まずは、言葉から。

まずは、言葉から。

目を覚ますと、反射的に家ではないことに驚く。しかしすぐに冷静になり、慣れない寝心地のベッドから起き上がった。現在の時刻は午前十時。昨夜いつ眠ったのかは分からないが、少なくとも十時間は寝ていただろう。
周囲を見渡し、自身の荷物を確認する。そういえば、どこに置いてしまったのだろうかと。すると服は前にある浴室の扉の横に、ハンガーに掛けてあった。隣には昨日着ていたスーツもハンガーに掛けてある。
そして通勤鞄だが、そういえばこの部屋に入ってから触った覚えがない。湯で暖まっていた間に、于禁がどこかに置いてくれたのだろう。しかし立ち上がって探してみると、すぐに見つかった。ベッドに丁寧に立てかけてあったのだ。
鞄を持ち上げると、ベッドの縁に座る。于禁に何か触れられた気配はない。警戒はしていないし、不審に思ってはいないが一応中身を確認した。やはり荒らされた形跡も、財布の中身を取られてもいない。なので于禁に失礼と思いながらも、安堵をしてから鞄からスマートフォンを取り出した。充電は残り二十パーセントしか無い。だがその中でも通知を確認したが、于禁から何も連絡は来ていなかった。
小さな溜息をつくと、こちらからすぐに于禁に謝罪をした方がいいと思えた。メッセージアプリを開き、素早く『昨夜はすまなかった』と入力した。しかし送信ボタンをタップできず、指先を震わせる。これで、このように短いものでいいのかと。
メッセージアプリを開きながらこう思ったのは初めてである。
「いや、なるべく早く送らなければ……謝罪は、なるべく早い方がいい……」
スマートフォンに向かい、そう呟くが意味など全くない。首を大きく横に振ると指先にぐっと力を込めてから、ようやく送信ボタンをタップできた。
すると力が一気に抜け、スマートフォンをベッドに投げて仰向けに寝る。真面目な性格の于禁ならば、返事をしてくれるだろうかと、今更ながらに考えてしまっていて。

于禁に謝罪のメッセージを送ってから一日が経過した。今は日曜の昼過ぎである。
夏侯惇は昨日から丸一日、スマートフォンをずっと見ていた。このようなことは初めてだが、目が疲れて来ている。それに、心もだ。于禁からの返事をずっと待っていたからだが、まだ何も来ていない。なので夏侯惇は頻繁にスマートフォンの通知を確認しては、項垂れていた。
もしかしたら来ないのではないか、もしかしたら無視をされているのではないか。幸いにも、メッセージのやり取り自体はできていた。単純に、于禁から夏侯惇のアカウントをブロックをされていないからだ。なのでそれを何度も確認して、不安を相殺していく。
土日はプライベートのことで忙しいのだろう。平日の落ち着いた頃にでも、返事をくれるのだろう。そう考えようとした夏侯惇は、スマートフォンを見ることを控えていたのであった。

それから三日が経過した。今日は木曜日だが、于禁からはやはり何も来ていない。
今週は情けないことに于禁から来るであろう返事のことばかり考えてしまい、仕事に集中できなかった。ショックと希望が渦巻き、ほとんど何も考えられなかったからだ。曹操などに心配をされたが、何でもないとひたすらに答える。考えていることについては打ち明けていない。
するとやはり直接謝った方が良いと考え、仕事の合間にメッセージアプリを開いた。そして于禁へと、メッセージを加えて送信する。内容は『直接謝りたい。明日の午後七時に、バーの最寄りの駅前で待ってる』と。
すぐにアプリを閉じると、夏侯惇は気合いを入れて仕事をしたのであった。明日は、きちんと定時に帰る為に。

于禁からまたしても何も返事が無いまま、次の日の夕方を迎えた。
しかし定時に帰られないでいる。直前に、重大なミスを侵していたからだ。仕事に集中はできたものの、于禁のことを脳内で時折に考えてしまっていた。
このままでは一方的にしたものだが、約束の時間に間に合わない、そう思った夏侯惇は泣く泣く于禁に『仕事が立て込んだので約束を守れなくなった。すまない』と送った。その後はスマートフォンを見ずに、黙々とミスの修正に追われていた。確認だけはしてくれていると信じて。
ようやく会社を出ることができたのは、午後の十時前である。スマートフォンで時刻を確認するついでに、于禁からの返信が来ていないか通知一覧を開き次々と消していく。だが于禁からの通知は、無かった。
もう、于禁との関係は途絶えたのかと絶望しながら駅に向かう。日付はクリスマスイブの二日前であり、本日は金曜日だ。駅の建物周辺になるとどこを見渡しても人だらけで、特にカップルが目立つ。人の波が大きく、間を通って歩くことがあまりできない。夏侯惇は溜め息をつきながら、人々の隙間にいつ入ろうかタイミングを窺おうとしていた。
だがそこで、ふと見慣れた人影が視界に入った。駅の建物の壁にすがり、ぼうっと空を見上げている人物が。これほどの人混みの中でも、よく見つけられたと夏侯惇は思った。とても不思議な話ではあるが。
気のせいかと思ったが、これは幻覚ではなかった。
「于禁……!?」
その人影へと走って向かうと、自然と話し掛けてしまう。それの雰囲気で、于禁と確定してしまったからだ。勿論、人影から焦った声が出る。
「ち、違います! 私は、偶然にこの駅に降りてしまっただけで……!」
こちらに目を合わせてはくれないが、その瞳が泳いでいるのが分かった。表情は変わらずしかめ面だ。僅かに警戒心が見えるが、急ごしらえで作ったのが丸見えである。
煌びやかな街の灯りで、于禁の慌てぶりがよく見える。鼻が赤く真っ白な吐息を吐いており、体を震わせている。寒さからくる、自然な体の動きなのだろう。恐らくは于禁がずっと待ってくれていたことが窺えた。約束していた時間から今までずっと、来れなくなったという連絡をしていたのにも関わらず。
