら肩をすくめていた。
「申し訳ありませぬ、つい……」
頭を弱く掻いて言い訳のようなものを漏らすと、夏侯惇が手を差し出した。于禁は自然とその手をしっかりと握る。
「どこへ連れて行って下さるのでしょうか」
なだらかに于禁が笑いそう尋ねるが、夏侯惇は「決まっていない」と即答した。于禁の表情がより崩れると、夏侯惇は何かを思いついたのか目を正確に合わせる。そして言葉を出す。
「すまん、お前と仕事終わりという状況で待ち合わせをするのが初めてであったから、浮かれていた。俺から誘っておいて悪いが、どこか行きたい場所はあるか? 無ければ、このまま一緒に帰ろう」
確かに、夏侯惇の言う通りである。別々の場所で仕事してから待ち合わせをするという状況は二人にとっては初めてのことだ。于禁は「どこに行きたいのか」という質問を聞き、少しだけ思考を巡らせる。すると、そういえば夕食をどうするか決めていなかったことに気付いた。なので外食で済ませてしまおうと。
于禁はその考えをそのまま伝える。
「本日の夕食を、どうするか全く考えていませぬ。そこで折角なので、どこかに食べに行くのはどうでしょうか」
「それは良い考えだ! ……そういえば、淵がここの辺りで美味い店を紹介してくれていたな。そこが気になっているが、たしか……どこだったか……」
夏侯惇がしばらく思い出そうとした。自身の足元を見て、考え始める。夏侯淵はスポーツ系の雑誌の部署に居るが、従兄弟なので社内ですれ違っては頻繁に話しているらしい。于禁は微かに嫉妬してしまい、頬を膨らませようとした。しかし夏侯惇に「単純に仲の良い従兄弟だ」と抑えられるが、于禁は心にとても小さなしこりができる。
そして夏侯淵の言う飲食店が、なかなか浮かばないらしい。それがとても気になってきた于禁は、小さな質問を投げ掛けて夏侯惇の記憶を明らかにしようとした。例えばどのような料理が有名か、立地が良いところなのか、店の雰囲気等。
それらを曖昧にだが答えていくうちに、夏侯惇は店を記憶の中で見つけた。于禁の顔を、嬉しそうに見る。
夏侯惇が行きたい店の名前までも蘇ると、スマートフォンの画面にある検索窓にそれを入力した。店のホームページを表示すると、于禁に見せる。
「ここに行こう」
店はあまり高価格帯ではない。寧ろ基本的には低価格帯の店であった。洋食店であり、これもまた隠れ家のような場所らしい。しかし侮れないらしく、夏侯惇は夏侯淵の話を聞くだけで行きたいがなかなかタイミングが合わなかったと言う。于禁が「では、そこにしましょう」と言うと、夏侯惇が嬉々として地図アプリを開く。ここからは徒歩で十五分程度の距離なので、二人はその洋食店までのんびりと歩いて向かったのであった。腹を盛大に空かせながら。
店に着くが、既に二十以上はあるテーブルが満席であった。しかし十分は待っていれば席に座ることができたので、二人は空腹に限界を感じながらもメニューを見て選んでいく。偶然にも、二人は同じハンバーグプレートを選んでいたのだが。
注文して少しの時間が経過してから提供された。二人はすぐに平らげると、ほぼ満腹になったのか満足げに空になった食器を眺める。
「……夏侯淵殿に感謝しなければ」
内心のしこりを潰そうと、于禁がそう呟く。そこで夏侯惇に嫉妬になる前の、引っ掛かりができていたことが分かってしまう。喉を軽く鳴らした夏侯惇は口角を緩め、そして声を抑えながら于禁に囁いた。
「なふほどな。では、今夜は外泊するか?」
「……ッ!? いえ、なりませぬ。明日も貴方は仕事でしょう。ここから家まで、それなりに……離れて、いますし……」
途中で于禁は誘惑に負けていそうになっていた。返事が思い付いた瞬間は、頑なな意思があったというのに。
