塗れさせて

塗れさせて

陽が沈み、そしてとある勝ち戦の為の宴が行われていた。しかし今回の宴の主役として相応しい于禁は、いつものように数分だけ席に着いた後に退席していく。
宴が盛り上がってきたというのに。それに対して文句を言う者も、引き留める者は居ない。
だが、一つの瞳だけは于禁の姿を追っていたが。

于禁が私室へ戻ると夜着へと着替えた。きっちりと結っていた髪を解いてから、髪紐で髪を緩く纏める。
部屋の燭台に小さな火を灯し、机に向かう。そして竹簡を広げてから、墨を含んだ筆を走らせていた。
しばらくしてから私室が墨の匂いで充満してきたので、一旦空気の入れ替えをする。そこで外からは宴で盛り上がっているのか、騒がしい声や音が微かに聞こえた。宴の会場となっている場所は、遠くにあるというのに。それに于禁は、何とも思っていないのだが。
同時に私室の扉を控えめに叩く音が、確かに聞こえる。
しかし于禁はその音の主を僅かに確信しているのか、扉に向かうと静かに開いた。開いた先の人物を見るなり、やはりと思いながら。
「またか」
呆れを含んだ笑みを浮かべながら、夏侯惇が訪ねて来たのだ。その時の夏侯惇の表情は微かに頬を赤く染めている程度で、酷く酔っているという様子はない。途中で宴を退席したのだろう。
「夏侯惇殿、宴に最後まで参加されては?」
于禁は夏侯惇が、自身の私室に来た理由を察するがそれを突っぱねるように言葉を掛けた。
今日は戦による疲れがある。それに今机に広げている竹簡を処理していけば、数日間はある程度の時間の余裕ができるからだ。それを、鍛錬の時間にできるだけ回したいらしい。
普段よりも、更に鋭く夏侯惇を睨む。
「お前がすぐに退席したからな」
「……どのような、意味でしょうか」
于禁の睨みなど効かないのか、夏侯惇はそれを無視した。
深い溜息をついてから、まだ開いている私室の扉を閉める。そして于禁の夜着の襟に手を掛けようとしたが、于禁はそれに抵抗するように手を振り払おうとした。だが夏侯惇の手は頑なに離れようとしない。
于禁のその抵抗を見て、夏侯惇はニヤリとした笑みを見せていて。
「どうした?」
「今宵は、遠慮しますゆえ……」
首を大きく横に振りながら、于禁は拒否をした。いわゆる、夏侯惇に抱かれることを。
しかし夏侯惇が無言で襟から手を離すと、于禁が安堵した束の間のことである。夏侯惇は于禁が油断した隙を狙い、腰に手を回した。そして于禁の首に、ゆっくりと舌を這わせていく。
「ぁ、んっ、はっ……夏侯惇、殿……!」
于禁は夏侯惇を見下ろし、切れ味の良い刃物のように睨みつける。顔が、少しの薄い赤色に染まっていきながら。しかし夏侯惇は于禁の顔ではなく、目の前にある肌を見ながら舌を這わせているので意味が無かった。
内心で舌打ちをした于禁は、まだ宴の喧騒が小さく聞こえる。なのでそれの音のせいで集中ができないという言い訳をした。
「寧ろ、盛り上がるだろう? そのような、不釣り合いな音が聞こえる中でな」
喉仏に、唇を触れる程度につける。すると于禁の体が小さく跳ねると顔の赤色が濃く、そして範囲が広がっていく。性器以外では、于禁はそこが敏感であるのか。
次第に于禁の下半身がゆるゆると反応を示している。夏侯惇はそれを把握すると、次は鎖骨へと唇を持って行った。微かな赤い痕をつけていく。それにより、于禁の下半身はすっかりと盛り上がってしまっていた。
楽しげな声を出しながら、夏侯惇は于禁に話しかける。
「俺の言った通りだ」
于禁はとても悔しげな顔をするが、何も返事をしない。いや、できないのだ。
そして立つことすらままならなくなってきたのか、脚を震わせる。
それに気付いた夏侯惇は、唇を離してから于禁を寝台へと連れて行く。于禁を寝台に乗せて押し倒すと、切なげな表情で夏侯惇を見ている。
「素直ではないが、お前のそこが好きで堪らない」
夏侯惇はそう言った後に、于禁の夜着の襟を広げた。しかし于禁はもう抵抗する気が無くなったのか、部屋のどこかへと視線を逸している。それに対し夏侯惇は、どうせ視線を合わせたくなる羽目になるだろうと思いながら、于禁の肌をどんどん露わにさせていった。
上半身の肌を出したところで、夏侯惇はとある人間の潜在意識が大きく作用してしまっていた。目の前にあるこの肌を、赤い痕で塗れさせたいと。
