四…変化
急いで帰宅した于禁だが、心臓の鼓動がかなりうるさいので困惑していた。まるで長距離を全力疾走でもしたかのように、呼吸が苦しい。夏侯惇の部屋は隣で、自身の部屋からかなり離れているという訳ではないのに。
「……認めたくはないが、夏侯惇殿は私の本心の正解を述べていた。認めたくはないが」
于禁も、夏侯惇のことが好きになってしまっている。なので二人はめでたいことに両想いではあるが、于禁はそれについて言葉を出すのがとても恥ずかしがっている。心の奥底では、夏侯惇のことが好きになったという意識はかなりあるが。
落ち着かせる為なのと、昨夜は入浴ができなかったので浴室に向かってシャワーを浴びる。しかし浴室で見る自身の顔は未だに赤い。湯をまだそこまで被っていないというのに。なので于禁は鏡を見ずに入浴を済ませると、心を取り乱される思考を振り払うため、書斎へと移動してから昨日考えていた二作目の構想を更に広げることにしたのであった。
幸いにも、作業をしている間は目の前のことに集中することができた。ふと時計を見ると時刻は昼過ぎである。于禁は椅子に座った状態で軽く腕を伸ばすと、昼食を取ることにした。
その前にスマートフォンを確認すると、幾つか通知が表示されていた。最初にある通知は蔡文姫からのメールである。内容は『出版社に来ることができる日が決まりましたら、遅くとも前日までに連絡して下さい』と。于禁はそれに了解という返事をすぐに送ると、他の通知を次々とチェックしては削除していくうちに、その手をピタリと止めた。
その通知とは、夏侯惇からのメッセージである。恐る恐るそれを開くと『来週の土曜日の夜、次はお前の家で呑もう』とあるが、于禁はそれに返信できなかった。どう返信すれば良いのか、脳内で思考を組み立てられないのだ。『はい』か『いいえ』で答えられる簡単なことだというのは分かっていても。
「……返事は保留にしておこう」
于禁はそう言うと、夏侯惇に返事を返さないままメッセージを閉じたのであった。
※
それから数日後、于禁の二作目の構想の大まかなプロットが完成していた。その間に夏侯惇からは何もメッセージが来ていないので一安心するが、唐突に心が寂しいなどと思えてきている。そう自覚すると于禁は首を激しく横に振り、蔡文姫と打ち合わせをする為に出版社へと向かう。約束は夕方の前ではあるが、夏侯惇に会わないことを信じながら。
早速、構想を蔡文姫に説明するがひたすら頷くのみ。なので于禁は内心で首を傾げながらも、構想について説明した。終えると共に、蔡文姫は于禁に意見を述べる。
「私は、それで良いと思います。その……二作目も一作目のようなジャンルなので、私は専門的なことは分かりません。ですが一作目と同様に簡単な説明もあるので、私と同じ立場の読者でも分かる文章をきっと于禁殿は執筆されると思います。それでいきましょう。編集長にも、確認をしてから企画会議に出しますが」
于禁は『編集長』という言葉を聞くだけで顔が歪み心臓が鳴ったが、蔡文姫からしたらそれが通るか不安になったのではないかと見られたらしい。なので于禁に励ましの言葉を出す。
「大丈夫ですよ。一作目でも、編集長は『テーマは難しいがよくよく見ると読みやすい』と言って下さったのですから」
「……あぁ」
小さく頷くと蔡文姫が再び「大丈夫」と言うので、于禁は「分かった」と言葉だけは確実な返事をした。
そして打ち合わせが終わり、蔡文姫は帰り際に于禁に片手で数えられる程のシンプルで無地なデザインの未開封の便箋を見せる。それも、とても嬉しそうに。
「貴方宛に、読者の方々からデビュー本の感想が来ていますよ」
それを受け取った于禁は、ゆっくりと目を通す。確かに、于禁宛の感想であった。どれも肯定的な感想が綴ってあり、于禁は弁護士時代の依頼者からの感謝の手紙を思い出す。同じように、感想の手紙を出してくれたのが嬉しかったからだ。
目頭が若干熱くなるが、今は蔡文姫が居るので堪えた。
