しだれる(惇于)

しだれる

ある夜のことだった。二人は軍務などでしばらく会えていない。だが久しぶりに時間ができた夏侯惇は、于禁に何も連絡をせずに寝室へと向かった。
しかし今は特に何も無ければ、他の者は寝静まっている時間帯である。静寂に包まれた城内の廊下を歩き、于禁の寝室の扉の前へと到着した。
だが于禁の寝室からは、灯りが微かに細い線になって漏れている。夏侯惇は明るいその線を見て溜息をつくと、扉をノックした。
「何だ、今は忙しい」
于禁は用のある兵が扉をノックしたのかと思ったらしい。なのでそれに相応しい返事が、扉の向こうから聞こえる。
すると何かを思いついた夏侯惇は、とても小さく喉の調子を整えた後に、扉の向こうに居る于禁へと話し掛けた。声を意識するだけ変えながら。
「夜分遅くに申し訳ありません。于禁将軍、竹簡のことで確認したいことがあるので、お時間を頂けないでしょうか?」
夏侯惇はとても新鮮な気持ちだった。立場からして、夏侯惇がそのような口調でいたことは勿論無いからだ。
「分かった……だが、私も忙しいからあまり時間を取らせるな」
数秒の沈黙の後に、于禁が苛立っている声音でそう言った。やはり話している相手は兵だと、于禁は思っているのか。
そして扉が開いてから于禁は相手の顔を見ずに「次は無いと思え」とかなり機嫌悪そうに言ってから、相手の顔を睨む。その辺の兵ならば、顔を青ざめさせる程に鋭い目つきであった。しかし夏侯惇の姿を見るなり、相手を萎縮させる筈であった于禁の顔が青くなっていく。
「か、夏侯惇殿……!?」
「すまんな、兵の振りをしてたのだが、見事に騙されたな」
于禁はまずいと思っているのか、かなり焦っている一方で、逆に夏侯惇はニヤニヤとしている。
「も、申し訳ありませぬ……! ここではなく、部屋にお入り下され!」
必死の謝罪の後に入るように促されると、夏侯惇は于禁の寝室へと入った。隅にある机には竹簡が積まれているのが目に入り、扉を閉め終えた于禁の腕を夏侯惇ががしりと掴む。
「また、無理をしてないか?」
一つの瞳で于禁に鋭い視線を送った。于禁は目を泳がせながら「今は手が空いていますので……」と返した。だがその見苦しい言い分など、全て無駄になるような言葉を夏侯惇は放つ。
「先程は、『忙しい』などと言っていなかったか?」
「……………」
于禁は寝室の外の廊下と同じくらいに、沈黙した。反論など全くできないのか。
再び溜息をついた夏侯惇は、部屋の灯りを消す。それに驚いた于禁だが、外からは窓へ月明かりが差し込んでいるので、真っ暗になった訳ではない。夏侯惇は于禁の腕を引き、そのまま寝台に寝かせてから覆い被さる。
「お前は充分に頑張っているから、今日はもう休め」
労る言葉を掛けた後に、于禁と唇を触れる程度に合わせた。だが于禁はつい先程まで竹簡のことしか考えていなかったが、すぐに別の思考に脳が切り替わってしまったらしい。
覆い被さっている夏侯惇の背中に、両手を回した。
「でしたら……貴方なりの褒美を下さらないと……」
それは于禁からの珍しい『甘え』だった。夏侯惇は即座に気付くと、大きな笑みが于禁に分かる程に零れる。
「あぁ、では、飽きる程にやろう」
「貴方からの褒美など、飽きる筈がありませぬ」
零れた大きな笑みを、于禁は浴びるように受け止めた。夏侯惇からの口付けであるので、とても容易に。
唇を合わせるとすぐに夏侯惇は舌を出し、于禁の口腔内に入っていく。気付いた于禁は舌で迎え、ねっとりと絡ませた。
二人は熱くなっていく短い声や息を漏らしながら、互いの着物を脱がせていく。だが二人が着ている着物は一枚のみで、夏侯惇がもう一枚羽織っているだけである。なので一瞬のうちに全て取り払われた。着ていた着物など、床に投げ捨てながら。
二人は唇の端から唾液が垂れてもお構いなしに、舌を深く絡ませていく。互いの口腔内を蹂躙し合うように、濃密に。
ようやく唇を離すと二人の顔は真っ赤。それでも夏侯惇はまたしても于禁と唇を合わせた。次は夏侯惇が一方的に舌で于禁の、口腔内の粘膜の至る箇所を蹂躙し始める。しかし于禁はそれに対してやり返そうとしたが、途端に腰が砕けてしまったらしい。舌を上手く動かすことができず、口腔内の全域を、夏侯惇の舌が這う。
口腔内の粘膜を蹂躙されると于禁の下半身が上を向くと、同時に夏侯惇のものも上を向いた。すると夏侯惇はそれを于禁のものと合わせ、腰を振って擦り合わせ始めた。