そう思うと夏侯惇は于禁の胸に口をつけ、赤い痕をつける。于禁は小さな喘ぎ声をを出すが、その際に抵抗の言葉は出てこなかった。ただ、夏侯惇の聴覚を楽しませるのみ。
幾つか于禁の胸に赤い痕がついたところで、次は割れている腹にも赤い痕を、塗り潰すようにつけ始める。
「あ……ん、んっ……」
幾つも幾つも、赤い痕をつけていくと夏侯惇は満足したのか口を離し、于禁のその様を見る。
燭台に灯っている小さな火に照らされ、とても魅惑的な光景としか思えなかった。火の僅かな明るさとそれに赤い痕がよく散らされ、肌全体が興奮により赤く染まっているので余計に。
なのでそれをそのまま、于禁に伝える。
「魅惑的だな」
下半身は布に隠れているが、于禁はもはや限界が来ていた。夏侯惇からの言葉など半分耳を通り抜けた後、剥き出しになってしまった欲望の言葉をぶつける。
「戯れなど、もう結構ですから、私を、酷く抱いて下され……!」
そのつもりだ、と言うように夏侯惇はただ頷くと、于禁の夜着を全て脱がせた。そして夏侯惇自身の着物も続けて脱いでいく。
「酷く、か?」
夏侯惇は覆い被さると、顔を近づけて問い掛けた。于禁は目に涙を張らせながら、こくこくと頷く。なので夏侯惇は「明日どうなっても知らんぞ」と軽く返した後に、于禁の剥き出しになっている竿を握った。返した言葉というのは、冗談のつもりであって。
触れた瞬間に透明な液体が垂れていく。硬いのでよく握れるからか、それを潤滑油にして上下に擦った。にちゃ、にちゃといやらしい音が鳴っていきながら。
「ぁ、あん! あ、はぁ、ぁ……は、ん、んあッ!?」
于禁の腰が震え、精液が出ようとしていた。たが夏侯惇は強く握ってそれの噴出を止める。
驚きという感情のみを出した于禁は、夏侯惇へと視線を向けた。その時の夏侯惇の目は、とても柔らかい。またしても、冗談の意で于禁に問い掛ける。
「出したいか?」
欲望のままにただ快楽を得たいいという思考のみが今の于禁に巡っているのか、それに対してコクコクと力強く頷く。なので夏侯惇は竿から手を離し、丁寧に尻を解そうとしていた。
そこで于禁は短い言葉を追加するが、口調はとても弱々しく、官能的であって。
「明日、立てなくなるまで、酷く抱いて下され……」
途端に夏侯惇の目つきが変わっていく。先程までは強引に性行為の途中まで持ち込んだものの、本番は于禁がきちんと快感を見出だせるようにしようとしていたようだ。
しかし于禁の一言により夏侯惇の一つしかない目が、柔和であったものから鋭いものへと変わっていく。小さな小さな種火から、真っ赤で大きな火へと変わっていったように。
「……知らんぞ」
重く低い声でそう言うと、夏侯惇は粘液が垂れる程にある片手の平で、于禁の尻の縁を触れた。縁に粘液が付着する。もう片手で于禁の片脚を無理矢理開くと、その間に尻の入口に強引に指を入れていく。
夏侯惇の態度を見て于禁のそこは酷くひくついている。その様子を見て夏侯惇は、指を進めて行った。
「はぁ、ん、あ! ッん、あ……」
縁に触れられることでさえ、尻に何かを入れられることでさえも気持ちが良いらしい。于禁は揺れる腰と、その性器となりつつある尻の中を夏侯惇に見せつけた。
夏侯惇はそれを、ただ何も言わずに見ているが。
「ぁ、あっ、はやく、イきたい! かこうとんどの、はやく」
于禁がそうねだりながら、尻の中にどんどん入っていく夏侯惇の指の感覚を拾っていく。そして入る指が増えていくごとに、ねだる言葉は拙くなっていった。
「げんじょうので、イきたい、ん、はぁ、ん、あぁ、あ、きもちよく、なりたい」
尻を弄られ、于禁は喘ぐ。そうしていくうちに竿から精液が出そうであった。なので于禁が「でる」と言うと夏侯惇は片脚を上げていた手を離し、再び竿を握って精液をせき止める。それが余計に、于禁を淫らにさせていて。
「まだ出していいとは言っていないが」
夏侯惇は睨むと、于禁の尻の中が強く締まった。指が引きちぎられるのではないかと錯覚した後に、夏侯惇は于禁を煽る。
「だがお前なら、出さなくとも良いだろう?」
「はい……」
情欲に満ちた目で、于禁は頷く。そして夏侯惇が「出ないように握れ」と言いながら于禁の竿を離すと、于禁は脚を開いて自身の竿を強く握った。どんな快感を浴びても、精液が出ないように。
