惇于 シリーズ②

おちるまで③

この日は、初めて于禁が人前で泣いていた。目の前には、兵たちに押さえつけられている昌豨という旧友が居る。于禁は顔を大きく歪ませて処刑を惜しんでいた。新緑が溢れる、とても高い陽の下で。少し前のことである。旧友である昌豨が反乱を何度も起こしていた…

おちるまで②

夏侯惇が隻眼になってからは、前よりもよく盃を交わすようになった。自室で鏡を割ったことが、もしかしたらきっかけになったのかもしれない。それに呂布の次は袁紹が敵となった。呂布のように強い存在が一人だけという訳ではなく、とにかく兵の数が多いのだ。…

おちるまで①

世が黄巾党に悩まされていた頃である。全身を包んではいないが、鎧に覆われた一人の長身の男が戦場に佇んでいた。時間帯は夕方で、鎧の金属部分が夕陽によく照らされている。手には柄の長い三尖刀を強く握っているが、戦闘の為に構えている訳ではない。ただ、…