無自覚な犬

無自覚な犬

「お前は犬のようだな」
ある朝のことだ。二人は出社する支度を終え、玄関に向かったところだった。そこで夏侯惇は何も前触れも無く、そう于禁に言った。だが言われた本人はどういうことか分からないので聞き返す。
「私が犬のようですか?」
「あぁ……犬と言っても大型犬か?」
「なぜですか?」
「なんだ、自覚がないのか?」
于禁は「自覚……?」とぼやく。それを見た夏侯惇は腕を伸ばして于禁のせっかく整えた頭を、くしゃくしゃと撫でる。于禁は突然のことに一瞬慌てるが、少し嬉しそうな表情を見せた。夏侯惇は微かに笑う。
「夏侯惇殿!せっかく整えたのに何をなさいますか!」
「そういうところが犬のようだ」
「はい……?」
「まぁいい。ほら遅刻するから行くぞ」
「はい」
于禁は確実に返事をした。その様子を見て夏侯惇は再び笑うが、于禁はどうしてなのか分からないまま首を傾げたのであった。