めくる月 - 11/12

回顧の十一月

ある朝、于禁は自室で目を覚ました。隣には夏侯惇が眠っているが、昨夜は体を重ねたこともあって互いに全裸だ。しかし不思議と寒さは無く、夏侯惇の寝顔を見ている。ずっと、見ていたいと思いながら。
しかしその考えは一瞬にして散る。于禁が時刻を確認すると、夏侯惇を大慌てで起こした。
「夏侯惇殿! 遅刻! 遅刻してしまいます!」
「……ん? あぁ……」
寝ぼけているのか、夏侯惇は于禁をぎゅっと抱き締めた。于禁はそれを振り払い、シーツを大きく捲ると空気の冷えが来たらしい。寒さに激しく震えた。だがそのおかげで、目を覚ました夏侯惇はがばりと起きる。
「はっ!? 起きなければ……!」
同様に夏侯惇も寒いのか、鳥肌を立てながら震えていた。于禁は申し訳ないと思い、シーツを肩に掛ける。
「申し訳ありませぬ、この寒い中」
「構わん。俺は、どうやら寝惚けていたようだしな」
掛けられたシーツを、于禁にも掛けていく。夏侯惇の体温のみで上書きされていたが、それでも温かい。于禁は思わず、温かさの元にぴったりとくっついた。
「まだ、もう少し余裕がある……」
夏侯惇がそう言いながら、于禁をそっと抱き締める。すると寒さを少しは凌げたのか、夏侯惇にあった鳥肌が消えていった。于禁はそれを見て、更に全ての肌を密着させる。
この時間がずっと続けば良いのに、そう思った于禁は夏侯惇を押し倒す。
「遅刻すると言ったのは誰だったか」
唇の端を吊り上げた夏侯惇は、挑発するようにそう吐く。一方の于禁は、それを無視できないまま軽く頷いた。
「ですが、少しの余裕があると仰ったのは、貴方では?」
「そうだな……」
すると夏侯惇は起き上がり、于禁を無理矢理に立たせた。シーツを持ち「シャワーを浴びるぞ」と言って浴室に連れ出す。浴室にそのまま入るとシーツを洗濯機に入れ、シャワーを浴びながら于禁と口付けをしていった。
于禁は腰の怠さに夏侯惇の体に掴まるが、ふと触れた場所が勃起していることに気付く。なので思わずそれを握り、しこしこと扱き始めた。
「は、はぁ……于禁……」
そこで夏侯惇が湯を止めると、先走りでぬるぬるしていた。手を離した于禁は、夏侯惇に背を向けて冷たい壁に手を付ける。しかし夏侯惇にすぐにそれを阻止されると、体勢を変えられた。抱き合う形になる。
再び夏侯惇に口付けをされていくと、入り口に勃起している逸物が侵入してきた。まだそこは性器のように柔らかく、そして卑猥に開いている。
「夏侯惇殿、早く済ませなければ、遅刻しますよ……」
反撃するかのように于禁がそう言うと、夏侯惇はたった一言「入れるぞ」と呟いてから逸物を収めていった。慣れているかのように柔軟に受け入れる肉の穴に対し、于禁は抜け出せた筈の快楽の沼に再び沈んでいく。
「っあ、は……ぁ! ん、ゃあ……」
「そうだな、早く済ませないと……な!」
根元まで一気に入ると、夏侯惇は容赦なく于禁の体に打ち付けた。
「ぁ、ア、はげしい、っは、あ、あ!」
体を捻り、于禁は無意識のうちに夏侯惇の体から抜け出そうとしているようだった。しかし夏侯惇はそれを阻止する為に、腹の奥を強く突く。腹を突き破られるかのように思えた。
すると次第に于禁の意思が、失われていった。
「……ッあ!? お、ぉ!」
意識が朦朧としている中で、于禁は肉を擦られる感覚にひたすら悦ぶ。
へその下の辺りの強い衝撃を感じた後に、精液が注がれる。ごく少量であったものの、于禁は目で笑いながら夏侯惇の名を呼んだ。腹の中で、萎えていく物の感覚を拾いながら。
「かこうとんどの……」
「続きは、帰ってからにしよう」
「ん……かこうとんどの……」
于禁が自力では立てなくなったので、体を綺麗にされてから浴室から出る。まだ遅刻をしない時間であるが、夏侯惇は「すまんな」と言い、于禁の寝室のベッドに寝かせた。
すぐに部屋を出ると、于禁は寂しく思えた。しかし夏侯惇は出勤の為に支度をしなければならないのだろう。なので耐えていると、しばらく経過してから夏侯惇が再び入ってきた。支度を済ませており、スーツ姿だ。
しかし見れば、少し疲れている様子である。先程の行為のせいだろう。
「では、行ってくる。冷蔵庫にすぐに食べられるものがあるから、大丈夫だとは思いたいが……終わったらすぐに帰る」
「はい、お待ちしております……」
于禁はベッドの上で、夏侯惇を見送った。そして目を閉じると、于禁はすぐに眠る。
すると気が付けば昼過ぎであり、体の怠さはある程度は引いていた。どうにか起き上がりキッチンに向かうと、食事をする。
スマートフォンを確認すると夏侯惇から「体は大丈夫か?」とメッセージが来ていた。于禁は今の状態を連絡すると、夏侯惇から安堵のメッセージが返って来る。そして退勤予定の時間も。
于禁はその時間を楽しみにしながら、本格的な荷造りをしていったのであった。そして夏侯惇が予定の時間と誤差があったものの、帰宅するなり浴室に連れられていたのだが。

数日後に、于禁の新作が発売された。しかし小説なので、いつもより高い売れ行きを除いては良いか悪いかどうかは分からない。なので于禁はいつものように、落ち着きながら荷造りをしていた。
そしてドラマであるが、話数が進むにつれて視聴率が下がるのは当然のことだ。しかし大幅に下がってはいないらしい。なので夏侯惇に褒められ、プロデューサーからは電話で礼を述べられていた。
この日も一人で荷造りをしていた。その際に、于禁は自身で書いた本の全てを並べてから改めて見る。どれも幾つかの反省点があるものの、よくできたものだと感心した。
思えば、半ばやけくそで文章と呼んでよいものを書いたことが全ての始まりであった。自分らしくないと思ったが、それが無ければ今が無かっただろう。前に夏侯惇が言ってくれたが、今の二人の関係でさえも。
運命とは微かに見えるものの、やはり自分で変えられることができる。そう考えなから、于禁は荷造りを順調に終わらせていったのであった。
リビングにあるカレンダーの役目が、あと一月で終わると思いながら。