「それは于禁殿が受け取って下さい。では、私は他の仕事があるのでここで失礼します」
「あぁ、分かった。今日は忙しい中であるのに感謝する」
「いえいえ」
蔡文姫との打ち合わせを終えると、世間の会社員にとっては定時退社の時間帯であった。幸いにも夏侯惇と会うことは無かったので安堵する。
出版社から出てある程度歩くと退社して各々の行き先へ向かう人で溢れている。その中で、于禁の今の服装はスーツではなく軽装なので不思議な感覚に襲われた。今でも弁護士を辞めていなければ、この中の人間の一人に混ざって足を進めているのかもしれない。目的である行き先へと、スーツ姿で目指して。
弁護士を辞めた当初は後悔もあったが、今は辞めて良かったのかもしれないと思い始めていた。言葉で人の人生を動かすのではなく、言葉で人の心を動かすこと。それが何とも素晴らしいのか実感していた。実際に読者から感想を僅かだが貰っていて、その中に長く綴られている感想もあり于禁は内心で感動する。例え一つであってもここまで、自身の書いた小説によって人の心を動かすことができたのかと。
于禁はその群衆を視界から外すと、そのまま帰路に就いたのであった。そして、その途中で夏侯惇からの先日のメッセージに対し『また貴方の家で呑みます』と返信しながら。
土曜日になったが、まだ陽が高い。
于禁が夏侯惇の誘いに乗ったのは、個人的な関わりを持ってコネを作りたいからではない。夏侯惇に、どうしても答えて貰いたい質問が幾つか浮かんだからだ。メッセージで質問するという手段もあるが、質問の内容は複雑である。
夏侯惇と呑むのは夜。なので于禁は二作目の構想やプロットを確認しながら、ある程度まで下書きをすることにした。
すると夕方前にスマートフォンを確認すると、五分前に夏侯惇からメッセージが来ていた。今から来いと。
于禁は意を決して家を出ると、隣の夏侯惇の部屋の前に立つ。メッセージで『今から入ります』と送ると、了承の返事がすぐに来る。ポケットから、夏侯惇から渡された合鍵で解錠をすると、夏侯惇の家へと入って行った。
「こんばんは、お邪魔致します」
律儀に挨拶をすると、まだスーツ姿である夏侯惇が出迎える。
「別に、勝手に入って来ても良いだろうに」
スマートフォン片手に夏侯惇が笑いながらそう言うが、于禁は首を横に振る。なので夏侯惇は溜息をつくと、リビングへと案内した。
「どうして急に誘いに乗ったのだ? それまでは、俺からのメッセージを読んで無視していたというのに」
于禁は一瞬だけ気まずそうな顔をするが、まずは目的を果たす為に表情を真剣なものへと変えた。
「貴方に、質問があります」
「俺に質問?」
興味無さげに勝手にキッチンへと向かうと、于禁も着いて来る。夏侯惇が棚からグラスを二つ取り出すのを見ながら、意見も聞かずに質問を始めた。
「貴方は、どうして今の出版社に?」
于禁はとても真剣な表情であるが、まるで学生のような内容の質問が出てきたので、夏侯惇は拍子抜けしていた。だが相手は真剣であるし、于禁に対して好意を抱いている。次に酒瓶を取ろうとした手を止め、于禁の方を向くとそれに素直に回答した。
「前に言っただろう? うちの代表取締役社長が幼馴染だと。だが、学生のときに特になりたい職業が無かったから、孟徳に言って一応面接を受けてからうちに入った。それだけだ。今はその選択に対して、全く後悔など無いが」
于禁も拍子抜けしたが、頭の中に回答を記憶すべきか迷っていると夏侯惇がぐっと近付いてきた。于禁は反射的に頬を赤く染める。どうしても、そのようになってしまう自身を軽く恨みながら。
「では、俺からも質問だ。于禁、お前は、俺のことが好きか?」
回答を詰まらせ、于禁は何とか合わせられていた視線を逸らす。確実に好き、なのだが夏侯惇に直接言えないのだ。恥ずかしさと同時に、今までの人生で同性に向かって恋愛対象として好きというのが、于禁の中では漠然とした違和感を覚えていて。
