狭い二人の世界

狭い二人の世界

ある金曜日の夜のことだ。二人で家で夕食を取った後、今日は于禁が当番なので洗い物をしていた。
だが夏侯惇は食後にソファーに座り、ワイシャツをよれよれにさせながらぐったりとしている。一週間分の疲れが溜まっているなのか、そこから動けない様子らしい。かなり疲れた顔をしている。
「早めに入浴を済ませて、休まれてはいかがですか?」
洗い物を終えた于禁は、夏侯惇の隣に並んで座ってそう提案した。于禁も一週間分の疲れが溜まっている様子であり、同じくワイシャツに張りが無くよれている。
「もう少ししたら、風呂に入る……」
それを聞いて溜息をついた于禁はソファーから立ち上がると、キッチンスペースにある給湯器のボタンを操作して風呂を沸かす操作をした。そうした理由は風呂が沸けば、夏侯惇がソファーから動いてくれると思ったからだ。そうすれば、夏侯惇は早めに休めるだろう。そう思っていた于禁だが、思惑は外れたようだ。
「風呂が沸いたら、先に入っていいぞ。俺はしばらくこのままでいる」
夏侯惇は体勢を変えないまま、視線のみを于禁の方に移すとそう言って視線を体と同じ方向に戻した。先程よりも、入浴する予定を伸ばしながら。
于禁は再び溜息をつくと、夏侯惇の近くへと戻った。
「先に入られてはいかがですか?」
「体が怠くてな……では、お前が俺を風呂に入れてくれるなら、すぐにでもいいぞ」
夏侯惇は若干笑いながら、冗談混じりにそう言う。
しかし于禁はそれを冗談とは受け止めていなかったらしい。それに頷いてから、部屋を出たかと思うとすぐに戻ってきた。手には于禁自身の寝間着と下着、それに夏侯惇の寝間着と下着を持っている。すると給湯器のパネルを覗き、風呂が沸く残りの時間を確認した。
「残り、五分以内で沸きます」
軍人が報告するように于禁はそう言う。その後に持ってきた二人分の寝間着と下着を脱衣所の籠へと入れ、再び夏侯惇の元に戻った。
「……あぁ」
夏侯惇は冗談のつもりで言ったのに、真に受けてしまっている于禁を見て何だかどうでもよくなっていく。溜まっている疲労のせいで頭が回らないのか。もう面倒なので後は于禁に任せることにした。
「あと少しですが、もう入ってしまいましょうか」
そう于禁が言うと、相変わらずソファーに座っている夏侯惇に密着する。そして夏侯惇を横抱きにして、そのまま浴室へと向かうところだった。そこで夏侯惇はそれを焦りながら制止させる。
「待て、俺一人で歩けるから下ろせ!」
「なりません。相当お疲れの様子なので」
于禁の意思は無駄に固い。それをすぐに察した夏侯惇は諦めたらしく、横抱きにされたまま脱衣所へと運ばれていった。重くはないらしく、とてもスムーズに。
「服は一人で脱げますか?」
「……あー! もういい! 寝るまでの俺の世話をほぼ全てしてくれ!」
脱衣所へ運ばれていくと、夏侯惇は何もかもどうでもよくなったらしい。于禁にそう命じるとすぐに「御意」という返事が返ってきた。とても真面目な表情で。
于禁は夏侯惇の服に手をかける。だがそこで夏侯惇は念を押すよう、そして機嫌を少し悪くさせながら言葉をかけた。
「言っておくが、今の俺に手を出すなよ? もしも手を出したら、一ヶ月は口を全く聞かないからな」
「分かっております」
とても冷静な声が返ってきた。それとともに、夏侯惇の服をどんどん脱がせていく。そして下着に手を掛けてから脱がせると、于禁は自分の服も脱ぎ始めた。
「えっ、于禁も?」
「ついでに一緒に入ろうと思いまして」
「……俺に手を出すなよ」
「分かっております」
夏侯惇は先程と同じ言葉をかけると、于禁は先程と同じ返事を返す。そうしていくうちに、于禁も服を全て脱ぎ終えたようだ。それらを近くの洗濯機に入れる。