夏侯惇は顔を綻ばせながら、于禁の手を掴む。冷え切っているので、暖めてやるように擦った。不安の感情など、ついさっき投げ捨ててしまったからだ。于禁に嫌われている訳ではないからという。
証拠にこの冷たさで分かるくらいに、ここまで待っていてくれたからである。夏侯惇は、嬉しい気持ちを溢れ出させた。
「于禁、好きだ」
両手で于禁の手を包み込むと、静かにそう告白した。人への好意を予感だけで済ませてはいけない。
人間には『言葉』という手段がある。相手に思いを伝えるには最大に適しているうえに、最終的にはそれが一番確実だった。しかしそこでふと思ったが、このような状況がどうにも既視感あるような気がする。いつどこでだったのかは思い出せず、夏侯惇はすぐに考えるのを止めたのだが。
一方でとてもまっすぐな告白を受けた于禁は、ぽかんとしている。二人の様子に気付かない喧騒たちに囲まれながら、口を半開きにしていた。声が出せない。いや、どうやって声を出すのか忘れたように掠れた息を漏らしている。
するとどうにか反応をしようとしたのか、包んでいる指に力がぐっと入ったが振り払う気配はない。于禁が明らかに、拒否の反応を示していないことを確認する。なので于禁から返事を吐かせるように、もう一度口を開く。于禁のことが欲しくて欲しくて、夏侯惇は我慢ができなくなってきていた。早く、まずは言葉で互いの気持ちを通じ合わせたいのだ。
「俺はお前のことが好きだ。初めて会ったときからだ……それで、于禁。お前はどうなのだ?」
「……ッ! わ……私は……」
唇を引き結んだ于禁は、夏侯惇の方をちらりと見るがまたもや逸らす。まるで幼い子供が必死に秘密を守るように、出そうとしていた言葉を詰まらせていた。
次第に焦れてきた夏侯惇は「俺のことが嫌いなのか?」と、于禁にのみ聞こえるように囁いた。自信をかなり持ちながら。
びくりと肩を跳ねた于禁が目を合わせてくれると、首を大きく横に振る。そしてようやく、于禁がはっきりと返事を述べた。ただし細い声で、夏侯惇とは正反対に自信なさげに。
「私も、貴方が……す、好き……です……」
「ありがとう。俺も好きだ」
ゆっくりと礼を言うと、力が籠っていた指先がふにゃりと柔らかくなる。熱で溶けたかのようだ。于禁が作っていた、隙間だらけの心の壁が壊れた瞬間であった。
そこで夏侯惇は、于禁に「バーで酒を飲んで暖まろう」と提案する。于禁は寒そうにしているうえに、想いを伝えあってからすぐに帰るのは味気が皆無。それに他の店などは人が多く騒がしいと思ったからだ。
于禁が小さく頷いたことを確認すると、夏侯惇は片手で手を握ると歩き出していった。やはり手が冷たい。バーまでは徒歩で数分であるが、まだ寒さに震えている于禁に申し訳ないと思いながら。
バーに入ると、暖房がよく効いている。途中で夏侯惇も寒いと思っていたが、ここは天国のようだった。
入店する直前で手を離していたので、冷たい感触が手から消えていた。于禁の方を見ると、少しぐったりとしている。顔色が悪い。大丈夫なのかと思ったが、ただ単に暖かさに背筋を歪めただけである。まるで、とても硬い氷が一気に溶けていくように見えた。
マスターが変わらず丁寧に迎え入れてくれたが、カウンターの中でグラスを磨いている。見たところ全体的に席数は少ないが、空席がかなりある。その中でも夏侯惇はいつものように空いていた壁際の席に座り、隣に于禁が座る。同時にマスターが柔らかい笑みを浮かべながら小さなメニューを差し出した。今はクリスマスが近いということで、限定のカクテルを提供しているというものだ。夏侯惇はそれに指差すと、于禁が「それにしましょう」と返してくれる。どうやら体の芯が暖まってきているのか、顔色が戻っていた。
今は手が空いているマスターに、クリスマス限定のカクテルを二つ注文する。注文を受けたマスターは、すぐにカクテル作りを始めていった。その間に夏侯惇は、前のように『友人』ではなく『恋人』として于禁に話し掛ける。
「すまんな、あれほど寒空の下で待たせてしまって」
「いえ、とんでもありませぬ。私が勝手に、思い込んでいたのです。貴方に嫌われてしまったと……」
「……俺がお前を嫌う?」
于禁の表情が再び青ざめるが、これは体温が下がったことによるものではない。ネガティブな感情のせいであり、とても申し訳なさそうな顔をしている。今ここで二人きりであったら、于禁はここまで冷静に謝罪をしていないだろう。
肩をポンと軽く置くと、夏侯惇は首を横に振った。
「俺は嫌っていない。俺が送っていたメッセージを見れば分かるだろう?」
そう言うと、于禁は「私は……」と畏まる。どうしたのかと、肩に置いた手を下ろしながら于禁が放とうとしている言葉を待った。しかし喉から声を出そうとするも、言いづらくなってきたのか口を閉ざしてしまう。夏侯惇は自然と背中に手を伸ばし、落ち着かせるようにそこを撫でていった。
出そうとしていた言葉を促すが、于禁の体が弱く揺れながら「その……」と困った顔をしている。そこまでとなると、夏侯惇はこれ以上は聞き出さない方が良いのかと思った。先週の夜の出来事のことを言いたいのだろうか。于禁の立場に立ってみれば、後ろめたくなるのも無理はない。なので背中から手を離すと「分かった。俺は大丈夫だ」と呟く。
するとカクテルが完成したのか、マスターが二人の元に提供してくれた。先程までの話題は一旦忘れ、まずはカクテルを味わう。メニューの文章のほんの一部しか読んでいなかったが、あまり聞いたことのない組み合わせである。しかしマスターはそれを逆手に利用し、味も香りも良いカクテルに仕上げていた。
