戦から帰ったら(于惇)

戦から帰ったら

とある日のことである。
この日は周辺でとても小さな戦があったのだが、于禁が率いる軍によって見事に制圧できていた。なのでいつものように夜になると城の中庭で宴が開かれ、そして兵や将たちは酒を片手に騒いでいる。この中庭は低木や花のみが植えられているので、誰が居るかすぐに分かる。だが肝心の于禁が居ない。
夏侯惇は戦があったときは参戦せず、城で政務をこなしていた。特に、曹操などと城や街の整備について。于禁が率いる軍が負ける訳がないと思っているからだろう。案の定そうであり、曹操は于禁を褒め称えていた。しかし于禁は調子には乗らず、ただ平然と礼を述べている。
その中庭の前にたまたま通り掛かった夜着姿の夏侯惇は溜息をつくと、于禁の部屋へと足早に向かう。どうせそこで、一人で飲んでいるだろうと確信しながら。
広く長い城内の廊下を歩いていくと、于禁の部屋の扉の前に辿り着いた。耳を澄ますと、物音一つ聞こえない。だがここに居ることは分かっているので、扉を軽くノックした。
「于禁」
扉に向かって夏侯惇はそれだけ言うと、于禁の静かな「はい」という声が聞こえた。やはりここかと夏侯惇は思いながら「今いいか?」と、尋ねる。すると控えめな足音が幾つか聞こえたと思うと消え、扉が開いた。室内からの薄い明かりが漏れ、夏侯惇は反射的に目を細める。
「夏侯惇殿、いかがなさいましたか?」
夏侯惇と同じく夜着を着ている于禁が姿を現す。いつもはきっちりと結っている髪が、今はまっすぐに降りている。于禁の格好を見て宴に参加するつもりなど一切無いという、確かな主張にも思えた。夏侯惇は内心でやれやれと呟いていると、于禁が入室を促す。
夏侯惇はそれを断ることなく入ると、于禁に宴に参加しないのか質問する。于禁は扉を閉める為に、背を向けていた、
「たまには宴に入ってもいいではないか。お前は、功績を上げたのだぞ?」
「いえ、私が居ると周りが萎縮するので」
そんな訳がないだろうと夏侯惇が笑った。すると扉を閉めて振り返った于禁が、唐突に夏侯惇の手を引く。互いの距離が近くなる。そこで夏侯惇は驚きながら于禁と目を合わせると、その瞬間に于禁から仄かに酒の香りがした。
「俺と飲むか?」
やはり一人で呑んでいたのかと思い、夏侯惇は誘う。しかし于禁が否定をするので、夏侯惇は首を傾げた。次に「どうしたのか」と質問しようとしたが、于禁のはっきりとした言葉に遮られる。
「私はそれよりも、夏侯惇殿に褒めて頂ければ、私は充分です」
薄い明かりの中で静かに笑った夏侯惇は、于禁の手をふわりと払う。そして寝台へと先に向かうと、柔らかい布団の上に座った。于禁に手招きをすると、すぐに飛び付いて行く。まるで犬のようだとは言え、于禁の体格からして大型犬なのだが。
夏侯惇が自ら着物を脱いでいくと、于禁もそれに倣うように着物を取り払っていった。そして夏侯惇は最後にと眼帯も外していく。
夜着なので布は一枚しかなく、あっという間に二人は素っ裸になる。所々に濃淡のある傷の痕と、それに逞しい体。互いにそれらを唇で触れ合うと、ほんの僅かな時間だけの口付けをした。
「まだ、でしょうか」
待っている言葉を告げられた。夏侯惇は「分かった分かった」と観念する。しかしそのときの表情は、室内の明かりよりもずっと明るいように于禁からは見えた。
「偉いなおま……ぅ、ん……」
自身が求めていた言葉を出し切る寸前に、于禁は夏侯惇の胸のあたりに片手で触れる。筋肉で膨らんでいるそこを、まるで女の小さな胸のように揉んだ。
「柔らかい……」
呟くように于禁が言うと、夏侯惇は恥ずかしさに目を伏せる。だが于禁はその様子がとても可愛らしいのか、夏侯惇の顎を空いた片手で上げてから視線を合わせた。この世で一番に、綺麗な一つの瞳を見る。刃物のように鋭く、その中にある繊細さ。それに、光に当たると綺羅びやかに輝く。于禁はそれが好きである。
この瞳を独占しているのは、今見えているのは于禁のみである。なので「綺麗です」と夏侯惇の瞳を見ながら言うと、そっと唇を合わせた。
胸を触れられると固まっていた夏侯惇だが、口付けをした途端に于禁の背中に手を回す。だがそれだけでは足りないのか、背中から上にいき、首や後頭部に抱き着くように腕が巻き付いていった。于禁も同じく、夏侯惇に密着するように抱き締める。それぞれの、全てを委ねるように。
