○○しないと出られない部屋
劉備はふと気付くと見知らぬ部屋に居た。何もかもな真っ白の部屋のうえ、真っ白い寝台に寝かされた状態で。
「ここは……?」
劉備は確かに、先程まで平服姿で机に向かって大量の竹簡と睨み合っていたところだった。しかしそれとは打って変わって、ここには自身一人が寝かされている寝台しかない。ただ、服装は平服と変わらなかったが。
だが見知らぬ場所に居るとなれば、まずはここについて詳しく調べ、それから状況を整理しなければならない。なぜ自分はここに居るのか、ここには何があるのか。そして、ここから出られるのかと。
なので劉備はゆっくりと起き上がろうと上体を起こそうとすると何かに妨害され、それが覆い被さってきた。
「劉備よ、何をしようとしている?」
隣にはいつの間にか平服姿の曹操が居た。先程までは居なかったのに。
「曹操殿……!?」
劉備はあまりの驚きに目を見開いた後、眉間に皺を寄せて鋭く睨み付けた。
曹操とは前は協力し合って黄巾の乱を鎮め、董卓を倒すために手を取り合っていたが今は全く違う。完全に敵対していて、互いに首を狙い合っているような関係だ。殺さなければならない相手だ。
なので劉備は今すぐにでも首を取りたいところだが、生憎にも曹操の肌を傷つけられるような物を持ち合わせていなかった。それに、今の状況では曹操が優位である。持ち合わせていたところで、寧ろ首を取られているところだろう。悔し気に曹操の体重を感じる。
「そのような顔をするでない……今は、一時休戦だ」
未だに覆い被さっている曹操は溜息をつくと懐から自分たちにとっては貴重である、折り畳まれた白い紙を取り出す。そして劉備に渡して「これを読め」と促した。
渋々受け取った劉備は、仕方なくそれを開いて読む。
「なに……『まぐわいをしないと出られない部屋』って……何だこれは! 曹操殿、あなたの趣味の悪い悪戯ですか!?」
劉備は貴重な白い紙をぐしゃぐしゃにしてしまうと、思いっ切り部屋の隅へと投げてから曹操を睨み付けた。だが曹操は平然としている。劉備の反応など、予想通りと思っているのだろう。
「儂の悪戯ではない。嘘だと思うなら、扉を開けてみるがよい」
白い扉を指差し、劉備が確認したことを把握すると自ら体を退けた。なので覆い被さってきているものが無くなった劉備は、素早く起き上がって扉へと向かう。
「こんなの、ただの、扉では……ない……!?」
そして扉を開けようとするも、開かなかった。外見はごく普通の扉ではあるが、それなりに戦に参加している劉備でもびくともしなかった。まるで絶壁の巨大な岩山に向かい、素手で全てを壊そうとするかのようにとても動かない。
「儂の言う通りであろう。だから、儂と……」
「はっ! そうだ! 武器を持っていないのなら、持ち物メニューから武器を出せばよいのか!」
「……は?」
劉備はそう言うと、天井を見るように視線を上に向ける。すると手にはいつの間にか愛用の双剣を握っていた。さすがの曹操でも、それを見て呆気に取られてしまう。
「これで、抜けられる!」
双剣で対象物を斬る、というよりも叩き付けるように扉に目掛けて双剣を振る。すると扉に何か赤いゲージが出現し、劉備が扉に目掛けて双剣を振るたび、その赤の部分がみるみるうちに減って来ていた。
そして全体的に見てあと一割まで赤のゲージを削ったところで、劉備は止めにと無双乱舞を発動させる。見事に扉を壊すことができた。
「曹操殿、一つ貸しができましたね」
かなり疲れた様子の劉備は、そう言うと部屋を出たのであった。曹操を一睨みする為に、振り返ることもなく。
「そうじゃな、今回は見逃すことにしよう」
曹操がそう言うと、平服の袖からとても鋭利な簪を取り出した。そして半笑いの表情になりながら、去っていく劉備の背中を見送った。簪の鋭い先端を小さくなっていく劉備の背中に向け、頭部へと移動していきながら。