そこで于禁の方を見ると、神妙な面持ちでグラスを凝視していた。
「どうした?」
「恥ずかしながら味を想像しておらず、予想以上に美味でして……」
クスクスと笑うと、グラスをもう一度傾けた。すると于禁の気分が晴れたのか、先程は言えなかったことを口にしていく。その際の口調がとても滑らかであるが、アルコールの助けもあるのだろう。
夏侯惇は于禁の顔を見ながら、ひたすら話を聞いていった。
「正直、私はあの夜に手を出しそうになりました。人生で初めて、理性など捨ててしまおうかと思いまして……ですが当然のように、貴方に失礼であり、まだ想いを伝えておらず、直前でどうにか正気を保っていられました。あの時は、本当に申し訳ありませぬ。人間として、あってはならぬ事です」
ゆっくりと頷くと、夏侯惇は「許してやるが……」と呟いた。その言葉に食いついた于禁は夏侯惇の呟きを復唱したうえに、最後は疑問を浮かべている。
「俺はお前とそのような行為に嫌悪感はない。だがな、堂々とした態度でいろ。俺に失礼だ」
これは夏侯惇の本心である。そのような覚悟は、告白する前からしていたのだ。于禁が目を見開くと目を細めて笑ったが、これは予想外のリアクションだった。夏侯惇は慌てながら、どうして笑うのか聞いてしまう。
「貴方らしいなと、思いまして……さて、次は何を飲まれますか? 今日はせめてもの詫びに、私に奢らせて頂く故に」
言葉に甘えて于禁の好意に従うが、溜め息をついて「自分らしい」に首を傾げる。そして于禁は一杯目を飲みきっていた。夏侯惇のグラスにはあと一口分あるうえに、まだ満席ではなくマスターは忙しそうにしていない。なので一口含んでグラスを空にすると、二杯目を選んでいった。次はシンプルに、ウイスキーのロックである。選んでいる最中に、次々と客が入って来たからだ。
すぐに提供されたついでにウイスキーの感想を述べると、マスターが嬉しそうにしていた。二人は柔らかい表情で、マスターに頷く。ウイスキーのロックは、定番のものである。一杯目のカクテルは度数が控え目だが、これはやはり度数が高い。心地よく酔っていった。
二人で二杯目を飲みきり、三杯目に入ったところで于禁が夏侯惇にこの後のことを訊ねた。
「二軒目は、どうなさいますか?」
「ん……すまんが、今日は疲れてるから、これでお開きにしよう」
「了解しました」
二人で静かに三杯目を飲みきると賑わっているバーを出たが、いつの間にか外では雪がちらほらと降っていた。積もることはないが、二人は自然と空を見上げる。この地域では年に一度、これくらいの積雪はあった。それでも珍しげに道に落ちて溶けていく雪を見た後に、互いに傘を持っていないことに夏侯惇が気付く。この寒さで雪が降ってきては、家に帰るまでに風邪を引いてしまう。
しかしそこで、夏侯惇は思った。于禁が誘ってきたように、自身もそうすれば良いと。
于禁の腕を掴むと、にやりと笑った。
「于禁、ホテルに行くぞ。このまま帰っては、寒いからな」
「……ッ!?」
酒により于禁の頬が仄かに赤らんでいたが、夏侯惇の短い言葉により燃えるように赤くなる。触れたら、熱いと思える程に。そして火傷をしてしまうと思える程に。まるで、夏侯惇が于禁に、火を点けたようだった。
于禁は少し考えると、ぎこちなく頷いた。なので夏侯惇はすぐに掴んだままの腕を引いて歩いていく。行き先は、先週と同じラブホテルだ。それを告げてはいないが、于禁は大人しく連れられて行く。裏道なので喧騒が無く、于禁の呼吸の荒さが聞こえた気がしたが、裏道を出るとそれが掻き消される。もう少し于禁が興奮している様子を聞きたかったが、夏侯惇も興奮が表に出てしまっていた。直前に振り返る余裕など無いまま小さく「早く行くぞ」と囁き、于禁の返事など聞く気が無かったからだ。
ホテルまでは歩いて数分で到着すると先週のように、次は夏侯惇が精算機で会計をしていく。無機質な電子音が聞こえた後に、ルームキーが排出された。それを取り、記載してある部屋へと向かって行く。
途中の廊下でカップルとすれ違ったが、二人を視界に入れていなかった。カップルは二人の世界に入っていたのだろう。夏侯惇はそれを横目に見ながら、目的の部屋の扉の前に辿り着く。すぐにルームキーをかざすと、扉のロックが解除された。二人は押し入るように扉を開け、素早く扉を閉める。途端に二人は軽く抱き合うが、今まで一度もないとある違和を感じていた。気付かなかったが先程のカップルとすれ違った際、甘ったるい香水の匂いが移ってしまったようなのだ。それも、ほんの数秒の間に。
二人は互いにその他人の匂いが多少は不愉快に思えたので、夏侯惇が「シャワー……」と小さな声を吐いた。于禁は無言で夏侯惇の腰に手を回すと、未だに抱き合ったまま近くにあるシャワールームの扉に近寄る。
「早く脱ごう……」
夏侯惇は声まで甘くなったような気がしながらそう促すと、于禁はまたしても無言のままであった。しかし今回は頭を微かに動かしている。肯定の態度ということは確かだ。
着込んでいるコートを邪魔そうに同じタイミングで脱いでいくと、次にジャケットを腕から抜いていく。皺の寄ったワイシャツが剥き出しになると、そこで夏侯惇が于禁のネクタイに手を伸ばした。するりと解いてやり床に落とすと、于禁が顔を近付けてくる。そっと唇を合わせてくれた直後に、夏侯惇のネクタイを礼にと取った。だが于禁は取ったネクタイを自身の腕に掛けているので、夏侯惇は「落としてもいい」と言う。于禁はすぐに言う通りにネクタイをはらりと落とした。
