堕ちる龍魚

堕ちる龍魚

荒川真澄と青木遼、改め荒川真斗の告別式が終わってから数週間が経過した。
本日も天気が良い。春日は住処にしているサバイバーの二階で、いつものように朝を迎えた。まずは仲間から何か連絡が入っていないかスマートフォンを確認するが、特に何も来ていない。なので今日は何をするかと、ふと考えている。
すると扉を控えめにノックする音が聞こえた。それと同時に、マスターの声も。
「春日、起きているか? お前宛に手紙が来ているが、渡す為に入ってもいいか?」
「……ん? あぁ」
布団から立ち上がり、解錠をしてから扉を開ける。確かにマスターは長方形の白い封筒を片手に持っていた。しかしマスターはそれを見ながら首を傾げているので、春日は疑問に思い質問をする。
「ありがとよ……って、どうしたんだ? 俺宛の手紙に何かあるのか?」
「いや、差出人が書いてねぇから、これを渡していいのか迷っちまってよ……一応は、宛先にお前の名前が書かれているが、ポストにいつの間にか入っていてな……封はされていないが、中身は見ていないからな」
「だったら手紙として受け取っておくぜ」
マスターは数秒の悩みを見せたが、春日の言葉を聞いてから手紙を渡した。だがその際に「不審な手紙だったら、俺じゃなくてもいいから必ず相談しろ」と真剣に言う。
「分かった。怪しいものだったらまずはマスターに相談するよ。その次は足立さんかな……とにかく、ありがとな」
二度目の礼を述べ、平気そうな顔を見せる。なのでマスターが頷くと、扉を閉めて一階に戻っていった。
春日は畳の上で胡座をかき、封筒をまずは見る。マスターの言う通りに「春日一番 樣」としか書かれていない。それも、達筆な筆文字で。マスターの言う通りで封がされておらず、とても綺麗な状態である。
よくは分からないが、失礼な相手だとは不思議と思わなかったようだ。春日のただの直感でしかないのだが、危険な相手だとも。
なので春日は封筒を開いてから、律儀に三つ折りされた一枚の紙を取り出す。それを開くと、宛先同様に達筆な筆文字で書かれていた。
内容はとても簡単である。指定した日付と時間に、とある場所に来て欲しいというものだった。だが日付は突然にも今日で、時間は夜。そして場所は乙姫ランド前である。とても馴染みのある場所であるし、何かあれば周囲の店の従業員に助けを求めることだってできる。コミジュルに監視をされているので、後日礼をする前提で異変にも気付いても貰える。何より、春日自身が喧嘩に巻き込まれてもそれなりに凌げるだろう。
仲間からの連絡は今の時点では何も無いので、春日は夜に予定を入れる。そしてサバイバーから出てから、夜まで時間を潰しておくことにした。
マスターに心配を掛けるのは良くないので、軽く一言「怪しいものじゃないから大丈夫だった」と伝えてから。
相手は誰か分からないが、約束の時間が迫っていく毎に不安が押し寄せてくる。今朝は、そのようなことは一切無かったというのに。

夜になり春日は乙姫ランドの前に来た。未だにここは持ち主が居なくなっても、取り壊されず佇んでいる。だが春日はこのままで良いと思いながらも、誰が管理するのかとモヤモヤしていた。すると肩にポンと手を置かれる。
気付いた春日は、置かれた肩の方を見る。
「よぉ春日。本当に来てくれたのか」
「ド、ドラゴン……!?」
手紙の差出人とは桐生であり、春日の言うドラゴンのことであった。春日は相手が桐生であれば、安心だと気を抜いていく。
「ドラゴン、どうしたんだ? それに……何だ? その格好……?」
気付いたのだが桐生の服装が白スーツでも、ごく普通のスーツでもない。一般人のような服装をしていた。思わず二度見をした春日だが、桐生が「別にいいだろ」と話を逸らし始めた。
「それより、俺が呼び出したことは気にしなくていいのか?」
そこでハッとした春日は、桐生に聞く。
「あっ……! そうだった! どうしてドラゴンが俺に?」
「あぁ。ただ、お前と飲みたかっただけだ。俺から誘っておいてすまねぇが、いい飲み屋を知らねぇか?」
「おう、任せてくれ!」
