甲の痕

甲の痕

ある夜、就寝前に于禁は夏侯惇を背後から抱き着いていた。それに夏侯惇は、一切の抵抗も示さずにいて。
互いに寝間着姿であるが、于禁は夏侯惇のうなじに唇を這わせる。そこが弱い夏侯惇は体を震わせると、力が一気に抜けた。思わずベッドの上に倒れそうになったので、于禁は唇を少しだけ離してからしっかりと抱き留めて支える。
夏侯惇がベッドの上に倒れずに済んだのか、于禁は再びうなじに唇を這わせた。
「ッは……うきん……」
背後に居る于禁に、夏侯惇は求めるように横目で見る。しかし于禁と目が合うが、夏侯惇の求めなど無視していて。
「たまには、ここもきちんと使わないと」
于禁はそう言って夏侯惇の寝間着を全て脱がせていき、下着をずらす。
下半身は興奮により盛り上がっているのを、一気に曝された。だがそれよりも夏侯惇は尻を弄って欲しいのか、自身と同様に盛り上がっている于禁の下半身に尻を擦りつける。
「なりません」
それを律するように于禁は夏侯惇の下半身を強く握った。夏侯惇の体が大きく跳ねる。
「ぁ! あ、ちが、うきん、しりを、っや、ア……!」
次々と溢れ出てくる精液を潤滑油にして、于禁は夏侯惇の言葉を無視しながら上下に扱いていく。うなじに唇や舌を這わせることに加え、弱く歯を立てながら。
背後から顔は見えないが、夏侯惇の耳はどんどん赤くなってきている。于禁は早く夏侯惇の乱れた表情を見たいが、それよりも今はこうして虐めてやりたいという気持ちが強い。うっとりとした声音で、夏侯惇に静かに話しかける。
「顔が見えずとも、あなたはお綺麗だ……」
下半身を扱く動作を一時的に止め、うなじの次は肩に唇を移動させる。だが最早今は、夏侯惇の体の全身が性感帯になっているらしい。肩にも唇が触れられた瞬間に腰を震わせて、下半身から精液を吐き出していた。先程のものよりも、薄くなってきているものを。
「や、ぶんそく、はぁ……っん……」
抵抗や反論する力も思考も消えてきた夏侯惇は、于禁から与えられる快楽にひたすら悦ぶ。
下半身を扱く動作を再開させると、夏侯惇は体を跳ねさせた。
だがひたすら上下に扱くのを于禁は面白くないと思い、先端を手の平でねじるように擦る。いやらしい水音と同時に、夏侯惇からは先程とは違った喘ぎ声が出てきた。
「ぃ、あぁ、あっ、ひあぁッ!」
夏侯惇の下半身から薄くなった精液が出ると、整っていない呼吸を吐きながら体をぐったりとさせる。その様子を背後から見て、于禁は夏侯惇をベッドに仰向けに寝かせた。
普段は垂れていない瞳がとろりと垂れており、顔はやはり全体を赤らめさせている。視点は定まっていないが、数秒経過して于禁の方へと視点をようやく向けた。両方の手首から上のみを于禁へと伸ばすと、へらりと弱く笑う。
「おまえも、つらいだろう……」
夏侯惇は太腿を震わせながら両脚を開く。充分に射精ができたのか下半身は萎えているが、尻の艷やかな色の入口は伸縮を小さく繰り返していた。
今の夏侯惇はもう、快楽により下半身から精液を吐き出すことはできないだろう。それでも、尻で快楽を得ることは可能である。そう思った于禁は興奮に限界が来ていた。
「尻でイきたいから、ぶんそくのがほしい……」
于禁に熱っぽく誘惑すると、その言葉によりとどめを刺された于禁は着ていた寝間着を脱ぎかけてしまっていた。
しかし今回の本当の目的は、夏侯惇になるべく体の負担を掛けないように気持ちよくなって欲しかったらしい。最近、夏侯惇の体にやはり負担をかけているのではないかと、不安になってきていて。
于禁は尻に挿れられる側の立場にはなったこともないし、負担がかかるからと立場を変えることを前に夏侯惇に提案したが、それを強く拒否されていた。それは絶対に嫌だ、と。
「……よろしいのでしょうか?」
まだ今日は引き返せるという意味も含ませて于禁はそう聞くと、夏侯惇は確実に頷いた。
「ぶんそくに抱かれて、きもちよくなりたい、はやく……」
于禁を誘惑する方法など、夏侯惇は分かっている。なので入口を指で広げ、その卑猥な色と有様を見せつけた。すると于禁はすぐにその誘惑に負けてしまう。言葉のみは、理性を失っていない振りをするが。
「……後悔しますよ」
「おまえに抱かれて、後悔したことなど、いちどもない」