ワイシャツを脱がしあうと、香水の匂いが薄れてきた。しかし中途半端な格好のまま居る訳にはいかない。衣服を取り払う毎に、興奮が抑えきれなくなっているからだ。上半身の全ての肌が露出すると、于禁は夏侯惇の体を凝視していた。先週のように目を血走らせ、心臓の高鳴りが夏侯惇にまで聞こえてくる。
残りはスラックスになると、于禁が先に夏侯惇のベルトを器用に外していった。チャックを下ろすが、その時点で夏侯惇は勃起している。膨らみに手が当たった于禁は、嬉しそうに微笑む。
「ここまで、興奮しておられるとは……」
対して鼻で笑った夏侯惇は、于禁の股間に触れてみる。同様の状態であぅた。なので「それはお前もだろう」と放つと、スラックスが床に落ちた。下着と靴のみになるが、そこで我慢の限界が来ている于禁が夏侯惇の首に唇を這わせる。触れるくらいの程度であったので、擽ったいと思えた。短い息を吐くと于禁の吐息が荒く、更に火のように熱くなっていく。ここまでの格好になり屈辱的や、恥じらいは全く生まれていない。寧ろもっと見て欲しいと思った。なので于禁の手を自身の尻に持っていくと、やんわりと揉まれる。大きな手に触れられる感覚がとても気持ち良かった。夏侯惇は無意識に息を漏らす。
すると于禁の手がどんどん動いていき、下着の中に滑り込んだ。夏侯惇の反応を見たからだろう。割れ目の周辺を中心を、于禁の手や指が纏わりつく。夏侯惇はそのようなことを初めてされたが、気持ち良いという感覚が脳内を駆け巡る。体をびくびくと震わせていると、于禁が唇を合わせてきた。この時にとても幸せに思えたので、それを表現する為に于禁の背中に手を回す。于禁に体を引き寄せられると、がっちりとした二つの体が密着する。自然と布の下で窮屈そうに盛り上がっている股間を押し付け合った。
「ん、ん……!? ふぅ、ん……ッん」
口付けが深くなっていった。夏侯惇は次第に脱力していき、于禁が優勢になっていく。すると唇が緩やかに開いた途端に、于禁の舌が侵入してきた。しかし驚く暇もなく、夏侯惇の口腔内を蹂躙されていく。舌を絡め取られて自由を奪われていく。
シャワーを浴びる目的など忘れながら、二人は夢中でキスを続けていった。上顎や歯列の至る場所を舌で撫でられる。夏侯惇の下着の膨らみが次第に我慢汁で濡れていくので、もっとして欲しいと于禁にアピールした。于禁の舌の動きが激しくなっていき、二人分の吐息や涎が動く音がよく聞こえる。すると唇の端から唾液が垂れ、遂には体を伝って床にぽたりと何滴か落ちていく。
そして口腔内を責められてしばらく経過し、夏侯惇が酸素を肺に取り込む余裕が無くなった。頭が回らなくなった。そろそろ止めて欲しいと于禁の背中を弱く叩くと、舌による拘束が離れる。呼吸が自由になると、夏侯惇は于禁にしがみついて酸素を大きく取り込んだ。喉が、ぶるぶると震えるくらいに。
「ゆっくり、落ち着いてから、シャワーを浴びましょうか」
于禁が夏侯惇の背中を優しく撫でながらそう言う。夏侯惇は呼吸を整えている最中なので、こくこくと小刻みに頷いた。なので数分の間に息を吐いては繰り返し、呼吸の感覚を長くしていく。そうして平静の殆どを取り戻すと、于禁の顔を見つめた。
「落ち着かれましたか?」
「ん……」
質問に対してそれだけ返事をすると、于禁に頭を撫でられる。そうされるのが、とても心地が良かった。夏侯惇が目を細めると、于禁が目尻を下げながら静かに笑う。
「では、シャワーを浴びましょうか」
腰に手を回すと、夏侯惇の下着や靴下を脱がせた。そして于禁自身の残りの衣服を脱ぐと、二人の性器はもう限界である。先端は腹に着く程に、先端が天井を向いて勃起していた。着ていたスーツなど、床に下ろしたまままま浴室に入る。しかし浴室は冷えており、夏侯惇が身震いをしてしまう。于禁すぐに肌を密着してくると、少しは寒さが和らいだ。
于禁がシャワーヘッドをタイルに向け、コックを捻る。当然、最初は冷水しか出ない。温水が出ることを于禁が手のひらで確認して数秒後、シャワーヘッドが夏侯惇の後頭部に向けられた。暖かい水が爪先にまで覆われると、次に肩へと移動していた。そこを少しだけ湯が当たると、シャワーヘッドを壁に掛けてから于禁も共に湯を浴びた。二人の髪が乱れると、滅多に見られない姿に互いに軽く笑い合う。ただし、夏侯惇に背後から抱き付きながら。
シャワーから湯を出しっぱなしにしながら、于禁は夏侯惇の顎をそっと掴んだ。そして頭上で「貴方が好きです」と呟いてから先程のでは足りないと言わんばかりに、唇を合わせる。
夏侯惇はそこで腰が砕けてしまう。ここは浴室なので、于禁の声がよく響いていたからだ。体勢を崩すが于禁が支えてくれたので、お陰でタイルに膝を落とさずに済む。
とても短いものだが夏侯惇の理性が壊れるのには十分であった。塞がれた口が自由になると、于禁にとても甘えた声で抽象的にねだる。それは自身でも出したことのないくらいに。
「于禁……早く、ヤりたい……」
「仰せのままに」
夏侯惇の言葉を聞くなり、于禁はすぐにシャワーを止めた。とても早い決定である。唇が頬に触れられ、頭上から「行きましょう」と囁かれる。ベッドの上ではどちらがどうかという相談など、する必要も無かった。夏侯惇自ら「抱いてくれ」と懇願したからだ。于禁は大きく頷き「喜んで」と返事をする。その時の表情は、切羽詰まっていた。勃起している箇所が、そろそろ限界なのだろう。
于禁が浴室の扉を開ける。扉の横に掛けてあるバスタオルやバスローブを取ることなく、夏侯惇の体を支えながらベッドに向かった。すぐに夏侯惇をベッドの上に寝かせてから、その上に于禁が覆い被さる。