春日は途端に張り切ると、桐生を連れて繁華街へと向かって行ったのであった。

何軒かはしごをしてしまったが、春日が潰れてしまった。一方の桐生は涼しい顔をしている。なので桐生に肩を借り、フラフラと歩いていた。
春日は微かに、桐生が酒ではなく水を飲んでいたのかと考える。しかし店員が提供してくれて、そして同じものを飲んでいたので酒には間違いない。なので流石と春日は思った。
「大丈夫か?」
「へいきだ、どらごん……」
明らかに呂律が回っていない。桐生は溜息をつくが、春日が潰れてしまうのは予想外だったらしい。同じ極道側であった人間であれば、酒にはかなり強いという偏見があったからだ。
「どらごん! もういっけん、いこうぜ!」
「いや、もうここで止めておこう」
春日は子供のように「なんでだよー!」と駄々をこねるが、桐生は聞く気がない。だがこのままサバイバーに帰そうにも、今は夜なので確実に誰かに姿を見られるだろう。
すると桐生が何かを思ったのか「知り合いの店に行くぞ」と言うと、聞いた春日は喜びの表情を見せる。桐生は思わず笑う。
そして桐生に連れられて駅に向かい電車に乗せられ、異人町から出た。春日が車窓からの見慣れぬ景色に首を小さく傾げていると、どんどん異人町から離れていった。そして降りた先が見知らぬ街である。
「……どこだ?」
「ここは次の店の最寄り駅だ」
桐生がかなり真剣そうに周囲を見渡しているが、気のせいだろうか。春日がふとそう思ったが、桐生の肩を借りながらもどこかへと連れて行かれる。
向かった先は、よく分からない大きな建物であった。春日は「どこだ……?」と再び呟くが、桐生は構わず春日を連れてその建物に入って行く。しかし桐生により突然に目隠しをされてしまった。春日は「なんで!?」と騒ぎながら、桐生と共に歩き始める。
残された感覚を頼りに、場所を特定しようとした。だが靴底に感じる柔らかい絨毯の感覚があるのみ。春日はそれに疑問しかないまま、桐生と建物内を歩いていく。
途中でエレベーターに乗ったことが分かり、高い階層に向かうことは分かった。
エレベーターから降りてしばらく歩くと、桐生がドアのロックを解除したらしい。電子音が鳴った。
「ここだ」
ようやく視界の自由が戻ったが、そこはごく普通のホテルの一室であった。入ったすぐそこに二つのベッドと、それに一人掛けのソファが二つ向かい合って設置してある。春日の疑問が更に深まった。
「ここで飲むぞ。ルームサービスで後で酒を持ってくるから心配するな。まずはベッドで休め」
「あ、あぁ……」
桐生にそう促され、ソファではなくベッドに向かった。ぼすんと、ベッドにうつ伏せになって倒れる。すると一瞬にして、何もする気が無くなる。このまま、眠ってしまっても良いと思った。だがジャケットに皺が更に寄ってしまう。
「息苦しくはないか?」
背後からそう話し掛けられると、桐生が春日のジャケットに手を掛けた。春日は抵抗も無く、寧ろ僅かながらの礼を述べる。
「んぁ……? ありがとよ……」
脱がされたジャケットは桐生によりソファに柔らかく掛けられ、その後に春日の近くに腰掛けた。
春日はこのまま、やはり眠ってしまいたくなる。ジャケットの心配は不要だからだ。春日が瞼を降ろすが、その瞬間に桐生が仰向けの体勢に変えてからワイシャツにまで手を伸ばす。ボタンを次々と外していった。
「ドラゴン、そこまでは……」
「…………」
桐生は春日の曖昧な指摘を無視した。そしてワイシャツのボタンを全て外し終えると、それも取り払う。上半身が剝き出しになった。だがジャケットのように丁寧な扱いはしない。隣のベッドに投げると、最後にとスラックスのベルトを外し始めた。
「ま、待て! ドラゴン!」
そこで春日の酔いが覚めてしまったのか、桐生の手を慌てて掴む。しかし桐生の力が強いのと、酔いが無いとはいえ春日の手に力が入らない。あっさりとベルトを抜かれ、スラックスを脱がされていく。
「待て! 何で脱がすんだ! さすがにふざけるにしてはひど過ぎるぜ! すげぇ酔ってるのか!?」
「……そうかもな」
「はぁ!?」