それに対して溜息をついた夏侯惇は「ではまた今度、してくれるか?」と提案をすると、于禁は酔ったかのように顔を熱くさせながら「仕方がありませぬな……」と返す。
「約束だぞ」
するの視線が大きく泳いでいるのが、夏侯惇からは見えたらしい。テーブルの下で靴の先が、于禁の靴のつま先を軽く突っついた。于禁の視線がテーブルに動いてから、夏侯惇の方に向く。
「ですので、もう帰りましょう! 遅い時間ですし……!」
「分かった分かった」
伝票を持ち立ち上がった于禁は、すぐにそれを会計に持って行く。そして支払うと夏侯惇から「馳走になった」という礼を受ける。
現在の時刻は午後の九時だ。家に到着するのは、恐らく十時の手前になってしまうだろう。自身は良いとして、夏侯惇を早く休ませなければならない。于禁は夏侯惇の手を引き「早く!」と言いながら駅に引っ張って向かい、走って電車に乗った。季節からして涼しくはない気温だが、于禁の肌に汗が吹き出た。同じく夏侯惇も汗を浮かせており「別にそこまで急がなくとも良いだろう……」と呟く。機嫌が、斜めになってしまったのだろうか。声が沈んでいる。なので于禁は申し訳ないと思いながら、電車に揺られていった。
数十分を要して自宅の最寄り駅に到着すると、于禁はまたしても夏侯惇の手を付けている引いて家に入る。予想通りに十時を回る前からだったからだ。夏侯惇に先に入浴を済ませて貰い、次に于禁が入浴をする。だが入浴の支度を終えた際に、部屋のドア閉めていないことに気付かないまま浴室に向かっていた。
入浴が終わると寝間着にきっちりと着替えるが、髪が濡れたままだ。そのままで良いと思いながらも、自身の寝室に入る。だがベッドの上には、半裸の夏侯惇がいつの間にか胡座をかいて座っていた。于禁が入浴している間に、部屋に入ったのだろう。すると部屋を開けっ放しにしていたことを思い出した。
「あ、あの……!」
「ドアが開いていてな。ほら、来い」
困惑の表情を浮かべた于禁だが、頭の隅に期待の感情が生まれてしまった。なので足を進めてベッドに近付くと、夏侯惇に手を引かれる。于禁はベッドに乗り上げたが、すぐに夏侯惇が上に伸し掛かった。
夏侯惇に顎を軽く掴まれると、そのまま唇を奪われた。途中で掛けていた眼鏡を奪われてから、ベッドのサイドに器用に畳んで避難させる。
そこで于禁の中で火が点いてしまったのか、夏侯惇に抱き付く。しかし夏侯惇にすぐに手を払われると、寝間着の中に手が入った。上の方へと動かした後に、胸にやわやわと触れられる。
「ここを、少し触るだけだ」
そう言ってから、夏侯惇は柔らかいクッションを掴むように両方の胸を揉み始めた。揉まれる度に粒が刺激されるので、于禁は短い悲鳴を何度も吐きながら自身のズボンを見る。染みが大きくできており、目を背けようとした。だが夏侯惇がそれを見つけると、于禁の耳たぶをやわやわとかじる。そして舌でぴちゃぴちゃと舐めると、于禁の聴覚が情欲により敏感になった。つまりは夏侯惇が唇を離しても、先程の音がまだ聞こえるようになってしまったのだ。
胸の肉を掴み、指先で粒を押した。于禁の体がびくりと動き、履いている下着とズボンを濡らす。
「ん? どうした? 脱ぎたいのか?」
「はっ、んんっ……ぅあ、あ……ちがう……」
本当は取り払いたいのだが、口先だけはつい否定をしてしまう。
「ほう、そうなのか」
「ひぁ……そこは、い、ゃ! ぁや、アぁッ!」
とても意地の悪い笑みを浮かべた夏侯惇は、于禁の胸の粒を摘んでからぐいぐいと引っ張っていった。于禁には痛みと快楽の両方が襲い掛かるが、どちらも、或いはどちらか一方を消すことはできない。なので夏侯惇にそこを虐められながら、軽く喘ぐ。
夏侯惇は指で抓りながら、舌なめずりをした。于禁はこの状況、そして夏侯惇の今の様子が合わさることがとても好きなのかもしれない。ぼんやりとそう考えてから自身の胸を見る。寝間着の隙間から見えるのは、赤く腫れて大きくなった粒だ。一瞬、幻覚を見ているのかと思ったが確実に違う。