夏侯惇が尻に入れていた指を引き抜くと、その穴はぽっかりと開き、そして桃色の粘膜が鈍く光っていた。それを見て夏侯惇は息を荒くしながら、自身の肉棒を入口に宛がう。
于禁までも息を荒くすると、部屋には二人の荒い呼吸のみが聞こえていた。それに合わせ、遠くで未だに続いている宴の喧騒も。
縁にめり込ませると同時に、于禁の肩を掴む。
「んぁ、あ! ッぁ、あ……!」
すぐに来る大きな快楽を于禁は心待ちにしていたが、自身の竿をきちんと握っていなければならないこともある。
夏侯惇の指示通りに、自身の竿を握ってはいた。しかし夏侯惇の肉棒のくびれが縁を少しずつ通る度に、力が入らなくなっていく。
それを見た夏侯惇は溜息をつくと、于禁の髪を纏める役割を果たしていない髪紐を取った。于禁の手を除け、竿に巻き付けて強く結ぶ。
「もうしわけ、あり……ひぁっ!?」
于禁は自身の竿に結ばれた髪紐を見た後に謝罪の言葉を出そうとした。だが夏侯惇はそれを遮るように、強く腰を打ちつけて肉棒をずるりと尻の中へ収めた。
まだ根元まで収まっていないものの、于禁は目を見開いて腰をガクガクと震わせる。普段ある眉間の皺など、綺麗に無くしていきながら。
「ぁ……あ……あぁ……」
「どうした? お前が望んでいたことをしてやっているが」
すると顔を真っ赤にしながらも、ゆるりと笑みを浮かべた于禁は「つづけて、くだされ……」と呟く。夏侯惇はそれに対して言葉など返さず、腰を振ることを返事の代わりにした。腰を振る度に、雄々しい吐息を吐きながら。
「はっ、はぁ、はっ、は……!」
「ぁ、ア! ぁ、お、あっ、イく、イく、ッ!? ぁあ、あ、アぁッ!」
宴の喧騒を掻き消す程に、寝台からは軋む音が聞こえ始める。そして根元まで到達すると、于禁は肉棒を狭く熱い腹の奥で喜んで受け入れた。
奥を何度も突かれていくうちに、射精できないので一瞬だけ眉を下げた。竿には血管がバキバキと浮いており、変色しかけている。しかしそれは最早、于禁にとっては些細なことになってしまっているらしい。
縁が捲れる程に激しく出し入れされる夏侯惇の肉棒に、酷く酔ってしまっているからだ。なので眉が下がっている要因は、腹の奥の快楽のことへと切り替わっていた。
「あ、アっ、なんか、くる! は、ぁん、あっ、ぁ、あ、あっ、あ!」
夏侯惇は腰を振る速度を上げた。更に締まっていく粘膜を擦り合わせるのが、堪らないからか。
すると夏侯惇は于禁の腹の中へと精液を注いだ。熱い粘膜の中に熱い精液が流し込まれたので、夏侯惇の肉棒はその暖かさに包まれた。さらなる快楽が襲ってくる。
なので次は腰を振るのではなく、動物のように打ち付けていく。
「ぁ! あっ、もう、ゆるして、ひ、こわれる、ァ、あ、ぉ、ア! イきたい、あ、ァ、ん、あっ、ァあっ……!」
またしても夏侯惇が射精をすると、于禁の腰は痙攣するように震え、両方のつま先が張り詰めるように伸びる。そこで夏侯惇は竿に結んだ髪紐を、解いても良いだろうと判断した。
ゆっくりと髪紐を解いていくと于禁は震えた声を、乱れたリズムで出す。恍惚の表情を浮かべながら。
「あっ……ぁ……あ、ぁ……」
そして髪紐が外れた途端に、于禁の竿は元の色へと戻っていき、真っ白な精液が噴き出した。夏侯惇の胸にまで掛かったと思うと、戻って行くように于禁の真っ赤な胸に落ちていったが。
「もっと、イきたい……」
体のどこも火照っている于禁は、弱々しく伸ばした手で夏侯惇の腰を触った。夏侯惇は于禁の顔に近づけ、頬に熱い息を吐く。「勿論だ」という言葉と共に。
萎えていない肉棒で、于禁の体を揺するように突き上げる。于禁の竿には拘束されているものがないので、その度に次第に薄くなってきている精液を吐き出した。そして夏侯惇も、于禁の腹の中に。
「ぁ、ん、あ、げんじょうと、イきたい、ぁ、あっ、あッ、あ!」
「そう……だな!」
于禁がそう促すと、夏侯惇はゆるゆると肉棒を引かせていく。だがすぐに、穴を更に大きく拡げるように肉棒を腹の中に打ち込む。その衝撃で于禁は大きな絶頂を迎え、夏侯惇も大きな絶頂を迎えた。
宴の喧騒が今でも聞こえるが、二人はそれを聴覚で聞き取る。そして燭台に灯されていた火が、弱くなっていた。
それでも互いに熱い吐息を吐きながら、限界が来るまで肌を重ねていたのであった。