暗中
ある深い夜のことであった。日中に活動している者ならば、ほとんど寝静まっている程の時間。
だが普段は日中に活動している于禁は、数日前から昼夜逆転するような生活リズムを作ってしまっていた。原因は計画的に進めていたのだが思ったよりも調子がいいのか、原稿に夢中になって時間も忘れてのめり込んでしまったせいなのか。
これではいけないと、生活リズムを少しずつ直そうとしている。生活リズムが崩れて以降にいつも寝ている時間より、今日からは数時間早めに寝ようとしていた。なので既に数時間前に入浴していて、今は寝間着姿で暗くした寝室のベッドの中に居る。
だがここ数日の生活リズムの変化と、そして于禁の性別特有の熱を抱え始めたせいなのか眠れない。
できる限りの思考をして、どうにかしようとするが何も思い付かなかった。性別特有の熱により、何も考えられなくなってきているのか。
するとようやくとあることを思い付いたらしい。眼鏡を掛けてベッドからのそりと出て、それぞれ違う鍵を二つ握り締めると、玄関を出て一つの鍵を取り出して施錠をする。だがマンションの建物自体からは出ず、すぐ隣の部屋の扉の前に立つ。そして自分のではなくもう一つの違う鍵を取り出し、それを使って鍵をゆっくりと開けた。
静かに扉を開けて玄関に入ると、そのまま同じように静かに施錠をする。入った先は真っ暗だが、自身の部屋と構造は同じなので壁を手で探りながら進んでいけば問題ない。だがまずは掛けている眼鏡のつるを畳んでから、リビングのテーブルの上に置き視界を霞めさせる。その後に目的の部屋へと辿り着くと、音を立てずにドアを開けた。
部屋に入ると、一人分の静かな寝息が聞こえてきた。于禁はそれにゆっくりと近付くと、ベッドの縁へと到着する。寝息を途絶えさせないように、慎重にベッドの上に乗った。
すると性別特有の熱が上がってきたらしい。息を荒げながら、手をゆっくりと動かして人の体がどこにあるのか把握していく。寝息の主は布団など掛けていないので、于禁は幸運に思いながらも。
すると大当たりである胴体が見つかった。于禁は更に息を荒くしながら、そこにぐっと近付く。少しだけ触れてみたところ、于禁と同じく寝間着を身に着けているようだ。だが寝間着と言っても、上はティーシャツで下はウエストがゴムのスウェットだろう。
于禁はティーシャツではなくスウェットのウエストに手をかけると、ゆっくりとゆっくりとずらしていく。寝息の主は深い睡眠の底に落ちているのか、そうしても目を覚ます様子はない。
ひとまずの安心をした于禁は、剥き出しになったボクサーパンツの前開きをそっと広げる。そしてふにゃりとしている男性器を取り出すと、躊躇することなく口に咥えた。それに芯を与える為に。
「ん、ふぅ……ん……っ」
興奮の為に声が漏れた。だが口に含んだ時点で静かに音を立てずに、という行動を続行する気はもう無いらしい。舌でふにゃりとしたものをころころと転がしていき、芯を持ち始めたが同時に寝息の主は目を覚ます。
「はっ……ぁ……な!? 于禁……!?」
寝息の主、というより夏侯惇は驚いた声を上げた。だが芯を持ち始めた肉棒への更なる刺激により、驚きの感情は掻き消されていく。于禁の口腔内で弄ぶ技術がとても高いせいなのか。
だが夏侯惇の声が聞こえると、于禁は肉棒から口を離す。
「夏侯惇殿……」
部屋は真っ暗なので于禁の表情など分からないが、とても上擦った于禁の声が聞こえた。それに夏侯惇のものではない布が擦れる音が聞こえる。恐らく于禁は着ている服を脱いでいるのだろう、と夏侯惇は思ったが。