脱ぎかけていた寝間着を脱ぐと、覆い被さった。于禁は夏侯惇の口に指を二本入れる。一瞬だけ指が入ったことに驚くが、その後の夏侯惇はそれを受け入れていた。入ってきた指を、舌で熱烈に迎える。
「ん、んぅ! ふッ……んん……」
夏侯惇は必死に于禁の指を恍惚の表情で舐めていく。自身の唾液がしっかりと絡むように、とても念入りに。すると頃合いだと思った于禁は指を引き抜く。
「解しますよ」
余裕のない表情でそう言うと、唾液に塗れた指を夏侯惇の入口へと持っていく。ぬちゅり、という音を立てながら入口に指先を立てた。
「ッあ、あ……ん」
つぷり、という音と共に指が入っていく。当然のように狭いので、少しずつ広げていきながら。
指を一本ずつ増やしていったところで、入れた指を小さく動かした。場所など当然のように把握している前立腺を掠めるとその度に夏侯惇の体が跳ね、垂れている瞳は色欲で溢れている。だが下半身は今は萎えたままで、反応が皆無だ。
「ぶんそく、もう、いいからっ」
「やはり更に奥の方が、良いのですか?」
于禁はそう聞きながら前立腺をコリコリと押すと、夏侯惇は嬌声を上げながら腰を痙攣させた。射精を伴わない絶頂を迎えたのかと判断した于禁は、このまま気を失われては困ると指を引き抜く。
夏侯惇の体を持ち上げ、四つん這いの体勢にさせる。だが足腰に力が入らないようで、尻のみを突き上げている格好になっていた。于禁はそれを気にすることなく夏侯惇の腰を掴むと、入口に勃起している怒張を宛がう。夏侯惇はその感触を感じ取ったのか、更に急かすように突き上げている尻を振った。
その様を見てから、夏侯惇の背中にぴったりとくっつくように伸し掛かる。夏侯惇のうなじに口を近付けると、唇で触れながら怒張を押し込んでいく。
「ぁ、あっ……おっきい、ひ、あ! ゃ、はぁ、あっ!」
舌でうなじを舐めると、中が強く締まってしまった。なので于禁はその動作を一時的に止めてから、怒張を奥へと入れていくことに専念する。
指のように少しずつ押し込んでいくと、前立腺のある場所にまで先端が届いた。于禁の怒張のくびれがそれを掠めると、夏侯惇はまたしても絶頂を迎えてしまう。だが意識を飛ばさないようにと、片方の手でもう片方の手の甲を力の限りつねった。
于禁はそれを見て腰を掴んでいた手を離し、夏侯惇のその手を解いた。つねっていた夏侯惇の手の甲には、うっすらと赤い痕が残っていて。
「……すぐ、終わらせますので」
「んぁ、は、やだ! っぁ、あ、すぐ、おわらせないで!」
侵入を進めながら于禁はそう言うと、夏侯惇の腰を再び掴んだ。手の甲をつねらせる暇を与えないようにするために。夏侯惇に自らの体を傷つけさせないために。
そして一気に怒張を強引に奥に押し込むと、夏侯惇の腹からごぽりという音が鳴った。音夏侯惇は声すら出ない程の絶頂を迎える。だが次は自身の手の甲ではなく、シーツを弱々しく握っていた。その指先は、薄い白色に変色している。
そこから何度も何度も夏侯惇の腹の奥を打ち付けながら、うなじに舌を這わせていく。やはり腹の中を強く締め付けたのか、于禁はあまりの気持ち良さにその中で叩きつけるように射精をした。しかし于禁の怒張はそれだけでは萎えない。精液を空気に触れさせるつもりはなく、密閉するようにまだ腹の中に埋まっている。
「あぁ、あ……」
腰だけではなく、夏侯惇は体全体を震わせた。于禁はその震えを抑えるように、夏侯惇の腰ではなく次は体全体を腕で包み込む。肌はかなりの熱を持っていた。震えが少しは治まったところで、激しいピストンを再開させていく。
夏侯惇はもはや喘ぎ声が出せないのか、喉から空気をただ口から漏らすのみ。于禁はそれでも、射精を何度もしていてもピストンを止めるつもりはない。夏侯惇の腹の奥に何度も何度も怒張を強く突いた。そして舌を這わせていたうなじに、次は歯を軽く立てる。
于禁は何度目か分からない射精を、夏侯惇は何度目か分からない絶頂を迎えた。
すると夏侯惇はそこで意識を飛ばしてしまったようだ。
その際に、「好き」という言葉を微かに呟いていた。于禁はそれを確かに聞いていたので、それに応えるようにつねった痕がまだ残っている手の甲に、柔らかくキスしていて。