連続の尋ね人たち
暖かさが増し、もうじき暑い時期に入る直前の頃である。この日は雨が降っているので、外は薄暗い。
だがそれとは無縁の場所、とある刑務所の面会室で一人の囚人の男が座っている。様子はとても落ち着いており、自らが犯した罪を受け入れているようだった。
部屋の高さと広さと同じ大きさのアクリル板の向かいには、二人の人物が座っている。一人は成人男性にしてはかなり高めの男で、第一印象は表の人間だとは思わない格好をしていた。それにこの施設には相応しくない、サングラスを掛けているので余計にそう思える。
その隣は女性だが、かなり一般的な服装をしていた。こちらは特筆すべき事柄はない。
「……それで、何か用ですか?」
囚人の男がかなり面倒そうに、面会に来た二人に言い放つ。二人は囚人の男とは正反対に、とても楽しそうである。
「はす……じゃなくて、梶間、元気か?」
サングラスの男は口角を上げる。サングラスにより両目が見えないが、笑っていることはよく分かった。囚人の男は溜息をつくと「はいはい」と変わらない様子で返事をする。そして隣の女はこくこくと頷くのみ。
二度目の溜息をついた囚人の男は何か用があるのか、改めて尋ねた。
「用件は何ですか。手短にお願いします」
声には苛立ちが混じっている。二人はそれをすぐに感じ取ったが、特に怯えている様子はない。寧ろ先程からの雰囲気を崩さないでいる。
するとよく聞いてくれた、と言わんばかりにサングラスの男が話し始めた。
「なぁ……何か、異変に気付かないか?」
「……異変?」
サングラスの男はニヤニヤとしている。それもかなり得意気なのか、それぞれのアクリル板の前にある机に肘をつく。
そこで囚人の男は瞬時のうちに考えると、二つの可能性を導く。この刑務所で何か『隠されていること』があるのか、それともサングラスの男のふざけ話のどちらかだろうと。
可能性としては後者が大きい。だが明らかな確信が持てない囚人の男は「分かりません」と言うと、それを聞いた女が机を叩いて思いっ切り立ち上がった。
囚人の男もだが、サングラスの男もかなり驚きながら女を見上げる。
「エース! ここにいるうちに、エースとしての腕が落ちたのですか!? くさってしまったんですか!?」
女はまくし立てるように、アクリル板越しの囚人の男に向かって叫ぶ。慌てたサングラスの男は女をなだめながら、席に着席させた。だが女はまだ何か怒っているようだ。囚人の男の顔を凝視する。目付きはかなり鋭く、まるで毛を逆立てている動物のような表情をしていた。
「落ち着け水木……ってお前……俺の言う異変が、分かるのか?」
「えっ? 異変ですか? 分かりません!」
「分からねぇのかよ!」
「分からないの!?」
囚人の男もだが、サングラスの男もぐったりと疲れたような様子を見せた。なので女は隣のサングラスの男に詰め寄る。
「架川さん、異変って何ですか!? もしかして、何かの事件の前触れがあるんですか!?」
遂には囚人の男は頭を抱え始める。女はそれを気にすることなく、サングラスの男に詰め寄り続けた。
すると観念したように、サングラスの男は回答を吐く。
「実は昨日な、サングラスを変えたんだ……分かるか? このフレームの……」
「昨日もあなたたちは来てたでしょう。帰って下さい」
囚人の男が遮るようにそう言うと、廊下に居た刑務官により二人は面会室から追い出されたのであった。途中でサングラスの男の「待ってくれ」という言葉が聞こえていたが。