夏侯惇の腰に手を回して浴室へと入ると、鏡の方を向くように風呂いすに座らせた。シャワーヘッドを取り出し、夏侯惇から離れたところで手のひらで温水が出るか確認し始める。だが冷水が出ていたので数秒程冷水を出し続けて、ちょうどよい温水が出たらしい。もう一つ風呂いすがあるので、それを夏侯惇の後ろに置くと于禁は座った。
「上から湯をかけます」
「ん」
夏侯惇がとても短い返事を返した後に目を閉じる。それを確認した于禁は頭から湯をかけ始めた。温かい湯は夏侯惇の髪全体を濡らし、そしてそれが肩や腹へと落ちていく。
「熱くはありませんか?」
「大丈夫だ」
湯の熱さについて聞いた後、シャワーの湯を切る。そしてシャンプーボトルから手のひらにワンプッシュ出すと、それを泡立ててから夏侯惇の髪に馴染ませ始めた。髪全体に泡が行き渡ったところで、次は頭皮を軽く揉むように根元までしっかりと馴染ませる。爪を立てないよう指の腹で丁寧に。そうしていると、夏侯惇はボソリと呟いた。
「気持ち良すぎて、眠たくなってきた……」
「ここで眠られるのは、さすがに困ります」
「ん……」
頭皮まで泡を馴染ませたのか于禁は「流しますよ」と言うと、夏侯惇は短く返事をする。なので上から湯を流して泡を落とし始めた。時折、指の腹で髪を梳かしながらも。
それを流し終えると、次はコンディショナーを髪全体に馴染ませる。ポンプからワンプッシュして出すと、手のひらに広げて馴染ませてから湯で流し始めた。
「体は背中だけでいい。前は自分でやる」
湯で流し終えたところで、夏侯惇は振り向いてそう言った。于禁の冷静な目を見ながら。
「宜しいのですか?」
于禁がそう聞いたので、夏侯惇はコクリと頷いた後に鏡の方へと視線を戻した。于禁は夏侯惇のボディタオルを取り、それを湯で濡らしてボディソープのボトルを二回プッシュしてからそれを泡立たせる。白い背中に当てようとした、そこで夏侯惇は再び振り向いた。
「やっぱり背中とそれに、腕も洗ってくれないか? 何だか面倒になってきてな」
「はい」
泡立たせたボディタオルで夏侯惇の、まずは首の後ろを撫でた後に肩甲骨周りを撫でる。だが夏侯惇はそこを撫でられると妙に擽ったいようで、クスリと笑った。それを見た于禁の手がピタリと止まる。
「んっ……擽ったい」
「頻繁に触れている箇所なので、良いのかと思ったのですが……」
本人からしたら純粋な回答をする于禁だが、夏侯惇は顔を急激に赤くした。温かい湯のせいではなく、于禁のその回答のせいで。
「確かに、お前によく触られているところだがな……」
夏侯惇が顔を赤くしているのも、思った言葉を吐き出そうとしてそれを飲み込んでいるのも、于禁は全く気付いていない様子だ。それぞれ湯のせいなのと、擽ったい様子であるからと見てなのか。
再び手を動かして肩甲骨をある程度撫でると、次は腰を撫で始める。だがそこも夏侯惇は擽ったいようだ。体が小さく跳ねる。
「っあ、ん……そこも、だめ……」
そう声を漏らすと、于禁は顔を赤くして手が止まった。鏡越しに見える、赤くした夏侯惇の顔を見て余計に。
「……へ、変な声を出すのは、止めて頂きたい!」
体を洗うのに集中するために、手を動かして再び腰を撫でた。しかし夏侯惇の反応は変わらない。
「ひ! ぁ、あんっ……」
その反応を見て興奮したのか、于禁の雄が固く芯を持ってしまった。そしてその雄が夏侯惇の尻の割れ目に少しばかり当たった瞬間、夏侯惇の体が大きく跳ねる。
「や、なんで勃って……」
「あなたが、そのような反応をするからでしょう」
夏侯惇はつい、于禁の方を振り向いてしまう。そこには先程の淡々と夏侯惇の体を洗っている顔は無くなっており、代わりに本能に柔順な顔へと変わっていた。だが夏侯惇との「手を出すな」という約束があるのか、眉間にかなり深く皺を刻んで必死に耐えている様子だが。
