ハワイでの一日後

とある夜のことである。ハワイのホテルの一室に向かう途中で、春日はぐったりとしていた。桐生はそれを案じるが、小さな笑みで「大丈夫です」と手をひらひらさせている。
この日はハワイの街中で、様々なトラブルに春日だけが巻き込まれていた。従業員の来ないレストランでの臨時の接客、試飲のレモネード配りなど様々である。一日中暇もなく起きていたので、ハワイに来たばかりで慣れない春日は疲れていた。桐生が取っているホテルの部屋に到着するなり、ふらふらとした足取りでベッドに向かおうとしていく。
だが桐生がシャワーを浴びてからの方がいいと指摘した。このまま寝てしまいそうであるからだ。疲れている中で言うのは、若干の躊躇があったのだが。
無理にシャワーを促したところで、春日は息絶えそうになりながらも桐生にとある要求をした。
「でしたら、桐生さん……また、俺を抱いて下さい……」
「あ? お前何言って……」
「俺、今すげぇムラムラしてるんですよ……もう、駄目なんですよ……桐生さんも男だから、分かりますよね?」
桐生は押し黙った。確かに、春日の言うことは同じ男として分かる。更に春日に求められているような目を向けられたので、桐生はこくりと頷きかけた。
しかし春日の体の負担のことを考えたら、首がどうにも動かなくなる。春日を激しく抱くことは分かっていた。だからこそ、自身を制御しなければと。理性を必死に働かせる。
「桐生さん……俺のこと、嫌いになってしまったんですか?」
人懐こい顔がしょんぼりとなり、桐生を凝視する。
その顔を見るなり、桐生のギリギリにまで耐えていた理性が見事に一刀両断された。ぶつんと幻聴のようなものが聞こえると、春日の腕を強引に掴む。モノはまだ反応していないが、感情は昂ぶっていた。
「シャワー浴びるぞ、春日」
「ぅ……はぁ、あ、桐生さぁん……」
期待をしているのか、春日は上擦った声を出す。それに大型犬のような、純粋に人がとても好きな表情などしていない。顔に張り付けているのは、性欲により一時的に常識を無くした人間のものである。
大股で春日の手を引いていくが、皮膚がとても熱い。かなりの興奮により、体の内側から熱が発しているのだろうか。意識の何もかもがままならないらしく、小さくなっていく歩みが覚束ない。転倒をされたら困るので、桐生は歩幅を小さくした後に春日に肩を貸した。
そこで顔が近くなると、ごく自然に春日と唇を合わせる。それは愛しさのあまりにであった。勝手に厚い唇に吸い寄せられてしまったのだ。むしゃぶりついていくうちに、遂に桐生のモノが反応していく。
「ん、んぅ……! んっ、ん、ん……!」
くぐもった声が聞こえるが、桐生はそれを無視しながら舌を出した。春日の両手首を拘束すると、壁に詰め寄る。春日の逃げ場を全て消したのだ。
本能のままに腰を押し付けると、春日は分かったようだ。しかし嫌がることなく、寧ろ盛り上がっている腰を押し付け返される始末。なので春日を睨みつつも、舌を突き出して開けろと合図のようなものをした。
春日の腰の動きが止まると同時に、唇が微かに開く。桐生はすぐに舌を突き入れると、そのまま春日の口腔内を蹂躪し始めた。中はぬるついており熱く、舌がよく滑る。とても気持ちが良い。
「ん……春日……」
合間に桐生が春日の名前を呼びながら、両手首の拘束を解いていく。
春日の手は自由になったが、だらりと垂れるのみ。桐生はそれを視界の端に入れながら、赤いアロハシャツに手を掛けた。この布が邪魔だと言わんばかりに、乱暴に脱がせていく。
腕を抜こうとしたが抜けないので、白いシャツをたくし上げた。胸の辺りまで上げる。逞しい体が露出するが、桐生にとってはとても官能的な体にしか見えない。だが言い方を変えるならばこの体は、二度と忘れることができないものである。代わりなど、この世に一人も居ない。