女のような体つきはしてないのに肢体を舐めるように見下ろされると、体中がゾクゾクとした。心臓が高鳴る。それだけでも射精をしそうになったが、もしや見られるのが好きなのだろうかとふと思う。どこかで、そのような覚えがあったのだろうか。部屋の相変わらず見慣れない天井を見ると、于禁がそれに嫉妬してしまっていた。気を引く為にと、質量のある股間を手で緩やかに握られた。
「っあ、はぁ、ん……!」
「夏侯惇殿、私を無視して、何か考え事でしょうか?」
眉間の深い皺が見えると、夏侯惇は何でもないと言葉を途切れさせる。そして于禁の手のひらで擦れるように、自慰でもするかのように腰を弱く振った。するとあまりの気持ち良さに息が乱れ、射精をしかける。だが股間が膨らんだところで于禁が手を強く握り、射精の邪魔をした。もう少しだったのにと、夏侯惇は泣きそうな声で異論を唱えてしまう。抱いて欲しいと懇願したのにも関わらず。
「後で、存分に良くしますので」
未だに強く握りながら、于禁は夏侯惇の首に唇を這わせた。擽ったさとそれに小さな快感を与えられ、小さな息を漏らす。軽いリップ音が聞こえたと思うと、于禁が夏侯惇の名を呼び続ける。対して愛しさを込め、夏侯惇も同じように于禁の名を呼び返す。このように行為の最中に、初々しさの名残が見えるような掛け合いをするのは久しぶりであった。
于禁の唇が降りていくと、鎖骨を強く吸われる。同時に微かな痛みが走るが、痕を残しているのだろうか。ぼんやりとそう思いながら、于禁の頭に触れて髪を撫で回す。
そして上書きをするように大きなリップ音が鳴り、夏侯惇の背中が反れる。射精をしたいが、まださせてはくれない。
「ぃ、あ……ッ、うきん……!」
「まだなりませぬ」
于禁の声にいつもとは違う厳しさが含まれている。まだ最初で、始まったばかりだ。ここで果てては、夏侯惇自身も困るだろう。なので夏侯惇はこくこくと頭を縦に揺らす。
「では、ここはどうでしょうか?」
股間を握っていた手を解放してくれたが、代わりに片方の膝の裏を持ち上げた。夏侯惇の腰が若干浮いていく。しかし于禁からしたら、恥部が見えてくる。足を閉じようとしたが、その隙に心臓側の豊かな胸を食うように舐められた。夏侯惇はただ驚き、そして何も感じないので硬直する。それに気付いた于禁は、申し訳無さそうに「ここは、また今度にしましょうかと」呟いた。
なのであっさりと胸を諦めて、舌が腹へと下りていく。そこはこそばゆいので、夏侯惇は再び吐息を漏らした。于禁の目に僅かな安堵が見える。
だがそこよりも、早く股間周りに触れられながら果てたかった。前戯も大事なのは分かっているのだが、焦燥感が浮かび上がってきた夏侯惇は持ち上げられていない足で于禁を軽く蹴ってしまう。
「やっぱり、もうだめだ……! 俺はもう、我慢ができない……!」
理性を自ら更に細かく砕いた夏侯惇は、于禁の頭を下ろして唇を合わせる。しかし直後に于禁に強引引き剥がされると、尻に触れられた。その時の于禁は夏侯惇に気を使いながら、性行為をしていく人間ではなくなる。ただ、性欲を発散させる男の顔になっていた。夏侯惇にだってそのような雰囲気を出した経験があるが、他人のそれは見たことがない。おののきを見せてしまったが、于禁は構わず夏侯惇と乱暴にキスしていく。
舌が暴れるように口腔内に再び侵入すると、次は派手な水音が鳴る。吸うように、舌を翻弄されていく。夏侯惇はただ蹂躙されていると、尻の肉を揉まれた。女の丸い胸を揉むように、いやらしく。
「っん、んう! ふぅ、ん……ん、ん!」
腰をガクガクと自然に揺らしてしまうが、尻を弱くつねられたので全身が揺れた。小さな痛みを触覚が拾ったものの、それよりも先に別の感覚が走る。あまり不快ではないものを。
分からないが、僅かな快感を得たのは確かである。このような性癖は無い筈だ。このような経験は、無かった筈だ。しかしそのような思考をゆっくりと回している暇を、于禁は与えてくれない。
意識を逸らしていたことが、目線で見破られていたのだろう。舌を強く吸われたかと思うと、尻の入り口へと指が進んでいくところだった。しかしそこには触れず、周辺をまさぐるように触れられる。
夏侯惇はその感覚に、期待とそれに恐怖が募る。ここは性行為で使用しない部位だからだ。恐怖を取り除こうと、于禁に口づけを更に激しくするように求めた。我慢汁を垂れ流している股間を、于禁の腹周辺に擦り付ける。皮膚の感触が気持ちいいと感じていると、思惑通りに于禁の舌の動きが熾烈になっていった。どこもかしこも強く吸われ、頬の内側までふやけるのではないかと思うくらいに。
じゅるじゅると、通常の人間が出している音だと理解できない水音が響く。そして夏侯惇は口角から唾液を流し、加えて瞳からは徐々に涙が勝手に流れる。怖さに泣いているのではない。于禁と体を重ねられているという、あまりの興奮に泣いてしまっているのだ。
尻をやわやわと一通り揉まれると、口腔内で行われていた蹂躙が終わった。舌や唇が出て行き、夏侯惇の様子など見ることもなくベッドサイドに視線を移す。腕を伸ばしていた。
何かを探しているということは朧気に見える。しかし整えなければならない呼吸のせいで、于禁の動作をはっきりと確認することはできない。
ひゅうひゅうと音を立て、胸を膨らませながら酸素を求めた。限界まで膨らませた胸を落としながら息を吐く。それを繰り返していると、于禁が何かを持っていることが分かった。
大きさは于禁の手のひらよりも小さなピンク色の袋であることが確認でき、すぐに何を持っているのか分かった。少量のローションが入ったパウチの袋である。それを器用に開けると、手のひらに落としていく。よく冷えているのか、一瞬だけ表情を歪ませていた。
于禁の手のひらでローションを馴染ませるように、ぬちゃぬちゃと温めていく。そして準備ができたのか、ローションに塗れた手を夏侯惇の尻へと持って行く。