互いの唇の感触を少しの間だけ味わうが、離れていくと共にに夏侯惇が「酒の香りがする」と小さく笑った。聞いた于禁も笑うが、その後には夏侯惇を押し倒してから覆い被さる。
「好きだ……」
于禁の手を取り、指を深く絡めた。二人の手は戦などにより大きく、そしてごつごつとしている。だがそれが不快だとは全く思わないようだ。寧ろ長い間に剣を持つことによってできる、多数の握りだこの感覚を楽しむ。
「私もです」
淀みなどなく清らかに返した于禁は、夏侯惇ともう一度唇を合わせる。そして唇を離そうとしたのだが、夏侯惇が厚い舌で于禁の歯に触れた。『もっとやれ』という合図なのだろう。于禁はやって来た舌を迎え入れると、指のように丹念に舌でなぞりあった。
夏侯惇が触れられて嬉しい場所を把握している。なので于禁は夏侯惇の舌と存分に触れ合った後に、くぐり抜けた。上顎に辿り着くと、そこを舌の先端でまずは小さく弄ぶ。
「ん、ふぅ……ん……んぅ」
痺れたように夏侯惇の頭が揺れ、そして肩や胸が揺れた。その反応を見て嬉しくなった于禁は、舌で両側の奥歯を行き来するように這わせる。案の定、夏侯惇の体の揺れが大きくなった。胸だけではなく腰も震わせると、下半身から精液を吐き出す。
もう達してしまったのか、と于禁は律するように夏侯惇の腰を擦った。夏侯惇の背中が緩やかに反れていく。布団との隙間に手を入れてから背骨の線を指先で辿ると、夏侯惇の表情が次第に崩れた。擽ったいようだ。
「っは……まだ始まってもいませぬが」
どちらのものか判別がつかないくらいに、二人の口の周りにはどろどろとした唾液が付着している。だがそのようなものはどうでもいいらしく、拭き取ることもなく夏侯惇が続きを促した。
「それなら、すぐに始めろ」
于禁の髪を軽く引っ張り、それから自身の両足を上げようとした。しかし先程の口付けにより体が砕けてしまったらしい。思うように足を動かすことができなくなっている。
それを正直に伝えようとした夏侯惇だが、于禁がもたついているような様子を見て察したらしい。夏侯惇の膝を優しく掴むと、ゆっくりと開いていった。
「綺麗な、体をしていらっしゃる」
ほとんど陽に当たらない箇所である、太腿の部分を特に凝視する。そこは白いうえにすべすべとしていた。胸の次に、于禁の好きな部位である。そこを手の甲でそっと撫でると、夏侯惇は軽い喘ぎ声を吐いた。
胸のように念入りに触れたことはないが、今の夏侯惇にとってはそこも性感帯になりつつあるらしい。気分が高揚した于禁は、唇をそっと寄せた。わざと音を立てながら唇を這わせ、そして分厚い舌で舐める。夏侯惇を大きく焦らす。
ちょうど近くにある夏侯惇の、上を向いている下半身が視界に入った。だがそこよりも肉の穴の方が、存在を強調させているように見える。まるでよく可愛がられたいと言わんばかりに。
その意思が通じたのか于禁がくすりと笑うと、焦らすことを止める。そしてぱんぱんに張り詰めている下半身を口に含むと、精液を出すように促した。舌などを使って強く吸い上げながら。
「ッう、ぁ……あ、うまいぞ、い、あ! ァ、ひゃ!? でる! あ、っは、ん、ぁ、ぅあ……!」
于禁は全てを受け止めると、唇をなるべく閉ざして漏らさないように下半身を解放させた。夏侯惇の目は溶けているかのように垂れており、腰はだらしなく揺れている。于禁を行動で誘おうにも、それができないことが伺えた。
ほぼ全ての精液が口の中にはいっているが、于禁は自身の手のひらにそれを吐き出す。真っ白な精液と透明の唾液が混ざっており、とてもどろりとしていた。于禁はそれを指に持って行ってそれを馴染ませる。
くちゃりくちゃりと、粘度が高いことが分かる音が何度か鳴った。
「ぶんそく、子を作るぞ……」
夏侯惇は震える言葉のみで誘うが、于禁にかなりの効果があったらしい。「勿論です」と即答すると、既にうねっている入口に太い指を入れた。
「あ、ぁ……まて、子宮をゆっくり……開いてくれ……」
指が入るのを感じた夏侯惇は、腰を僅かに振る。これが精一杯の補助なのだろう。
夏侯惇は悦びの瞳を浮かべ、于禁はいち早く穴を拡げるべく指先を動かしていった。混ざりあった液体たちが、夏侯惇の色合いの良い粘膜に塗りたくられていく。
「ゃ、そこじゃない……もっと、おく、ぁあ、っう、は、ん……ぅ、あ……」
浅く善い箇所に指先が一瞬だけ掠め、夏侯惇は思わず達しそうになった。しかしつま先や持て余している指先に力を込め、痛みの感覚を脳に集中させる。そうすることにより、どうにか下半身を誤魔化せた。夏侯惇は、于禁の怒張により達したいのだ。
