めくる月 - 4/12

白色の四月

四月に入ると、于禁の考えが少しずつ纏まった。捲られてから数日しか経っていないカレンダーを見つめる。
結果は夏侯惇と同じく、このマンションと同じ地域が良いと。理由は住み慣れた場所であることと、他の地域と比べると交通アクセスや治安が良いことだ。
それを夜遅くの、仕事から帰ったばかりの夏侯惇に伝える。夕食は既に夏侯惇は取っていたので、あとは寝るだけだ。一方の于禁は入浴までも済ませていた。
それを言い訳に、于禁はこの場でだ。
「俺は先月から変わらないから、同じ意見ということになるが……俺に合わせた訳ではないだろうな? 重要な事だから、別にぶつかって来ても良いのだぞ?」
「そのようなことはありませぬ。貴方の意見を参考にしただけです。貴方と考えが違うのであれば、正直に伝えております」
信用されてはいるが、それでも夏侯惇から疑いの目を向けられる。それを張り詰めた様子で本気で否定すると、夏侯惇はようやく「分かった」と頷いた。
「ありがとうございます」
すると一気に力が抜けた于禁は、壁にもたれ掛かろうとした。それを見た夏侯惇が、于禁の腕を引いて止める。
「そういえば、明日からドラマ化についての打ち合わせがあるのだろう? 明日に備えて早く休め」
夏侯惇は靴を脱ぎ、于禁をリビングまで引いていった。そして于禁の寝室の前にまで連れて行くと、手を離してから浴室へと向かおうとしたようだ。次は于禁が、夏侯惇の腕を引いて止めた。
「どうした?」
「打ち合わせは早くとも夕方からですので。それより……その……お背中を、流しても……」
腕を掴む手が途中で強くなると、いつの間にか痛いと思える程に握り締めていた。夏侯惇本人は、全く顔色を変えていないのだが。
誘う言葉としては、久しぶりにストレートなものを出す。于禁の頬が仄かに赤く染まると、夏侯惇はニヤニヤと笑いながらそれを見た。すぐに了承をしようとしている態度だと分かると、于禁は恥ずかしさが込み上げたので発言を撤回しようとする。しかし時は既に遅い。
夏侯惇が于禁の手を外すと、軽い痛みを返すように于禁の腕をがっちりと掴んだ。
「ほう。では、その言葉に甘えよう」
そう言うと、夏侯惇はすぐさま于禁を浴室に連れて行ったのであった。最中に、夏侯惇が「首に痕は付けるのか」と嬉々としながら聞く。しかし于禁は止めて欲しいので、それは強く拒否していたのだが。

翌朝、于禁は夏侯惇のベッドの上で目を覚ます。だが隣に夏侯惇は居らず、代わりに枕元に手書きのメモが残されていた。内容はシンプルに「行って来る。服は近くに置いてある」と。
長い髪を垂らしながら体を起こすと、全身に倦怠感が湧き出た。そして、予想していた腰の痛みも。
四月といえど、朝はまだ寒い。于禁は体に掛かっていたシーツを捲ると、すぐに夏侯惇が用意してくれていた服を着る。寒さが少しは和らぐと、スマートフォンを探してから夏侯惇にメッセージを送った。朝の挨拶と、それに服を用意してくれた礼を。
現在の時間からして、通知を確認している可能性は低いだろう。于禁はそう思いながら、夏侯惇の寝室から出て様々な支度をしていった。
打ち合わせの予定は夕方なので、それまでに管理しているマンションの物事などをこなす。そうしているとあっという間に、家を出なければならない時間になっていた。スマートフォンを見るが、夏侯惇から返事などは来ていない。忙しいのだろうかと思いながら、于禁はスマートフォンの画面から目を離す。
持ち物は事前に伝えられていないが、念の為にメモ帳と筆記用具を鞄に入れると家を出る。長くとも一時間と事前に伝えられているので、夏侯惇が帰宅する前には終わるだろう。今日の夕飯は買って帰ろうと思いながら家を出た。
数駅先のテレビ局に着くなり、プロデューサーや脚本を担当する者が出迎えてくれていた。何階かエレベーターで上った先のフロアの、小さな会議室での打ち合わせがすぐに始まる。
まずは大まかな脚本の説明を受けてから、全話である十話分の台本を送るとプロデューサーが言う。実物を見たのだが、かなりの紙の量だ。それを自宅に来てから于禁にチェックをしてもらいたいらしい。大変そうではあるが、その分やりがいがあると于禁は快く頷く。