すると途端に桐生の胸が熱くなった。舌を引かせてから、密着させていた唇を離す。
「俺はお前のことを、嫌いになる訳がねぇ」
「桐生さん……」
目を合わせてそう言うと、春日の腰が抜けたらしい。ふにゃりと壁にすがりながら腰が降りていくが、桐生がそれを支える。
「……シャワーを浴びるぞ」
春日の返答を聞くことなく、桐生は脱衣所連れて行った。そして春日の服を全て脱がせると、自身も脱いでいった。体を引き寄せながら、二人で浴室に入る。二人は向かい合わせになっていた。
鏡には、春日の背中にある龍魚が映っていた。自身の背中にある応龍の前の段階の、龍魚である。しかし興奮が最大になっている今は、彫り物のことなどどうでも良い。なのでその龍魚を隠すように、両手でなるべく覆った。全てではないが、龍魚の姿が見えなくなる。
シャワーコックを捻ると、冷水が出た。二人で寒さに震えるが、すぐに温水に変わっていく。湯を浴びて数秒経過すると、桐生は春日の体の向きを変えた。鑑には、発情している春日の姿が映し出されている。出ている湯を止めた。
「桐生さん……?」
「文句は、言うなよ?」
そう言うと、春日は大きな瞳を細めた。良いということらしい。
なので桐生は春日の腹に手をゆっくりと這わせると、擽ったそうにした。それを上へと持っていくと、、次第に反応が艷やかになっていく。胸に辿り着くとそこを揉んでいくが、少し硬い。それでも桐生は触り心地が良いかのように、刺激を与えていった。
「ぁ、ん……桐生さん……そこ、きもちいい……」
「じゃあ、ここはどうだ?」
鑑越しに春日の反応を見ながら、指で胸の尖りを押す。すると体がびくりと動いた。
「ッあ!? あ、ぁ!」
「気持ち良くないのか?」
「いえ……きもちいい、れす……」
普段は良い滑舌でさえ、悪くなっていく。股間を見れば、我慢汁をダラダラと垂らしている。ニヤリと笑うが、そこはまだ触れない。最後の楽しみに取っておこうと思っているのだ。
両方の尖りを摘み、そして抓ると春日の背中が反れた。女のように、あんあんと喘ぐ。
「ん、ぁ……、あっ、ァ! あ、ん、ゃ……あ、ぅん、うぁ」
そして限界が来たらしく射精をするのかと思ったが、春日自身がそれを止める。自分の竿を、強く握ったのだ。さすがにそれは予想外のことなので驚いていると、春日が鏡越しに桐生の目を見る。
「おれ、桐生さんので、イきたい……」
「お前はやっぱり可愛いな」
顎を掬ってキスをすると、胸への愛撫を再開させた。尖りが腫れるまで、弄るつもりなのだ。くにくにと指で尖りをいじめていく。
「ぁ、あ、きもちいい! ア、っふ、あ……ぁ、ゃあ、きりゅうさん、すき、ぁ……すき、きりゅうさん」
春日の正気など、もうない。鏡の前で自分の竿を握りながら、快楽を与えられている。はしたなく舌を出し、瞳を垂らしている。普段の春日であれば、絶対にしないことだろう。好きだという言葉は、照れながらも伝えてくれるのだが。
「俺も好きだ、春日」
「っは、ぁ、ありがとうございます、きりゅうさっ、ん、ん!?」
一層強く抓ってやると、春日の目が一瞬だけ見開いた。直後に苦しげな顔をしながら、自分の竿を強く握る。恐ろしいことだがまるで、竿を折るかのように。
「ぐぁあ、ぅう……あ……!」
苦しげな声を漏らすが、どうにか射精を耐えたようだ。ピークは過ぎたらしいが、我慢汁が溢れていた。春日は今にも泣きそうな顔をしている。
「……よく耐えたな」
そう言って、桐生は春日と口を重ねた。褒美のように、角度を微妙に変えて合わせていく。