「……ん!? んぅ、う、んん!」
口は塞がれているので、于禁からはくぐもった声しか出せていない。しかし夏侯惇はそれでも、于禁の口腔内に舌を這わせ続けるのを止めなかった。
互いに先走りを垂らし、ぬめっていくと更に快感が襲ってくる。すると于禁の鋭い目が柔らかく垂れて来た瞬間に、達していた。
それはかなり濃く、熱く、それに粘度が高い。夏侯惇の胸の下の辺にかかったのでそれに気付くと、ようやく唇を離した。
于禁の目に鋭さは戻っていない。
「抜いていなかったのか?」
冷めてしまった熱さはすぐに垂れ、于禁の腹にかかる。それを夏侯惇は指先で一部を掬うと、舌で舐め取った。あまりの濃さに、口角を上げながら。
「はい……」
于禁はすぐに肯定の返事をすると、夏侯惇は「可愛いな」と言った。それに対しても于禁は、夏侯惇の方を見ながら頷く。
そして焦れてきたらしく于禁は両脚を開き、まだ上を向いている下半身を見せた。いつもはそのような積極的なことはしないので、夏侯惇はそれを舐めるように見る。
恥もあるが、それよりも于禁には抱かれたいという気持ちが勝っているのだろう。夏侯惇はそう考えると、于禁の頭を撫でた。
「まだ、褒美は残っているぞ」
顔だけではなく、于禁の体のどこもかしこも赤く染まってきていた。その赤色が綺麗だと思いながら、夏侯惇は于禁の下半身へと手を伸ばす。
まずは上を向いているものに少し触れた、ただそれだけで于禁はまた達したようだ。夏侯惇の手に精液がかかる。
「ッは、ぁ……あ、申し訳、ありませぬ……」
「気にするな」
手にかかった精液でさえ夏侯惇は舐め取った。そこにはあまり触れないでおこうと思いながら。
「かこうとん殿の、まらで、早く……!」
すると于禁はそうねだりながら、背中に回していた両手を首の後ろへと移動させた。二人の顔が近付いていく。
「……仕方ないな」
于禁に熱い声を垂らすと、夏侯惇は笑う。そしてついさっき触らないでおく筈だった于禁の下半身を軽く擦り上げた。勢いよく出てきた精液を、手の平吐き出させるとそれを尻に持っていく。
「奥を、まらで突いてくだされ……!」
淫らに腰をくねらせ、夏侯惇を誘惑した。それも、自然とではなく故意に。
舌舐めずりをした夏侯惇は、人差し指を尻の入口に埋め始めた。そこはかなり狭く、外側からの侵入など許さないと言わんばかりに拒んでいる。なので夏侯惇は空いた手の指で会陰を軽く押した。
「や、ッあぁ!」
于禁の狂った短い喘ぎ声とともに、尻は一瞬だけくぱりと開いた。そのタイミングで夏侯惇は一本ではなく、指を二本挿入する。中の粘膜は既にうねっており、溶けると思うくらいに熱い。
「すぐにここまで咥えこんで偉いな。だがほら、もう一本、いや、もう二本も」
顔を近付け、夏侯惇は于禁の耳元でそう囁く。対して于禁は小さく震えた声で「はい……」と言う。尻を更に解して貰う為にと、夏侯惇の首の後ろに回していた両手を取ると、自身の胸元へと持っていった。
夏侯惇はそれをチラリと見て、何だと思っていた。すると于禁はその手で胸を、まるで自身に女のような胸がついているかのように揉み始める。
「ぁ、あっ、あ……んっ……ぁ……」
時折、指先で乳頭を弄っていく。その様が、夏侯惇から見るととても官能的であった。なので耳元から口を離すと、その様子を上から見下ろす。
「そのようなことを、どこで覚えた?」
そう問いながら、夏侯惇は既に尻に入っている二本の指を動かす。きつく閉まっている縁を柔らかくする為に。
「わたしが、ぁ、あ……どくだんで、考えました」
自身の胸を弄るのが気持ちいいのか、次第に于禁は気持ち良さそうに喘いでいく。腰が反っているので、余計にそれが際立った。揉んでいる手が止まらない様子もあってか。それに嫉妬してしまった夏侯惇は、それを思わず鋭く睨んでしまっていた。
「それよりも、俺が気持ち良くさせてやる」
夏侯惇は挿入している指を進めていく。そしてとある場所を目指して押すと、于禁は自身の胸を弄っていた手を離してしまった。悲鳴のような嬌声を上げながら。
「ッひゃぁあ! はぁ、あっ、あ!」
指先は、前立腺を強く押している。于禁は何も考えられなくなったのか、喘ぐ以外は寝台に敷いてある布団をただ弱く握るのみ。
「そうだ、いい子だ。その調子だ」
再び耳元に唇を寄せてそう囁く。于禁は次々と言葉になっていない喘ぎ声を出すが、返事の代わりなのだろうか。
それを聞いた夏侯惇は、更に強く前立腺を指で突く。