そして予定通りに約一時間で打ち合わせがひとまず終わったのでテレビ局から出てから、于禁はスマートフォンを確認する。夏侯惇から「帰った」とメッセージが来ていた。素早く「今から帰ります」とメッセージを返すと、于禁は早足で駅に行く。
帰宅ラッシュなのか満員電車に揺られてから、最寄り駅に到着すると飲食店で適当な物を買った。それが入っているビニール袋を提げて、帰宅する。
「ただいま帰りました」
家に入ると、夏侯惇は既にテーブルに座っていた。手元には酒瓶とグラスがある。グラスには、酒が並々と満たされていた。夕食が待ちきれなかったのかと思った于禁は、提げているビニール袋を見せる。
「買った物で申し訳ありませぬが……」
夏侯惇の元に向かうと、頬が赤らんでいることに気付く。何杯か飲んだのだろうか。テーブルの上にビニール袋を置きながら見る。
できたての料理のいい匂いがするが、夏侯惇は持っているグラスを置く気は無いらしい。グラスに残っている酒を飲むと、于禁の方を凝視した。
「……あの、どうされましたか? 酔ってしまわれたのでしょうか?」
「違う」
そこで夏侯惇がもう一杯注ごうとしたが、于禁がそれを止める。
「それ以上は、夕食が食べられなくなりますので」
「別に良いだろう」
よく見ると、夏侯惇の頬が若干膨らんでいるのが分かった。于禁は何となく夏侯惇が機嫌が悪いのか、あるいは仕事で疲れているのだろうと察する。
テイクアウトした料理は、電子レンジで温め直しても問題ない容器だ。夏侯惇の手元に一つ置くと、于禁は自分の物を取り出す。
「温め直すことができますので」
そう言ってから夏侯惇の向かい側の席に座り、自身の分を食べようとした。そこで夏侯惇がグラスを置いたので、于禁はそれに注目する。
「……俺は昨夜の寝る前から、ずっと嫉妬していた」
「はい?」
首を傾げながら、于禁は疑問の一声を漏らす。しかしその後の言葉がどうしても出てこないので、夏侯惇の続きの言葉を待つ。
夏侯惇は置いたグラスの水滴を指先でなぞりながら、于禁が待っていた言葉の続きを吐いた。
「家に帰れば于禁が当たり前のように居ることに、慣れてしまった……だから、酒を飲んで気を紛らわそうと思っていた。俺の勝手でしかないが……すまん……」
最後まで聞いた于禁は、沈んでいく夏侯惇の最後の声までしっかりと拾う。そして唇の端を緩やかに上げてから「一先ず、食べましょう」と促した。恐らく夏侯惇の胃の中は酒しかないので、少しでも食べ物を入れさせるべきだ。そう思った于禁は立ち上がってキッチンに向かうと、空のグラスに水を注いで夏侯惇に渡した。
水の入ったグラスを見た夏侯惇は、すぐにそれを受け取り静かに礼を述べる。そして半分くらい飲むと、于禁と共に夕食を取っていった。ただし夏侯惇は酒を飲んでいたので、完食をするまでにいつもより時間が掛かったが。
夕食が済んでから数時間後に入浴を済ませ、于禁はリビングに居た。何をすることもなくソファにただ座っている。そこで先程入浴を終えた夏侯惇が、隣に座った。于禁はすぐに夏侯惇に寄り添い、そっと唇を首元に近付ける。
「私は今、目の前に居ますので。存分に甘えて下され」
そう言うと同時に、夏侯惇の手が于禁の顎を即座に掬う。視線の高さを夏侯惇が合わせると、唇を重ねた。昨日に体までも交わらせたのにも関わらず、二人には熱が帯びてきている。温度がどんどん上がってきて止まらない。
わざと口を半開きにすると、夏侯惇の舌がぐいぐいと入ってきた。于禁はそれを受け入れ、舌でそれを絡めていく。唾液でぬるついている中で、舌同士を衝突させていく。
「っん、ふ、ぅん……」
夏侯惇のくぐもった声が聞こえるので。于禁は舌の動きを、顎が痛くなるくらいに大きくした。そうしていると、いつの間にか夏侯惇の手が于禁の腰に回っているのに気が付く。手がゆっくりと動いており、指で于禁の寝間着の裾をまさぐっていた。
その手を止めるべきか、放っておくべきか。どうせ衣服など取り払われてしまうのだが、于禁は顎の痛みを感じながら意識を逸らしてしまった。すると隙を突かれたのか、夏侯惇が口付けの主導権を握る。舌で舌を捕らわれ、弄ばれていく。
「ぁ、はぁ……か……ッふ……!」
口付けの隙間から于禁は熱い息と声を吐き、ついでにと酸素を激しく求める。すると夏侯惇の手が寝間着の中にするりと侵入した。そのような暇など、与えないと言わんばかりに。