少ししてからキスを終えると、春日はぼんやりとしていた。頬が真っ赤になっており、口が閉じられないのか唾液がよく出ている。
「ベッドに行くか?」
耳元でそう囁くと、春日は無言でこくりと頷く。なのでもう一度温水をかけると、浴室から出た。水気を取ることなく、ベッドへと直行する。
ベッドの上に春日を乱暴に乗せると、桐生はその上に覆い被さった。まだ水で体が濡れているので、いつもより卑猥に見える。
「ほら、どうして欲しいんだ?」
これからやることは分かっている。だがわざとそう聞いてやると、春日は数秒だけ唇を引き結んだ。涙さえ流しそうである。体の水気が蒸発して冷えていき、少しの正気が戻ってしまったのだろうか。
だが下半身は正直である。覆い被さっていてもなお、春日の竿は上を向いているので時折に桐生の腹などに当たっていた。
「……っ! きりゅうさんの、ちんこで、おれのケツを、たくさん……突いて、なかに出されて、イきたいです……!」
最後は半ばやけくそになったように言い放つ。桐生は「まぁ、合格だな」とコメントすると、春日の膝の裏を持ち上げた。すぐに入口があらわになると、そこを指で触れる。
「少しは……柔らかいな」
「ん、んぅ……」
そこを触れただけで、春日は淫らな反応を示していた。桐生はそれだけでつい射精をしてしまうと、春日の腹や胸を汚した。日焼けした肌の上に、白色が侵食したのだ。
膝の裏を持ち上げた手を一旦降ろす。
「すまねぇ、先に……」
「いいですよ、でしたらおれも、その代わりにたくさんイかせてください」
「……仕方ねぇな」
余裕などないのに、春日が微笑む。桐生はそれに胸打たれたが、衝動を我慢しながら腹や胸の上の精液を指で掬った。春日の入口は、少し慣らしたら入るだろう。
しかし桐生はそれを待ち遠しくしながら、入口に指を差し込んだ。他のことなど考えられなくなる、その時を想像しつつ。
「ぁ、っう……は……ぁん、ん……」
春日の体がビクビクと震えた。粘膜を触れられ、感じていることが分かる。桐生はその様子がとてと可愛らしいと思いながらも、指を進めていく。案外、入口は緩かった。すぐに指一本が入ってしまう。
「もう……いいですから、きりゅうさん」
「いいのか?」
「はい」
本人がそう言うならば、と桐生は指を引き抜いた。ごつごつとした指の関節が粘膜に当たり、春日はか細い嬌声を出す。そしてまたもや、我慢汁も。
それらを見てから、桐生は再び膝の裏を持ち上げる。最初は春日はこの体勢を嫌がっていたが、今では一番好きな体位らしい。本人確認曰く、桐生の全てが入り支配されている感覚が強いからと。
誘惑してくる入口に、勃起している雄の先端をぴとりとくっつけた。入口の縁は腹が減っているのか、ぱくぱくと先端を噛んでいるように見える。相当に欲しがっているのだ。小さく腰を揺らすと、精液によりくちゅくちゅと音が聞こえる。
「きりゅうさん……」
「いくぞ、春日」
同時に挿入をしていくと、春日の腹の皮膚が更に張った。膝は震えながら、桐生の体を挟んでいく。この時点で、気持ちが良いという証拠である。
順調に形成される結合部を見ながら、桐生は唇の端を上げた。
「ほら、奥にいれるぞ」
入口の中を通ると、熱い粘膜に包まれていく。入れたばかりは緩かったが、奥に行くにつれて狭くなっていく。だが桐生の雄がぴったりはまっているように感じられた。
それくらいに、春日の腹の中が順応してくれているのだろうか。
「ひ! ぁ……きて、きりゅうさん……ぁ、あ……んっ、ん!? ぁ、あ!」
雄が最後まで入る。ばちゅんと破裂音のような小さな音と共に、春日が射精をした。桐生の胸だけではなく、自分の腹や胸を更に汚していく。春日の上半身は、精液に塗れていた。
