ちぇりポくん会議の犯人

ちぇりポくん会議の犯人

架川はある小さな事件が解決したので、署に戻るとすぐ報告書を作っていた。しかし刑事課の刑事としての報告書を作成するのは慣れず、読み直してみると細かい箇所に修正点が何度も見つかる。なので約三〇分以上を費し、ノートパソコンの画面を睨んでいた。
すると刑事課のフロアの奥にある小さな部屋から数人の人間が、少し疲れた様子で出て来る。手には一枚の紙を持っていた。矢上と蓮見と水木、それに同じ刑事課の一部の者も含まれている。
恐らく架川が戻って来る前に居たのだろう。その部屋には扉がついているうえに、ブラインドにより室内が一切見えない。逆もまた然りであるのだが。
すると部屋から出てきた者たちは各自の席に着くが、疲れた様子が無くならない。寧ろ酷くなっているように思えた。矢上も同じ表情だが、机の上の資料のような物を取るなりフロアから忙しそうに出て行く。
心配になった架川は、まずは隣の蓮見にそっと話し掛けた。資料に目を向けているが、肩を叩いてから無理矢理に顔を上げさせる。
「なぁ、は……」
「僕は遠慮しておきます!」
「はぁ!? 俺まだ何も言ってねぇよ!」
話の本当に序盤のところだというのに、蓮見は聞く気が無いらしい。それを何となく感じ取った架川は「あぁ、そうかよ」と、子供のように不機嫌になっていく。
今は特にこなすことが特に無いので、色紙に負担を掛けないように机に突っ伏そうとした。そこで蓮見の隣の席の水木が架川に声をかける。
「……きっと、蓮見さんは寂しかったんですよ」
うんうんと頷くが、架川はどういう意味なのか全く分からない。なので思ったままに「えっ?」と言うと、水木から「『えっ』って言わないで下さい」と返って来る。
「休憩スペースじゃ落ち着かねぇから、お前らが居たあの部屋で休憩してくる。何かあったら呼んでくれ」
「はい」
「はぁーい」
蓮見は架川ではなく資料を見て、そして水木は架川の方見て返事をした。架川が「おい蓮見……」と少しだけしょぼくれながら呼ぶが、華麗に無視をされる。架川はがっくりとさせながら、奥の小さな部屋に向かって歩いて行った。
途中で背後から蓮見と水木の会話が小さく聞こえた。水木が必死そうに「一人にしていいんですか!?」と言い、蓮見が呆然としながら「えっ?」と間抜けな声を出している。そして水木の大きな溜息が聞こえた同時に到着したので、溜息以降の二人の会話は聞いていない。
だが気にすることなくパイプ椅子にどっかりと座り、架川は署に戻る前に買っておいたブラックの缶コーヒーを開ける。
いつもの味、香り、量のものだが不思議と飽きない。何故だろうかとも思った。すると自身で美味ければ理由などいらないと考えてからは、ほぼ毎日飲んでいたのであった。
ふとホワイトボードを見ると様々な文字が書かれていたが、架川はそれを見るなり勢いよく立ち上がる。全ての文字を隅々まで読んでいくと、急いで部屋を出た。表情はかなり焦っており、よくよく見ると大量の冷や汗をかいている。
「おい! おい、お前ら! もしかして……俺を……俺を仲間外れにして、こっそりちぇりポくんのエモい家族を考えていたのか!?」
驚いた蓮見と水木は振り返り、そして同じ課の者も同じであった。その中で水木は、首を傾げながら「エモいとは違うような……」と呟く
「俺を仲間外れにして、ちぇりポくん会議をしていたのか!?」
「いえ、僕たちは勤務年数が低い警察官が対象の、簡単な指導を受けていました。架川さんみたいに、違法ギリギリの捜査を行わない為です。それより……ちぇりポくん会議ってなんですか」
呆れ気味にそう答えた蓮見は再び資料に目を向ける。すると梅林が「入ったときに元々書いてあった」と説明したので、架川は納得した。だが会議をした者たちか誰なのかは分からないので、梅林の説明を何度か反芻していく。
すると一つの答えが導き出せたのか、ホワイトボードを思い出しながら言う。それも、絶対的な感情がこもっていた。
「ちぇりポくん会議をしていた奴らを、必ず捕まえてやる……!」
「それより起きた事件の犯人を捕まえて下さい」
蓮見が冷静にシンプルにそう返すが、その一方の水木はそれに賛同しかけていた。時折見かけるそれが、多少だが気になっていたらしい。口を開きかけたところで、架川が悔しげに発言を繰り返そうとした。
「いや、俺はちぇりポく……」
刑事課のフロアに電話の音が鳴り響いた。梅林がすぐさま受話器を取ると、確実に内容を聞き取っていく。そして相槌を数回打つと、受話器を置いた。フロア全体に聞こえるように、内容を纏めてから電話の内容を話す。署から数キロメートル離れた住宅街で、殺人が起きたことを。
架川が小さな舌打ちをすると「仕方ねぇ、今は見逃してやる」と、恨めしげに呟く。そして声音を鋭くしてから蓮見と水木に視線を寄越した。
「行くぞ!」
二人が返事した後、三人はまずは署内の駐車場に急いで向かって行ったのであった。

2023年12月9日