「夏侯惇殿……」
名前だけを声に出すと、ぬるぬると指が入り口に向かった。まずはきつく閉じられている周辺を、ローションを塗るように撫でられる。夏侯惇はびくりと体が跳ねた。そこで期待と恐怖のうちの、後者の存在が大きくなる。だが于禁が欲しいので恐怖の感情を抑え込もうとしたが、尻を弄られているので集中できなかった。抑え込むのは諦める。
すると、やはり触れられたことのない場所を実際に触れられたので、未知の感覚により脳が危険信号を出した。無意識に于禁の体を弱々しく蹴ってしまうが、びくともしない。寧ろ抵抗する様子が良いと思われたのか、指先が入り口に入り込んだ。
驚きのあまりに、夏侯惇は目を見開く。
「ひ……ゃあ、ぁ、まて……!」
「待つ筈などありませぬ……待てる筈などありませぬ」
口が勝手に動いてそう放つが、于禁は即答した。遠慮という言葉を知らないかのように、指が入っていく。
夏侯惇に襲いかかった感覚は異物感や息苦しさ、それに僅かな痛みだった。自ら砕いた理性が、修復されていく。幸いにも于禁がゆっくりと指を進めてくれているので、痛みはここまで抑えられているだろう。そこで小さな安堵により、恐怖が多少は消えていく。もしも強引に捩じ込まれていたかと思うと、質量の大きく太い于禁の雄をすぐに捩じ込まれていたかと思うと。
初めて人体の一部を受け入れるが、指がぬるついていても狭い入り口が拡がる気配がない。不快感を取り払いたいので、夏侯惇が助けを求めるように手を伸ばす。于禁の顔に触れるが掠めた後に肩に掛けると、尻を慣らす手の動きが止まった。
空いた手でその夏侯惇の手を掬うと、甲に唇を寄せてくれた。しかしそこで出たのは「怖い」ではなく「好き」という一言である。
「うきん……すき……」
「夏侯惇殿……!」
唇を引き結んだ于禁は、夏侯惇と唇を合わせる。今ので本日で何度目だろうか。数えられるが数える暇などない。于禁をひたすらに求める思考や動作で精一杯だからだ。
厚い舌同士を飽きもせずに絡めていると、于禁の手が再び動く。夏侯惇の体内により深く侵入しようとした。すると夏侯惇の意識が唇へと一時的に逸れているのか、入り口が少し緩む。于禁の一本の指が全て入るが、それだけでもかなりの圧迫感があった。絡ませている舌が引いていくが、于禁の舌に捕らわれた。なので再び激しいキスをしていく。
途中で于禁の指が動き、関節を小さく曲げたようだ。中の壁を擦られると未知の感覚が走る。脳が甘く痺れ、理性が再び壊れていった。
それに浸っていると、于禁が指を挿れる本数を増やした。太く長い指が、夏侯惇の中に入っていく。まずは指先から挿し込まれると、縁をぐいぐいと押した。尻に力を入れてしまった夏侯惇だが、すぐに于禁に舌を吸われて脱力した。くぐもった声を漏らす。
最初とは違い、二本目の指は案外簡単に入った。夏侯惇は先程より大きな苦しさがあり、于禁の口腔内に吐息をかなり送り込んでしまった。于禁が唇を離すと唾液の糸が微かに見えるが、それは刹那的である。すぐに切れてしまっていた。
「っは、はぁ、ぁ……于禁、はやく、ほしい……」
「もう少し、ですので」
二本の指で尻の中をまさぐるように動かす。次は動きが大きいが、とある箇所を触れられた。
「や、ぁあ! いッ、はぁ……ア、あっ!」
その瞬間、夏侯惇の体にとてつもない強さの電流が走った。喘ぎ声が喉から出るが、自覚ができるくらいに声が高い。まるで女にでもなったかのようだ。
射精感がこみ上げたので、夏侯惇はすぐに自身の股間を強く握る。痛みや苦しみにより顔を歪め、汗が吹き出す。この時だけ、まるで拷問のようだった。喉からうめき声が止まらない。これもまた、今まで出したことのない声が出てくる。
その時の于禁は、獣のように興奮の視線を夏侯惇に浴びせていた。この様の夏侯惇を見て、悦に浸っているのだろう。夏侯惇は見られている高揚のあまりに、尻の中をぎゅうぎゅうと締めてしまう。
すると射精感をどうにか抑えられ、握っていた手を離す。手は我慢汁に塗れていた。
「……もう、よろしいでしょうか」
于禁はそう言いながらも指を引き抜き、空いた手で掴んでいた夏侯惇の手をそっと下ろす。そしてベッドサイドのローションと同じ場所に、アメニティとして置いてあったコンドームを一つ取った。
乾いた手で封を開けると、荒い息を吐き、夏侯惇に見せつけるように凶器のように勃起している雄にゴムをぴっちりと纏わせた。これで、今から乱れさせると言わんばかりに。
「こいよ、于禁……」
息を切らしたようにそう言って煽る。先程の指で触れられた場所を、勃起した雄で突かれたらどうなるのだろうか。どれくらい頭がおかしくなってしまうのだろうか。それらを考えながら、夏侯惇は于禁の指が入っていた入り口を指で開いた。
縁が冷たい空気に晒されるが、内側の興奮の熱により相殺される。
喉を上下に鳴らした于禁は、自身の雄を支えるように持ってから入り口に充てがう。そして先端をぴとりと密着させると、夏侯惇の中に入ろうとした。しかし先端のくびれまでには到底入らず、于禁は怒るように眉間の皺を深く刻む。
一方の夏侯惇は、少しの痛みがあった。尻の中に受け入れるには、やはり于禁の雄は大きすぎたからだ。
「ぐぅ、ぅ……はぁ……あ……!」
苦しげな声を漏らすと、于禁の眉が下がっていった。さすがに夏侯惇のその様子を見てしまっては、平静さを取り戻しかけているのだろう。
だが夏侯惇は、このまま早く繋がりたいと于禁の腰に足を巻き付ける。
「ほら、はやく俺を抱けよ……」
「分かっております……!」
ムキになった于禁は、腰をぐいと動かした。今の入り口の縁は限界なので、雄を通さないように必死である。夏侯惇の思惑とは正反対だ。
