二人の十二月
初旬に、施工完了した家が引き渡された。荷物の一番上にあった、残り一枚になったカレンダーを見る。そして引っ越し業者の家具などの設置も終わると、家で完全に二人きりになった。
因みに荷造りは于禁のものは殆どできていたが、夏侯惇のものは勝手に構えない。そして于禁から見ても、荷造りが進んでいるようには思えなかった。仕事が多忙を極めていることもあってか。
なので直前になってから「手伝って欲しい」と頭を下げられる。于禁はその頭を必死に上げながら、荷造りを手伝っていた。
新居に引っ越すと、于禁はまずは感動していた。誰かと、一軒家に住むことができるとは思ってもいなかったからだ。一方の夏侯惇は感動もあってか、まずは二階に上がろうと于禁の手を引く。
間取りは前のものとほぼ同じだが、少し違う部分があった。一階と二階にリビングがある。一階と比べると二階のリビングは狭いが、ベランダがあるのでそのようなことは気にならない。
二人にとってはその空間が初めてであるので、まずはそこに入った。ソファや本棚などの家具と数個の段ボールが置いてある。この部屋の段ボールの中身を出すことは最後に回しているので、夏侯惇は更に奥のベランダの前へと于禁を引いていった。
見れば、青い空の下にある街の風景が綺麗である。少し遠くには、高層ビル群が見えた。
「この日まで想像ができなかったが、感慨深いな……」
外から夏侯惇の方に視線を向けると、泣いていた。于禁は慌ててハンカチを取り出すが「……大丈夫だ」と断られる。指で流れた涙を掬いながら、言葉を続けていく。
「出会えて本当に良かった。于禁。ありがとう……」
「こちらこそ……ありがとうございます」
そう返すと、夏侯惇の涙腺が崩壊してしまったようだ。涙が次々と溢れていくので、于禁はハンカチでそれを拭いていく。そしてソファに座らせると、夏侯惇をそっと抱き締めた。
静かだが、時折に通行人の会話や足音が聞こえる。それを聞きながら、于禁は何も喋らずに夏侯惇に寄り添った。微かに夏侯惇の心音が聞こえるが、落ち着いてきたようだ。
「……于禁」
目を腫らした夏侯惇が、于禁の方を見る。なので于禁は目を合わせると、瞼にそっと唇を落とした。涙の味がしたが、塩味の中に甘さがある。于禁はそれに思わず微笑むと、夏侯惇の表情が柔らかいものに変わっていった。
引っ越してから数日後に、ドラマの放送が終わった。全体的な評価が良く、とても綺麗に完結しているので続編などは制作できない。だが続編の要望がかなりあり、于禁は嬉しくなりつつも困惑していた、
プロデューサーから感謝されるが、于禁はほんの一部だけであってもとても佳い仕事ができたと誇りに思った。なので他の作品もメディア化がされ、共に仕事ができたら良いと考える。
荷解きがほとんど済み、二人は気分転換がてら夜に外出した。夏侯惇は休日なので、適当な路線の電車に乗る。着いた先は、山の多い地域であった。二人は景色を見て驚きながら、駅員の居ない無人駅ということも理解する。初めて来たので、動揺を隠せなかった。
降りた駅の名前をスマートフォンで検索する。すると家からかなり離れている場所であったことが分かった。それに、もうじき電車が動かなくなるらしい。なので二人はホームに戻り、電車を逃さないようにと待っていた。
十二月なのでとても寒い。しかし電車が来るまでは、あと十数分ある。二人はベンチに座り幾度もスマートフォンを確認しては、寒さに震えていた。
「適当な路線に乗ったのがまずかったな」
「そうですな」
ホームに二人きりだ。空には雲があるが、ビル群が無いので夜にしては明るい。二人の口からは白い息が出る。
すると于禁は、夏侯惇の手をそっと握った。
「私が、寒いので……」
そう言い訳をするが、于禁は目を逸らしてしまう。くすりと笑った夏侯惇は、于禁の手を握り返した。二人は熱を、じっくりと分け合う。
「……于禁、最後まで共に生きよう」
夏侯惇がふと空を見上げながら言うが、手を握る強さが増す。于禁は当たり前のように「はい」と返した。返事はとても短いものの、とても確かなものである。夏侯惇が納得して頷くと、電車が来るアナウンスが聞こえた。
「家に、帰りましょう」
「あぁ」
二人は手を離して立ち上がると、時間通りに来た電車に乗って家に帰った。
しかしもうじき日付が変わる頃であり、于禁は次第に眠たくなったようだ。それでも夏侯惇にそっとキスをする。直後に夏侯惇から、少し強めの口付けが返ってきていて。