三キログラム
ある夜のことだった。時刻は二十一時を回ったところだろう。
仕事帰りの于禁は家の扉の横の郵便受けを見る。そこには二人が勤務している会社の、健康診断の結果が入っている封筒が二つ入っていた。于禁はそれを取り出すと解錠してから家に入る。だがリビングの照明は点いていたので、それを見つつ施錠をした。
「ただ今帰りました……既に帰っていらしたのですか」
「おかえり。あぁ」
夏侯惇は既に帰宅していたらしい。風呂上がりなのか、寝間着姿で開封済みの缶ビール片手にソファーに座っている。
「そういえばポストに、先日の健康診断の結果が届いていました」
于禁は夏侯惇の分を手渡すと、夏侯惇は「すまん、気付かなかった。ありがとう」と言い、飲みかけの缶ビールをテーブルに置いてから封を開ける。于禁は夏侯惇の隣に静かに座り、自分の分の封を開けた。二人は各自で健康診断の結果を確認する。
「……私は前回と変わりませんでしたが、あなたはどうでした?」
于禁は健康診断の結果を封筒に戻してから聞く。
「体重が前回より少し増えてるくらいだな。あとは俺も変わらないようだ」
「そうですか。それで、因みに体重はどれくらい増えているのでしょうか?」
そう聞かれた夏侯惇は、于禁に健康診断診断の結果の紙を渡す。すると手が空いた夏侯惇は、飲みかけの缶ビールを再び手に持った。
「三キログラムだ。筋肉が増えたのか? ……脂肪か?」
「三キログラム……ですか……」
数字を聞いて于禁は考える。筋肉か脂肪のどちらが増えたのか。そして数秒考えた後、于禁なりの答えを導き出したらしい。
「増えたのは恐らく脂肪ですね。前のことを幾つか思い出したのですが、あなたの抱き心地が日に日に良くなっている気がします。何と言えば良いのでしょうか……柔らかくなったのでしょうか……?」
「よし俺、今から禁酒する」
于禁の答えを聞いた途端、缶ビールを再びテーブルの上に置いてからそう言った。
「突然どうされたのですか?」
「俺は禁酒する。抱き心地が柔らかいなどと言われたらな……」
夏侯惇の声音は沈んでいるように聞こえた。
「太ったとしても、原因が酒とは限らない気がするのですが」
「それでも、俺は禁酒する! ……だが捨てるのは勿体ないから、残った分は飲んでくれ」
于禁の冷静な意見を聞かない夏侯惇は、飲みかけの缶ビールを于禁に手渡すと立ち上がった。
「私は柔らかくても、そうでなくても、あなたでしたら体重のことは気にしないので、そこまでされなくても……」
溜息をついた後、渡された缶ビールを飲み干した于禁はそうぼやく。するとそれが聞こえたらしい夏侯惇は顔を赤くする。
「例えお前は気にしなくても、俺は気にするんだよ!」
夏侯惇はそう言い捨てると、機嫌を悪くしながら洗面所へと向かって寝る支度を始めたのであった。