まだ眠気があるのかぼんやりとそう思って数秒、于禁が夏侯惇の体の上に乗り上げてきた。思った通りで、于禁は着ている服を全て脱いでいたようだ。口淫により芯を持った肉棒に、于禁の下半身が当たってそれが分かった。それは夏侯惇のものと同じく、芯を持っていて。
そこで夏侯惇の眠気は吹き飛んでいく。真っ暗ではあるがその中でも、于禁の腰を探し当てると確実に掴んだ。
「げん……じょう……」
于禁は夏侯惇の名を呼ぶ。だがそれは暗さから来る不安によるものではない。寧ろ明かりが無い部屋の中でも、互いの熱い肌を触れ合っていて不安などないのか。
なので夏侯惇はあえて部屋の照明を点ける必要がないと思っていて、そして于禁は照明を点けるのが面倒だと思っていた。二人の意見の最終的な方向性は一致していたので、そのまま二人は更に絡み合う。
「気持ちいいか?」
芯を持った下半身同士を合わせ、そして先走りを垂らして擦り合う。だがどんどん逸れていくので、夏侯惇が片手で二本分のものを固定しながら。
「ッは、はっ、はい……」
二人で息を荒くしながら腰を振り、ぬるぬると下半身を擦りつける。そうしていくうちに同時に果てたのか、二人のものに熱い精液がかかった。
だが射精により一瞬だけ于禁は体のバランスを崩したと思うと、そのまま夏侯惇とより密着する。心臓の鼓動を、互いが聞ける程に。
「げんじょうので、イきたい……」
両腕を夏侯惇の首に回し、于禁はそう静かに熱っぽく強請る。とても発情している動物のように。
対して夏侯惇は于禁の背中に両腕を回すと返事をした。
「俺の、何でだ?」
意地悪そうにそう言うと于禁は少しの沈黙を作ってから、躊躇するように答える。
「貴方の……まらで、イきたい……」
「……少し惜しいが、仕方ないな」
わざと溜息を漏らした夏侯惇は、背中に回していた手をずらして于禁の尻へと向かう。于禁はその感触を認識した瞬間、口を夏侯惇の首に這わせて上へと向かって唇を探した。探し当てるとすぐに唇を合わせ、より夏侯惇を誘っていく。
だが尻が女のように粘液で濡れている訳ではないので、先程吐き出した精液が纏っている、未だに芯を持っている下半身にまで片手を伸ばす。指で触れると、于禁は艷やかに喘いだ。夏侯惇と合わせていた唇を離す。最早少しの刺激のみで、大きな快楽を拾ってしまうのか。
数本の指にどちらのものか分からない精液を絡めると、それを股に持っていく。
「お前の望み通り、イかせてやる」
言葉と共に、精液の絡んだ指が股の狭い入口を突いた。指先を折り曲げながら、少しずつ侵入していく。于禁は苦しげな声を出すが、それでも夏侯惇はお構いなしに指先を侵入させる。
「ぁ、はぁ……あ、ぁっ……」
「力を抜け」
股の入口がほんの少しずつしか開かないので、焦れてきた夏侯惇は空いた手で于禁の片方の胸に触れる。人間特有の肌の熱さを感じながら、ゆっくりと揉んだ後に指先で粒を突っつく。
于禁は胸の方の快楽に気を取られたので、股の入口が若干だが緩む。その隙に指先にぐっと力を込めて押し込んだ。すると指が入っていったので沈んでいくところまでいき、入れる指の本数を増やしていく。
勿論、胸への刺激はまだ続けていて。
「ひ、ぁ……ん、そこ、すき……」
股の入口はまだ気持ち良くないようだが、胸は気持ち良いらしい。于禁は下半身から垂れる程度の精液を出す。それが夏侯惇の腹に垂れると、舌打ちをしてから股をほぐす速度を早めた。入る指の本数が増えたので、股の中を掻き混ぜるように指を動かしていく。