しかしそれを見た夏侯惇は、更に興奮してきたらしい。自身に対してそこまで興奮し、そして言った約束を守ってくれていて。むくむくと熱と芯を持ち始める雄を見ると、自分で交わした約束などすぐに破り捨てた。自ら体についた泡を湯で流し切ると、鏡ではなく背後に居る于禁の方へと体を向ける。
「約束は、もういい……」
声さえも熱を持たせながら短くそう言うと、夏侯惇は于禁の固く芯を持った雄を口に咥えた。咽るような雄の匂いが残っていてそれが更に興奮を加えたようなのか、それを取り除くように舌を這わせる。そしてその際に大きなリップ音が鳴るが、ここは浴室なので大きくそれが響いた。それを聞いた于禁は、聴覚を刺激されてすぐに射精をしてしまう。
「は、はっ、ふっ、ぐ、んっ……!」
夏侯惇の口腔内に精液が注がれると、それをほぼ全て飲み込んでから口を離す。微かに唇の隙間から漏らしていたが。
「疲れているからか、いつもより元気だな」
唇の端に垂れた粘性の高い精液を、指で掬いながら舌で拾った夏侯惇はニヤリとした。そして于禁を浴室の床へと押し倒してから覆い被さる。それに対して于禁は抵抗も疑問も持っていない様子だ。夏侯惇と、それに天井をただ見つめた。
「床が硬いから、お前が下になって俺を抱け」
「はい、喜んで」
于禁は即答した。そして覆い被さってきた夏侯惇の腰に手を回すと、そのまま尻穴へと指を向かわせた。荒くなり始めた息がかかるほど、二人は互いに顔を近づける。鼻先が今にも衝突しそうだった。
「慣らしますよ」
尻穴を指先で触れられた瞬間、夏侯惇はすぐに蕩けた顔に変わる。それを目の前で見て、于禁は早く体を繋げたいと思ってしまっていた。だが首を横に小さく振ってそれは駄目だと言い聞かせ、尻穴に中指を埋め始める。
「っや、あ、んっ……」
尻穴に指が入ってくるのは慣れているのか、夏侯惇から苦しげな声は出なかった。ただ于禁を更に興奮させるだけの声が漏れる。于禁から与えられる快感を既に何度もそこに刻まれ、脳と体が完全に覚えてしまっているのか。
「もう、気持ちが良いのですか?」
指の輪郭を縁に締め付けられる感覚と、腹の中の熱く狭い感覚が同時にきた。そしてそこは拒むことをなく、引き入れるように指の侵入を許し続ける。そこも確実な意思を持っているかのようだった。
「ぁ、きもち、い、あっ、や……!」
一気に指を三本までに増やすが、容易く侵入を許した。さすがに于禁はそれに驚いたのか、すぐに引き抜く。
だが夏侯惇は相変わらず蕩けた表情のままだ。それを見てごくりと喉を鳴らした于禁は、何も言わずに天井に向かって垂直になっている雄を尻穴に宛てがうとそのまま挿し始めた。
「っく、あぁ、ゃ! まって、まだ、んぁ、あっ、ああ……!」
夏侯惇はそれに驚いたようで一瞬だけ目を見開くが、雄がズルズルと入ってきたことにより快感を拾ってしまったらしい。蕩けた表情にまた戻った。そして制止を求める声は喘ぎ声により妨害されてしまう。すると制止を求める言葉は、もう出す気にはならなくなったのか雄が埋まっていくごとに、雌のように啼き声を出し続けることしかできなくなっていった。
「ぁ! はあ、あ……ん、あ、ぁ……!」
于禁の雄は夏侯惇の腹の中をどんどん貫いていく。そうしていくうちに、覆い被さっている夏侯惇の腕に力が入らなくなっていった。がくりと落ちて于禁の胸元に顔を埋めると、その状態で喘ぎ続ける。于禁はその夏侯惇の濡れた頭を手で数回撫でると、それを合図に雄を一気に腹の中を貫いた。
「ぅあ!? あ……あアぁっ!」
そこで少し動くと、腹の中からぐぽりと粘膜を掻き分けるような独特な音が鳴った。その音が聞こえると、于禁は夏侯惇の尻を両手で固定してから腰を揺すった。次第に腰を激しく揺さぶると、腹の中からぐぽぐぽと連続音が聞こえてくる。それと同時に腹の中の熱い粘膜が埋まっている雄を離すまいと、きつく締め付けてきた。その刺激により、固定している夏侯惇の尻を指先で少し強めに掴んでしまう。だがそれを緩める思考などもう無かった。無我夢中で、夏侯惇の腹の中から雄を引いては貫くを繰り返す。