「どうした? 俺はお前からの質問に答えたのだから、お前もきちんと答えろ。この状況ではフェアではないぞ?」
夏侯惇の言う通りだ。于禁の質問に対して夏侯惇はきちんと回答したのだから、于禁も質問に答えるのが道理である。しかしそれが分かっていても、于禁は答えられなかった。
好き、というとても短い言葉を言ってしまえば何と楽なことか。まるで供述を頑なに拒んでいる犯罪者のようだ、と于禁は内心で嘲笑う。
次第に苛ついてきた夏侯惇は、質問内容を細かく砕く。
「……この前の俺とのキスは、気持ち良かったか?」
于禁は思わず目を合わせてしまった。気持ち良かったのは確かである。実際に、夏侯惇との口付けで舌を絡めても不快感など微塵も無かったのだから。なので于禁は肯定の為に反射的に頷くと、ハッとしてから見苦しい否定の為に必死に首を横に振った。今から否定の意思など示しても、全くの無駄だというのに。
「そうか」
口角を上げながら迫って来る夏侯惇と正反対に、口角を下げながら後ずさる于禁。すると于禁は壁に背中をぶつけて追い込まれていた。言葉も于禁の逃げ場もどこにも無い。
于禁は夏侯惇と壁に挟まれる。すると夏侯惇は于禁の顎を捕まえてから、口付けをした。初めて口付けをしたときのように、舌が于禁の口腔内に侵入してくる。于禁は気持ち良さに、すぐに頭の中が蕩けていくような感覚に陥っていった。そしてこのまま、ずっとこうしていたいと思いながら。
しかし于禁のその欲望はすぐに潰える。夏侯惇が舌を引かせ、合わせていた唇を離したからだ。なので混乱したまま更に欲しがるように舌を出すと、それを見た夏侯惇までも顔を赤らめた。
「……今すぐ、お前の家でシャワーを浴びてからまた俺の家にすぐに来い」
ただ、静かにその言葉を夏侯惇は伝える。だが于禁は言葉の意味を、すぐに察した。溶けた脳でそれにただ静かに頷くと、于禁は急いで家に戻ってシャワーを浴びに家に戻った。それはいつもより、入念に。
シャワーを浴び終えると髪を乾かさず、適当な服を着た。次は何も言わずに隣の夏侯惇の家に合鍵で解錠して入る。リビングにはまだ居ないので、脱衣所を見るとまだシャワーを浴びているようだった。なのでリビングに戻ろうとすると、夏侯惇が浴室から出てくる。
「待ち切れなかったのか?」
何も着ていない夏侯惇は、于禁に近付く。そのときの顔は、まるで肉を食らう獣のようだった。于禁はその顔を見て、心臓を高鳴らせる。今から、目の前に居る男と性行為を行うと思うと興奮してきたのか。
「ほら、ベッドに行くぞ」
服など着ないまま、夏侯惇は于禁の手を引いて寝室へと向かう。自身の心臓の音が、とてもうるさいと思いながら。
「好きです……」
ベッドに押し倒されると、于禁は自然と夏侯惇に向かって告白をしていた。眼鏡のレンズ越しの瞳を雨粒のように潤ませる。だが前言撤回などするつもりが無いのか、視線を逸らすことが無く夏侯惇の顔をひたすら見ていた。
「今更か。だが、ようやく言えたな」
軽く笑った夏侯惇は、于禁の唇に軽く口付けをしながら覆い被さる。二人は興奮による、荒い息を吐き合う。それは溶けるかと思う程にとても熱く、より二人を興奮させた。
于禁が掛けている眼鏡が邪魔なのか、夏侯惇がそれを外すとつるを畳んでからベッドの近くのサイドチェストに乱雑に置く。しかし自身が常に身に着けている物を、他人に雑に扱われても于禁は気にする余裕が無いらしい。それよりも、夏侯惇の熱を更に求める為の精一杯の言葉を吐く。
「どうにか……なりそう……」
さらりとした透明な液体で覆われた瞳と、赤い顔で求められたならば、と更に欲情した夏侯惇は于禁と口付けをした。于禁の首の後ろに両手を回す。それに気付いた于禁は拒むことなく、夏侯惇の背中に両手を回した。女のように華奢な体や手ではないが、夏侯惇は今までの肌の触れ合いで一番興奮している。于禁も、同じく一番興奮をしているが。