于禁は悔しげに一度引かせると、ローションのパウチの袋をもう一つ取り出した。それを開封すると、手の平に流してから手に馴染ませる。そしてそれを自身のゴムに覆われた雄に塗りたくった。
時折に腰を揺らしながら塗り終えると、それをもう一度夏侯惇の入り口に持って行く。先端を押し付けると、ローションのぬめりにより、先程よりかは入ったような気がした。夏侯惇は于禁の雄の大きさを体内で確認しながら、手をシーツで拭く。
「っ……! もうすこし、だ……!」
挿入を手伝うように腰を振ると、于禁の雄の先端が少しは入った。体内がくびれを食う直前である。
当然のようにまだ気持ちよさが来ず、痛みが相変わらず続く。だがこの先は快楽ばかりだということは確実なので、ただ耐えるのみ。
そう思いながら于禁の雄を受け入れていると、突然にくびれまで食っていた。すると一気に、于禁は雄を挿し込む。雄が全て入ると、夏侯惇は優越を感じた。この腹の中に、于禁の雄が全て入ったのだと。
しかしまだ異物が入っているだけの状態なので、息苦しい。
「は! はッ、ぁ……うきんのが、ぜんぶ、はいったな……」
自身の腹を笑いながら擦ると、于禁は返事の代わりとして短い息を吐いてから頷いた。そして覆い被さって軽く唇を合わせると、于禁は小さな律動を始める。
大きな異物が入っているので当然、動きは小さくとも衝撃はかなりのものだ。しっかりと体内に収まっている内臓が、揺れるかと思うくらいに。
互いの唇の隙間から息を吐くが、于禁は容赦という言葉を忘れていった。律動が、次第に大きくなっていく。大きなベッドが軋んだ音を鳴らす。律動による反動で勃起している股間が揺れ、我慢汁が自身の腹や于禁の体に向けて飛び散った。于禁は嫌な顔はしておらず、寧ろ合間に舌舐めずりをしている。
何回か中を貫かれていく。すると壁にぶつけられ、そして女のように喘いでしまった箇所を擦られた。次第に、夏侯惇からは苦しげな息遣いが出なくなる。代わりに吐かれるのは嬌声だ。
夏侯惇は于禁に抱かれ、女のように狂っていく。シーツを握り締め、だらしなく口を開けた。
「……あッ!? ぁ! ゃ、ん、きもちい! ん、ッ、はぁ、イく、あ、ぁ」
皆楽に一層に溺れていくと、中に埋まっている于禁の雄が膨らんだ。それにより夏侯惇は勢いよく射精をした。勃起しているので、自身の胸に粘ついた白い液体が降ってくる。噴出したばかりの精液が、とても熱い。しかしこの熱さが、夏侯惇が昂った証なのだ。
于禁はひたすらに灼熱が混じった荒い息を吐くと、腰の動きが止まる。
「うっ、ぁ……! ッは、はぁ……!」
どうやら直後に于禁も果てたらしい。いつもよりも低く重い声が漏れる。そして夏侯惇の腹の中に、今でもずっしりと埋まっている雄を引き抜いた。
結合部であった場所が、空気に触れる。感覚からしてぽっかりと穴が開いており、すぐに于禁のものがもう一度欲しくなった。
「ぁ、あ……うきん、もっと、ほしい……」
コンドームの処理をしている于禁にそう求めると、短く「はい」と返事が来た。アメニティの未開封のコンドームをもう一つ取り、開封する。未だに芯を持っている雄に装着すると、夏侯惇の入り口に収めるように挿れた。とてもスムーズに奥まで届くと、夏侯惇はあまりの気持ちよさに腰が反れてしまう。
ピストンがゆっくりと始まっていくと、夏侯惇は唾液を垂らしながら喘ぐ。あられもない姿だが、恥ずかしいとは思わなかった。寧ろ、于禁にもっと見せたいと確実に目線を合わせる。
「ァ、あ! うきん、ぁ、い、あ、ん……ッは」
すると目が合ったものの于禁の顔が近付いていき、唇を僅かに重ねた。その瞬間に、ピストンが先程のように激しくなる。肌と肌がぶつかる大きな音が、騒がしく響く。
自覚ができるくらいに、夏侯惇はあまりの多幸感にぎゅうぎゅうと腹の中を締め付けた。どこも于禁と繋がっているからだ。于禁の唇がずれ、小さなうめき声が漏れる。そして息を何度か吐くと、仕返しをするかのようにずるずると雄を引かせていった。臓器を引き摺り出されているような感覚に陥る。最早、于禁の雄が体の一部のように思えてしまったからだ。
待って欲しいと手を伸ばすと、于禁の雄が強く打ち込まれた。
「ぁ、あ!? あっ、ゃ……! ぁん、んっ、はぁ、あ! やァ、あ!」
あまりの快感に、夏侯惇は体を痙攣させる。かなり高い悲鳴を出し、そして息を切らして空気を出す。同時に射精をすると、自身のものが萎えてしまう。夏侯惇は切ないような声を上げた。まだ、保ってて欲しかったと。視覚や聴覚が、数秒の間だけ無くなる。体力を使いすぎたせいなのかもしれない。
慣れない嬌声を上げたので、喉が枯れていることに気が付かないままで何か声を出そうとした。しかし上手く出せず、喉を触れようとすると、腹の中にある質量がしぼんでいく。
「ッは、はぁ……夏侯惇殿、良かったですか……?」
いつの間にか于禁も果てていたらしい。悶えるような声を漏らしている。引き抜きながら夏侯惇の頬にキスをすると、コンドームの処理をしていった。夏侯惇は僅かに首を縦に振ると、于禁は嬉しそうにする。その様子の于禁が、とても可愛らしいと思えた。
疲れたらしく、于禁はベッドに仰向けに転がる。今は、横になる以外は何もしたくないことが窺える。冷静になったのだろう。小さく笑った夏侯惇は、その于禁に抱きついた。
「少し、休んでからにさせて頂けますか……もう少ししたら、シャワーを浴びましょう」
「ん……」
于禁にぐいと腕を回されると、最中にも発していた「好きです……」という言葉を受ける。
「おれも……」
