おはよう世界
朝、于禁は静かに目を覚ます。サイドチェストの目覚まし時計を見ると、既に朝の八時だった。隣の一人分の空いたスペースを触れる。昨夜はあったはずの温もりは既に冷えており、すぐに立ち上がって寝室を出た。そして寝間着のままで洗面所へと向かい諸々の仕度をした後に、リビングへと入った。
「おはようございます。起きていらしたのですか」
「おはよう。少し前に目が覚めてしまってな。もしかして起こしてしまったか?」
部屋着の夏侯惇はダイニングチェアに座り、スマートフォンの画面を見ていた。だが于禁の声が聞こえると、スマートフォンを操作するのを止めてからテーブルにゆっくりと置く。どうやらスマートフォンを弄りながらボーッとしていたらしい。
すると椅子から立ち上がり、流し台へと向かって二人分の朝食を用意するための準備をしようとした。そこで于禁が夏侯惇の脇腹に両腕を回し、背後からその手を止める。夏侯惇は笑みを浮かべながら「どうした?」と言って于禁の手を見た。
「どうして、起こして下さらなかったのですか?」
于禁は夏侯惇の右の方の肩に顎を軽く乗せ、回していた両腕を解く。持て余した両手は、流し台の縁へと置かれた。
「俺より遅く帰って寝てたから、起こす訳にもいかないだろう。なぜだ?」
「あなたと共に起床したかったのに」
「そんなの、また今度でもいいだろ」
夏侯惇はまるで大型犬を扱うかのように、于禁の頭を右手で撫でる。
「あなたと一緒に居たい……」
「ずっと一緒に居るだろう?」
「一秒でも多く居たい……」
「分かった分かった」
頭を撫でるの手を止め、夏侯惇は顔を横に向けて触れる程度の口付けをした。
「それより、朝飯食うか?それともコーヒーだけ飲むか?」
「あなたを食べます」
「……は? おい、待て! 朝から盛る……」
于禁は再び夏侯惇の脇腹に両腕を回す。そして夏侯惇の部屋着のスウェットを、たくし上げたところで于禁の腹の虫が盛大に鳴った。
「……………………」
「ふふっ……ほら、朝飯にするぞ。手伝え」
恥ずかしさに顔を赤くした于禁は両腕を離す。夏侯惇はそれを見て笑う。
「はい……」
頷いた于禁は夏侯惇の部屋着のスウェットを直したのであった。