前のように深く、そして次は丁寧に舌を絡める。于禁の口腔内に舌を侵入させたかと思うと、歯列をゆっくりと這うようになぞった。于禁がくぐもった声を漏らしながら、自身の服をずらしてから膨らんでいる股間を夏侯惇の腹に擦りつける。先走りが垂れているので、夏侯惇の腹にそれが付着した。相変わらず、于禁は夏侯惇の方を見ている。
夏侯惇はそれに構わず、上顎を舌で這わせた。すると于禁は気持ちが良いのか、涙目になり瞳をゆっくりと伏せ始める。その様がとても綺麗に思えた夏侯惇は、唇をようやく離す。二人の唇の間からは唾液も絡まっていたことにより、それの細い糸ができていた。まるで、二人を繋ぐかのように。
「于禁……」
于禁の名を呼ぶと、二人の間にあった糸が切れる。于禁がそれを見た後に、夏侯惇に訂正を求めた。普段のように眉に皺を寄せてはおらず、寧ろハの字へと下げながら。
「文則、とお呼び頂きたい……」
夏侯惇の背中に回している両手の指に、若干の力が入る。夏侯惇はそれを感じながら、于禁と同じように訂正を求める。
「分かった、文則。では俺も、元譲でいい」
于禁は「元譲……」と言葉を覚えたての赤子のように、そう復唱すると夏侯惇は「そうだ」と頷く。訂正を終えた夏侯惇は、于禁の首に唇を這わせ始めたと思うと、舌を出して味わうかのように舐め始めた。最初は擽ったいという反応を示していた于禁だが、次第に夏侯惇の性欲をより大きくさせるような吐息を吐き始める。
そして興奮が大きくなると自身を、早く抱いて欲しいという言葉を出す。夏侯惇に対する丁寧語など、今はもう捨てて。
「元譲、早く、イきたい」
于禁の性的な望みを聞いた夏侯惇は、自身のそり返る肉棒を于禁の太腿に擦りつける。夏侯惇もまた、先走りを于禁に付着させていて。
だがローションなど持っていない夏侯惇は、于禁の股間を握ってから上下に扱いた。すると瞬く間に射精をしたので、精液を指に纏わせるように受け止めてから于禁の尻へ指を向かわせる。
男同士でのやり方は、何となく知ってしまっていた。蔡文姫が間違えたという漫画本で、たまたま見てしまったのだ。ちょうど尻の穴を解すシーンだったのだが、夏侯惇はそれを鮮明に焼き付かせてしまっていた。于禁に惚れる前は、嫌なものを見てしまったと不快に思っていたが、于禁に惚れてからは不快とは感じなくなっていて。
なので前の自分を褒めながら、夏侯惇は于禁の尻を解し始める。
「ッゃ、あ……!」
指先をぴとりと当てた瞬間、于禁は小さく短い悲鳴を上げた。それを見て緊張や恐怖心を抱いていると思った夏侯惇は、于禁の心もきちんと解してやるために唇を合わせる。意識を、主に尻を解す方へと傾けながら。
舌を絡ませると于禁は大層気持ちよさげな顔へと戻っていくので、夏侯惇は尻を解し始める。最初に挿れた指が、上手く入らなかったが、何度も突きながら押していくうちに何とか入ったので根元まで入るように先程の動作を繰り返す。
ようやく一本入ると、于禁の中がとても熱いので夏侯惇は酷く興奮をする。解した後、この中に自身の肉棒を入れるのかと。
二本、三本、と挿れていくうちにそろそろ良い頃合いだと思った夏侯惇は指を引き抜く。于禁の閉ざされていた入口が、ぽっかりと空いた。夏侯惇はそれを見て自身のものが入るのかと不安になったが、試しに宛がってみることにする。入らなければ、また入口を解せば良い話であって。
于禁の膝裏を持ち上げ、その間に夏侯惇が正座する体勢となった。
「いや……まだ難しいか」
「あ、ぁ、おっきい……」
臨戦態勢の肉棒の先端を、于禁の入口の縁に触れる。だが見るからにまだ入るとは思えないので、再度指で解そうと肉棒を離した。
「もう、いいからっ……!」
于禁が赤く困った表情を左右に数回振り、夏侯惇の腕を掴んだ。そしてせがむようにそう言うと「私は、大丈夫なので!」と付け加える。夏侯惇は挿れたいのは山々であったが、于禁がそう望むなら、と入口に再び肉棒を宛がう。