すると于禁は股の中で快楽を拾い始めていた。夏侯惇の指が前立腺を掠める度に、于禁は雌のように善がるからだ。
なので夏侯惇は胸への刺激を止め、股の中を掻き混ぜていた指を引き抜く。于禁は何故、というような困惑を混じえた嬌声を漏らした。
「んあっ……!? ぁ、あぁ……」
「もう、いいだろう? 俺も限界でな……!」
そう言いながら硬度と質量を持った肉棒を、于禁の股の入口へと宛がう。すると于禁の困惑はすぐに消えた。
「ぁ、はぁ……げんじょうのまら……ほしい……」
「くれて、やるよ」
肉棒の先端が股の縁に触れてから、すぐに埋めていく。
指で股の中をほぐしてあるので、くびれのあたりはスムーズにいかなかったものの、引いては押していくうちにようやくくびれが入り込む。
そしてくびれが股の中に収まると、どんどん奥へと進んでいった。
「ひ、やぁ、ぁ! あっ! あん、ぁ、おくに、まらがほしい……!」
脳も心も乱れきった于禁はそう強請る。だが夏侯惇は于禁のそれを訂正しながら、奥へと更に肉棒を押し込んでいく。
「奥? 何を言っている。子宮の間違いだろう?」
夏侯惇の体の上に辛うじて乗っている于禁は、その言葉に従順になってしまっていた。肯定の返事を舌足らずに出すと、股の中を締め付ける。
その気持ち良さに、夏侯惇は腰を振りながら股の奥を突いているうちに、ようやく最奥に到達した。ぐぽ、と音が鳴るとすぐにそこを突き上げる。
「ひやぁあ! ぁあ、あ! ゃあ! ァ、ん、あ、まら、しゅきぃ!」
それと同時に二人は射精をした。于禁は夏侯惇の腹の表面に、夏侯惇は于禁の腹の中に精液を叩きつける。互いのその熱さに、とても興奮しながら。
「ッは……俺ではなく、摩羅のことがか?」
一時的な于禁からの言葉であるのに、嫉妬をした夏侯惇は大きく腰を振って于禁の熱い最奥を苛めていく。
「ぁ、あっ、ア! お、ぁあ、お、っあ、げんじょうも、すき、まらも、すき!」
自身も好き、という言葉を確かに聞いた夏侯惇は、褒美にと于禁の腰掴んで少し持ち上げる。肉棒がゆるゆると引き抜かれていくと、自身が吐き出した精液が漏れて夏侯惇の腹へと落ちた。
だがその瞬間に一気に元の場所へと戻るように、肉棒を于禁の股の中へ打ち込むように勢いよく入れた。
于禁は悲鳴と共に薄い精液を吐き出し、股の中をきつく締める。夏侯惇はそれにより再び于禁の股の中で射精をすると、その後に二人は体をぐったりとさせる。
「子宮、気持ちよかったか?」
「んぅ……」
息を切らした夏侯惇は優しくそう問い掛けるが、于禁はまともな返事ができないらしい。それでも肯定の意思を示す為に言葉になっていない声を出す。
夏侯惇は于禁に小さく「好きだ」と言いながら、まだ呼吸の整っていない于禁と触れるだけの唇を合わせた。そして于禁の背中に手を回して肌を密着させる。
すると于禁は疲れたのか眠ってしまったらしい。穏やかで規則的な寝息が聞こえると、夏侯惇は于禁を起こさないようにベッドの上に仰向け寝かせた。そして于禁の体を綺麗にする為にと微かな明かりを点ける。
今は眠っているがもう一度、于禁に小さく「好きだ」と言う。返事など返って来ないと思ったのだが、于禁が僅かに寝返りを打つ。意識の奥底で、夏侯惇の囁きに反応してくれたのだろうか。
嬉しくなった夏侯惇はそっと眠っている于禁に近付き、薄くなっている眉間を見ると唇で触れる。
そこで満足したのかようやく于禁の体を清めてから自身の体も清めると、于禁の隣に横になって共に眠りに就いたのであった。次は起きている于禁に改めて「好きだ」と言おうと思いながら。