春日の抵抗も虚しく、スラックスが脱がされた。残りは下着と靴下だけだ。桐生は靴下を脱がしたが、下着には触れない。
「ドラゴン、あんた大丈夫か!?」
体をじたばたとさせるが、桐生は春日の言葉を無視した。覆い被さり「今から何をするか分かるか?」と聞く。春日は何も分からないので、遂には怒りを含ませながら「分かる訳がねぇだろ!」と返す。
桐生の顔が近くなると、春日はその顔に噛み付こうと思った。しかし先に唇を塞がれ、そして舌の自由を奪われる。つまりは桐生が舌を捩じ込み、春日の口腔内に侵入したのだ。
目を見開き驚いた春日だが、直後に桐生の舌がぬるつかせながら舌に絡まっていく。その感覚があまりにも、不覚にも好いと思えた。春日の抵抗の意思が薄まっていく。
「ふっ、んん、っう、ん……」
春日はくぐもった声を漏らしながら、桐生に翻弄されていった。
何度も何度も舌を絡められ、上顎を撫でられると春日の思考までもぼやけていく。唇の端からは唾液を垂らし、折れない心を持つ精神の瞳はふやける。顔は酒に酔っている時よりも、赤く染まっていた。
それを見た桐生は唇を離すが、唾液の糸で二人を刹那的に結ばれていた。だがすぐに切れると、桐生は春日の首に掛かっている金のネックレスに唇を寄せる。次に鎖骨に降りていくと、舌を出して突き出している部分を舐めた。春日の体が、びくりと跳ねる。
「男とは初めてか?」
「当たり前だろ……! 何言ってんだ!」
未だに抵抗をしたいのか、桐生の胸を押す。しかしそれも無意味でしかない。桐生は春日のその様を、じっと見る。
「俺もだ」
そう言いながら桐生は春日の手を払った。そして春日の胸に触れると弱く揉む。見た目同様に硬さがあるが、柔らかい部分もある。その柔らかい部分を特に揉んでやると、春日が小さな吐息を出した。
「っ、はぁ……どらごん、もうそこは、やめてくれ……!」
訴えた春日の目に涙が浮かぶ。桐生はその表情がとても好ましいと思ったので、手を止めない。揉む力を強くしていくと、時折にわざと胸の粒を掠めてやる。春日の吐息が、どんどん官能的になっていった。
「や、ぁん、っう、ア……ぁ、あ……」
「気持ち良いか?」
なるべく大きく首を振った春日だが、桐生から見れば小さなものでしかなかった。それ程に、春日の体に快楽が染み込んでいく。なので桐生が「そうか」と頷くように言うと、指でその粒を一度強く摘む。春日が小さな悲鳴を上げた。
「ひゃ! ぁア!」
体が強張り胸を突き出すと、シーツの上に沈んだ。春日は呆然としている。桐生が思わずニヤリと笑うと、下着をようやく降ろしていった。
酔ってはいないものの、今は勃起ができないようだ。下半身がふにゃりと、重力に従って落ちる。
そこで桐生は春日をうつ伏せの状態にして、尻を突き出す。朱色になった背中に乗り、龍魚の入墨を間近で見た。桐生が「綺麗だ」と呟く。だが春日は上手く反応できず、先程の感覚に溺れ続けるのみ。桐生は春日の反応を再び拾う為に、口に自身の指を挿し込んだ。
桐生のものも恐らく混じっているのか、唾液でかなりぬるついていた。指を動かす度にくちゅくちゅと音が立つ。桐生はその卑猥な音を聞くと呼吸が荒くなり、春日はただ息を不規則に漏らした。
指がある程度、唾液に塗れる。指を引き抜くと、それを春日の尻に向けた。そして入り口を指で触れると、甲高い悲鳴が漏れる。
「ひっ!? ちょ……」
春日が何かを言おうとしたが、桐生が指を入れるので断念した。異物感により気持ち悪さが出て、そして呼吸がしづらくなっていく。
「深呼吸をしろ」
「っ、はぁ、は……できねぇ、よ……」
辛うじてその返事をした春日だが、言う通りに深呼吸をしようとする。しかし通常の呼吸ですら難しいので、息が薄くなっていった。
見かねた桐生は、意識を逸らす為に片方の空いた手で春日の胸に再び触れた。春日の背中が大きく反れ、彫ってある龍魚が蠢く。
するとすんなりと指が入っていき、春日が驚いたのも束の間。とある箇所を触れられ、春日は完全に堕ちてしまう。
「……ひゃあ! んぁ、ぁ! らめ、そこはらめぇ!」
桐生の指は、前立腺に触れていた。そして桐生はここが良いのだと学習すると、指で容赦なく前立腺を押していった。春日の背中にある龍魚が暴れる。