見かねたのか、夏侯惇は于禁の寝間着を脱がせた。上半身が露わになり、腫れて大きくなった粒が震えている。まだ、足りないとでも言いたいのか。
はっきりと見える変貌してしまった胸の粒に、于禁はよくよく見てしまう。次第に夏侯惇に可愛がられた証拠と捉え始めたからだ。すると次は染みの池ができているズボンが見え、履いたばかりの下着がどろどろになっていることに気付く。
「今脱がせてやるから」
夏侯惇も同じ方向に視線を向けると、于禁のズボンにようやく手を掛けた。まずはズボンのみを降ろすと、足首の辺りで留まる。
下着の一部の色が濃くなっている。それに、勃起した竿により大きく膨らんでいる。前者は先走りとそれに精液を吐いてしまったせいだろう。次に下着を降ろしていくと、粘液に塗れている竿が姿を現した。
「あなたの、せいで……!」
濡らしている下半身を、夏侯惇に凝視される。すると粗相をしてしまったような気分になり、興奮の中に恥が混じっていった。自然と夏侯惇を鋭く睨む。だが夏侯惇に効果は全くない。
「すまんな」
心の籠もっていない謝罪をしながら、夏侯惇は于禁の竿を握る。そしてしこしこと扱きながら、赤く腫れた胸の粒をしゃぶった。
「ん、ぁ! あっ……あ! いっしょには、らめ! ァ、すぐにイくから、ア、っはあ、あ、イく、イくぅ!」
腰や喉を震わせた後に、于禁は果てる。竿から精液を噴出させると萎えていった。だが夏侯惇はそこでようやく唯一身に付けていた衣服を脱ぐ。そして于禁の足首からズボンと下着を抜くが、自ら力の抜けている膝を震わせながら開いた。
「……っは、ぁ……げんじょう……」
虚ろさが時折見える瞳を、夏侯惇に向ける。否定の意ではないのでそれを伝えたいが、言葉を生むまともな思考回路が今は壊れてしまっていた。上手く言えないもどかしさを抱えながらも、于禁は精一杯の行動で表す。
「可愛いなお前は。好きだぞ」
于禁のとろりとした竿から粘液を指で掬った夏侯惇は、それを尻にあてがう。つぷりと指先が立てられると、飲み込むように伸縮していく。于禁の意思ではなく、体が快楽を求めているとしか言いようがない。指をぐいぐいと強く押されたと同時に、ぬるりと入っていった。
「……や、ア、ちがう、もっと、おっきいのがほしい……!」
侵入してくる未だに慣れぬ異物感に耐えながらも、于禁が静かに暴れながらそうねだる。しかし夏侯惇は「もう少ししたらな」と返し、入った指を動かして于禁の動きを制御した。
指先が前立腺を何度も押していくので、于禁の体がびくりと跳ねてから興奮の沼に深く沈んでいく。
「ッうぁ!? あ、ん! はっ……あ、ァ」
雌のように善がることしかできなくなった于禁は、精液を出すことのできない柔らかい竿を揺らしながら喘いだ。
「ひぁ! あ、げんじょう、すきだから、ぁ、んッ、げんじょうのまらでもっと、イきたい……!」
「……もう少しだ」
呼吸を落ち着かせることができない夏侯惇は、肩が上下するくらいに息を荒くなっていた。だが待つことのできない于禁は、ひたすらに夏侯惇に懇願し続ける。
理性の無い、求める言葉を何度も何度も出した。その結果にようやく夏侯惇が入り口を慣らし終える。なので夏侯惇がコンドームの封を切って取り出すが、于禁がそれを見てから「げんじょう……」と名を呼んだ。遅れて反応した夏侯惇が、限界にまで張り詰めている怒張に纏わせる直前で手を止めた。
「どうした?」
「たまには、わたしが……」
膝を震わせながら、于禁がどうにか起き上がる。その際に夏侯惇の方へ倒れてしまった。流石に心配になった夏侯惇は、于禁の体を支えながら「大丈夫か?」と聞く。だが于禁はそれを無視してから夏侯惇の持っているコンドームを口で咥える。