すぐにへその下を擦られると、昨夜の情事のことを思い出して疼いてしまう。于禁は興奮に体を小さく震わせた。そこの内側を、幾度も突かれたからだ。
夏侯惇の手により何度も何度も柔らかく撫でられた後に、上に向かっていく。胸に辿り着くと、小さく膨らんでいる粒を指先で引っ掻いた。于禁の背中が緩やかに反る。
それでもなお夏侯惇は舌を巻き付かせているが、于禁は次第に息苦しいと思えるようになった。恐らく少し前からそのような状態てあったが、意識を向ける気力を全て削いでしまったせいだ。
全ての指先を小刻みに震わせながら、夏侯惇の背中に触れると弱々しい力で叩く。そこで夏侯惇は于禁の意思に気付いたらしく、唇をゆっくりと離した。
「っは、はぁ、はぁ、はっ、は……!」
言葉よりも先に呼吸をひたすらに求めた于禁だが、その途中で夏侯惇が立ち上がる。于禁を無理矢理という形で立たせてから、体を支えて歩いて行った。向かった先は夏侯惇の部屋である。どう考えても、ソファの上では狭いうえに集中できないからだろう。
部屋に入るなり柔らかいベッドにすぐ倒れ込んだ二人は、再び深いキスをしていく。その際に夏侯惇が于禁の上に乗り上げると、互いの膨らみがよく分かる。寝間着の裾を片手でたくし上げていった。もう片方の手でズボンと下着をずらしていくと、既に濡れているのが丸見えになっている。
しかし于禁は恥ずかしがってはいない。寧ろ夏侯惇に、その様を見せつけるように脚を開いた。
「何だ、寧ろ、お前が甘えているではないか」
舐めるような視線を送った夏侯惇は、ズボンと下着を取り払う。于禁が夏侯惇の言葉を否定する為に、首を振ろうとしたが腰を緩やかに振ってしまう。夏侯惇が于禁の竿に触れたからだ。既に先走りが垂れているので、それを潤滑油にしてまずはゆっくりと扱いた。
濡れるくらいの液が手のひらに塗れているので、滑りがとても良い。なので夏侯惇の扱く手付きが、自然と早くなっていった。
「あっ、ァ……んっ、やぁ、あ!」
于禁の腰を振る動きも早くなっていくと、そのまま達した。夏侯惇の手のひらに、濃いとはいえない精液を吐き出す。
「出せたな。偉いぞ」
そう言って、夏侯惇はその精液を数本の指に絡めていった。粘液によるぬちゅぬちゅとした音が数回鳴ったところで、それを既に緩んでいる尻に持っていく。
「んん……げんじょう、はやく……」
于禁が媚びるようにせがむ。対して夏侯惇は「分かった分かった」と返すと、粘液で濡れている指先で柔らかい股を押す。ずるずると自然に沈んでいった。根元まで容易く入る。
「念の為に慣らさないとな」
興奮が止まらないのか、夏侯惇の目が血走っている。
于禁はその様子を見て、粘膜で夏侯惇の指をきつく締めてしまう。そこで「今はまだ締めるな」と夏侯惇が律するように言うと、指の関節を曲げた。すると指先が前立腺を押すように当たったので、于禁は体を大きく跳ねながら喘ぐ。
「……ひゃぁ! ァ、あッ!」
もう一度、于禁が精液を噴き出した。直後に瞳に涙が浮かぶ。だが夏侯惇は「まだイくな」と言いながら、指を引き抜く。股を慣らすことはもう放り投げてしまったらしい。
そこで夏侯惇がようやく自身の寝間着に手をかけた。下着に染みができてしまっているので、全てを素早く脱いでいく。限界にまで張り詰めている怒張を見せ付けるが、于禁が辛うじて体を起こすとそれに目掛けて顔を近付ける。
「わたしのを、よく、ならしていないでしょう……?」
于禁は邪魔になる長い髪を耳に掛けてから、夏侯惇の大きな怒張を口に含んだ。舌で浮き上がる血管の感触をよく拾いながら、裏筋や鈴頭を可愛がっていく。頭上で夏侯惇の苦しげな吐息が聞こえたと思うと、口腔内にサラサラとした精液が吐き出された。苦さを味わいながら、于禁はそれを飲み込んでいく。
喉に完全に通り過ぎてから唇を離すと、全力で走った後のように息を切らしている夏侯惇が于禁の体をうつ伏せにして押さえつけた。視界が一瞬にして、シーツの白色一色に染まる。そしてすぐに股に怒張が入り込み、于禁の体を貫いた。
「ァ……あ、っや、は、ぁ! ぁ……ア」
指同様にスムーズに入ると、夏侯惇が小さく腰を振る。振動により更に奥に突き刺さり、于禁の背中に力が入りしならせた。そして簡単に腹の奥に怒張が届くと夏侯惇に腰がを掴み、容赦なく腰を振り始めた。互いの肌と肌が、勢いよくぶつかるくらいにまで。
于禁の長い髪がばさはさと広がり、ベッドがうるさいくらいに軋む音を出していた。
