朝7時
ある平日の朝のことだった。二人は朝食を終えてそれを片付けたが、出社までは少し時間があったようだ。なので向かい合わせでダイニングチェアに座り、程よい沈黙を保っていた。だが時計を見つつ夏侯惇が、つい先程思い浮かんだ話題を切り出す。
「今度の休みに、どこかへ行かないか? ……お前がいつ休みなのかによるがな」
コーヒーの入っているマグカップを持っていた于禁は、それを聞きマグカップをゆっくりとダイニングテーブルに置いた。そして足元に置いていた通勤用の鞄から手帳を取り出して開く。
「休みですか? そうですね……」
于禁は手帳のページを睨む。そしてウィークリー手帳なのか手帳の後ろからある程度パラパラと捲った後、顔を上げて夏侯惇の方を見る。
「再来週の日曜日ですね。一日中空いているので、どこかへ出掛けるのは賛成です」
「そうか、それならよかった。俺もちょうどその日は空いているな。どこか行きたい場所はあるか?」
夏侯惇は晴れた表情でそう聞くと、于禁は数秒考えた後に答えた。
「私は、夏侯惇殿と共にならどこへでも……」
「于禁……」
于禁はちょうどテーブルの上に拳を乗せていたので、夏侯惇はその上に手のひらを乗せる。そして于禁の名をハートマークでもついてきそうな声音で呼ぶ。だが、そこから一瞬でその声音を変えた。
「……于禁、俺は具体的な意見を聞いているのだがな……! もしも無いのなら正直に言え!」
夏侯惇はドスの利いた声でそう言いながら、乗せていた手のひらで于禁の手をグッと強く握る。それが痛いのか、于禁は「痛い痛い痛い!申し訳ありません!」と表情を歪ませながら叫んだ。そこで夏侯惇は手を放す。
「で、どこか行きたい場所はあるか?」
夏侯惇は腕を組んでそう改めて聞く。強く握られた手がまだ少し痛いのか、于禁はそれを擦りながらまた数秒考えた。
「……お揃いの食器を買いに行きませんか? あなたの家に越して来たときに、一人で暮らしてたときの食器をそのまま持って来て今も使っていますし……それにやはり、私はあなたと一生添い遂げるのですから、何かお揃いの物が一つでも多く持っておきたいです……前はそのようなことができなかったので」
「……そうだな、そうするか」
夏侯惇は穏やかな表情でそう言った後に「約束だ」と付け足すと、于禁はコクリと頷いたのであった。