于禁は指先を何度も何度も動かして、縁を広げていく。そして狭くなってしまっている粘膜の道も。
しかしただえさえ太い指を二本三本と入れていくと、夏侯惇の脳が誤魔化せなくなる。まずいという思考が巡りながらも、射精しようとした。そこで于禁が一気に指を引き抜く。射精感が緩み、夏侯惇は驚いた。そうしている間に于禁が、今では剣よりも鋭い凶器に思える怒張を捩じ込む。分かってはいるが、あまりの大きさに夏侯惇が悲鳴のような声を出す。
「っひ、ぃ、ぁ!? や、んぁ、あ……!」
大きな膨らみのところが縁に引っ掛かるが、それでも夏侯惇は勢いよく射精をした。それは于禁や自身の腹に撒き散っていくが、二人ともそれも気にしている場合ではない。于禁は奥へと進めていき、夏侯惇は凄まじい快楽と堕ちていく感覚に深く浸る。
「ぅ、ッう……あん、ぁ……ァあ……」
体の中に埋まっていくにつれ、夏侯惇の肉がうねりながら怒張をぎゅうぎゅうに包み込んでいく。その力は強く、于禁はまるで厳重に拘束をされているかのように思えた。
すると二人からは人間にしては高い熱気と、肉食獣のような呼吸音が発せられる。それ程に体の交わりが激しいことが分かる。
だがその合間に、夏侯惇は人間の言葉を途切れ途切れに吐いた。よく聞き取れないこともあるが、于禁は脳内で正確に繋いでいたらしい。なので言葉を理解する度に怒張を奥へと進めていく。礼を述べるように。
「あぁ、ぁ!? ……っん、ぶんそく、ひ、ァ、ぁ……おまえは、りっぱなぶじんだ、んぅ、ぁ……ぁ、いゃ、ぁ!?」
粘膜同士が擦れる範囲が増え、そして怒張の先端が縁の中に入った。これで、あとは最奥まで障害なく辿り着くことができる。于禁は夏侯惇の腰を掴むと、一気に怒張で体を突き刺した。狭い最奥まで、届いた。
瞬間に夏侯惇の体が大きく痙攣した後に、乱れた嬌声を上げた。于禁に何かの言葉を出す余裕などない。
于禁は夏侯惇の頑丈な体でさえも壊れるくらいに、激しく腰を動かした。
「ぉあ、あっ! ぁん、や、イく!」
夏侯惇の全身が真っ赤に染まり、律動毎に大きく揺さぶられる。結合部からはぱんぱんと痛々しいとしか思えない音が鳴った。それに寝台からはぎしきしと、壊れる寸前のような音も。
人同士というより、動物同士での交尾だと于禁は頭の隅で考える。しかし今は夏侯惇をめちゃくちゃにして、子種をしっかりと与えることしか頭にないらしい。そのような考えなど放棄してから、内側から皮膚を突き破るつもりで腰を振り続ける。
「ぐ、っふう……子宮に、届きました……」
すると大きな笑みを浮かべた于禁は、動きを一時的に止めてから中に白濁液を注ぎ込んだ。火傷をしそうなくらいに熱く、そして粘っている粘液が夏侯惇の腹の中に満たされていく。同時に夏侯惇も射精をして、二人の体の一部をより白色に染めた。
呼吸が整わない夏侯惇が「よくやったな……」と小さく嬉し気に呟いた。愛しさのあまりに一度口付けをしようとしたが、于禁は夏侯惇の体を欲して止まない。なので腰を再び動かし、しっかりと夏侯惇を狂わせていく。
「イく、ぁ、お、アっ、あ! ぅあ、あつ、ぁん、ァ、お、ひゃ、イく、イく、や、あ、あぁ!」
またしても二人が同時に果てると、切れ続ける息を吐いた。萎えた怒張を于禁が引かせていくと、布団の上に精液がどんどん流れ出る。小さな池ができた。
途中でくびれが粘膜を刺激して、夏侯惇が声を上げた。まだ快楽の沼から出られない証拠だ。下半身は、先程の射精により芯を持っていないのだが。
そこで于禁が夏侯惇と唇を合わせると、怒張をずるずると引き抜いた。夏侯惇の口からはくぐもった声が、入口であった場所からは精液が出る音が聞こえる。
少しだけ舌同士を触れてから、唇を離すと夏侯惇の表情はぐちゃぐちゃになっていた。口が半開きになっているが、上手く動かせなくなったのだろう。だが体の赤さだけは変わらないので、その色を于禁は目に確実に焼き付けていく。
「はぁ、は……ん……ぶん、そく……?」
物凄い視線を感じた夏侯惇は、虚ろになってきた片方の瞳を動かす。于禁はその動きを見つつも、夏侯惇の片手を取ってから指を絡めた。しかし夏侯惇は指に力が入れられないので、手のひらが広がっている。
「また、戦から帰ったら褒めて下され」
夏侯惇はもう上手く口を開けないので小さく頷く。なので于禁は礼として夏侯惇が眼を失っている方の瞼に、唇で柔らかく触れたのであった。そのときの夏侯惇の生きている瞳は、僅かに笑っていて。