「あっ、らめ、あッ! お、ぁ、イく、あぁ! ……ぁ、アっ、またらめ、イっちゃう、や……ぁ、あぁ! や、またごしごしひないで、ぁ、あ……あたまおかしくなる、ひぁ、あっ……や! イぐ、ア、あぁッ!」
夏侯惇は何度か射精していたが、同じく何度も射精しながらも于禁は腰を振り続けた。夏侯惇の腹の中は于禁の精液で満たされ始め、ごぽごぽと卑猥な音も混じる。そして于禁の上半身はぬらぬらとする精液に塗れるも、二人はそんなのを気にする余裕などなかった。それにより強い雄の匂いが浴室を充満させる中であっても。
すると夏侯惇が射精をする度に感度が上がっていき、限界を迎え始めていた。夏侯惇の手は于禁の肩を震えながら掴み、そして指先が白くなるほどに爪を立てている。于禁は肩の痛みにより顔を歪ませるも、雄に加わる快感の方が勝るのか痛みなどどうでもよくなっていた。
「はっ、は、はぁ、はっ……」
だが今の体勢を維持するのを止めようとしている。この体勢のままでは、夏侯惇により多くの快楽を与えられないと判断してか。なので名残惜しそうに雄を引き抜いた。そして抵抗をする力がない夏侯惇を抱えてから顔を確認すると、だらしなく口を開いて舌を出していた。
腹の中からは精液が大量に流れ出ていてそれを見ながら、壁に手を着けさせるがまともに脚が立たない状態だ。なので于禁は後ろから夏侯惇を支えるように背中に張り付くと、夏侯惇の手を上から重ねて動かないように固定させる。そして再び栓をするよう、雄を一気に腹の中へと貫けてしまった。そこは女の膣のように柔らかいせいなのか。
「ゃ、っあ! あぁ……ん、ぉ、あ、は、あぁ! アァ、あっ!」
夏侯惇は薄くなった透明に近い精液を雄から垂らし、于禁も腹の中で液体を吐き出す。それでも再び于禁は腹の中で腰を振ると、ぱんぱんと滑らかな皮膚同士がぶつかる音も加わる。
その途中で二人はまともな言葉を発することは無くなり、快楽により自然に漏れる声のような音を連続で発し続けた。
「ぅあ、はっ……はっ、はぁっ、はっ」
「ああぁあ! あ、あっ……は、や、ぁ、アっ、あぁあっ! ァ、あ! あっ! あぁッ!」
夏侯惇の雄が自らの透明な液に塗れると、于禁は掴んでいた片手を離して代わりにそれを包むとしこしこと扱き始める。夏侯惇の腹の中の締め付けが一層強くなり、それにより于禁は中で射精した。するとそれの刺激なのか、夏侯惇の雄から透明でサラサラとした潮を吹き出す。
「〜ッ、ア、ひあァっ!」
そこで于禁の固い雄の芯が失われると、夏侯惇がぐったりと体を壁に寄りかかる。なので雄を引き抜くと于禁は何も言わず、夏侯惇をこちらに向かせて抱き寄せて唇を合わせた。すると互いに舌を出してそれを上顎や歯列に這わせ、そして熱い息を送り合う。二人は目を閉じ、時折声を漏らしながらちゅくちゅくと舌を絡ませ始めた。浴室で二人の呼吸と舌が絡み合う音のみを大きく響かせながら。
そしてとても長い間、舌を絡ませるとようやく唇を離す。その間、二人の時間は止まっているような錯覚に陥っていた。二人だけの世界、そして二人だけの時間に浸っていたのか。
夏侯惇はかなりの恍惚の状態になっており、于禁は雌に種付けをした直後の雄の顔をしている。
「げんじょう……」
于禁は夏侯惇の字を呼ぶが、とても久しぶりに言葉を発したような気がして少し拙いように感じた。一方の夏侯惇はまともな言葉を発せられる程に舌が回らないので、喉から言葉ではなく音を出してそれに応じた。
「ん……」
「いっしょう、愛しています」
喋っているうちに呂律が戻ったらしい。最後ははっきりと言葉を発音できると、夏侯惇はとても微かに笑いながら于禁の腰に手を回したのであった。