「ぉ、あアっ!? ん、はあっ……!」
于禁の下半身から精液が吹き出したが、まだ色が濃く、粘度もあるのがすぐに分かった。夏侯惇が于禁の下半身の鈴口に手の平を向けていたからか。
しかしすぐに手の平から、どろりと于禁の腹に垂れていっていた。
そうしていると、ちょうどあと二本くらい指が入るまでに尻の縁が解れる。なので夏侯惇は、一本ずつ挿入する指を増やしていった。
「んはぁ、はっ、ぁ、や、ん……ア……」
「指でも、お前の中は気持ち良いな」
「ぁ、あ、ッありがたき、おことばを……っあん、ぁ……!」
三本目の指が入ると、更にもう一本挿入する指を追加した。すんなり埋まっていくと、挿入した指を全てバラバラに動かし始める。
于禁の腰は故意ではなく、次は自然と揺れていた。自ら快楽を求める為に。
それを感じ取った夏侯惇は、尻に挿れていた指を引き抜いた。そしてすぐにまだ一度も精液を吐き出していない肉棒を、柔らかく解れた尻ではなく股にあてがう。
「たくさん、可愛がってやる」
「はい……」
耳たぶを軽く噛みながら、夏侯惇はそう囁いた。于禁は恍惚に塗り潰された瞳で、夏侯惇の横顔をチラリと見る。従順である視線を送ったのが夏侯惇に分かったのかは不明だが、その直後に肉棒が股の縁にめり込ませていく。
「っあ……ァあ、あっ、あ!」
「ぐっ、きつい……!」
先端のくびれ部分で縁を擦る。先走りにより、ぬるぬると音が鳴った。
少しずつ、少しずつ進めていくと、くびれが股の中に収まる。あとは根元まで全て押し込むだけなので、夏侯惇はそこから一気に奥まで貫いた。すると根元まで入った瞬間に、ぐぽっという音が腹の中から聞こえる。
「ッひ、ひゃあぁ! あっ、らめ、そこは、ぁ、お、アっ、ん、あっ!」
腹の奥まで先端がすぐに届くと、夏侯惇は腰を振り始めた。寝台からはぎしぎしと音が鳴り、于禁は女程ではないが高くなってしまった嬌声を上げる。
「文則、お前はよく働いているな。この国の為に、皆の為に」
耳元でそう褒めながら、于禁の頭を撫でた。すると于禁の腹の奥がぎゅうぎゅうと締まっていく。今にも食いちぎられそうな程に。夏侯惇に抱かれながら褒められ、とても嬉しいのだろう。
「お前には、いつも、助けられている」
夏侯惇は腰を振る速度も、強さも激しくしていく。結合部から、粘液と肌がぶつかる音が大きく響いた。夏侯惇は、獣のような呼吸音を出していく。
そのさなかでも于禁を褒めていくが、言葉がきちんと聞こえているのか分からなくなる程に、于禁が乱れていく。そして何度か射精していった。
「あっ、ゃ、ぁ、ォ、あっ! イく、あ、アん! アッ……あ、や、イく、イく! あ、ひ、あぁッ!」
「ぅあ……はぁっ……!」
まだ于禁の下半身からは透明になる程に、射精をしていない筈だ。それなのに夏侯惇が腹の奥に精液を注ぐと、下半身からはさらさらとした透明の液体を勢いよく噴き出す。しかし夏侯惇はそれの正体にすぐ気付いたのか、顔を動かして腰を痙攣させ始めた于禁と軽く口付けをした。
「潮を噴く程に気持ちが良かったか?」
「ん、はぁあ……は、い……」
激しく息切れしながら、何とか于禁は答える。それがとても可愛らしいと思った夏侯惇だが、自身の下半身はまだ満足できないので、腰を振る動作を再開させた。
「や、らめ、ぁ、あ……もうゆるひて、ひゃ、イく、ゃ、ア! あたまが、おかしくなる!」
目を見開いたと思うと、再び目を蕩けさせる。
それでも夏侯惇から与えられる快楽を受け入れていった。頭では限界と判断していても、体は限界と判断していないのか。
全身を赤色に染め、夏侯惇に何度も腹の奥を突かれ、そして精液を何度も注がれた。しまいには于禁は下半身から精液も潮も出さず、ただ嬌声を上げながら腰を痙攣させるのみ。その姿を夏侯惇は焼き付けるように見下ろし、腰を振り続けた。
そして夏侯惇が何度目か分からない射精をしたところで、ようやく于禁の股から萎えた肉棒を引き抜く。何度も精液を吐き出したので于禁の腹が、不自然に少し膨らんでいた。しかし腹の中から肉棒が無くなると共に、精液がごぽごぽと流れ出てくる。
于禁は閉まらない口を開け、舌を垂らした。それに光を宿していた瞳には、覇気も何も無い。
「はぁ、はっ、げん……じょう……」
そのような状態になっても、于禁は欲するように夏侯惇の名を呼ぶ。
「文則……」
夏侯惇はそれに対し、ただ于禁の名を呼ぶと、触れる程度の口付けをする。そして于禁を抱き締めたのであった。
とても、大切そうに。