「……んぁ、や、かはッ……! ひぁ! あ、お、おッ! ……あッ!」
へその下の内側を強く激しく擦られ、于禁は頭の中までも真っ白にさせた直後に絶頂を迎える。だが射精をしなかったうえに、夏侯惇からは見えていない。それでも、夏侯惇は自身が精液を叩きつけてからも律動を止めなかった。
まるで確実に種付をするように、于禁を堕としていく。
「お、ぉあ、ァ! や、らめ、ぉ、おっ、ア! もう、こわれりゅ……!」
涙を流すと唾液までも垂れ、それらが視界のシーツの白色を汚していく。その間に何度もの射精を伴わない絶頂を迎え、于禁を狂わせていった。明らかに昨夜の行為より、激しいと微かに思いながら体を熱くさせる。
意識が曖昧になってきたところで、夏侯惇がもう一度精液を注ぐ。その際に于禁の赤くなった背中に唇軽くを落とすと、腰が砕けてしまった。がくりと体をシーツに沈むと、膨らみが無くなった怒張が引き抜かれる。股から薄い精液が流れ出た。
その感覚を拾っていると、夏侯惇に体を仰向けにされた。次は天井の白色が見える。次に髪を乱している夏侯惇が視界に入り、于禁の胸が締め付けられた。どくどくと高鳴る。
「いい顔をしているな」
「ん、ぁ……あ……」
言われて嬉しくなった于禁だが、呂律が回らないので言葉が鮮明に吐けなかった。
「だが、お前はまだ満足をしていないようだが、ずっと空イキしてたのか?」
先程と同じく濁った返事をすると、夏侯惇は于禁の左胸にぴったりと触れる。振動が夏侯惇によく伝わっているのか、手が揺れていた。
「ここも、好きだろう?」
手を離して舌を出すと、胸の粒を口に含んだ。于禁は小さな悲鳴を上げながら、胸を張ってしまう。すると夏侯惇が、胸の粒を吸い上げ始めた。
音をわざと立てているのか、吸う音がよく聞こえた。
「ぁん……あ、ァ、っは、あ……」
体を貫かれるよりも快感は少ないがその分、じわじわと暖かさが広がった。そうしているとようやく二度目の射精をすることができ、竿が急激に萎えていく。
確認した夏侯惇は、唇を離してから于禁にそっとキスをした。
「充分に甘えられた。ありがとう」
于禁が小さな口パクで「はい」と言うと夏侯惇に抱えられ、浴室に連れて行かれると丁寧に体を清められる。そして夏侯惇の部屋のベッドに戻り「好き」と言い合いながら、于禁は意識を落としていった。

次の日の昼、テレビ局から仮に作成した台本が届いた。于禁はプロデューサーに「届いた」という連絡をする。しかし声が掠れていたので、風邪を引いたのかと心配されていた。于禁はこれに風邪を引いたのかもしれないと、適当な嘘をついていたのだが。
三十分が十話分あるので、原稿用紙で約三百枚くらいの量。これを約一週間で一通り全て読み、于禁独自に赤ペンで書き込んでもらいたいという手紙が添えてあった。
于禁は腰の痛みを抱えながら、書斎にそれを少しずつ運ぶと台本を読み始める。
隙間時間に読み、僅か三日で最後まで読み終えた。白い原稿用紙が、赤ペンにより少し赤くなる。だが期限までにはまだ日数がある。なのでもう一度、最後まで読み込んでいった。
すると期限が来たので、テレビ局に赤ペンで書き込んだ台本を送る。一日経過してからプロデューサーから「届いた。約一週間、脚本の者とそれを見ながら話し合う」という連絡を受けると、次は夏侯惇と家についてのイメージを話し合う。
イメージは固まっており、間取りは現在のものに似たようなものに加え、二階にベランダが欲しいという意見がある。二人とも建築については素人なので、あとは良いと思ったハウスメーカーに相談してそれで大丈夫かどうか尋ねなければならない。
平日に于禁がハウスメーカーの資料をなるべく多く取り寄せると、休日に夏侯惇とそれを元に依頼をする会社を絞っていく。どうにか数社まで絞ると、休日に夏侯惇と共にその全社に行き相談などをしていった。勿論、展示場も見て回る。
結果はとある小さな会社に依頼をすることにした。その決め手は二人の事前の希望に添えることは難しくくとも、どうにか考えて実現してくれるように努力してくれたからだ。
小さな家なので設計はすぐに終わる。二人にその設計図のコピーを送り、了承を取ると五月の下旬から施工が始まることになる。工期は平均より長めの約半年はかかるが、二人はできるまでの楽しみが長くなって良いと気にしていなかった。