きちんと動きましょう
年の瀬だった。数日は二人揃っての連休で、夏侯惇は連休初日だが朝食後に寝間着姿のままでリビングのソファーに座っている。その上に寒いのか、上着のように着れる毛布を羽織っていた。部屋に暖房はついているが。
「お前は寒くないのか?」
夏侯惇は流し台に居てマグカップを洗いながら、薄手のパーカーとジーンズ姿の于禁の背中にそう話しかける。
「そこまで寒くはありません。……相当寒そうにしていらっしゃいますね」
于禁は洗い終えると夏侯惇の方を振り向いた。
「寒いなら動けばいいのではないですか?」
「……もしや、朝からヤるのか?」
「はい」
ゆるゆると立ち上がった夏侯惇は、即答した于禁の方へとのろのろと歩いて行った。
「お前はいいのか? 朝からだぞ?」
「こういうのは早くからするべきでしょう。なぜ私にそう聞かれるのでしょうか」
ずいずいと近付いてくる無表情な夏侯惇に、于禁は首を傾げた後に思わずずいずいと離れて行く。二人は物理的に一定の距離を保っていたが、行き止まりになると于禁は壁へとぶつかる。
「……そこまで大掃除したくないのですか?」
「大掃除?」
夏侯惇から気の抜けた声が出る。それに于禁は「えっ?」と声を漏らした。
「何と勘違いされていたのですか?」
「何って、ナニだろ」
「なに?とは?」
「セックスだろ」
途端に于禁は口元に手を添えながら吹き出した。そして少し漏らす笑いに、夏侯惇は少し怒り気味になりながら上目遣いで睨む。
「なぜ笑う!」
「あなたも私も、勘違いしたまま会話していたので」
頬を膨らませた夏侯惇を見た于禁は少し屈むと耳元で、熱っぽい声音で囁いた。
「それは、年越しする直前からするものです。なのでそれまでは、きちんと我慢していて下さい」
それを聞いた夏侯惇は耳まで顔を真っ赤にしたまま、何も言わずこくりと頷く。だがこの直後、とても良い雰囲気であったのに于禁の「さて、大掃除しますよ!」の一言で完全にぶち壊されたのであった。