心音をあなたと

心音をあなたと

「ところで于禁、壁ドンをどう思う?」
ある日の夜、風呂上がりにソファーで寛いでいる夏侯惇は、仕事から帰ったばかりの于禁にそう尋ねた。
夏侯惇がそう尋ねたのはきっかけがある。それは会社で女たらしの部下がふとそんな話を今日の昼間していたからだ。そのときはどうでもいいと思いながら仕事しろと注意したが、家に帰って何となく思い出すと于禁はどう思うのか気になってきたのである。
「壁ドン……ですか」
だが夏侯惇は壁ドンを、意中の相手や恋仲にある相手を壁に追い詰めて行う行為として捉えていた。しかし一方の于禁は、アパートやマンションで騒音を立てた隣人に対して行う威嚇行為だと捉えている。なので于禁は顔をしかめた。
「自分のことについて再確認できるので状況によっては良いとも思えますが、基本的にはされたら嫌ですね」
「ん?……そうか」
夏侯惇は多少疑問に思いながも、そう返事すると考え込む。于禁が勘違いしていることを知る由も無く。
「何か困り事でもあるのですか?私の得意分野に入るような案件かもしれませんし、少しでもいいので話を聞かせて頂けますか?」
その様子を見た于禁は上着を脱ぎながら聞くと、夏侯惇は「ん?……あぁ」と再び疑問を含ませながら頷く。そして夏侯惇は自分がそういう意味で捉えている壁ドンを于禁にした。すると于禁は驚いた表情する。
「えっ?」
「えっ?」
二人はほぼ同時に固まった。そして十秒程沈黙が続いた後、夏侯惇は口を開く。
「嫌か?それならすま……」
「か、夏侯惇殿……そういう意味での壁ドンなのですか?」
于禁は夏侯惇がしようとしていた謝罪を遮る。どうやら自分が勘違いしていたのに気が付いたらしい。恥ずかしさと夏侯惇に壁ドンされたことによる嬉しさで頬が赤くなった。
「は?」
「私は騒音の酷い隣人に対して行う行為だと勘違いしていました。なので、その……。夏侯惇殿に今されている壁ドンは嬉しいのですが……顔が近いです」
次第に心臓が煩く思えてきた于禁だが言葉を続けた。
「わがままかもしれませんが、しばらくこのままでいいですか?」
「俺は構わん」
より二人は近づく。そして「……お前も心臓がやかましいな」と夏侯惇は呟くと軽く口づけしたのであった。