辛うじてそう返すと、互いに唇を合わせていく。しばらくの間、何も言わずに何度もだ。すると于禁の体力は少しは回復したのか、体を起こした。そろそろシャワーを浴びたいらしいが、夏侯惇は到底動けそうにない。だが于禁は「私が支えます」と言い、夏侯惇の体を丁寧に起こした。
于禁に体を支えられながらベッドから離れ、シャワールームに入ると共に湯を浴びた。とても気持ちが良いが、胸に于禁からつけられた痕をふと見る。そういえば自身はつけていなかったと、次に于禁へと視線を変えた。
「いかがなさいましたか?」
首を傾げているのが、どうにも平等ではないと思った。なので夏侯惇は何も言うことなく、于禁の胸に唇を寄せる。自身のものと同じく、心臓側に。そして歯を軽く立てて痕を刻むと、頭上から痛みを訴えるような声が聞こえた。
顔を上げると、シャワーコックから出る湯がよく当たる。
「うきん……これで、おなじだ……」
「ありがとうございます。ですが、すぐに消えてしまうのでまた、また近いうちに……」
于禁の言葉に微笑みながら夏侯惇は、湯を雨のように浴びていった。
シャワールームから出ると、于禁が壁に掛けてあるバスローブを掛けてくれた。暖房がついているが、湯冷めしないように。しかし髪にある水分を取る余裕は無いので、そのままベッドに寝かされた。
于禁も同様にバスローブを羽織っており、ベッドから一旦離れると部屋の照明を消す。明かりがサイドランプのみになり、夏侯惇の周りが仄かに照らされた。それを確認してからベッドに乗り上げると、元の位置に戻るように夏侯惇の隣に横になる。
「そういえば……」
そこで于禁は近くに放り投げていた自分の鞄をまさぐって、スマートフォンを取り出した。しかしほんの一瞬だけ画面を輝かせた後に、すぐにしまう。
「既に、日付が変わっていました。イブですが、メリークリスマス」
于禁が額に軽く口づけをしてくれたので、夏侯惇も額に返そうとした。しかし上手く狙いが定まらず、于禁の胸に顔を埋めてしまう。
「すまん、外れた……」
「いえ、お気になさらず。寧ろ、私は貴方からのものでしたらどんなものでも」
「まったく、お前は……メリークリスマス」
顔を上げてそう言うと、于禁の雰囲気が更に緩まる。まるで、外で見かけるものとは別人のようだった。或いは、瓜二つの別人か。
しかしクリスマスイブにここまで恋人と濃密な時間を過ごしたのは何年振りか、学生時代か新入社員の頃以来か。そう考えていると于禁から寝息が聞こえ始める。目をしっかりと閉じ、眠ってしまっていた。夏侯惇は優しく笑いながら、于禁の頭を撫でていく。すると于禁が眠っているのにも関わらず、夏侯惇を抱き枕にするように抱き締めていた。
内心で肩をすくめると、于禁の背中に手を回した。今日は何度も触れてきた背中だが、今は少しだけ小さく感じる。見るからに、甘えている子供に見えてきたせいなのかもしれない。
まだこの夜が終わって欲しくない、弱くそう思いながら夏侯惇も眠っていった。
今は常夜灯があっても、あっという間に。

目を覚ますと、見覚えのある天井が見えた。ここはどこなのかと起き上がろうとしたが、全身に倦怠感が襲い掛かる。ふと隣を見ると、于禁が全裸で仰向けで寝ていた。そして夏侯惇自身もだ。
そこで寝ぼけていることが分かった。昨夜は于禁と夜を共に過ごしていて、胸にはしっかりと于禁から施された痕が存在している。それを愛しげに指で小さくなぞった。
「于禁……」
痕をしばらく見つめた後に、夏侯惇はベッドの縁に座った。眠る前は夏侯惇を抱き締めていたが、自然と普段の寝相が出てしまったのだろうと察する。一夜しか共にしていないが、于禁の滲み出る性格からしてそうなのだろう。想像など容易い。
于禁の方に視線を変えてから「そのままで良かったのだが……」と嫉妬のような感情を出してしまう。だが、それはどこに向けても無駄なものだ。溜め息をつくと、夏侯惇は体を伸ばした。
すると背後から二本の腕が伸びてくる。当然、于禁のものだ。脇をすり抜け、胸の下のあたりで抱きとめる。突然だったので夏侯惇は驚いてしまう。
「于禁……!? おはよう。どうした?」
「おはようございます。いえ、特に何も。こうしたかったので」
肩のあたりで聞こえてくる于禁の声は眠たげだ。先程の夏侯惇と同様に、まだ脳が覚醒していないと思った。
体に絡みついた手を撫でながら振り向く。やはり、于禁はまだ目覚めきっていない。目を閉じかけているからだ。睡眠時間がまだ足りず、二度寝でもしたいのだろうか。
「もう、帰られるのですか……?」
すると于禁の声が、寂しそうなものへと急変した。
「まだだ。お前を待っている。共に帰りたいからな」
「ありがとうございます。ですが、そろそろここを出たい気持ちと、まだ貴方と居たい気持ちが……」
「また、会える日など幾らでもある」
そう諭すと、于禁は黙る。腑に落ちたのだろうか。小さく「はい。そうですな」と頷くと、腕が離れていった。見ると、于禁が夏侯惇の隣に静かに座る。
「では、支度をして、そろそろここから出ましょう。年内は、次は、いつお会いできますか?」
「そうだな……」
頭の中で仕事や入っているスケジュールを探していく。途中で于禁の方をちらりと見ると、とても期待しているような目をしていた。どうにか、年内にもう一度また会いたいと思えるような。
空いている日はあり、年を越す前後のみ。なのでそれを伝えると、于禁は「是非!」と言い頷いた。そして具体的な日にちは後々決めることになり、チェックアウトをする支度を始めた。途中で整髪料が無いことに気付き、髪を下ろしたままで帰ることになる。着ているスーツはよれよれだ。
それでも二人はそれを気にせずホテルから出るとそれぞれの家に、別れを惜しみことなく帰っていったのであった。