「ぁ……んん! ァ、あぁ、ァ、ん、っは、ア!」
「なるほどな。ここが、女みてぇな所か」
桐生がそう言うが、春日はもう何も分からないので喘ぎ続ける。狭い中を指で突かれることが、あまりにも気持ちよすぎるからだ。
「もっと鳴けるだろ」
「や、なんかくる、ぁ、らめ、ちょ、んぁ、ぅ……ッぁ!」
そう言って、桐生がじゅぶじゅぶと抜き差しを繰り返した。すると春日の体がしばらく震え、動きが止まる。桐生は流石に、指を抜いてから「どうした?」と聞いた。だが春日は息切れをしており、話せる状態ではない。
桐生はふと、春日の下半身を見るが様子は変わらない。そこで気付いたのだが、恐らくは射精を伴わない絶頂を迎えたのだろう。腑に落ちた桐生は、入れる指の本数を増やした。
「すぐに女にしてやる」
「っは、ぁ……あ、どらごん、もう、ぁ、ん……! ッあ、あ!」
指で掻き回すと、素直に解れていった。何本もの指を動かすと、桐生は満足したのか指を引き抜く。代わりに、ようやく着ている服に手を掛けた。とは言えスラックスのベルトを外し、ファスナーを降ろしただけだ。怒張はぱんぱんに張り詰めて、そして血管が浮いておりグロテスクな外見をしている。
それを春日に見せないのは勿体無いが、今はそれどころではない。桐生には、限界が来ているのだから。
「……春日」
名を呼ぶと、すぐに怒張を入り口に挿れた。何本もの指よりもやはり遥かに大きいので、かなり狭い。だが指同様に柔軟になっていくと、くびれがずるりと埋まっていく。
「ぁ! まって、おっきい! ぁ、や、ちんこが、あつい!」
腹の中に入っていく、熱い存在に春日は恍惚の表情を浮かべてしまう。もはや、自身の性別が分からなくなってしまっているのだ。
無意識に腰を振ると、背中も動く。やはり桐生から見れば、まるでベッドの上で艶めかしい龍魚が居るようにしか見えない。その背中に顔を近付けると、龍魚のそれぞれの部位に軽くキスをしていった。
ずぼりと怒張のくびれが入ると、一気に根元まで入れた。かなり大きく長いのか、腹の奥にまで到達する。
そこは桐生にとっては、女のものよりも良いと思えたらしい。荒い吐息から、唸り声へと変わっていく。少しずつ腰を動かすと春日が喘ぎ、そして金のネックレスがチャリチャリと揺れた。
「は、ぁ、アっ!」
「気持ちいいか?」
「ん、んぅ……ぁ、ん……ア」
春日にはもうまともな返事ができない。だが腹の中を締め付けたので、桐生にとってはそれが返事の代わりだと思った。律動を少しずつ早く、そして強くしていくと春日は涙や唾液を垂らしながら悲鳴混じりの嬌声を上げる。
するととどめにと、緩やかに怒張を引いた。快楽に沈みきっていた春日が「なんで……?」と残念そうに言うが、その途端に思いっ切り突き刺す。
「んゃあ! ぁ、お、お!」
更に奥に入ったのか、ごぽりと音が鳴った。春日の体の至る箇所が震えるが、これは悦びによるものだろうか。
「ここまで入ったのか」
桐生は興奮と感心が混じりながら、春日の割れた下腹部を擦る。すると春日は再び絶頂を迎えた。次は龍魚が細かく震える。
そして春日は更に強いものが欲しくなったのか、桐生の方へとどうにか振り向いてねだった。
「ん……ぁ……どらごんすき……どらごんのちんこで、もっとずこずこしてくれ……」
「……ッ! 分かった……」
低い声で返事をした桐生は、春日の腰を強く掴む。そして痛いと思えるくらいに、肌同士をぶつけながら腰を動かした。
龍魚が、快感により身を捩らせている。
「ぉ、あ、ァ! イく、どらごんの、あついちんこで、イく、ッあ、ぉ、オ、ァ!」
桐生が果てると、腹の奥に精液をどくどくと注がれた。春日は熱い粘液が入り込む感覚にうっとりとしながら、自身の腹に触れる。不自然に膨らんでいた。
「どらごん……」
「春日……好きだ……」
「おれも……」
すると春日は、ぷつりと意識を失った。
桐生はぐったりとした龍魚を見る。萎えた怒張を引き抜き精液が勢いよく流れた。桐生は背中の龍魚に唇を落として春日を仰向けにしてから、唇にほんの軽いキスをしたのであった。