だが触れた瞬間に于禁の体が強張ったので、夏侯惇は自身のよりも少しだけ大きな背中を擦ってやりながら、縁へと埋めていく。背中を擦っているので、于禁は少しだけ落ち着いている様子である。
「今更だが、今はゴムを持っていなくてな、すまんな」
かなり遅い懺悔を吐いてから、夏侯惇は于禁の中にとてもゆっくり肉棒を侵入させる。于禁は初めて自身の入口とも言える箇所に、男の性器が入っていくということが未知の事柄であるので、頭全体の理解が及ばずに上手く呼吸ができなくなっていっていた。
浅く浅く吸っては吐くを繰り返すが、肺に異常をきたしてしまったかと錯覚してしまうくらいに息切れが絶えない。なので背中を擦っても落ち着かせることができないと判断した夏侯惇は、于禁の上に覆い被さると体を密着させた。
「ゆっくり、挿れるから、深呼吸しろ」
そう促すと、于禁はまずは浅く深呼吸をする。次第に深くなっていくと、先程よりも落ち着きを取り戻した。夏侯惇はそれを優しく褒めながら、肉棒の侵入を再開させる。
指で解しているときのように最初はスムーズに入らないものの、ゆっくりとゆっくりと少しずつ侵入させていくうちに、入口が拡がり肉棒が埋まっていく。于禁が短い悲鳴を上げながらそれを受け入れていると、とある場所に夏侯惇の肉棒の先端が当たった。それが于禁の入口がただの排泄器官から性器へと変わった瞬間である。于禁の悲鳴は喘ぎ声へと変化し、ゆっくりと挿入していた夏侯惇は興奮により挿入が荒くなっていった。
「あっ! や、ひあ、ぁあ……っ! そこらめ、ぁ!」
言葉では否定をしているが、于禁の腰が淫らに動く。勿論、逃げる為ではなく快楽をより得る為に。その様子を見て、夏侯惇は于禁が深く快楽を得ている場所を肉棒で強く突いてやる。
「……ひあぁ!? あっ、ア、んぁ! イく、イく、ぁ、あぁ、あ!」
于禁が射精をした。自身の股間への刺激ではなく、尻の中で。それにより頭が真っ白になった于禁だが、そうしている間に夏侯惇はどんどん奥へと肉棒を挿入していく。于禁の入口が受け入れることを完全に許したのか、夏侯惇の肉棒に擦り付けられながら粘膜の道が開いていった。
すると夏侯惇の肉棒が全て、于禁のもはや性器へと変わっている中に入ったらしい。夏侯惇がそれを、蕩けた顔の于禁に教える。
「全部、お前のここに入ったぞ」
とても分かりやすく于禁の腹を撫でると体をびくりと跳ねさせながら、歓喜の短い喘ぎ声を出す。
「ぁ、あっ……ん……すき……」
夏侯惇への意思を最低限伝えるのが限界なのか、于禁はそう短く言うと夏侯惇はそれに頷き「俺もだ」と返す。そして于禁と一瞬だけ唇を合わせた。唇を離した際、于禁はもっと夏侯惇と口付けをしていたいのか、甘えるように眉を大きく下げる。なので夏侯惇はもう一度、軽く口付けをした後に于禁に動いてもいいかと聞いた。
「ん……」
こくり、と小さく頷くと夏侯惇は早速腰を小さくゆっくりと動かした。弱く突く度に中を締め付けるうえに、于禁ははしたなく喘ぎ始める。なので夏侯惇はあまりの気持ちよさに、腰を大きく早く動かしていく。まるで肉棒を于禁の腹の奥まで打ち付けるように、強く。
「ぁあ、やめ! こわれる! あ、アっ、んぁ、あ、イく、あ……ぁあ、あッ!」
唇の端から唾液を垂らしながら于禁は絶頂を迎えた。体を痙攣させ、瞳はとろんとなっている。
そして同時に夏侯惇も絶頂を迎え、于禁の中に精液を吐き出した。于禁は自身の中で射精されたが、それが快感に思ったらしい。喘ぎ声に近い声を出すと、吐き出し終えるまでそれを受け入れ続けた。
まだ二人は繋がっている状態で、夏侯惇は于禁と唇を合わせた。于禁が舌を出したので、夏侯惇も舌を出して絡め合う。互いの唇の端から唾液が垂れ始めると、二人はほぼ同時に唇を離した。
「気持ちよかったか?」
息がかかる程に顔を近付けながら、夏侯惇がそう聞くと于禁は肯定ではなく別の返事を出す。
「げんじょう、すき……」
夏侯惇は愛し気に笑うと「俺も好きだ」と返し、本日何度目か分からない口付けを于禁にしたのであった。