夏の終わり
夜が次第に肌寒くなってきていた。
于禁は薄手の毛布でも出そうかと、考えながら入浴していく。これからの予想気温や、毛布をしまった場所を思い出しながら。
入浴を終えると、長袖長ズボンの寝間着を着てから脱衣所を出た。愛し人である夏侯惇が待っている、寝室へとすぐに向かっていく。
先に入浴を済ませていた夏侯惇は、既に寝間着を着て寝室に居るだろう。そう思っていた于禁だが、寝室へと入ると予想は外れていた。
「いつもの格好をしているというのに、何だか寒くないか? 冷房が効きすぎなのか?」
夏侯惇は半裸に下着のみという、室内での真夏の格好をしていた。ベッドの上に座り体をガタガタと震わせながら、険しい表情で露出している肌を擦っている。
だが入浴を終えた于禁が近付いてくるなり、驚いた顔へと変えていて。
「お前……その格好は……?」
「寝間着ですが」
有り得ないと言うような口調で、夏侯惇は于禁の服装を指差す。なので于禁はこちらの台詞だと言おうとしたが、夏侯惇は相変わらず寒さで体を震わせながら指摘になっていない言葉を放つ。
「冷房を消したら暑いぞ」
「冷房など、点いていませんが」
夏侯惇は「そんな訳……」と言いかけ、エアコンを見た。確かに吹出口は開いておらず、電源が点いている証としてのランプが点灯していない。そしてエアコンのリモコンを確認すると、操作された形跡が皆無。
なので于禁の方を見てからもう一度、リモコンを見ると于禁の方へと視線を戻した。
「今は……こんなに涼しくなったのか……」
「はい。ですので、きちんと寝間着を着て下さい。体調を崩されたら皆が困ります」
于禁は寝室から出て、夏侯惇の寝間着を持って来ようとした。しかしそれは、ベッドから立ち上がった夏侯惇によって制止されてしまう。
「寝間着は明日から着ることにしよう。だから、今夜はお前で暖をする。抱き枕にするぞ」
「私が寝辛いので……」
断ろうとしたのだが、于禁は夏侯惇に手を引かれてベッドへと連れて行かれていた。そして布団を掛けられると、下着のみの姿の夏侯惇がすぐに抱き着いてくる。しかし夏侯惇の手足はとても冷たく、于禁の少しの部分だけ露出している肌にそれが触れた。瞬間に、体全体が一瞬だけ強張ってしまう。
「そこまでお寒いのであれば、布団に入っていればよろしかったのでは?」
于禁の言葉は冷たいものの、夏侯惇の体をまだ暖かい体で包むように覆っていた。于禁から与えられる暖かさが嬉しい夏侯惇は、猫のように丸まっていく。
「お前が居ないと、寒くてな」
そう笑った夏侯惇は、于禁の背中へと手を回していった。一人で感じていた寒さなど振り払い、于禁の暖かさを更に得る為に。