「……っあ、きりゅうさん、うごいて」
「あぁ」
返事の後に、腰を緩やかに動かした。春日の体が揺れ、二つのネックレスがチャリチャリと音を鳴らす。次第に遺骨のペンダント部分がシーツに落ちると、桐生は腰を若干引かせた後に思いっきり突いた。
そこからは、激しいピストンをしていく。体勢からして、春日の体を潰すように。ベッドからは、ぎしぎしと悲鳴が上がっていた。そして肌同士がぶつかり、痛々しい音が部屋全体に響く。
「ひゃ、ぁ……あ、やらぁ! きりゅうさん、きりゅうさん、あ、はげし、ん、んっ……! イくから、きりゅうさん! ぁ……きりゅうさん、はぁ、あ!」
「っ……!? 春日、名前を、何度も呼ぶんじゃねぇ……! くそ!」
春日に名前を何度も呼ばれたことにより、勃起している雄が更に大きくなった。狭い腹の中が、より狭くなっているように思える。
「ひゃあ!? ゃ、あ!? ちんこが、もっと、おおきくなったぁ!」
眼下で、春日がもはや悦んでいた。淫乱な体だと心の中で口にすると、結合部が殆ど見えなくなるなるまで奥を貫く。
しかしそれでも黙ってくれないので、桐生は春日の唇を唇で塞いだ。
「んん、ぐ、んぅ、う……!」
春日の瞳からは涙がぼろぼろと溢れていく。理由は分からないが、その様が綺麗だと思えた。桐生は指で落とした涙を指で掬うと、唇を離してぺろりと舐める。塩っぽい味がしたが、後で甘いような味がした。その味を春日にも与えてやる。だが反応はない。
味を確かめたところで、桐生はピストンを緩やかに再開させていく。桐生の歯や舌に、春日の途切れ途切れの息がかかる。
「ひ、ぁぅ、ぅあ……! んぅ! ん、ん」
涙の次は唾液を垂らすが、これはすぐにシーツが吸い取ってしまっていた。桐生は少し残念に思っていると、射精感がこみ上げる。なので春日の体に抱き着いて固定していく。春日の膝が落ちた。
完全に固定したところで「出すぞ……!」と言うと、春日は桐生の背中に手を回した。その手はちょうど、背中にある応龍の体をなぞるように触れられる。擽ったいが、その動作でさえ愛しく思えた。その些細なことが、二人で一つになっていく高揚を焚きつけるのだ。
そこでピストンを徐々に激しくしていった。春日は喘ぎ声の断片のみを吐き出し、そして竿からはどんどん精液が吐き出される。一方の桐生は、腰を振ることだけに集中していた。最奥を目指し、ひたすらに腹の中をノックしていく。より奥の粘膜に擦り付け、そして何度か射精をする。
乱暴に見える性行為の後に、先に観念したのは桐生である。やはり、様々なことがあり体力が無いのどろう。一度大きな射精をすると、疲れた顔をしながら引き抜く。あれだけ張り詰めていた雄は、すっかりとしぼんでいる。軽く予想はしていたが、桐生の表情が固まる。
だが、春日はまだ満足していない。逆に桐生を押し倒すと、手を取った。どこにそのような力を残していたのだろうか。そのような疑問を放つ余裕などなく、手は春日の竿に向かって行く。
「きりゅうさんの手で……」
すると桐生の手のひらで、春日は自身の竿を擦り始めたのだ。桐生の手には、脈打っている竿の感覚をよく拾っていた。
しこしこと擦っていくと、春日は気持ちよさそうに射精をした。びゅるびゅると精液を吐き出す。手に付着したが、春日が桐生の手を持ち上げてちろちろと舐めた。まずそうな顔をしながらも、桐生にぎゅっと抱き着く。
「すき……」
「俺もだ」
「ずっと、このままこうしていたい……」
途中で春日が降りると、隣に寝てから抱き着いた。付着した精液は、シーツで拭ってから。
それでも精液の匂いが充満しているが、桐生は春日を抱きしめ返す。そして隣に居るのにも関わらず、部屋の照明で眩しいと思える春日を見ていた。