あまり動かせない唇でコンドームの頂上部分を舌側に向きを変えると、夏侯惇の怒張に顔を近付けた。口淫をするように、コンドームを着けさせていく。
「于禁……!」
徐々にコンドームや于禁の舌などが這っていく感覚に、夏侯惇はすぐに射精をしてしまいそうになったようだ。重い呻き声を吐き出す。ここで射精をしてしまうのは、勿体無いと。なので夏侯惇は自らの口腔内の粘膜を歯で強く噛み、苦しそうに耐える。
于禁は頭上のその声を聞きつつ、コンドームを装着し終えた。口を離すとベッドの上にごろりと仰向けになり、恥部が見えるように足を開いて誘う。縁はまだ狭そうだが、その先の熱い粘膜は桃色をしており柔らかそうだ。
先程よりも大きな呼吸音を鳴らしながら、無言で夏侯惇が怒張を于禁の腹の中に挿し込んでいく。ずぶりと埋まっていくが鈴頭で引っ掛かると、于禁の腫らした胸の粒を口に含んで舌で転がす。やはり肥大しているので、夏侯惇の口腔内で丹念に遊ばれた。
「ひゃ、ん! ぁ……アっ! ぁ、あ!」
意識が胸にいくと、ずるりと怒張が入っていった。于禁は更なる異物感により呼吸の仕方を忘れかける。そこで夏侯惇に「できる範囲でいいから、深呼吸をしろ」と話し掛けられたので、于禁は言う通りにしていく。
最初は吐く息を大きく出し、吸う息を少しずつ多くしていくとおおよそ普段通りの呼吸がすることができた。
「偉いぞ」
夏侯惇が笑みを浮かべながらそう褒めた束の間、腰を激しく振り大きな律動を始める。于禁は驚くことを忘れ、熱い腹の中を犯される感覚の悦に浸った。
全身の筋肉を強張らせながら、突かれる度に絶頂を迎える。
「ァ! あ、あっ、あ! いきなりは、ずるい、ゃあ……はぁ、ッうぁ!? ぁ、あァっ!」
最後にと一番大きく果てた于禁だが、直後に意識がほぼ無くなっていた。瞼が降り、僅かに周囲の音が聞こえる程度の感覚しかない。その中でも、夏侯惇の息切れをしている声をどうにか拾う。
「愛しているぞ、文則。ゆっくり休め」
そこで于禁の意識が完全に途絶えると同時に、一気に眠りの世界に落ちていったのであった。
翌朝目を覚ました于禁だが、すぐ横には夏侯惇が寝ている。体が綺麗にされており、汚れた衣服が部屋のどこにも無い。その代わりに、共に全裸であるが。
部屋の時計を見るとまだ朝の五時であり、夏侯惇が起きなければならない時刻までは余裕がある。このままもう一度眠りたいが、夏侯惇の穏やかな寝顔も見ていたいと思えた。
そこで、昨夜に最後に聞いた夏侯惇からの告白の返事をする。
「私も、愛しております……」
声を出したが喉が痛いことに気付いた。なので相当に掠れていたが、眠っている夏侯惇に向けて言うことができたので満足する。
そっと夏侯惇に手を伸ばすと、起こさないように抱き着く。規則的である寝息が乱れていないことを確認した于禁は、もう一度眠ったのであった。
すると約二時間後に起きた夏侯惇の手でゆっくりと離された際に、于禁も目を覚ました。なので無理矢理に起き上がってから共に起床しようとして、夏侯惇に「せめて昼まで休んでいろ」と必死に止められる。するりと垂れる長い髪を、優しく掬われながら。
「ですが……」
「昨夜は無茶をさせてしまったからな……すまん……」
申し訳なさそうに夏侯惇がそう述べると、于禁をしっかりと抱き締めた。暖かい肌に包まれ、于禁に再び睡魔が襲う。
「ほら、なるべく早く帰るから、今日も待っていてくれ」
「夏侯惇殿……」
朦朧としてきた中で于禁がそう返すと、夏侯惇が于禁の体をゆっくりと寝かせる。まだ夏侯惇の話に納得していないというのに。
まだできていない反論を考える、その途中で于禁は三度目の睡眠に入っていったのであった。最後まで、夏侯惇の肌に包まれた感覚を保ったまま。